ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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個人面談 一人目

 

 

 

 

 ──個人面談。

 それは一対一での話し合い。

 

 自らの生存権を手に入れるべく。

 一斉在庫処分セールから逃れるべく。

 魔人は自らの主たる魔王へと立ち向かう。

 

「それでは次の方、どうぞー」

 

 受付役のシィルから合図が聞こえて。

 魔王ランスの私室。そのドアを恐る恐る開いた彼の耳に届いた第一声は──

 

 

「よし。こいつはいらんな」

「おぉ、いきなりだな」

 

 取り付く島もないような言葉に、魔人ガルティアは困ったように眉尻を下げる。

 

 今回の面談相手は魔人ガルティア。

 元ケイブリス派、その後ホーネット派に鞍替えをしたムシ使いの魔人である。

 

「これが面談だって言うならせめて話ぐらい聞いてくれよ。……と、ここ座ってもいいかい?」

「好きにしろ」

 

 魔王ランスがどっしりと腰を下ろすソファ。

 その対面にガルティアも腰を下ろすと、正面に居る相手の姿をしげしげと眺める。

 

「なぁランス……じゃないな、魔王様か。……そっかぁ、魔王様なんだよなぁ、そうかぁ……」

「なんだよ」

「いやね。改めて驚きっつか、本当にあんたが魔王になっちまったんだなぁと思ってさ」

 

 出会った当時から他とは一味違う男だと、底知らないものを秘めた男だとは思っていた。

 至高のお団子で自分を釣った事といい、魔人が争う戦場で幾つもの戦果を上げた事といい、人間の範疇で収まる男では無いなとは思っていたが……まさかまさか魔王になってしまうとは。

 

「魔王か……けどまぁ考えてみたらそれもアリっちゃアリなのかもな。特にあんたみたいな男は誰かの下っつーのは性に合わないだろうし」

「その通り。俺様は世界一の男だからな。世界の頂点に立つ俺が魔王になるのは必然だったのだ」

「ははは、世界一の男か。ほんの一ヶ月前までならただの大言壮語だってのに、それを本当にしちまうんだもんなぁ。いや本当、大したもんだぜ」

 

 自分のような魔人ならまだしも、魔王にまで上り詰めたとあっては感服するしかない。

 遥か遠い魔王スラルの代から生きているガルティアとて、その破格さには舌を巻く程だ。

 

「それで本題に入るけどよ……そもそもこの~、個人面談っつうのか? これはケイブリス派のヤツらをどう扱うかって話じゃないのか?」

「まぁそうだな。けれどな、そのついでにいらん魔人も処分してしまおうと思ってな」

「いらん魔人……か。直接あんたからそう言われるとちょっとショックだな」

 

 そう言って寂しげに笑うガルティア。

 しかし寂寥感漂うその姿も、男性差別意識の強い新魔王ランスにはまるで効果が無く。

 

「俺様の配下に男はいらんのだ。大体お前はホーネット派とはいえ元はケイブリス派だしな」

「そりゃそうだけどよ……」

「それにお前は他の魔人に比べて食費が高すぎるという苦情も来ている」

「あ~……それは言い訳出来ねぇな……」

「以上二つの理由でお前は在庫処分だ。他に何か言う事はあるか?」

 

 早くも個人面談は終了の兆し。

 と言うべきか、その結論はランスにとっては最初から決まっていたようなもので。

 

「うーん、そっかぁ……俺としてはあんたの作る世界で生きてみたかったんだけどなぁ……」

 

 魔王からの最後通告を受けたガルティアは何を言い返す事も無く。

 頭をぽりぽり掻いて、あっさり白旗を揚げた。

 

「まぁ、そう言われちゃあしょうがねぇな。殺すなら一思いにやってくれ」

「ほう、中々潔いではないか」

「そりゃあ俺は魔人だからな。魔王のあんたに歯向かおうとは思わないさ」

 

 魔人とは魔王の血によって造られたもの。故に魔人と魔王の間には明確な上下関係がある。

 それを破るつもりなんてガルティアには無いし、破ったところでただ不毛なだけ。彼我の戦力差を考慮すれば魔王への抵抗なんて無謀な話。

 

「そうかそうか。ま、俺様としても手間が掛からないってのは有り難い」

 

 そう言ってランスはソファから立ち上がると、その左手をグーに握った。

 するとその拳が赤黒いオーラに包まれる。体内にあった魔王の力が集約して、ランスアタックを優に上回る程の強烈なエネルギーが左拳に宿る。

 

「よぉし。ではガルティア、死ぬがいいッ!」

 

 そして拳を振り下ろす──ッ!

 

 

「……と、その前に、だ」

「ん?」

 

 ──寸前、ランスは左拳をパーに戻して。

 そしてソファにどてっと座り直すと、その口元を意味有りげに歪めた。

 

「くっくっく……ガルティアよ。魔王様は全てを知っているのだぞ?」

「知ってるって……なにを?」

「女だ。お前は女を囲っているだろう」

「女? いやいや、女なんて囲っちゃいねーって」

 

 ガルティアは顔の前で手をブンブンと横に振る。

 しかし魔王の目は誤魔化せない。ランスはその眼光をギラリと鋭く光らせる。

 

「嘘を吐くな。お前は三人の女の使徒を所有しているだろう。それぐらい魔王様にはお見通しだ」

「使徒って……まさかサメザン達の事か?」

「そうだ。そいつらだ」

 

 魔人ガルティアが有する三体の使徒達。使徒サメザン。使徒タルゴ。使徒ラウネア。

 ランスは前回の第二次魔人戦争時、ゼス国の戦場でその三名の使徒達と対峙した。

 当時は状況が状況だけにアレコレしている暇は無かったのだが……しかし今ならば。

 

「抱かせろ」

「えっ」

「えっ、じゃない。抱かせろ。今すぐお前の使徒達三人を抱かせろ」

「……え、抱くって……セックス、すんのか?」

「そうだ。他になにがある」

「……え、マジで?」

 

 ──サメザン達とセックスさせろ。

 魔王からの命令、想像だにしていなかったその要求にガルティアは目を丸くする。

 

「……いや、でも、それはちょっと……」

「なんだ、可愛い使徒共を捧げるのが惜しいか? でも駄目だ。とっととセックスさせろ」

「違うって、惜しいとかそういう事じゃなくてさ……魔王様、あいつらはその……ムシだぜ?」

 

 魂なき生命体の総称──ムシ。

 魔人ガルティアはムシ達を操るムシ使いであり、体内に多くのムシ達を棲まわせている。

 そんな複数のムシ達が融合して出来上がったのが使徒サメザン達となる。つまりはムシの使徒、外見上は女の子っぽい感じで可愛く見えていても、彼女達はあくまでムシなのである。

 

 ……が、そのような事はあらゆる生物の頂点に立つ魔王様にとっては些末な問題のようで。

 

「ムシだろうがなんだろうが、可愛ければセックスするのに支障は無い。いいからとっとと出せ」

「……本気か?」

「当たり前だ」

「……まぁ、あんたがそう言うならいいけどさ……。おーい、サメザン、タルゴ、ラウネア、みんな出ておいでー……」

 

 魔王の命令には逆らえない。ガルティアは腹部の穴の縁をトントンと叩く。

 すると穴の中から件の三体が、魔人ガルティアの使徒達が姿を現した。

 

「……ピィ」

 

 使徒サメザン。

 女性のような全身に、鳥のような翼と鉤爪の生えた足を持つムシの使徒。

 

「……シァアア」

 

 使徒タルゴ。

 女性のような全身に、猿のような手足と太い尻尾を持つムシの使徒。

 

「………………」

 

 使徒ラウネア。

 女性のような上半身に、巨大な蜘蛛のような下半身を持つムシの使徒。

 

「……ピィ、ピィピィ」

「……シャア、シャアア」

「………………」

「ほほう、やっぱし中々に可愛い子ちゃん達ではないか。全員がおっぱい丸出しだし。ぐふふ」

 

 普段は主であるガルティアが手を焼く程に自由気ままな彼女達だが、今は皆大人しくしていた。

 恐らくは魔王の御前である事もあって本能的な恐怖に怯えているのだろう。ランスから好奇な目を向けられてサメザン達は身を竦ませる。

 

「そりゃ見かけ上はそうだろうけどさ、あくまでこいつらは全員ムシだからな? セックスするっつっても出来るのかどうか……」

「やりゃあ出来るっての。特にこの~……おい、この蜘蛛子ちゃんの名前はなんだ」

「そいつはラウネア」

「そう、ラウネアちゃん。この子なんて……ほら、こうしてだな……」

 

 ランスは左手で自分の目元を覆って、視界の下半分を隠してみる。

 ラウネアは上半身が女性で下半身が蜘蛛の姿。となればその下半分を隠して見ると……。

 

「……うむ! これならどこからどう見ても女の子にしか見えん! 絶対に抱ける!」

 

 そこに居るのは黒髪ロングの可愛らしい女の子。

 これは抱かない訳にはいかないっ! と鼻息を荒くするランス──だったが。

 

「そりゃそうかもしれないけどさ……でもほら魔王様、こうしてみると……」

「ん?」

 

 ガルティアはランスの左手を少し持ち上げて、その視界の上半分が隠れるようにしてみる。

 ラウネアは上半身が女性で下半身が蜘蛛の姿。となればその上半分を隠して見ると……。

 

「……どう見える?」

「……蜘蛛にしかみえねーな」

 

 そこに居るのは蜘蛛。ただのデカい蜘蛛。

 これにちんこを突っ込むなんてあり得ない。……とランスの眉間が嫌そうに歪んだ。

 

 ──が。

 

「……いいやっ! それでも抱く! だって俺様は魔王なんだ!!」

 

 我は魔王。この世界の支配者也。

 ならばたかが使徒如きを、たかがムシ如きを恐れてなるものか。

 

「ガルティア!! 俺様はこいつらを抱くぞ!! 文句あっか!!」

「……いや、まぁ、文句は無いけどさ……」

 

 魔王によるムシ姦宣言を受けてガルティアは困ったように眉を下げる。

 ムシとセックスする男なんて聞いた事がない。そんな蛮勇は止めといた方が……と思いはするものの、しかし魔王がこう言っている以上魔人のガルティアには何も言えない。 

 使徒達にとっては望まぬ性交になるだろうが、しかし相手は魔王。となれば魔に属する者としては甘んじて受け入れなさいと言うしかない。

 

「じゃあ、まぁ……おまえ達、頑張れよ。それじゃあ、ごゆっくり……」

 

 とはいえさすがに気まずかったので、ガルティアはランスの部屋からそそくさと退出した。

 

 そして──

 

 

 

 

 ──以下、世にも珍しい光景。

 ムシとセックスをする魔王の姿を音声のみでお届けする。

 

 

『さーてさて。では諸君、めくるめく快楽の世界にご招待しようではないか』

 

『ええと……君がサメザンちゃん、君がタルゴちゃん、んで君がラウネアちゃんだな』

 

『では早速っと……もみもみ、もみもみ。おぉ、中々良い乳しとるではないか』

 

『うむ、これならいけそうだな。ならこっちの具合はどうかな~……』

 

『……ぬ。一応挿れる穴はあるようだが……これ、濡れてる……か?』

 

『いや、濡れてるっちゃ濡れてるが……なんかこれ愛液とはちょっと違うような気も……』

 

『……まぁいいか。とりあえず一発……おっと、こらこら、暴れるなっての』

 

『よーし。では行くぞ。ぐりぐり~……』

 

『……お。入った、か……?』

 

『……む! こ、これは……!?』

 

『う、ううむ……! ま、まぁ、気持ちいいっちゃ気持ちいいな……!』

 

『……けど』

 

『けど、これは……』

 

『これは、セックスっつーより……交尾?』

 

『俺様は今……女とセックスをしてるのか? それとも、これは、ムシと、こうびを……』

 

『………………』

 

 

 

 

 

 ──そして。

 

 

「……さてと。終わったかな?」

 

 そろそろ事が済んだ時間だろうと、ガルティアは再び魔王の部屋を訪れた。

 

「……お、おぉ。マジでやったのか」

 

 すると……そこには事後の光景があった。

 ベッドの上にはくったりとしているサメザン、タルゴ、ラウネア達三名の姿。

 そして素っ裸で立ち尽くす……魔王の姿が。

 

「……ガルティア。俺様はこいつらを抱いたぞ」

「……みたいだな」

「あぁ。セックスしてやった」

 

 初めてとなるサメザン達とのセックス。初めてとなるムシとのセックス。

 新たなる性のトビラを開いてみせたランスは……しかしなんとも複雑そうな顔をしていて。

 

「……けれど、これは……」

「……魔王様」

「……なんか俺様、とんでもない事をしてしまったような気が……」

 

 ──ムシ姦。

 果たしてこれは……開いてもいいトビラだったのだろうか。

 

 女性っぽい外見ならそれでいいのか。ただ単に気持ち良くなれればなんでもいいのか。

 その思考が行き着く果ては……例えば服屋に置かれているマネキン人形とか、ちょっとエロい感じに出来上がったニンジンとかダイコンとかでもオッケーだという話にならないだろうか。

 

「……俺様は……」

 

 これではあまりにも雑食過ぎないか。

 自分は穴さえあればなんでもいいのか。などと自問自答していたランスだったが……。

 

「ッ、いいや、違う!!」

 

 そこでがばっと頭を上げた。

 

「これは前進だ! 俺はムシを抱いてしまったのではなくムシだって抱ける男になったのだ! そうだろうガルティア!!」

「え!? あ、あぁ! そうだな!!」

「そうだ! これは人間の頃なら無理だった!! 俺は魔王になった事で進化したのだ!! ありとあらゆる生物をハーレムに加えられるようになったのだ!! どうだすげーだろ!!」

「あぁ!! スゲェよランス!! あんたカッコいいぜ!!」

 

 その勢いに押されたガルティアはとりあえず同意しておいた。

 

「そのとーり!! 俺様は凄いのだ! 俺様はカッコいいのだ!! がーっはっはっはっは!!」

 

 そして勝ち誇るように、ランスは身体を大きく仰け反らせながら高笑いをして。

 

「はっはっはっは…………はぁ」

 

 やがて、げんなりと肩を落とした。

 

「……もういいや。俺様もう疲れたからお前は帰っていいぞ」

「え? あ、いいのか?」

「うむ、今後は俺様の為に誠心誠意働くように。んじゃバイバイ……」

「お、おう……」

 

 射精後の賢者モードと言うべきか、色々冷静になってテンションが急激に落ち込んだランスはもうガルティアの事とかはどうでもよくなったらしい。

 一方、在庫処分を免れたガルティアはすたすたとベッドに近付いていく。

 

「……なんかよく分かんないけど、持つべきものは使徒、って事かね。結果的にはお前達に助けられちまったな、ほら、もう戻っていいぞ」

 

 そして初体験を終えたサメザン、タルゴ、ラウネア達を。

 今回の殊勲者達である使徒達三名を腹の穴の中に戻そうとした……が。

 

「……くるくるぅ!」

「シャアア! シャアアア!」

「………………!!」

 

 するとサメザンが、タルゴが、ラウネアが、しきりに鳴き声を上げてきて。

 

「……え? そりゃ本当か? おぉ、そーか、うーん……となるとどうすっかな……」

 

 それは主だけには通じる言葉。

 使徒達の訴えに耳を貸したガルティアは、驚くと同時に困惑したように眉を顰めて。

 

「……なぁ、魔王様」

「なんだ、まだ居たのか」

 

 そして魔王ランスの顔を見て、言った。

 

「なんかコイツらさぁ、あんたとの交尾が思いの外気持ち良かったみたいでよ」

「は?」

「良ければもう一回……て、あれ?」

 

 ガルティアは周囲を見渡すが……居ない。

 それは一瞬の出来事。魔王ランスは煙のように消えていた。……もとい、逃げ出していた。

 

 

 

 

 

 

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