ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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VS 魔人ガルティア

 

 

 

 

 

 

 

 魔物界は魔物の領域。彼等は洞窟の中を棲家としたり、あるいは人間のように屋根のある場所で暮らしたりと、それぞれの生態に応じて魔物界の各所に棲息していて。

 そんな中、ありとあらゆる種族の魔物達が暮らしている場所がある。

 

 それが魔界都市。魔物界における大拠点。

 そしてその内の一つ、ビューティツリー。そしてもう一方がサイサイツリー。

 魔物界の中部に並んで存在するその2つの魔界都市が、現在のケイブリス派とホーネット派の最前線となっている。

 

 両都市間を挟んで両派閥は対立しており、現在は続々と魔物兵達が集められている状況、いずれ戦端の幕が切って落とされる事は誰にとっても明白な状況で。

 そんな中、ビューティーツリーとサイサイツリーを結ぶ道、そこから少しばかり外れた地点にある開けた荒野、そこで二体の魔人が衝突していた。

 

 

 

 

 

 

「けけけけけけけけけけ!!!! 」

 

 意思持つ宝石である狂気の魔人レッドアイ。

 奇怪な笑い声を上げるその魔人が有する才能、世界中でも類を見ない程の魔法の才能が迸る。寄生している闘神の指先全てからファイヤーレーザーが乱射される。

 

「………………」

 

 歪な曲線を描く10本の熱線が狙う先、それは派閥の主である魔人ホーネット。

 彼女はふぅ、と息を吸って精神を集中する。するとその周囲に展開してある6つの魔法球の内、青色の魔法球が輝き始めて。

 そこから放たれた青色破壊光線が迫りくる赤い光線と空中で衝突し、眩い光と衝撃波がその周囲を駆け抜けた。

 

「おーうノォー、ホーネットォ~。イイ加減しつこいネ~」

「……それは私の台詞です。レッドアイ」

 

 苛立ちを混ぜたような声で呟くレッドアイ。

 一方のホーネットも同じ気持ちなのか、突き刺すような視線を相手に向ける。

 

 数日前からホーネットは、前線に出現した魔人レッドアイと対峙していた。

 この両魔人は今回に限らず過去に何度か交戦してきており、そして未だ決着は付かず。レッドアイの方が魔法の才能は上なのだが、魔人としてのレベルではホーネットの方が上となる事が影響してか、お互いの力は互角と呼べる程に拮抗していた。

 

(そう、互角……以前までは)

 

 この両魔人は数年前、魔物界南西部のとある場所で数日を跨ぐ程の大激戦を繰り広げた。

 その時には互いの力は確かに互角で、長らく戦ったが決着は付かず戦いは持ち越しとなった。

 

 しかし今はそれから数年が経過している。

 すでにその時魔人としての才能限界にあり、それ以上成長する事の出来ないレッドアイとは違い、ホーネットは未だ才能限界には到達しておらず、そしてその上限も魔人随一の高さを誇る。

 それ以降も休む暇なく鍛錬を重ね、前線で戦い続けてきた自分の力はあの時よりも間違い無く強化されている。ホーネットにはその確信があった。

 

(もしも今、渾身の六色破壊光線を撃てば、あるいは……しかし)

 

 未だに残る苦い記憶を思い返し、ホーネットはその仮定をすぐに選択肢から投げ捨てる。

 

 数年前の大激戦が行われた地、その場所は戦いの影響で死の灰が降るようになり、その周辺一帯は魔物はおろか魔人も棲めない地となってしまった。

 彼女にとってこの魔物界の地は魔王の所有物であり、魔人の自分が汚していいものではない。

 

 もし再び、あのような事態を引き起こしてしまったら。

 その事がホーネットの枷となっていた。

 

「メイクドラ~マ~!!」

 

 すると再びの攻撃、闘神の指から色とりどりのレーザーが放たれる。

 

「……ッ!」

 

 ホーネットは地を蹴って飛翔し、そして魔法球には再度輝きが宿り始める。

 

 その後魔人レッドアイが飽きて撤退するまで、両魔人の戦闘は続いた。

 

 

 

 

 

 

 そしてその戦闘終了後。

 魔人ホーネットは自派閥の前線拠点、魔界都市サイサイツリーまで帰還していた。

 その帰り道の途中、ふと何かの気配を感じて空を見上げる。

 

「あれは……」

 

 すると魔物界の赤黒い色の空に何かがあった。

 少し目を凝らして眺めると、それは自派閥に属する飛行魔物兵達の集団だとすぐに分かった。

 

 彼等は何か箱のような物をぶら下げており、こうして眺めている間にもサイサイツリーの巨大な世界樹を越え、そして敵の前線拠点であるビューティツリーの方へと向かって飛んでいく。

 何より一番不可解に感じたのは、空を飛ぶ魔物兵達から吊り下げられている大きな垂れ幕。そしてそこに書かれていた文字列。

 

『献上品 魔人ガルティア様へ 早めにお召し上がり下さい』

 

 その垂れ幕にはそう書かれていた。

 

「献上……ガルティアに? ……あの人間達の仕業ですね、一体何を……」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 魔人ガルティアへの献上品。それはホーネットが予測した通りにランス達が計画した作戦。

 尾張から届いた香姫の団子を魔人ガルティアに食わせる方法は無いか。そうランスから尋ねられたウルザが考えた手段である。

 

 敵派閥に属しているその魔人の居場所について、ランス達には知る方法が無い。

 しかし、ならば献上という形を取る事で、向こうの魔物兵達に魔人ガルティアの下まで届けてもらえばいい。魔人への献上品ならば途中で手を付ける事も無いだろうと考えての事だった。

 

 

「とりあえず団子の方は終わったな」

「そうですね。事前に話を通していたおかげで魔物兵達の協力がスムーズで助かりました」

 

 魔王城の廊下を歩くランスとウルザ。

 彼等は先程計画の下拵えを済ませ、そして今はとある魔人の部屋に向かっていた。

 

「ウルザちゃん。あの団子、ちゃんとムシ野郎の所に届いたと思うか?」

「えぇ、おそらくは。私はどちらかと言うと効果の方に半信半疑です。あの毒は確かに強烈ですが、果たして魔人に効くのでしょうか?」

「まぁ、効くというかなんと言うか……。だがこれで準備はオーケーだ。後は仕上げだな」

 

 仕上げには魔人の協力が必要となる。

 ランス達は魔人シルキィの部屋の前でその足を止めた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ねぇサテラ、本当に来ると思う?」

「こない。どーせランスのでまかせだ。そうに決まってる」

 

 隣にいるシルキィからの問い掛けに、サテラはわかりきった事を言うかのように答える。

 彼女達は今、城から程近い場所にある森の中に身を潜めていた。その理由はつい先程、部屋を訪ねてきたランスにある事を頼まれたからである。

 

 その男によると、近々この魔王城に魔人ガルティアの襲撃があると言うのだ。

 最初それを聞いた二人はありえない話だと思い、その気持ちは今でも変わっていなかった。

 

「いくら何でも単独での襲撃なんて自殺行為だ。ガルティアはそこまで馬鹿な魔人じゃない」

 

 魔人ガルティア。数代前の魔王スラルの代から存在しているムシ使いの魔人。

 長い年月を生きている魔人だけあり、決して戦闘能力は低く無いのだが、しかしホーネット派に属する魔人を何体も相手取って戦える程では無い。

 

 そんな事をすれば程なく魔血魂の身に戻るだろう事は容易に想像が付くし、かような勝ち目の薄すぎる博打に出るような理由も無い。

 そのように考えたサテラの言葉は至極妥当であり、勿論シルキィも同感であった。

 

「えぇ、それは私もそう思うわ。カルティアに限らず単独で魔王城に侵攻してきた魔人なんて今まで一人も居ないしね。……けれどあの人、妙に自信満々なのが気になっちゃって……」

「シルキィ、ランスは大体いつもそんな感じだ」

「……うん。まぁ、それは何となく分かってはきたんだけどね」

 

 困ったように頬を掻くシルキィ。

 彼女が引っ掛かっているのはあの時目にしたランスの顔、自信に満ち溢れていたその表情。

 

 ランスからガルティア襲撃の話を聞いた時、先程挙げた理由からシルキィは「さすがにそれは有り得ないと思うわ」と口にした。

 理由まで添えてきちんと説明したのだが、しかしそれでもその男は強気な表情を揺らがせず、絶対に襲撃はあるからと、シルキィにある事を頼んだ。

 

 魔人ガルティアの襲撃に備え、予め周囲の何処かに潜んでおく。

 そしてその魔人が来たらすぐさま囲い、決して逃亡出来ないようにする。

 

 それがランスに頼まれた事。有り得ないと思う気持ちは強くあれど、どうしても気になってしまったシルキィは言われた通りにこの森に潜み、更には念の為とサテラまで誘う始末だった。

 

「……はぁ、全くあの人は。そもそも私は前線に出ないといけないって言ってるのに。まだホーネット様からの呼び出しは無いけど、いつ連絡が来たっておかしく無いのに……」

「シルキィは心配しすぎだ。ホーネット様がそこらの魔人に負けるもんか」

「それは……そうかも知れないけど」

 

 とその時、風を切り裂く高音と共に、空を高速で飛び回っていた魔人が二人のそばに降り立つ。

 シルキィからガルティア襲撃の話を聞き、律儀にも周囲の偵察をしていた魔人メガラスだった。

 

「あ、おかえりメガラス。貴方にまでこんな事頼んじゃって悪かったわね」

「………………」

「メガラス、どうしたの?」

 

 いつも通りの沈黙、しかしいつもとは少し違うその雰囲気に、シルキィは小首を傾げる。

 滅多に自分の感情を外に出さないメガラスにしては珍しく、少し焦っているように見えた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 そしてランスの予測通り、魔人ガルティアは魔王城までやって来た。

 

 拠点としていた魔界都市ビューティツリーを出発し、魔王城まで道なき道を一直線。

 魔人最速を誇るメガラスも驚きの速度で、深い森の中を猛然と駆け抜けてきた。

 

 そうして目的の魔王城へと到着した途端、すぐさまホーネット派魔人三体に周囲を囲まれた。

 その内の一体は魔人四天王であり、ガルティアといえども絶体絶命の状況。しかしその魔人は一向に平然としたままで、むしろこの状況にサテラやシルキィの方が戸惑ってしまっていた。

 

 

「……ガルティア。まさか本当に来るとは……」

 

 魔法具の装甲を全て展開した、完全武装の状態でシルキィが話し掛ける。一瞬の油断もないよう構えていたのだが、しかしどうにも相手に戦意が無いようにも見えて。

 さもそれが真実だと示すかのように、魔人ガルティアは片手を上げて気さくに口を開いた。

 

「ようシルキィ、それにサテラとメガラスも。久しぶりだな」

 

 その顔には僅かに笑みすら浮かんでいて。

 そして勿論武器も構えていない。愛用の蛮刀『ハワイアンソード』も腰に掛かったまま、敵派閥の魔人三体に囲まれているこの状況も何処吹く風といった様子であった。

 

「……ガルティア。お前に自殺願望があったとは知らなかったぞ」

「いやぁ、そういう訳じゃねぇんだがな。……それよりサテラ、いやシルキィでもメガラスでも誰でもいいから教えて欲しいんだけどさ」

 

 周囲を囲む魔人達を見渡しながら、その魔人は此度の魔王城襲撃の目的を告げた。

「世界総統ランス、ってのはどいつだ? 献上品の中に名前があったぜ」

「それは、俺様だーーー!!!」

 

 その言葉を待っていたかのように、ランスが潜んでいた物陰から姿を現した。

 

「がーっはっはっは!! この俺様の読み通り、まんまと釣られてやって来たようだな!!」

 

 会心の心地で高笑いを上げるランス。

 その脳裏にはこの作戦への絶対の自信、前回の戦いで身を以て経験したが故の理由があった。

 

(なにせこいつはあの団子に対しては殺し合いの最中にも気を取られる位だからな。一度食ったら間違い無くすっ飛んでくると思ったぜ)

 

 前回の戦いで知った魔人ガルティアの弱点。それは香姫特製のお団子。

 魔性の団子に魅了され、ガルティアは戦いの中で全力を出す事が出来なくなった。そこを突いて前回のランスはこの魔人を撃破した。

 今回はその弱点を利用して、この大食い魔人を食い物で釣り出す作戦を立てたのだった。

 

「……そうか、あんたが……あんたがランスか! 会いたかったぜ!!」

 

 ランスの姿を視認するや否や高まる感情を抑えられなくなったのか、ガルティアはもう我を忘れた様子でそばに駆け寄ってくる。

 

「くっくっく。その様子だとあの団子を美味しく頂いたみたいだな」

「あぁ食った!! 全部食ったよ!! 衝撃的な味だった!!!」

 

 部下から献上品の話を聞いたガルティアは、ランスの狙い通りにぺろりと平らげてしまった。

 自分の為に作られた料理は如何なる物であっても食べる。それが彼の信念であり、敵から届いたあやしい代物であっても曲げる事は出来ないのだ。

 

「……ガルティア、お前なんかテンションがおかしくないか?」

「……うん。ガルティアって、前からこんな感じだったっけ?」

 

 落ち着いた雰囲気のある普段の様子からはあまりに違う今の姿に、サテラとシルキィは思わずそんな声を掛けてしまったのだが、それすらも無視してガルティアはランスに詰め寄る。

 あの団子を食べてしまった以上、どんな無茶をしてでも聞かなければならない事があった。

 

「ランス! あの団子を作ったのはあんたか!?」

「いんや、俺様ではない。……が、あれを作った人物を知ってはいるぞ」

「誰が作ったんだ、教えてくれ!! 頼む!!」

 

 もはやここが敵の本拠地である事も、三体の魔人に囲まれている事も見えていないのか、ガルティアはなりふり構わずと言った様相で頭を下げる。

 全て自分の思い通りに進んでいる現状に、ランスは内心の笑みが浮かぶ勝ち誇った表情のまま、すぐにその首を左右に振る。

 

「そう簡単に教える訳にはいかんなぁ~。なにせあの団子はとっても貴重、世界で一人しか作れない代物だからな」

「なに、そうなのか!? けど確かにあれ程の団子だ、そう言われても納得出来る!!」

「……うむ、そうだろうそうだろう」

 

(……むしろあんな恐ろしいもん、誰にでも作れたら困るがな)

 

 当の本人が聞いたら泣き出しそうな事を考えてしまったランスだが、それはともかく。

 ガルティアがこの魔王城に来るまでは想定通り。もしその時に襲い掛かって来た場合、潜ませておいた魔人達でボコボコにしてやろうと考えていたのだが、しかし相手に戦うつもりが無いならもっと有効な活用方法を用意していた。

 

「今後もあの団子が食えるかどうか、それは全て俺様のご機嫌次第だという事だ、ムシ野郎。よって今後もあれを食いたいなら今すぐケイブリス派を裏切ってホーネット派につけ、分かったか?」

「よし、分かった!!」

 

 いっそ気持ち良い程の即答だった。

 

(ふふん、完全に読み通りだ。いやぁ全く、自分の天才っぷりが恐ろしくなっちまうぜ)

 

 脳内で自画自賛の言葉を並べるランス。

 彼は前回での経験から、ケイブリス派は決して一枚岩では無く、事によっては人間に味方するような魔人だって存在している事を知っていた。

 言うまでも無く魔人とは強大な戦力、倒すよりも味方に出来るならそれに越した事は無い。だからこその勧誘であったのだが、悩む素振りさえ見せないガルティアの姿に、驚愕したのは今まで敵として戦ってきた彼女達。

 

「ちょ、ちょっと、嘘でしょガルティア!? そんな簡単に派閥を……!」

「な、が、ガルティア、お前、前にサテラが勧誘した時は全然……!」

「あぁ、あん時はもうケイブリスから誘われていたからな。……けども、んな事あの団子の前ではもうどうでもいい」

 

 大食い魔人ガルティア。彼が派閥戦争においてケイブリス派に属していた理由、それは『先に声を掛けられたから』ただそれだけ。

 それだけの理由だが、しかし一度派閥に属した以上は不義理を働くつもりは無い。現にここまではケイブリスの命令に一度も歯向かう事無く戦ってきた。

 

 しかし。

 

(悪ぃなケイブリス。だがあの団子は……あの団子は宇宙なんだ。あんなもんを食べされられちゃ、俺にはどうする事も出来ねぇよ)

 

 一口食べるだけで全身が痺れ、すぐに呼吸が苦しくなる。そしてその先には無限の広がりがあって、更にはどこか懐かしい味がする。

 そんな香姫の団子を前にしては、さしもの魔人ガルティアと言えども逆らう事は出来なかった。

 

「ランス。ホーネット派に味方すればまたあの団子をくれるんだよな?」

「そうだな。お前の働き次第だ」

「任せろ、あの団子を食う為だったらなんでもするぜ。……つーわけで俺、今日からホーネット派に付く事になった。よろしく頼むよ」

 

 ガルティアは再び軽く片手を上げて、堂々と寝返る事を宣言した。

 

「……ガルティア、お前……いや、もういい。一つだけ聞くけど、本気なんだな?」

「勿論本気さ。これからはホーネットの命令に従ってやるよ」

「……なんて言うか、展開についていけないわ。……そうだメガラス、悪いけどホーネット様に事の顛末を伝えてきて貰える?」

「………………」

 

 メガラスは頷き、すぐに空へと飛び立つ。

 

 こうして魔人ガルティアがケイブリス派から離脱し、そしてホーネット派に加わった。

 

 

 

 

 

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