ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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個人面談 四人目

 

 

 

 

 ──個人面談。

 それは一対一での話し合い。

 

 自らの生存権を手に入れるべく。

 一斉在庫処分セールから逃れるべく。

 魔人は自らの主たる魔王へと立ち向かう。

 

「それでは次の方、どうぞー」

 

 受付役のシィルから合図が聞こえて。

 魔王ランスの私室。そのドアを恐る恐る開いた彼の耳に届いた第一声は──

 

 

「よし。こいつはいらんな」

「ふむ、第一声がそれとは。どうやら私は随分と嫌われているようだ」

 

 初対面早々のお言葉に、魔人ケッセルリンクは然程気にした様子もなく席に座る。

 

 今回の面談相手は魔人ケッセルリンク。

 ケイブリス派に属していた魔人の一人、派閥のNO,2として君臨していた魔人四天王である。

 

「さて……お初にお目に掛かります、魔王様。我が名はケッセルリンクと申します」

「知っとる。今更自己紹介などいらんわ。お前の処分はすでに決まっているのだからな」

「釈明や弁解の余地は無い、と?」

「あぁそうだ。なんせお前にはあまりにも罪状が多すぎるからな」

 

 死刑宣告を傲然と告げた魔王の目に映る相手、魔人ケッセルリンク。

 紳士然とした貴族のようなその魔人はランスにとって色々と鼻に付く要素が多く、今回面談対象となった魔人達の中でも一番アウトな存在である。

 

「お前は男だし、キザったらしいし、今も余裕ぶってる感じがなんかムカつくし」

「別に余裕ぶっているつもりは無いのだがね」

「それに元ケイブリス派だ。お前さえいなけりゃもっと早く戦いに片が付いたのだ。『ああもうケッセルリンクうぜー! ムカつくー!』……ってホーネットが口癖のように言ってたぞ」

「ほう。彼女にしては随分と直情的で口の悪い物言いだが……さて……」

「それに聞いとるぞ? お前はシルキィちゃんに手を出したな? 俺様の可愛い可愛いシルキィちゃんを散々に苛めてくれたそうじゃねーか」

「私がシルキィを? そんな事は……って、あぁ、この前の戦いの話か」

 

 この前の戦い。それは派閥戦争最後の全軍衝突、カスケード・バウの戦い。

 久々に全力で戦ったあの時の事を思い出したケッセルリンクは小さく首を振った。

 

「けれども魔王様、苛めたというのは大いに語弊がある。シルキィの名誉の為にも言っておくが勝敗は引き分けだ。どっちが勝ってもおかしくない真剣勝負だったと記憶しているよ」

「やかましい。それでもお前がシルキィちゃんをタコ殴りにした事実は変わらん。戦いが終わった直後はあの子の身体にも生々しい傷があってなぁ、セックスするのにも少し躊躇しちまったのだ。んでもあの子は『気にしなくていいから、ね?』とか言ってきて、シルキィちゃんはああいう健気なところが可愛いよなぁ、うむうむ」

 

 魔王城に戻ってきてすぐ楽しんだご褒美、我が栄光たるハーレムセックスの最中。

 負傷した身体を押して献身的に尽くしてくれたシルキィのエロさを思い出すランスの一方、

 

「……ふむ」

 

 ケッセルリンクは紅い瞳を細めて、初めて相対した新たなる魔王の容貌を注視する。

 

 目の前に居る男、ランス。それはまさにあの戦いの中でシルキィが教えてくれた人間の名前。

 嘘か真か、ホーネット派を影から支配してきたカオスマスター。それがランスであり、今回その男がまさかまさかの新たな魔王となった。

 その事実を知らせる手紙が届いて以降、ケッセルリンクは内心大いに興味を抱いていた。

 

 あの時シルキィから聞いた話では、ランスの協力があればケイブリスにだって勝てるとか。

 ランスとはシルキィを遥かに超える破格の人間だとか。他には……極度の女好きだとか。

 

「今の話を聞く限り、魔王様はシルキィと肉体関係を持っていると?」

「んなもん当然だろうが。あの子はとっくの昔から俺様の女なのじゃ。がははははっ!」

「ほう……それは驚きだね」

「つかそんな事どうでもいい。今話しているのはお前の処分であってそれはもう決定済みだ。俺様の配下にキザな男はいらんのだー死ねー!! ……っつうのがこれまでの流れで」

「流れ?」

「うむ。ここら辺は繰り返しになるから省くぞ。とにかく俺様はちゃーんと覚えてるのだ。やいケッセルリンク、お前にも女がいたはずだな?」

 

 極度の女好きである以上、ここを突いてくるのはある意味当然の流れか。

 聞こえてきた言葉に先の展開が読めたケッセルリンクの顔付きが変わった。

 

「お前はメイドっ子を大勢侍らせてハーレムを作っていたはずだ。そうだな?」

「ふむ。シャロン達の事かな?」

「それだ。それぞれの名前は知らんが顔は全員覚えとる。みーんな美人で可愛い子ちゃん達だった」

 

 ケッセルリンクが侍らせているメイド達。

 それは全員が元人間であって、今は魔人ケッセルリンクの使徒となった8人の女性達。

 

 シャロン。パレロア。エルシール。加奈代。

 バーバラ。アルカリア。リリム。ファーレン。

 

 以上の8名こそがランスのお目当て。

 彼女ら通称ケッセルメイドとは前回の第二次魔人戦争時に遭遇したのだが、その時には進軍の最中という事もあってアルカリアとリリムとファーレンの三名しか食べる事が出来なかった。

 なので今回は余す事なく、8名のメイト達全員をぺろりと平らげるつもりでいた。

 

「思い出すなぁ。お前のメイド達はみんな可愛かったよなぁ」

「………………」

「あぁ、セックスしてぇなぁ」

「………………」

「さーてケッセルリンク君。お前が何をすべきか、ここまで言えばもう理解出来るよな?」

「察するに……彼女達を差し出せ、という事かな」

 

 ケッセルリンクが答えると、魔王は我が意を得たりとばかりに口を開く。

 

「そのとーり! この世の全ての美女は俺様のものになるのだ。だからケッセルリンク、お前が手に入れた女も俺様によこせ」

「……ふむ」

 

 どうしたものか……と、ケッセルリンクは深い眼差しの奥で思考する。

 女を献上せよと命じられたのは初めての事だが、上位者たる魔王らしい命令ではある。

 となれば一人の魔人として断るべくもない命令なのだが……しかし。

 

「……さて、困ったね……」

 

 しかし……自分の元に身を寄せたあの子達は。

 彼女達は皆が厄介な事情を抱えている。それぞれが心に深い傷跡を抱えていて、だからこそあの子達は自分の元に来て使徒となる道を選んだ。

 故によこせと言われて、はいそうですかと差し出せるものでは無い。心情的には叶う事ならば断りたい場面なのだが……しかし。

 

「あ、メイド達を手放すのが惜しいってんなら別に断ってくれたっていいんだぞ? その時は力づくで手に入れるまでだからな。がーっはっはっはっはっはっ!」

「………………」

 

 まぁこうなる。当然ながら相手はこう言ってくるだろう。

 そしてこう言われてしまった場合、もはやケッセルリンクに抗う術など無い。

 いいやケッセルリンクはおろか誰しもが抗う事の出来ない存在、それが魔王。この世の全てを掌握する絶対的な存在なのだから。

 

「どうする? 素直に差し出すか? それとも一縷の望みに賭けて俺様に歯向かってみるか?」

 

 そう言ってランスはにやりと笑う。

 酷に過ぎる二択を突き付けながらの笑みは、まさに魔王の名に相応しい悪虐な表情で。

 

「………………」

 

 傷付いて、救いを求めてきた女性を救うのはケッセルリンクの性分。

 そして一度救いの手を差し伸べた以上、こちらから見捨てる事は出来ない。

 それだって性分であるし、なにより彼女達はもう自分と血を分けた使徒なのだから。

 

「……仕方ないな」

「お?」

 

 故にケッセルリンクは決断した。

 長らく沈黙に閉じていたその口をゆっくりと開いて……言った。

 

「では魔王様。シャロン達の代わりにこの私が貴方に抱かれましょう」

「とうっ!」

 

 びしーっ! と魔王チョップが炸裂。

 

「ふむ、さすがは魔王様。痛い」

「おい貴様ッ! 唐突にメチャクチャ気持ちワルい事を言い出すんじゃねぇ!! ああもうサブイボ出ちまったじゃねぇか!!」

 

 鳥肌の立った二の腕を擦るランスの一方、ケッセルリンクはおでこを押さえる。

 単なるツッコミとしてのチョップだったがしかしそこは魔王、その一撃には魔人四天王にすらダメージを与える確かな威力があった。

 

「ケッセルリンク、テメェがホモだってのはよく分かった。だが俺様は違う。よってテメェは先程の罪にホモ罪も追加して即刻処刑とする」

「違う。そうではない。魔王様、私は女性だ」

「俺様の配下にホモがいるなど冗談じゃ……え?」

 

 ──私は、女性だ。

 ふと聞こえてきたそんな言葉に、魔王ランスはぽかんとした表情になる。

 

「え? 女性? だれが?」

「私がです。魔王様」

「……お前、よくもまぁそんな真顔で丸分かりな嘘が吐けるもんだな」

「嘘ではない。本当だとも」

「そうか分かった。自分はオカマだって言いたいんだな? けどな、ノンケの俺様に言わせりゃホモだろうとオカマだろうと大差ねーんだよ」

「だからそうではない。ほら、これを見たまえ」

 

 するとケッセルリンクは先程チョップを食らった額の真ん中を指差した。

 未だ痛みの残るそこには青く輝く宝石が一つ。

 

「このように額にクリスタルを持つ『カラー』という種族の事をご存知ないか?」

「カラーぐらい知っとるわ。……って、まさか、それじゃあお前はカラーなのか?」 

「いかにも、私はカラーの魔人だ。そしてカラー種には女性しか生まれないという特色があるのだが、それについてはご存知か?」

「……知ってる。確かにカラーは女だけだ」

 

 長命で、額にクリスタルがあって、そして女性のみが生まれる種族。それがカラー。

 カラーの森に住むカラー達の事についてはランスも良く知っている。その内の一人とはうっかり子供まで作ってしまい、生まれてきた子供の性別もやっぱり女性だった。

 だからケッセルリンクに言われるまでもなく、カラー種とは男性が生まれない女性のみの種族だとはランスも知っていたのだが。

 

「……いや、でも待て、お前は何処からどう見たってオッサンじゃねーか」

「あぁ。だから私は元カラーであり元女性だ。魔人になる際に性別を変えて男性になったのだよ」

「魔人になる際に性別を変えたぁ? んな事が可能だってのか?」

「そのようだね。私もそれが出来ると知って魔人になったわけではないから、変えたというよりも結果的に変わったと言った方が正しいが」

 

 カラーの女性ケッセルリンク。彼女は魔王スラルの代に魔人となった。

 そしていざ魔血魂を飲み込む際、ケッセルリンクは魔王スラルを守る騎士となる事を望んだ。

 それが影響してなのか魔人としての肉体を手に入れた時、カラーではなくなって魔人となったケッセルリンクは男性の身体に変わっていた。

 

「……つーことは何か? お前は今でこそオッサンだけど元々は女だった。だから元々の姿に戻って俺様に抱かれるって事か?」

「そういう事だね。その代わりにシャロン達には手出し無用でお願いしたい」

「……ぬぅ。そうは言ってもなぁ……」

 

 ランスは顎の下に手を当て、値踏みするかのようにケッセルリンクの顔をじろじろ眺める。

 どうやらこのオッサンにしか見えない魔人は元々カラーの女性だったらしいので、元の姿に戻って自分とセックスするつもりらしい。

 なんとも自分の性別を軽視し過ぎというか、こいつはバイなのかと問いたくなる所だが、とにかくケッセルリンクはそのつもりのようで、代わりにメイド達は見逃して欲しいらしい……が。

 

「……ふぅん」

 

 しかしてそれは。その選択肢は自分にとってどれ程のメリットがあるというのか。

 

「なぁケッセルリンクよ。仮にお前が本当に元女だったとしてだ」

「本当だ。私とて魔人、魔王様に対して嘘を吐くつもりなど無い」

「だとしてもだ。お前が俺様のお眼鏡に適う女かどうかは分からんだろう。言っとくが俺様が女に求めるハードルは高いぞ? 最低でも50点は……いや、魔王になってどんな女でも食べ放題になった今、最低でも70点は欲しい所だ。お前はそれ程の美人だってのか?」

「ふむ、容姿の問題か。そうだね……基本的にカラー種は容姿端麗、私も見られない外見では無かったと思うが……さて、どうだったかな……」

「それにだ。それ以上に大事な事がある」

「というと?」

 

 そこでランスは口元をにたりと弓形に。

 さも魔王らしく酷薄に笑って、実に魔王らしい事を言い出した。

 

「簡単な事だ。仮に女に戻ったお前がセックスするのに問題無いレベルの美女だったとしてだ」

「うむ」

「そしたらお前の事を抱くだろ? ……けどなぁ、その上でお前のメイド達も全員食べたってなーんにも問題はねぇはずだよなぁ? なんせ俺様はこの世界を支配する魔王様なんだからよ」

「……確かに、その通りだね」

 

 言われて、反論する術のないケッセルリンクは静かに瞳を閉じる。

 相手は魔王。世界の全てを、自分も使徒もその全てを総取りにする事が許されている存在。

 ケッセルリンクとっては最初から交渉の余地すら無いような相手であり、出来る事と言えば魔王の機嫌を損ねないようにただお願いする事のみ。

 

「だよなぁ? そうだよなぁ!? がははははははーーっ!!」

 

 しかし生憎とこの魔王は極度の女好き。

 その他の事ならともかく、女性が関わる事については妥協するつもりは無いらしい。

 自分の願いも、使徒達の想いも無視して全てを我が物とするつもりなのだろう。あるいはそれを残酷な事だとも思っていないのかもしれない。

 

「ぐふふふ……さぁどうする? このままだとお前の大切なメイドちゃん達が俺様のものになっちゃうぞ~? いいのかなぁ~?」

「………………」

 

 にやにやと笑いながら、魔王は囃し立てるかのようにそんな事を言ってくる。

 こちらに選べる選択肢など無い事は分かっているだろうに、その上でこうして煽る事で自分の苦しむ顔を、悔やむ顔を見て悦に浸ろうというのか。

 そういう底意地の悪い姿は、性悪な趣向はまさしく魔王らしい姿だと言えるが──

 

(……しかし、どうかな)

 

 極度の女好きで、強欲で、酷薄で、底意地が悪くて、性悪な性格。それが新魔王ランス。

 ここまで話して見えてきた印象と言えばそういった一面だけだった……だが。

 

(それがこの男の本性ならば……シルキィがあれ程に心を許すとは思えない)

 

 あの時、ランスという人間の男について照れ混じりの表情で語っていたシルキィの姿。

 ケッセルリンクが興味を持ったのは話に聞いたランスという男以上に、旧知の相手であるシルキィの変わりようが気になったからだ。

 義心に厚いあのシルキィがこのランスという男と魔王になる以前から身体を重ねていたのなら、この男には魔人シルキィから認められて好意を抱かせるに足る「なにか」があるはずで。

 

(無論、魔王化に伴い性格などが変貌したという可能性も考えられるが……さて)

 

「……魔王様」

「なんだ?」

「貴方は魔王だ。たかだが魔人である私の事など気にせず魔王様のお好きになさると宜しい」

「ほう、潔いな。ではお前の使徒達は──」

「ですが」

 

 なのでケッセルリンクは危険を承知で少し試してみる事にした。

 ランスという男の、新たなる我らが王の本性というべきものを知る為に。

 

「その場合、この先私が貴方に対して忠心を抱く事は決して無くなるでしょう」

「あん?」

 

 するとランスの眉が不快げにぴくんと動いた。

 一方でケッセルリンクは表情を変えない。まっすぐその目を向けながら、告げる。

 

「誰にでも譲れぬものがある。それは魔王相手と言えども変わらない。少なくとも私にとっては」

「だったらどうだってんだ? 魔人のお前が魔王様に逆らって勝てるとでも思ってんのか?」

「いいえ。そうではありません。私は魔人として貴方に逆らう気など毛頭ありません。……ただ、貴方を上位者として敬意を以て見るに欠片も値せぬ魔王だなと感じるだけの事です」

「……あんだと?」

 

 ──上位者として敬意を以て見るに欠片も値せぬ魔王。

 それは丁寧な言葉遣いながらも、実質的には「お前はクソ野郎だ」と言われているに等しく。

 

「……おい。お前、さてはケンカ売ってんな?」

 

 イラッときたランスが恫喝するような口調に変わるが、それでもケッセルリンクは動じない。

 

「まさか。魔人の私では魔王様相手にケンカなど売りようがありません。ただ貴方に対して心から敬服しない事、魔人に許される事などその程度のささやかな反抗のみ。忠誠と忠心は別だという事です」

 

 魔王の言葉に従いはすれど、しかし従う心を持つかどうかは全く別の話。

 魔王の言いなりになるのが魔人とはいえ、その心の内まで言いなりになるとは限らない。

 魔王の座から逃げ出した来水美樹を認める魔人が少なかった事からも明らかなように、そういう事に関しては魔人と魔王であっても人間世界の上下関係と同じように成り立っている。

 但し魔王は魔人相手であれば強制的に従わせる事が可能となるので、たとえ魔人からの忠心が無くとも特段問題は生じないのだが。

 

「まぁ、所詮は一魔人の戯言に過ぎぬ話。大袈裟に捉える必要はありません……が」

「……が、なんだ?」

「……いえ。存外に魔王様は気にするのだなと思いまして」

「あん?」

「実に下らぬ話だなと一笑に付して構わないという事ですよ。なにせ貴方は魔王なのですから」

 

 魔人からの忠心など無くとも、魔王が魔王として世界を支配する事に支障など無い。

 だからこそ魔王を試す為の試金石となり得る。そう思ってケッセルリンクが試してみた所、どうやらこの魔王はその点に引っ掛かりを覚える程度には理性的なようで。

 

「それに……意外と怒らないのですね、魔王様は」

「そりゃ完全に気のせいだ。むしろ俺様はもうキレる一歩手前だぞ」

「一歩手前という事はキレてはいないという事でしょう。これ程に失礼な言動をする魔人がいたなら即刻処断したっておかしくは無いというのに」

「……ケッセルリンク。お前、失礼な言動をしとる自覚はあったのか」

「無論です。いつその拳が飛んできてもおかしくないと内心警戒していたのですが、こうなると……魔王様は見かけ程に粗野な性格をしているというわけでもないのですね」

「当然だろう。俺様は乱暴なだけのバカとはちが……っておい、見かけ程にとはどういう意味だ」

 

 ランスのこめかみにくっきりと怒りマークが浮かぶ……がしかしそれでも。

 未だこうして会話を交わせる程度の寛容さを有している。格下の存在である自分相手にも。

 

(やはりこの男は元が人間で人間社会の中で育ってきたからか、魔王となっても最低限の社会性を持ち合わせている。まぁ、本人にそのつもりがあるかどうかは不明だが)

 

 色眼鏡を掛けずに見ても性悪で粗野な性格をしている事は確かだが、しかしこの程度なら魔物界の基準で考えれば大した事では無い。

 魔物界の住人である一般的な魔物はもっと乱暴で残酷な性格をしている者だらけであり、それと比べればこの魔王は遥かに理知的で分別がある。

 

(王座の間で初めてその姿を見た時は傍若無人なだけの印象を受けたが、そうではないな。……というよりもこの男は恐らく……)

 

 これが初対面とはいえ、その観察眼は三千年以上の長い年月の中で培ってきたもの。

 それにより魔王ランスの性格や本性といったものをある程度把握したのか、ならばとケッセルリンクは少し攻めの手を変えてみる事にした。

 

「では魔王様、こういうのはどうでしょう。シャロン達に手を出すのは構いません。ですがその際に一つだけ約束を守って貰いたいのです」

「約束?」

「はい。彼女達に手を出すのは彼女達がそれを受け入れた時だけにして貰いたい。それさえ守って貰えれば私は何も言いませんし、魔王様の事を敬意を以て見るに欠片も値せぬ存在などと見なす事もございません」

「ぬ。受け入れた時っつうと……要はレイプはNGだけど和姦ならオッケーってことか?」

「まぁ、有り体に言えばそうですね」

 

 ランスのざっくばらんな物言いにケッセルリンクは大きく頷く。

 

「魔王様は先程、私がシャロン達を侍らせていると仰ったが……それは少し見方が違う。彼女達は自らの意思で私の下に居る事を選んでいる」

「あぁん? そりゃ自分がモテモテだって言いたいのか?」

「というよりもだね……彼女達は皆それぞれが心に深い傷を負っている。皆が痛みに、あるいは恐怖に、絶望に押しつぶされて、行場を失い寄る辺も無くしたからこそ私の下に身を寄せている。あの子達は私の下以外では生きる希望を見いだせない、そういう子達なのだよ」

 

 ある者は国が戦に負けた責任を取らされて、火あぶりにされるところを助けられて。

 ある者は野党に捕まり奴隷にされて、家族を殺されて発狂していたところを救われたりと。

 ケッセルメイド達は皆それぞれが過去に壮絶な体験をしている。そうした絶望の淵から救われたからこそ、ケッセルリンクの至上の主と決めてその使徒となる事を選んだ。 

 

「あぁ……そういやぁお前は可哀想な女の子を助けるのが趣味だったっけな」

「趣味というよりは性分かな。とにかくそういう訳で、私は庇護者として彼女達の意思を尊重してあげたいのだよ。故に彼女達が自らの意思で魔王様のものとなる事を選ぶのであれば構わない。それは私にとって歓迎すべき事だからね」

 

 自らの手元に押し留めておきたい訳ではない。自立するのであればそれでも良い。

 確かな本音を語ったケッセルリンクは、更に魔王の男心を擽るかのようにこんな言葉も。

 

「今でこそ笑えているが彼女達の心の傷は深い。それは私にも癒せぬものかもしれないが……しかし魔王様ならばどうか」

「ほう?」

「魔王様は大の女好きと聞く。であれば女性の扱いには慣れているのでしょう」

「そりゃもちろん。人間だった頃は世界一のプレイボーイと呼ばれたのがこのランス様だ」

「であれば私の使徒達を無理やり襲うような無体な真似はせずとも、男として正面から口説き落として抱く事だって出来るはずだ」

「……む」

「ここは是非とも魔王様の器量の大きさというものを私めに見せ付けて頂きたい。そうすれば彼女達の心の傷だって必ずや癒える日が来るでしょう」

「……むむむ、そう言われると……」

 

 ケッセルリンクによる見事なヨイショが効いたのか、魔王は腕を組んで悩み始める。

 襲う事は簡単に出来る。しかし口説き落として欲しいと言うならそうするのも吝かではない。特に最近はランス自身も和姦志向になってきているという事情もある。

 ただそれでも強姦を捨てた訳では無い。強姦と和姦にはそれぞれ違った趣があって、どちらの良さも知り尽くしているランスはさてどうしたものかと考え込んでいたのだが……。

 

「……ま、それはお前次第だな」

 

 そう言いながら顔を上げた。

 

「というと?」

「まずはお前を抱いてみてからだ。その結果俺様が満足したら多少はサービスしてやろう。けどお前が抱くにも値しないドブスとかだったら即ブッ殺してお前の使徒達を犯しにいく」

「成る程。確かにこちらがお願いをする立場である以上、先に誠意を見せるのは当然か」

 

 使徒達の主たる魔人である以上、先に身体を捧げてみろと言われたら断るべくも無い話。

 ケッセルリンクは頷き、そして真っ直ぐに魔王の目を見た。

 

「では魔王様。僭越ながら私がお相手致そう」

「うむ。……でケッセルリンクよ、一体どうやってオッサンなお前を抱けってんだ」

「あぁそうか、先に女性に戻らなければね。ただそれには魔王様のお力を借りる必要があります」

「俺様の?」

「えぇ。私には自らの性別を変える能力などはありませんから」

 

 ケッセルリンクの性別の変化は魔人化による影響であり、言うなれば魔血魂の力による影響。

 となると自分自身の事とはいえ、ケッセルリンク当人に解決出来るようなものでは無い。

 

「魔人とは魔王の血によって生まれし存在。魔王の血を魔人如きが操るなど不可能です。それが出来るのは魔王様以外にいないでしょう」

「つってもな。魔王の血を操る方法なんて知らんぞ。なんせ俺様まだ魔王になったばっかだし」

「恐らくですがそう難しく考える必要は無いかと。魔王の血とは魔王様の身体の一部なのですから、身体を動かす事と本質的には変わりません。私に触れて『元の姿に戻れ』とでも念じてくれればそれで宜しいかと思います」

「ふむ、そんなもんか。どれどれ……」

 

 立ち上がったランスはケッセルリンクの隣に立つと、その頭の上に手を乗せた。

 

「よーし。戻れ~、元の姿に戻れ~……」

「………………」

「戻れ~、戻れ~……オッサンの姿は捨てて美女だったあの頃の姿に戻りたまえ~~……」

 

 魔王が戻れと念じる事、数十秒程。

 絶対の支配者が命じた絶対なる意思はケッセルリンクの内にある魔血魂にまで伝わって。

 

「……お? おぉ、おおおお……!!」

 

 するとその身体から黒い粒子が湧き出す。それはすぐにケッセルリンク自身を覆い隠した。

 蠢くような闇の中、魔人化した際に変化した身体が元々の姿へと作り直されて……。

 

 そして──

 

 

 

「…………ふぅ。どうやら成功したようだね」

 

 深い闇が消え去って。

 そこにいたのは一人のカラー。

 

「──ッッめ……!!」

 

 所々金色の混じった水色の髪を短く揃えて、額にはカラーである事を示す青色のクリスタル。

 切れ長の目の奥には紅色の瞳を携え、鼻筋はすっと通っていて細長い耳がピンと伸びる。

 貴族然とした高貴な印象は全く変わらないその外見はまさしく──

 

「──ちゃ美人やんけッッ!!!!」

 

 と魔王が思わず叫んでしまう程、女に戻ったケッセルリンクはめっちゃ美人だった。

 

「……え、え……お前、本当にケッセルリンク?」

「いかにも。これがカラーだった頃の私の姿だ。どうだね、お気に召したかね?」

「召した召した! めっちゃ召したっ!!」

 

 なんという奇跡。キザったらしいオッサン魔人が美女カラーに変わるなんて。

 それも下限の70点を遥かに上回る美女。まさかの棚からぼた餅にランスはもう大興奮である。

 

「おっぱいもでけーし……まさかケッセルリンクがこんなにイイ女だったとは……!」

「ふむ。三千年前の自分の姿などとっくに忘れていたのだが、そう言われると悪い気はしない」

「つーかお前……何故オッサンの姿になんぞなっていたのだ。最初からそっちの姿だったら在庫処分セール送りにだってしなかったのに」

「まぁ、私にも色々と事情があったのだよ」

 

 女となっても、男だった時と変わらない優雅な所作でケッセルリンクは首を振って。

 

「……ところで魔王様、こうして女の姿に戻ったとはいえ、つい先程まで男の姿をしていた事に変わりはないのだが……それは気にならないのかね?」

 

 ほんの数十秒前まで男の外見をしていた女を抱く事に抵抗は無いのか。

 ケッセルリンクがそんな事を尋ねてみると、ランスは軽く手を振って答える。

 

「あぁダイジョブダイジョブ。俺様そういうの全然気にしないから。元男だろうと見た目さえ美人ならなーんも問題なし。つーかさっきまでのオッサン姿はもう記憶の中から消した」

「……成る程。さすがは魔王様。極度の女好きだと言われるだけの事はある」

 

 女性とは心ではなく身体で決まるもの。少なくともランスにとってはそうなる。

 過去にはJAPANで出会った最大の恐怖、不死鳥の使徒ですらも女になったのならいいやと抱いてみせたのがランスという男である。

 

「ではケッセルリンク君! お楽しみのお時間といこうじゃないか!」

「あぁ……そうだな」

 

 ランスは早速とばかりに美女となったケッセルリンクの手を取って。

 そして、魔王と魔人四天王は寝室のドアの奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ──そして。

 

「ぽへー……」

 

 熱く淫猥な戦いが終わって、ベッドには横たわる魔王の姿が。

 

「……ふぅ」

 

 そしてその隣、汗の浮かぶ身体を起こして息をついたケッセルリンクの姿も。

 

「女の身体でするなんて何時ぶりになるかも思い出せないが……具合はどうだったかな?」

「……うむ、グッドだったぞ。けっこう……いやかなりグッドだった……」

「そうかね。それは良かった」

「にしてもケッセルリンクよ……お前って中々のテクニシャンだな……」

「まぁね。年の功というやつだよ」

 

 そう言ってケッセルリンクはふっと妖艶に笑う。

 魔人四天王熟練の手練手管に翻弄されたランスはとてもスッキリさせられてしまったようだ。

 

「それで魔王様。先程の話を覚えているかな?」

「あぁ。お前の使徒達を抱く時はレイプはダメで口説いての和姦にしろって話だろ?」

「あぁそうだ。それで、返答は?」

「……うむ! いいだろう! お前のエロさ加減に免じてその条件を飲んでやろうじゃないか!」

 

 大満足になったランスはシャロン達を無理やり襲わないという約束を受け入れた。

 その答えを聞いてケッセルリンクも「そうか。飲んでくれるか」と安堵に胸を撫で下ろした。

 

「安心したよ。魔王様が配下の者に慈愛の心を向けられるお方で良かった」

「ふふん、そうだろうそうだろう。女性に対しては優しくするのがモットーでな、俺様は美女相手にはジェントルマンなのだよ。がはははは!」

「ほう、美女限定かね?」

「うむ。美女限定だ。男とブサイクはどうなろうと知ったことか」

「……そうか。どうやら君は私が想像していた以上に分かりやすい男のようだ。とどのつまり、君は食指の動く女性だけを愛しているのだね?」

「そうそう、そういう事」

 

 美人の女だけには特別に優しくする男、それがランスという新たな魔王。

 

「今回の話だってな、最初からお前がそっちの姿でお願いしていたら5秒で終わってたと思うぞ」

「成る程……君はある意味、私に似ているね」

「む、そうか?」

「あぁ、そうとも」

 

 決して博愛主義者ではない。特定の者にのみ向けられる大きな慈悲。

 それは救いを求めてきた女性だけを助けるのが性分である自分と似たようなものか。

 そんな事を考えながら、ベッドから下りたケッセルリンクは衣服を着直して。

 

「……時に魔王様」

「あん?」

 

 魔王の寝室から去る直前、感謝の意も込めてこれだけは伝えておく事にした。

 

「少し気になったのだが……貴方は魔王になってから女性を抱いたのはこれが初めてか?」

「ん? あぁ、言われてみればそうだな」

「ふむ、やはりそうか」

 

 魔王が返してきたYESの返事にケッセルリンクは神妙な顔で頷く。

 実際にはこれが初めてではなく、ガルティアの使徒達とすでにセックスをしているのだが、あの禁断のトビラの先にあったムシ姦の事はランスの記憶からは都合よく抜け落ちているようだ。

 

「では老婆心ながらに忠告しておくが……どうやら魔王になったばかりの貴方はまだ自らの力の扱いに慣れていないように見える。……率直に言って少し痛かった」

「な、なにィ!?」

 

 その言葉にランスはビックリ仰天。

 それもそのはず。行為が終わった後に女性から痛かったと言われるのは「あなたはセックスが下手くそね」と言われているに等しい訳で。

 

「バカな!! 人間世界のあらゆる性技を習得したセックスマスターであるこの俺が……! それともまさか魔王になった影響でエロテクレベルが下がっちまったってのか!?」

「テクの話ではなく力の加減の事だよ。ついでに言えば問題視するのはそこではない」

「というと?」

「つまりだね……魔人四天王である私だからこそ『少し痛かった』で済んだ。しかし私よりも肉体的に劣る存在を、例えば人間などを抱いた時に『少し痛かった』で済むか、という話だ」

「っ、それって……」

 

 その言葉にランスの表情が変わった。

 魔王の力。それがどれ程に巨大なのかを未だよく理解していないランスの一方、深く理解しているケッセルリンクは大真面目な顔で言う。

 

「少なくとも力の扱いに慣れるまでは気を付けていた方がいい。女性には優しくするのがモットーであるなら、行為の中で相手を潰してしまうのは本意ではあるまい。……では」

 

 そんな忠告を残して、ケッセルリンクは寝室から去っていく。

 

「………………」

 

 そうして一人残されたランスは。

 セックスの最中、熱中して腰を打ち付ける力が強くなり過ぎたあまりに相手の女性が……。

 

「……マジ?」

 

 そんなシーンを想像してみたランスは、引きつった顔で呟いて。

 

「っ、シィィール!!」

「はーい! どうしました、ランス様?」

 

 直後大声で奴隷の名を呼んだ。

 すると打てば響くとばかりに部屋の外で受付役をしていたシィルがやってきた。

 

「シィル。するぞ。服を脱げ」

「えっ、あ、え、でも、あの、まだメガラスさんの面談が残ってますけど……」

「メガラス? あぁ、まぁあいつはいいや」

「あ、処分無しで良いんですか?」

「うむ。あいつは男っつうよりムシだからな。それにもう個人面談するの飽きた。てな訳でとっとと服を脱いでこっちに来い」

「……はい」

 

 

 そしてランスはシィルを抱いてみた。

 ケッセルリンクの忠告通りに、力を出しすぎないよう注意してそーっとそーっと。

 

 すると抱くことには抱けた。

 魔王であっても人間のシィルとのセックス自体は可能だった。

 

 しかし力を抑えながらのセックスではあんましスッキリとしない。

 意識的に躊躇してしまってノれない為、どぱーっと皇帝液を出した時の気持ちよさが足りない。

 これはケッセルリンクの言う通り、力の扱いに慣れる必要があるなと感じたランスだった。

 

 

 

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