ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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復活のK

 

 

 

 

 

 

 

 それは──今から二ヶ月程前の事。

 昼下がりの穏やかな魔王城内。その清閑な空気を引き裂くように、

 

「ふにゃーーーーーー!!!!」

「ぎゃわーーーーーん!!!!」

 

 突如そんな絶叫が上がった。

 

「今の悲鳴は……」

 

 そう呟いたのは魔人ホーネット。

 今の悲鳴は何か。それが聞こえてきたのはこの城内にある部屋の一つから。

 より具体的に言うと、少し歩いた先にあるホーネット自身の部屋の中からのようで。

 

「どうしました、何かあった……って、ケイコ、それは……」

 

 ホーネットが自室のドアを開けると、

 

「あぁ、ホーネット様。お気になさらず」

 

 出迎えたのは誇らしげな筆頭使徒ケイコの姿。

 

「見ての通り、今夜の晩飯を捕まえただけです」

「……晩飯?」

「はい。新鮮なにゃんにゃん肉とわんわん肉です。きっと美味しいですよ」

 

 そう言ってにんまりと微笑むケイコ。 

 その両手には……それが。

 

「離すにゃーー!」

「助けてー! 食われるー!!」

 

 じたばたと暴れながら泣き叫ぶにゃんにゃんとわんわんがいた。

 

「よしよし、実に活きが良いわんわんとにゃんにゃんですね」

「いえ、ケイコ……貴女が捕まえているのはケイブワンとケイブニャンですよね?」

 

 大きな犬耳。常にホネっこを咥えているのが特徴のわんわん、使徒ケイブワン。

 大きな猫耳。肉球の付いた大きな手が特徴のにゃんにゃん、使徒ケイブニャン。

 

「ふにゃーーー!!」

「ぎゃわーーん!!」

 

 今は亡き魔人ケイブリスが作り出した使徒達、先程からの悲鳴の主はこの二匹。

 その細い首根っこが使徒ケイコの右手と左手それぞれでガシッと鷲掴みにされていた。

 

「ホーネット様、こいつらは賊です」

「賊?」

「はい。どうやらこいつらは愚かにもホーネット様のお部屋に忍び込もうとしたようでして」

「私の部屋に……あぁ、成る程。となると狙いはケイブリスの魔血魂ですか」

「えぇ、恐らくは」

 

 ホーネットとケイコが瞬時に見抜いたケイブワンとケイブニャンの狙い。

 それは魔人ケイブリスの魔血魂を入手する事──すなわちケイブリスを復活させる事。

 

 魔人ケイブリスは派閥戦争の最終決戦に敗れて討伐され、魔血魂となった。

 しかし魔血魂になった魔人は休眠状態であって死んだ訳ではない。その魔血魂を適正の合う者に飲み込ませば復活する事が可能である。

 そして魔人を復活させる事、それは使徒の最たる役目と言える。そこはケイブワンとケイブニャンも例外ではなく、二人は派閥戦争終了直後からケイブリスを復活させようと画策していた。

 

 がしかし、ケイブリスを復活させる為にはケイブリスの魔血魂が絶対的に必要となる。

 派閥戦争の幕引き以降、ケイブリスの魔血魂はホーネットが管理していた。これまで敵対していた派閥の主に魔血魂を返してくれと素直に頼んだ所で返してくれるはずもなく、となれば盗み出す以外に手段は無い。

 そこで今回ケイブワンとケイブニャンはケイブリスの魔血魂を手に入れる為、ホーネットの部屋に忍び込もうとしていた所……ケイコの千里眼によって捕捉されてあえなく御用となった、という顛末のようだ。

 

「全く、あろう事かホーネット様のお部屋に忍び込むなど不届き千万。こんな賊共は即刻成敗致しましょう。具体的には鍋にしましょう」

「ぎにゃーー!! やめてにゃーー!! ねこなべだけはイヤだにゃーーー!!」

「ふふっ、これだけ元気ならさぞや美味しいダシが取れるでしょうね。ケイコ楽しみです」

「ケイコ。さすがにケイブワンとケイブニャンは食べられないと思いますが」

「いいえホーネット様、私なら大丈夫です。わんわん肉とにゃんにゃん肉は大好物ですので」

 

 ケイコは捕らえた二匹の犬猫を物理的に食べる気満々らしい。

 それがケイブワンとケイブニャンの最期なのか。捕まった賊の末路は哀れなものである。

 

「ケイコーー! わん達はお互いに使徒、使徒仲間でしょーー!?」

「そうだにゃそうだにゃ! 仲間なのにゃ!!」

「えぇその通りです。私達は使徒という絆で結ばれた使徒仲間ですね」

「だったら──!」

「ですが。私はたとえ仲間であっても必要とあらば食います」

「こいつ怖いにゃーー!!」

 

 堂々と言い切ったケイコは捕らえた二匹の犬猫を食肉に加工する気満々らしい。

 それが筆頭使徒の覚悟というものか。ケイブニャンとケイブワンはもう半泣きだった。

 

「ぐ、ぐぬぬぅ……それでも、それでもにゃん達はここで食われる訳にはいかないのにゃん!」

「そうだわん! ケイブリス様を復活させるまで、わん達はノンストップ止まらないんだわん!」

「全く、そのような事をホーネット様と私が許すとでもお思いですか」

 

 主ホーネットの意見まで代弁して、やれやれと首を振るケイコ。

 魔人ケイブリスの復活。それに賛同するつもりなどホーネットとケイコには一ミリも無い。いいやこの二人に限らず、元ホーネット派所属の者達ならほぼ全員が首を横に振るだろう。

 そしてここ魔王城は元ホーネット派の本拠地だった場所。今現在城内に居る者達は元ホーネット派の者だらけ、元ケイブリス派のケイブワンとケイブニャンにとっては味方のいない針の筵のようなもの。

 

「ええい、お前らじゃ話にならないわんっ! 今すぐわん達を魔王様に会わせるわん!」

「魔王様? 魔王様にお会いしてどうしようというのです」

「そんなの決まってるにゃ!! リス様を復活させて下さいって直訴するんだにゃん!」

「お前らホーネット派のヤツらと違って、魔王様ならわん達の味方をしてくれるはずだわん!」

 

 となれば二人にとって、この魔王城で頼れるのは魔王様のみ。

 新魔王ランスとて元はホーネット派。しかし派閥のいざこざなどを超越した存在である魔王様であれば、主を失った可哀想な使徒の味方をしてくれる可能性だって十分にあり得る。

 ……とそんな小さな希望に縋ってでも、主を復活させたいと願うのが使徒というもので。

 

「との事ですが……どうします?」

 

 言いながらケイコはホーネットの顔色を伺う。

 そしてケイブニャンとケイブワンの視線もそちらへと向いて。

 

「そうですね……分かりました」

 

 一人と二匹の使徒達の視線を受けながら、魔人筆頭は静かに頷いた。

 

「では私は魔王様に声を掛けてきますので、ケイコはその二人を王座の間へ連れていって下さい」

「……宜しいのですか?」

「えぇ。事が魔血魂に関わる話であれば私の判断で決する訳にはいきません。ケイブリスの魔血魂の処分については魔王様がお決めになる事ですから」

 

 と、いう事で。

 

 

 

 

 

「あぁ~~ん? なーんでケイブリスなんぞを復活させにゃあならんのだ」

 

 所変わって王座の間。ホーネットに呼ばれてやってきた魔王ランス。

 王座にでんと腰掛けながら吐いた台詞は、偶然にもその二ヶ月後に自らが呟く台詞と全く同じ。

 

「……お、お初にお目にかかりますわん、魔王様。わん達は魔人ケイブリス様の使徒で……わんの名前はケイブワンと申しますわん」

「にゃ、にゃあはケイブニャンですにゃん」

「んなこた知っとる。今更自己紹介などいらんわ」

 

 そんな魔王の眼前には。緊張と畏怖のせいか身体を小さく震わせる犬猫達。

 床に額を擦り付ける勢いで平伏する二匹の使徒、ケイブワンとケイブニャンの姿が。

 

「では、その、率直にお願いしますわん」

「なんだ」

「魔王様。わん達の主を……ケイブリス様を復活させて下さいわん……」

 

 縋る。

 

「どうかお願いしますにゃ。魔王様の御慈悲をにゃあ達に……なにとぞ、なにとぞ……」

 

 ただただ縋る。

 

「わおん……魔王様ぁ……」

 

 とにかく縋る。

 魔血魂を盗み出すのに失敗した以上、残るは魔王様に縋り付くしか方法はない。

 

「うにゃにゃあ……魔王様ぁ……」

 

 魔王とは世の頂点に立つ存在。この世界全ての事柄に対する決定権を持つような存在。

 となれば。魔王の許可さえ得られれば魔人の復活などは容易い事。たとえこの城内にいる元ホーネット派の者達全員が反対したとしても、魔王さえ頷いてくれれば二人の望みは叶うのだ──が。

 

「やだ」

 

 魔王の返答はたった二文字。

 

「そもそもケイブリスはこの俺が手ずからぶっ殺してやった相手じゃねーか。なぁホーネット」

「えぇ、そうですね」

「それをどうして復活させる必要があるってんだ。バカバカしい」

 

 吐き捨てるように告げたランスにとって、魔人ケイブリスとは。

 男で、リスで、生意気で、ロクでもない性格で、前回の時から引き続き今回も色々と手間を掛けさせてくれたムカつく相手。

 そんな魔人を復活させる理由など一ミリも無い。元ホーネット派として戦っていた分、その辺の思考はランスもホーネット達と共通していた。

 

「そ、そんなぁ……! そこをなんとかお願いしますわん、魔王様ぁ……!」

「うるさい」

「ケイブリス様を復活させてくれたら……にゃ、にゃあ達の身体を好きにしていいから……っ!」

「いらん」

「そ、そんな!! 新しい魔王様は大の女好きだって聞いてたのに……!」

「それはその通りだぞ。けどな、お前らみたいなちんちくりんを女とは言わん」

 

 そしてこの使徒達も。

 性別上は女だが、使徒で、わんにゃんで、ちんちくりんなので抱きたいとは思わない相手。

 ランスは抱ける女に対しては優しくもなるが、抱けない女に対しては優しいわけではない。

 そして将来性も見込めない使徒である以上、ケイブワンとケイブニャンはランスの中では『興味なし』のカテゴリーに分類される。それは扱い的に男と大差ないのである。

 

「うぅぅ~……計算外だわん。わん達が色仕掛けをすれば絶対イケると思ってたのに……」

「アホか。俺様に抱かれたいならホーネットやハウゼルちゃんレベルとまでは言わねーが、せめてサテラぐらいの色気を身に着けてから出直してこい。つーわけでもう戻るぞ」

「あぁああ魔王様待ってにゃあ!! まだ話は終わってないにゃんっ!」

「終わっただろーが。何を話したところでケイブリスなんか復活させやしないっつーの」

「ま、まぁまぁそう言わずに……魔王様、とりあえずわん達の話を聞くわん」

 

 早々と腰を上げようとした魔王、その足元にしがみつくケイブワンとケイブニャン。

 縋り付いても駄目。色仕掛けも駄目。となれば残る手段は──

 

「魔王様。ここでケイブリス様を復活させればメリットが一杯あるのにゃん!」

「メリット?」

「そうにゃ! メリットにゃ!!」

 

 残る手段は正々堂々正面突破。魔人復活のメリットを提示する事。

 ケイブリス当人の有用性、復活させるだけの価値があると魔王様に認めてもらう事ただ一つ。

 

「魔王様はお気に召さないようですが、ケイブリス様だって良いところは沢山あるんだにゃ!」

「ほーん……例えば?」

「例えば……ケイブリス様は強いにゃ! めちゃくちゃ強いにゃ! 魔人最強だにゃ! あの強さは絶対に魔王様の役に立つはずだにゃん!」

 

 魔人ケイブリスのセールスポイント一つ目。最強最古と謳われる程の圧倒的戦闘能力。

 

「んな強いったってなぁ、人間だった頃の俺様にすら負けるような雑魚じゃねーかアイツは。その程度の強さがなんの役に立つってんだ」

「うぐぐっ……そ、それを言われると困るにゃん……にゃんにゃん……」

 

 しかし魔王はお気に召さなかった。

 強いだけの魔人だったら他にも居るし、そもそも自分という魔王こそが最強の存在。魔王と比べたら所詮は魔人と切って捨てられるケイブリスの強さなどランスは必要としていないのである。

 

「で、でもでもっ! ケイブリス様は……そう! 魔王様への忠誠心が凄いんだわん!」

「忠誠心~? アイツがぁ?」

「はいですわん! ケイブリス様は一見すると傍若無人な乱暴者に見えますが、実際は自分よりも強い相手には絶対に逆らわない超絶ビビリだわん。だから魔王様相手にはペコペコ頭を下げてどんな命令でも必ず言う事を聞く、魔王様にとって使い勝手の良い便利な魔人になるはずだわん!」

 

 魔人ケイブリスのセールスポイント二つ目。臆病が故に魔王には絶対に逆らわない忠誠心。

 この際復活させて貰えるなら何でも良しと、魔人ケイブリスを忠実なるパシリとして売り込もうとしたケイブワンだったが。

 

「何を大げさな……魔王様に絶対の忠誠を誓う事など魔人であれば当たり前でしょう。当たり前の忠誠心をメリットとは言いません」

「む、確かにその通りだな」

「ぐ、ぐぬ……ホーネット、うるさいわんっ! 今は魔王様と話してるんだわん!」

 

 ホーネットの冷静な指摘が入った事で目論見が外れた。

 魔王に対して忠実である事。それは魔人の大前提であってセールスポイントにはならない。魔王が絶対命令権を有する以上、配下達はどんな命令にも従うのが当たり前で。

 

「それどころか従順なのは表向きだけで、腹の内では自らが魔王に成り代わろうと画策しているのがケイブリスという魔人です。それ故に派閥戦争などが勃発したのですから」

「う、うぐぅ……ケイブリス様の日頃の行いが悪すぎるせいで返す言葉が思い付かないわん……」

 

 更には魔王ガイの遺命に従わず、魔王リトルプリンセスの命を狙った前科有り。

 となれば魔王に対する忠誠心が高いなどとは口が裂けても言えたものではなかった。

 

「……で?」

「……うにゃん」

「なんだ、話は終わりか?」

「……ま、まだにゃん! 他にもメリットが……えっと……が、がんばり屋さんなところとか!」

「クソどうでもいいメリットだな」

「な、なら……身体が大きいところ、とか」

「んなもんメリットでもなんでもねーだろ」

「じゃあ……恐瘴気がむんむんなところ、とか」

「そりゃむしろデメリットだろ。あれ臭いし」

「うにゃにゃあ……」

 

 弱々しく唸るケイブニャン。

 使徒達にとっては誇らしき主、魔人ケイブリスを復活させるメリットと言えば……。

 

「こ、困ったにゃあ……他にケイブリス様の良さが思い付かないにゃん……」

 

 魔人ケイブリスのセールスポイント。二つ目の他には──特に無し。

 それが最強の魔人に付いた価値。最強の魔人ケイブリスはただ最強だっただけで。

 

「他にリス様が役立ちそうな事と言えば……なら、いっその事にぎやかし要員とかで……」

「いらん。つーかお前ら、そんなんでよくケイブリスを復活させてなんて言えたもんだな」

「う、うぅ……だって、だってしょうがないわん。凶暴で性格が悪くてド外道で、そのくせ小心者のビビリなのがリス様なんだわん……」

 

 凶暴で性格が悪くてド外道であるが故、自身に悪感情を抱く敵対相手を作りやすい。

 その一方で小心者でビビリであるが故、裏切りを警戒して如何なる相手も信用はしない。

 それが魔人ケイブリス。成り上がる事だけに必死で他を顧みなかった小さなリス。

 

「……でも」

「あん?」

「それでも、わん達にとっては違うんだわん」

 

 しかし、それでも使徒達にとっては。

 凶暴で性格が悪くてド外道で小心者でビビリであろうとも、ケイブワンとケイブニャンはそんな魔人ケイブリスに忠誠を誓っている。

 それはこうして敵だらけの魔王城に潜入し、魔血魂を盗み出そうとする位には献身的な忠誠で。

 

「リス様は性格がクソだけど、それでも優しいところだってあるの。わん達が任務に失敗しても笑って許してくれるんだわん」

「そうだにゃ。機嫌が良い時は好きなおやつ買っていいぞってお小遣いくれるんだにゃん。リス様はあれで意外と気前が良いんだにゃん」

 

 この二人は魔物兵にすら劣る最弱の使徒。裏切られても怖くないと思える唯一の相手。

 そんな使徒達相手だからこそ見せる魔人ケイブリスの一面というものが確かにあって。

 

「だから……お願いしますわん。ケイブリス様を復活させて下さい。魔王様」

「お願いしますにゃ、魔王様」

「む……」

 

 だからこそ、二人は再度額を床に付けた。

 みっともなく縋り付いてでも、地べたに這いつくばってでも願いを叶える。

 それこそは魔人ケイブリスの生き様。主の背中を見てきたこの二人が学んだもの。

 

「確かにケイブリス様は魔王になるのが目標の野心家だけど、新たな魔王様が誕生した今、この世界の全ては魔王様のもの。今更ケイブリス様がどう足掻いたってひっくり返る事は無いわん」

「そうだにゃ。この世界の頂点に立つのは絶対的に魔王様だにゃ。それならケイブリス様の一人ぐらい復活したって問題ないはずにゃ。だからお願いしますにゃ、魔王様。どうか……」

「……ふむ」

 

 そんな二人の真摯な気持ちに感化されたのか、魔王ランスは軽く顎を擦って。

 

「ま、確かにな。すでにこの俺様が魔王になっちまった訳で、今更ケイブリスが復活したところで何も出来やしねぇだろう。なぁホーネット」

「……そうですね。ケイブリスが反逆を起こしたのは美樹様が未覚醒状態だったからこそ。すでに魔王様が魔王として覚醒している以上、表立って反旗を翻したりはしないでしょうね。それこそ先々代魔王ガイ様の治世の頃はケイブリスも大人しくしていましたし」

「何なら絶対命令権だってあるしな。もはやこの世界は俺様の天下、たかがケイブリス一匹復活させた所で何の問題も起きないだろうな」

「「なら……!」」

 

 その言葉に、ハッと顔を上げたケイブワンとケイブニャンの瞳に光が灯る──

 

「が」

 

 ──が。

 

「んなもんはあのバカリスを復活させる理由にはならん」

 

 返ってきたのは無情なる宣告。

 魔王ランスとは。人間だった時からそうだが他者に絆されるような甘い性格はしていない。

 

「そんなっ、どうしてにゃ!? 強くて忠実な部下が手に入るチャンスなのに!!」

「いらん。そんなのもう一杯いる。その為にケイブリスを復活させるぐれーならそこらのイカマンかうっぴーでも魔人にした方が遥かにマシだ」

「そ、そんなぁ……! 魔王様はそこまでリス様の事が嫌いなの!?」

「いくら派閥戦争では敵だったからって……そんなの酷いにゃん!!」

「んな好きとか嫌いとか、敵とか味方とかって話をしてるんじゃねーんだ」

 

 ランスとしては特別にケイブリスの事を嫌っている訳ではない。

 但し勿論好いている訳でもない。ランスにとってケイブリスとはすでに討伐した過去の相手、興味の失せた相手というのが正しい。

 元よりランスは過去を引き摺るようなタイプではない。以前に敵対していようが有用であれば仲間に引き込む事だってある、つまり復活させる事だってあり得るのだが。

 

「いいか、あのバカリスは単純にブサイクで醜いツラしてるから視界に入ると不快な気分になる。んでそれ以上に体臭が臭いから近くにいるだけで更に不快になる。よって復活などありえん」

「そ、それは……っ!」

「んで一番の理由はアイツが男だって事だ。なーんでこの俺様がわざわざ男の魔人を復活させてやらなきゃならねーってんだ」

 

 生理的な抵抗感に加えて、最たる理由としては──やはり性別。

 ランスは男相手には優しくない。とことん優しくないのがランスという男なのである。

 

「以上、話は終わりだ。分かったらとっとと帰れ」

「……そ、そんなぁ」

「うぅ……」

 

 絶望し、愕然とした顔で呟くケイブワンとケイブニャン。

 最期の望みだった魔王様にも見放された。もはやケイブリス復活の見込みは──無し。

 

「……うぅぅ」

 

 もう、この先……主と会うことは出来ない。

 なにをしても褒めてもらうことはない。頭を撫でてもらうことは出来ない。

 

 そんな事を考えた途端──

 

 

「……うええええぇぇぇん!!! そんなのひどいに゛ゃあ゛ああ~~!」

「うわわわぁぁ~~~んん!! リ゛ス゛ざま゛ぁ~~~~!!」

 

 二人は泣いた。

 大声でわんわんにゃんにゃんと泣き出した。

 

「こんなのあんまりだにゃあああ~~!!」

「びえええぇぇん~~!! リス様にあいたいよぉぉ~~!!」

「あのなぁお前ら、ガキじゃねーんだから泣けばどうにかなるとでも──」

「いやだにゃあああ~~!! リス様とお別れなんていやだにゃああああ~~!!」

「うわぁぁああああ~~ん!! リス様を返してわん~~!!」

「ええいやかましいわ!! 泣いたって駄目なもんは駄目なんだよ!!」

 

 二人の泣き声に負けじとがなるランス。

 泣く子には勝てぬ、とは言うもののしかしランスはそれで己を曲げるような男ではない。

 そもそも子供自体が好きではなく、その泣き声など騒音でしかない。 

 

「ホーネット、こいつらを静かにさせろ」

「分かりました。……二人共、ここは魔王様の御前です。黙りなさい」

 

 その眼光を鋭く細めて放たれる威圧。

 魔人筆頭オーラを全開にしたホーネットが殺気を込めて命じた。すると──

 

「びゃああああぁあ! こわいよぉ~~!!!」

「リスさま助けてぇぇええ~~!!」

 

「おい。余計にうるさくなってんじゃねーか」

「……ですね」

 

 結果は完全に逆効果だった。

 

「ホーネット。さてはお前、子供の世話とかしたことねーな?」

「……はい。面目ないです」

 

 申し訳無さそうに視線を伏せるホーネット。

 どうやら魔人筆頭といえども幼子をあやす能力は備わっていないらしい。

 

「チッ、しゃーない。……お前ら、とりあえず泣くのは止めろ」

「ふにゃ……」

「わふ……」

 

 泣く子には勝てぬ、わけではない。

 がしかしとにかくうるさいし、力づくで黙らせるというのも大人げない。

 

「分かった分かった、そこまで言うならケイブリスを復活させてやってもいいぞ」

「えっ!?」

「ほ、ほんとにゃ!?」

「あぁ本当だ。……ただし条件がある」

 

 そこでランスは一計を案じる事にした。

 

「ケイブリスを復活させてやってもいいが……その代わりに『伝説の媚薬』を持ってこい」

「で、伝説の媚薬?」

「あぁそうだ。以前に知り合いから聞いた話なんだが『伝説の媚薬』と呼ばれるマジックアイテムがあるようでな。それは一滴舐めるだけでどんな女もあへあへのエロエロになっちまうんだと」

「どんな女もあへあへになる媚薬……」

「あぁ。魔人でも天使でも悪魔でも何でも、あらゆる存在を腰砕けにする最強の媚薬だ。それを持ってくる事が出来たら代わりにケイブリスを復活させてやろうじゃねーか」

 

 魔王が提示したのは交換条件。

 伝説の媚薬なるマジックアイテム。それと引き換えにならケイブリスの復活を認める。

 

「でも魔王様。その媚薬ってどこにあるのにゃ?」

「さぁ? 俺様はこれ以上の事は知らん。ここから探し出すのがお前らの仕事だ」

「む、むむむぅ……手掛かりが無いとなると……これは中々に難題だわん……」

「無理だと思うなら止めときゃいい。別に俺様はどっちでも構わねーからな」

 

 手掛かりはその名称のみ。雲を掴むような話だがこれ以上の譲歩は無い。

 魔王の表情からそれを察したのか、

 

「……にゃあ」

「……わん」

 

 ケイブワンとケイブニャンは。

 泣き腫らして赤くなった目を共に見合わせて。

 

「……分かったにゃ!! にゃん達でその『伝説の媚薬』を見つけてくるにゃん!!」

「それを持ってきたらリス様を復活させてくれるのね!! 魔王様、約束だわん!!」

「あぁいいぞ。約束してやる」

 

 魔王はにやりと笑って頷いた。

 それを見てケイブワンとケイブニャンの表情にも希望の光が宿った。

 

「こうしちゃいられないにゃ!! 早速探しにいくにゃん!! にゃにゃにゃにゃーん!!」

「わわわわーん!!」

 

 目標はこの世界の何処かにある伝説の媚薬。

 忠実なる使徒達二人は鳴き声を上げながらダッシュで飛び出していった。

 

 

「ふぅ。やっと行ったか……」

 

 そうして、静けさの戻った王座の間。

 

「にしても、あんな話を鵜呑みにするとは……本当にバカなヤツらだなぁ」

 

 開けっ放しにされた扉を眺めながら、魔王ランスは呆れた表情で呟いた。

 

「……ランス。先程仰っていた『伝説の媚薬』というのは──」

「んなもん冗談に決まっとる。どんな女も一滴であへあへエロエロなんて、そんなエロ漫画みたいな都合の良い媚薬があるわきゃねーだろっての」

「……ですよね」

 

 伝説の媚薬とは。ランスが適当に考えた口からでまかせ。

 鬱陶しいわんにゃん達を追っ払う為に吐いた真っ赤な嘘。

 

 ……だったのだが──

 

 

 

 ──しかし、それから二ヶ月後。

 

 

 

「──思い出したわん!?」

「これがその『伝説の媚薬』だにゃん!」

 

 再び姿を現したケイブワンとケイブニャンの手の中には……それが。

 

「……マジであったのか、これ」

 

 約束の品物、伝説の媚薬がランスの眼前に突き付けられていた。

 

 

 

 

 

 

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