ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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天啓

 

 

 

 

「天啓だ」

「天啓……ですか?」

 

 きっかけはランスが呟いた一言からだった。

 

「そうだ、天啓だ。これは天啓なのだ。なんつーかこう……ばちこーんッ! と来たのだ」

「……はぁ。ばちこーん、ですか」

「うむ。つー訳でシィル、とっとと付いてこい」

「あ、はい。……え、けどランス様、まだ真っ暗なのですが……」

 

 場所はミダラナツリーから少し離れた場所に設置された奇襲部隊のキャンプ地。

 そして時刻は深夜3時過ぎ。誰も彼もがとっくに眠っている頃合いであり、起きている者と言えば寝ずの番をしているゼス軍兵士達ぐらいなもの。

 当然ながらシィルも寝袋に包まれてぐっすり夢の中であったのだが、突然ばちこーんと来たらしいランスによって叩き起こされたのだった。

 

「はふぅ……眠いです。ランス様はまだ眠っていなかったのですか?」

「いんや、俺様も寝とったぞ。ただそれでも天啓が来てしまったからな。来てしまった以上はもう呑気に寝ている訳にはいかんのだ」

「はぁ……それで、その天啓というのは? というか一体何処に向かっているのですか?」

「まぁ待て待て。その前にあいつも呼ぶ。……えーっと、どのテントだったっけな……」

 

 暗闇を照らすランプを片手に持ちながら、ランスはきょろきょろと辺りを見渡す。

 一帯に所狭しと設置されている沢山のテント、その中からお目当ての人物が眠っているはずのテントをうろうろ探し回って。

 

「お、これだな」

「ここは……ホーネットさんのテントですよね?」

「うむ。あいつが寝てるはずだから静かにしろ。そーっと、そーっと……」

 

 魔人筆頭が眠るテントの入り口をそっと開いて。

 まるで夜這いを図るかの如く息を殺して、ランスはそーっと中へ入……ろうとしたのだが。

 

「……ランス、どうかしましたか?」

 

 足を踏み入れた途端、そんな声が返ってきて。

 

「……おい。何故お前は寝ていないのだ」

「寝ていましたよ。けれども外から貴方達の声が聞こえて目が覚めたのです」

「ぬぅ、相変わらず隙の無いヤツめ……」

 

 そこはさすがに魔人筆頭。どんな状態にあっても油断は無し。

 寝ている時でも侵入者の気配はお見通しらしく、彼女はテントの中で普通に身体を起こしていた。

 

「まぁいい。そんな事よりホーネットよ、さっき俺様に天啓が来たのだ」

「天啓?」

「おう。だからお前も付いてこい。ほれ、とっとと支度をせんか」

「支度? ……こんな時間に出掛けるのですか? 一体何処に……」

「いいから早くしろっての」

 

 全ては突然ばちこーんと来た天啓が故。

 目的地も告げずに急かしてくるランスの態度に、ホーネットは「全く……」と呆れた嘆息一つ。

 

「……それで? こんな真夜中に貴方は何処に行くつもりなのですか?」

 

 そうして数分後、仕方無く身支度を整えたホーネットがテントから姿を現した。

 

「そりゃ付いてからのお楽しみだ。ほれ二人共、こっちだこっち」

「そういえば……シィルさん、貴女も?」

「はい、そうなんです。私もさっきランス様に起こされまして……」

 

 状況がまるで飲み込めないホーネットとシィル、一方すたすたと目的地へと歩き出すランス。

 三人は部隊が寝泊まりするキャンプ地を離れて、西の方角へと歩いていく。

 進むにつれて進路の先、景色の大半を覆う魔界都市の巨大な世界樹がどんどん近付いてくる。

 

「……ランス。貴方はまさかミダラナツリーに行くつもりですか?」

「ちゃうちゃう、あそこに用は無い。俺様が探しているのはもっとイイ感じの場所なのだ」

「……イイ感じの場所、ですか?」

「うむ」

 

 ランスが探しているのはイイ感じの場所。イイ感じなロケーション。

 

 それは例えば、周囲には妖しげな木々が沢山立ち並んでいて。

 そして地面からは、これまた妖しげな草花が沢山生えていて。

 それらは妖しげに発光していて、夜でも十分に視界が効くような、そんな場所。

 

 そしてランスが探すそんな場所とは、この魔物界においては然程珍しいものでは無くて。

 

「……お、あそこなんてイイ感じだな」

「あそこは……何処でしょう?」

「何処という事もありません。この魔物界によくある森の一つだと思いますが……」

 

 そうして辿り着いたのは森。単なる森。

 ホーネットが言う通り、この魔物界には沢山ある内の一つでしかない小規模な森である。

 そんな森の中へと足を踏み入れて、10分程適当に歩き回った頃。

 

「……おぉ、まさしくこんな感じだ。素晴らしくイイ感じの場所ではないか、うむうむ」

 

 目に入るその景色、どこか見覚えのあるような光景にランスは満足そうに頷く。

 それは不気味な静けさが漂う森の中、辺りには怪しく発光している魔界植物の数々。

 勿論周囲に生物の気配なども無く、あの時と場所は違えどもとても近似している、まさに探していた通りの素晴らしいロケーションである。

 

「さーて、っと」

 

 するとランスは二人の方へと向き直って。

 

「んじゃ、どっちからいく?」

「……どっち、とは?」

「あ、それともどっちともいくか? 俺様はそれでも構わないがな、がはははっ!」

 

 そうして笑うその顔を見て、シィルとホーネットはぞわっと身の危険を感じた。

 けれども時すでに遅し。もはや彼女達二人に逃亡という選択肢は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 ……そして、その後。

 

「がははは! グッドだーっ!」

 

 そこにはイイコトをし終えた姿、楽しみに楽しんでとってもスッキリした顔のランスが。

 

「……はぁ、んっ……」

 

 そしてすぐ隣には、地面に横たわったまま熱い吐息を繰り返すホーネットが。

 

「……ほ、ホーネットさん、大丈夫ですか?」

「……え、えぇ。ありがとうございます」

 

 こちらは一足先に抱かれて一度ノックダウン、そして一足先に復活したらしいシィル。

 そんな彼女の肩を借りて、ホーネットはなんとかその身体を起こして。

 そして赤みの残る顔でランスを睨みながら、深い恨みの籠ったような声色で呟いた。

 

「……全く、信じられません……このような時に、このような場所で、このような事を……」

 

 突然ランスから呼び出されて何かと思えば、待ち受けていたのはやっぱり性交だった。

 それも二人きりではなくシィルと一緒で。彼女との3Pという提案は断固として固辞したが、しかしこの状況では一人一人別々にというのもそれはそれで辛いものがある。

 先を譲ったシィルがランスに抱かれている中、少し離れた場所で自分の番を待っているのも無性に辛かったし、そうして自分の番になって、くたくたになって横たわるシィルのすぐそばでランスに抱かれるというのもとてもキツかった。

 

「もうすぐ出発を控えているというのに……貴方は何を考えているのですか」

「さっきも言ったろ、これは天啓なのだ」

「……訳がわかりません。ここで私とシィルさんを抱く事に理由でもあると言うのですか?」

「その通り。理屈はよく分からんのだが、ここでのセックスは絶対に欠かせないと思ってな」

 

 ホーネットから非難交じりの目で睨まれても気にせず、ランスはあっけらかんとして答える。

 

 天啓。それは天の啓示、天の導き。それがランスに下されたのはつい先程の事。

 彼がぐーすかぴーと眠っていた時、突然夢の中にばちこーんっ! と天啓が落ちてきた。

 

 思えば今のこの状況、これは前回のあの時の状況と凄く似ているような気がする。

 前回の時、船を用いた決死の作戦で魔物界南部へと侵入を果たして、決戦を明日に控えて一晩越したあの時とそっくりではないか。

 だったら今、自分はここでセックスをしなければならない。その一人はシィルで、そしてもう一人、誰か女の魔人を抱かなければならない。

 

 とそんな天啓に突き動かされて、ランスは二人を誘って森の中へとしけ込んだ。

 そしてあの時と似たイイ感じの場所を探して、この通り二人とのセックスを敢行したのだった。

 

「……大体、貴方は昨日……昨日が決戦前夜だと言っていたではありませんか」

「確かにそう言ったな。けどな、だからって別に翌日セックスしないとは言ってないぞ」

「……貴方と行動を共にしていると、時折無性に頭が痛くなります」

 

 額を押さえて、本当に頭の痛そうな表情でホーネットは呟いて。

 

「……とにかく、その天啓とやらが済んだのなら早くキャンプ地に戻りましょう」

「そうですね。なんだかもう日が上がり始めてきちゃいましたし……」

「うむ、そうだな。んじゃ戻るぞ」

 

 二人を相手に楽しんだ事もあって、あれから結構な時間が経過している。

 次第に森の中も明るさを増して、時刻はそろそろ早朝と呼べる頃合い。三人は身支度を整え次第すぐに移動を開始する。

 

「……んぁ、なんか眠くなってきた。さっさとテントに戻って寝直すとすっかな」

「ランス、寝直すとは言っても八時頃にはもう出発の予定ですよ」

「なら出発は昼前に変更……つーか俺様が起きてからに変更だ。シィル、戻ったらウルザちゃん達にそう伝えとけ」

「あ、はい、ランス様。え、でも、その、それって大丈夫なんですかね……?」

 

 などと雑談を交わしながら。

 ランス達はイイ感じのロケーションだった森の中から抜け出して。

 元々居た場所、奇襲部隊のキャンプ地へと戻る、

 

 その歩みの途中で。

 

 

「──え」

 

 

 あるいはその時に起こった出来事。

 それこそを天啓と呼ぶべきだろうか。

 

 瞬間、その耳に届いた遠鳴り。

 そして全身を襲う総毛立つような感覚。

 

 

「………………」

 

 そのまま一歩と歩けないまま、ホーネットは石像のように硬直する。

 

 

「……ホーネットさん?」

「ん、どした?」

 

 その様子に気付いて振り向くランスとシィル。

 二人はただの人間であるが故、幸か不幸かそれに気付く事は出来なかった。

 しかし魔人である彼女は、人間よりも優れた肉体を持つ魔人筆頭だけはそれに気が付いた。

 

「……ランス」

「なんだ」

「………………」

 

 長い沈黙の後、ホーネットはそっと口を開いて。

 

 

「……今、ケイブリスの声が聞こえた……ような、気がします」

「……なに?」

 

 先程ホーネットが聞いたもの。

 それはホーネット派の宿敵たるあの魔人──ケイブリスの声。

 

「ケイブリスだと?」

「……えぇ、恐らくは。聞こえてきた声はかなり遠いものでしたが……」

 

 ランス達の方を振り向く事も無く、ホーネットの視線はその方向に釘付けになったまま。

 

「……おいホーネット、それじゃまさかこの付近にヤツが居るってのか?」

「け、けど、魔人ケイブリスは今、全軍を挙げてカスケード・バウへ侵攻しているはずじゃ……」

「そうだそうだ。だから俺達はその背後を突く為にこうして迂回してきたんじゃねーか」

 

 その話を聞いてさすがのランスも、そして隣に居たシィルも表情を変えた。

 まさかとは思う。敵本拠地である魔界都市タンザモンザツリーならいざ知らず、ここはまだその手前にあるミダラナツリー。

 相手の侵攻ルートからも外れたここにケイブリスがいるはず無いと、そう思いはするのだが。

 

「……そうですね。ケイブリスはカスケード・バウに居るはず。そのはず、なのですが……」

「…………が?」

「……ですが、それでも今聞こえてきた声には覚えがあります。私の耳が幻聴を聞いたのではないのならば、きっと間違いありません」

 

 普段から冗談など全く言わないホーネットにこうも強く言われてしまうと。

 普段から真面目なその顔により真剣味を増した表情で告げられると、その真実味と事の重大さというものがランス達にも理解出来てくる。

 

「……おいカオス、どうなんだ?」

「……分からん。そっちになんかが居る気配は確かに感じるけども、これがケイブリスのものなのかどうかまでは儂にも分からん」

「チッ、役に立たんヤツめ」

 

 ランスが腰に下げる魔剣に聞いてみても、その返事は頼りないもので。

 

「……でもランス様、もし、もしですよ? もしこの近くに魔人ケイブリスが居るなら、それって私達奇襲部隊の動きがバレていたって事なんじゃ……」

「ぬ。……そんなバカな、俺様の考えたカンペキな作戦があの馬鹿リスに気付かれるなど……」

「しかしケイブリスがここに居る理由を考えると、確かにその可能性は否定出来ません」

「ですよね? だったらこれって、私達とってもピンチなのでは……」

「……そうですね。すぐにキャンプ地に戻って対応を図るべきかもしれません」

 

 計画に無い敵総大将との遭遇。奇襲作戦の失敗と、それに伴う派閥戦争全体での敗北の可能性。

 それらを鑑みて、早急にキャンプ地まで帰還する事を提案したホーネットは、

 

「……けれど」

 

 と、戸惑い気味に呟いて。

 

「……先程、ケイブリスの声が聞こえてきた場所。あれは恐らく……」

「恐らく……なんだ?」

「……あの方角はミダラナツリーのすぐ近く。……カミーラ城がある方向からだったと思います」

 

 今現在ケイブリスが居ると思わしき場所。それは魔人四天王カミーラの城。

 

「……マジか」

「……えぇ。恐らく、ですが」

 

 堅い表情で頷くホーネットの様子に、ランスもまた苦い表情となる。

 

 あのケイブリスが。あのカミーラの城に居る。

 それも今、カミーラの協力を得てその背後を突こうとしているこのタイミングで。

 

「……そうか。カミーラの城に、か……」

 

 そんな事を考えたランスが口にした言葉。

 それは天啓ではなくてランス自身の判断、あるいはもっと不確かな予感と呼ぶべきものか。

 

「キャンプ地に戻るのはパスだ。ちょっくら様子を見に行くぞ」

 

 

 

 

 

 そしてランス達は更に西に進む。

 今も視界の半分以上を覆っている巨大な世界樹、ミダラナツリーの元へと。

 

 何かしらの予兆に押されてなのか、早めの歩みで進む事小一時間。

 やがて魔人四天王カミーラの城が、その荘厳美麗なシルエットが見えてきて。

 

 ……そして。

 

 

「………………」

 

 その城のそばに近付くにつれて、自然とランス達の口数は減ってくる。

 見れば皆が同じように口元を片手で覆っていて。

 

「……ランス、様、これは……」

 

 その苦しさの理由を知らないシィルが、つっかえつっかえになりながらそう呟けば、

 

「……間違いねぇ、こりゃヤツがいるな」

「……えぇ、そのようですね」

 

 その苦しさの理由を知る者、ランスとホーネットも顔を顰めながら頷く。

 

 その城は約一月前、ランスがシルキィと一緒に訪ねた時とは様子が一変していた。

 城の外観自体に変化は無い。しかし周囲を漂う空気が目に見える程に黒く暗く色付いていて。

 それはあの魔人が有する特徴の一つ。その身体から発する毒の如き粒子。弱き者には意識を保つ事すら許さない、濃厚な恐瘴気が溢れ返っていた。

 

「あのリス野郎、どうしてカミーラの城なんかに居やがる。それもこのタイミングで……」

「……もしかしたら、私達との協力関係が知られてしまったのかもしれませんね」

 

 魔人カミーラはホーネット派の侵攻に対し、不干渉の立場を取るという密約を交わしている。

 それはつまりケイブリス派に対して背信を行っているという事。その背信が派閥の主に知られてしまったのだとしたら、このタイミングでここに居る事についての説明は付く。

 もしそれが真実なのだとしたら、ランス達にとってはまさしく危機的状況と言えるのだが。

 

「ただ、見た所……ケイブリス以外の兵は居なさそうですね。他に強い気配は感じられません」

「……みてーだな」

 

 しかしその一方で、この場にはケイブリス派魔物兵達の姿などは全く見当たらない。

 それはこうしてランス達がカミーラ城のそばまで近付けている事からも明らかで。

 

「なぁホーネット。これって見方によっては結構なチャンスでもあるよな?」

「……確かに、そうとも言えます」

 

 すぐ近く。ほんの100m先に見える城の中には宿敵たるあの魔人が居る。

 それもただ一体で、他の魔人や魔物兵達などを引き連れずに一人だけで居るという状況。

 

「当初の予定ではカスケード・バウにてシルキィ達と挟撃する予定でしたが、この場に他の敵戦力が居ない以上、ここで戦うというのも決して悪い状況では無いでしょう」

「だよな? こっちの戦力もやや欠けるけど向こうだって取り巻きが居ない分、どっこいどっこいみてーなもんだよな? それに今ならあいつの力も借りられるかもしれねーし」

「ですね。計画していた流れと大きく異なるのは事実ですが、どうあろうともケイブリスを倒してしまえばそれで構わないのですから」

「だよなだよな? これって別に俺様達が困るような状況では無いよな?」

「えぇ。困るというなら、それはきっと……」

 

 そこでちらっと、ホーネットはその金色の瞳を城の方へと送って。

 

「……まぁ、な」

「……え? どういう事ですか?」

 

 含みを持たせた言葉の意味が分からず、困惑するシィルをよそに。

 その魔人達の事をよく知るホーネット、そしてある程度は知るランスにはすでに予感があって。

 

 そして、その予感は見事に的中していた。

 それは突然に。今度はホーネットだけではなく、ランスとシィルにもちゃんと聞こえた。

 

 

『──ッ、カミィィラぁあああーーー!!!』

 

 

 城内から上がった天を衝くような怒声。

 それは城外まで易々と届いて、すぐ近くにいたランス達の肌をビリビリと震わせる。

 

「……い、今のは……」

「……今のがケイブリスの声です」

「こりゃあ想像通りか。……マズいな」

 

 あらん限りの怒りを込めた、心の底から憎き相手の名を呼んだかのような絶叫。

 それが意味する所はすぐに分かる。そもそもがランスは前回の時にも一度、ベズドグ山中のケイブリス城にて()()()()()を目にした訳で。

 

「……ランス。どうしますか?」

「………………」

 

 ホーネットから判断を委ねられて、そこでランスは少しだけ沈黙する。

 

 今あの城の中に魔人ケイブリスが居て、その周囲に敵の姿は見当たらない。ならばこれはケイブリスを倒して派閥戦争を終わらせる絶好のチャンス。

 その為にベストな選択肢と言えば、ここは一度キャンプ地まで引き返す事だろう。今この場に居る戦力、ランスとシィルとホーネットの三人だけでは万全とは言えないからだ。

 だから一度引き返して、連れてきた奇襲部隊の面々を──ゼス国が誇る三軍の力を、そして何よりも戦局を一変させてしまうとっておきの秘策、シャリエラの力を借りて戦うべきだろう。

 

 ……と、そんな事はランスも分かっていて、そして勿論ホーネットの方も分かっていて。

 

「……チッ」

 

 ただそれでも、それでもホーネットはランスに判断を委ねる事にした。

 それは自分なら気にしないが、きっとランスなら気にするだろうと思ったからだ。

 

 仮にこの場から一旦引き返したとして。

 そんな事をしている間にあの魔人はきっと……。

 

「──よし」

 

 そして、ランスは決断した。

 

「シィル」

「は、はい!」

「お前はすぐキャンプ地に戻れ。んでウルザちゃん達に決戦の準備をさせてここまで連れてこい」

「分かりましたっ! ……あ、え、けど、それじゃあランス様達は……」

「俺とホーネットはケイブリスをぶっ殺す。このままじゃカミーラが殺されちまうからな」

 

 結局、ランスはシィルただ一人だけを引き返させる事にした。

 その判断をしたという事はつまり、そういう戦いになるのを踏まえての事だった。

 

「構わねーよな、ホーネット」

「勿論、私は構いません」

 

 ホーネットは迷いを見せる事無くすぐに頷く。

 彼女は魔人筆頭であり派閥の主。ケイブリスを倒す事が自分の使命であると考えている。

 だからそれがどんな状況であろうが、それこそ派閥に残る戦力が自分一人だけになろうが、最後まで戦い抜くと覚悟を決めている。

 

「ですが……ランス。貴方は本当に、本当にそれで宜しいのですか?」

 

 けれどもランスは人間。それも派閥戦争への関わりで言えば単なる協力者に過ぎない。

 だからこそ、ここでシィルと一緒に下がったとしても決して責めたりなどはしない。

 そんな意味合いで尋ねたホーネットに対して、ランスはふんと鼻を鳴らして答えた。

 

「あたりめーだ。俺様を誰だと思っとる」

「──分かりました。では共に戦い……ここでケイブリスを倒しましょう」

「うむ、任せろ」

 

 そうして頷き合った後、ランスはふと気付いて隣に視線を移す。

 

「……っておいシィル、何をしとる、お前は早くキャンプ地に戻れっつの」

「……けど、ランス様──」

「けどじゃない。いいからとっととウルザちゃん達を呼んでこい。リス一匹退治するのなんぞ俺様一人でも楽勝だが、より戦力がある方が楽だからな。……分かったな?」

「っ、……」

 

 その声は固い。ランスの様子には余裕が無く、事の重大さ、どれ程に困難な戦いになるかは敵をよく知らないシィルにも簡単に分かった。

 だからこそすぐにはその命令に頷けず、泣きそうな顔をしていたものの。

 

「……はい、分かりましたっ!」

 

 それでもシィルは奴隷。

 ランスの歩みに寄り添い続けてきたパートナーとして、無理矢理にでも顔を引き締めて答えた。

 

「ランス様、これ、念の為の回復アイテムです」

「おう」

「すぐに皆さんを呼んできますから、だから……ランス様もホーネットさんも、絶対に無理はしないでくださいね!」

 

 意を決したら行動は迅速。

 所有していた回復アイテムを全てランスに渡し終えると、更なる戦力を連れてくるべくシィルは駆ける勢いで来た道を戻っていく。

 

「……さてと。んじゃ俺達はリス退治といくか」

「えぇ、そうですね」

 

 そうしてこの場に残った二人。

 ランスとホーネットは再度その眼を見合わせる。

 

「……けれどもまさか、このような流れで決戦になるとは思いませんでした」

「まーな。けど数日以内にはどの道戦う予定だった訳だし、それがちょびっと早まっただけだ」

 

 すでに覚悟を決まっている。

 いざ決戦の地、恐瘴気漂う魔城と化したカミーラ城へと進む……その前に。

 

「あそーだ、ホーネット」

 

 ランスはふと歩みを止めた。

 

「なんですか?」

「戦う前に一つ、お前に言っておきたい事がある。……この戦いが終わった後の事だ」

 

 ここでランスが考えた事。それは魔人ケイブリスを倒した後、派閥戦争が終わった後の事。

 この時点でそちらに思考を進めてしまった事。その事が結果的に戦局を大きく左右する事にもなったのだが、それはともかく。

 

「……終わった後の事、ですか?」

 

 この戦いが終わった後。

 自身でも前々から考えていたその事に、ホーネットも自然と身構える。

 

「あぁ、実はな……」

 

 ランスは勿体振るかのように一拍置いて。

 

 そして。

 

 

「俺様がケイブリスの野郎をぶっ殺したらだ。そん時はご褒美として、ホーネット派魔人全員でのハーレムプレイをさせて欲しい」

 

 ランスはこんな時でも、あるいはどんな時でも、何処までもランスだった。

 

 

「……は?」

「いいな。お前とシルキィちゃん、サテラとハウゼルちゃん全員でのセックスだ、約束だぞ」

「な、あ、そ、それが今言う事ですか!」

 

 ケイブリスとの決戦を前に控えて、何と場違いな話をしてくるのか。

 思わずホーネットも声を荒げてしまったのだが、それでもランスはお構いなしで。 

 

「むしろ今しか言えんだろうこんな話は。とにかくいいな、もう約束したからな!」

「勝手に決めないで下さい! 大体そのような話、私の一存で決められるような事では──」

「いーやお前なら決められる。お前さえ頷けば他のメンツだって全員頷くはずだからな」

「っ、だからって、そんな……」

「つー訳でけってーいっ!! よっしゃー! 夢にまで見たホーネット達とのハーレム! これはやる気がムンムン漲ってきたぜーー!!」

 

 勝手にご褒美を約束して、ランスのテンションはMAXまで高まった。

 ホーネット派魔人全員でのハーレムプレイ。それは魔王城を訪れた当初からの目標の一つ。

 リス退治なんぞとっとと終えて、この手に掴むは前回の時にも味わっていない夢のような一時。

 

「行くぞホーネット! これが最終決戦だ、ここでケイブリスの野郎をぶっ殺すッ!!」

 

 そうして二人はカミーラ城へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

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