遥か大昔。私はこの世界で最も強い魔人だった。
この世界の支配者、最強種たるドラゴン族。
その中でもプラチナドラゴンという種に生まれて魔人となった私を前に、およそ力で敵う魔人など当時は存在していなかった。
……そう。当時は、だ。
当時はそうだった。しかし遥か大昔たる当時と今ではもう何もかもが違う。
時の流れと共に何もかもが変わって、最強の称号も私を飾るものでは無くなった。
しかし──しかし最強の魔人とは。考える度になんとまぁ滑稽な称号だと思う。
全24体となる魔人の中での最強を誇ったとて、それが一体何だと言うのか。この世界には魔人よりも強い存在など幾らでもいるというのに。
魔人など所詮は魔王の配下でしかなく、その魔王でさえも敗れる事があるというのに。
要するに遥か大昔の私とはその程度の存在でしかなくて、それが最初の絶望だった。
プラチナドラゴンだろうが魔人だろうが、所詮はより強き者に蹂躙される存在でしかなかった。
そして私を蹂躙する者達ですら、結局は蹂躙される立場を逃れる事は出来ない。本当にこれ以上滑稽な話は無いと思う。
ある日、空から降り注いだ神々しい光。
それによって唾棄すべき同族、ドラゴン共は瞬く間に殲滅されて。
そうして世界の有り様が変わった事で、最強の魔人だった私の下にもようやくの平穏が訪れた。
その後は長らく平穏の中、あえて特筆すべき事は何も起こらなかったのだが……。
それが原因で、なのか。
あるいはいずれにせよ、だったのか。
最強であるが故に長らくの平穏。目的も持たずにただ無為に生きるだけの日々。
そうした日々がいつしか私の力を落とした。最強だった爪を鈍く摩耗していった。
ただ私は所詮魔人でしかない自分の強さなどには興味が無かったし、強くなりたいなどとも思わなかったから、そうと気付いても然程気にしてこなかったのだが……。
とにかくそうして私は力を落とし続けて。
遂には魔人よりも遥かに弱い存在、人間共にすら敗北するまでに至った。
かつて最強の存在だったプラチナドラゴンの魔人がよもや人間などに敗れる。我が事ながら実に滑稽な話だと、今の私にはそう思えてしまう。そこまで冷めてしまったから。
とはいえその敗北に、その屈辱に、一時は報復の火に燃えた事もあった。
ただそれもいつしか冷めた。私が敗北したのは言わば因果応報の結果でしかないのだから。
寵愛していた使徒達を失った事だって、それ程に私が弱くなった故だという身から出た錆でしかないと気付いてしまったから。
やがて敗北の代償だった封印も解かれて。
解放された私はそれでも何ら変わらず、今も昔も同じように怠惰な日々を過ごすだけ。
そんな変わらない私の中に残る情動、それは大昔から変わらずに抱き続けている一つの思い。
──私はもう、誰のものにもなりたくない。
私を子を成す為の番として、私を得る為に競っていたドラゴン達だろうと。
そんなドラゴン達の下から私を攫って、言いなりにする為に魔人にした魔王アベルだろうと。
そしてそれは無論──
「──カミーラさんっ!!」
──今、目の前に居るこの魔人であろうと。
「え、えへへ……カミーラさん。その……元気にしてましたか?」
まだ日も上がって間もない早朝、知らせも無く勝手にこの城を訪れた不躾なリス。
何を可愛い子振っているのか、相変わらず私の前だけでは取り繕う気色の悪い喋り方。
しどろもどろになりながら、あれこれ言う話に耳を傾けてみれば──
──要は、自分も戦うから私も戦え。
と、そんな要求をしているらしい。
「……だって、だってカミーラさん……ケイブリス派の主は僕だしさ……それにほら、この前人質になっていたカミーラさんを助けてあげたのだって僕な訳だしさ……」
……だから自分の為に戦え。と、そうとでも言いたいのだろうか。このリスは。
私は貴様を主などと認めるつもりは無いし、貴様に助けを求めた事なども無いというのに。
とはいえ、だ。それでも私とて、ここでケイブリスが来るとは予想していなかった。
最初はあの件の事だと、私が裏でホーネット派に協力している事を察知したのかと思ったが、どうやらそれには気付いていないらしい。
だがそれでも。私を見つめるケイブリスの瞳には常の慕情や劣情などより、今では深い疑念と不信の色が見え隠れしているのが分かる。
今、こいつの精神状態はあの時と同じだ。
4年程前、堪え切れずに私に襲い掛かってきたあの時と同じような顔付きをしている。
だとするとここは従っておいた方がいい。
たとえ面従腹背でも、表向きはその言葉に従っておいた方が得策だろう。
なにせ私はもうケイブリスと戦うような勇気も、そんな行動力も持てはしないのだから。
「僕はこれまで……カミーラさんの為に沢山の事をしてきましたよね? だったらカミーラさんも……僕の為に動いてくれますよね?」
思えば数週間程前、ゼスで私を倒したあの人間の男がこの城を訪ねてきた時。
ホーネット派に協力しろと言ってきた時、私はそれに頷く一方で強い自己矛盾を感じていた。
だってそうだろう。あのいけ好かないホーネットに協力してまでケイブリスを始末したいのなら。ならばその可能性を少しでも上げる為、私自身も戦いに参加した方が良いに決まっている。
しかし私はそれを選ばず、奴らを見て見ぬ振りをして決戦を傍観する立場に留まった。
それは決して面倒だったからではなく、単に選べなかっただけだ。ケイブリスと一度戦って敗北した事が切っ掛けで、もはや自分が勝てる相手だとは思えなくなってしまったから。
だから他の誰かに倒して貰おうなどと、そんなプライドの欠片も無い無様な真似を晒して。
「………………」
「……カミーラさん?」
それなのに──今。
今もプライドなどは曲げて、ケイブリスの言葉に従った方が良いと分かっているのに。
それなのに私は今、その言葉に従う気分にはなれないでいる。
それはやはり、ケイブリスが邪魔だからだ。
こいつはいずれ私に手を掛ける。遅かれ早かれそうなるだろう事はずっと前から分かっている。
だとするならば。やはりこいつが生きていては、私の願いが叶う事はない。
私はもう、誰のものにもなりたくないのだから。
とはいえここでこんな展開になったのは、魔人のくせに他力に頼ろうとした私への戒めなのか。
そんな事を自嘲気味に考えながら、努めて突き放すような低い声色でそれを告げた。
「──消えろケイブリス。これ以上視界に入るな。貴様がそばに寄るだけで臭くて吐き気がする。貴様の為に戦うぐらいなら死んだ方がマシだ」
そうして一度息を整えて。
寒々しい程の数秒間の空白の後。
「──ッ、カミィィラぁあああーーー!!!」
それはいつかの時と同じく。
耳を劈くようなけたたましい怒声を上げて、激昂したケイブリスが襲い掛かってきた。
魔人ケイブリスなど、大昔の私にとっては矮小なリス如きと鼻で嗤うような存在だった。
しかしリス種が持つ自己進化の特性。それにより少しずつ自らを高めて、そうして六千年。いつしか姿形さえも変貌し、異形のリスとなったその力は紛うことなき本物の強さ。
一方で四千年もの時の中で力を落とし続けた私では到底敵うはずもない強さで。
プラチナドラゴンが誇るこの爪でも、ケイブリスの身体を穿つ事は出来なかった。
この口から吐く必殺のブレスでも、ケイブリスの身体を焼き尽くす事は出来なかった。
魔人カミーラの全ての力を持ってしても、ケイブリスの命に届く事は無かった。
「カミーラァ! カミーラァ! カミィィラァァアアァァアア!!」
その拳が私を打ち付ける。
繰り返し繰り返し、何度も執拗な程に。
「俺様がこれだけ愛してやってんのに! 俺様がこれだけ想ってやってんのに!! もう許さねぇ! テメェだけは、テメェだけは許さねぇぞ! ああぁぁぁぁああああッ!!」
殴り付けながらもケイブリスはよく吠える。
その下らない喚きを聞いていると、痛みに襲われながらもなんだか笑えてきてしまう。
自分は六千年間も頑張ってきた。六千年間も想い続けてきた。
だからその頑張りは、その想いは報われるはず。いや、報われなければならないと、そんな無責任な思い違いをしている哀れなリス。
結局の所、このリスはあれと同じだ。ドラゴン共や魔王アベルと大差ない存在だ。
こいつの驕傲さはつまり、自分が強くなったからに過ぎない。弱き身のままであれば私に挑もうなどとは絶対にしない。私の視界に入る事すら怯えて隠れ潜んでいただけだ。
そんな隠れ潜む日々を越えて強くなった今、私の意思など無視して自らの想いを遂げようとする。ドラゴン共や魔王アベルと同じように。
本人はそれこそを努力の結果と謳い、それを尊いものだと宣うのだろうが、生憎と私がそれを認めてやる理由など何処にも無い。
何故ならケイブリスがどれ程強くなった所で、肝心の性根だけは変わらないから。
自分よりも弱き存在は踏み躙る。誰よりも弱き立場の事を知っていても尚蹴散らし蹂躙する。
そして自分よりも強き存在には媚びへつらい、決して逆らおうとはしない。そんな性根をクズと呼ばずして何と呼べばいい?
なんらプライドの無いムシケラのようなリス。
あれから何千年経った今でも、私の目には変わらずそのようにしか映らない。
そんな男から長年想いを向けられたとて、不愉快な心地になるだけだ。そもそもが全く好みの外見では無い。
「テメェはだたじゃ殺さねぇ! 絶対に殺してなんかやらねぇぞ!! 今日からテメェは俺様の性欲を解消するだけの人形として扱ってやる。どうだ嬉しいだろ? 嬉しいと言えよ!! アァ!?」
ケイブリスの男性器が、八本の触手が蠢き出す。
地に伏す私はもうそれを見上げるだけで、抵抗する力も残ってはいない。
しかし、力のままに女を犯そうとする男とは、いつ何度見てもやはり……醜い。
こんな男に惹かれる女などいるものか。こんな男の想いが報われる事などあるものか──
「ケイブリス、そこまでだッ!!」
──そんな時、あの男の声が聞こえた。
何処ぞのリスやドラゴン達とは違って、弱き人間の身のままで私に挑んだ愚かな男の声が。
◇ ◇ ◇
二人がその城に足を踏み入れてまず感じたもの。
それはドロリと絡みつくように重い空気の感触、むせ返る程に強烈な恐瘴気の匂い。
嗅ぐだけで頭痛を引き起こすその瘴気を前に、二人は苦しそうに顔を顰める。
「これは……一刻の猶予もなさそうですね」
「みてーだな。ホーネット、この音からしてヤツはすぐそこだ!」
無用な会話を交わす余裕も無く、ランス達は廊下を一直線に駆けていく。
今もその奥から聞こえるもの。それは二人の魔人四天王が繰り広げる戦闘音──では無い。
すでに戦いは終わって、片方が片方を一方的に痛めつけている打撃音。
「チィ……!」
その結末は予期していたらしく、ランスとホーネットの顔に逡巡は無い。
そうして廊下を駆け抜けていくと、次第に壁や天井が崩れていたり床石が割れていたりと、戦闘の余波が目に付くようになって。
「ランス、あれを!」
「あぁ! けどギリギリ間に合ったな!」
視界の先、破壊された扉の奥に見える大広間、そこに立つ醜悪なシルエット。
6mに及ぶ巨体。自己改造を繰り返し続けて元々の種族とは大きく外れた異形の身体。
ホーネットにとっては約半年ぶり、ランスにとっては約1年ぶりとなったその姿。
「ケイブリス、そこまでだッ!!」
大広間に突入すると同時、ランスは威勢よく大声で言い放った。
「……アァ?」
拳を振り上げていたその魔人の動きが固まる。
そのまま声が聞こえた方に振り返って、まず目にしたのはランスの姿……ではなくて。
「──な」
一瞬の硬直の後、驚愕に見開かれる瞳。
「な、なッ、ほ、ホーネットだとッ!? てっ、テメェ、どうしてこんな所にいやがる!!!」
その目に映るのは自身にとって7年越しの宿敵、ホーネット派を統べる魔人筆頭の姿。
けれどもどうして。一体何故ホーネットがこのカミーラ城に居るのか。
ホーネット派の面々は今、大荒野カスケード・バウに集結しているはずじゃないのか。
仮にホーネットだけが別行動で動いているのだとしても、それでもカスケード・バウを越えない限りこのミダラナツリーに辿り着く方法は無い。
だからこそ自分も安心してこの場所まで来る事が出来たというのに。それなのにホーネットがここに居るというのはどういう事なのか──
「ま、まさか」
そこでケイブリスは視線を真下に。
力無く地に伏せるその魔人の方に移して。
「か、カミィィラァァアア!! テメェ、さては俺様を裏切ってホーネット派と手を組んでやがったんじゃ──!」
何者かが手引きしたとしか考えられない。そうだとしたらこのアマしかいない。
ケイブリスははち切れん程の怒りを込めてその大きな拳を握り締め、まだ整った形を保っていたカミーラの顔面を叩き潰そうとした、その刹那。
「ケイブリス!!」
「ぬぉッ!」
ちょうどその間を割くかのように一閃。白く輝く破壊光線が唸りを上げる。
ケイブリスは慌てて背後に飛び退いて、術者の狙い通りにカミーラは九死に一生を得た。
「ホーネット、テメェ……!」
「……ケイブリス、ようやく戦いの場で相まみえる事が出来ましたね」
憎々しげに睨む瞳と射抜くように睨む瞳。互いに鋭い視線が衝突する。
ホーネット派の主、魔人ホーネット。
ケイブリス派の主、魔人ケイブリス。
派閥戦争の切っ掛けとも言える二人、両派閥の主が遂に戦場で顔を合わせた。
半年前のように虜囚の身ではない、こうして同じ場所に同じ立場で対峙する事となった今。
「この機を逃しはしません。今日、ここで派閥戦争の決着を付けます」
「……チッ、ちょっとばかし俺様を出し抜いた程度で調子付きやがって……!」
真っ直ぐに敵を見据えるホーネットの一方、舌打ちするケイブリスの表情は苦い。
自分が相手か、派閥の主のどちらかが敗れた時点で派閥戦争は終幕となる。それはケイブリスも承知していて、だからこそ今回は総戦力での全軍侵攻を決断し、自分も武器を取って立ち上がった。
ただそれでも。それでもここでホーネットと戦うというのは全く想定していなかった展開。
これがホーネットとカミーラが手を組んで画策した事なのだとすると、自分にとってここで戦うというのは決して得策とは言えないだろう。
ただでさえこの相手、魔人ホーネットは強い。若くして魔人筆頭になるだけの実力がある上、自分には先程カミーラと戦った時のダメージだって残っている。
確実に勝てる戦いしかしないという信条を持つケイブリスにとって、この状況は確実に勝てるとは言えない状況に当たるのだが……。
「……は、どうやら死にたいみてーだな」
けれどもこの状況では。事ここに至ってはもはや決戦もやむ無しか──
と、ケイブリスが覚悟を決める、その前に。
「だーもう! お前ら、この俺様を無視して戦いを始めんなっつーの!」
この場の主役は魔人達ではなくて、世界を救う英雄である自分ただ一人。
若干出遅れた感もあるが、とにかくランスがホーネットよりも一歩前に歩み出た。
「てな訳で……がははは! 正義のヒーローランス様の登場だ! おいカミーラ、生きてっか!?」
「……ラン、ス……」
「カミーラ、選手交代だ! そのリスは俺達が退治してやっからお前はもう退がれ! お礼のセックスなら後で受け付けてやるからよ!」
弱々しく名前を呼び返すカミーラに向けて、ランスが撤退の指示を出す中。
「あぁん? 誰だお前は──」
一方のケイブリスは最初、そこに訳の分からない見知らぬ男が立っていると思って。
「──て、て、てめぇ、は、まさか……」
そしてすぐに気付いた。
自分はこの男と直に会った事は無い。
けれどもその声も、その姿もよく知っている。
「……そうか。てめぇが……」
それはあの電話越しに。
そしてあの写真越しに目にした相手。決して忘れぬよう脳内に刻み付けていた相手。
「……てめぇが、あのカオスマスターか」
謎の人物カオスマスター。
憎き男がそこに立っていた。その名の通りに魔剣カオスをその左手に握って。
「そのとーり、この俺様こそがホーネット派を影から操ってきた男、ランス様だ。やいケイブリス、こうしてまたお前をぶち殺しに来てやったぜ。せいぜい感謝しろよな」
「……あぁ。感謝するぜ、カオスマスター……いいや、ランスか。てめぇだけは俺様の手でぶち殺してやろうと思ってたんだよ」
その男の顔を見ながらケイブリスは静かに、そして凶悪そうににたりと嗤う。
カオスマスター。ランス。あんな挑発的な写真を自分の下に送り届けてきた相手。
自分よりも先にカミーラを抱いていた。人質に手出しはしないという約束を破っていた相手。
この男だけは。この男だけは許さない。
その顔をグチャグチャに潰して、その身体をギタギタに裂いてやらないと到底気が済まない。
「てめぇは俺様の事を散々イラつかせてくれやがったからなぁ。何処の何者だと思っていたが……そのナリを見る限り、てめぇは人間だな?」
「あぁそうだ。俺様は人間、この世界で最強の人間ランス様だ」
「だよなぁ、人間だよなぁ」
するとケイブリスは「……クククッ」と、さも嘲るような笑みを零す。
「おいホーネット、テメェ……まさか人間なんぞと手を組みやがったのか?」
「……えぇ、そうです。けれどもそのおかげで私は今ここに居ます。カスケード・バウからのルートが封鎖されている状況下、ここに辿り着く方法は他に一つしかありません」
「……あぁそうか。人間世界の方から来たのか。なーるほどなぁ、その考えは頭に無かったぜ」
極度に臆病なケイブリスにとって、人間という種が警戒に値しないものだとは考えていない。
リス種から強くなった自分だっているのだ、だったら人間種からでも強くなる者はいるだろう。
そもそも数年前にはカミーラ達のゼス侵攻の失敗だってある。それを知っている以上、人間など何ら警戒しなくていい相手だとは考えない。
故に多少の警戒心は持ちつつも、その上で尚この展開はケイブリスも予期していなかった。
魔物界の中だけで争ってきた派閥戦争において、人間が関わってくるとは想定外だった。
そもそも人間という種に対して、協力を求めるような相手だという発想が無かった。
自分にとって人間などただ邪魔なプチプチ共でしかなく、それは魔人筆頭たるホーネットにとっても当然そうだろうと思っていたのだが……。
「追い詰められて追い詰められて、そんでなりふり構わず人間なんぞの手に縋ったってか?」
「………………」
「なんだなんだぁ、情けねぇなぁホーネットッ! そんなザマで決着を付けようとかどうとか、この俺様の前で偉そうな事ほざいてんのかよ!!」
ケイブリスの嘲りの言葉を受けても、ホーネットはなんら表情を変えずに。
「何とでも言いなさい。ですが少し前までは劣勢だったホーネット派がここまで盛り返したのは、他ならぬランスの協力があったからこそです。彼は人間なんぞと侮るような人物ではありません」
「そーだそーだ。ホーネット派がここまで来たのは俺様のおかげ。だからケイブリス、てめーがここまで追い詰められてんのも全て俺様の活躍なのだ、がはははは!」
ホーネットの言葉に気を良くしたのか、ランスは宿敵の前でも破顔一笑して。
「大体俺様が人間なら、てめーなんぞただのリスじゃねーか。リス如きが偉そうにすんな」
「……なんだと?」
そしてランスの言葉が琴線に触れたのか、ケイブリスは一瞬真顔になる。
「テメェ、今なんつった?」
「たかが雑魚リス如きが偉そうにしてんじゃねーよバーカ、って言った」
「ッ!」
そしてギリッと奥歯を噛んで。
「言うに事欠いてリス如き、だとぉ!? この俺様をナメてんのか!! アァ!?」
すぐにブチ切れた。
白目を剥き出す程の怒りに、4本の角が生える顔が真っ赤に充血する。
リス如きだと? ──違う!!
自分はもうあの時とは違う。脆弱で臆病だった矮小なリス如きなどでは断じて無い。
自分はケイブリス派の主だ。そして最強最古の魔人四天王で……そして。
「俺様は王だ! ここでテメェらをぶっ殺して魔物の王になる男、ケイブリス様だッ!!」
自らがなるべき姿。それを宣言したケイブリスは腰に下がっていた双剣を引き抜く。
大剣ウスパーを右手に。大剣サスパーを左手に。
「ホーネット、来るぞ!!」
「えぇ!」
これが派閥戦争における最終決戦。
身構えるランスとホーネットに向けて。
「オラ行くぜ! オラ行くぜ! オラ行くぜ! オラオラオラオラオラオラオラァァァ!!!」
最強の魔人、魔物界最強の暴力が牙を剥いた。