ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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涙②

 

 

 

 

 

 魔王城にある自分の部屋。

 

「うーむむむ……」

 

 ランスはしきりに唸っていた。

 

「……くそ、どーすっかな……」

 

 その悩みのタネは昨日の一件。未だ手を出せていなかった魔人ワーグの事。

 ランスはワーグを抱く為に色々な手を試した。彼女が有する夢操作能力にて精神性を改造する事まで試したのだが、しかしそれでも駄目だった。

 それなのに「あと三日で必ずお前を抱く!」と、帰り際にそんな啖呵を切ってしまった。

 

(……マズいな。あと二日しかねーぞ。何でもいいから手を打たねーと……)

 

 あの日からもう一日経ってしまったので、残されている時間は二日。

 あと48時間程度で何らかの手を打ち、ワーグとのセックスを達成する必要がある。

 

(だが手を打つと言ってもな……そもそもこれは昨日今日に気付いた問題じゃねーし……)

 

 魔人ワーグ抱けない問題。それについてはランスも結構前から取り組んできている。

 昨日夢操作による改造を試した事もそうだが、それ以前にもシャリエラの力を試してみたり、香姫特製団子の力を試してみたり、魔人シルキィの装甲の力を試したりもした。

 

 しかし、そのいずれの方法も失敗に終わった。

 そんな過去があっての現在な訳で、今更頭を捻らせた所でそう簡単に解決策など浮かばない。

 というかこれ程考えて何も思い浮かばない以上、そもそも解決策など無いのでは。と、頭の片隅ではそんな事すら考えてしまうのだが。

 

(……けど引き下がる訳にはいかん。あんなワーグはもう見たくないからな)

 

 しかし諦める訳にはいかない。

 次にワーグと会った時「やっぱり無理だったわゴメンなー」などと言う訳にはいかない。そんなセリフを彼女の前で言えるはずが無い。

 

 何故ならワーグは泣いていた。

 ああして涙を流す程に、それ程に自分との性交を熱望しているのに、その想いに応えてあげられないのならばそれはもう男では無い。

 ランスにとってこれは下心だけでは無い、男としての沽券に関わる重大な問題なのである。

 

「……あいつを抱く方法となると……パッと思い付くのはやっぱ二つだよな」

 

 魔人ワーグを抱く方法。それには主として二つのアプローチが考えられる。

 一つ目は正攻法。あの眠気を無力化出来るぐらいにまで自己のレベルを高める事。

 対する二つ目は特殊な方法。何かしらの手段によりあの眠気を突破する事。

 

(レベルを上げるってのは確実なのだが……時間が掛かり過ぎるのが難点だよなぁ。あるいは時間を掛けずにレベルを上げられる方法を探すってのもアリかもしれんが……)

 

 ランスに残された時間はあと二日。となると真面目にレベル上げをするにしても、あるいは手っ取り早くレベルを上げられる方法を探すとしても、いずれにせよメチャクチャ巻きで行う必要がある。

 更にレベルを上げろと言っても具体的には幾つまで上げればいいのか、という問題もある。10で良いのか、50いるのか、それとも100か、ハッキリした事は何も分からないのである。

 

(やっぱレベル上げはキツいか……? ならあの眠気を無力化出来る方法、それを見つけるのが一番早く済むんだろうが……んなもんが簡単に見つかるなら苦労しねぇよなぁ)

 

 二つ目の方法の問題点は言うに及ばず。

 それはもうずっと考えてきた事で、そもそもあるかどうかも分からない不確かな方法。

 

(やっぱしどっちもキツイ……が、それでもやるしかねーよな)

 

 考えてみると未だ問題は山積み、というかワーグと初対面の時から殆ど進展していないような。

 それでもこうして制限時間が設けられてしまった以上、もはや立ち止まっている暇も無く。

 

「考えている時間も惜しいな。とりあえず動くか。まずはアレからだな」

 

 そしてランスはソファから立ち上がると、荷物袋に入れてあった魔剣を取り出した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「死ねーーー!!」

 

 と、吠え立てるような大声。

 

「おい待てって! いきなりどうしたんだよ!」

 

 対して聞こえたのは心底慌てた声。

 

「おい貴様、逃げるなーー!!」

「そりゃ逃げるだろ! とにかく落ち着けって!」

 

 魔王城の廊下を脱兎の如く逃げ惑う、その魔人の名はガルティア。

 そしてその背後、魔剣を振り回しながら追い掛けるのがランスである。

 

「往生際が悪いぞー! 観念しろー!」

「だから何の話か分からないって……げ、行き止まりかよ……!」

 

 廊下の端まで辿り着いてしまい、ガルティアは仕方無く足を止める。

 すると追い付いてきたランスは勝ち誇った笑みを浮かべ、その剣先をビシッと突き付けた。

 

「追いかけっこは終わりだ、往生せい」

「おいランス、こりゃ一体何なんだよ、俺があんたの気に触るような事をしたか?」

「いや、別にそういう訳じゃない。ただ今はとにかくお前の経験値が必要なのだ」

「け、経験値?」

「そう、経験値だ。つー訳でガルティアよ、俺様とワーグの為の尊い犠牲となるがいい」

 

 魔人ワーグを抱く為にと、行動を起こしたランスが真っ先に取り掛かった事。

 それはレベルを上げる事。ただそこらの雑魚でレベル上げをしても到底間に合わないので、たっぷり芳醇な経験値をくれそうな魔人ガルティアを討伐する事にしたらしい。

 

「お、おいおい……そんな理由かよ……」

「そんなとはなんだ。手っ取り早くレベルを上げる為には強敵を倒すのが一番だろう」

「そりゃそーかもしれねぇけどさ……そこまでしてレベルを上げる必要なんてあんのか?」

「ある。俺様はあと二日でワーグの眠気をどうにかせにゃならんのだ」

「ワーグの眠気? ……あぁなるほどね、それでレベル上げをか……」

 

 ランス突然の凶行の理由、今まさに自分が殺されそうになっている理由。

 それを把握したガルティアは小さく頷いた後、片手を開いてひらひらと揺する。

 

「なら無駄だって。俺を倒した所で貰える経験値なんざたかが知れているさ。あいつの眠気は魔人の俺でもクラっとくるような代物だ、20とか30レベルを上げた程度じゃ変わらないと思うぜ?」

「……ぬ? 30上げても駄目か?」

「多分な。あいつの眠気をどうこうしたいってんなら……そうだな……最低でもレベルを200ぐらいにまで上げないと駄目なんじゃねーか?」

「……え、200? マジで?」

 

 聞こえてきたその数字に唖然としてしまうランスだったが、流石に歴戦の戦士だけあってガルティアの読みは非常に鋭いもので。

 ワーグの眠気を人間が打ち勝とうとする場合、少なくともレベルが200は必要になる。現在レベルが100にも届かないランスからしたら、200というのは遥か彼方にある数字である。

 

「ぬぅ。200まで上げなきゃならんとなると……ちょっとレベル上げ作戦はキツイな……」

 

 いくら相手が魔人とはいえ、一体分倒して得られる経験値ではレベル200など到底届かない。

 これは効率が悪すぎると感じたのか、ちっ、と舌打ちしながらランスは魔剣を下ろした。

 

「ふぅ。分かってくれたか」

「ならガルティア、代わりにお前もあの眠気をどうにかする方法を考えろ」

「俺が? そうだな……」

 

 つい先程殺されかけた事も気にせず、ガルティアは腕を組みながらしばし考えて。

 

「あの眠気をか……あ、じゃああの団子を食うってのはどうだ?」

「アホ。お前は俺様を殺す気か」

「じゃなくってさ。だったらあの団子が食べられるようになればいいだろ?」

「……む?」

 

 それは何ともガルティアらしいアイディア。

 眠気に耐えられる男になるのでは無く、香姫特製団子の毒性に耐えられる男になるのはどうか。

 

「あの団子の味は本当に強烈だ、あれを食べて眠くなるヤツなんてこの世には居ねーよ。ちょっと身体がピリピリするのが人間のあんたには確かにキツイかもしれねーが、そっちに慣れちまうってのも一つの手だと思わねーか?」

「……なるほど。確かにそれはアリっちゃアリかもしれんが……」

 

 一考する価値有りと感じたのか、瞼を閉じたランスはこれ以上無い程に真剣に悩み始める。

 確かにあの団子は気付けという意味ではこの上無い代物。あの激烈な毒性に対し抵抗力を身に付ける事さえ出来れば、気付け代わりに食べまくる事でワーグの眠気を突破可能かもしれない。

 しかしワーグの眠気に耐える、あるいは香姫の団子に耐える。どちらがよりキツイか、どちらがより人間離れしているかというと……。

 

「……難しいな。それはとても難しい問題だ……」

「そうか? ワーグの眠気はいつ受けても眠くなるけどさ、あの団子は……いや、あの団子だっていつ食べても美味しいもんな。確かに難しい……」

「いや、そういう事じゃなくって……けどやっぱり駄目だな。お前の案にしては悪くない手だとは思うが、今からではちょっと時間が足りん」

 

 抵抗力を身に付けるといっても、あの団子は一度食べたら数時間は気絶してしまう代物で。

 あと二日というタイムリミットを前にそんな事を試している時間は無い。今のランスには少しの回り道もしている余裕など無かった。

 

「なんか他にアイディアはねーのか」

「……うーん。他にはちょっと思い付かねぇな」

「くそ、役立たずめ」

「力になれなくて悪かったな。俺じゃなくて他のヤツらに聞いてみたらどうだ?」

「……他のヤツらか、ふむ……」

 

 魔人ガルティア退治は失敗に終わった。しかしランスに気を落としている暇などは無い。

 ならばと次なる一手、とにかく誰でも良いから知恵を借りてみるのはどうか。

 

 と、言う事で。

 

 

 

 

「つー訳で君たち、緊急会議だ。ワーグの眠気をどうにかする方法を考えてくれ」

「ワーグの眠気? あれを今更どうにかする必要があるのか?」

「……何となく理由は分かるけどね。前にも似たような事を聞かれたし」

「確かにあの眠気への対処法は以前にも考えた事がありましたね。けれども中々……」

 

 数人で囲める大きな丸テーブル、席につくのはホーネット派の幹部達。

 魔人サテラ、魔人シルキィ、魔人ハウゼル。ランスからの緊急招集を受けて集まってくれたのはこの三名の魔人達。

 

「ねー、ていうか私とハウゼルはこれから遊びにいく予定だったんだけどー」

「うるさいぞサイゼル。ごちゃごちゃ言ってないでお前も考えるのだ」

 

 そしておまけの魔人サイゼル。

 皆ランスより長い時を生きており、その分の知識が頭に詰まっているはずのメンツである。

 

「とにかく問題はあの眠気なのだが……実はもう一つ厄介な事があってな。この問題は後二日でクリアする必要があるのだ。なので時間を掛けずに手っ取り早く済む方法で頼むな」

「頼むな……って言われてもねぇ。あと二日でっていうのはいくらなんでも無謀じゃ……」

 

 それでなくともあの眠気は対処法など見つかっていない代物なのに、二日でどうにかしろというのは無茶振りが過ぎるのではないか。

 そんなシルキィの言は全魔人共通の思いなのか、同調するようにサテラも頷く。

 

「そうだぞランス。そんなに手っ取り早くワーグの問題が解決する訳が無いだろう」

「確かにキツいミッションだがな、けどだからこそお前らの出番だ。お前ら魔人だろ? 魔人が四人も集まってんだから誰か一人ぐらいグッドなアイディアを出してみろって」

「グッドなアイディアって……それ魔人どうこうはあんまり関係無くない?」

「……そうですね、パイアールとかだったら何か思い付くかもしれませんが……」

 

 魔人ワーグの眠気に有効な方法。それも今から二日以内に実行可能なものに限る。

 そんな未曾有の難問を前に、ここに集った四名の魔人はそれぞれ頭を捻らせてみるものの。

 

「目を覚ますといえば……ミントの香りが良いとかって聞いた事がありますよ」

「あれじゃない? ほっぺをつねるとか」

「眠気に効くツボを押してみるのはどうかしら」

「辛いものを食べるのはどうだ?」

「……お前ら、もうちょっと真面目に考えろよな」

 

 しかし出てくるのは浅知恵ばかり。その程度の低さに思わずランスもツッコんでしまう。

 

「つーかこれならガルティアの方がまだマシな案を出してくれたぞ」

「む。……そう言われてもな、思い付かないものは思い付かないんだからしょうがないだろう」

「そうそう。考えたって無理なものは無理」

「……ぐぬぬ、魔人のくせにどいつもこいつも役に立たんヤツらめ……」

「お役に立てず申し訳ありません、ランスさん。ただ魔人とはいっても……」

「戦う事だったら得意なんだけどね。けどこういう頭脳労働みたいな事は……ねぇ?」

 

 困り顔のシルキィがそう話を振ると、他の魔人達も皆何とも言えない表情になる。

 どうやら他の生物を超越する戦闘能力を持つ魔人と言えども、頭の中まで他の生物を超越するかというとそれは異なるようで。

 アイディアや閃きといったものは専門外、魔人達の知恵を借りてみる作戦も残念ながら不発に終わったようだった。

 

「……ぬぅ、けど困ったな。こうなったら次は……魔人に聞いて駄目なら魔王に聞くか?」

「美樹様に? けどランスさん、肝心の美樹様の居場所を知っているの?」

「知らん事も無いのだが……あと2日じゃ会いに行くのがちとキツいな……だとしたら次は~……あーくそ! 思い付かん~……!」

 

 ランスはがーっと苛立たしげに頭を掻き毟る。

 自分で考えても良いアイディアは浮かばず、しかして他の誰かに聞いても同じ。

 せめて何かキッカケをと考えても、もはやそれすらも思い付く事が無くて。

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 やっぱり無理なのか。

 あと二日であの眠気をどうにかする事など、ワーグを抱く事など最初から不可能だったのか。

 何かと負けず嫌いのランスであっても、ついそんな事を考えてしまいそうになったのだが。

 

「──ん?」

 

 やはりこの男は土壇場に強いのか、その時頭の中にピーンと閃きが走った。

 

「……あ、いやでも待てよ」

 

 今自分の目の前に居る相手。その知識に頼ってみたけどあんまり役に立たなかった魔人達四名。

 だがそんな彼女達を見ていると、その存在そのものが一種の答えでもあるように思えてきて。

 

「……そっか。別にレベルを上げんでもいいのか」

「何がですか?」

「ワーグの事だ。なぁハウゼルちゃん。確かあの眠気は強くなれば良かったはずだよな?」

「えぇ、そうです。おそらく強ければ強い程に抵抗力が身に付くという事なのだと思います」

「だよな。なら……」

 

 目的はレベルを上げる事じゃなくて強くなる事。強くなる為には自己のレベルを上げるのが一番確実な方法ではある。

 だがそれしか方法が無い訳では無い。単に強くなるだけならばレベル上げ以外にも方法はある。それこそすぐそこにはそんな存在が──魔人という他を圧倒する程に強い存在が居る訳で。

 

「………………」

 

 そこでランスは暫し無言となる。

 それは自らの今後を大きく変えてしまう決断。もう半年以上も昔に自ら選んだ選択、過去に戻るという選択と同じ位に重大な決断。

 その重みは理解していたようで、さすがに即断即決とまではいかなかったものの。

 

「……そうだな。もうこの際それでもいいか」

 

 やがてそんな言葉を呟いた。

 

「なぁサテラ」

「ん、なんだ?」

「ちょっと話は変わるんだけどよ……以前俺が倒したメディウサとかレッドアイとか居るだろ? あいつらの魔血魂ってどうしたっけ?」

「魔血魂? あぁ、それなら全てホーネット様が管理されているはずだが」

「そっか、分かった」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 そして。それから一日と少しが経過して。

 あの帰り際の宣言通り、あの日からちょうど三日目の事。

 

「よう、ワーグ」

「ランス……」

 

 時刻は昼前。そろそろ昼食の準備をしようかと、ワーグがキッチンに立った頃合いにその男はやってきた。

 

「今日で約束の三日目だったよな。てな訳で早速だがセックスするぞ」

「……え、て、そんなのいきなり言われても……」

「いきなりではないだろう。すると予告しとったんだからな。ほれ、とっとと来い」

「ちょ、ちょっと……」

 

 今日は念願叶う約束の日。ここまで来て待ち時間を挟む余地など無し。

 ランスは困惑するワーグの腕を掴むと、引っ張るような勢いでベッドへと連行していく。

 

「待ってランス、ねぇ待ってってば……っ」

「だーめ、待たん」

「だ、大体……セックスするって言ってもどうやって……わたしの眠気の問題は解決したの?」

「あぁ、眠気か。眠気な……とうっ!」

 

 するとランスはあの時と同じように、ワーグの事をがばっと抱き締める。

 

「きゃ、ら、ランス……」

「ふむ、ワーグはちっこいなぁ」

 

 するとその華奢な身体から伝わってくる柔らかさと体温、そしてそのフェロモン。

 だが『夢匂』と呼ばれるそれはもはや、その男の前ではただの甘い香りでしかなく。

 

「……え、あの……」

「どした?」

「……ランス、眠くない……の?」

「おう、全く眠くないぞ。今日はたっぷりと睡眠を取ってきたからな、がはははは!」

 

 大口を開けて笑うランス。その表情は眠気に耐えている気配など微塵も感じさせないもの。

 しかしそれはあり得ない話。自分の眠気は寝溜めした程度で耐えられるものでは無い、それは当のワーグが一番分かっている事で。

 

「嘘よ、そんな……どうせやせ我慢でしょう?」

「やせ我慢なもんか。だったらこーして……すーはー、すーはー……っと」

 

 今度はより近付いて、ワーグのふわふわした髪の中に顔を埋める。

 そして何度も深呼吸。その都度強烈な眠気を誘うフェロモンを鼻腔から大量に吸い込むものの、それでもランスの様子は何ら変わらず。

 

「……どうだ、全然眠くないぞ。こんなもん慣れちまえば甘くていい匂いってだけのもんだ」

「……うそ、一体どうやって……」

 

 その証明は効果覿面だったらしく、ワーグは信じられないといった様子で瞠目する。

 

 三日前とは違って、ランスはこれまで勝てなかった睡魔の壁を完全に打ち破っていた。

 しかし如何なる方法を使ったのか。ワーグには分からない。こうしてその身体に触れる限り、これまでと変わった事は無いように思える。

 よく集中してみると何か別種のものが、ランスの身体からランスのものとは異なる特殊な力を感じるような気もしたのだが、そういった事に疎いワーグに感じ取れたのはそこまでだった。

 

「まぁあれだ、俺様の手に掛かりゃ不可能など無いって事だな。……つー訳でもうこの前みたいに泣く必要はないからな、ワーグよ。これから俺様を存分にくれてやる」

 

 そしてランスはベッドに腰を下ろす。

 その膝の上には勿論ワーグが、今まではここで限界だった、遂にこの先に進める相手が居て。

 

「……え、あっ」

 

 ふと気付けばその腕の中、そんな体勢になってようやくワーグは我に返る。

 

 如何なる手を使ったのか、ランスは自分の睡眠体質を克服してしまった。

 勿論それは嬉しい事だ。これまでこの体質にはとても苦労させられてきた。何よりも自分だけ好きな人と触れ合えないのが悲しかった。

 だから三日前のあの時、泣いている自分の為に「絶対に何とかしてやる!」と言ってくれたのがとても嬉しかった。

 

 そして信じられない事に、ランスはその約束を守ってくれた。

 だから今こうして触れ合えている事、それが嬉しくない訳が無いのだが、しかしランスが自分の体質を克服してしまったとなると、否が応でも次のステップに進まなければならない訳で。

 

「……ちょ、ちょっと待って! ランス、お願いだからちょっと待って!」

 

 そんな事を考えた途端急激に恥ずかしくなってきたのか、ワーグはじたばたと暴れ始める。

 

「せ、せめて後10分、後10分待って! 気持ちを整理するからっ!」

「駄目だ、待たんと言ったろ」

「でもだって、こんな急に……! じゃあせめてシャワーを、シャワーを浴びさせて!」

「それも駄目だ。セックスする準備は万全にしとけっつったろ。サボってたお前が悪いのじゃ。つー訳で……うりゃー! とっとと脱げ脱げー!」

「きゃあああ! 待って、待ってってばー!」」

 

 静止の言葉など知ったこっちゃ無し、ランスはぽいぽーいと服を脱がしては放り投げていく。

 ものの数秒で下着まで脱がせ終わり、そこには生まれたままの姿をした魔人ワーグが。

 

「おぉ……身体中が真っ白だ、こりゃなかなかにエロいな……ぐへへへ……」

 

 目の前にある背中も、小さなお尻も、お腹や胸まで全て真っ白。そんな雪面のような眺めの中、胸の先っぽとほっぺただけは鮮やかに色付いていて。

 それが魔人ワ-グ。これまでどうしても手が出せなかった相手。それを味わえるとあってランスのハイパー兵器もあっという間に臨戦態勢へ。

 

「よーし、ではワーグよ。覚悟はいいな」

「……だから、だからよくないって……」

 

 お願いだから話を聞いてと、泣きたいような気分のワーグ。しかし抵抗する事も諦めたのか、その膝の上できゅっと身体を丸める。

 彼女は魔人とはいえその身体能力は人間の子供と同程度、睡眠体質を克服されてしまうとただ食べ頃の女の子でしかなかった。

 

「……ねぇランス、本当にするの、っていうか……本当に出来るの? 本当に眠くないの?」

「本当かどうか、そんなに気になるってんならすぐに試してやる。……さぁワーグ! お楽しみのセックスタイムだ! とーーー!」

「まって──あっ」

 

 大きな手のひらで初めて地肌に触れられ、ワーグはぴくっと身体を揺らす。

 未だ信じ難い心地でいたものの、その感覚を味わうともう覚悟を決めるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。しばらくの時間が経過して。

 

「はー……、えがった……」

 

 一発出してスッキリ。ホクホク顔でベッドの上に寝転ぶランス。

 

「……な? ちゃんと出来ただろ?」

「……うん、出来た。なんか信じられない……」

 

 その隣、恥ずかしそうに毛布に包まる魔人、しっかり大人になったワーグの姿。 

 

 こうして遂に念願叶って、二人はめでたく一線を越える事となった。

 行為後、身体を寄せ合いながら暫し微睡んでいると、思い出したかのようにワーグが口を開く。

 

「……ねぇ、ランス」

「んー?」

「そろそろ教えてくれない? あなたは結局どうやって私の眠気を克服したの?」

 

 それは行為の前からずっと気になっていた事。

 数日前には何ら対処法など無かった睡魔の壁、それにランスはどうやって打ち破ったのか。

 

「特別あなたのレベルが上がったような気配も無いし……一体どんな手を使ったの?」

「ふむ、やっぱり気になるか」

「そりゃ気になるわよ。ていうか私には魔人としての力がこの眠気ぐらいしか無いんだから、簡単に破られちゃうと死活問題なんだけど」

「なるほど、確かにそりゃそうだな。まー実際の所簡単に破った訳じゃねーんだが……」

 

 ワーグの眠気への解決策を追い求めて、その中で起きたあれやこれや。

 色々と大変だった昨日の事を思い出したのか、ランスはしみじみといった感じで口を開く。

 

「……ワーグ、お前も今度会ったら一言ぐらいお礼を言っておいた方がいいかもしれんぞ」

「お礼?」

「うむ。本当に大変だったんだぞ? まさかあいつがあんな事で泣くとはなぁ……」

「……泣いた? 誰が泣いたの?」

 

 そう尋ねたワーグの耳に聞こえてきた名前。

 

「ホーネット」

「……ほ、ホーネット!? あ、あの、あのホーネットが泣いたの!?」

 

 それはおよそ涙とは無縁の存在。

 思わず耳を疑ってしまうような衝撃な名前で。

 

「……え、ホーネットの目って……涙を流すような機能が付いていたの?」

「……結構な言い草だな、それ。けれどぶっちゃけ俺様も同感だ。あいつの涙を見た時はもう仰天したぞ、マジで」

 

 今回ようやく達成したワーグとの初セックス。

 だがそれはランス一人の力だけで成し遂げた訳ではなく、魔人筆頭たるあの女性の大いなる献身と犠牲の下に成り立っている事で。

 

 そしてランスは昨日の出来事を語り始めた。

 

 

 

 

 


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