ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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女子達の集い

 

 

 

 

 

 新たなる魔王城、アメージング城が完成した。

 旧魔王城からの引っ越し作業も終わって、新しい城での新生活がスタートした──

 

 ──そんな、ある日の事。

 

 

 今だ建設途中のアメージング城において、現段階での生活ベースは翔竜山の中層にある。

 中層とはいえ標高3000m、険しい山道が続いて辿り着くのにも一苦労な城ではあるが、一方で高所からの絶景が望めるとても見晴らしが良い城ともなっている。

 加えて今はまだ魔王が移動してきたばかりという事もあって、旧魔王城のあった魔物界のように大気が淀んではおらず、上空に近いこの城には燦々とした陽の光が真っ直ぐ差し込んでくる。

 

「……ふぅ」

 

 そんな理由で、新築のアメージング城では屋外テラス席が人気スポットとなっていた。

 魔物界のそれとは異なる、山峰の澄み切った空気を味わいながら、魔物界にはない陽光を受けて輝く眼下の景色を、標高3000mからの眺めを楽しむ。

 リラクゼーションには最適、翔竜山の中層という立地を生かした快適空間がそこにある。

 

「やはり……良い眺めですね」

「そうですね。とにかく明るいです」

「魔物界は何処に行っても暗くて陰鬱とした世界ですからね。この景色一つ見ただけでも、早くこっちに引っ越して来たかったランスさんの気持ちが分かる気がします」

 

 そして今、そんな屋外テラス席には。

 大人数用の大テーブル席に魔人ホーネットが。魔人サテラが。魔人シルキィが。

 

「あ、このクッキーおいしい」

「本当ね。これってメイドさんが作ってくれたのかしら」

「いえ、それはケイコの手作りです。今日の事を話したら是非にとの事で」

「へぇ……あの子が」

 

 そして、魔人サイゼルが。魔人ハウゼルが。

 更には魔人ワーグの姿まで。

 

「いいなぁ。お菓子とか作ってくれる使徒がいて。うちのユキなんて絶対そんな事しないもん」

「そうね、火炎も……あの子は不器用だから……その点ケイコは何をさせても優秀ですよね」

「……そうでしょうか」

「そうですよ。戦闘も出来る上に頭も良いですし、その上こんな家庭的な一面まで……」

「さすがはケイコ、ホーネット様から筆頭使徒に任命されるだけはありますね」

「……そうですね。まぁ……隣の芝は青く見えると言いますからね」

 

 旧ホーネット派の面々、ホーネットを始めとする女性魔人達にサイゼルとワーグも追加して。

 テラス席からの眺めとお茶菓子の甘味を味わいながら優雅に会話を楽しむ、そんな集い。

 いわゆる──女子会である。

 

 

 本日ここ、アメージング城屋外テラス席では魔人達による女子会が開かれていた。

 

「あ、これも美味しい。けど、これって何?」

「それは『建設うまい棒』ですね。今回のアメージング城建設の一助にと、先日JAPANから届いた贈り物だそうです」

「へぇ……JAPANのお菓子なんだ」

「えぇ。なんでもそれを食べると建設の能力が上昇するとか」

「え、建設の能力ってなに? ていうかそれなら私じゃなくてパイアールとかに食べさせた方がいいんじゃないの?」

「それはそうなのですが……『せっかくの香ちゃんからの贈り物を男に与える必要は無い』とランスが言っていたので……」

「あぁ……そういう事」

 

 ここ最近になって、こうした集いは定期的に行われていた。

 特にランスが第八代魔王に就任して以後、女性魔人達の関係性はこれまでよりも親密になった。

 同じ場所で生活している事もそうだが、なにせ魔王ランスは歴代随一の性豪魔王。となればその配下たる女性魔人達はもう運命共同体と言える。

 一人一人別々でならいざ知らず、魔王の気分次第では3Pや4Pも当たり前。毎回事に異なる組み合わせでの裸の付き合いを体験していれば、自然とその距離も近くなるというもの。

 そんな事情が重なって、女性魔人達の間では自然と女子会という集いが始まっていた。

 

「……でも」

「姉さん?」

「聞いた話だと、今後はカミーラやケッセルリンクとも顔を合わせる事になるのよね……」

「そうね。あの二人もアメージング城に引っ越してくるらしいけど……」

 

 魔人四天王カミーラ。そして魔人四天王ケッセルリンク。

 残る女性魔人二人は魔王ランスより直々に転居を命じられており、現在引越し準備中。近々このアメージング城にやって来る予定らしい。

 

「なんか……あの二人に混じってランスに抱かれる日が来るのかって考えると……」

「………………」

 

 嫌そうに眉間を顰めたサイゼルの言葉に一同の沈黙が重なった。

 カミーラ。ケッセルリンク。両者共に古くから魔人四天王を務める魔物界の重鎮、威厳と恐怖に満ちたあの二人と一緒になって、魔王ランスの腕の中で喘ぐ日が来るかもしれない。

 いいや恐らくは来てしまう。この城で暮らす限り魔王の魔の手からは逃れられないのだから。

 

「…………うわぁ」

「……慣れるしかなさそうね」

「そ、そうだな。それこそ最初はホーネット様とだって抵抗がありましたから」

「……そうですか」

「私は今でも抵抗あるけど」

「……そうですか」

「ワーグ、そういう事は思っていても口に出すんじゃないの」

 

 同様の思いを抱きつつも、さらっとワーグを窘めたシルキィは。

 一旦紅茶で喉を潤してから、場の話題をエロではなくて先日の一件に切り替えた。

 

「それにしても……先日は実に賑やかでしたね」

「そうですね。記念パーティというだけの事はありましたね」

 

 それはつい先日、このアメージング城の建設を祝って行われた祝典。

 多くの客人を招き入れて行われたアメージング城築城記念パーティ。

 

「あれ程に魔王城が賑やかになったのは初めての事かもしれませんね」

「でもここは魔王城ですよ? そもそも魔王城の築城記念に人間達を招待するというのがおかしいような……」

「まぁでも、あれは全部ランスさんの交友関係だったらしいからね。さすがに元人間だけあって大勢の方々が集まりましたよね」

「それにどいつもこいつも各国の偉い人間ばっかだったらしいじゃない。ねぇハウゼル」

「えぇ、そうね。リーザス王国にゼス王国の王女、それにヘルマン共和国の大統領とかも……」

 

 リーザス、ゼス、ヘルマン。自由都市に遠くJAPANからも。

 多くの者を招待して開催された、アメージング城築城記念パーティ。

 まだ記憶にも新しい先日の出来事、女子会の話題はそちらへと進んでいく──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その日。

 ほんの数日前に急ピッチで仕上げられたその大広間には、多くの人々が集まっていた。

 

 そして──

 

 

「俺様が!! 魔王ランス様だッ!!!」

 

 壇上にはこの男が。

 恐怖の象徴。大なる魔族の長。この世界を支配する新しき王……第八代魔王ランス。 

 

「そんでここが新築ピカピカの城、その名もアメージング城。俺様が住む新しい魔王城だ」

 

 魔城アメージング城。今日はその築城を祝う記念パーティの日。

 

「この城を建てた翔竜山っつー場所もだが、その隣にあるシャングリラも俺様のものになる」

 

 多くの招待客達の視線を集めながら、魔王は自らが決めた確定事項を宣言していく。

 

「シャングリラは世界の中心だからな。ここから魔物兵達を送り込んだら人間世界の制圧なんぞお茶の子さいさいだ。そうでなくとも俺様は魔王、俺様が本気を出したら敵う相手などこの世にいまい」

 

 一人壇上に立つランスは。元々は人間の英雄だったその男は魔王となった。

 今や人間世界の制圧だって苦もなく出来てしまえるような存在となった。

 

「つー訳で、ここに集まった諸君達の命運ももはや風前の灯火、この先死ぬも生きるも全ては俺の気分次第という訳だ。せいぜい俺様の機嫌を損ねないようにするのだな」

 

 その言葉に、パーティ会場の各所からごくりと息を呑む音が上がる。

 

「が、それはそれとして今日はパーティだから存分に楽しむがいい。がははははーっ!!」

 

 そんな、脅しているんだか歓迎しているんだかよく分からない挨拶を皮切りにして。

 魔王城に人間達を招いての祝宴、アメージング城築城記念パーティが始まった。

 

 

「だーーーりーーんーーー!!!」

 

 するとパーティ開始早々、早速とばかりに突っ込んできた青い髪の女性。

 

「リアか、久しぶりだな」

「ダーーリーン! 会いたかったぁ~~!!」

 

 それはリーザス王国からの招待客の一人、女王リア・パラパラ・リーザス。

 

「やあ~っとダーリンに会えた~~!! ここ暫くはぜーんぜん連絡取れないんだもん! ダーリンには一度リーザスに来て貰ってちゃんとザンスと会って欲しいってずっと思ってたのに」

「あぁ……リアの子供、いたなぁ」

「そう! ダーリンには是非ともザンスを抱っこしてあげて欲しくて、リーザスに来て欲しいなーダーリンまだかなまだかなーって待ってたら、ダーリンってばいつの間にか魔王になっちゃってるんだもん!」

「うむ、なっちゃったのだ」

「もーリアびっくり!! リアもダーリンだったらいずれ人間世界のトップに立つんだろうなーってのは想像してたけど、まさか魔物の世界も含めた本当のトップに立つなんて!!」

「ふふん、すげーだろ?」

「すごいすごい! さっすがダーリン!」

 

 ランスの腕に引っ付いてきゃーきゃーと姦しく騒ぎ立てるリア。

 リアは心の底からランスに心酔している。その心酔度具合故に、その愛情深さ故に暴走する事も多々あれども、そこはそれ。本人に悪気は無く、全てはランスの為という思考回路で生きている。

 なので暴走したりワガママさえ言わなければ、基本的にランスの前ではこのように素直で可愛い性格をしている、それがリーザスの女王。

 

「ねぇダーリン。さっき言ってたけど魔王になったからには人間世界を制圧する気なの? だったら手始めにリーザスあげよっか!」

「ぬ、リーザスを? いや別にリーザスはいらんが……つかそんな簡単に差し出していいんか」

「いいのいいの、だってリーザスはリアのものだもん。そのリアがダーリンのものなんだから、必然的にリーザスはダーリンのものでしょ?」

 

 そんな話をニコリと笑った顔で。

 ランスに心酔するあまり、危険な事を簡単に言い出してしまうのがリーザス女王でもあった。

 

「ねぇねぇ、リーザスいらないの? ダーリンなら最終的には全世界を征服しちゃいそうだしー、それなら魔王ランスに一番最初に制圧された国になりたいなー、なんてリア思ったりー」

「うーむ……ぶっちゃけリーザスはどうでもいいが、リーザスで暮らす美人ちゃんは欲しい。なぁリア、お前の方でリーザス中から美人を選出して定期的にアメージング城に送ってくれねーか」

「はいはーい! それならここにいるリーザス一の美女が立候補しまーす!」

「いやそういう事じゃなくてだな……」

 

 とか、そんな感じで。

 パーティの開幕当初からノリノリなリーザス女王が飛ばしていると、その時。

 

「ランス」

「おぉ、マジック」

 

 その勢いに対抗するかのように、ランスの下にやって来たのは眼鏡を掛けた女性。

 ゼス王国の王女、マジック・ザ・ガンジー。

 

「む。なーによデコちゃん、今リアがダーリンと話してるんだけどー」

「そんなの見れば分かるわよ。でも放っといたら長くなりそうだったし、私もランスと挨拶したかったからね」

「……ふーん」

 

 リア女王とマジック王女。この二人は犬猿の仲とも言える関係。

 ……というのはマジック側からの見立てであり、リア側にその意識は無い。リアから見たマジックは未だ指導者としての実力に欠ける王女、からかい相手の枠を出ていない存在なのだが。

 

「……ふふっ」

「な、なによデコちゃん、その笑みは」

 

 がしかし、今日のマジックには余裕があった。

 その顔にはリアと対峙した時によくある怒りの表情ではなく、強気な微笑が浮かんでいた。

 

「ねぇランス。ランスってここ一年以上もの間ずっと魔物界の方に居たのよね?」

「まぁな。一度向こうに行くとこっちまで戻ってくるのがメンドいのだ。アメージング城が完成した以上今後はそんな手間も無くなるだろうが」

「そうよね、ランスはホーネット派に協力して魔物界の奥地でずっと戦っていたんだもの。人間世界にはそう簡単に戻って来られないわよね」

「そうそう、俺様は忙しかったのだ。リアよ、魔物界で片時も休まず戦っていたこの俺様がだ、お前の子供に会う為だけにリーザスまで飛んで行けるわけがないだろう」

「むー……それは分かってるけどぉ……」

 

 ここ一年以上もの間、ランスはほぼほぼ魔物界の住人と化していた。

 だからこそ人間世界にいるリア達とは会う機会が無かった。そう前置きした上で。

 

「ま、それでも私は少し前にランスと会っているけどね」

「えっ?」

 

 マジックは言う。

 直に会うのが一年以上振りとなるリアとは違い、自分は去年末にランスと会う機会があった。

 という事は……つまり。

 

「つまり私のスシヌは! ちゃーんとお父さんに抱っこして貰っているからね!」

「なっ!」

「私のスシヌは! ちゃーんとお父さんに抱っこして貰っているからね!」

「ななぁっ!」

 

 勝ち名乗りのようなマジックの宣言にリアの驚愕が重なった。

 母として重要な点なのか、わざわざ同じセリフを二度も繰り返す程の念の入れ様である。

 

「そ、そんな……! ねぇダーリン! デコちゃんの言ってる事本当なの!?」

「ぬ。まぁ……うむ」

「えーなんでー!! ズルいズルーい!!」

 

 ランスとしても不本意ながらというか、積極的にしたかったという訳では無いのだが、それでもそうせざるを得なかった──それは派閥戦争の最終決戦を勝利で終えて、その帰り道の出来事。

 事前にマジックから念押しされていた事もあってか、帰路ゼス王宮に立ち寄ったランスは半ば強引に父娘の対面をさせられていた。そしてスシヌ・ザ・ガンジーをその腕に抱っこしていた。

 そうして抱っこしたスシヌは……そこは赤子、可愛いと言えば可愛い存在だった。特にそれは女の子で……されどもそれは自分の子。成長したからといって食べるわけにはいかない訳で。

 となると可愛く育ったとしてもやりきれないし、可愛く育たないのもそれはそれで嫌だ。ランスとしては色々な思いが絡み合う複雑な心境であった。

 

「まぁでも実際問題ランスはスシヌのお父さんなんだし、抱っこするぐらいは当然の事よね」

「くぅっ……!」

 

 その当然がまだ無い。我が子ザンスに経験させてあげられていないリアは唇を噛む。

 普段は政治と駆け引きの才覚の差もあってリア相手には押されがちになる事の多いマジックなのだが、しかし今日は違った。

 リアが手にしていない強みを、言わばマウントを取れる要素を用意していたのである。

 

「あ、そうそう。この前は色々ばたばたしていて言いそびれちゃったから改めて言うわね。ランス、魔人ケイブリス討伐本当にお疲れ様」

「ん、あぁ、お前らもな。いなくても全然なんとかなったが一応そこそこ役に立ったぞ」

「まさか当初の予定だったカスケード・バウじゃなくてミダラナツリーのカミーラ城で決戦をする羽目になるなんてね。そのせいで計画が大きく狂っちゃって大変だったわよね」

「そうだったな。いやでもあれはあれで戦いが楽になったから結果オーライだ。それにカスケード・バウでの決戦を避けたおかげでケイブリス派魔物兵共の生き残りが多くなって、そのおかげでこのアメージング城建設に回せる労働力が増えたってホーネットが言ってたし」

「そうみたいね。こっちもウルザから定期的に報告は受けているけど……アメージング城のある翔竜山はゼスとも近いからね、なにか必要な物資があったら用意するから遠慮なく言って」

「……む、むむむ~~……!」

 

 恨めしそうに、あるいは羨ましそうにランスとマジックの会話を眺めるリアの視線。

 派閥戦争の顛末、そして現在進行中のアメージング城建設。いずれもリーザスに住むリアにはちょっと手を出しにくい領域の話である。

 

「……へぇ、なるほど」

「なに?」

「わざわざリアの前でそういう話をするだんて。当て付けってわけ? あーほんとゼスの王女はやることが幼稚で困っちゃうわよねー」

「別に当て付けなんかじゃないわよ。こんなのはただの世間話じゃない」

 

 リアに何を言われようとも心に余裕のあるマジックは揺るがない。

 それは今ここに集まった者達の中で、多くの役割を果たしたという自負があるからこそ。

 

「なんせ何処かのリーザスとは違って。ゼスは色々やったからね」

「な、なんですって?」

 

 故にその顔は。何処かのリーザス女王よりも自信満々な顔。

 

「ええそうよ!! 今回殆ど何にもしなかった何処ぞのリーザス王国とは違って! ゼスはランスに沢山の協力をしてきたんだから!!」

 

 ランスに沢山の協力──それはゼス四天王兼警察長官のウルザを派遣した事に始まって。

 封印していた魔人四天王カミーラの解放やそれに伴う人質救出作戦への協力、更には最終決戦におけるゼス軍派遣などなど。

 今回ランスが派閥戦争に介入して以降、確かにゼス王国は多くの協力をしてきた。

 

「リーザスとは違うのよ! リーザスとは!!」

「くっ! デコちゃんの癖に生意気言ってくれるじゃないの……!」

「あら、生意気なんて言ったつもりは無いけど、私はただ単に事実を述べただけ。良かったわねぇリーザスは何事も無く平和で。それに引き換えゼスなんかもう……ランスに協力してケイブリス派の総大将をやっつけるのにほんと大忙しだったんだから」

「ぐ、ぐぬぬぅ……!」

 

 人類史に残るであろう此度の戦い、歴史の転換点であろう此度の派閥戦争。

 魔物同士の戦いに人間のランスが参加した、そんなランスに協力したのはゼス王国のみ。大国リーザスとてヘルマン共和国の壁に阻まれて指を咥えて傍観する事しか出来なかった。その事実がマジックの気を大きくさせていた。

 

「く、悔しいぃぃ~!! リーザスだって、リーザスだって魔物界と離れていなかったら……ていうかヘルマンさえ無ければリアがリーザス全軍を挙げてダーリンに協力してたのにぃ~~!!」

 

 せっかくの大国の軍事力とて、一番肝心な時に活かせなかったら何も意味が無い。

 そしてそれ以上に痛恨の極み、愛する人の一世一代の決戦の場面に立ち会う事が出来なかった。

 未だその悔しさを消化しきれないリアは真横にその目線を向けて。

 

「ねー! ヘルマンさえ無ければねー!」

「……うぅ」

 

 大きな声で当て付けのように言い放った、その目線の先にいたのは。

 

「おいシーラ、言われとるぞ」

「えっと……はい。あ、それよりもランス様、本当にお久しぶりです」

 

 お辞儀をして、淡い金髪を靡かせるその女性がヘルマン共和国の現大統領、シーラ・ヘルマン。

 

「ほんと困るわよねー。ヘルマンさえ無ければリーザスが魔物界に乗り込んで沢山協力して、ダーリンだってもっと楽に戦えてたはずなのにねー」

「そ、そうですね……ごめんなさい」

「ていうかリア聞きたいんだけどー、今回のダーリンの戦いの中でヘルマンって何かしてたの?」

「ええと……定期的に食料品などを提供していましたが……協力と言えるのはそれぐらいで……」

「ほんと困っちゃうわよねー! 魔物界に近いのにロクな協力をしない国があるだなんてー!! もーほんとヘルマンなんて国はこの世界に無ければ良かったのにねー!!」

「うぅ……すみません……」

 

 実に当て付けがましいリアに押されてくすんと眉を下げるシーラ。

 ちなみにこの二人の国、リーザス王国とヘルマン共和国は第七次HL戦争の真っ只中。

 ……だったのだが、ランスが居所をアメージング城に移した事もあって、そしてその意図をリアが汲んだ事もあって、今現在第七次HL戦争は一時休戦中となっている。

 

「けど……そうですね、その節は本当に申し訳ありませんでした、ランス様。もっと多くの協力が出来れば良かったのですが……ヘルマンはまだ革命による体制移行の最中、さすがに軍を派遣出来るような状況じゃなくて……」

「いや別にいい、気にしてない。つーかそもそも俺様にとってお前らの協力など必要ないのだ。実際こうしてなんとかなってる訳だしな」

「でもでもー、それでもリーザス軍の協力があればもっと楽に戦えてたでしょ?」

「どーだかなぁ。雑魚兵は何人いても役に立たねーし、となりゃ使えるのはいつものリックとかジジイとか将軍達だけだろ? まーそれなりに使えん事も無いだろうが……それでもシルキィちゃんとかホーネットの方がどう考えても強いからなぁ」

「えぇー、そんなぁー!」

 

 魔物界の事情を知らないリアは意気消沈だが、知っているランスは実に冷静な思考。

 大前提として魔物兵一体は平均的な人間の兵士二人分の戦力を有している。そしてケイブリス派よりも劣勢だったホーネット派とて当時100万を超す魔物兵の軍があり、それは総計50万足らずのリーザス軍を遥かに凌駕している。

 更にはそれを指揮する魔人。魔人と人間の戦力差は言うに及ばず。つまりあの戦いでのランスの手駒はそういう戦力な訳で、その中で人間の軍隊がどれだけ活躍出来るかは未知数であった。

 

「そう言えばランス様、先日は兄様がランス様の下をお訪ねになって……」

「あぁ、パットンな、来た来た」

「それで……兄様から聞いたのですが、なんでも色々とご迷惑を掛けてしまったそうで……」

「うむ、あいつはホントに迷惑だった。おいシーラ、お前のバカ兄貴には次に俺様の城に来る際はちゃんと女を用意して来いとよーく言っておけ。というか次はパットンなんぞをパシリに使わずお前が直に俺様の下に来い」

「に、兄様をパシリに使った訳では無いのですが……私も色々と忙しくて……」

 

 とか、そんな何処ぞの兄様の話をしていると。

 

「兄様!」

 

 と呼ぶ可鈴な声が。

 

「おぉ、香ちゃん。相変わらず背伸びてないな」

「うっ! 兄様、いきなりひどいです!」

 

 駆け寄ってきたのはJAPANは尾張の城主、織田家の香姫。

 相変わらず背丈は低いが、大陸の姫達に負けず劣らずの可憐な容姿の姫である。

 

「あそうだ。さっきの俺様に対する協力っつー話だったら、香ちゃんがナンバー1かもしれんぞ」

「えっ!?」

「うそ、JAPANが!? ゼスよりも!?」

「うむ。まぁJAPANがっつーよりかは香ちゃん個人がだが」

 

 先の派閥戦争における貢献。その第一位は魔物界から一番離れているJAPANの姫。

 まさかのダークホースの出現にリアとマジックは共に目を丸くする。

 

「兄様への協力、ですか?」

「そうそう。香ちゃんはあの特製手作り団子を山のように作ってこっちに届けてくれてただろ。それも戦争中定期的にずっと」

「あぁ、その事ですか」

 

 香姫が協力してくれた事。それはあの戦いの初期頃から始まり、今も尚ガルティアの強い熱望によって配達を継続している香姫特製団子。

 ガルティアに言う事を聞かせる大事な手綱となっていたのは勿論の事、ランスがホーネット派に参加してから早々に相手の重要な戦力を引き抜く功を挙げた事で、その後ランスがホーネット派内での立場を築く重要な足掛かりともなった、まさに香姫にしか出来ない遠隔地からのナイスアシストであった。

 

「あんなにもお団子を要求されるなんて思ってもみませんでした。私の手作りお団子、ランス兄様が沢山食べて下さったんですよね!」

「ん……まぁな。俺様というかホーネット派のみんなで……うむ、残さずに全部食べたぞ」

「そうですか……嬉しいです。あ、実は今日も持参してきたんです、お一ついかがですか?」

「なんと! あんな物騒なものをここに持って来たとは……! しまった、危険物の持ち込みが無いか招待客はボディチェックするべきだったか……!」

「兄様?」

 

 さすがの魔王も毒を食べる勇気は無い。こうなったら毒物処理班のあいつを呼ぶしかないか。

 そんな事を考えた──その時。

 

「……はッ!」

 

 ランスはある事に気付いた。

 

「そうだった! 考えてみりゃあこっちだとまだ香ちゃんを食べてない!」

「た、食べ……?」

「これはイカンぞ! このままじゃ香ちゃんが大人なレディーになれないではないか!!」

 

 こっち──過去に戻ってきたこの世界だと、まだ香姫とのセックスを達成していない。

 このままでは香姫が大人になれない。これは由々しき事態である。

 

「あの、兄様、大人なレディーってなんの話……」

「セックスだセックス! 香ちゃんとはまだセックスしてなかっただろう!!」

「ひゃわっ! せ、せせせセックスって……あ、あう、あうあう……!」

「香ちゃんの処女は必ず俺様が貰い受ける。それが今は亡き信長との約束だったのだ!」

「兄様同士でそんな約束しないで下さいー!」

 

 そんな約束してないよー、と何処かから穏やかな男の声が聞こえてきそうだが。

 その真偽はどうあれ、香にとってはランス以外に心と身体を許せる相手がいないのも事実で。

 

「いくぞ香ちゃん!」

「わわ、い、いくって何処に……!」

 

 ランスはひょいっと香を担ぎ上げる。

 

「あ、魔王様、パーティがまだ……この後ディナーが出てくる予定で──」

「俺抜きで進めてろ! 今は香ちゃんを大人にする方が先決だ!! とーーーーっ!!」

「ひゃ、ひゃーー!?」

 

 そして、香はランスに連れ去られていった。

 

 

────────

──────

────

 

 

 

「──といった感じで」

 

 そんな事があった──アメージング城築城記念パーティでの一幕。

 

「とにかく……賑やかでしたね」

 

 数日前の事を思い出しながら、ホーネットは紅茶を一口含んだ。

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

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