所変わって──そこはアメージング城、空中庭園。
なにもない空間が突如丸く切り取られて、ほわほわーっとした淡い光に包まれて。
「……ぬ、ここは……」
「あぁ、どうやら戻ってきたようですね」
「やぁやぁ! おっかえりー!!」
その姿が現れる。
ランスとホーネット、二人の挑戦者が異世界から元の世界に帰還した。
「という事で……超・挑戦モードステージ1、クリアおめでとー!!」
どんどんぱふぱふー!! と軽快なクラクションBGMと共にハニーキングの喝采が。
二人は困難に打ち勝った。超・挑戦モードステージ1、旧魔王城にて待ち構えていたボス、最強の禁呪使いである魔王ガイを倒したのだ。
「いやいや、さすがの戦いぶりだったねー! ステージ1にしては中々強めなボスを選んじゃったなーとか思ったんだけどなー!」
「がははは、ちょろいちょろい。あの程度の相手なんざ俺様に掛かれば楽勝なのだ」
「ほう、そうかい? けれども実の所は結構苦戦したんじゃないかな? あれはGI歴990年、魔王になってもう大ベテランな段階の魔王ガイだからね。まだ魔王になったばっかの君とでは色々な部分で大きな差があったはずだ」
「いーやそんな事はない。全てにおいて俺様の方が上だった」
勝利という結果が全てとランスはえっへんと胸を張る。
歴戦の雄、魔王ガイは剣に魔法に禁呪とあらゆる手を駆使する強敵であった。
ただそれでも。お助けキャラであるホーネットの活躍もあってランスが見事に勝利を挙げた。
「ところで……ハニーキング、貴方に一つ聞きたい事があるのですが」
「おやホーネット君、なんだい?」
「あの場で戦った父の事です。あの父は結局どういった存在なのですか? あれは異空間にある異世界だとか言っていましたが……」
すでに亡くなっているはずの父親ガイとまさかの再会を果たしたホーネット。その心の中には再びの別れの寂寥感が渦巻いていたが、その感傷自体にも考えてみれば疑問が湧く。
すでに亡くなっているはずの父と再会した、あれは一体どういう原理だったのか。もしかしてこことは違う異世界では魔王ガイが別人として存在しているとでもいうのか。
「それともあれは過去の世界なのですか? しかしそう考えた場合でも妙な点が……」
あるいは異世界ではなくて、今よりも過去の時間軸に戻っていたという事なのか。
だがそれならば父親は。魔王ガイはその存命中、未来からやって来た自分とランスに会っているという事なのでは──
……などと、色々考えていたのだが。
「え。そこ気にするの?」
「え?」
しかしてハニーキングの返答は。
「ホーネット君さぁ、君って細かい性格だねーとかって言われたりしなーい?」
「……私の性格云々ではなく、納得の行く答えを聞きたいのですが」
「納得って言われてもねぇ? 超・挑戦モードに理屈を求められても困るっていうかー」
「………………」
「ホーネット、諦めろ。こいつはもう何もかもかフザけた奴なんだ。見た目からして分かるだろ」
残念ながらホーネットが抱いた疑問が解き明かされる事は無かった。
超・挑戦モードとはそういうもの。このモード内で戦う相手に意味を求めてはいけない。
理由や納得を求めたところで大いなる力の前では全てが無力なのである。
「あ、そうそう。ついでに言うとこのモード内での戦闘の結果は現実には反映されないから」
「あん? そりゃ何故だ」
「何故って挑戦モードはそういうものじゃん。だから魔王を倒したといっても経験値取得は無し。その代わりといってはなんだけどランス君に掛けられた禁呪の効果とか、ホーネット君が禁呪を使用した事による副作用なんかもチャラになってるからそこは安心してくれたまえ」
超・挑戦モード内での経験値取得は無し。戦闘結果によるメリットもデメリットも無し。
あくまで超・挑戦モードというのは強い相手と腕試しをする事だけが目的なのである。
「なんだ、それならインポの禁呪を恐れる必要なんか無かったのか」
「まぁそうだね。というか本当の事を言えばご褒美有りもダメなんだけどねー。やりこみ要素にご褒美を付けちゃうとライトユーザーから反感を食らうからさー」
「何の話をしてるんだがよく分からんが……ご褒美無しならこんなもん今すぐに止めるぞ」
「て言うじゃん? エサ無しだと絶対にやってくれないじゃん? だから今回は特別にご褒美有りバージョンなんだ。くれぐれも皆には内緒だよ?」
ニンジンをぶら下げないと動いてくれないランスを釣る為、今回は特別にご褒美有り。
そこだけが過去の挑戦モードとは異なる部分と言える……かもしれない。
「さてさてランス君。君が問題ないならこのままステージ2に進んじゃうけど、どうかな?」
「別に構わんぞ。どんと来い」
ステージ2への連戦、ランスは強気に頷く。
「ステージ2となると……ステージ1のお父様よりも強い相手が出てくるという事でしょうか」
1を倒して、待ち受ける2のボス。となれば1よりも強くなるのが自然な流れ。
ホーネットのそんな予想にハニーキングは「ううん、それはちょっと違うよ」と呟いて。
「ステージボスの選出はクジ引きだからね、ランダム選出だ。この先のステージでは魔王ガイよりも強い相手が出てくるかもしれないし、あるいは弱い相手が出てくるかもしれない。そこは完全に運任せだよ」
「なんか変だなそれ。普通こういうのって先に進む程に敵が強くなるもんじゃねーのか?」
「まーそりゃそうなんだけどー。でもそのパターンだと先が読めてきちゃうっていうかー」
「あん?」
「いやほらさー、そのパターンだと『あぁコイツが出てきたって事は次はアイツだな』みたいな感じになっちゃうじゃん? それが6ステージ分も続くなんてのは色々と……ほら、色々とね?」
色々と。そこには大いなる存在であるハニーキングにしか分からない色々な悩みがあるらしい。
なので今回の超・挑戦モードは対戦相手固定式ではなく、ハニーキングが用意した6体の強敵をランダムな順番で倒していくモードとなっている。
要するに、ステージ2だからといって1よりも強い敵が出てくるとは限らない仕組みである。
「ていうかね!! そういう裏側の事情をポンポンと喋っちゃダメだから!!」
「ダメも何もお前が勝手にべらべらと喋り始めたんだろうが」
「という事で! 超・挑戦モードステージ2!! その対戦相手を決めてもらうよ!!」
「決めてもらうよって……どうせまたお前が決めるんだろ?」
「イエース!! 次も私が決めまーす!! てなわけでクジ引きカモーン!!」
カモーン!! の掛け声を合図にして、
その手元にポンっ! とくじ引き箱が出現。
「さぁさぁドキドキターイム! ランス君が次に挑むステージは…………こーれだーっ!」
箱の中に手を突っ込んでかき混ぜて。
そして、ハニーキングが一枚のクジを掴んだ。
「……む、むむむっ!」
クジに書かれていたのは──『7』
「うわー! 7かー! 7はなぁー! 7はちょっと微妙かもしれないなー!!」
「微妙? それはどういう意味ですか?」
「この挑戦モードを用意した私にとっての微妙、つまりランス君にとっては良い意味だね。多分ステージ1の魔王ガイを倒した君だったらあんまし苦労はしないんじゃないかな」
「要するに弱い相手ってことか」
「まぁそうかもね。とにかく見てのお楽しみって事で。……よっこいしょー!」
ハニーキングは頭上に掲げた左手を大きく下に振り下ろした。
するとぐにゅーんと空間が歪んで、人一人通れる大きさの円形のワープゲートが出現。
「再び出現、ワープゲートー! このワープゲートに入った瞬間から超・挑戦モード開始だ! さっきも言ったけど以後はステージクリアするかリタイアしない限りはこっちの世界に戻って来られないけど……覚悟はいいかい?」
「おう」
ランスは力強く頷いて。
「さーて、ちゃっちゃと終わらせてくるか」
「いってらっしゃーいっ! 頑張ってー! あとお土産よろしくねー!!」
「知るか」
そして、ワープゲートに足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
「……で。到着した訳なのだが」
ワープゲート内を通過して──到着。
何処かの異空間に用意された特殊な異世界、次なる戦いの舞台にランスは降り立った。
「ここは……何処だ? ステージ1の魔王城とは違って場所がよく分からんぞ……」
今ランスが立っているのは何処かの道の上。という表現しか出来ないような一般的な場所。
ろくに舗装されていない地面がむき出しの道の上。例えばゼス王国の首都ラグナロックアークのような都会であれば土の道路は無いだろうが、同じゼスでも少し田舎の方に行けば普通にある。要するにこれだけでは何も分からない。
「遠くの方には山……と、森。見渡す限りこの近くにはなーんも無さそうだな……」
開けた視界の先には大自然の悠々たる様、要するに何処にでもありそうな景色。
「空の色は普通だし空気も淀んでないから魔物界ではなさそうだが……うぬぬ、一体何処に飛ばしやがったんだ、あの白ハニワめ」
現在地点は不明。ランスの頭では今自分が居る場所を特定する事が出来なかった。
それでもこの世界の何処かにステージ2のボスがいる。まずはそれを見つけなければならない。
「まぁいい、なんとかなるだろ。んで肝心のお助けキャラは──」
「ここにおるぞ」
「あん?」
呼べば響くとばかりに聞こえた、声。
お助けキャラらしきその声が聞こえたのは──
「どこだ?」
「いやここ、ここ。お前さんの腰」
「腰? 腰ってまさか……げっ!!!」
嫌な予感に腰元を探って、そこにあったいつも通りな感触にランスは絶句した。
そこには──いつの間にやら、いつもと変わらない魔剣の姿があるではないか。
「カオス!? まさかっ、カオスが!?」
「うん。どうやら今回のステージのお助けキャラは儂のようね」
などとのたまう、爺声の駄剣。
「あっ……あの白ハニワめがー!! お助けキャラは絶対女にしろっつったのにーー!!」
麗しき女性を要求していたはずなのに、やってきたのはこれである。
魔王の怒りが遠い山々まで響く……が、残念な事にお助けキャラの変更制度などは無い。
という事で、どうやら今回のステージのお助けキャラは魔剣カオスのようだ。
「つーか! この俺様が! カオス如きに何を助けて貰う事があるってんだ!!」
「うわひどー。これまで沢山のピンチを儂の力で乗り越えてきたじゃないの。リーザスの戦争の時とか、ゼスの騒動の時とか」
「それはお前を使わねーと魔人の無敵結界が壊せなかったからだろーが! 今や魔王となった俺様にはそんなもん必要ねーんだよ!!」
魔剣の特性は無敵結界を貫く事。となれば無敵結界を素で突破出来る魔王ランスにとって魔剣を扱える事の優位性は殆ど無いに等しい。
今ではただ攻撃力が高めな剣。それだけならまだいいのだが、口うるさくて下品な分今のランスにとってはデメリットの方が多めである。
「くそ、なんか損した気分……」
「んな事儂に言われても……これって別に儂が立候補とかした訳じゃないからね?」
「……チッ、まぁいい。あの白ハニワはいつか必ずボコボコにしてやるとして……」
ともあれ嘆いていても仕方が無しと、ランスは強引に思考を切り替える。
「そんな事よりもボスだ。とっととボスをぶっ倒してこんなステージから抜け出してやる」
「ほいほい。んじゃボスを探しにいくべ……つーかそもそもここって何処なん?」
「分からん。ちょっと歩いてみるか」
という事で移動開始。
まだ日は高く時刻は昼前、何処かの異世界に下り立った魔王は獲物を求めて歩き始める。
「なにか目印となるもんがないかのう。今いる場所が分からんと身動きの取りようがないぞ」
「目印になるもんっつってもな。今のところは何処にでもあるような風景としか……」
何処かの国の何処かの道、自然が作り成した畦道を適当な方向に進む事、暫くして。
「お……」
ちらほらと見えてきた民家の影。
至って普通の、なんの変哲もないのどかな村。それでも二人には一つの発見があった。
「ここって……JAPANじゃねーか?」
「あぁ、儂もそう思った。具体的な場所はよう分からんけどJAPANの何処かっぽいな」
そこにあったのは木造の家や瓦ばりの屋根、そして所々に見えるひらがな書きの文字など。
それは大陸とは異なる独特な文化、ランスもよく覚えている島国PAPANの分かりやすい特徴。
「つってもJAPANってだけじゃなぁ……」
「でもJAPANに飛ばされたって事は、JAPANのどっかにボスがおるって事なんじゃろ?」
「多分な。けどJAPANにいるボスなんて以前に俺様があらかた片付けたはずだと思うが」
「ふーむ、それはまぁ……」
ランスの言葉にカオスも納得気味に相槌を打つ。
LP5年頃、ランスはこのJAPANを訪れて、一大名である織田家の舵取りを任された。
そして戦国の世を戦い抜いて織田家による天下統一を成し遂げた、という冒険譚を残している。
その戦いの中で、古よりJAPANの地に封印されていた魔人ザビエルを討伐した。
他にも戦国の世で覇を競う各地の猛者達との勝負にも勝ってきた。奥州を統べる妖怪王・独眼竜政宗との一騎打ちにも勝利した。
ついでに聖獣オロチも倒した。更には下手くそな落書きをくれるデカイのも倒した。
「他にも佐渡金山のゴールデンハニーとか……あとは……なんかよく分からん敵だったあの……坂の上の……太郎くんだっけ?」
「こうして考えると結構倒したのぉ。残るJAPANっぽいもんつったら妖怪か、それとも……鬼? 鬼ヶ島に行って鬼退治するとか」
「それってボスっぽいか? つーか今更鬼共なんぞ魔王になった俺様だったらワンパンだぞ」
となればもう他には。
このJAPANの地で倒すべきボスなど、もはや残っていないように思えるのだが──
「──ぬ?」
ふいにカオスの声色が変わった。
「……おいおい、これって……」
「どした?」
「いやなんか、この力の感じには覚えが──」
カオスが何かを感じ取った──その時。
異変が起きた。
まだ昼間の視界を白く焼き尽くすような、圧倒的な閃光が。
「っっ──!!」
それに一瞬遅れて、ドーーンッッ!! と。
腹の底まで重く響く遠鳴りような轟音。
「っ、なんだぁ?」
あまりの眩しさに目元を覆いながらランスは顔を顰めた。
肌感覚からして数キロ先、なにか巨大な爆発物がその力を開放して爆発した、ような。
この距離まで届いて強く吹き付ける爆風がその威力を如実に物語っていた。
「今の爆発は一体……」
「あれは……」
「すげーデカい爆発だったぞ。あんなにでけーのは魔法って感じじゃないし、そもそもJAPANに魔法使いはいねーし……不発弾でも爆発したのか?」
「……あー、なるほどね。んじゃボスってのはそういう事か」
「おいカオス、一人で勝手に納得するな。どういう事か説明しろ」
「つまりよ、ここってあの時なんだ。儂達がこのJAPANで戦っていたまさにあの時だ」
感知能力がある魔剣カオスは気付いた──今の爆発が実際に起こったのは。
それは先の説明通りLP5年頃。ランスがこのJAPANの地を訪れたあの時間軸の上。
織田家による統一がなされる前、JAPANがまだ第四次戦国時代の真っ只中だった頃。
「あの時って……あの時にこんな爆発あったか?」
「あったんよ。んでここのボスの事やけどな」
「おう」
「そもそもがね、今のあんたのボス役になれる相手っつったら一人ぐらいしかおらんじゃろ」
「それってつまり?」
「つまりは魔王だ、魔王」
カオスは事も無げに呟いた。
敵は魔王。こちらが魔王である以上、相手だって魔王クラスとなるのが必然。
「あの時のJAPANにいた魔王、覚えとらん? 心の友だってあの場に居合わせてたはずだけど」
「……それって、もしかして……」
このJAPANの地で出会った魔王。
その言葉にはランスの頭にも過ぎるものがあって。
「っ、またか──!」
すると再びの閃光。ドーーンッッ!! と地震のような振動に響き渡る爆発音。
先程の一発目よりも距離は近い。爆心地の中心にいる存在は移動をしている。
「あぁそうか、この爆発は魔王の力なのか」
「そそ、そういう事」
「なーるほど、俺様にも分かったぞ」
魔法による爆発とは異なる、魔王の力による圧倒的な大爆発。
過去このJAPANで戦っていた時、確かにランスはその威力を目の当たりにした事があった。
「このステージ2のボスって要するに……美樹ちゃんか」
「そういう事じゃろな。相手は来水美樹……つか、魔王リトルプリンセスっつった方がええか」
ステージ2のボス、魔王リトルプリンセス。
魔王ランスの先代、実際には魔王として君臨する事はなかった幻の第七代目魔王。
「ほれ、なんか前にあったじゃろ。あの魔王の娘っ子がバカスカやたらと爆発していた時」
「あぁ、あったあった。思えばその流れで最終的にシィルが氷漬けにされたんだっけか」
「そうじゃったな。あの時は魔王リトルプリンセスが覚醒する寸前ギリギリまでいっとったから……」
それは天下統一の戦いの後半。場面が戦国大名同士の争いから魔軍との戦いに進展した頃。
魔人ザビエルを封印するべく、天志教の性眼に協力する事になった来水美樹と小川健太郎。
二人とは本能寺決戦の最中にて出会い、織田家はその後二人を客将として招き入れた。
そしてある時、二人の前に刺客が現れる。
魔人ザビエルの使徒、式部との一対一の戦いで不覚を取った小川健太郎は致命傷を負って。
死の間際にいた健太郎を救う為、美樹は魔王の力の一部を健太郎に与えて延命させた。
自分の勝手な判断で健太郎を魔人に変えた。当時の美樹はその事を大いに悔いた。
健太郎に合わせる顔が無いと思い、美樹はその場から立ち去り逃げ出した。
そのままヒラミレモンも持たずに行方をくらませてしまい……ここはそんな時期のJAPAN。
「カオス、美樹ちゃんがいる場所は分かるよな」
「あたぼうよ、この距離なら感度ビンビンだ。そう遠くはないぞ」
「んじゃとっとと美樹ちゃんを……いや、まてよ?」
その時、ランスがハッとした顔になる。
「……でも、そうか。ここは……」
「ん? どったの?」
「……いや、そうだな。んじゃとりあえず、とりあえず……様子を見に行ってみるか」
ランスには何事か考えがあるらしい……が、いずれにせよ戦国の世での戦いはまず偵察から。
という事で、魔の力に対する感知能力があるカオスが示す方向に向かってランスは歩き出す。
繰り返しの大爆発によって周囲の景色がクリアになったからか、程なくしてその姿を発見した。
「……お、心の友よ、あそこ」
「おぉ、ほんとだ……居た。美樹ちゃんだ」
そこにあったのは──見覚えのある姿。
「……あぁ」
風に靡くは鮮やかな桃色の髪。それだけ見れば華やかな姿。
しかし体中から溢れ出る圧倒的な量の黒いオーラがその印象を禍々しく変貌させる。
「……あー、なんかむしゃくしゃする。むしゃくしゃするからみんな破壊するのー」
元々着ていた洋服の上から魔王の象徴である黒き衣を纏って。
勝手気ままに次なる破壊対象を探し求める、その眼は血の色を写し取ったような真紅。
「あは、あははは……!」
無邪気に、高らかに笑う。
それは来水美樹だった者の姿──第七代魔王リトルプリンセス。
「……ありゃ魔王か」
「うむ、ありゃ魔王だ。もう完全無欠に魔王やね」
近くにあった木陰に身を隠しながらその姿を観察する二人。
少し離れた場所には先程の爆発によって出来上がった真新しいクレーターの痕。それは魔王の力を無差別に振りまくリトルプリンセスが作り出したものである事は言うまでもなく。
これは余談となるが、あの時のJAPANではリトルプリンセスが覚醒する可能性があった。
それは先程説明した通り、致命傷を負った小川健太郎を延命させる為魔人にしてしまった、その罪悪感によって来水美樹は皆の前から逃げ出して。
そのまま各地を逃げ回って──その時はランス達の捜索活動によって美樹を発見するに至った。
しかし。もし仮にランス達の捜索が遅れて美樹を発見出来なかった場合。
その場合、ヒラミレモンを摂取出来なくなった美樹は力に飲まれて魔王に覚醒してしまう。
覚醒した魔王リトルプリンセスは魔人ザビエルを指揮下において、ザビエルの代わりに魔軍を率いて織田家を、JAPANの全てを滅亡させる──そんな可能性が確かに存在していて。
つまり、ランス達がいるここはそんな世界。
本来の歴史上では起こらなかった世界──それがステージ2として用意された舞台。
「……ほーん、なーるほど……」
とそこまでの裏事情は分からずとも。
視界に映る光景の意味を、今回戦うべき相手を理解したランスは。
「なーるほど、なーるほどねぇ……」
その口元を──ニヤリと禍々しく歪めた。
その悪しき顔は。無邪気な悪性を振りまくリトルプリンセスに勝るとも劣らないもの。
「……くくくっ」
それまで、その身の奥に眠っていたものが。
ランスの中にある凶悪な因子が、その魔王性が疼き始めたのだ。
「がははは、あの白ハニワめ、中々気が効く事をしてくれるじゃねーか」
「心の友?」
「さすがの俺様でも美樹ちゃんとの縁は無かったなぁと半ば諦めてたんだがな。……まさかまさかこんな所にチャンスがあるとは」
「チャンス? チャンスってまさか……」
何かを察したカオスの問いに、
「決まってんだろ、そんなもん」
言うまでも無い事だとばかりにランスは目の奥を光らせる。
それは……その考えは。LP5年に織田家で戦っていた当時のランスも考えた事がある。
相手が悪い魔王であるならば。倒して捕まえて何をしたってそれは正義となる。
そんな事を考えた当時のランスはしかし、結局それを行動に移す事は無かった。
それは己が身の安全の為。下手に突いて魔王が覚醒してしまっては一巻の終わりだから。
というかそれ以前に、そもそも相手がまだ悪い魔王にはなっていなかったから。
その心の中にある僅かばかしの良心が疼いて、そこに手を出す事を躊躇したのだ。
しかし──今ならば。
「なぁ! なぁカオスよ!!」
「お、おう、なんじゃい」
「あそこにいるのは誰だ!?」
「誰って、魔王リトルプリンセスじゃろ?」
「あぁそうだ!! あれは魔王だ!」
今、そこにいるのは魔王リトルプリンセス。
魔王の力を存分に振るい、すでにJAPANに住む多くの人々を消し炭に変えている悪しき魔王。
「あれはもう美樹ちゃんじゃない!! 魔王リトルプリンセスだ!!」
他の魔王達とは異なり、第七代魔王は覚醒と同時にその名称が変化する。
この世界に魔王来水美樹という存在はいない。いるのは魔王リトルプリンセス。
それが示す意味とはつまり、第七代魔王は覚醒と同時に全くの別存在になるという事。
「あれは魔王! 平和を脅かす悪い悪い魔王だ! そうだよな!?」
「うん。つかあんたもね」
「だったら倒したって問題なーし!! んでそのままお仕置きセックスしたって問題なーし!!」
「やっぱしそれが狙いなのね……」
「とーぜん! もはやチャンス無しだと思ってたが、セックスの神様は俺を見放さなかったな!」
ランスがよく知っている美樹とは、本来の世界にいる本来の来水美樹とは。
星の巡り合わせが悪かったのか、あの美樹とは最後までセックスする事が出来なかった。
けれどもこの美樹となら──いや。
すでに来水美樹とは違う。悪しき魔王リトルプリンセスが相手であれば。
「がはははは!! 魔王リトルプリンセスめ、覚悟しろ!! 俺様が退治してやるぞー!!」
悪い女を倒して、セックスする。それこそが鬼畜戦士ランスの醍醐味、その生き甲斐。
この絶好機を逃してなるものかと、魔王になっても変わらないランスは駆け出した。