ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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我が栄光

 

 

 

 

 決死の刃が迸る。

 

「オラァァアア!!!」

「だりゃあッ!!」

 

 それはもう幾度目か。

 分厚い巨剣と衝撃波の刃が交錯する。

 

「オラオラオラァァア!!!」

 

 その剣はこれまでのような怯えはもう無い。

 遠い昔の決意、自身の原型を思い出したケイブリスは強かった。

 慎重になったり傲慢になったりと思考が切り替わる悪癖も消えて、ただ目の前の相手を倒す事だけに集中したケイブリスは、まさしく最強の魔人という名に相応しい存在だった。

 

「ナメんなッ!!」

 

 ただそれでも、相対する男も同様に強かった。

 ランスは人間なのに、それでも人間は時として計り知れないような強さを見せる。

 英雄たる自負が、主人公たる自覚が、決戦の場で最前線に立つその身を後押しする。

 

 ランスとケイブリス。

 互いに互いにを宿敵だと認め合って。

 互いの意志を乗せた刃は繰り返し繰り返しぶつかり合って、そして──

 

 

「…………ッッ!!」

「ぐあっ!!」

 

 超高速の弾丸が走る。

 魔人メガラスの加速した拳がケイブリスの右頬を叩いて、その顔が斜め上に弾かれる。

 それはもう目視すら出来ない攻撃。その速さどうこうではなく、ここまでの戦闘によってケイブリスの右目は潰されているから。

 

 

「っ、これで──!!」

「……ぐ、があ、ああ、あ……!!」

 

 必殺の魔力が唸る。

 魔人ホーネットの必殺魔法、6つの極限の輝きが力となってケイブリスの巨体を貫く。

 もう何度も浴びたその魔力の前に、遂には身体を動かす事が出来なくなって。

 

 

「──ランス、アタタターーーークッ!!!」

「ガッ、は──」

 

 聞こえたのは乾いた音。

 ランス必殺の一撃が炸裂した。

 それはすでに砕けていた鎧を通過して、最強の魔人の胴体を深々と抉っていた。

 

 

「……ぐ」

 

 傷は深い。

 いや、それどころか……これは。

 

「ランス、俺様の懐に飛び込んでくるとは……いい度胸してんじゃねーかよ」

 

 自らの命運が尽きた事を悟って。

 それでもケイブリスは拳を振り上げ、すぐそこにいるランスに反撃をしようとして。

 

 

「……あー、くっそ……」

 

 けれど、力が抜ける。

 手の中から大剣ウスパーが零れ落ちる。

 膝が、折れる。

 そして……身体が崩れ落ちた。

 

 

「チッ、情けねぇぜ……、この俺様が……こんな奴らに、よ……」

 

 その声には力が無い。

 間もなく命の火が燃え尽きようとしている、そうと察せられる程に生気のない声で。

  

「はっ……ぜぇ……ぜぇ……」

 

 一方でランスの呼吸も荒く、回復に回復を重ねたその身体はとっくに傷だらけの状態。

 

「……はぁ、はっ……」

「………………」

 

 それはホーネットとメガラスも同様。

 決戦の名に違わぬ激闘だった。もはやホーネットの魔力すらも尽きかける程の激闘だった。

 誰も彼もが満身創痍の中、致命傷を負ったケイブリスだけが満足げに佇んでいた。

 

 

「終わりだな、ケイブリス」

「……みてーだな」

「そういやさっき言ってたな。ククルククルとかいう魔王よりも諦めが悪いっつーなら、命乞いの一つでもしてみたらどうだ」

「……泣いて謝ったら、ってか? ハッ、そんなんでテメェが情けをかけるようなタマかよ」

「ほう、よく分かってんじゃねーか」

「たりめーだろ、そんな事……」

 

 これ程までに戦えば、分かる。

 全身全霊を懸けて刃を交えれば、それがどういう相手なのかは理解できる。

 決戦の中で一人の人間を自らの宿敵と認めたケイブリスは「けれど……」と呟いて。

 

 

「……あぁ、……本気で戦うっつーのは……こんな感じなのか……」

 

 生まれて初めて、全力で戦った。

 泣いて命乞いをする体力すらも残っていない程、この戦いに全てを出し切った。

 

 全てを出し切って本気で戦って、そうして──

 

 

「……なぁ、ランス。一つ教えてくれよ」

「なんだ」

「テメェが主人公ならよぉ……俺みてぇなリスは所詮雑魚キャラがお似合いってか……?」

「知るか。んなこた自分で考えろ」

「……けっ、冷てぇヤツ……」

 

 ランスの答えとしてはそんなもの。 

 自分を斬り裂いた男のつれない言葉に、しかしケイブリスは何処か嬉しそうに口元を綻ばせる。

 

 

「……けど、そっか。なら、俺は……」

 

 あれだけ恐怖したものが今、目の前にある。

 それなのに……それにしては、不思議と穏やかな心地になれたのは。

 

 

「へっ……ま、いいや……」

 

 そして、ケイブリスの身体が薄れていく。

 風に混じるかのように薄れていって……後に残ったのは真っ赤な玉が一つ。

 

 

 こうして、魔人ケイブリスは討伐された。

 遥か遠い六千年の昔、最強を夢見たリスの魔人は魔血魂の姿へと戻った。

 

 

 

「……終わりましたね」

「……そーだな」

 

 地面を転がる小さな魔血魂。

 ケイブリス派の主だったその小さな玉を、ホーネット派の主は感慨深げに見つめる。

 

「……ランス」

「なんだ?」

「貴方はあの時……何故あのような言葉を口にしたのですか?」

「あん?」

「ククルククルの事です。あれは──」

 

 魔人ケイブリスの原型。それをどうしてランスが知っていたのか。

 そしてあの場でそれを口にした意味も。あれを切っ掛けにケイブリスは気迫を取り戻した。まるで敵に塩を送るかのような、ランスらしくない行為をホーネットは不思議に感じていたのだが。

 

「……いえ。なんでもありません」

 

 すぐに小さく首を振って、その気持ちを胸の奥へとしまい込んだ。

 あえて尋ねるのは野暮だと思ったし、尋ねたところでランスは答えないなと感じたからだ。

 

「しっかし……ああ、疲れた……」

「……あ、ランス……」

 

 疲労困憊で精も根も尽き果てた。

 身体中が痛い。もう痛くない箇所が無い。

 立っているのもしんどいランスはホーネットに抱きつくようにもたれ掛かって、言う。

 

「ホーネット、膝まくらプリーズ」

「っ、膝まくら……ここで、ですか……?」

「おう。疲れた時は膝まくらだって前に教えたろ」

「……正直、私もこれ以上無い程に疲れ果てているのですが……仕方ありませんね……」

 

 やれやれとホーネットはしゃがみ込んで、自分の膝の上にランスの頭を乗せる。

 

「うむ、よろしい」

 

 いつかの時と同じように、魔人筆頭の膝を枕にしたランスは満足そうに頷いた。

 

「……少々、気恥ずかしいですね」

「んな膝まくら程度、今更何を照れるってんだ」

「膝まくらがというより……その、メガラスの視線が気になるのです」

「あん? おぉなんだメガラス、何見てやがる」

「………………」

 

 そんな光景を空から見下ろす目。

 派閥の主が甲斐甲斐しくランスに膝まくらしている様子を、魔人メガラスはなんとも言葉にしようがない思いで眺めていて。

 

「……あー、まーじで疲れた……」

「……ですね。本当に激戦でした……」

「……あぁ、そうだな。ケイブリスは強かった」

「うおっ、喋りやがった」

 

 ともあれそんなメガラスと。

 そして勿論ランスとホーネットと。

 

「ランス様ー!」

「ランスー!」

 

「おぉ、あいつら……」

 

 そして遠くから聞こえてくる声。

 戦いの終結を見届けて後衛で戦っていた者達も駆け付けてくる。

 シィルやマジック、ガンジーにウルザにシャリエラ、そしてゼス三軍を率いる将軍達に兵士達。

 

 この場に集う全員の奮闘によって、長かった派閥戦争にようやく終止符が打たれたのだった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 こうして、魔人ケイブリスは討伐された。

 前回の時と同じように、最強最古たる魔人は人間のランスの手によって倒された。

 

 そして派閥の主の死亡に伴って、ケイブリス派は事実上壊滅。

 LP0年より始まった派閥戦争、魔物界を二分する争いはホーネット派が勝者となった。

 

 

 そして。

 カスケード・バウの戦いから、あるいはカミーラ城での決戦から数日後。

 それぞれの戦いが終わって、ホーネット派に属する者達は本拠地である魔王城に戻ってきた。

 

 そして──

 

 

 

 

「……派閥戦争は終わりました」

 

 そう口を開いたのは、緑色の長い髪を煌めかせる美しき魔人。

 このホーネット派という派閥を率いてきた頭首──魔人ホーネット。

 

「戦いは私達ホーネット派の勝利です。……これを言える日が来た事を本当に嬉しく思います」

「ホーネット様……」

 

 その言葉を受け取るのは三名の魔人。

 ホーネットと共に苦楽を乗り越えてきた仲間──魔人サテラ、魔人ハウゼル、魔人シルキィ。

 

「皆、ここまで本当に良く戦ってくれましたね」

「それはホーネット様が居たからこそです。ホーネット様が居てくれたからサテラ達だってここまで戦ってこられたのです」

「サテラ、それは私の言葉です。貴女達が居てくれたから私は……」

 

 それは派閥の主として。

 あるいはそんな彼女を支え続けた幹部として。

 

「派閥の主として至らぬ私に付いて来てくれた事、貴女達には本当に感謝の念に堪えません」

「そんなっ、ホーネット様……、ホーネット様に至らぬ事なんてありませんでした、私達はそのように感じた事なんて一度もありません」

「ハウゼルの言う通りですよ。ホーネット様はこの派閥の誰よりも果敢に戦って、立派に私達を率いてくれていました。もっと胸を張って下さい」

「シルキィ……、ハウゼルも、サテラも、本当に……本当に有難うございます」

 

 今日まで言えなかった言葉。聞けなかった思い。

 それをこうして伝え合える事に、この場に集う四名の魔人達は皆一様に喜びを感じていて。

 

「戦いが終わって、これから始まるのは多くの戦後処理となります。ケイブリス派が壊滅したとはいえ生き残った者は多いですからね」

「はい。ケイブリス派に残る者達もケイブリスが討伐された以上はホーネット派の方針に従うとの事です。ストロガノフを筆頭に全ての魔物兵達が投降してきていますから、彼らの処遇も考えなければなりませんね」

「えぇ。魔物達は兵として戦っただけですから過度な罰を与える必要は無いでしょう。なによりも大事なのは魔物界を元の秩序ある姿に……派閥戦争が起こる前の姿に戻す事です」

 

 そして話題が今後の話へと。

 ホーネット派としての先の展望に進んだのを切っ掛けとして。

 

 

「そうですね……ところで、ホーネット様」

 

 シルキィは他二名を代表して声を上げた。

 恐らくサテラとハウゼルも内心大いに気になっているであろうこの疑問を。

 

「シルキィ、何でしょうか」

「戦後処理の事は宜しいのですが……あの、どうしてその話を……この部屋で?」

 

 ──もっと別の場所でする方が良いのでは? 

 と、不思議に思ってしまうのも仕方ない事。

 

 何故ならこうしてシルキィ達が集められたこの場所は……ここはホーネットの部屋だ。

 いやそれなら特に問題は無いのだが、しかしここは私室の中でも一番プライベートな場所で。

 

「……そうですね。このような場所に貴方達を集めるのは初めてですからね」

「はい。……その、私達がこの部屋に入るのは率直に言って落ち着かないといいますか……」

 

 畏まりながらもシルキィは視線を左右に振る。

 その目に映るのは……それは。綺麗に掃除されている落ち着いた雰囲気の部屋。

 クローゼットだったり天蓋付きの大きなベッドだったり、そういう家具が置かれている部屋。

 

 ……つまり、ホーネットが使う寝室である。

 

 

「……ふぅ」

 

 自らの寝床に三名の魔人を集めたホーネットは、まずそれぞれの名前を──

 

「……サテラ」

「はいっ!」

 

「……ハウゼル」

「はっ!」

 

「……シルキィ」

「はい」

 

 ──この先大変な事に巻き込んでしまう、哀れな道連れ達の名前を呼んで。

 

「……何故、この部屋に貴女達を集めたのか」

「………………」

「それは……」

 

 それは……果たしてなんと答えたものか。

 遠回しにそれとなく伝えてみるか、それとも直球勝負で行くべきか。

 話を切り出せないホーネットが躊躇していると、そのタイミングでバタンとドアが開かれて。

 

 

「それは、こういう事だーーー!!!」

 

 

 寝室内にランスが突入してきた。

 その顔はもう待ちきれないといった感じの実にイイ顔をしていた。

 

「ら、ランス!? 何しに来たんだ!?」

「何しに来たか。それはこの俺様こそが今回の主役だからだよ、サテラ君」

「主役?」

「うむ。……ほれ、ホーネット」

 

 ──とっとと言え。

 とランスから暗に促されて、嫌々ながらも覚悟を決めたホーネットは「……えぇ」と頷く。

 

「……サテラ、ハウゼル、シルキィ」

「………………」

「これは、派閥の主としての最後の命令……」

 

 そう言い掛けた後、首を大きく左右に振る。

 

「……いえ。命令ではなく……お願い、ですね」

「お願い、ですか?」

「そうです。これは派閥の主としてではなく、私一個人としての心からのお願いとなります」

「おいホーネット、ここは命令って事にしといた方が色々と楽チンなんじゃねーか?」

「……ランス。このような事を命令出来る訳が無いでしょう。全く……」

 

 このような事。それは……それは。

 それをよもやこの自分が、よりにもよってサテラやハウゼルやシルキィに対して。

 

 本音を言うならしたくない、言いたくない。

 けれど約束してしまった以上……するしかない。

 

「……皆、お願いします」

「な、ホーネット様!?」

 

 驚きに声を上げるサテラ達の目の前。

 ホーネットは深々と腰を折って頭を下げた。

 派閥の主では無くとも、魔人筆頭ではあるはずの彼女が精一杯の誠意を見せて、言った。

 

 

「……一晩だけで構いません。今日一晩だけ私と一緒に……その身をランスに委ねて下さい」

 

 そして──言った。

 あの約束を、ランスへのご褒美を。

 

 

「ほ、ホーネット様っ! とにかくお顔を上げて下さい!」

「と、というかホーネット様、そのお願いって一体どういう意味で──」

「うむ、詳しくは俺が説明してやろう。今から全員でセックスするのだ。以上」

「なんだぁそれはっ! ランス、全然説明になってないぞ!」

「だからな、今からここで──」

「ランス。私が説明しますから……」

 

 三人を説得するのは自分の使命……というか、巻き込んでしまった者の責務だ。

 ホーネットはふぅ、と息を吐いて、それぞれ混乱している様子の三名の魔人達と向かい合う。

 

「とはいえ話は先程も言った通り、皆にはこの場でランスに身体を委ねて欲しいのです」

「ほ、ホーネット様、それは……それは、つまり、ランスとセックスをしろ……と?」

「……その通りです、サテラ」

「っ、それではホーネット様、こ、ここで、私達全員で、ランスさんに……抱かれろ、と!?」

「……その通りです、ハウゼル」

「な……何故?」

「……シルキィ、それは……」

「それはそういう約束をしたからだ。これは俺様へのご褒美なのだよ、うむうむ」

 

 こくこくとしたり顔で頷くランス。

 そう、これは約束していたご褒美。勝者たる者が手に入れるべき栄光。

 ホーネット派魔人4人とのハーレムセックス。それはランスがこの城にやってきた最大の目標。

 

「や、約束だと!? サテラはそんな約束した覚えなんてないぞっ!」

「お前はしてなくともホーネットがした。俺様がケイブリスをぶっ殺したらここに居る全員でのハーレムセックスをさせてくれる、ってな」

「なっ……ホーネット様、それは本当ですか!?」

「……えぇ、本当です」

「そ、そんな……!」

 

 まさか派閥の主直々にそんな約束を。

 信じられない、信じたくないその言葉にサテラ達は愕然とした表情になる。

 

「……貴女達の身を売るような約束をしてしまった事は本当に申し訳なく思っています。謝ったところで許されるような話ではないとも重々承知しているのですが、ただ……」

「俺様はケイブリスをぶっ殺したのだッ!! ならハーレムセックスぐらい良いだろう!! いやむしろそれぐらいのご褒美は当然あるべきだ!!」

「……と、言う事です。ランスからそう言われて私は……反論する事が出来ませんでした」

 

 熱弁を振るうランスの一方、ホーネットは覇気無く肩を落とす。

 

 それは最終決戦の直前、ランスから勢いのままに押し切られてしまった約束。

 そして更に言えば決戦の後も。カミーラ城からの帰路の最中ずっとランスは「帰ったらすぐハーレムセックスだからな!」と何度も何度も念押ししていて、言い返す事も出来ないホーネットとしてはもううんざりな気分になる程だった。

 

「でもハーレムセックスなんて……って、ていうかそれじゃあ、ホーネット様までもがランスに抱かれるという事になってしまうのでは……!」

「うむ、そうなるな」

「そうなるな、じゃない! そんなの、そんなの許される訳がない!」

「許されないもなにも、俺様はもうとっくにホーネットの事は何度も抱いているのだが」

「な、なぁっ!? ほ、本当なのですか!? ホーネット様!?」

「…………そうですね」

「そ、そんな……ホーネット様までもが……!」

 

 小さく頷くホーネット。

 まさかの事実にビックリ仰天なサテラ。

 

「んな今更の話はどうでもいい。とにかくそういう訳でハーレムセックスをするぞ」

「って言われてもねぇ……どうする?」

「そ、そんな、ハーレムセックスだなんて……そんな事をいきなり言われましても……」

 

 戸惑いながらも周りに目を配るシルキィ。 

 そして顔を真っ赤にして恥じらうハウゼルと。

 突然の話だった事もあって、その場は混迷の様相を呈していたのだが。

 

「サ、サテラはしないぞ! ハーレムなんて、そんなの絶対にしないからな!」

「ほう。絶対にか」

「そうだ! そんなのしないっ! シルキィだってハウゼルだってそうだろう!?」

「……うーん、そうねぇ……」

「そ、そうですね……。さすがに全員でというのはとても抵抗が……」

 

 そこはやはり魔人といえど、色事については経験の乏しい花も恥じらう乙女達。

 程度の差こそあれ、巻き込まれた三名の気持ちはどうやら否定的な様子。

 

「ふむ、そうか……」

 

 その事を知ったランスは、しかし動じずに一度言葉を区切って。

 

 

「なら君たち、一つ聞くがな……お前達はこの俺様抜きでケイブリス派に勝てたのか?」

「っ……!」

 

 そう言ってやった途端、それぞれを魔人は言葉に詰まったようにぐっと息を飲み込んだ。

 

 

「なぁサテラ。ガルティアをホーネット派に引き抜いてやったのは誰だったっけ?」

「そ、それは……」

 

 それは勿論ランスの活躍。

 ランスが魔王城にやってきて、すぐに魔人ガルティアをケイブリス派から引き抜いた事。

 歴戦のムシ使いが加わった影響は大きく、派閥戦争の趨勢をひっくり返す切っ掛けとなった。

 

 

「ハウゼルちゃん。前にホーネットが捕まった時、助けてやったのは誰だったっけ?」

「それは……ランスさんですね」

 

 それだってランスの活躍。

 ペンゲラツリーにて敗北した魔人ホーネット。それを救出したのは最大の功績と言ってもいい。

 ランス考案の人質交換作戦がなければ、あの時すでにホーネット派は敗北していたのだから。

 

 

「シルキィちゃん。メディウサの居場所が分かったのは誰のおかげだ? ワーグはどうだっけ? レッドアイをぶっ殺したのは誰だったっけ?」

「それはランスさんのおかげね。……言われなくても分かってるって」

 

 それらは言うまでもなくランスの活躍。

 前回の第二次魔人戦争と同じように、今回もランスは多くの魔人と対峙してきた。

 そして次々と勝利を挙げて、ケイブリス派からは次々と戦力が欠け落ちていく事となった。 

 

 

「そんで……なぁ、ホーネット」

「……はい」

「お前は俺様抜きであの戦いに……ケイブリスとの決戦に勝てたと思うか?」

 

 ランスがそう尋ねると、ホーネットは「いえ……」と首を振って。

 

「……思いません。ケイブリスとの戦いで貴方は大いに活躍してくれました。貴方が居なければ……私一人では、とてもケイブリスに勝つ事は出来なかったでしょう」

 

 そして、ケイブリスとの決戦も。

 一度目は敗北した。スクイレルザンを食らって戦闘不能状態に追い込まれてしまった。

 

 そこから助けてくれたのはランスだった。

 そしてランスがスクイレルザン対策となるとっておきの秘策を閃いてくれたからこそ、最強の魔人ケイブリスを討伐する事が出来た。

 

 以上の事を総括して。

 さて、今回のホーネット派の勝利は一体誰のおかげだろうか。

 

 

「そう! 俺様のおかげだ! 俺様の力なしではお前らはケイブリス派に勝てなかった!」

 

 今回の戦いのMVPは俺様に決まってるっ! 

 と、ランスは大きく胸を張る。それはもうえっへんと胸を張る。

 

 となればご褒美があって然るべき。

 だってこれは派閥戦争だ。人間の自分達ではなくホーネット達にとっての戦争だ。

 自分はそこに協力してあげた訳なのだから、その分の報酬を受け取るのは正当な権利である。

 

「俺様の協力がなけりゃお前達ホーネット派なんてとっくの昔に負けていたのだ。んでケイブリスにとっ捕まって、今頃はあいつのちんこでヒーヒー言わされとったんだぞ」

「うわぁ……想像したくもない事を言うわね……」

「それに比べりゃあ俺様とのハーレムセックスぐれーどうって事はねぇだろう。いやむしろ俺様に対してちょっとでも感謝の念があるってんなら、自ら進んでそうすべきだと思うがなぁ?」

「うっ……」

 

 その言葉には説得力があったのか、三人の魔人達は思わず唸ってしまう。

 

 贔屓目無しに見てもランスの活躍は多大だ。貢献度で言えば魔人である自分達よりも上だろう。

 そんなランスに対して感謝の念を抱かないというのは……それはあまりにも恩知らずな話だ。

 そして感謝の念を抱いているなら、それなら……ランスの望みの一つぐらいは、叶えてあげるべき……なのかも、しれない。

 

「……で、でも、全員でなんてそんな……は、ハーレムなんて、サテラは……っ!」

「そうですね……せめて別々にするのであれば、その……構わないのですが……」

 

 しかし、それでもハーレムセックスは。

 特にこのメンツでとなると……あのホーネットと一緒にくんずほぐれつだなんて。

 そこがどうしてもネックとなって、未だ渋っていた三名の魔人達の中で。

 

 

「んー……しょうがないなぁ」

 

 まず最初に歩み寄ったのはこの魔人。

 そう言ってシルキィは困ったように微笑んだ。

 

「まさか、シルキィ……」

「……うん。ランスさんが私達の為にいっぱい頑張ってくれたのは本当だもんね。それのご褒美が欲しいっていうなら……うん、いいよ。私で良ければ付き合ってあげる」

「ほうほう、イイ子だシルキィちゃん。まぁ君ならそう言ってくれると思ってたがな」

 

 こうしてシルキィは折れた。

 というよりも……彼女は場の空気を読む事が出来る性格をしており、ここで何を言ってもランスは引かないだろうと察していた。

 ケイブリス討伐のご褒美と言われたら言い返す言葉もない。だったら自分が真っ先に名乗りを上げる事で、残りの二人が後に続きやすい空気を作ってあげるべきだろう。

 つまりこれはサテラとハウゼルの為、そしてハーレムプレイの約束をしてしまったホーネットの為、そしてランスの為だった。

 

 

「よし。シルキィちゃんは落ちた、と。だったら次は……ハウゼルちゃん」

「っ……!」

 

 ランスがギリッと視線を向けると、ハウゼルはピクッと肩を揺らす。

 

「ハウゼルちゃん。君にはお願いなんてまどろっこしい真似はせんぞ。抱かせろ」

「え、えっと、でも──」

「でもじゃない。セックスさせろ。いいな?」

「う、うぅぅ……、わ、かり、ました……あの……はい……ご褒美、ですしね……」

 

 するとハウゼルはポキリと折れた。

 この魔人は押しに弱い。下手にお願いするよりも一気に押してしまった方が有効なのだと、すでにランスもハウゼルの性格を熟知していた。

 

 

「よし、ハウゼルちゃんも落ちた。となれば最後は……」

「さ、サテラはしないぞっ!」

「……サテラ。お前はどうしても駄目か?」

「そうだっ! そんな、そんなハーレムなんて、なんでサテラがそんな事……!」

 

 そして残った一人、サテラ。

 この魔人の落とし方と言えば……。

 

「……ならサテラ、お前はいいや」

「えっ」

「うむ。せっかく俺様が死ぬ思いをしてケイブリスを倒してやったのに、誠意の一つも見せられんようなケチくさい奴はいらん」

「ぐぅっ!」

「俺はホーネットとシルキィちゃんとハウゼルちゃんと一緒に楽しくセックスするからな。どケチなサテラちゃんは粘土遊びでもしてりゃいいさ」

「ぐ、ぐ、ぐぐぐぅ~~!」

 

 この魔人は性格が尊大で、かつ子供である。

 なのでそのプライドを刺激してやったり、一人だけ仲間外れにしてやったりするのが良く効く。

 

「ほれサテラ、お前は帰れ帰れ。しっし」

「……う、うぅ」

「さーてと、それじゃあいらないサテラを除いた君たちとはめくるめく快楽の世界へ──」

「──うううっ~~! 分かったぁっ! すればいいんだろう、すればぁ!!」

「その通り。すればいいのだ」

「ぐぅぅ~~!! ランス!! 本当に今回限りだからなぁ!!」

 

 こうしてサテラも折れた。

 もはやこの魔人の扱いは、いいやどの魔人の扱いだってランスにはお手の物。

 そうなるぐらいに長い時間、ランスはこの魔王城で暮らしてきた。

 ホーネット派に協力して、派閥戦争を勝ち抜いて、その中で彼女達と触れ合ってきたのだ。

 

「よーーっし!! これで全員完了、ハーレムセックスの準備おっけー!! では君たち、服を脱いでベッドに上がりたまえ」

「こ、ここで、脱ぐんですか……?」

「当たり前だろう。大体なハウゼルちゃん、これからみんなでセックスするっつってんだから裸になるぐれーで恥ずかしがってる場合か」

「そ、れは……そう、ですね……」

「く、う、う゛ぅぅう゛~~! さ、サテラはこのくらい、このくらい……っ!」

 

 ハウゼルとサテラはもう真っ赤になりながら、それでも一枚一枚と衣服を脱いでいく。

 

「……ところでホーネット様。お怪我の方は大丈夫なのですか?」

「えぇ、まぁ……。それに怪我というならシルキィの方も結構な怪我を負ったと聞きましたが」

「私は耐久力だけが取り柄のようなものですから。……とはいえ、今は出来る事なら安静にしていたいんですけどね」

「……えぇ、そうですね」

 

 一方で露出に抵抗の少ないシルキィとホーネットはすんなりと脱衣を済ませて。

 

「……ランス。準備出来ましたよ」

「おぉぉ……! これは壮観だ……!」

 

 全員が服を脱ぎ終えて、その場には見目麗しい四名の魔人達の一糸纏わぬ裸体が。

 その絶景にランスは口元をニヤつかせ、嬉しそうに目を輝かせる。

 

「では君たち、ここはムード作りも兼ねてそれぞれの言葉で俺様を求めてみなさい」

「……なにか一言ずつ言え、と?」

「うむ。こういうのは各々のセンスが光る重要なセリフだぞ」

「……そう、ですね……」

 

 そんな要求をしてみれば、最初こそ四人も躊躇していたものの。

 

 

「う゛ぅぅ~~……ランスッ!」

「おう」

「こ、これは……これはぁぁ~……ほ、本当に特別だからなぁ!! 特別だから、だから……その、今日は……サテラにエッチな事……させてやる」

 

 ある魔人は真っ赤な顔でそう囁いて。

 

 

「……ランスさん。その、私、こういう事は苦手なのですが……あの、宜しくお願いします……」

 

 ある魔人は恥じ入りながらもそう呟いて。

 

 

「えっと……お手柔らかに、ね?」

 

 ある魔人は少し茶目っ気のある顔で微笑んで。

 

 

「……ランス。……来て、ください」

 

 そして、ある魔人は心の内を素直に曝け出す。

 

 

「……くっくっく。そうかそうか。お前ら……そんなに俺様が欲しいのか」

 

 ハーレム。それは男の夢。

 それもただのハーレムじゃない。これは世にも贅沢な趣向であろう魔人ハーレム。

 魔人というのは魔王の従者。本来なら人間なんかではとても手の届かない存在のはずで。

 

「がーはっはっはっはっは!! ならばたっぷりとくれてやろうではないか!!」

 

 そんな魔人達がこんなにも。

 こうして全員が裸になって、こうも扇情的に自分の事を求めている。

 

 魔人サテラが。

 魔人ラ・ハウゼルが。

 魔人シルキィ・リトルレーズンが。

 魔人ホーネットが。

 

「がーはっはっはっはっは!! がーーーーはっはっはっはっはっはっは!!!!」 

 

 これはあの時のような夢じゃない。

 まさにこの世の春。

 これこそが我が栄光。

 

 ランスは瞬時に服を脱ぎながらジャンプして、四人の元へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 こうしてランスは最大の目標を達成した。

 魔人ケイブリス討伐のご褒美として、夢心地の魔人ハーレムを心ゆくまで堪能した。

 

 めくるめく快感を、興奮を存分に味わった。

 喜びを、幸せを尽くすように味わった。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、束の間の平穏を味わった。

 

 魔王が覚醒するまで、ほんの一時の平穏を。

 

 

 

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