ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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新たなる魔王様の新たなる日々⑤

 

 

 

 

 ハニワの王の訪れと共に始まった超・挑戦モードへの挑戦が一旦中断して。

 それから一月程が経った、とある日の事。

 

 

「ふぅ……」

 

 と、溜め息を吐いたのは魔人ホーネット。

 アメージング城に拵えられた新しい自分の部屋、執務机にかける魔人筆頭の眉間には小さな皺が。

 

「………………」

 

 その視線の先は。

 机の上、段ボール箱の中にぎゅうぎゅう詰めとなっている手紙の山。

 

「…………ふぅ」

 

 思わず再度の嘆息──ホーネットは今、悩んでいた、頭を痛めていた。 

 それはここ最近になって増えてきたもの、魔物界の中で起こっている変化の一つ。

 

「今日も多いですねぇ、お手紙が」

「……えぇ」

 

 背後に佇む筆頭使徒のケイコもやれやれと首と振る。

 二人の前に聳え立つ手紙の山、それらの差出人は魔物界に住む多くの魔物達から。

 

 そして宛先は──魔王様へ、となっている。

 

「実に多いですねぇ、不満の声が」

「……そうですね」

 

 頷く二人が示す通り、その手紙の中身は殆どが不満、苦情や意見を述べた陳述書の類。

 その声は魔物界から聞こえてくる。暗黒の世界の住民達は今、多くの不満を抱えていた。

 

「時間の問題ではあったものの、さすがに最近は増えてきましたねぇ」

「えぇ。代替わりした直後こそは様子見だったのでしょうが……もう半年も過ぎましたからね」

 

 派閥戦争を終えて。第七代魔王リトルプリンセスから、第八代魔王ランスに代替わりをして。

 魔王が代替わりをするという事は。それはこの世界のあり様が変わる変化する事に他ならない。

 そうした思いを持つ者達は特に魔物達の中には多くいた──だが、今の実情はどうか。

 

「この半年間、起こった変化といえば……」

「年号が変わった。……のは当然として、アメージング城に移転した事ぐらいでしょうかね」

「えぇ。ここで生活する私達にとっては大きな変化なのですが、それ以外の者達にとっては魔王城の移転といっても些末な変化でしょうからね。それでも人間世界の一角に魔王城を建設したのだから……と考える者もいたかもしれませんが」

「実際の理由はここが一番目立って権力の象徴になるから、ですからね。それも魔王様らしいっちゃ魔王様らしいのですが……」

 

 新魔王城アメージング城の建設と移転。この半年で起きた大きな変化といえばそれぐらい。

 一方で魔物達も魔王城の移転に関して不満を抱いていた訳ではない。あえて言うならば変化の少なさにこそ不満を抱いている。

 そして更に言うならば、魔物達が望んでいる変化というのは概ね一つであって。

 

「全く。どいつもこいつもせっかちで困りますねぇ」

「……そうですね。ただ……」

「ホーネット様?」

「派閥戦争が良い例だと思いますが、魔物の一般的な思考があちらなのでしょうから」

「あぁ、成る程。ケイブリス派に賛同した魔物の数がそのままこの不満の数に表れていると」

 

 それは魔王ランスが就任してから、半年以上──ではなくて。

 そのずっと前から。足掛け七年以上に渡る派閥戦争の最中ずっと。

 

「あるいは、それ以前から……」

 

 ひいては更にはその前、第六代魔王ガイの治世の時から。

 世界の形が今の形に定められて、その中で魔物達は不満を抱き続けていた。

 

「しっかしどうなんですかねぇ。派閥戦争の事を引き合いに出すならば、ホーネット派の一員として戦っていた魔王様に期待するのがそもそもお門違いだと思うのですが」

「それはそうかもしれませんが……ただ、当時のホーネット派が掲げていた大義名分とは美樹様に魔王として世界を治めてもらう事ですからね。そう考えれば美樹様からランスに代替わりした以上、派閥戦争の結末はケイブリス派もホーネット派も意図しないものになったとも言えます」

「ふむ……それでリトルプリンセス様ではない新しい魔王様ならば、と?」

「えぇ。魔物達にもそれぞれ思惑はあるでしょうか、いずれにせよ魔王様が代替わりをするというのはそういう事なのだと思いますよ。この世界において魔王様の存在は絶対なのですから」

 

 そう言ってホーネットはふぅと息を吐く。

 当初、第八代魔王への代替わりは大多数の魔物達から肯定的に捉えられた、支持されていた。

 ホーネットは魔人筆頭としてそれを知っていたし、その理由も概ね理解していた。

 

(魔に属する者であれば……そのように期待するのは当然の事とも言えるでしょう)

 

 それはランス個人ではなく、魔王が代替わりする事自体への期待。そして期待という気持ちの半面、それは現状への不満の裏返しに他ならない。

 魔王が代替わりした以上、今までの世界のあり様を変えてこの現状を変えてくれる──……と、それが多くの魔物達の期待であり、共通認識であった。

 

(……が)

 

 が。現状魔王ランスは特になにかをしでかすという訳ではない。

 魔王が代替わりをしても、特に何かが大きく変わった訳ではない。

 

(というよりも……元々ランスは魔王になりたくてなった訳ではないですからね)

 

 当人は「最強の自分が魔王になるのは当然の事なのだ」などと言ったりするものの、しかしランスがこれまでに「魔王になる事」を目標に掲げたり宣言していた姿をホーネットは見た事がない。

 全ては来水美樹に突然起こった避けられない魔王化の発作が原因。リトルプリンセスの誕生という破滅を防ぐ為のやむを得ない選択であり、そうするしかなかったから魔王になっただけの事。

 

(ですから……まぁ……ランスは魔王になろうとも、やる事は変わらないでしょう。魔物界に住む魔物達に目を向けるなど、そのような思考は頭の片隅にさえ存在しないに違いありません)

 

 それ以前の話として、魔王がその行いを誰かに強制されたりする謂れなど無い。

 魔王はこの世界の支配者、思うがままに振舞う事が許される唯一無二の存在。故に魔王ランスがどのような事をしようとも、あるいは何をしなくとも意味合いとしてそれは魔王らしい行いとなるのだが、そこに期待を寄せる魔物というのは確かに存在していて。

 

「新たな魔王様に期待を寄せるのは魔物の性のようなものでしょう。であれば不満を抱えるのも致し方無い事なのだと思います」

「抱えているだけならいいんですがねぇ。こっちにまで仕事を回さないで欲しいものです」

 

 期待して、不満を抱えて──それが形となる。それがここにある手紙の山。

 魔物達の中でも特に真面目な、あるいは熱意のある者はその声をわざわざ届けようとする。

 それは魔王様への嘆願書、陳述書あるいは上申書という形になってこのアメージング城へと届けられて、最終的には魔人筆頭であるホーネットの取り扱いとなる。

 

「……ふぅ」

 

 その数の多さに、こうして目の前にあるとホーネットも溜息を吐きたくなってしまうものである。

 

「しかし、これほどに量があると……」

「……えぇ」

「あ、閃きましたホーネット様。せっかくですし今日のおやつは焼き芋にしましょう」

「ケイコ、そういう訳にはいきません」

 

 早々に火を付けて焼却処分にしようと提案してくる使徒を窘めて、ホーネットは目を閉じる。

 彼女はここにある手紙に、あるいはこれまで上がってきた手紙全てに目を通している。極論を言ってしまえば魔人筆頭とは魔王に仕えるべき存在であり、配下たる魔物達の声を聞いてやる責務などは無い。

 無いのだが、しかしそもそも性根が真面目なホーネットにそれを無視するという選択肢はない。なので全てに目を通した結果、その要望は微差こそあれどもおよそ一種類に纏められると把握していた。

 

「……ふぅ」

 

 不満がある──それは仕方無い事だとして。

 ホーネットの悩みとは、それをどのようにして魔王ランスに報告するかという事。

 

「ホーネット様、気が乗らないのであればあえて魔王様のお耳に入れずとも、そのままこっそり机の引き出しとお心の中に仕舞われては?」

「……そういう訳にはいきません。これは魔物達の不満の声、私が無視する訳には……」

「なんならこの私ケイコがここにある全ての手紙をうっかり焼き芋用の焚火に使っちゃったという事にしても構いませんが」

「ですからそういう訳には……」

「あ、それなら切手代不足という事にして送り返してしまうのではどうでしょう」

「………………」

 

 屁理屈というか悪知恵というか。そういう小細工がよくポンポンと思い付くものだとホーネットはどうでもいい感心をしてしまう。

 とはいえここにある手紙の山、その全てを魔王ランスの目に入れるなどという事はしない。ランスはそんな事を望んでいないし、差し出したところで絶対に読まない、それはホーネットも理解している。

 なので全てに目を通した自分が要点だけをまとめて簡潔に報告するのがベストであり、それが魔王に仕える魔人筆頭の役目というものだろう。

 

「どうあってもこれを魔王様に報告すると言うのなら……伝え方というのも重要ですよね」

 

 確かに。報告内容が不満の声である以上、その伝え方というのも配慮する必要がある。

 

「如何にしてそれを報告するか。僭越ながらこれは配下たる者の器量が試される場面かと」

「器量……」

「えぇ。特に魔王様はああいう方ですからね。大量の不満の声にガーッと怒った結果とんでもない事をやらかすー……なんて事にならないよう、予め手を打っておく必要があるでしょう」

「……えぇ」

 

 確かに。魔王の一声は世界を動かす。故にその取り扱いには十分注意する必要がある。

 

「なんせ魔王にとって不愉快な報告になると半ば分かり切っているのですからね」

「まぁ、そうですね」

「えぇそうです。であればホーネット様、ここは出来る限り波風を立てないように、なるべく魔王様が穏やかな精神状態をしている時に報告するのが望ましいかと」

「それは……そうですが……」

「しかしどうでしょう。あの魔王様が穏やかな精神状態になる時など……ちょっと私には全然思い付かないのですが、ホーネット様には何か心当たりがあるでしょうか?」

「………………」

 

 しれっとした顔でそんな事を言ってくるケイコに、ホーネットは軽く目を細めた。

 

「……ケイコ」

「あくまで一案ですのでお気になさらず。ですが……やはり魔王様とて不機嫌な時に不愉快な話など聞きたくはないでしょうし……なるべくならご機嫌な時にそっとお耳に入れたいものですよねぇ……でもそうなるとどうすればいいのか……むむむむ……」

「………………」

 

 むむむと唸るその様子からなんらかの方向に誘導されている、恣意的なものは強く感じる。

 しかし、その意見自体は的確であり頷けるものである事もまた事実で。

 

「……ケイコ、貴女は本当に色々と知恵が回りますね」

「お褒めに預かり光栄です。不肖この私ケイコ、若い頃は巷で賢者などと呼ばれていたものです」

 

 ケイコはえっへんと胸を張る。

 そんな賢者の意見を参考にするならば──

 

「………………」

 

 ──やはり、アレが一番か。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 そして──夜。

 

 

「がはははー!!」

「あぁ……ランス……」

 

 ──抱かれた。

 その日の夜。ホーネットはランスの寝室を訪れてその身を委ねた。

 

「ふぅ、やっぱ一日の終わりにはセックスがないとな」

「はぁ……はぁ……」

 

 魔王ランスが機嫌の良いタイミングとは。それがセックス後だという事は分かり切っている。

 大量のエネルギーを消費した直後であればある程度穏やかな思考でものを考えるはず。その時にそーっと報告するのが最適解というもの。

 

「はぁ……ふぅ……」

 

 という魔人筆頭としての判断。

 これは言わば職務の一部のようなものであって、決して私情を交えた訳ではない。

 

「どうだホーネット、良かっただろう」

「んっ……ランス……♡」

「そうかそうか、がははは!」

 

 繰り返すが、決してホーネットは私情を交えたりなどしていない。

 とにかくこうしている時が一番穏やかに、波風立てずに会話を交わせるという判断なのである。

 

「ふぁーあ……今日は満足したし、そろそろ寝るとすっか」

「そうですね。……あ、そういえば……」

「ん?」

「一つ、報告があるのを忘れていました」

 

 故にこのまま微睡みたい気持ちを押して、至ってなんでもない事のように話を切り出した。

 

「実は……ここ最近、魔物界に住んでいる魔物達から手紙が届く頻度が増えまして」

「手紙?」

「えぇ。手紙と言っても音信の類ではなく意見書や嘆願書なのですが、とにかく魔物達からの声が多く届いて……きっと新たに誕生した魔王様に対して期待する気持ちが強いのだと思います」

「ほー」

 

 あくまで不満ではなくて、魔王様に対する期待や要望という形にしておく。

 実際それは表裏一体のものなので嘘は言っていない。魔物達がこれまでとは違う新しい魔王様に期待を寄せているのは事実である。

 

「魔物共に期待されたってなんにも嬉しかないが……それって具体的にはどんなもんなんだ?」

「そうですね……そこはやはり魔物ですから、その中身も魔物らしい要望ばかりです。特に多いのが今の世界の形に不満を抱いていて、新たな魔王様にそれを変えて欲しいと願う声」

「今の世界の形?」

「えぇ……」

 

 ホーネットは殊更注意をして、そこからの言葉を口にする。

 

「今の世界の形、狭い魔物界と広い人間世界とに分かれているそれを元に戻して欲しいと願う声。より有り体に言うならば……この世界を魔物の世界に戻して欲しいと願う声、でしょうか」

 

 この世界を魔物が支配する世界に。それが魔王ランスに寄せる期待と不満の正体。

 何故ならこの世界の元々の形がそれだから。そもそもの大前提として、魔物界と人間世界という形式自体に納得がいっていない魔物の方が多数派。

 古くからこの世界は魔王を頂点とする魔の勢力が支配してきたものであり、人間とは支配されるべき存在。それなのに支配者たる魔物達が世界の一部に押し込められている現状が間違っている。特に人間文化と交わっていない魔物界の魔物の多くはそのように考えている。

 

「あるいは……それが叶わないのならば、せめて魔物界と人間世界の境界線だけでも取り払って欲しいという声もあります」

「境界線っつーと、あれか。番裏の砦とマジノラインの事か」

「えぇ、そうです。あれさえなければ人間世界への侵攻も容易になると考えているのでしょう」

 

 魔物の世界を取り戻す。境界線を破壊して、人間世界へと侵攻する。

 多くの魔物がそのような事を強く、あるいは漠然とながらも期待しているのである。

 

「……ほーん」

 

 しかし、それを耳にした魔王ランスの大層どうでもよさそうな顔たるや。

 ランスは元が人間な為、魔物の王ではあるが魔物の味方になるという気が薄い。というか無い。

 魔王となった今のランスにとって魔物とは換えが効く労働力。それ以上でもそれ以下でもなく。

 

「それって要するに、魔物共が人間世界に出向いて好き勝手暴れたいっつー話だろ?」

「えぇ、まぁ……」

 

 要約するとランスが言った通り。

 自由にやりたい。暴れたい。傍若無人に振舞いたい。魔物の思考とはそういうもの。

 耳を傾ける価値のある話だと感じなかったのか、ランスは即座に「下らん」と一蹴した。

 

「魔物共がどこで何をしようが興味ねーし、どうでもいい」

「……貴方ならそう言うでしょうね」

「好き勝手暴れたいってんなら、自分らで勝手に番裏の砦でもマジノラインでも攻め落とせっつーんだ。そんなもんにどうしてこの俺様が手を貸してやらなくちゃならねーってんだ。バカバカしい」

 

 番裏の砦もマジノラインも共に堅牢な砦であり、魔物だけの力で崩すのは難しい。魔人の協力があれば可能にもなろうが、そのような事に協力してくれそうな魔人は派閥戦争で軒並み命を落としている。

 無論、魔王となったランスが力を振るえばいかなる砦も障害にはならない。とはいえ元が人間のランスはそれを障害だとは感じた事がないし、破壊する必要性も特に感じていない。

 たとえ魔物達が満足しようが自分にとっては何ら益が無い、一つも旨味が無い話である。

 

「ホーネット、そういうくだらねー要望は全部無視しろ。焼き芋用の焚火に使う事を許可する」

「いえ、焼き芋は結構ですが……あとは、そうですね。中には魔王様に直訴したいから会わせてくれという声もあって……」

「直接会いたいだぁ? ……それってかわいい女の子モンスターか?」

「いえ、確かサイサイツリー北部周辺のぶたバンバラ一族の族長だったと思います」

「そうか。ぶたのくせに魔王様に会いたがった罰として一族もろとも殺処分にしておけ」

「………………」

 

 魔物の命など、下手にクレームなど入れようものならロウソクの火よりも儚く消えるもの。

 臣下の忠誠で成り立つ人間の王とは違って、魔王の王とは存在そのものが王。人間の王は民を蔑ろにしては統治も立ち行かないが、魔物の王とは魔物をいくらでも蔑ろにする事が許される。

 魔王の力とは権力ではなくて一個体の強さそのもの。だから世界地図の三分の一という狭い場所に魔物達を閉じ込めてしまう事だって許される。それが魔王なのである。

 

「……まぁ、とにかく、貴方の意思は分かりました」

「うむ」

「全ての決定権は貴方にありますからね。現状維持という事でしたらそれで構いません」

「うむ」

「要望は全て無視しろとの事ですので、謁見の申し込みなども全て断っておきます」

「うむ」

 

 うむうむと頷くランスにとって、大事なのは自分と自分の女の事だけ。ぶっちゃけなくとも魔物や魔物界の事なんて至極どうでもいい。

 そしてホーネットとしても。魔物達の不満は認識しつつも現状維持のままの方が望ましいと考えていたので、報告義務を果たした以上この場で特に意見する事も無かったのだが……。

 

 

「……けどなぁ」

「え?」

 

 しかし。どうでもいい事はどうでもいいとして。

 一方でどうでもよくない事だってある。ランスは僅かに眉根を寄せた。

 

「そういやぁこの現状って……あいつが作ったんだよな?」

「あいつ?」

「うむ、お前の髭オヤジだ。今の世界の形はあいつが決めたって話だったろ?」

「あぁ……そうですね」

 

 第六代魔王ガイ。ホーネットの父親であり、今の世界のあり様を決めた男。

 

「……ぬーぬぬぬ……」

 

 そしてランスにとってはつい先日、超・挑戦モードで激闘を繰り広げたばかりの男。

 堅苦しくていけ好かない髭親父であり、かつ生意気でいけ好かない髭親父であり、その上恐ろしい禁呪でハイパー兵器を封じる術まで持ち得ている恐ろしい髭親父である。

 

「……なんか、あいつが作ったもんをお下がりみたいに使っていると思うと、なんか……」

「……まさか」

「そう考えるとなんか……現状維持ってのも微妙だな。いっそ番理の砦とマジノラインをぶっ壊してやりたい気分にもなってきた」

「ら、ランス……そのような理由で……」

 

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎くなるのか、そういう見方をすれば今の世界に不満が無い訳でもない。

 ランスは今の世界の形とか、魔物界とか魔物の事はどうでもいい。一方でどうでもいいという事はつまり、いけ好かない髭親父が作った今の世界の形をそのまま引き継ぐのは気に食わないー、なんていう理由で壊してしまうのも躊躇はないという事。

 

「うーむ……ホーネット、お前はどう思う」

「そう、ですね……私は……魔物界と人間世界に別れている今の世界の形に不満を抱いた事自体がありませんから……」

「そっか。まぁ俺様も気にした事はねーな」

「ただ……人間世界に比べて魔物界は狭いという指摘はその通りですからね。それに不満を抱くのは分からないでもないですが……仮に両世界の面積が平等になるように境界線を引き直したところで、それで多くの魔物達の不満が解消する訳ではないだろうとも思います」

「ふむ」

 

 ホーネットの考えは正鵠を射ていた。魔物達は何も平等な世界を望んでいるわけではない。

 望むのは自分達が自由に振舞える世界。人間とは魔物よりも下等な存在であり平等である必要がないのだから。

 であれば確かに、境界線を平等に引き直したところで不満の手紙の数が減る事はない。

 

「んじゃこのままにするか、それとも綺麗サッパリぶっ壊しちまうか。どっちかって事だな」

「……まぁ、そうなりますね」

「うーむ……なんかマジノラインをぶっ壊したらウルザちゃんとかは怒りそうだな……」

「……怒るで済みますか?」

 

 境界線を壊したら魔物の群れが人間世界に流れ込んで、ゼスとヘルマンは大変な事になる。

 そのぐらいはランスにも想像が付くので、さすがに即断即決とはならなかったが──

 

「……あ」

 

 その時、ランスの脳裏に一筋の光明が。

 

「そうだ、いいこと思い付いたぞ」

 

 やっぱりどうでもいい事はどうでもいいとして。

 それでもどうでもよくない事はある。魔王の意識はすぐにそちらへと向いた。

 

(続く)

 

 

 

 

 

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