ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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TURN 2
改めて魔人討伐開始


 

 

 

 

 呼び出した軍師、ウルザ・プラナアイス。

 番裏の砦で彼女を仲間に加えたランスは、その後すぐに魔王城へと戻ってきた。

 

 そしてウルザは城に到着するなり行動開始。城内では使徒と名乗ればある程度の融通が利く事が分かったので、その立場を上手に利用してあれこれ情報収集を行った。

 なにせ魔物界は未知の土地。地形や生物分布、両派閥の影響地域など、今後彼女が軍師としてランスの求めに応じるならば頭に入れておくべき知識は大量にある。

 

 その一方でかなみは特訓に特訓を重ねた結果、魔物界の地形にもようやく慣れたらしい。これでもう迷子にはなりませんからと、ランスに対して胸を張っていた。

 

 そしてその間ランスはと言うと、女の子モンスターを味見したり、サテラにセクハラしたり、シルキィを口説いてみたりと通常運転だった。勿論ウルザにもアプローチは掛けたのだが、しかし忙しさを理由に全て回避されてしまった。

 

 

 

 

 そして数日が経過したある日の事。

 コンコンとノックが聞こえ、ランスの部屋にウルザが訪ねてきた。

 

「ランスさん、お待たせしました。なんとか身動きが取れるまでの情報は集まりました」

「お、遂に準備出来たかウルザちゃん。待ちくたびれたぞ」

 

 これでようやく魔人退治が出来るぜ、とランスは寝転んでいたソファから身体を起こす。

 

「ふむ、どうやらウルザちゃんもこっちでの生活には慣れたみたいだな」

「そうですね、初日に比べれば大分慣れました。色々話してみると魔物も私達人間と大差無い存在だと分かりますね。勿論、シルキィさんの使徒という立場あってのものではありますが」

 

 さすがに到着早々は緊張がその表情に出ていたウルザだが、しかし彼女はシィルやかなみなどよりも胆力があり、この状況に慣れるのも早かった。

 ちなみにウルザもその方が都合が良いとの事で、城内ではシルキィの使徒という扱いである。

 

「シルキィちゃんにはもう会ったのか」

「えぇ。確かにランスさんの言う通り、人間思いの優しい方でしたね。一口に魔人と言ってもああいった方が居るとは知りませんでした」

「だろう? まぁあの子はあの子で相当珍しいタイプだとは思うが、とにかくホーネット派を勝たせないといけない理由が分かっただろ?」

 

 そんなランスの言葉に、ウルザは微笑を浮かべながら「そうですね」としっかり頷く。

 彼女はこの数日で様々な情報収拾を行った結果、とりあえずはランスの言葉を信じる事にした。

 人類の平和の為にはホーネット派を勝利に導く必要がある。そう判断して出来得る限りの協力をしようと決めたのだった。

 

「ではウルザちゃん。早速だが行動開始だ。君には軍師としてたっぷり働いてもらうぞ」

「了解です、ランスさん。でもその前にシィルさんとかなみさんも呼びましょうか」

 

 

 

 

 そんな訳で、外で軽く偵察任務を行っていたかなみ、そしてランスからの命令で城内にいる女の子モンスターの種類調査を行っていたシィル、彼女達も加えての作戦会議を開始。

 ランス達四人はテーブルを囲み、ウルザがその上にシルキィから貰った魔物界の地図を広げる。

 

「この魔物界には私達が暮らすような都市と同じく、魔界都市と呼ばれる場所がいくつか存在しているそうです。そしてケイブリス派は魔界都市の内の一つ、タンザモンザツリーを本拠地としているそうです、……と、ここですね」

 

 この数日で魔物界の地理を調べ上げたウルザが、広げた地図の最南端にある都市を指差す。

 

「ここにケイブリス派の本隊が置かれており、全て合わせると約300万の魔物兵と8体の魔人から構成されているそうです。この大軍団の撃破がホーネット派、及び私達の目的なのですが……ランスさん、何か作戦の方針はありますか?」

「うむ。雑魚モンスター共をちまちま倒しても埒が明かんからな。パパっと魔人を倒してとっとと戦いを終わらせる。そんな感じでいく」

 

 ランスが挙げた方針、それは前回の第二次魔人戦争でも採った方針。

 魔物兵は人間と比べて戦闘能力が高い、しかし個性が強くて集団としてはまとまりが無い。その為指揮官が指揮している内は問題ないが、しかし指揮官が倒されてしまった場合、残る魔物兵達は意思を統率出来ずに瓦解してしまうという欠点を持つ。

 ランスは前回の戦争の中、指揮官たる魔人を討伐した結果、まだ有利な状況にあっても敗走し始める魔物兵達の姿を何度も見てきた。

 

「それに敵の大軍団とぶつかるのはこっちの魔物兵共の仕事だしな。俺様はそんなめんどい事はしないで美味しい所だけを頂くのだ」

「確かにそれが合理的ですね。現状ランスさんの戦力と言えるのはこの4人しか居ませんし」

「……ねぇランス。改めて考えてみてもこの4人で魔人を倒すって無茶苦茶じゃない?」

「……私もそう思います。ランス様」

 

 何十万もの魔物兵を相手にするのは困難、さりとて魔人を相手にするのも同様に困難な話で。

 この場に居る者達は全員が過去に魔人と戦った経験がある。その時の経験から、魔人とは人間界の精鋭中の精鋭を数十人集め、それでようやく戦える存在だと認識していた。

 よってとても4人で戦う事など出来ない。そのようにかなみやシィルは考えていたのだが、しかしランスはそう思ってはいないようで。

 

「なーに、安心しろお前達。俺様だってなにも正面から奴らをぶっ潰そうとは考えちゃいない。こういう時は策を巡らせるのだ、うむ」

「策、ねぇ……」

「何らかの策を検討するのは私も賛成です。仮に人手が必要になる作戦を実行する場合、ホーネット派の魔物兵にも協力して貰えるよう既にシルキィさんには話を通してあります」

「さっすがウルザちゃん、仕事が早いな。やっぱり呼び出して正解だったぜ」

 

 そんな称賛の言葉に小さく顎を引くウルザ。彼女はもう度々ランスと共に戦ってきているので、この男が正々堂々とまともに戦うとは最初から考えていなかった。

 必ず何かしらの方法で有利な立場を取り、あるいは敵を不利な状況に陥れる。それがランスの優れた点であるとそう理解していた。

 その為ランスがどんな無茶を言ってきても実現出来るよう、この数日間準備をしてきたのである。

 

「ではランスさん。作戦の当面の目標を決めて下さい。どの魔人を相手にするのですか?」

「ううむ、そうだな……」

 

 

 そして本題。まず一番に狙う魔人は誰か。

 ランスは腕を組むとしばし目を瞑って考える。

 

(……ふむ、どの魔人からか)

 

 魔人を倒してしまえば戦争はすぐに終了する。魔物兵がどれだけ残っていようと、彼等には無敵結界を破る術が無いので、ホーネット派魔人を敵に回してでも戦争を続行しようとは決して考えない。

 とはいえ魔人とは魔王不在の今の魔物界では最強の戦力、当然ながら容易く倒せる相手ではないのだが、それでもランスにはケイブリス派魔人達を討伐する確かな自信があった。

 

(俺には前回戦った時の記憶があるからな。ヤツらの弱点など最初からぜーんぶバレバレなのだ。がははははーー!!)

 

 前回の第二次魔人戦争、ランスは世界総統として最後まで戦い抜いた。その際に対峙した魔人達を一通り討伐した経験を持つ。

 そのおかげというべきか、今のランスは敵の魔人について誰も知らないような弱点を幾つも知っている。その知識を活用すれば誰が相手でも楽勝だろうと想定していた。

 

(そうだな……えーと、まずヘルマンに居た魔人からいくか。なら……ケッセルリンクだな。あいつは確か昼に弱くて、後は……そう、可哀想な女の子。可哀想な女の子に弱かったはずだ)

 

 いの一番に脳裏に浮かんだ相手、それは紳士然とした貴族のような魔人四天王の姿。

 前回のランスは数度に渡るケッセルリンクとの交戦から、その魔人が助けを求める女性を無視出来ない性格をしている事を突き止めた。

 そして国中から掻き集めた数千を越える可哀想な女の子の中に間者を忍ばせ、まとめて保護させるという形で内部からの切り崩しに掛かり、結果としてケッセルリンクに勝利した。

 

(だがヘルマンでは可哀想な女の子の調達も楽だったけど、魔物界だとな……かなみでイケるか? よし、ならかなみを送りこんで……て、そーいやケッセルリンクは今どこに居るんだ?)

 

「なぁウルザちゃん、ケッセルリンクの居場所は分かるか?」

「……魔人四天王ケッセルリンク、ですか……」

 

 静かにその名を呟いたウルザは、この数日でまとめ上げた手元の資料をめくる。

 

「……ホーネット派のこれまでの調査によると、基本的には自身の居城で過ごしているそうです。しかしケッセルリンクの城はケイブリス派の影響圏内に有りますから、接触するのは難しそうですね」

 

 ここです、とウルザが地図を指差す。魔物界中部のやや南となるその場所は、北部にあるこの魔王城から遠く離れている事がひと目で分かる。

 

「ここか。……かなみ、行けるか?」

「行けると思う?」

「……思わん」

 

 半ば無理だと分かりつつ聞いてみた所、聞き返されてしまったランスは正直な思いを口にした。

 その城まで辿り着くには敵の魔物兵を避けては通れないだろうし、その時シルキィの使徒などと名乗ったらあっという間に殺されそうである。

 ケッセルリンクの討伐は一旦後回しにして、ランスは別の魔人を討伐する事に決めた。

 

(次は……そう、バボラだな。あれは確かデカいだけのうすのろの馬鹿だった。だからまぁ……放っといていいや)

 

 魔人バボラは大きい。その特徴的な巨体以外は然程怖くない相手なのだが、なにせ大きい。

 前回のランスはバボラをなんとかして気絶させた後、その魔人の巨体を数時間掛けて抉り、肉を掻き分け、そして巨大な心臓をグサグサ刺してようやく討伐した。

 今思い出しただけでも吐き気がする程に気持ちの悪い作業で、とてもではないがもう一度やりたいとは思わない。バボラの討伐は一旦後回しにして、ランスは別の魔人を討伐する事に決めた。

 

(もっと分かりやすい弱点のある魔人がいいな。自由都市は確か……あ、そうだビリビリ野郎! あいつはブス専のロリコンだったから、あのブスガキを人質に取っちまえば……て、そーいやあのガキは魔物界に居るのか?)

 

 魔人レイは人間の少女メアリーと親しかった。その事はランスも覚えているのだが、しかし二人がいつ出会ったかまではさすがに聞いていない。

 実際には第二次魔人戦争が勃発して以降、レイが自由都市へ侵攻した際に出会ったのであり、まだ出会ってもいないこの時期にメアリーを人質に取る作戦は無意味であった。

 

(うーむ、分からん。分からんから保留にしよう。パイアールはあれだ、姉のルートを人質に……と、ルートは確か肉塊になってたんだっけか。最悪あのグロテスクなのを人質に取ればなんとかなりそうだが、ルートはいいおっぱいだったのでまた味わいたい。よって保留)

 

 段々と後回しとなる魔人が増えていき、次にランスの脳裏に浮かんだのは魔人レッドアイ。

 他者に寄生するあの宝石の魔人は、後腐れなく倒せるという意味ではとても手頃な相手である。

 

(あのキチガイ魔人は確か……ポットン? いやパットン? だか言う魔物に取り付いていて……いや、その前はアニスか? ん、今はアニスに取り付く前? ……えーい、分からん。保留)

 

 ならばと次にランスの脳裏に浮かんだのは、ゼス王国に侵攻してきた魔人。

 

(たしかゼスは……ムシ野郎だな。あいつは大食い勝負に勝てば言う事を聞きそうだが、しかしあの量を喰うのは……魔物兵の中に大食いチャンピオンでも居ないもんかな。結局カロの毒も効き目無かったし……うーむ、保りゅ……うむ、毒?)

 

 そこで唐突に思い出した。

 ゼスを食糧難に陥れた大食い魔人ガルティア。ランスはその魔人との大食い対決に敗れ、異界に飛ばされ、その後なんとか異界から帰還して毒殺を思い付き、それも結局効果が無くて。

 

(そーだ、んであいつは確か……だから、あれをこうすれば……)

 

「……なんだ、丁度いい魔人が居るじゃねーか」

 

 ランスは口を弓なりに曲げてニタリと笑う。

 その頭の中ではすでに、とても素晴らしい作戦が一つ組み上がっていた。

 

「ウルザちゃん、とってもいい事を思いついた。……シィル! 手紙の準備だ!」

「は、はい!」

「ランスさん。何方宛ての手紙を書くのですか?」

「くっくっく、JAPANにいる香ちゃんだ。魔人を一匹あの子に片付けて貰おうと思ってな」

 

 

 

 


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