ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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運命の戦い

 

 

 

 

「……運命」

 

 運命とは。

 それは人智を越えた意思、遥か天の意思によって定められた巡り合わせ。

 

「……運命」

 

 そうした天の意思によって定められた一対、ある男とある女を番として結び付けるモノ。

 それが運命の相手。その二人は運命の赤い糸によって結ばれている。

 

「…………運命?」

 

 そんな決まりが──ある。決して戯言ではなく運命は確かにある。

 この世界にはそんな運命の女システムなるものが存在しているらしい。

 

「運命……」

 

 となれば……自分だって。大好きなあの人との運命の繋がりが欲しい。

 そう考えてしまうのが恋する乙女の性。それは恋する魔人だって変わらないもので。

 

「運命だとぉ……!」

 

 だがそんな運命の結び付きを、すでに手にしている者達がいた。

 明かされた衝撃の事実、あのホーネットが。なんとシルキィまでもが。

 

「ぐぬぬぅ……!」

 

 あの二人はランスの運命の女だった。とっくに運命を掴み取っていた。

 サテラの知らない裏でそんな事をやっていたなんて、ズルい。いつの間にそんな事を、先手必勝で勝負を決するような機先の速さこそが、運命を掴み取る力こそが魔人筆頭、魔人四天王の実力という事なのか、悔しい。

 そしてよくよく聞けば、あの二人以外にもランスには多くの運命の女がいるらしくて。

 

「サテラだって……サテラだってっ! 絶対に運命に女になってやるぞ……!」

 

 それならサテラだって……ランスの運命の女になってやるっ! ……と。

 自らの運命をこの手に掴み取る為、魔人サテラは燃えていた。メラメラ燃えていた。

 

 

 ……とは言ったものの。

 

 

「……はぁ」

 

 肩を落として、大きなため息を吐いたのは。

 時を同じくして、魔人サテラと全く同じような事を考えていた彼女、魔人ワーグ。

 

「……運命、かぁ」

 

 運命とは。

 それは人智を越えた意思、遥か天の意思によって定められた巡り合わせ。

 

「運命なんて……一体どうすればいいのやら……」

 

 掴み取る──そう決意したものの。

 しかし実際問題、運命なんて何をどうすれば掴み取る事が出来るというのか。

 

「朝昼晩、天にお祈りをする……とか? あるいは何処かの教会にお布施をするとか……」

 

 ワーグは困っていた。とても悩んでいた。

 だって相手は運命だ。運命なんて形のない不定形なるもの、それも水や空気とかではなくて概念とか一種の信仰のようなもので、それを掴み取る方法なんて聞いた事も無い。考えた事もない。

 それが実体無きものである以上、ワーグに思い付くのは神頼みのような方法だけで。

 

「お祈り、お布施、お参り……何処に? ていうかあのホーネットやシルキィがそんな事をしていたようには到底思えないし……」

 

 というかそれが人智を越えた意思、天の意思によって定められた巡り合わせ、であるならば。

 その可否はまさしく天運が定めるものであって、ここで自分がどうこう足掻いた所で掴み取れるようなものでは無いのでは。

 ──そんな思考が頭を掠めるものの、さりとてじっとしている事も出来なくて。

 

 

「……むぅ」

「ん?」

「…………むー」

「なんだワーグ、俺様の顔になんか付いとるか?」

 

 じぃっと見つめる先。こちらの事情を知らないランスはいつも通りの呑気な表情で。

 

「……別に」

 

 ワーグはぷいっと顔を背ける。

 

「あん?」

「……べっつにー」

「なんだそりゃ」

 

 眉を顰めるランス。そんないつも通りなランスの事すらも今はなんか腹立たしい。

 元はと言えばランスが悪いとも言える。自分との運命を放ったらかしにしておきながら、他の女との運命を繋いでいるのがムカつくのである。

 

「……ランスのばか」

「あんだと?」

「ふーんだ」

 

(はぁ……運命、運命かぁ……)

 

 運命の女が複数人居るのもどうかと思うが、とにかくランスは多くの女性を侍らせている。

 そのくせデリカシーが無くて、呆れる程にエロ男なランスとの運命の繋がりが──欲しい。

 大層困った事に、どうしてもそんなものが欲しいとワーグは感じてしまうのである。

 

(私とランスとの間に運命は、ない──なんて、ことは……)

 

 自分とランスに運命の結び付きが存在しない──とは考えたくない。考えられない。

 だってそうだろう。自分にとってランスはただの男の人ではない、出会いの時から今まで、まさしく運命的と呼べるような出来事を重ねてきた。

 

(そうよね? 出会う前だってランスの方から熱心に会おうとしてくれた訳だし……)

 

 それはまだランスが人間だった頃、出会いは激化する派閥戦争の最中の事。

 最凶の魔人と恐れられる魔人ワーグに会いたい会いたいと熱望してくれたのがランスだった。

 その甲斐あって自分はケイブリス派を抜けて、ランスと友達になれた。その後は孤独を抱える自分が寂しい思いをしないよう、強烈な睡魔に怯む事も無く何度も遊びに来てくれた。

 

(それで……あ、あんな事やこんな事もしちゃった訳だし……っ!)

 

 その後、遂に睡魔を無効化する術を身に着けたランスと語るも恥ずかしいあれやこれやをして。

 やがてランスが魔王になると、その力によってワーグの夢が叶った。睡眠能力の制御が可能となって、長きに渡る孤独から開放してくれたのだ。

 

(……そう、そうなんだから。私にとってはランスは、ランスは絶対に……)

 

 これを運命的と言わずしてなんと言う。

 なんせこっちは100年以上の孤独に耐えてきた、その果てに巡り会えたのがランスだった。

 だからたかだか20年近くしか生きていないリア女王とかマジック王女なんかよりも絶対に、ぜーったいに自分の方がランスとの運命的な縁がある。あるったらある。

 

 ……と、思うのだが。

 

 

(でも……じゃあ、じゃあなんで私のところには運命のお告げが来ないの~……!)

 

 しかし……運命とは。あんまりそういった要素は関係無かったりもする。

 出会いが運命的とか。積み重ねてきた日々が運命的とか。確かに運命の女達の中にはそういった要素を有する者がいたりもするが、一方でそうじゃなくても運命に選ばれる者だっている。

 その逆にランスと長く冒険を共にしていても運命が結び付いていない者だっている。ここで言う『運命』とはそういう厄介な性質のものなのである。

 

「運命、うんめい……くぅう……!」

 

 どうすれば運命が得られるのか。

 分からない。何もかもが分からない。……けれども何もしない訳にもいかない。

 

「こうなったらそれっぽい事を片っ端から試してみるしかないわね……!」

 

 手当り次第やってみる以外に方法は無い。

 とそんな事を魔人ワーグは、そして魔人サテラも同じように考えたようで。

 

 

 

「……うーん」

 

 そして、その後。

 

「ふむふむ、幸運を呼ぶブレスレットか……これは良さそうだな、買おう。こっちは……成る程、開運を招くツボか、これも良さそうだな……買う」

「サテラ様。先日通販デ購入シタ特製パワーストーンガ届キマシタ」

「あぁ、そこに置いといてくれ。……いや、常時身に付けておいた方がいいかもな……」

 

 サテラはインチキスピリチュアルグッズにハマった。

 

 

 

「……うーん」

 

 その一方。

 

「これは部屋の構造が良くないわね」

「うんうん! 俺もそう思うー!」

「ね、そうよねラッシー。きっと家具の配置が悪くて気脈の流れが遮られている、それで運気を落としているんだわ。……え~っと、この場合は恋愛運、で、いいのかな……となると西、または東南方向に生花などを飾って生命エネルギーを向上させるのが良さそうね。あとは……玄関口に、照明をおいて明るく照らす事で福を招き入れる……っと」

 

 ワーグは風水にハマった。

 

 

 とはいえ、幸運グッズとか、風水とか。

 果たしてそんなもので運命が訪れるのか。それはやっている当人達でさえ半信半疑である。

 

「サテラ様。アタラシイ通販雑誌デス」

「よし。次は普段から使う武器とかを……幸運を呼ぶ鞭とかってないのかな……」

 

「なぁワーグー、そもそもこのアメージング城が風水的にダメって可能性は無いのかよ?」

「それは大丈夫。こんなに高い山なんだもの、この翔竜山に龍脈が流れているのは間違いないわ。ただ問題は龍の脈の流れる先、つまり龍穴が何処にあるのかって事なんだけど……」

 

 それでもやらねば始まらないし、無駄な努力なんてない。

 そう信じて二人は幸運グッズの道を、そして風水の道を突き進む。

 

 

 

 そして……運命とは。

 時としてそういったものとは関係無く。

 それこそ運命的に、前触れも無く唐突に降ってきたりするもので。

 

 

 

 故にその日──奇跡が起こった。

 二人の魔人の願いが通じた。その真摯なる祈りが天に届いたのだ。

 

 その夜、空の彼方がキランっ! と輝いて。

 眩い尾を引いた流れ星が筋を描き、光り輝く極星が翔竜山へと落ちてきた。

 

 

 それも──二つ。

 

 

 一夜に二度、二つの運命がここに繋がれた。

 彼女達の夢の中にそれぞれ一回ずつ、運命を告げる黄色いトリが登場して──

 

 

 

 ──そして、翌日。

 

 

 

「ほう、お前が俺様の運命の女だったとは」

 

 朝、それはすぐに話題となった。

 自らの小指の先に結ばれた赤い糸を辿って、ランスの前に辿り着いたのは──

 

 

「は?」

「こりゃ意外だ。今までで一番意外かも」

「へ?」

「けどまぁそういう事もあるか」

「はぁ!?」

 

 それは、この魔人。

 

「ってなんで私が!? なんであんたと!?」

 

 驚愕に叫ぶ、この魔人が。

 

「……ね、姉さんが……魔王様と……」

 

 動揺を隠せない表情で呟く魔人ハウゼル。

 ……の、姉の方が。

 

「なんで!? なんで私なの!?」

 

 昨夜、運命は確かに落ちてきた。

 しかし、それが待ち望んだ者の下に落ちてくるとは限らないもので。

 この度、魔王ランスの運命の女だと判明したのは……なんとまさかの魔人ラ・サイゼル。

 

「えちょっと待って、ホントになんで私が!?」

「知るか。なんでかは知らんがそうなったのだ、運命を受け入れるのだサイゼル」

「イヤよ!! だってこんなのあり得ない! どう考えてもおかしいでしょー!?」

 

 もし自分に運命の相手が居るのなら、それは最愛の妹以外にあり得ないのに。

 信じられない、信じたくない運命の導きに泣き叫ぶサイゼル。

 

「ぐぬぬぅ……!」

「くぅう~……!」

 

 一方、そんな光景を眺めるワーグとサテラは悔しさに喉を鳴らした。

 どう考えてもおかしい。それはこっちのセリフだと大声で叫んでやりたい気分である。

 

 ホーネットとシルキィは百歩譲るとして、どうしてあのサイゼルがランスの運命の女なのか。

 率直に言ってサイゼルはランスに対して友好的ではない。今では魔王になったからとしぶしぶ従う態度を取ってはいるが、そうなる前は関わり合いになる事すら避けていたような関係。

 こんなにも運命を待ち望んでいる自分達の下には来ないのに、ランスの事を好いてもいないサイゼルが、何故。どうして選ばれるのか。

 

 ……と、二人がそう思ってしまうのも無理は無い話なのだが、しかし運命とは。

 運命の女システムとはそういう事すらもあんまり関係無かったりする。相手の事を特段好いていなくとも、それどころか嫌っていようとも運命が結ばれる事はあり得るのである。

 

「よーし。んじゃさっそく電卓キューブ迷宮にレッツらゴー」

「いやー!! 行きたくないー!! 助けてハウゼルーー!!」

 

 こうして。ランスは未だ現実を直視出来ないサイゼルと共に電卓キューブ迷宮へと旅立って。

 そしてもう一人。この時すでに運命の導きを得ていた人物が居るのだが。

 そちらについてはいずれ語る時が来たら語る事にして、今重要なのはこちらの二人。

 

 

「ぐににぃ……サイゼルにまでぇ……!」

 

 魔人サテラ。

 

「くぅ~~! なんで私じゃないのよぉ……!」

 

 魔人ワーグ。

 

 まさかノーマークだったサイゼルにすら先を越されてしまった二人。

 幸運グッズを沢山買い集めたのに。気脈の流れを正して運気を呼び寄せたというのに。

 それなのにまだ運命の産声は聞こえない。何故、一体どうして。

 

「こうなったら……!」

「こうなったら……!」

 

 そして、二人は共に決意をして、

 そして、共に行動を開始した。

 

 ──という事で以後、それぞれ別の場所での会話を同時進行でお伝えする。

 

 

「──ホーネット様っ!」

「サテラ……どうしました?」

 

「──シルキィ!」

「あ、ワーグ、どうしたの?」

 

 こうなったらなりふり構ってなどいられない。

 サテラとワーグは恥を捨てて、すでに運命を掴んでいる二人に助力を申し出る事にした。

 

 方や派閥戦争の最終決戦の最中に運命を掴み取った魔人筆頭、ホーネット。

 方や魔人の中では一番最初に運命を掴み取った魔人四天王、シルキィ。

 

「教えて下さい! ホーネット様! どうしたらランスの運命の女になれるのですか!?」

「……そ、そうですね……。どうしたら運命の女になれるか、ですか……」

 

「教えて! シルキィ! どうやったらランスの運命の女になれるの!?」

「え、ええと……そうね……どうやったら……どうやったらなれるのかしらね……本当に……」

 

 どうやったらランスの運命の女になれるのか。

 同じタイミングで同じ質問を受けたホーネットとシルキィは同じように眉根を寄せる。

 

「ホーネット様、何かアドバイスを……」

「……申し訳有りません、サテラ。私に分かる事であれば答えてあげたいのですが……残念ながらこれに関しては私にも分からないものでして……」

「そ、そうですか……」

 

「ちょっとシルキィ、本当は知っているのに隠しているんじゃないでしょうね」

「そんな事無いってば……これに関しては本当に分からない事だらけなのよ。私だって自分がそうなるまでは運命の女だとか電卓キューブ迷宮だとか聞いた事すらも無い話だったし……」

「むぅ……」

 

 電卓キューブ迷宮の異質さといい、全てが謎に包まれている運命の女システム。

 すでに運命を掴んだホーネットとシルキィとて、実際のところ何故自分が運命の女に選ばれたのかよく分かっていない。となればそれを追い求めるサテラとワーグへ助言など送りようがない。

 

「なら……ホーネット様、運命のお告げというのはどういった流れで授かるのですか?」

「それは……前も説明した通り『夢』ですね」

「夢……」

「えぇ、夢。夢の中に黄色いトリが出てきて、そのトリが運命のお告げを授けてくれます。すると次の日の朝、目が覚めたら左手の小指から赤い糸が伸びていて、それを伝っていくとランスが居て……という流れでした」

「ふむふむ……」

 

「……夢」

「うん、夢。どうやらこの夢は女性側が見るものでランスさんは一度も見たことが無いんだって。だからワーグ、もし貴女が寝ている時に夢の中で黄色いトリが現れたら……」

「それが運命の証。その時こそ私のところにも運命が降ってきたって事なのね」

「うん、そういう事」

「夢か……私の夢操作で見る夢じゃ駄目かしら」

「さすがにそれは無理だと思うけど……」

 

 ランスとの運命を得る為には。

 運命の赤い糸を手に入れる為には、黄色いトリが出てくる不思議な夢を見る必要がある。

 

「では……ホーネット様。その夢を見た切っ掛けのようなものはありませんか?」

「切っ掛けですか……そうですね……」

 

 あの夢を見る事になった、切っ掛け。

 

「シルキィ、何か思い当たらない?」

「切っ掛けとなると前日よねぇ……うーん、あの日の前日にあった事と言ったら……」

 

 運命のお告げを授かった、その前日。

 その夢に至る前、つまり就寝する前にあった印象的な出来事といったら──

 

 

「あの日はたしか……」

 

 ホーネットにとってそれは……決戦前夜の日。

 マジノラインの客室に泊まったあの日、夜に部屋を訪ねてきたランスと──

 

「あの日はたしか……」

 

 シルキィにとってそれは……自分の想い人についてランスが探りを入れてきた日。

 魔王ガイとの馴れ初めを打ち明ける事になって、その後自分はランスと──

 

 

「あ、もしかしたら……あれでしょうか?」

 

「あ、もしかしたら……あれかな?」

 

 ホーネットは。シルキィは。

 二人は共にピンと来るものがあった。

 

 

 

 ──そして、ホーネットは答えた。

 

「あの日の夜、私はランスと多くの話をしました」

「話、ですか」

「あの日は決戦前夜でしたからね。そのせいあって私も気分が色めき立っていたのか、少し口が軽くなっていまして……普段なら話さないような事、恥ずかしい事や、懺悔のような話までした記憶があります」

「そ、そんな事があったのですか……」

「えぇ。ですが今思えばあれが切っ掛けだったのかもしれません。ですからサテラ、貴女もランスに対して心に抱えているものや負い目などを打ち明けてみてはいかがでしょうか」

「なるほど……」

 

 

 

 ──そして、シルキィは答えた。

 

「……あのね。こう……時々、ランスさんと一緒に寝るような事になってさ、その流れで……なんて言うのかな? その……親密な触れ合い、というか、人が子孫を残す為に必要な行為というか…………え? あ、うん、まぁ、そう。つまりえっちの時なんだけど。えっちな事をしている時に、こう…………え? あ、ううん、違うわ。これはランスさんが魔王になる前の話よ。うんそうなの、私が運命の女だと判明したのはまだ派閥戦争が続いていた頃の話だから…………て、ちょっと、なによワーグその顔は。……え? そんなに前から、って……いや別にそんなに前からしてた訳じゃ……ていうかそんな話はどうでもいいの。とにかく! とにかく……えっちな事をしている時にね? なんか、こう……ちょっと、気分が昂ぶってくることってあるじゃない? あるわよね? その時に……なんか、あの……気持ちがあふれ出すっていうか……なんか、過度な愛情表現をしちゃうというか。その、つまり……なんか自然と『ランスさん、好きー!』とか言っちゃったりというか。…………ちょっとワーグ、何よその目は、何が言いたいの? ……いや違うのよ? 私はそんな事言ってないのよ!? 私はそんな事言ってないんだけど! でもランスさんが言うには言ってるらしくてね? まぁ本当は言ってないんだろうけど。言ってないんだろうけどもね? とにかくそういう事例もあるようで、もしかしたらだけどそれが切っ掛けだったなんていう可能性も無きにしもあらずというか……」

 

 

 

 

 ──そして、あくる日。

 

 

「ホーネット様ぁ~~……!」

「サテラ……」

 

 魔人サテラが泣きそうな表情でホーネットの部屋を訪ねてきた。

 

「その様子だと……駄目でしたか」

「はい……駄目でしたぁ。ちゃんと話をして、心に抱えていたものを打ち明けて……前にランス達を何度も襲った事や、シィルを水責めにして殺そうとした事なんかを謝ったりしたのですが……」

「サテラ……貴女はそんな事をしていたのですか」

「わざとでは無いのです! ……いや、けど、当時はわざとだったかも……いやでもそれはあくまで当時の話でして!! 当時は、だって、仕方無いではありませんか!!」

 

 当時、人間の敵対者たる魔人らしい振る舞いをしていたからこそやらかしたあれこれを。

 なぁなぁにせず過去を自省して、決戦前夜のホーネットのように懺悔してみたりしたのだが、それでも結果は振るわなかったようだ。

 

「もしかして……過去にランスを殺そうとしたから運命の女になれないのでしょうか……」

「ど、どうでしょうかね……」

 

 くすんと頭を垂れるサテラ。その姿にホーネットも困り顔。

 

 

 そして一方──こちらは。

 

 

「シルキーーー!!!」

「わぁっ! ど、どしたのワーグ!?」

 

 魔人ワーグは怒り心頭な表情でシルキィの部屋に突撃してきた。

 

「どうしたのじゃなーいっ! よくもまぁあんな恥ずかしい事をやらせたわね!?」

「あ、やってみたの?」

「やったわよっ!! 言っとくけどめちゃくちゃ恥ずかしかったんだからね!? もうめっちゃくちゃ恥ずかしかったけど頑張ったのに!! 全然効果なんて無いじゃないのよーー!!」

 

 シルキィのアドバイス通り、ワーグはランスとの性交の最中に過度な愛情表現をしてみた。

 恥ずかしさを投げ捨てて、溢れる気持ちのままにワーグは自ら積極的に濃厚な口付けしたり、ランスの腰が打ち付ける度に好き好き愛してると鳴いてみたりもしたのだが、それでも結果は振るわなかったようだ。

 

「そ、そっか、ごめん……」

「ごめんじゃ済まない!!」

「でも……ランスさん、喜んでなかった?」

「そっ! ……そりゃ喜んでたけど!! そりゃあ喜んでたけどねっ!!?」

 

 普段よりも積極的で愛情表現沢山なワーグの姿にランスはご満悦。

 そしてワーグ自身も好きだ好きだと連呼する事で気分が高揚してしまい、その結果昨夜の行為はこれまでに無い程の盛り上がりを見せたのだが。

 それでも残念ながら、運命の星が手に入らなかったのは事実である。

 

「でも喜ばせりゃいいってもんじゃなーい!! ていうかシルキィ、あなたってあんな恥ずかしい事をずっと前からランスとしていたわけ!? そんなんでよくあの時私に『別に私はランスさんの事なんて好きじゃないからー』なんて言えたものねぇ!」

「なっ、いや、あれは……違うのよワーグ、別にね、私はそんな事していたわけじゃ──」

「誤魔化せるとでも思ってるの!? 当のランスが『今日のワーグはまるでシルキィちゃんみたいに積極的だなぁ』って言ってたんだからね!!」

「ちがっ、そ、それは、それは私じゃないの。私じゃない変な私が変な事してるだけで……っ!」

 

 真っ赤な顔で怒るワーグ。真っ赤な顔で言い訳するシルキィ。

 

 と、このように……ホーネットの助言もシルキィの助言も結果的には空振りに終わった。

 

 

「ぐぬぬぅ……運命……!」

「くぅう~……運命……!」

 

 心に抱えていたものを打ち明けようとも。積極的な愛情表現をしようとも。

 それでも手に入るとは限らない、それが運命の繋がりというものなのか。

 

「……はぁ、一体どうすればいいんだ……」

「……はぁ、一体どうすればいいんだろう……」

 

 未だその手に掴めるものは無く。

 サテラとワーグが悩みの日々を怒る中。

 

 

「…………はぁ」

 

 それとは別に──もう一人。

 サテラやワーグと種類は違えども、事の発端は同じ悩みを抱える者がいて。

 

(……なんだろう。なんか……胸が、変。胸の奥で何かが疼いているような気がする……)

 

 それは、魔人ハウゼル。

 姉がランスの運命の女だと判明して以降、彼女もまた判然としない心地を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

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