床石に深々と刻まれた二条の亀裂。
舞い上げられた瓦礫と砂埃。
そして一杯に立ち込める衝撃波の残滓。
その光景こそは魔人ケイブリスの必殺技──スクイレルザンによる破壊の足跡。
「……はっ」
霞がかった視界の中。
渾身の一撃を撃ち終わり、体勢を戻したケイブリスは肩を揺らして大きく息を吐き出す。
「……はぁ、はぁ……」
尻尾のバネを利用しての回転落下斬り。およそ数百年ぶりに放った必殺技。
それによって息が上がったというよりもむしろ、遂にその技を放ってみせた事による高揚感、そして結果を目の当たりにする緊張によって心拍が激しく高鳴っていた。
なにせこれは必殺の一撃。
弱かった自分が長きに渡る苦境の日々の中、遂に編み出した必勝の技なのだから。
「……へ、へへへ……どうだ、さすがにこいつは効いたろ……」
未だ視界が晴れぬ中、ケイブリスは唇の端を歪な弓形に曲げる。
その表情は自信の表れ。如何に臆病なケイブリスであってもこれだけは確たる自信がある。
もし仮にこの必殺技、スクイレルザンが破られたとしたら。
そうしたらもう自分は戦えないかも、いいやきっと戦えないだろうとケイブリスは考える。
いざという時にこの技を頼りに出来ないのなら、恐ろしくて戦いの場になど立てやしない。
ケイブリスにとってスクイレルザンとは、それ程に確たる自信がある必殺技なのである。
「……お」
そして霞がかった視界が晴れていく。
上述の通りスクイレルザンとは、最強の魔人ケイブリスが誇る必勝必殺の技。
であるならば。このスクイレルザンを破れなかったとしたら、そこには──
「……くっ、うぅ……」
聞こえてきたのは呻き声。
靄が消え失せて、そこには痛手を負った魔人ホーネットの姿があった。
鎧代わりとなる巨大な肩当ては大きく破損し、その身体にも数々の裂傷が見える。
そして出血のある額を片手で押さえ、もう片方の手は剣を握ったままぶらりと垂らしている。
そして。
「っ、……ケイ、ブリ、ス……」
そして何より……その瞳が。
先程まで力強い眼差しで敵を見据えていたホーネットの瞳が……今では弱々しく揺れていた。
「……はっ、はは、ハハハハハっ!」
そこにあったのは見たかった姿。
思い描いていた通りの光景に、ケイブリスは自らの勝利を確信して呵々大笑する。
「ぎゃーーっはっはっはっはっはぁ! どぉーだホーネットッ! 俺様のスーパーデンジャラスな必殺技の味はよォ!!!」
「………………」
「効いたろ? 効いたよなぁ!? なんとか言ってみろよなぁオイッ!!」
ケイブリスの嘲笑に対して、ホーネットからの反論は……無い。
スクイレルザン。その一撃は間違いなく勝敗を決する程のダメージを与えていたからだ。
つい先程の数秒間。高くまで飛び上がっての回転落下斬り、スクイレルザンの予備動作を目にしたホーネットは瞬間的に回避する事を選択した。
しかしその判断は正解では無かった。スクイレルザンの破壊の規模を見誤っていた。躱そうとしても躱しきれない程に莫大な衝撃波が放たれた。
その破壊の波に飲まれたホーネットはその身を何度も削られて、そして──
「……くっ」
呻きと共に腰を落として、ホーネットは片膝を地面に付けてしまう。
悔しげにケイブリスを見上げるその瞳は頼りなく揺れていて、瞳孔の動きが定まっていない。
スクイレルザン。その衝撃波はホーネットの身体を刻み、それだけには留まらなかった。
目の前にある光景がブレている。今、ホーネットが見ている視界は何重にも重なり、上下左右も不明なぐらいにぐらぐらと揺れている。
必殺の衝撃波に強く頭を打ち付けられた結果、脳震盪のような症状を引き起こしていたのだ。
「……こ、これ、は……」
視界と脳内の異常な混濁。強烈な酩酊感にも似たそれは初めて体験するもの。
それは魔人筆頭を以てしても、地面に膝を付けたまま立ち上がる事が出来なくなってしまう程で。
「おいホーネット、大丈夫か!!」
そんなホーネットの姿を見て、少し離れた場所にいたランスからの声が飛ぶ。
「……あん?」
するとそんなランスの姿を見て、ケイブリスはややの驚きにその目を見張った。
「……ほぉ~? 取るに足らねぇ雑魚のくせしてこっちはまだ多少は元気じゃねぇか」
「っ、……当然だろうが。テメェなんぞの攻撃がこの俺様に効くかってんだ」
そう吐き捨てたセリフはさすがに単なる強がりではあったのだが、それでも。
それでもケイブリスが言った通り、ランスの方がまだ多少は無事なように見える。
衝撃波の波に飲まれて受けたダメージはホーネットと同程度だろうが、しかしランスはまだ自分の足でしっかりと立っていた。
あの時。ホーネットとは異なり、スクイレルザンの予備動作を見たランスは迎撃を選択した。
それだって別に正解では無い。何もスクイレルザンに対する有効な打開策と言えるものではない。残念ながらそんな秘策はランスの頭の中には無い。
ただ前回の経験からスクイレルザンによる衝撃波の規模が途轍もない事を知っており、回避するのはほぼ不可能だと分かっていた。
だったら逃げるよりかは打ち合った方がまだマシだろう。とそう考えたが故の迎撃。
言わばその程度の選択の違いで、結果としてはまだマシな程度というだけの違いしかなくて。
「……ぐっ」
途端にランスは顔を顰めて、魔剣を握る左手首を右手で庇うように押さえる。
「……おい心の友よ、その手首……」
「ぐぬ、平気だこんなもん……!」
カオスが心配そうに指摘した通り、ランスの左手は──利き手の手首は真っ赤に腫れていた。
スクイレルザンの衝撃波とランスアタックでの競合いを演じたランスではあったが、やはり魔人との力比べをしては無傷では済まなかった。
衝撃波が多少相殺された事でホーネットのように脳震盪になるのは避けられたが、魔剣を握る左手がその圧に耐えきれず手首の骨が折れてしまった。
今ここにはホーネット以外にヒーラーは居ない。となれば武器を持つ利き手が壊れてしまっては、ランスもこれ以上戦闘は続けられそうにない。
それこそが魔人ケイブリスの必殺技、スクイレルザンが秘める真価。
単純な破壊力だけじゃない。パーティを半壊させる程のダメージと共に、双剣により放たれた衝撃波が計2体の相手をダウンさせる──
──つまり、一時的な戦闘不能状態に追い込むという特殊効果がある。
それは一対二までなら、要はこの状況においてならほぼ無敵を誇るという事。
弱きリスが六千年を掛けて磨き上げた技、それはまさしく必殺技の名に違わぬ一撃だった。
「よぉ雑魚人間。いくら魔剣があったってよぉ、利き手がそれじゃあもう戦えねーだろ?」
「……ちっ、雑魚リス風情が吠えんな。貴様なんぞ右手一つで十分だ」
「ほー、そうかいそうかい。だったらその言葉通り足掻いて貰おうじゃねーかよ」
利き手で魔剣を構える事が出来ず、そんなランスの挑発にも力が無い。
対して圧倒的な勝勢にある事もあって、ケイブリスは余裕綽々な態度を崩さず。
「そんじゃまぁ続きといこうや。……けど、てめぇを嬲り殺しにする前に……」
言いながら右の巨剣を高々と振り上げて。
「──お前は死んどけよ! ホーネットォ!!」
「っ!」
打ち下ろす。
渾身の一撃を、未だ意識が混濁していて立ち上がれないホーネットの頭上へと。
「くぅ……!」
平衡感覚が定まらない中、それでもホーネットはどうにか身体を転がすようにして回避した。
ほんの1m横に巨剣が突き刺さって大広間全体を揺らす中、それでもケイブリスの武器は双剣、攻撃は一太刀では終わらず。
「死ねぇ!!」
そうして放たれた左の巨剣。振り下ろしの一閃は一撃目よりも更に鋭く迫る。
先程の回避行動によりそのまま地面に倒れ込んでしまったホーネットには、もはや躱す事の出来ない軌道にある攻撃だったが。
「ホーネットッ!!」
「……く、ラン、ス……」
そこにランスが飛び込んできた。
横合いからタックルを食らうような形となって、ぎりぎりで死線上を避けられた。
「くっ、そ!」
すぐに次が来る。満足に呼吸する間も許されないような一瞬の最中、今のホーネットは戦える状態にないとランスは即座に判断した。
思えば前回の時も今と同じく、ケイブリスとの決戦ではスクイレルザンを食らって一時的な戦闘不能状態に陥る者が続出した。
あの必殺技を受けたら意識混濁になるのは避けられず、ならば周りの者がフォローするしかない。ランス自身もその影響で利き手が使えない中、無理矢理にホーネットを抱え上げて。
「逃がすかァ!!」
一旦距離を取ろうとした所で容赦なく迫るケイブリスの猛撃。
立て直す隙を与えぬようにと、右から左から止まる事無く双剣の乱舞が襲い掛かる。
「くぬっ! なんの、これしきッ!」
だがランスは際どいながらもそれを躱していく。
ホーネットの事を抱えながらも機敏かつ無駄のない動き、まるで火事場の馬鹿力にも通じうる神憑り的な集中力で。
「……く、白色──!!」
そしてホーネットの方も。
意識混濁の中にありながらも、それでも魔法の詠唱は完成させたのは魔人筆頭のなせる技か。
とはいえ視界が明滅する中では正確な標準を合わせる事は出来ず、ランスに抱えられながら放った白色破壊光線はケイブリスからは少し外れた方向に放たれた。だが、
「ぬぉ、この、死に損ないが……!」
しかしその威力には遜色無し。
ホーネットの魔法は依然として驚異だと感じたケイブリスは慎重さ故に一歩下がる。
そのおかげでランス達は辛うじて相手と距離を取る事に成功した。
「ふぅ、間一髪……!」
「ケッ、雑魚のくせして中々粘るじゃねーか」
息を切らすランスの一方、ケイブリスは双剣を握り直しながらその姿を眺める。
相変わらずの回避技術を見せる人間はまだしも、もう片方は。
「特に……そんな無様な姿をこの俺様の前で晒してまでよぉ、なぁホーネット」
人間に庇われる魔人。今目の前にあるのはかくも情けない光景。
宿敵だった魔人筆頭を見下ろしながらケイブリスは嘲りの笑みを浮かべる。
「………………」
それにホーネットは揺れる瞳で睨み返すのみ。
「ぐぬぬ……!」
そしてランスも唸るだけで。
スクイレルザンの直撃を食らって意識混濁中のホーネットは戦える状態にない。
そして、同じくスクイレルザンによって利き手が壊された自分も戦える状態にはない。というかホーネットを抱えていては利き手が使えた所で戦う事は出来ない。
というかそもそもホーネットがこれでは。最強の戦力である魔人筆頭がダウンしていては、ランス一人でケイブリスと戦うなんて無謀もいい所で。
「……せ」
「あん?」
「……せ、せ……せ……」
そんな状態になってしまった以上。
悔しいかなその判断をするのにも容易く、悩むのに必要だった時間など数秒足らずで。
「せ、戦略的てったーいッ!」
故に──ランスは逃げ出した。
「……は?」
ポカンと口を明けるケイブリスの目の先。
ランス達は背後にあった階段を登って大広間の奥側から二階へ逃亡していく。
「……ははは」
そんな姿を目にして。
ケイブリスが乾いた笑い声を漏らした時には、もはやその姿は見えなくなっていて。
「──ぐぁはぁはぁはぁはぁはッ! おいおいテメーらぁ! ここまで来て逃げんのかよ!!」
そして、ケイブリスも動き出す。
敵を……いや、尻尾を巻いて逃げ出した獲物を追い詰めるべく。
7年に及んだホーネット派との因縁に、今この場で確実にケリを付けるべく。
「なんだなんだぁ!? 俺様をぶっ殺すんじゃなかったのかぁ!? 散々生意気言ったわりにはクソダセー事するじゃねぇかよ、アァ!?」
そんな嘲笑を遠くに聞きながら、
「ぐっ……うるせーうるせー!」
ランスは逃げる。
ホーネットを抱えたまま、カミーラ城の廊下を遮二無二疾走する。
たとえ背を向け無様を晒してでも、それでも今はケイブリスから逃げるべきだ。
今はまだ一か八かの特攻をするべき時じゃない。ランスの直感がそう告げていた。
「うし、とりあえずここで……!」
そうして逃げ込んだのは何処かの部屋、廊下の一番奥にあった無人の客室。
バタンとドアを閉めた瞬間に息が上がったのか、ランスは壁により掛かりながら腰を下ろした。
「ぜぇ、ぜぇ……おいホーネット、具合は……」
「……ランス、申し訳、ありません……私が、このような……」
抱えている腕の中、意識の混濁が治らないホーネットの謝罪が虚しく響く。
『──オラオラァ! 何処に隠れたぁ!?』
そしてケイブリスも確実に迫ってきている。
邪魔なものを破壊しながら進んでいるらしく、ガラガラと崩落音のBGMが聞こえてきて。
その音が徐々に大きくなるにつれ、隠れている方は焦燥と恐怖を嫌でも感じてしまう。
「マズイなこれは。こんなとこに隠れてたっていずれは見つかっちまうぞ」
「………………」
「……おい聞いとるか、心の友よ」
「だーもううるせぇな! 今考え事してんだからちょっと黙ってろ!」
そんな中、八つ当たり気味に怒鳴り返したランスは必死に思考を巡らせていた。
(……や、ヤバいヤバい……! これはちょっとピンチかもしれんぞ……!)
これはマズい。
この展開は、この状況は控えめに言っても絶体絶命と言わざるを得ない。
苦渋を飲んで戦略的撤退を選んだとはいえ、それで逃げ切れるかどうかは全く別の話となる。
特に追跡者たる相手は魔人。それも並の魔人ではなくて最強最古たる魔人四天王。小回りが利く場所ならともかく、開けた場所での移動速度なら間違いなく相手の方に分がある。
故にランスは城外に逃亡は図らなかった。平地でケイブリスと追いかけっこをするよりは城内に隠れた方がまだ望みがあると判断したからだ。
(つってもカオスの言う通り、ここに隠れてたって見つかるのは時間の問題だろうし……!)
このカミーラ城は広大な城、隠れる場所なら幾らだってあるものの、しかしこれは何もかくれんぼをしている訳では無い。
この破壊音を聞く限り、ケイブリスは城の全てを破壊してでも自分達を見つけるつもりだ。この城を平地にされては隠れ続ける事も出来ない。
そもそも城の崩落に巻き込まれてしまっては、無敵結界を持つホーネットはともかく人間であるランスはひとたまりもないだろう。
(だーもう! どうしてこうなるんだ! 大体前回の時だって似たような事に……!)
思い返せば前回の時、前回の最終決戦時も初戦はケイブリスに敗北した。
そして今回もまた。今回などは事前にちゃんと討伐計画を立ててきたというのに。切り札となるシャリエラも連れて、万全と言えるような体制で戦いに挑んだというのに。
それでも結果はこの通り。計画には無かった予期せぬ出来事が続出し、前回と同じようにケイブリスに敗北して逃げ出す羽目になってしまった。
(前回はそれでもなんかよく分かんねーうちに上手い事なったけど、今回はさすがに……)
前回の時は戦闘の余波によって、運良く城の床が崩落して地下水路まで落下した。
そしてその後、運良くケイブリスが自分達の事を追跡してはこなかった。
しかし今回に限ってはどうやらそこまで運良くはいかないようで。
『とっとと出てこい! 今すぐ出てきて命乞いをすりゃあ許してやるからよぉ!』
「ぐ、ぐぬぬ……!」
このままでは見つかる。そして──死ぬ。
けれどもどうすれば。ここからケイブリスを振り切って逃走する手段が思い付かない。
認めたくない、されど認めざるを得ない現実を前にランスは悔しげに唸る。
「ぐぬぬぬぬぬ……!!!」
一体何故こうなってしまうのか。
まさか自分はどの世界でも、ケイブリスに一度は負けるのが運命だとでも言うのか。
(どうする、どうする……!)
そんな事を考えながら、絶体絶命の窮地に追い込まれたランスは──
(……って、運命だ?)
──しかし、そこからただでは起き上がらないのがこのランスという男。
絶体絶命の窮地にあって、それでも逆転の一手を捻り出すのが英雄と呼ばれる者の本領。
(っ、まてよ、そうだ……)
故にランスはある事を思い付いた。
「……けれど」
けれど。これは正直に言ってなんら保証などない不確実な方法。
これが可能かどうかも分からない。なんせあれをそんなふうに使った事なんてないから。
そもそもいけるかどうかも分からない。あれには毎回なんの確信もないから。
……けれど。
「……ホーネット」
「……ラン、ス……」
ランスは抱えていた腕の中に居る女性、ホーネットの顔を覗き込む。
未だ脳内の混迷が晴れないのだろう、弱々しく返事を返してくるホーネットの顔を。
これはなんの保証もない不確かなもの。
これには何一つ根拠などは無く、確信なんてものはどこにも無い。
「……いける、か?」
「……え?」
「いや、いけるな。そうだ、いける。だって俺は英雄だ。俺様がこんな所で死ぬはずがない」
それでも、この魔人とであれば。
ホーネットなら大丈夫だろうと、なんの根拠もないのにランスには確たる自信があった。
「……よし」
そして、ランスはホーネットを抱えたまま。
「す~っ」
大きく大きく息を吸って、そして……。
──そして。
そして、ケイブリスが迫る。
「ぐぁはぁはぁはぁはぁ!!」
勝利の喝采を上げながら。
一歩一歩荒々しく踏みしめて。徐々に獲物を追い詰めるかのように。
──はははははっ!
勝てる、勝てるぞ! 勝てたじゃねぇか! これで遂に俺様の勝利だッ!
今すぐにでも喜びに踊り出したい気分だ。
それも仕方のない事だろう、だって自分は勝利したのだから。
あの魔人ホーネットに、憎きホーネット派の主を倒したのだから。
そしてこの勝利の意味とは。この世界において自分が最強だという事の証明だ。
やっぱり自分は最強だった。魔人筆頭のホーネットと言えども相手にはならなかった。
思えばあんなに怯えている必要も無かった。やっぱり自分が──このケイブリス様こそが、魔物の王となるに相応しい存在だったのだ。
「オラオラァ! 何処に隠れたぁ!?」
目に入った部屋の一つに巨剣を振るう。
外側から壁ごと部屋の中までを粉砕して確認……どうやらここには居ないようだ。
ならば次の部屋。ケイブリスはまた巨剣を振るってカミーラ城の一室を次々と破壊していく。
「とっとと出てこい! 今すぐ出てきて命乞いをすりゃあ許してやるからよぉ!」
城外に逃がしてしまう可能性は、無い。
あのランスという人間はまだしも、ホーネットのような強い気配の在り処はある程度察知出来る。
特に自分は今までの生き方が影響して、強い存在を察知する感覚は魔人随一だと言ってもいい。
だから分かる。奴らはまだこのカミーラ城の何処かに居る。
恐怖に逃げ惑いビクビクしながら隠れている。まるで脆弱なリスのように隠れ潜んで息を殺して、お願いですから見つからないように、なんて神頼みでもしているのだろう。
「殺す……ここで確実に、ぶっ殺す……!」
勿論そんな相手を見逃しはしない。この勝機を逃す手は無い。
ケイブリスは熱り立ちながら双剣の柄をぐっと握り直して。
その時だった。
廊下の一番奥にある部屋から、
「えー! なんだってー!!」
妙に能天気な声が。
この状況には合わない、不思議なぐらいに軽快な口調のあの男の声が聞こえた。
「こりゃビックリだー! まさかホーネットが俺様の運命の女だったなんてーー!!」
「──そこかぁッ!!」
聞こえてきた言葉の意味は不明だが、とにかく居場所は判明した。
早くブチ殺したいと急く心そのままに、ケイブリスは右腕を高々と振り上げて。
「おらァ!!」
巨剣の一振りで軽々ドアを粉砕。
崩れ落ちる瓦礫を踏み越えて。
そうしてあの死に損ない共を、殺す。
ランスとホーネットに、確実な止めを刺そうとしたケイブリスだったが──しかし。
「……アァ?」
先程は確かに声が聞こえてきた部屋。
けれども今、そこに二人の姿は無かった。