ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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VS 魔人ケイブリス③

 

 

 

 

 

 絶叫が響く。

 

「──ぎゃああああああああッ!!」

 

 耳を劈くような金切り声を上げて、6mに及ぶ巨体が地面を転げ回る。

 

「ぎゃああああッ! アアァァアァアアア!!」

 

 魔人ケイブリス、その左腕が崩壊していた。

 剛毛に覆われた大木のように太いその腕が、夥しい程に真っ赤に爛れている。

 そして至る所から出血し、更にはあらぬ方向に曲がっている。一目で重傷だと分かるダメージだ。

 

「……へっ」

 

 無様に転がるその姿を見てランスは笑った。

 

「どうだホーネット、全て俺様の言った通りになったろ?」

「……ですね。あのダメージはいくらケイブリスと言えども無視する事は出来ないでしょう」

 

 そしてホーネットもこの結果に大きな手応えを感じていた。

 全て計画通りの展開。ランスが土壇場で閃いたとっておきの秘策が見事にハマった結果。

 

 魔人ケイブリスの必殺技スクイレルザンが秘める厄介な特殊効果、ダウン状態。

 それを禁呪によって無効化して反撃する作戦。何事にも強気なランスはともかく、ホーネットとしては賭けのようなつもりだった。

 魔人ケイブリスが誇る必勝必殺の一撃を真っ向から受けるのが作戦だなんて……と、そう考えてしまっても仕方ない話だ。

 

 けれども目論見通り、今回はその衝撃波を浴びても前のように意識混濁にはならなかった。相手を強制的にダウン状態へと至らしめる特殊効果は状態回復の禁呪が防いでくれた。

 ランスが言っていたように、この日の為に父が禁呪の書を残してくれたのかは分からないけど……それでも今は父に感謝したい。あんな恥ずかしい真似をした甲斐はあったのだ。

 

 そうして繰り出したカウンターの一撃。

 これは事前の計画でケイブリスの片腕に集中させるようにと決めていた。

 ホーネットが放ったのは最強の必殺魔法、六色の輝きを破壊力に変えて放つ六色破壊光線。

 そしてランスが放ったのも最強の必殺技、魔人筆頭の必殺に勝るとも劣らない究極の一撃。

 

 2つの必殺は計画通り、勝利を確信して隙が生じたケイブリスにクリティカルヒットした。

 その威力は凄まじく、魔人の中でも最強の肉体を誇るケイブリスの左腕を見事に破壊したのだ。

 

 

「……ランス、大丈夫ですか?」

「あたりめーだ。この程度でへばるかっての」

「ですが……傷は浅くはありませんよ」

「……まぁな」

 

 とはいえ、作戦を成功させたランスとホーネットの方も決して無傷という訳ではない。

 スクイレルザンのもう一つの特色、対象の現生命力の半分を強制的に削り取るダメージ効果。それを食らったランスとホーネットの身体には無数の真新しい切り傷が見える。

 再戦に臨む前にヒーリングで回復したとはいえ、すでに生命力の半分のダメージを食らったとあっては結構な痛手とも言える。だが、

 

「この程度のダメージなんぞ織り込み済みだ。所詮は半分程度、死にはしねぇ」

 

 それでもこれは想定内のダメージ。二人にとってはあくまで想定内の痛手を負っただけ。

 想定しているからこそ堪えられるし、耐えられるからこそ反撃だって可能となる。

 

「それに見ろ。ダメージっつーなら俺達よりもヤツの方が大ダメージだろう」

「……えぇ」

 

 そして、二人の見つめる先。

 

 

「ぎゃあああああッ!! お、俺様の腕が、左腕がああァァァアア!!」

 

 何百年、いや何千年ぶりかになる激痛に呻く魔人ケイブリス。

 それは相手の反撃を、この結果をまるで想定していなかった者の姿。

 

「ぐぁあぁ゛あ゛アァ゛ァアアアッ!」

 

 惨たらしく破壊された左腕。灼けるような痛みを訴える左腕を押さえながら絶叫する。

 その脳内は極度の混乱状態にあった。この痛みが理解出来ない……何もかもが分からない。

 

 ──なんだ!? 一体何が起きたんだ!?

 なんでこんなことになってる!? どうして俺様の方がダメージを受けてるんだ!?

 だって俺様は勝ったはずだ! 絶対に勝てるはずのスクイレルザンを放ったはずなのにッ!!

 

 それなのに痛い! 痛ぇじゃねーか!! 

 痛くて左腕が動かない!! 俺様の左腕が動かないんだぞ!? 一体どうしてくれる!?

 なんなんだこのダメージは!? あいつらは俺に何をした!? どんな攻撃をしやがった!?

 

 つーか反撃を食らった!? 

 反撃!? なんで!? どうして!? 

 どうして、一体どうして俺様の必殺技がこいつらには効いてないんだ!?

 スクイレルザンは最強の技だぞ!? それなのにどうしてこいつらは戦闘不能に陥らない!? 

 

 どうして……どうして!?

 

 

「どうしてだァァアアア!!!」

「っ!」

 

 極度の混乱状態の中、ケイブリスは飛び上がるように跳ね起きた。

 そして勢いそのままに突撃する。恐慌状態のまま出鱈目に巨剣を振るう。

 

「くぅ……っ!」

 

 が、ただ勢い任せの闇雲な攻撃が通用するような相手ではない。

 大きく振り被った右の巨剣による一撃。破壊力だけはあるものの、しかし破壊力しかない斬撃はホーネットの全身全霊を込めた受けの前に防がれて。

 

「どりゃあッ!」

「ぐあッ!」

 

 重ねるように反撃の刃、ランスによる魔剣の斬撃がその右拳を抉る。

 痛みに顔を歪めて、こっちの邪魔者を蹴散らそうと──ここで次の攻撃が繰り出せない。

 

「グッ、くそがァ……!」

 

 左腕を使えなくなった事によって、双剣使いであるケイブリスの攻撃手段は大きく減少した。

 となれば数の有利が効いてくる。右の巨剣を片方が防げば、もう片方が攻め入る隙が生じる。

 先程の作戦、必殺技での渾身のカウンターをケイブリスの左腕一点に集中させたのは、ひとえにこの展開を作り出す為となる。

 

「この雑魚共がッ!! 死に損ないがァ!!」

「がははははっ! その死に損ないにまんまと左腕をぶっ壊されたのは何処の誰だっての!」

「黙れぇッ!!」

 

 激怒に吠え、逆上するケイブリスは右の巨剣を何度も振り回す。

 ……が、当たらない。右の大剣ウスパーだけでは思うように有効打が繰り出せない。

 むしろ力んだ分振りが雑になってしまい、その分相手に付け入る隙を与えてしまう。

 

「死ねぇい!」

「ふっ!」

 

 左からランスの斬撃が、右からはホーネットの斬撃が襲い掛かる。

 

「ガッッ! くそ……!」

 

 それを防ぐのか、あるいは躱すのか、もしくは攻撃する事によって迎え撃つのか。

 今は片腕しか使えない中、片手剣での戦い方に関して有効な判断を行う事が出来ない。

 ケイブリスはここまで双剣の扱いを鍛え上げてきたのだ。左腕を負傷したからとすぐに片手剣での戦法を構築し直せるものではない。特にそれが戦闘の最中、更には混乱した頭であっては尚更。

 

「勝機アリだ! 押すぞホーネット!」

「えぇ!」

 

 ここが攻め時と見たのか、ランスとホーネットが左右から一気呵成に畳み掛ける。

 

「こ、この……っ!」

 

 まずは身を守るべき──と、弱腰な判断を下したケイブリスは右の巨剣を防御に構える。

 がしかし相手の剣は二つで共に速い。自分の一撃と比べれば威力は遥かに劣るものの、その分一つ一つの振りが速くて捌きにくい。

 そしてランスの方は魔剣を持つが故、その切れ味だけは馬鹿にならないし、ホーネットが振るう剣は一見何の変哲も無いように見えるが……しかしこの魔人の真価は剣ではない。

 

「オラァ!!」

「んぐッ! ……──」

 

 弾ける金属の音色、ケイブリスの巨剣とホーネットの細身の剣が交錯する。

 剣の威力は当然ケイブリスの方が上だ。膂力で劣るホーネットはその一撃に押し込まれて苦しそうに表情を歪めるものの……しかしその口元は。

 

(……マズいっ!)

 

 分かる。あれは呪文の詠唱をしている。

 ホーネットは前衛の役目をこなしながらも、同時に後衛のように魔法を行使してくる。

 それも並の魔法では無く破壊光線を。それが魔人筆頭たる者の実力、剣と魔法の才に恵まれたからこそ可能となる脅威の戦闘技術。

 

(まま、マズい、マズいマズいマズい!!)

 

 そんな二人と戦いながら、ケイブリスの思考は混乱を超えてもはや狂乱状態にあった。

 

(ホーネットの魔法が来る! あれはマズい!!)

 

 きっと白色破壊光線だ。ヤバい。あれは痛い。ホーネットの呪文詠唱を止めなければ。

 駄目だ、止められない。嫌だ、あれは食らいたくない、あの破壊光線は痛いから嫌だ。

 マズい。押されている、左腕が痛む、劣勢だ、状況が良くない、左腕がめちゃくちゃ痛む。

 そもそもスクイレルザンが効かなかったのは何故なんだ? こいつらが急に強くなった? それとも俺様が急に弱くなった? スクイレルザンでも倒せない相手を一体どうやって倒せばいい!?

 

 などと……そんな思考が。

 混乱に拍車を掛ける、冷静にさせてくれない思考がケイブリスを追い立てていく。

 

(マズい……マズい……!!)

 

 片腕が使えなくなったとはいえ、まだケイブリスが負けたわけでは無い。

 むしろ戦闘能力の差で言うなら五分にさえ届いていない。片腕を封じられて尚ケイブリスには最強の魔人たる実力が、他を圧倒する程の力がある。

 

 しかし今、その強さを発揮するには混乱する思考が邪魔になっている。

 特にスクイレルザンが効かなかった事。最強の技だと信じていた必殺技が不発に終わった事が、その混乱に拍車を掛けていたのだが。

 

 

「──ッ、ぅおらあああッッ!!」

「ぬぉ……!」

 

 これ以上無い程に大きく振り被り、真横に大きく薙ぎ払った力任せの一撃。

 その迫力に押されてランスとホーネットは一歩下がり、戦闘に僅かの空白が生まれる。

 

「あぁクソ面倒くせぇ!! 雑魚共のくせに調子付きやがってよぉ!!」

 

 しかしそれでも。

 どれだけ思考が狂乱状態にあっても、それでもケイブリスは最強と称される程の魔人で。

 

(こいつらにスクイレルザンが効かなかった事はもう忘れろ! 今はそんな事どうでもいい!)

 

 とかくケイブリスは良くも悪くもだが、戦闘中にその思考がころころと切り替わる特徴がある。

 それは狂乱状態にあったとしても、いずれは別の思考に切り替えられるという事でもあって。

 

(今は、今はとにかくこの状況を……!)

 

 この不利な状況を打開する為にはどうすべきか。

 今一番重要なその事だけに思考を割いてすぐに分かった──やはり左腕を封じられたのが痛い。

 

(そりゃあ俺様なら、俺様だったら片腕だけでも戦えない事はねぇだろうが……!)

 

 戦えない事は、無い。

 無いのだが、しかし攻撃手段が減った以上、二体を同時に相手するのはどうしても分が悪い。

 となれば相手の頭数を減らすべきだ。今はなによりもそれが先決だろう。

 

(となりゃあ当然……!)

 

 ケイブリスの目に映った相手。

 魔剣を振り被って攻めてくる人間の男。

 魔人筆頭であるホーネットはそう簡単に落とせはしないだろうが……しかしこちらなら。

 

 魔人じゃないただの人間なら。

 魔剣を扱えるだけの雑魚プチプチであれば。

 

「ふんッ!」

 

 そこでケイブリスが繰り出したのは突き。ここまでの戦闘で見せていなかった突きの一撃。

 真っ直線を最速で突いてくる巨剣の切っ先を、しかしそれすらも読んでいたのか、

 

「おっと!」

 

 ランスは身体を斜めに反らして刃を避けた。

 本当にイラつく程の回避技術。これが際立っているのはもう認めるしかない……だが。

 

「これならどうだァッッ!!」

「なッ!」

 

 驚愕に目を見開くランス。

 その視界一杯を埋め尽くすのは6mもの巨体、魔人ケイブリスの全身。

 

 それはただの突進、あるいは体当たり。

 とはいえそれがケイブリスであれば、単なる体当たりでも相当な破壊力を有する攻撃となる。

 そしてそれは読めなかった……というべきか、至近距離から突進してきた6mの巨体はさすがに回避しようがなかったのか。

 

「ぐ、はッ──!」

 

 ランスはケイブリスの体当たりを食らった。

 巨大なハンマーで叩かれたような激痛が全身を鋭く貫いて、衝撃を受け止めきれずに数メートル後ろへと吹っ飛ばされる。

 

「ランス!」

「もらったぁ!!」

 

 地面を転がるその姿を好機と見て、間髪入れずにケイブリスの追撃が迫る。

 

「っ、ケイブリス! 止まりなさい!」

 

 勿論それを見ているホーネットではない。

 ランスへの追撃を妨害する為、呪文詠唱が完成した白色破壊光線を放った──だが。

 

「ぐッッ! ググゥゥゥ~~!!」

「な……っ!」

 

 背中に破壊光線が直撃して、しかしケイブリスはそれでも動きを止めなかった。

 それもこの魔人が持つ武器の一つ。強靭な肉体が誇る桁外れの耐久力を盾にして、ホーネットの魔法を喰らいながらもランスに迫る。

 

「……くっ」

 

 割れた床石の上に倒れ込んだまま、まだランスは立ち上がれない。

 食らったのはたかが体当たり一発。しかし先程のスクイレルザンのダメージと合わせてもう生命力は危険水域を超えている。

 立ち上がろうにも痛みを訴える身体が言うことを聞かず、一瞬でも気を抜けばそのまま意識を手放してしまいそうになる。

 

「く、くそ……!」

 

 ケイブリスとは、最強の魔人とはそういう相手。

 ランスがどれ程に強かろうが、本来であればただの人間が戦えるような相手では無い。

 

「死ねやぁ!!」

 

 そして。

 高々と大剣ウスパーが振り上げられて、

 

「やば──!」

 

 振り下ろされた瞬間、ランスは死ぬ。

 そこに偶然やまぐれなどは無い。

 ケイブリスの剣をまともに食らって生きていられる人間などこの世には存在しない。

 

 それがただの人間でしかないランスの避けられない結末となったのだが──しかし。

 

 

「ごっ、はッ!?」

 

 爆発した。

 ケイブリスの身体で何かが爆ぜた。

 

「な、なんだ──グガッ!」

 

 次いで稲妻が、そして凍てつく力に襲われた。

 それはホーネットが居る場所ではなく、全く予想し得ない方向からの攻撃。

 故にケイブリスは一切警戒しておらず、まともに受けたその衝撃に体勢を崩してしまった。

 

「……へ」

 

 そしてランスはすぐに分かった。

 その攻撃の意味を。結果的に自分を助けてくれた魔法攻撃の意味とはあれしかない。

 

 何故ならランスは。

 この男はただの人間ではなくて。

 勿論ただの雑魚プチプチなんかではなくて。

 

 誰がどう言おうともやっぱりランスは英雄で……英雄の下には必ず仲間の力がある。

 

 

「──ランス様ぁっ!」

「……おぉ!」

  

 聞こえてきたのはあの声。

 この世界で一番聞き馴染みのある彼女の声。

 

 

「──シィル! やっと来やがったか!!」

 

 その声を耳にして活力が漲ったのか、ランスはガバっと身体を起こして即座に立ち上がった。

 と同時にあたたかな感触が。ランスの身体を覆うかのように光の雨が降り注ぐ。

 遠隔まで届く回復魔法、シィルによる回復の雨がランスの身体を癒やしていく。

 

「ランス! 大丈夫!?」

「ランスよ! 遅れてすまない!」

 

「マジック、ガンジーも! 最終決戦に遅刻するなど言語道断だがまぁ許してやろう!」

 

 崩れ落ちた城壁から見える向こう側。

 カミーラ城のすぐそばにある小高い丘。恐瘴気の影響を考慮して接近できる限界の位置。

 そこには待ち望んでいた姿が。援軍として遂にカミーラ城に到着した奇襲部隊の面々がいた。

 

「アァ!? 人間共の増援だとぉ!?」

「あぁそうだ! 俺様の家来共が、切り札がようやくやって来たって訳だ!! ケイブリス、てめぇがいい気になれんのもここで終わりだッ!」

「ふざけんなカスがぁ! たかが雑魚プチプチ共が増えたぐれーで何を──」

 

 そう発した言葉をかき消すかのように。

 大量の雑魚プチプチ共の力が、大勢の力というものがケイブリスに襲い掛かる。

 

 

「光軍の皆、行くぞ!」

 

 ゼス国光軍の長、アレックス・ヴァルスの号令。

 そして光爆が爆ぜる。無数のエンジェルカッターが宙を舞う。

 

「雷軍も行く。全員遅れるでないぞ」

 

 ゼス国雷軍の長、カバッハーン・ザ・ライトニングの号令。

 そして雷撃が弾ける。ライトニングレーザーの束が撃ち出される。

 

「氷軍……攻撃開始」

 

 ゼス国氷軍の長、ウスピラ・真冬の号令。

 そして白冷激が唸る。氷雪吹雪の乱舞が襲う。

 

「ぐうっ! こ、この、雑魚共が……!」

 

 様々な魔法攻撃が、色とりどりの魔力がケイブリスに牙を向く。

 その一発一発は微弱な力、しかしてそれが千以上もの塊となれば、最強の魔人たるケイブリスにダメージを与える程の攻撃に変容する。

 

「白色破壊光線!! はぁ──!!

 

 そして中にはただ一人だけで桁違いの火力を発揮する人間だっている。

 ゼス国王女、マジックの放った白色破壊光線などはまさにそういう類のもので。

 

「……破邪ッ、覇王光ーーー!!!」

 

 更にはそれを上回る一撃さえも。

 ゼス国王が放つ必殺魔法、破邪覇王光の直撃がケイブリスの身体を大きく揺るがす。

 

「がッ、ググゥ~~ッッ!! ああくそッ! 雑魚共の分際で邪魔くせぇッ!!」

 

 相手はあくまで人間。レッドアイやホーネットの魔力と比べたら一段二段は劣る。

 しかし数が数だけに鬱陶しい。確かな痛みと苛立ちにケイブリスが荒々しく吠える。

 

(援軍か、やっぱりいたのかよ……ッ!)

 

 援軍。この場における他の戦力の可能性を考えていない訳では無かった。

 ホーネット派の主がここに居るのに、他の戦力がランス一人だけというのは不自然だからだ。

 ケイブリスなら絶対にそんな計画は立てないし実行しない。故にこれが計画された作戦ならば、他に戦力があってもおかしくないと思っていた。

 

 しかしその予想は外れた……と考えていた。

 何故なら先の戦いで勝利したから。一戦目の戦いでホーネットを追い詰めたあの時に援軍が来なかった以上、それは無いものだと考えていたのだが……まさかこのタイミングで来るとは。

 

(……だが、こいつらは所詮人間共だ! ちょっと数が多いだけで雑魚には変わりねぇ!!)

 

 とはいえその援軍は人間。魔人はおろか魔物ですらない、ただの人間。

 軽く見て千人を超える規模がいるようだが、しかしその全てが脆弱なプチプチ共でしかない。

 だったら恐れる程のものでは無い。これが切り札のつもりだとしたらあまりにお粗末な話だ。 

 

(特にこいつらは見たところ魔法使いだけだ。だったら距離を詰めちまえばそれで終わりだ!)

 

 そしてこの援軍はその全員が後衛職。

 前に出てくる戦力は一つもなく、全員が離れた場所から魔法をチクチクと撃ってくるだけ。

 勿論戦法としてはそれで正しい。けれども後衛とは前衛があってこそであり、前衛を崩してしまえば後衛など脆いもの。そして前衛は依然としてランスとホーネットの二人だけだ。

 

(雑魚が増えたからって状況は変わってねぇ。とにかくこいつを、ランスとかいう人間を潰しちまえばそれで──!)

 

 それで、勝てる。

 前衛の一人であるランスさえ潰せば、それだけで戦局は一気にこちら側へと傾く。

 

(そうだ! こいつさえ潰せばいい!)

 

 その目論見は、この決戦の場においては紛れもない真実だった。

 ケイブリスが意図した理由とは異なるが、ランスさえ倒せばという考え方はその通りだった。

 

 ──しかし。

 

 

「ランスー、私もきたよー」

 

 その時聞こえた可憐な声が。

 それがケイブリスの目論見を崩壊させる。

 

「おぉシャリエラ! ようやく来たか! お前の事を待ってたんだ!!」

 

 シャングリラの地で出会った踊り子、シャリエラ・アリエス。

 それこそがランスの用意していた切り札。味方を援護する何よりも大事な存在。

 

「早速だがお前のダンスを見せてみろ! ゴーだシャリエラ!」

「分かりましたご主人様。シャリエラ早速ごーします。……る~るる~~♪」

 

 そうしてシャリエラがダンスを踊り始める。

 くるくる回ってゆらゆらと。派手さこそ無いものの不思議と惹きつけられる踊りで。

 

「る~らら~~♪」

 

 そしてそれはただの踊りではない。

 踊りLV2によるダンス。それは味方の気力を回復させる奇跡の踊り。

 

「……おぉ! きたきたー!!」

 

 それはランスの下に。

 

「これは……」

 

 そしてホーネットの下にも。

 前衛で戦う二人に向けて、奇跡の踊りの効果が届けられる。

 

「よっしゃあ! これならいけるぜ!!」

 

 あの時と同じ、全身に気力が漲る感覚。

 尽きても尽きぬ程に無限の気力が湧き上がってくる万能感。

 そのエネルギーを余すことなく両手に、ランスは勢いよく魔剣を振り被る。

 

「食らえ!!」

「ハッ! それがどーしたァ!!」

 

 合わせてケイブリスも巨剣を振るった。

 そうして一撃。ランスアタックの衝撃波の刃が大剣ウスパーと衝突して。

 

「でりゃッ!」

「な、にッ──!?」

 

 そして、二撃目。

 必殺技を連発して二度、ケイブリスの巨剣と打ち合ってみせたランスは言い放った。

 

「覚悟しろよぉケイブリス!! こっからが本当の決戦だッ!!」

 

 

 

 

 

 

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