新しき王の誕生。
となれば新しきものが必要である。
手垢の付いた中古物件よりも、どうせなら新築物件に住みたいと考えるのが人の性。
それ故この旧魔王城を──築千年に及ぼうかという古臭い城は捨てて、新しい城を建設する。
それも歴史上例を見ない程に雄々しく偉大な城、歴代最強の魔王である自分に相応しい城を。
この世界で一番高い標高を誇る翔竜山に。遥か頂きから我が威光を遍く照らさんが為に。
それが新魔王城建設計画、改め──
アメージング城(魔人ホーネット命名)建設計画である。
「……あの」
「なんだ?」
「ここの『(魔人ホーネット命名)』という注釈は必要なのでしょうか」
「そりゃいるだろ。だって実際問題お前が命名したんだし」
「それはそうなのですが……」
アメージング城建設計画、その計画書に書かれている注釈を睨みながら。
不承不承といった表情のホーネットは自ら命名したその名を口にする。
「何度も言いますが……これは魔王である貴方が住む城になるのですから。アメージング城という名に少しでも引っ掛かりを覚えるのであれば別の名に変えられては……」
「いいや変える必要は無いぞ。これはこれでおもろい気がしてきたからこのままでいい」
「……そうですか」
おもろいとは。どうも好意的な意味合いではないような気がしてならない。
というかそれはからかいの意味合いなのでは……と思いはすれど、しかし当の魔王がこのままで良いと言っている以上口を挟む余地も無い。魔人筆頭はただ眉間に皺を寄せるのみである。
「……そんで、ここをこうして……こっちはこれぐらい尖っててだな……」
一方、魔王ランスはペンを握ったその手を軽やかに滑らせていく。
「こっちにも同じのがあって……ここには旧ランス城のテイストを残すような感じで……」
「………………」
「かきかきかきーっと……よーし出来たぞ! こんな感じでどうだ!!」
此度創るは新たなる魔王の居城。なのでそのデザインは魔王自身の手に委ねられた。
という事で魔王ランス渾身の画、アメージング城外観(完成予想図)の出来上がりである。
「……これは……」
「カッチョいいだろ?」
「……えぇ」
その出来栄えといえばハッキリ言って子供の落書きに毛が生えたレベルか……否。
その名に違わずとってもアメージングな出来栄えであったが……ともあれ。
「まぁ……外観はさておき」
「さておきとはなんだ」
「いえ……にしても覚悟してはいましたが、やはり途轍もない規模の城になりそうですね」
アメージング城完成予想図、そこに描かれた城の中心を貫くのは翔竜山そのもの。
山肌を削り取って内部スペースを確保しつつ、山全体を覆い被せて一回り大きくするような形で描かれているアメージング城外観。
ランスが描き上げたこれを参考設計図として建設に取り掛かるとなると、歴史上類を見ない程の大規模工事になるであろう事は簡単に予想が付いた。
「下層か、せめて中層までを範囲とするなら工期も大幅に短縮出来るとは思うのですが……」
「それは駄目だ、頂上までいくぞ。じゃないと世界一高くて偉大な城にならないだろう」
「……そうですか。まぁ、貴方がそう言うのであれば勿論その通りにはします。ただし自ずと完成までの工期は伸びてしまいますから、そこだけは理解して下さいね」
天に届かんばかりの翔竜山の頂、その標高はなんと12000mを誇る。
その下層から頂上まで、全域を城郭とするとなればどれだけの時間とコストが掛かるか。
最上層付近は足場も悪くて空気が薄かったりと障害も多く、今回のアメージング城建設計画の責任者の一人であるホーネットにとっては工事計画を立てるだけでも一苦労。ただそれでも魔王がやると言っている以上はやるしかない。
「それでもなるべく早く完成させろよな。なんせ人手だけはたっぷりとあるんだし」
「はい、それは分かっていますが……」
そんなアメージング城建設計画の労働力、それは言わずもがな魔物兵達である。
標準的な人間よりも腕力や体力に優れ力仕事に向いており、魔物兵スーツを着ればどんな魔物であろうとも魔物兵になる事が出来る。その上魔物隊長や魔物将軍、あるいは魔人が指揮を執れば組織だった動きも可能。
このように労働力としては人間よりも勝る点が多くあるのが魔物兵。そんな魔物兵の中身といえは当然魔物であり、魔物とは魔王に絶対服従を誓う存在である。
「魔物ってのは数だけはアホみたいにいるからな。あの雑魚共を24時間ぶっ続けで働かせまくれば普通より遥かに早く城が建つはずだ」
「24時間、ですか。ちなみに報酬などは……」
「ない」
労働時間は24時間。日当は無し。
「ですが……休み無しの上に無給となると……さすがに作業効率が落ちると思いますが」
「んじゃアメちゃんでも配っとけ。魔王様直々の褒美となりゃ泣いて喜ぶだろう」
「………………」
労働時間は24時間。日当は無し、改め……アメちゃん一つ。
そんな過酷な条件で働かせられる魔物兵達が不憫でならないが、しかし魔王ランスがそう命じている以上は従う他に選択肢は無い。
当たり前だが魔物とて魔の一員であり、彼等をどう扱うかは魔王次第。特に絶対命令権というものがある以上、魔族の支配構造というのは時に人間世界のそれよりも遥かに残酷だった。
「……当面の所は投降した元ケイブリス派魔物兵達を働かせましょうか。未覚醒とはいえれっきとした魔王である美樹様の命を狙ったケイブリス派の行いを考えれば、新しい魔王様の居城の建設に従事させるのは罰として相応しいですからね」
「なるほど。たしかにケイブリス派は魔物兵の数だけはスゴかったからな」
「えぇ、カスケード・バウの最終決戦を生き残った者達でも80万を越えますから。そちらのローテーションなどもおいおい考えるとして……ランス、貴方の意向としては居所だけでもなるべく早くアメージング城の方に移したいのですよね?」
「うむ」
ランスは軽く頷いた。
早期の引っ越しの実現。これは此度の建設計画における最優先事項となっている。
「あっちに居た方がなにかと便利だからな。シャングリラにも近いし」
「ではアメージング城全体の完成よりも先に移住を済ませてしまうとして……その為に最低限必要となる居住エリアの建設から、早速工事に取り掛かる事にします。下層や中層までなら魔物兵だけでも活動出来ますから」
「おう。パッパとやれよ。パッパとな」
という事で、アメージング城建設計画開始である
「全隊──並べッ!!」
その日から翔竜山の麓一帯には大勢の魔物兵が集合し、登山客などは瞬く間に追い出された。
そして山全体をぐるっと囲うように『工事中!』の看板が立てられる事となった。
「第一、第二作業部隊、準備完了しました」
「……あぁそう。んじゃ作業開始で」
働き手となるのは万を超える数の魔物兵部隊。
するとその上官たる者にも相応の地位と力が必要とされる。さもなければ魔物兵達は組織だった行動が出来ないという特色がある為、必然的に彼等の出番となる。
「……はぁ、なんで僕がこんな事を……」
という事で、名誉ある現場監督の任を仰せつかったのはこの男、魔人パイアール。
彼は魔王様から直々の拝命を受けて研究所から引っ張り出されてきた。この建設作業はケイブリス派に属していた者達への罰という事を差し引いても、こういった面倒な役回りは男の魔人がやらされるのが現魔王軍の方針である。
「……翔竜山、か。まぁ事前調査の結果地盤の硬さには問題無かったから、山全域を城に改造する事も不可能じゃないだろうけど……」
作業要項などが書かれている建設計画表を眺めながら、はぁと息を吐くパイアール。
「にしてもこの……デザインはまぁ置いといて。この建設規模はさすがに……全長12000mにもなる城なんか作ってどうするんだか」
デカい。ひたすらにデカいアメージング城。
この城なら魔王の偉大さを誇る象徴としての役割は存分に果たせるだろうが、一方で実際に住んだ時の居住性は考えられているのだろうか。
ここまで縦長だとどう考えても移動に不便。となるといずれは城内にエレベーターを設置する必要に迫られるかもしれない。となるとその電力を何処かから確保しなければならない。
自分が設計に携わる以上、胡散臭い魔法器具や魔池なんかには頼りたくない。純粋な科学による安定した電力供給を実現するとなると付近に発電所を作る必要がある。すると発電システムは何を採用すべきか……などなど、魔人最高峰の頭脳が考えなければならない事は山積みである。
「まったく、僕の頭脳は姉さんの病気を治す為だけに存在しているってのに………」
面倒くさい。とにかく面倒くさい……が、だからと言って逃げ出す訳にもいかない。
馬車馬のように働く魔物兵と同様、魔人であろうとも魔王の前では平伏する他に道はなかった。
こうして。翔竜山の方では現場監督となった魔人パイアール主導による建設工事が始まって。
一方で……旧魔王城内でも。
「新しく建てる俺様のアメージング城は新しくておニューな城になる。そうだな?」
「そうですね」
「となると外側だけじゃなく、中身まで全てを新しくする必要がある。だからこの古くてカビ臭い旧魔王城の中にあるものなんか持っていかないのだ」
「はぁ」
古い物品の持ち越しは──無し。
「……が、みすみす捨てるのも勿体無いのは事実」
「はぁ」
「つーわけで、この城に残っている金目のものは全て運び出せ。せっかくだし俺様が貰ってやろうじゃないか、がははは!」
が、宝物庫に眠る古く千年前から溜め込んだ金銀財宝、宝物や貴重品などは例外。
更には早期の引っ越しを目指す以上、数多ある生活必需品全てを新調するのは時間が掛かる為、それらも持ち越しが決定。
「よいしょ、よいしょっと……」
という事で。翔竜山での建設工事と並行して、旧魔王城内では荷造り作業が行われていく。
その光景はこの……魔人筆頭の部屋でも。
「……ところホーネット様、引っ越しの日時は決定したのですか?」
「いえ、そちらはまだ……現状はパイアール次第といった所でしょうか。それでも最低限の環境が整い次第生活の場を移す事になります。魔王様が早目の引っ越しをご所望ですからね」
「成る程、それで先に梱包作業を済ませてしまおうという事ですか。この魔王城はこの魔王城で大きいですし、今は空き部屋も多いですからねぇ」
「えぇ。ですから不要な調度品などは梱包する前に整理してしまった方が良いでしょうね」
いらないものは捨てて、いるものは引っ越し用のダンボール箱の中へ。
このような引っ越し作業の大部分は城内で活動するメイドさん達の仕事になるのだが、さすがに自分の部屋ぐらいは自分でやるべき。という事で自分の部屋を整理整頓中のホーネットとその使徒達である。
「問題は家具ですよねぇ。引っ越しまではこちらで使用しなければならないですし、どれも大きくて嵩張るので運搬も手間ですし……」
「そうですね。ですが魔王様のおわす魔王城となれば最高級の家具で揃える必要があります。その全てを新調するのはそれこそ手間ですから、こちらにあるものを持っていくしかないでしょう」
特に魔王城は部屋数が多く、新築のアメージング城に至っては旧魔王城のそれを超える設計。
理想を言えば全ての家具を腕の良い職人達に一つ一つ作らせたい所だが、そんな事をしていてはどれ程の時間が掛かるか。
何事にもせっかちな新魔王ランスが早目の引っ越しを望んでいる以上、妥協すべき点は妥協する……というのがアメージング城建設計画の責任者であるホーネットとウルザの共通見解だった。
「……あ、そうだ。整理ついでに聞いておきたいのですが……ホーネット様」
「なんですか? ケイコ」
「急遽始まったこの引っ越し計画ですが、御自身のお気持ちの整理は付いているのですか?」
「というと?」
「いえ、この場所を離れる事に関して、葛藤などは無かったのかと思いまして」
「あぁ、そういう事ですか……」
部屋の整理よりも先。気持ちの整理は如何に。
「……そうですね」
するとホーネットは目を細めて、遠くを見るような目で部屋中を見渡す。
「ここは私が生まれ育った場所ですからね。当然ながら思い入れはあります」
ホーネットが生まれて、ホーネットが育ち、ホーネットが生きてきた場所、旧魔王城。
約100年に及ぶ人生の殆ど全てを過ごしてきた場所であり、今は亡き父の思い出が残る場所。
ホーネットにとっては思い入れがあるどころか、この城の全てが思い入れだらけな場所である。
「特にここには父上の部屋もありますからね。あの部屋の管理は私の役目の一つですし、ここに居続けたい気持ちが無いと言えば嘘になります」
「ホーネット様……」
「……ですが、今の私が仕えているのは父上ではありませんからね。今の魔王様であるランスが居を移すと宣言したのですから、魔人筆頭の私がそれを拒むべくもないでしょう」
とはいえ。そんな思い入れよりも、ホーネットにとっては忠誠心の方が上回る。
魔人筆頭として、自身の感情よりもそっちの方がどんな時でも上なのである。
「郷愁を感じる事もあるでしょうが、きっとその内に慣れるでしょう。ですから気持ちの整理はもう付いていると思います」
「……そうですか」
「えぇ。それに……ここで長らく生活していたのは私だけではありませんからね。ケイコ、貴女だってもう80年近くになるのでは?」
「そうですね。ですから私は正直に言って引っ越すのは寂しいです。ぴえんです」
ですが、とケイコは呟いて。
「主のおわす場所こそが、つまりホーネット様の居る場所こそが私の居場所ですから」
「成る程……それでしたら、私も同じ気持ちです」
忠誠心から来る言葉に、ホーネットも少しだけ口の端を曲げて答えた。
「……さて、それでは作業を進めましょう」
「はい。チャッチャとやっちゃいましょう」
「ではケイコには寝室を任せるとして……リツコ、そちらに飾ってある調度品類は無くても平気なのでしまって下さい。マツタロウは資料室の棚を上段から順に整理して……」
「あぁ、駄目ですホーネット様。ここに来て新キャラの名前など出してはいけません」
「新キャラ?」
時折のたまうケイコのよく分からない言葉を耳にしながら。
新キャラではない使徒達の手も借りて、ホーネットの部屋の荷造りは進められていった。
こうして──その後も梱包作業は進んで。
日を追う毎に、旧魔王城内の至る所には引っ越し用の梱包済みダンボールが並ぶようになって。
旧魔王城に住んでいる多くの者達が引っ越しの準備に追われていた──
──そんな、ある日の事。
「魔王様。以前からの懸案ですが……翔竜山の最上層まで工事の手を入れるとなると、やはりドラゴン達を無視する事は出来ません。あの山に棲むドラゴン達は主に上層を根城にしていますから」
「そうだな」
「穏便に退去を迫る方法をウルザさんと検討してはみましたが、どれも難しいだろうとの結論が出ましたので……当初の予定通り、退去命令に従わないドラゴンは討伐する方針でいきたいと思います。つきましてはその許可を頂きたく」
現場監督からの報告書を片手に、滑らかに申し述べる魔人筆頭。
「いいぞ、許可する。一匹残らず蹴散らしてやれ」
「分かりました。この任は魔人でないと不可能ですから主にガルティアと、つい先日人間世界から戻ってきたレイに任せる事にして……当面は下層、中層の工事を優先するのでどれ位先になるかはまだ分かりませんが、ドラゴン達の掃討が済み次第、ゆくゆくは上層の工事にも着手します」
「うむ」
「そして次、中層部に建設中の居住エリアについてですが……工事は順調に進んでいます。具体的な引っ越し日時に関してはガスや上下水道などの設備が整い次第──」
相変わらずの王座の間にて。
ランスがアメージング城建設計画の進捗報告を受けていた──そんな時だった。
「ふにゃーーーーーー!!!!」
「ぎゃわーーーーーん!!!!」
「あん?」
なにか聞こえた。
遠くの方から聞こえてきた甲高い絶叫のような響きに、魔王ランスは首を傾げた。
「なんだ今の、誰の声だ?」
「……今のは、もしかして……」
思い当たる節のないランスの一方、どうやらホーネットにはピンと来るものがあったようで。
そして、数分後。
「……あのー」
「おぉ、どうしたお前ら。揃いも揃って」
王座の間の扉が開いて。
入ってきたのは魔人サテラ、魔人シルキィ、魔人ハウゼル、そして魔人サイゼルの4名。
「魔王様、実は……これが」
「これ?」
そして。ちょっと困惑した表情のシルキィが連れてきたのは。
その両手をしっかりと拘束して、連れてきたというよりも連行してきたのは……その二匹。
「わんっ!」
特徴的な大きな犬耳。
常にホネっこを咥えているわんわん──その名は使徒ケイブワン。
「にゃんっ!」
特徴的な大きな猫耳。
肉球の付いた大きな手を持つにゃんにゃん──その名は使徒ケイブニャン。
「わんわんっ! わん達はこんな扱いを受ける謂れは無いわん!」
「にゃんにゃんっ! シルキィ、放せにゃん!」
そんな二匹が居た。四人の魔人達にとっ捕まっていた。
「なんだ。なにかと思えばわんにゃんじゃねーか」
「はい。つい先程、この二人が正面玄関から堂々と乗り込んでくる所を発見しまして」
「魔王様、きっとこいつらは侵入者です。引っ越し作業中のごたごたに乗じてこの城に忍び込もうとしていたのです」
「……と、サテラが言いまして。一応は元ケイブリス派の幹部でもありますから、この通り捕獲して連れてきた次第なのですが……」
魔王城に忍び込もうとしていた侵入者。その目的は物取りか、はたまた怨恨による復讐か。
……などと考えたサテラもいたようだが、しかし当人達の主張は異なるようで。
「せっかく持ってきてやったのにとっ捕まえるなんてヒドいわん! 横暴だわん!!」
「そうだにゃそうだにゃ! にゃあ達は正当な客人だにゃん! 待遇改善を要求するにゃん!!」
「……との事でして。どうやらこの二人、魔王様に用事があるそうなのですが……」
「用事?」
「そうだわん!!」「そうだにゃ!!」
威勢よく声をハモらせる二匹のわんにゃん。
それは最強最古の雄、今は亡き魔人ケイブリスが作り出した二匹の使徒達。
「魔王様!」「魔王様!」
「なんだ」
派閥戦争にて主を失った使徒達が。
こうして魔王城にやって来た用事とは──
「約束通り、ケイブリス様を復活させてもらいにきたわん!!」
「きたにゃん!!」
堂々と告げた──魔人ケイブリスの復活。
ケイブワンとケイブニャンにとっての宿願、それが叶う日が遂に訪れたのだ。
「……あぁ~~ん? なーんでケイブリスなんぞを復活させにゃあならんのだ」
一方、そんな宣言を耳にした魔王ランスは大いに眉を顰めた。
魔人ケイブリスとは。数ヶ月前、派閥戦争の最終決戦にて戦ったケイブリス派の首魁。ランス自らの手で討伐した魔人四天王の一人。
前回の時には魔軍を率いて人間世界を蹂躙しようと侵攻してきた因縁の相手でもある。当然ながらランスにとってはケイブリスを復活させる理由なんて何一つ無い。ある訳が無い。
「つーか約束通りってのはなんだ。俺様はお前らとそんな約束なんてしとらんぞ」
「ウソだわんっ! ちゃんと約束したわーん!」
「アホか。あのバカリスを復活させる約束なんてするわきゃねーだろっての。バカバカしい」
「したにゃーー!! 魔王様がウソを吐くなんてヒドいにゃーー!!」
「ヒドいのは勝手な記憶を捏造するお前らの残念な脳ミソの方だ。まったく……」
関わってられるかとばかりにランスは首を振る。
使徒ケイブワンと使徒ケイブニャン。この二人はおつむが弱い、つまりはアホである。
アホだからこんな事を言う。どうせ夢か何かで見た記憶を現実とごっちゃにしているのだろう。
……と、ランスはそう思っていたのだが。
「ホーネット、こいつらをどっかに捨てて──」
「………………」
「……ぬ?」
しかし、隣に居たホーネットの表情が。
「………………」
「……ぬぬぬ?」
それを指摘するべきか。あるいは閉口したままでいるべきか。どうするべきか悩むような。
何かを言いにくそうにしている複雑な表情をしていて。
「……ホーネット」
「……はい」
「まさか、俺様……んな約束してたっけか?」
「……そう、ですね。したのかしてないのかで言えば……していたと思います」
「……マジで?」
驚きに目を瞠るランス。
魔人ケイブリスを復活させる。どうやらそんな約束をしていたらしい。
サッパリ思い出せないけどホーネットは覚えていたらしい。
「え、それっていつの話だ?」
「ほら、覚えていませんか? ちょうど二ヶ月程前にもこんな事がありましたよね?」
「……あったっけ?」
「あったんだわん!! ほらこれ! 証拠のブツだわん!!」
「あん? なんだそりゃ?」
これが証拠のブツ。そう言ってケイブワンが懐から取り出したのは……ガラス製の小さな小瓶。
その中には赤色の液体が入っている。はて一体これはなんだろうとランスは眉を顰めて──
「……あ。これってまさか……」
「そうだわん! そのまさかだわん!!」
それは──魔人ケイブリスの命運を握るアイテム。
「……あー」
それは──今から二ヶ月程前の事。
まだアメージング城建設計画が始まっていなかった頃の事。
確かに自分は言った──魔人ケイブリスを復活させてやろうじゃないか、と。
この二匹とそんな約束をした……あの日の事をランスは思い出した。