ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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軍師加入

 

 

 

 

 

 客人到着の報を耳にしたランスは番裏の砦まで戻ってきた。

 ちなみに同行したのはシィルだけでかなみは魔王城でお留守番中。彼女はこの先魔物界で迷子にならないよう特訓中である。ここに来るまでの道案内は城に居た親切なイカマンに頼んだ。

 

 それはともかくとして、数日振りにこの砦に戻ってきたランスはすぐさま客人が待つという部屋に向かった。

 するとそこに居たのはお馴染みの軍服をしっかり着こなす女性、ベージュ色の髪を髪紐で括り、頭には緑の帽子を被るランス待望の軍師の一人。

 

 

「おぉ、ウルザちゃん!」

 

 ゼス王国所属、ウルザ・プラナアイス。

 数年前にゼスで出会い、その際の騒動やそれ以降の場所でも度々共に戦ってきた間柄である。

 

「お久しぶりです、ランスさん。シィルさんも、無事氷の中から出られたようで何よりです」

「ありがとうございます、ウルザさん!」

 

 シィルとウルザが久しぶりの再開を喜び合う。

 二人が顔を合わせるのはJAPANで共に戦った時以来なので、およそ一年以上ぶりとなる。

 

「思ってたより到着が早かったな、ウルザちゃん。くくく、よほど俺様に会いたかったと見える」

「……ランスさん。こんな手紙が届いたら急がない訳にはいきませんよ」

 

 ニヤリと笑うランスの一方、ウルザは文句の一つでも言いたそうな表情で。

 先日彼女の下に届いたランスからの手紙。そこには「戦いの準備をして番裏の砦に来い。早く来ないとガンジーが死ぬぞ。絶対死ぬぞ」とそんな一文が書かれていた。

 

 それはゼス王の命の危機を示唆する内容であり、国の要職に就く立場のウルザにとってはさすがに無視出来るものではない。

 それこそが手紙の送り主の狙いであると半ば理解しつつも、それでも彼女は急ぎ支度を整えて国を出発し、待ち合わせ場所であるこの番裏の砦にやって来たのだった。

 

「それでランスさん、ちゃんと説明してくれるんですよね? ガンジー王が死ぬとは一体どういう事ですか?」

「うむ、いいだろう。実はな……」

 

 そしてランスは今から自分達がしようとしている事、ウルザを呼び出した理由などを説明した。

 

 

 

「……と、言う事だ」

「……魔物界の派閥争い、ですか……。噂程度に聞いた事はありましたが……」

 

 ランスから一通りの話を聞き終わり、ウルザは悩みの表情で小さく顎を引く。

 

「うむ。その戦争でケイブリス派が勝った場合、それはもう人類の危機ってやつなのだ。だからホーネット派を勝たせないといけない。その為に君の力を貸して貰おうと思ってな」

「人類の危機、ですか……」

 

 事は魔物界に来て一緒に戦って欲しいという話、割と無茶苦茶な要求で。

 ウルザは普段どおりの冷静な目を向け、事の真偽を探るかのようにランスの顔を見つめる。

 

「私はランスさんの言うその両派閥には詳しくないのですが……ケイブリス派が勝利した場合、魔物兵を率いて人間世界に攻めてくるというのは確かな事なのですか?」

「あぁ、それは間違いないな。絶対そうなる」

「……では、その戦いの中でガンジー王が死ぬと?」

「うむ、そういう事だ」

「………………」

 

 先程よりも疑念を強めたのか、ウルザはその目を少し細める。

 この先起こり得る事態についての話なのに何故ランスは断定口調なのか。彼女にはそれがとても気になっていた。

 

「魔軍の侵攻は言うまでもなく脅威ですが、私にはあの御方が死ぬとは中々思えないのですが」

「いや、死ぬ死ぬ。ガンジーでも死ぬ時はあっさり死ぬもんだぞ、マジで」

「……そうですか。確かにそれが本当なら手を打たないといけない事態ではありますが……」

 

 ゼス国は数年前に魔軍の侵攻を受けており、その恐ろしさは国民の誰もが理解している。

 まだその時の被害も完全には癒えておらず、再びの魔軍侵攻はウルザとしても絶対に食い止めねばならない事態。

 

「……けれどもランスさん、ケイブリス派ではなくもう一方のホーネット派が勝利した場合に、先程言っていたような危機が訪れないという保証はあるのですか?」

「……む?」

 

 ランスは不意を突かれた様子で眉を顰める。仮にホーネット派が勝利したらどうなるのか、こうして指摘されるまで一度も考えた事が無かった。

 ウルザからするとホーネット派もケイブリス派も未知の存在である為、どちらかを勝たせても同じ結果になるのでは意味が無いのだ。

 

(……ホーネット派の目的は確かあれだ、美樹ちゃんに魔王になってもらう事だよな。けどホーネットは美樹ちゃんの言葉には絶対服従という感じだったし、美樹ちゃんは戦争とか魔王とかには興味ないような子だ。ヒラミレモンさえ食っときゃ大丈夫だろ、たぶん)

 

「うむ。ウルザちゃん、それは俺様が保証してやる。ホーネット派が勝てばそんな事にはならん」

「……やけに自信がありますね。そもそもランスさんは魔物界の内情についてどうしてそんなに詳しいのですか?」

「……それはその……あれだ。……つーかウルザちゃん、つべこべ言うな! 人類の危機なのだから四の五の言わずに協力せい!」

 

 とても答え辛い質問を受け、困ったランスは声を張り上げて有耶無耶にする。

 しかしウルザにとって、先程から一番疑問に感じていたのがまさにその点だったらしく。

 

「ランスさん。正直に答えてください。ランスさんの本当の目的は何ですか?」

「……ぬ」

 

 ホーネット派に協力する本当の目的。それは言わずに隠しておこうとランスは考えていた。

 その方がこの軍師を説得する上では良さそうだと思っていたのだが、しかしどうにも逆効果みたいだったので正直に言ってしまう事にした。

 

「……本当の目的か。そんなん決まってんだろ、勿論セックスだ!! 実はホーネット派には魔物界の可愛い子が勢揃いでな、全員俺様の女にする事が目的なのだ。その為に協力してくれウルザちゃん」

 

 世界平和はあくまで二の次、本当はエロが目的だとランスは何一つ憚る事無くそう告げた。

 

「……もう、相変わらずですねランスさんは」

 

 あまりに堂々とした顔でそんな事を言うので、思わずウルザはくすりと笑みを零してしまった。その表情は疑念の色が少し薄くなっていた。

 

「ランスさんが人類の危機の為なんて言うから、まさか人が変わったのかと思いましたが……相変わらずな様子で安心しました。……分かりました。少し気になる事もあるのですが、それを調べる為にも協力させて貰います。宜しくお願いしますね、ランスさん、シィルさん」

「はい。宜しくお願いしますね、ウルザさん」

「うむ。俺の魔物界ハーレムの実現の為に大いに働いてくれ。勿論君もその一員だからな。がーはっはっはっは!」

 

 馬鹿笑いを響かせるランスをよそに、ウルザは「私が働くのは世界平和の為です」と呆れたように呟いた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 その後、ランス達は魔王城にとんぼ返りする前に小休止。

 互いの近況など、積もる話を交わしながらの昼食を食べていた。

 

「……けれどもウルザさん、お仕事の方は大丈夫なのですか?」

「えぇ。ちゃんと休暇届は出してきましたから。何となくこんな事になるんじゃないかって予測はしてたんです。JAPANの時と状況が似ていましたし」

 

 ウルザはゼス王国にて『ゼス四天王兼警察長官』という役職に就いている。

 普段からとても多忙な身であり、本来なら簡単に国を開けられるような立場ではない。

 しかし救国の恩人であるランスの呼び出しを無視は出来ないし、なにより国王が親ランス派。そんな事もあって長期休暇の許可も殆ど二つ返事だったらしい。

 

「そういやウルザちゃんは来たけど、クリームちゃんとアールコートちゃんはまだなのかな」

「あぁ、それなら私が伺っています。どうやら二人共こちらに来るのは難しいそうです」

「な、何だとぉ!?」

 

 突然の話にびっくり仰天、ランスはその手に掴んでいたスプーンをぽろりと落とす。

 

「何故!? 一体何故こないのだ!?」

「実はここに来る前にラング・バウに立ち寄ったのですが、その際にヘルマン軍クリーム参謀とお会いしました。彼女からは革命の後処理が忙しく、とても国を離れられないとの言付けを頼まれまして」

「ぬ、ぬぬぬ……ならアールコートちゃんは?」

「その方からはですね、ヘルマン首脳部宛てに信書が届けられたそうです。アールコートさんからというよりはリーザスからと呼ぶべき内容ですが……これです」

 

 それはヘルマン首脳部から頼まれた重要な要件。ウルザは鞄からその信書の写しを取り出し、ランスに手渡して事の経緯を説明した。

 

 数日前、ランスから手紙で呼び出し命令を受けたアールコート・マリウス。だが彼女はリーザス軍に属している為、軍を離れる為には上官の許可が必要となる。

 故に所属する黒の軍の将軍バレス・プロヴァンスに話した所、「ランス殿の事ならばリア女王に通すべきだ」と言われたので、アールコートはその言葉通り女王にその報告をして判断を仰いだ。

 すると手紙の内容が救援要請に近いものだった為、「これはダーリンのピンチ! 妻である私がなんとかしなければ!」と女王は大層意気込み、アールコートはおろか黒の軍全軍を動かす事に決定。

 そして「これはヘルマンへの侵略じゃないから、黙って道を開けなさい」と言わんばかりに、ヘルマン国内のリーザス軍の通行許可を求める信書が届けられた、との事だった。

 

 

「……あのアホめ。黒の軍ってバレスの軍じゃねーか。あんなじじい寄越されてもいらんぞ」

「さすがに国内をリーザス軍に自由に動かれる訳にはいかないので、現在リーザス黒の軍とヘルマン軍はバラオ山脈を挟んで睨み合っているそうです。ヘルマン政府によるとランスさんに早急に対処してほしいとの事でした」

「……救援はいらねーから軍を引き上げるようリアに伝えろ」

 

 ランスのそんな言葉ははその後リア女王までしっかり伝えられ、結果バラオ山脈の緊張状態は無事解かれる事となったのだが、それはともかく。

 

「ふん、まぁいい。ウルザちゃん一人で十分だ。その分君には働いてもらうからな」

「……期待には応えたい所ですけどね。けれど魔物界の情報はゼスにも多くはありませんので、どこまで出来るか不安もあります。それに魔人に協力するというのも……必要だからと言われればそれまでですが、切り替えるのは少し難儀しそうです」

 

 ふぅと息を吐いたウルザは、水の入ったコップに手を伸ばす。

 彼女もシィルやかなみと同じように、魔人に協力するという事に少し抵抗感がある様子。ゼスは近年魔人によって大きな被害を受け、それにウルザも直接関わっているのだから当然といえば当然ではある。

 

「なーに、魔人にだって良い子はいるもんだ。シルキィちゃんなんかそんじょそこらの人間よりも遥かに良い子だぞ。サテラも口では人間を見下すような事言っとったが、なんやかんや仲良くやってたしな」

「……そうなのですか? シィルさん」

「えぇと……どう、なのでしょうね、ランス様」

「アホ、俺様の奴隷なら頷いておけっての」

 

 

 

 そして食後の休憩を終え、ランス達は出発することにした。

 

「よし、それじゃ魔王城に向かうぞ二人共。今度こそ作戦行動開始だ」

「はい」

「えぇ。行きましょう、ランスさん」

 

 

 

 

 

 


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