「………………」
顕現していた。
「………………」
眩い黄金の髪を靡かせる、それが。
左右異なる色、凍てつくような青い瞳と燃えるような赤い瞳を持つ、それが。
「………………」
背中から翼のように生える氷と炎の分身体、分かたれていた時の面影を残すような意匠。
青と赤が交わって、その周囲にはあらゆるものを飲み込む黒色のバリア。
「………………」
その姿が──破壊神ラ・バスワルド。
第二級神がここに顕現していた。
「………………」
バスワルドは無表情のまま、その顔を左から右へゆっくりと見渡す。
「………………」
「あれ……あそこにいるの、誰だろう?」
「さぁ? 見覚えは無いし、魔王様からお呼ばれを受けた何処かの女性じゃない?」
目に入ったのはこの城の住民だろうか、女の子モンスター達の姿。どうやら城内にいた見知らぬ美女の存在に好奇の目を向けているらしい。
対してその美女は一瞥もせず、その目はゆっくりと辺りを見渡していく。
「………………」
破壊の対象、完全に汚染された魂を捜索。
──この付近には反応を確認出来ず。
「………………」
するとバスワルドはほんの少し上を見上げた。
アメージング城及び翔竜山周辺から、その知覚範囲をこの世界全域にまで拡大していく。
「………………」
──破壊対象の反応を確認。
それが無いわけではない。完全に汚染された魂はこの世界の各地に点在している。
「………………」
しかし……総じて反応は微弱。
その総数はまだ少量、この世界の均衡に影響を及ぼす程ではない。
「………………」
破壊神に与えられた役目、それは破壊すること。
「………………」
完全に汚染された魂は輪廻の歯車から外れて、地上から消え去る事が無くなる。
消えないものを放置しておけば、次第にこの地上が汚染された魂で溢れ返ってしまう。
故にそれを破壊する存在として生み出された、それが破壊神ラ・バスワルド。
「………………」
その地上顕現は破壊対象の総数が一定数以上に達した事をトリガーとして行われる。
しかしその反応はまだ微弱。その総数はまだ一定数には達していない。
つまり今は。
本来であれば、破壊神ラ・バスワルドが召喚されるような事態ではない。
「………………」
しかし、それでもバスワルドはここにいる。
氷と炎の分身体の魂は融合して、その真の姿となって現に地上に降り立っている。
「………………」
これは本来の役目とは異なる地上顕現。
自身の置かれた状況を確認し終えると、上に向けていた顔の向きを戻して。
「………………」
そして……その両手に黒い光が。
破壊神の周囲を覆うバリアと同質の力、破壊神の権能たる破壊の力が集約していく。
バスワルドは──動き出したのだ。
「………………」
何故ならそれは破壊の化身。その役目は破壊すること。
初めて地上に降り立った今、その目的など破壊以外にありはしないのだから。
そして──
それから数分後、騒ぎはすぐに城中を駆け抜ける。
「……暇だなぁ。シィル、なんか面白いもん出せ」
「えっと……じゃあトランプでもしますか?」
「トランプか……よし、じゃあババ抜きだ。負けたヤツは罰ゲームな」
それは当然、城主たるこの男の下にも。
「──魔王様!」
「あん?」
血相を変えた勢いでホーネットがランスの部屋に飛び込んできた。
「おぉホーネット、ちょうどいい所に。今からババ抜きするんだがお前も──」
「いえ、それよりも緊急事態です。中央塔の辺りで何者かが暴れ回っています」
「暴れ回ってる? 一体誰が?」
「それが正体不明の人物でして。それを目撃した誰もが見覚えが無い相手だと言っています」
「ほー?」
アメージング城中央塔──王座の間や大広間などがある城の最重要拠点とも言える場所。そこで正体不明の何者かが暴れている。
そんな火急の知らせを受けた魔王ランスは興味深しげにその眉を持ち上げた。
「報告によると敵は尋常ではない強さだそうで、すでに多くの被害が出ているようです」
「な、なんか怖いですね……知らない相手がこのアメージング城に襲撃してきたって事は……」
「……ははーん? これはあれか、もしかして俺様の命を狙いに来たってのか?」
「えぇ、その可能性はあるかと」
「なるほど、おもしれーじゃねーか」
ここは魔王のおわす城、アメージング城。となれば襲撃者の狙いはおのずと絞られる。
人類の敵、魔族の頂点、この世界の支配者たる魔王ランスは不敵に笑った。
「どれどれ、そんじゃこの俺様に歯向かおうとする愚か者のツラを拝んでやるとするか」
我は魔王。この世界に敵など無し。
そんな気分でランスは意気揚々と、あるいは余裕綽々で中央塔に向かった──のだが。
「な、なんだこりゃ……」
到着後、一転して呆然となるランス。
その眼前に広がるのは元々の姿とは打って変わって無残な姿を晒す巨塔の光景。
アメージング城中央塔、そこでは謎の襲撃者による破壊が繰り広げられていた。
新築の城の至る所に虫に食われたかのような大穴が空き、すでに倒壊している箇所も数知れず。
特に無造作な破砕や爆発とは違う、綺麗な円形に抉られたような破壊跡が数多く散見された。
「うわ……穴ぼこだらけ……」
「おいおい、これじゃいつ城全体が崩壊したっておかしくねーぞ」
「えぇ、すでに周辺の避難は完了しているので居住者に被害は出ないと思いますが……」
「これ以上俺様の城を壊させてたまるかってんだ。とっとと片付けるぞ、敵はどこに……」
新築ピカピカだったアメージング城をこんな無残な姿に変えてしまった、その相手とは。
「……あっ! ランス様、あそこ──!」
それは瓦礫の海に立つ、というか、その足は地面に触れず宙に浮いていた。
城の残骸が散乱する中、その姿の周囲には邪魔なものが一つたりとも存在しない。
それもそのはず、それに近付いたもの全てが尽く破壊されてしまうから。
あらゆるものを寄せ付けぬ神々しい姿。
そこにいた──破壊神の姿。
「おぉ! 何処の何者かは知らねーがなんとビックリ美人ちゃんじゃねーか!!」
それは一目見ただけで脳裏に焼き付くような美しい美貌、美しい姿をしていた。
謎の襲撃者はまさかの女。言わずもがなランスにとっては大当たりを引いた気分である。
「身体も凹凸のあるナイスバディで……いいぞ、いいじゃないか! こういう襲撃は大好物だ!」
「魔王様、気を付けて下さい。この破壊跡を見る限り奴の強さは見かけでは……」
「心配すんな、相手が誰だろうが俺様は最強だ。俺一人でやるからお前らは下がってろ」
我は魔王。最強の存在に敵など無し。
ランスは腰に下がった武器を手に取る事すらもせずそのまま前に進み出た。
「やい! そこの美女! お前の目当てはこの俺様だな? そうだな!?」
ランスが声を掛けると──その目が。
「………………」
何一つ感情の読み取れない目が。
無表情の目が、左右色の違う青と赤の目がランスの方に向いた。
「どうだ、遂に登場だぞ。この俺様こそが世界を支配する王、魔王ランス様だ」
「………………」
「ぐふふふ、怖いか? 声も出ないか? でもまぁ安心しなさい、俺様はとーっても優しい魔王様だからな。たとえ俺様の命を狙う敵だろうともそんな事でお前を殺したりはしないとも」
「………………」
「ここはやっぱおしおきセックスで手を打ってやろうじゃないか、がーはっはっはっはー!」
絶対的に勝利が大前提、すでに勝敗は決しているかのように大笑いする魔王ランス。
人間だった頃から自信過剰な性格、それが魔王になった今では。魔王ランスがこの地上で最強の存在である事は疑いようも無く、故にその自信は真っ当なものと言えたのだが──
「………………」
すると──動き出す。
その優美な姿がふわりと宙に浮かんで、僅かに前傾姿勢となって推進する。
「…………────」
「がははははー……お?」
そして、迫る。
「っ……!」
その圧でランスは目が覚めた。
完全に相手をナメきっていたとはいえそれでも魔王、というか元々からして歴戦の英雄。
こちらに向かって突っ込んできた謎の美女。そのただの美女とは思えない圧倒無比なプレッシャーに頭の中が一瞬で戦闘モードに切り替わる。
「──おっと!」
真正面から迎撃するか迷って、しかしランスは刹那の判断で回避を選択した。
その判断は正解だった。その突進を受け止めようとしていた場合、如何な魔王の肉体とてどうなっていたかは分からない。
「っ、なんだぁ!?」
横っ飛びに避けて回避して──驚愕した。
謎の美女の通った道が、地面や壁がそのまま真っ直ぐ半円状に抉られていたのだ。
「これ、あのバリアのせいか……!?」
謎の美女の身体の周囲、一回り大きく覆うようにして展開されている黒色のバリア。
それは魔法バリアや無敵結界などのただ身を守る障壁とは次元が違う、球状のバリアの通り道に沿うようにして障害物全てが消滅していた。
「つーかおい! これ以上俺様の城を壊すな! まだ完成だってしてねーんだぞ!!」
「………………」
「……あのきみ、ちょっと話聞いて……のわぁ!」
言葉を交わす間もなく再度の直進。
謎の美女が突撃してくるルート、破壊の軌道上から慌てて飛び退く魔王ランス。
「くそ、この俺様を翻弄するとは……おい、お前は本当に俺様の命を狙いに来たのか?」
「………………」
「……ぐぬ、随分と無口なヤツだな……」
「………………」
謎の美女はこちらの問い掛けに何一つ言葉を返す様子が無い。
ランスとしては殺すつもりは無いしこの後セックスもする事だし、もっとこの美女のパーソナルデータを知っておきたい、せめて戦う理由ぐらい聞いておきたいのだがそれすら答えてくれない。
何を考えているのか全く読めない無表情といい、どうにもやりにくい相手である。
「つーかせめて名前ぐらいは名乗れ!」
「………………」
その問いに、一瞬その動きを止めて。
「……我が名は」
「お?」
「我が名は……破壊神ラ・バスワルド」
その名を告げた──破壊神ラ・バスワルド。
天より降り立った第二級神、この世界に破壊を齎す存在。
「あぁん? 破壊神だぁ?」
「………………」
「んじゃなにか、お前は神様だってのか?」
「………………」
「おい急に黙るなよ。というかその破壊神サマが一体俺様に何の用事で……」
「…………────」
「だーから話の途中で突っ込んでくんなって!」
言うべき事は言ったとばかりに再びの突進、再びの破壊。
ランスも再度回避を選択。回避こそ可能なもののこのままでは埒が明かない。
「ぬぅ、こうなったら……」
と、そんな時だった。
「おい、なんの騒ぎだ、ってこりゃあ……」
「あん?」
近くにあった瓦礫の山の物陰から。
昔はとても耳障りだったが今では別にそうも感じなくなった声が聞こえて。
「……お、おいおい……なんだなんだ、あの見るからにヤバそうなヤツは……!」
「にゃ、にゃにゃにゃ……! アメージング城が穴ぼこだらけになってるにゃあ……!」
「わ、わぉん……! り、リス様、これは早くここから逃げた方がいいのでは……!」
「おぉ、お前ら……」
それは魔人ケイブリス、そしてその使徒達二匹。
つい昨日、魔王の気まぐれによってたまたま復活していた最弱の魔人がひょっこり姿を見せた。
「お、おいランス、一体アイツはなんなんだよ!」
「さぁな。なんかいきなり現れていきなり暴れ出した破壊神ラ・バスワルドさんだと」
「破壊神!? つーかラ・バスワルドって、その名前はなんかに似てるような気が──」
「にしてもケイブリス、お前ちょうどいいタイミングでやって来たな」
「へ?」
ちょうど良いタイミングとは。ケイブリスが眉を顰めたのも束の間、
「……っておい、ちょっと……」
魔王の手が伸びてきて、小さなリスの小さな身体をむんずと掴み上げた。
「そういやお前、最強になりたいんだったよな」
「は? いやまぁそりゃそうだけど……」
「ならちょうどいい相手があそこにいるぞ。あいつを倒せばきっと経験値がっぽがぽだ」
「え、いや、そんな、ちょっと待──」
魔王の言わんとする事を察したケイブリスはその身体をわさわさと震わせた。
がしかし、そのような微々たる抵抗で魔王の手のひらから逃れられるはずもなく。
「待って! いやだ! やだやだ!!」
「てなわけで……いってこい! ケイブリスっ!」
「やめてーーーー!!」
そのままばひゅーんっ!! と投げられた。
「あぁーーー!?」
「リス様ーーー!!?」
「ぎゃーーーーー!!!」
魔王渾身のピッチングによって剛速球と化した魔人ケイブリスが、
「………………」
破壊神バスワルドの周囲に展開された球体状のバリアに触れた、その瞬間。
「──あっ」
聞こえた小さな断末魔。
「あぁーー!! リス様がぁーーーー!!」
「り、リス様が大根おろしみたいになっちゃったにゃーーーー!?」
球体状のバリアに触れた、その瞬間。
触れた部分から魔人ケイブリスの身体全てが粉微塵に破壊された。
「うげ、やっぱあのバリアはヤバいな……触れた瞬間即死したぞ……こわ」
「魔王様ー! いくらなんでもリス様の扱いがヒドすぎるにゃーー!!」
「わんわん! 怖いのはあいつのバリアじゃなくて魔王様のほうだわんーー!!」
「やかましい、魔王様の為に身を粉にして働くのが魔人の仕事だ。にしてもあのバリア……つうかあの黒いエネルギーそのものが危険っぽいな」
凶悪なバリアの表面上で火の粉のように揺らめく黒い粒子、それは純粋なる破壊の力そのもの。
永久に消えない魂を完全に消滅させる為に与えられた、触れたものをただ破壊する力。それは魔人ケイブリスの肉体をあっという間に摩り下ろしてしまう圧倒的破壊力。
ただ幸いにも、現在の破壊神ラ・バスワルドは諸事情によりその神格を低下させている。神たる力の一部を奪われて、更に神格を落とす原因となる魔血魂を取り込んでいる。
そのおかげでケイブリス本人の肉体は瞬時に破壊されたもののその根源は無事、つまり魔血魂は破壊される事なくその場にぽとりと転がった。
もし破壊神ラ・バスワルドが本来の神格を有していた場合、それは魔王をも凌駕する力を持つ。
つまり魔王の力の源である魔王の血、その一部である魔血魂すらも破壊する事が可能という事。
その場合はケイブリスも魂ごと破壊されて完全に消滅していたはずなので、今回はバスワルドが神格を下げていたおかげで九死に一生を得た形だった。
「つーかワンニャン共、ケイブリスがやられたってのに使徒のお前らは仇を討たなくていいのか」
「わ、わん達の残機は常に0なんだわん! ケイブリス様と違って無駄死には出来ないだわん!」
「そうだにゃそうだにゃ! そもそもあんな強そうなヤツににゃあ達で勝てるわけが──」
「…………────」
「ぎゃーー!! こっちに来たわんーーー!!」
「逃げるにゃ逃げるにゃーー!!」
突撃。破壊の力を撒き散らす突進はただそれだけで大きな脅威となる。
ランスは再び回避、ケイブワンとケイブニャンは散り散りに逃げ出していく。
「ぬぅ……なるほどな、確かにこのバリアは厄介だ」
「………………」
「これが破壊神か、やるではないか」
「………………」
その実力は認めざるを得なかった。
天界より降臨した破壊神。魔王の城を襲撃して魔王の前に立ち塞がるのも納得の強敵。
「──が!!」
──が。
それでもここにいる男は。
「俺様はランス様だ!! 破壊神如きを恐れる俺様ではないわ!!」
その男はランス。
立ち塞がるあらゆる敵と戦い、その全てを勝ち抜いてきた男。
「てなわけで……日光さん!」
「はい」
「んでついでにカオス!」
「ついでちゃう! 儂がメインじゃい!!」
ランスは腰に下げる両剣を引き抜いた。
白く輝く聖刀と黒塗りの魔剣を左右それぞれに、最近やり始めたばっかの双剣スタイルである。
「やいバスワルド! 手加減はしないからな、くれぐれも死ぬんじゃないぞー!!」
魔王の力とはいえこの相手に手加減は不要。
ランスはそう判断した。相手の実力を見抜く眼力は歴戦の英雄に備わる素質の一つ。
「……………………」
するとバスワルドの表情に僅かな変化があった。
まるで相手を見定めるかのように、その目の奥の瞳孔が少しだけ大きくなって。
「いくぞー!! ひっさーーっつ!!」
一方でランスは。その両腕を高く掲げて。
すでに気力は十分、故にその力を余す事なく勢いよく振り切った。
「喰らえーい!! 魔王アターック!!」
地に打ち付けて──ズンッ! と重く響く。
魔王の力が、その本気が炸裂したのだ。
「うわわっ、地面が……!」
「揺れていますね……」
その瞬間、大地が悲鳴を上げた。世界一の山岳である翔竜山が揺れたのだ。
魔王の本気は大地を、大気を、世界を圧倒する。離れた場所で戦いを見守っていたシィルやホーネットにも感じ取れる程、桁違いの力を行使するのが魔王という存在。
「……………………」
そうして放たれた斬撃の衝撃波が、地を食らう大刃となって突き進む。
魔王の放った必殺技。それは一瞬でバスワルドの視界全てを覆う程の莫大なエネルギー量。
「……………………」
洪水に飲み込まれたかの如く、その姿はあっという間に見えなくなって──
「……ヤバい」
「ヤバいってなにが?」
「ちょっとやり過ぎたかも。こりゃバスワルドちゃん死んじまったんじゃ──」
この後おしおきセックスと洒落込む予定の美女を殺すわけにはいかない。
対戦相手であるにもかかわらずランスがその身を案じて動きを止めた、その時だった。
「っ、心の友!」
「危ない!」
「げッ!!」
当代の魔王が放った必殺技を──超えた。
衝撃波の瀑布を真っ向から突き抜けて、破壊の神が迫りくる。
それは──比較するならランスアタックの数十倍に及ぼうかという魔王アタックの衝撃波。
がしかし破壊神ラ・バスワルドには届かず。衝撃波はその身を覆う破壊の粒子と追突し、双方の破壊力が相殺し、結果バスワルドの通り道の分だけ綺麗にかき消された。
「…………────」
「ぬわぁ! こ、この……っ!」
交錯して、寸前、顔の前を通った破壊の粒子が髪を撫でる。
衝突ギリギリで回避したものの、それでもたった今起きた事にランスは動揺を隠せない。
「お、俺様の魔王アタックが……!」
「効かんかったのう」
「効きませんでしたね」
「そんな……がーん、がーーーーん……!」
実はこれが初お披露目だったランスの新必殺技、魔王アタック。
単に魔王になったランスが力任せに繰り出すランスアタックというだけの代物なのだが、それでも魔王が放つ必殺技だけにその威力は絶大、この世に並び立つものなど無い究極の一撃。
……だったのだが、破壊神の破壊の力はそれすらも破壊してしまった。神格を落としているとはいえさすが第二級神の力は伊達ではないという事か。
「エネルギー波の類は相性が悪い……となると、直接攻撃で攻めるしかありませんかね」
「えーマジでー? でも儂等の刃ってあのバリアと斬り合っても大丈夫なん?」
「……大丈夫でしょう、恐らくは」
「んじゃ日光、まずお前から試してみろよな」
「……貴方がメインなのでは?」
「知らん。それに大丈夫言うたのお前やんけ」
魔王が放った必殺技すらも相殺して打ち消してしまう破壊神バスワルドのバリア。
破壊の権能そのものと言える力、それは神造武器であるカオスや日光ですらも躊躇する程で。
「どーするよ心の友、なんだか分が悪そうだし一旦引いて体勢を立て直すか?」
遂には撤退案まで提示される始末。
「………………」
そんな状況にランスは──
「……ナメんなよ」
「お?」
俯いていたランスは顔を上げた。その目はまだ死んでいなかった。
それどころか怒りの炎によって強く激しく燃え上がっていた。
「魔王様をナメるなよーー!!!」
その怒声は。全生物を恐怖で震え上がらせる魔王怒りの体現。
我は魔王。破壊神がなんのその、絶対なる最強は断じて自分である。
このままでは済まされない。魔王アタックが不発に終わったままではいられない。
そもそもが苦戦するなんて事があり得ない。たとえ相手が破壊神であろうとも。
──故にランスはその名を呼んだ。
「かもーんっ! シャリエラーー!!!」
「はーい。シャリエラでーす」
呼ばれてどこからともなくやって来たアメージング城在住の踊り子、シャリエラ。
今となってはランスの秘密兵器、伝説の踊りがそのベールを脱ぐ。
「さぁ踊れ! お前のダンスを見せてみろ!」
「はいですご主人様。るーるるる~……♪」
「おぉ……きたきた……力が湧いてきたぞ……!」
全身に立ち昇る充足感。踊りLV2の才能によるダンスが齎す強力なバフ効果。
ランスは魔王であり、魔王の体力は無尽蔵であり尽きる事は無い。しかし必殺技を放つのには体力の他にも気力が必要であり、その気力は魔王とあっても消費をする。
すなわち魔王とあっても必殺技を放つのには、つまりランスが魔王アタックを放つにはそれ相応の溜めが必要になるのだが。
「さぁーて、覚悟しろよバスワルド……!」
「………………」
しかし、気力を回復させるシャリエラの踊りはその前提を覆す。
今や気力は無限に湧き出る状態、そして繰り返しになるが魔王の体力には上限が無い。
となれば。気力も体力も無尽蔵の場合、どんな事が可能になるか。
「いくぞー!! 魔王アタタタターーーック!!」
漲る力のままに魔王は魔剣を振るった。そして続けざま聖刀を振るった。
その一太刀一太刀が必殺技。左のカオスで一撃、右の日光で追加の一撃、連続で放たれた魔王アタック、津波のような衝撃波が二連。
それだけでも圧倒的な光景だが、魔王の本気は何も二連程度には留まらず。
「あたたたたたたたたたたったたたた──!!」
「…………────!」
『た』の回数だけ繰り返し繰り返し放たれる魔王アタック。
カオスと日光を交互に振るう度、噴出する桁違いの衝撃波がバスワルドを飲み込んでいく。
それはランスお得意のがむしゃら連発ランスアタック。それを今や魔王アタックの規模で。
シャリエラがいるからこそ実現可能な技。インチキにインチキを重ねたような戦法だが、それだけに効果は甚大で。
「………………っ」
バスワルドの目が大きく見開かれた。
迫り来る圧倒的な衝撃波は先程と同じように破壊の粒子と相殺され、その身体には届かない。
がしかし間髪入れずに続きが。繰り返し襲い掛かる衝撃波は破壊の粒子と相殺されて、その身を守るバリアを確実に削っていく。
「うりゃりゃりゃりゃりゃーーー!!」
「…………くっ」
バリアの維持が──追い付かない。
無限に迫る魔王アタックを前に、破壊神の権能たる破壊の力が枯渇していく。
そして──
「とーーーーっ!」
「あ────」
一撃、届いた。
それで勝負は決した。一つ届いた以上、続くその先を防ぐ術などありはしない。
魔王の放った必殺技にその身を刻まれて、やがて破壊神は力なくその場に崩れ落ちた。
「──っと、どうだバスワルド、参ったか!」
「………………」
返事は無い。
ただその沈黙は先程までとは意味合いが異なる、言葉なきその姿は敗者の証。
「よーしっ! この戦いは俺様のしょーり! だいしょーりー!!」
こうしてランスは破壊神バスワルドに勝利した。
魔王様の見事な勝ち戦を受けて、それを観戦していた者達からも祝福と賛辞の言葉が。
「……なんか、ズルいのにゃ……」
「インチキだわん……」
「ズルくない。戦いってのはこういうもんだ。なーシャリエラー?」
「そうなのです。ねーランスー」
ランスにとって戦いとは。ズルかろうが楽に勝てる方法があるのならそれで良し。
最強の存在である魔王になっても尚、正々堂々など知ったこっちゃないのであった。
「さーてさて! ではではお待ちかねのおしおきセックスのお時間でございまーす!!」
ともあれ、勝利の次に待つのはご褒美。
ランスは鼻歌混じりに勝ち取ったご馳走のそばへと近付いていって──
「……って、おや?」
思わず目を瞠る。
たった今討伐した相手、破壊神ラ・バスワルドの姿はこつ然と消えていて。
その代わりに倒れていたのは──
「う、うぅ……」
「ん……っ」
「ハウゼルちゃん……と、サイゼル?」
何故かそこにいたのは魔人ハウゼル。そして魔人サイゼル。
まるで破壊神と入れ替わったかのように魔人姉妹二人が倒れていた。
「……なんだこれ? どういうこっちゃ」
「…………ん」
「おい二人共、こりゃ一体どういう……」
「…………うぅ」
「駄目だ、意識が無い。……シィール! この二人を医務室に連れてけー!!」
「あ、はーい!」
お呼びが掛かって物陰からシィルが姿を表す。
という事で、まだ意識が戻らないハウゼルとサイゼルは医務室に搬送が決定。
二人が目を覚ますのを待ってから、ランスは事情を聞いてみる事にした。
こうして──ひとまず破壊神の脅威は去った。
がしかし、事件はこれでは終わらなかった。
破壊神ラ・バスワルドによる騒動、それはここからが本番だった。