アメージング城を襲った破壊の暴風、破壊神ラ・バスワルドの脅威は去った。
地上の王たる魔王ランスが戦い、見事に第二級神を討伐した。
そして──その後。
「おーい、二人共ー」
「あ、ランスさん…」
「おう、目が覚めたか」
「うん、なんとかね……」
ランスが向かったのは医務室。するとベッド上で出迎えたのは二人の魔人。
破壊神バスワルドの討伐に伴い救急搬送された二人、ハウゼルとサイゼルはすでに意識を取り戻して身体を起こしていた。
「でだ。二人共、ここまでの経緯は分かるか?」
「ん、まぁ……一応は……」
「なんかいきなり破壊神ラ・バスワルドとかいう物騒な美人ちゃんが暴れ出してな。でそれを俺様がやっつけた。そこまでは良かったのだが……するとバスワルドの姿が消えちまって、その場には何故か二人が倒れていたのだ」
「……えぇ」
「これ、どういう事だか分かるか」
「……はい、分かります。実は──」
今まで知る由も無かった事、そして遂に思い知った事。
破壊神ラ・バスワルドと自分達の関係性、ハウゼルはぽつぽつと語り始めた。
「……つまり、あのバスワルドは君たち二人が……合体? いや融合した姿って事か?」
「そういう事です。ただ……」
「どちらかって言うと私達が融合したんじゃなくてあの破壊神ラ・バスワルドこそが元なのよ。バスワルドが二つに分かれて生まれたのが私でありハウゼルだってことね」
「ほへー……なるほど……」
魔人ラ・サイゼル。魔人ラ・ハウゼル。
氷と炎という正反対の属性を持ち、瓜二つの容姿を持つ姉妹にはその原型がある。
二人の元々の姿、言わばその真の姿が破壊神ラ・バスワルドであるという事。
「あの日、突然予兆のようなものを感じて……私と姉さんはバスワルドに戻りました。そうなった理由は今でもよく分かりません」
「ふむ……バスワルドになったのはいいとして、アメージング城をぶっ壊したのは何故だ。んで俺様に襲い掛かってきた理由も」
「それはバスワルドに聞いてよ。あれは私達がそうしたくてした訳じゃないんだから」
「んじゃあバスワルドの意思とお前ら二人の意思は別だってことか?」
「えぇ、そうです。バスワルドになっている間も朧げながら意識は残っているのですが、バスワルドそのものの意識の方が優先されるらしく、私達には一切コントロールが出来なくて……」
破壊神の姿をしている時は破壊神の意識が、つまり元々のバスワルドの人格が表出する。
行動の主導権は完全にバスワルドが握り、サイゼルにもハウゼルにもコントロールは不可能。二人はあくまで破壊神の分身体である事を考えるとそれも当然の事と言えた。
「バスワルドの力はとても強大でした。どうしてあのように暴れていたのかは不明ですが、ランスさんに止めて貰わなかったらと考えると……本当にご迷惑をお掛けしました」
「ま、俺様に掛かればあの程度大したことはない。二人の意思じゃないっつーなら城を壊した事も大目に見てやるが……ちなみに今ここでバスワルドの姿に戻ったりする事は出来るのか?」
「いえ、それは無理です。あれは私達の意思でどうにか出来るものではないようで……」
「もし出来たとしてもやりたくないわね。バスワルドの姿になったら何も制御出来ないんだもん」
「ぬぅ……そうか」
ハウゼルとサイゼルの意思で自発的に破壊神バスワルドの姿に戻る事は不可能。
よしんばバスワルドの姿になれたとしても一切制御が出来ない以上、常時破壊のバリアに守られるバスワルドとセックスする事は実質的に不可能。
つまりご褒美は無し、唯一それだけがお目当てだった魔王ランスは悔しげに喉を鳴らした。
そして。ランスは医務室から退出して。
「でも良かった……こうして元の姿に戻れて」
静かになった医務室。
すぐ隣に妹がいる事を実感しながら、姉のサイゼルは穏やかな表情でふぅと息を吐く。
「突然バスワルドになっちゃった時は本当にどうしようかと思ったわ」
「……そうね。……けど」
一方でハウゼルは。
まだその表情を曇らせたまま。
「ねぇサイゼル。バスワルドの事……どう思う?」
「どうって……なにが?」
「今回私達が突然バスワルドに戻った理由。それが分からないっていうのもそうなんだけど……サイゼルは感じない? バスワルドは……まだ……」
「それは……」
言われるまでもなく、サイゼルも気付いていた。
その胸の奥には。まだ……鼓動を感じる。
今までは感じる事の無かった破壊神の脈動を。
──まだ、バスワルドの脅威は去ってはいない。
ハウゼルとサイゼルの懸念はその後すぐに現実のものとなった。
そして、それから数日後。
「ふぃー、今日もいい天気だ。シィル、茶いれろ」
「はい、ランス様」
にこやかに頷いて、シィルは慣れた手付きで急須にお湯を注いでいく。
昼下がりの穏やかな日差しの中、野外テラス席でまったり中の魔王ランス。
「にしてもこの間はえらい騒ぎだったなぁ」
「破壊神バスワルド、ですか?」
「うむ。いきなり現れたと思ったら襲い掛かってきて……結局なんだったのだあれは」
数日前、突如出現した破壊神ラ・バスワルド。
破壊神というだけあってとにかくその破壊の力は凄まじかった。サイゼルとハウゼル二人分の力を単純に合算した力量を遥かに超えていた。
それは今二人が眺める景色が物語っている。破壊神が暴れ回った事によりアメージング城中央塔は無残にも崩壊し、戦いに敗れて消滅した不幸なリスなど犠牲者も出てしまった。
「けどまぁ破壊神と言えども最強魔王様であるこの俺様の敵では無かったがな」
そんなバスワルドと戦って──魔王ランスは見事に勝利を収めた。
久々に全力を出した一戦、破壊神との激闘を思い出しながらランスはほうじ茶をずずっと一口。
「でも……勝利はしたもののアメージング城への被害は大きくなってしまいましたね」
「それはパイアールとかに何とかさせるからノープロブレムだ。どうせまだ建築途中だしな」
「パイアールさん、崩壊した中央塔を目にして呆然とした顔になっていましたね……」
「最終的な完成はまだまだ先なのだし、あの程度のやり直しどうって事は無いだろ。それよりも痛恨だったのはバスワルドとセックス出来なかった事だ。せっかく倒したんだからそのままおしおきセックスの流れだったのに、倒した途端にサイゼルとハウゼルに戻っちまったからなぁ……」
などと世間話を交えながら。
ランスとシィルが昼食後のまったりとした時間を楽しんでいた──そんな時だった。
「──えっ?」
ふと横を見て気付いたのはシィル。
「ら、ランス様っ!」
「あん? ……ぎょッ!?」
声に釣られて視線を向けて、すぐさまシィルと同じようにぎょっと驚くランス。
「………………」
それもそのはず。
ランスとシィルの驚愕の先には、それが。
「………………」
「な、なな……ッ!」
「我が名は……破壊神ラ・バスワルド」
テラス席の奥の方、神々しくも屹立するその姿は純粋なる破壊の象徴。
先日討伐したはずの破壊神ラ・バスワルドが何故か再びアメージング城に顕現していた。
「………………」
「な、なんでバスワルドがまた……!」
「おいサイゼルにハウゼルちゃん! こりゃどういうこっちゃ! ……って、今の二人に言っても意味ねーのか……!」
たった今話題にしていた相手、まだ先日の戦いの傷跡深く残るこの城に再び現れたバスワルド。
破壊神の状態は姉妹達にもコントロール不可能という事あって、また訳も分からず戦闘になるのかと身構えるランスとシィルだったが──
「………………」
「……あれ?」
「………………」
「……あん?」
警戒を厳にする二人をよそに、バスワルドは。
「………………」
数日振りに現れたバスワルドはただその場にふわふわーっと浮いているだけ。
喋る事も無く身動ぎすらもせず、勿論ながら破壊の力を周囲に振りまくような事も無く。
「………………」
「なんか……この前とはちょっと雰囲気が違う、というか……」
「……うむ。襲い掛かってくるような気配は……なさそうだな……」
先日のようにバスワルドが襲い掛かってきたり破壊の力を行使する気配は無い。数多の戦いを経験してきたランスとシィルの観察眼を通してもその姿に戦意は見られなかった。
無敵結界のようにOFFにする機能が無いのか、破壊神の象徴でもある破壊のバリアこそ展開されてはいたものの、それも波のように揺らめく事なくバスワルドの周囲を穏やかに包むだけで。
「………………」
「おっ、なんだ、やるか?」
そんなバスワルドが、近くにいたランス達の存在に気付いて振り向いた。
すると──
「………………」
「お、おぉ?」
無表情無反応のまま、ふわふわ宙に浮きながらすいーっと近付いてきて。
「………………」
「ぬ……」
そしてぴたっと停止、ランス達の手前3m程で立ち止まった。
「………………」
「……な、なんだよ」
視線が交錯。じっと睨み合う魔王と破壊神。
「………………」
「ら、ランス様……」
「お、おい、それ以上こっちに寄るな。お前のバリアに当たりそうで危なっかしいんだよ」
「………………」
ランスの言葉が届いているのか、理解しているのかいないのか。
それすらもよく分からないが、とりあえずバスワルドがこれ以上近付いてくる様子は無い。
「………………」
「……ランス様、その……バスワルドは何がしたいんでしょうかね?」
「分からん。こっちに近付いてきたって事は何かしらの用があるんだろうが……」
「………………」
沈黙したままの破壊神。全てを見通すような鋭い神の眼差しから伝わるのは無言の圧。
とにかく圧は凄い。神々しさと破壊の圧が相まって途轍もないプレッシャーを感じる……が、それでも無表情無反応のままではその意思まで読み取る事は難しく。
「おいバスワルド、お前の目的はなんだ」
「………………」
「おいって」
「我が名は……破壊神ラ・バスワルド」
「そりゃ知っとる」
「………………」
やっと口を開いたかと思えば名乗りだけ。そして再度沈黙。
何かしらの意思や思考はあるのだろうが、あまりにも掴みづらい相手である。
「………………」
「けど、なんか、こいつ……」
「ランス様を……見ていますね」
しかしてその視線の先に注目してみると。
どうやらシィルは眼中に無く、バスワルドはランスだけを注視しているようで。
「バスワルド、俺様になんか用か」
「………………」
「あ、もしかして戦いに負けたからって潔く俺様に抱かれに来たか。そうなんだな?」
「………………」
「でもバリアがなぁ……この物騒な破壊バリアさえ無ければセックスも出来るのだが……」
試しにランスはテーブルにあった急須を拾ってバスワルドに向けて投げてみる。
すると急須は空中でバリアに触れた途端、粉砕機に掛けられたように粉々になった。
「だーめだこりゃ」
「あぁ、ランス様……この急須高かったのに……」
「また買え。それよりもバスワルドよ、そのバリアを解除する事は出来ねーのか?」
「………………」
「おい、聞いとんのか」
「………………」
「……反応、無いですね」
「無いな。相変わらずうんともすんとも言わねーヤツだなぁこいつは……」
何をしても。何を語りかけても。返ってくるのは無表情無反応の沈黙だけ。
ディスコミュニケーションの化身のような相手にさすがのランスも困り顔である。
「おいバスワルド、お前の名前はなんだ?」
「我が名は……破壊神ラ・バスワルド」
「名前はちゃんと名乗るんですよね」
「うむ。でバスワルドよ、お前は一体何が目的でここに来たんだ?」
「………………」
「お?」
するとバスワルドは。
その左手を軽く持ち上げて。
「………………」
「ど、どうした」
手のひらをじっと見つめた後。
「………………」
その手を下ろして、ランスに視線を戻した。
「……は?」
「………………」
「……おい、なんだ今の」
「さ、さぁ……なんでしょうね……?」
「………………」
ランスとシィルも首を傾げてしまう程、謎が多すぎる破壊神バスワルド。
ろくに言葉も発せずその表情も変わらない。神の意志を伺い知る事は出来ないのか。
「おいバスワルド、なんとか言え」
「………………」
「だーめだこりゃ」
この沈黙の前には打つ手無し。ランスは早々に白旗を上げた。
「シィル、部屋に戻るぞ」
「えっ、あ、けどバスワルドを放っといてもいいんですか?」
「いいだろ別に。戦う気は無いようだし。その内に飽きてサイゼルとハウゼルに戻るだろ」
「はぁ……」
意思疎通が取れない、というか相手側に取る気が無い以上は仕方無し。
どうせセックスも出来ない事だしと、ランスはバスワルドの存在を放置する事にした。
「………………」
……しかし、その後。
「………………」
「…………ぬぅ」
「ええっと……」
廊下を歩く、ランスとシィル。
「………………」
その背後に続く、破壊神。
「……ら、ランス様……」
「……あぁ、バスワルドのやつ……俺様のあとをずっと付いてくるな……」
「………………」
付いてくる。破壊神が付いてくる。
何が目的なのか、部屋に戻ろうとするランスの後ろを無言でずっと付いてくる。
「おいバスワルド。俺様になんか用なのか?」
「………………」
「お前なぁ。そうだんまりだとお前が何をしたいのかサッパリ分かんねーんだっつの」
「………………」
「ぐぬぬ……何処までも喋んねーつもりか……」
「………………」
バスワルドはただじっと。
その圧のある神々しい視線を向けるのみで。
「………………」
「……むむ」
付いてくる。
「………………」
「うーむ……」
付いてくる。
バスワルドがずーっと付いてくる。
「………………」
「ら、ランス様……いいんですか……?」
「無視だ無視。こうなりゃ根比べだ」
背後に破壊神の圧を感じながら、それでもランスは徹底抗戦の構え。
喋らない、コミュニケーションが取れない相手に構っている暇など魔王には無いのである。
そしてその後、二人の根比べは数日間続いた。
魔王ランスの歩く後ろを背後霊のように続く破壊神ラ・バスワルド。
そんな奇妙な光景は耳目を集め、アメージング城内でもすぐに話題となった。
「で、だ」
「はい」
「………………」
「いい加減こいつをなんとかしたい」
「………………」
一週間後、ランスは根負けした。
破壊神の徹底した無言ストーカーっぷりにさすがの魔王も辟易してしまったらしい。
「なぁホーネット、一体全体こいつは何がしたいんだと思う?」
「そうですね……これだけ貴方の後ろを付いて回るという事は、何か訴え掛けたい事があるのだと見るのが自然だと思いますが……」
「けどこいつ全く喋らねーぞ。口を開いても『我は破壊神ラ・バスワルド』としか言わねーし」
「ですよね……」
「………………」
呼び出しを受けたホーネットも破壊神の奇行っぷりには頭を痛めていた。
バスワルドの破壊能力を考えるとこのまま放置しておくのはマズい。さりとてその破壊能力故に下手に手出しをするのもマズい。何から何まで扱いの難しい困った神様である。
「………………」
するとバスワルドは。
ランスとホーネットが向ける怪訝な視線をスルーしながら、その左手を軽く持ち上げて。
「………………」
そしてその手のひらをじっと凝視した後、すぐにランスに視線を戻した。
「……今のは?」
「それも分からん。けどこいつ、たまに今みたいな動作を繰り返すのだ」
「……何か意味があるのでしょうか」
「それが分かれば苦労はせん。聞いたって何にも答えちゃくれねーし」
「………………」
相変わらずの沈黙。
ひたすらに沈黙を続ける破壊神ラ・バスワルドが時々行う謎の仕草。
「………………」
自分の左手を見て。
「………………」
そして、ランスに目を向ける。
「左手を気にしていますよね……」
「だな。理由は知らねーけど」
「………………」
「左手の手のひら……いや、指?」
自分の左手を──その指を見て。
そして、ランスに目を向ける。
「これは……」
その仕草の意味にホーネットは気付いた。
バスワルドが気にしているのは左手の指、特に一番端にある小指だという事に気付いたのだ。
「もしかして……運命の赤い糸?」
「あん?」
「まさかバスワルドは……彼女にだけ見える赤い糸の先を気にしているのでは……」
自分の小指を、そして目の前にいる異性を気にする仕草の意味。
それはホーネットも経験がある──運命の赤い糸の導き。
「え?」
「………………」
「え、え。んじゃあまさか……まさか、こいつの運命の相手が俺様だってのか?」
「……恐らくは」
「……マジで?」
人間でもなく、魔人でもなく……神。第二級神たる破壊神との運命の繋がり。
そんなものが自分の指にあるのか。ランスには見えない仕様なので答えを知るはただ一人だけ。
「そうなのかバスワルド? お前には赤い糸が見えてんのか?」
「………………」
「ぬぅ、なーんも喋らねぇからなこいつ……」
破壊神は相変わらずの沈黙。
その指に何があるのか、何が見えているのか。バスワルドは何も答えてくれない。
「……まいいや。だったらとりあえず電卓キューブ迷宮に行ってみるか?」
ランスがそう声を掛けて。
「………………」
バスワルドの口は閉ざされたまま。
「………………」
けれども反応はあった。
その真っ直ぐ見つめるオッドアイの瞳孔が、応えるように若干大きくなった──
「お」
──その瞬間、ランスと破壊神バスワルドは電卓キューブに移動していた。
「おぉ、来たな」
「………………」
「こうして電卓キューブに来たって事は……マジでこいつが運命の女なのか……」
電卓キューブ迷宮。それは運命の赤い糸で結ばれた二人だけが訪れる事の出来る場所。
そんな迷宮にこうして来ている、それが何よりの運命の証。
「はぁ~……こいつがねぇ……」
「………………」
「おいバスワルド、お前はこのランス様と運命で繋がってたのだ。どうだ、嬉しいだろう?」
「………………」
「コミュニケーションが取れない……まだ一度も会話らしい会話をしていないぞ。そんなヤツと運命で繋がってるなんて事があるのか?」
運命の相手と称するのだから当然と言えば当然なのだが、これまでに運命の女と判明した相手はランスとそれなりに親交が深い女性達ばかりだった。
しかしこのバスワルドは。つい先日に初めて会って戦っただけ。セックスはおろかろくに会話すらしていない、そんな相手との運命にはランスは半信半疑である。
「……まぁいい。ここでつっ立っててもしゃあないし……とりあえず進むか」
「………………」
「俺に付いては来るんだよなぁ、こいつ」
意思疎通の取れない破壊神だがちゃんと状況を理解してはいるようで。
ランスが歩き始めると、そのすぐ後ろを宙に浮くバスワルドがふわふわ付いてくる。
「………………」
「おい、あんま近付くなって。お前のバリアが危ねーんだよ」
「………………」
「にしても迷宮の壁や天井がガリガリ削られちまってるけど……いいのかこれ」
「………………」
「俺しらーねっと。ここの責任者が文句言ってきたらお前が謝れよな」
「………………」
そんな一方通行の会話を交わしながら。
ランス達は迷宮を進む。すると──
『運命の二人よ……汝ら、真の姿で進むがよい』
「お、迷宮の試練か。…………ってあれ?」
何処からともなく聞こえた機械音声、それはこの迷宮を攻略する為の試練。
だがその瞬間ランスははてなと首を傾げた。
「今のって……サイゼルの時と同じだ」
「………………」
それは運命の相手の一人、魔人ラ・サイゼルとの電卓キューブ迷宮チャレンジ。
ランスはサイゼルとの電卓キューブ迷宮攻略は未だ成功しておらず何度も失敗している。その中で出されていた問題がこの『真の姿で進むがよい』というものだった。
「あんときは素っ裸で進むのが正解かと思ってな。サイゼルを裸に剥いたりそのままセックスしたりしてみたけど……全部失敗だったのだ」
「………………」
「でももしかして……バスワルドの状態でここに来るのが正解だったって事なのか?」
「………………」
「ぬ? じゃあ待てよ、これってサイゼルとの試練なのか? ……いや、というよりも……最初からサイゼルじゃなくてバスワルドとの運命が繋がってたって事か?」
ここにきてランスはようやく思い至った。
自分の運命の赤い糸は魔人ラ・サイゼルと繋がっていたのではなくて、その真の姿と。
つまり魔人サイゼルだけではなく魔人ハウゼルも含めた本当の姿、破壊神ラ・バスワルドとの運命が繋がっていたという事。
「なーるほど、そういう事だったのか……」
「………………」
「おいなんとか言えよ。俺様一人でべらべら喋ってたらバカみたいだろうが」
「………………」
「……本当に無口だな、お前……」
ちっとも会話が出来ない運命のお相手にげんなり顔のランス。
けれども謎は解けた。運命の導きはこの破壊神バスワルドと。サイゼル単体とでは何度挑んでも失敗していた試練の謎も解けて、その奥へと進めるようになった。
「まぁ考えてみりゃサイゼルが運命の女だってのはさすがにピンと来なかったからなぁ。それもハウゼルちゃん込みでの二人セットだってんなら分かるような気がするぞ」
「………………」
「……つってもこのバスワルドが運命の女だってのにもまーるでピンとはこねーんだが……」
「………………」
一歩一歩、破壊神との運命を確かめながら。
そうして進む事、暫くして──
「………………」
「お、どうやらゴールみたいだな」
ランスとバスワルドは迷宮の最奥に辿り着いた。
そこには大きな宝箱が一つ。その中にあるものこそ、運命の女の特典とも言うべき運命武器。
「どれどれ……」
ランスは宝箱を開く。
するとその中にあったのは──
「……あん? なんだこりゃ」
思わずランスも眉を顰める一品。
それは液晶画面の付いた手のひらサイズの小型の機械。
それは一見すると、というかまじまじ見ても到底武器のようには見えない謎のメカ。
「………………」
「お、取説みっけ。えー、なになに……『これを使えばシャイなあの子の本音もズバリ!? 秘められた乙女心を覗き見しちゃう彼氏御用達のとっておきアイテム──』
その正式名称は──破壊神専用、音声認識不要型自動翻訳機(召喚機能付き)。
その名も──『バスリンガル』
「……バスリンガル?」
「………………」
ランスはバスリンガルを入手した。
(続く)