ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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個人面談 二人目

 

 

 

 ──個人面談。

 それは一対一での話し合い。

 

 自らの生存権を手に入れるべく。

 一斉在庫処分セールから逃れるべく。

 魔人は自らの主たる魔王へと立ち向かう。

 

「それでは次の方、どうぞー」

 

 受付役のシィルから合図が聞こえて。

 魔王ランスの私室。そのドアを恐る恐る開いた彼の耳に届いた第一声は──

 

 

「よし。こいつはいらんな」

「……チッ、初っ端からそれかよ」

 

 初対面早々のお言葉に、席についた魔人レイは苛立ちを込めて舌打ち一つ。

 

 今回の面談相手は魔人レイ。

 ケイブリス派に属していた魔人の一人、電撃を操る孤高の一匹狼たる魔人である。

 

「うむ、こいつはいらんぞ。こいつは間違いなくいらんはずだ」

「……そーかよ」

「あぁそうだ。お前はガルティアのように女を囲っているって事もねーだろうしな」

「女か……あぁ、ねぇな」

「だろう? だったらもう生かしておく必要など無いわ。がははははっ!」

 

 死刑宣告を突きつけておいて、魔王ランスは実にイイ顔で大笑い。

 一人目の面談相手、魔人ガルティアは女を差し出したから許してあげた。まぁ女というか女のようなムシなのだがとにかくそういう事にした。

 ならばこの二人目はどうか。差し出す女が無い魔人レイを許す理由など何も無い。故に死刑。ランスにとっては至極単純な道理である。

 

「……ま、そう言われるとは思ってたがな。そもそも俺は元ケイブリス派だしよ」

「そうそう、お前は敵だったしな。まぁお前程度の雑魚魔人が敵だからってどうという事も無かったのだが、雑魚と言えども雑魚なりに邪魔だったのは事実。その罪は決して軽くないぞ」

「だろうな。直接の相手はアンタじゃなくてリトルプリンセスにはなるが、ケイブリス派が魔王に歯向かってたのは事実だ。その点に関しては言い訳もしようもねぇ」

 

 魔王からの救いの無い言葉にも表情を変えず、レイは相変わらずの様子で答える。

 前魔王リトルプリンセスに忠誠を捧げたホーネット派。一方で未覚醒の魔王を認めず、ホーネット派と敵対してその命を狙ったケイブリス派の行いは魔王に対する反逆そのもの。

 となればこうしてホーネット派からランスという新魔王が誕生した今、ケイブリス派に属していた者達は前魔王に対する反逆によりどのように裁かれようと文句は言えない立場にある。

 

「ここに来る前から覚悟はしてた。今更狼狽えたり命乞いをしたりするつもりはネェよ」

「ほう、そうかそうか。話が早くて助かるな」

「……ただな。その上でアンタに一つだけ言っておきたい事がある」

 

 申し開きは無い。魔王の不興を買った自分が処分される事は分かり切っている。

 そう前置きをしたレイは、すぅ、と息を吸って。

 

「──ランスッ!!」

 

 その身体から雷撃を迸らせながら、怒鳴るようにその名を呼んだ。

 

「ぬ! なんだお前、魔人のくせして魔王様の事を呼び捨てにする気か」

「けッ! ここでテメェに殺されんだったら敬意を払ったって意味ねーだろが。ンな事よりもな、俺はテメェに会えたら一言文句を言ってやろうと思ってたんだ!」

「文句だぁ?」

「あぁそうだ。──これを見ろッッ!!」

 

 ダンッ! とテーブルを揺らす音。

 レイが魔王の御前に叩き付けたもの。表紙に見目麗しい幼女が載っている一冊の本。

 

「なんだそりゃ……って、おぉ、これはウルザちゃんに頼んで用意して貰ったエロ本ではないか」

 

 それは最終決戦の直前、魔人レイ対策としてランスがハウゼルに手渡していたもの。

 レイの性癖を大いに刺激するであろう逸品、幼女愛好者向けの発禁もののエロ本である。なんとレイはあのカスケード・バウでの戦いの後、このエロ本を持ち帰っていたらしい。

 

「このエロ本がどうしたって……あ、分かった。この本が最高に実用的でヌけたから俺様に感謝をしたいってわけだな?」

「ちげぇーよ! 文句だっつってんだろがッ!!」

 

 魔人レイ。彼は怒っていた。そりゃもう怒りに怒って激怒していた。

 戦場で出会った魔人ハウゼルからあらぬ疑いを掛けられてからずっと、この本を用意したという「ランス」なるふさげた男を絶対にぶっ飛ばしてやろうと決めていた。

 生憎とその男は魔王になってしまったのでぶっ飛ばす事は出来なくなってしまったが、それでもこの怒りを飲み込む事は出来ない。せめて文句だけはぶつけてやろうと決意していた。

 

「こんなフザけたもん寄こしやがって! テメェは俺の事を何だと思ってやがる!!」

「ロリコン」

「だからちげぇっつってんだろ!! 俺はこんなガキ共なんざぁ全く興味ネェんだよ!!」

 

 自分は断じてロリコンでは無い。事実無根の冤罪である。

 たとえここで死ぬのだとしても疑惑だけは晴らしておきたい、そんな思いのレイをよそに。

 

「いいや違うぞ。お前はロリコンだ」

「だから違うっつー──」

「違くない。お前は間違いなくロリコンだ。ただ自分の性癖に気が付いていないだけだ」

 

 魔人レイはロリータコンプレックス。魔王はあくまでそう断言する。

 その根拠となるのは前回の記憶、今はランスだけが知る魔人レイの戦場以外での意外な一面。

 

「お前のロリコン度は極まっている。なんせお前はロリが好き過ぎた結果、幼いがきんちょの言いなりになって敵軍に寝返るようなヤツだからな」

「アァ!? そりゃなんの話だ! 俺がいつガキの言いなりになったってんだよ!」

「なるんだよ。お前の知らん世界でそうなる。それもただのロリじゃなくてかなりのブスだ。お前、ロリコンでブス専ってめちゃくちゃ業が深い性癖をしとるぞ。ハッキリ言ってヤバいぞ」

 

 ランスが言うブスなガキとは。それは前回の第二次魔人戦争時、自由都市を侵攻していた時に魔人レイが出会った少女、メアリー・アンの事。

 レイはメアリーと出会った事で、己の心の空虚さを闘争以外でも埋められるのだと知った。胸の内にある衝動を闇雲に発散せずとも、受け止めてくれる人が居るのだと知った。

 だからこそ前回のレイは拳を収めて、魔軍を裏切って人類側に味方する事になった。そんなハートフルな一件が前回の歴史には確かにあったのだが。

 

「だからなんの話だってんだよそりゃあ……!」

 

 がしかし、そのような話は今ここに居るレイには知る由も無い。

 これまで1000年以上生きてきて、自分の性癖がブスなガキだなんて露程も感じた事がない。

 自分がロリコンだなんてあり得ない話、謂れなき冤罪だとしか思えないのに、それを今日この日まで会った事も無かった魔王から突き付けられているのだから堪らない。

 

「そりゃテメェは魔王だろうがな、俺の性癖まで勝手に決めつける権利はねェ。俺を殺すのは構わねェが、その前にロリコンだって決め付けたのだけは訂正しやがれ」

「いやだ。ロリコンをロリコンだと決め付けて何が悪いってんだ」

「あのなぁ……!」

「お前こそ自分の性癖を素直に認めたらどうだ。そりゃロリコンなんてのは犯罪者一歩手前の危険な性癖ではあるが、それでも自分の性癖を自ら否定するなんて虚しいだけだろうに」

「……テメェよォ、さては根本的に人の話を聞く気がねェみたいだな」

 

 この魔王は結論ありきで喋っている。そう悟ったレイは疲労感を滲ませた表情で肩を落とす。

 どうしてかは分からないがこの魔王は自分の事をロリコンだと決め付けている。ここで何を言ったって耳を貸そうとしないに違いない。その理不尽ぷりは確かに魔王と呼ぶに相応しいもので。

 

「……あ、そうだ。良い事を思い付いたぞ」

 

 だからこそ、そんな理不尽魔王ランスは次いでこんな事を言ってきた。

 

「よーし。ならビリビリ野郎、お前に一度だけチャンスをやろう」

「チャンスだ?」

「あぁそうだ。自分の性癖を認められないっつーなら俺様が認めさせてやろうじゃねーか」

 

 そう言ってニヤリと笑うランス。

 それは心優しい魔王が哀れな魔人に与える最後のチャンス。自らの性癖自認への第一歩。

 

「お前、今から人間世界に行ってこい」

「は? 人間世界? 俺が?」

「そうだ。んで自由都市にある……あれ? 自由都市の……どこだっけ?」

「さぁ、俺が知るかよ」

「……ま、どっかの町だ。とにかく自由都市のどっかの町に居るあのブスガキを……あれ? そういやあのブスガキってなんつー名前だっけ?」

「だから俺が知るかっての」

 

 魔人レイが欲情している(のだとランスが勝手に思っている)少女、メアリー。

 彼女はブスなガキだったのでランスにとっては微塵も興味が湧かない相手。なのでメアリーについてはその外見以外は一切記憶しておらず、住んでいた場所や名前など個人情報は全てが不明。

 

「……まぁいいや。とにかく自由都市のどっかの町にイイ感じにブサイクなガキが居るから、お前はそいつを見つけて自分の性癖を確認してこい」

「な、なんつー曖昧な命令だそりゃ……!」

 

 捜索場所は自由都市のどっかの町。捜索対象はイイ感じにブサイクなガキ。

 そんなあやふや過ぎるヒントだけでお目当ての相手が見つけられるはずが無い。あまりに理不尽な指令に魔人レイは目を剥くが、しかし魔王ランスはお構いなしで。

 

「そんで自分の性癖がブスなロリガキだっつー事を認めたら、さっきお前が言った事を取り消して謝罪しろ。俺様の前で土下座して『全て貴方様の言う通りでした。私はブス専のロリコンでした。魔王様ゴメンナサイ』って言えたら、お前の処分を考え直してやってもいいぞ」

「ふッ、フザけんなッッ!! んな事言うわきゃねーだろうが!!!」

 

 レイに与えられたチャンスという名の命令、それはあまりに屈辱的な内容だった。

 あやふや過ぎるヒントで目的の少女が発見出来るかという点を無視するとしても、それで自らの性癖が自認出来るとは思えないし、よしんばそうなったとてこの魔王の前で土下座で謝罪など。

 そんなの到底認められるものでは無かった。魔人にだってプライドはある。今は亡き何処ぞのリスではあるまいし、レイはそれ程の屈辱を飲んでまで生に執着したいとは思わない。

 

「さっき覚悟は出来てるって言ったろ。テメェに頭下げるぐれーなら死んだ方がマシだ。だからそんな命令には従えねぇな」

「ふむ、なるほどな。……ビリビリ野郎、さてはお前ビビってるな?」

「はぁ? 何を聞いてたんだテメェは。俺はもう死ぬ覚悟なら出来てるって──」

「そうじゃない。お前は自分の性癖を直視する事にビビってる、自分がブス専のロリコンだと認める事を怖がってるっつってんだよ」

「な……なんだと!?」

 

 魔王は煽る。レイは怒る。

 

「恐いんだろ? 自分の性癖がゲキヤバ過ぎるのを認めたくねーんだろ?」

「違う。テメェの言う事が下らな過ぎて耳を貸す気にならねェだけだ」

「いーやビビってる」

「ビビってない」

「ビビってないなら従えるだろう。ちょちょっと自由都市まで行って人探しをするだけだ。それともお前はその程度のおつかいすらも出来ない能無し魔人だってのか?」

「ッッ……!」

 

 魔王は煽る。とことん煽る。

 思わずレイは怒りに喉を鳴らす。

 

「……チッ。ランス……か」

「あん?」

「……いいや、テメェがどういう魔王なのかがよーっく分かったよ……」

 

 第八代魔王ランスとは。人をおちょくって楽しむ底意地の悪い性格をしているらしい。

 とはいえこんな明らかな挑発、こんな見え透いた挑発に乗っかるのはバカがする事だと思う。

 がしかしこれ程までに挑発されて、それでも無視して素知らぬ顔をしているのは。ここで受けて立たないのはそれはそれでレイのプライドを大いに傷付けるもので。

 

「……わかった」

 

 故にレイは頷いた。

 

「そうだな、テメェは魔王だもんな。なら命令には従ってやるよ。……けどなぁ!!」

 

 魔王からの命令を受諾した上で、レイは弾けるような怒りに前髪を逆立てた。

 

「俺は謝罪なんかしねェぞ!! テメェに向かって土下座なんか絶対にしねェからな!!」

「ほう、そうか?」

「あぁそうだ!! んな無様な真似をしてまで命乞いなんかしたくねェし、そもそも俺はロリコンじゃねぇ!! この命令に従うのはむしろロリコンじゃねぇって事を証明する為だからな!!」

「そーかいそーかい、まぁ好きにすりゃあいいさ。がははははっ!」

 

 これで面白いものが見れそうだなと、魔王ランスは愉快そうに笑う。

 

「けどな。そうは言ってもお前は絶対に土下座をして命乞いするぞ。断言してやる」

「っ……大した自信じゃねぇか」

「まぁな、それがお前の運命だからな」

「……なぁ、どうしてそこまで断言出来るんだ? 俺とテメェは今日が初対面、俺の事なんざテメェはなにも知らねェはずだろうが」

「あぁそうだな。俺様はお前の事なんざサッパリ知らない。つーか名前も覚えてねーし」

「……なるほど。テメェ、それでさっきから俺の事をビリビリ野郎としか呼ばなかったのか。レイだレイ、俺の名前はレイ」

「あー、そういやレイだったか」

 

 ようやく目の前に居る魔人の名前を思い出したランスは、そこでまたにぃっと。

 それはもう愉快そうに口元を曲げて、言った。

 

「レイよ、俺様は魔王だ。魔王様はなーんでもお見通しなのだよ。がーはっはっはっはっ!」

 

 

 

 

 

 そして──その後。

 個人面談終了後、魔人レイは魔王からの命令を遂行するべくすぐに人間世界へと出発した。

 

 捜索場所は自由都市。捜索対象はイイ感じにブサイクなガキ。

 あまりにも抽象的過ぎるヒントだけを頼りに、レイは自由都市群一帯を当てもなく歩き回った。

 大小合わせて三十の都市、約5000万にもなる人口を前に捜索など不可能だと思われたが……。

 

 ──けれども、それは運命の導きか。

 然程苦労する事も無く、レイは自由都市のとある町でいい感じにブサイクな女の子と出会った。

 

 少女の名前はメアリー・アン。

 前回の時とは出会い方も状況もあらゆるものが異なる二人ではあったが……しかし。

 それでも二人は自然と結び付いた。あの魔王の言葉通りだと認めるのはとても癪だったが、確かにそれはレイにとって運命の出会いと呼べるようなものだった。

 

 そして──更にその後。

 ある日、魔人レイはメアリーを連れて魔王城に戻ってきた。

 そして命令の完了を報告すると同時、レイは魔王の御前で潔く土下座をした。

 

 そんな無様な真似をしてまで、命乞いをしてまで生に執着したいとは思わない。

 以前まではそう思っていたレイだったが、しかしメアリーと出会ってその考えが変わった。

 まだ死にたくない。メアリーの寿命が尽きる時までは一緒に生きてみたいと思ったのだ。

 

 故にレイは魔王に土下座をして謝罪をした。

 その姿が大層面白かったのと、その頃にはもうランスも個人面談云々とかはどうでもいい気分になっていたので、そんなこんなで魔人レイは在庫処分送りを免れる事となった。

 

 ……ただ、それでもレイは一つだけ貫き通した。

 謝罪の際、事前に魔王から言えと命じられていた文言をそっくりそのまま口にはしなかった。

 魔王に何と言われようとも、レイは『ロリコン』という部分は認めても『ブス専』という部分は絶対に認めようとはしなかった。

 

 

 

 

 

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