ピコピコ☆
『俺の名前はランス。これと言って取り柄のない、何処にでもいるような一般的な15歳だ』
ピコピコ☆
『そんな俺は今日からここ、私立ルドラサウム学園に通うことになった。俺には結構ハードルの高い学校だったけど無事に入学出来て良かった』
ピコピコピコ☆
『今日から三年間の高校生活、一体どんな出来事が待ち受けているだろうか。勉強、部活、友達、そして恋人……あぁ、楽しみだなぁ!!』
ピコピコピコ……☆
とここで一旦コントローラーを持つ手の動きが止まった。
「……これ、独り言か? なぁ、こいつって一体誰に話し掛けとるんだ?」
「それは画面の前にいるランス様に、では?」
訝しげな目でモニターを見つめる魔王ランス。
その隣にちょこんと腰を下ろすシィル。
「でもこいつが『ランス』だぞ。んじゃあ俺様が俺様に向かって話し掛けてきとるって事か?」
「いやそうじゃなくて……魔王様、これは主人公の置かれた状況を説明する為のモノローグってやつだよ。なんでこの『ランスくん』は校門の前で立ち止まって一人こんなセリフを喋ってるの? とかそういう事は気にしたら負けだって」
「ほーん……」
そしてもう一人。
そこには魔人パイアールの姿が。
『(キーンコーンカーンコーン……というBGM)』
『あ、ヤバい! このままだと遅刻しちゃう! 急がないと!!』
『──こうして俺は入学初日から全力ダッシュをする羽目になったのだった──』
「なんかこいつ、全力ダッシュ中だってのに随分と余裕あるじゃねーか」
「いやいや、最後の文はどう考えても地の文でしょ。魔王様って小説とか読まないの?」
「読まん。本はエロ本しか読まん」
「そ、そうなんだ……でもだったらこれはちょっと難しいかもね。どうやらこれってシナリオを読み進めて物語が展開していく恋愛シミュレーションゲームっていうものらしいし」
「所詮はゲームだろ? んで恋愛だろ? だったら俺様に攻略出来ないはずがない」
桜の花びらが舞う美しき四月の景色、それを背景にして校舎へと走っていくこのゲームの主人公『ランス』(ランス本人が名前を入力)
そんな画面が表示されているモニターにはまるでゲーム機のような機械が無数のケーブルで繋がれており、その機械から伸びる有線コントローラーが魔王ランスの手元にある。
それはまるで、というか、まさしく往年のゲーム機そのもので。
今ランス達が遊んでいるのはゲーム、モニターに表示する形のいわゆるテレビゲームである。
「どうやらランスくんは一年A組のようですね」
「あ、なんか色々と動かせる画面になった。おい、これってどうすればいいんだ?」
「ちょっと待って、取説読むから。……えーっと、ゲームの進め方は……」
一体何故ランスが魔人パイアールと一緒にテレビゲームで遊んでいるのか。
その話は今から数時間程前に遡る──
──その日の朝。魔王ランスは唐突に言い出した。
「やいパイアール。俺様ヒマだからなんか面白いもん出せ」
今日のランスは暇だった。だから暇潰しになる何かを探していた。
その時たまたま目に入ったパイアールが巻き込まれたのは不運だったとしか言いようがない。
「え~……、面白いもんって言われても……」
「なんかあるだろ。無いなら作れ」
「作れってそんな簡単に……あ、でもそうだ、それなら……」
そんな無茶振りを、どうしたものかと頭を悩ませていたパイアールはふと思い付いた。
というのも先日の事、魔人パイアールの研究所に来水美樹と小川健太郎が訪ねてきた。
話を聞けば二人は健太郎の魔人化を解除する術を探しているとの事で、パイアールは「そんなの僕が制作した魔血魂摘出装置を使えばすぐだけど」と答えた。
すると二人は是非とも使わせて欲しいと頭を下げてきて……どうしたものかと少し考えたパイアールだったが、とある交換条件によって魔血魂摘出装置の使用を許可した。
その交換条件とは。パイアールが目を付けたのは異世界の知識。
異世界である次元3E2で生まれた美樹と健太郎、その頭の中にある未知のデータ。
パイアールは自身の脳機能のバックアップを取る際に使用した装置で健太郎の脳をスキャンして、その頭の中にある異界の情報をそのままコンピュータにコピーした。
そうして入手したデータは異世界の情報だけに物珍しさこそあったものの、次元3E2においては一般的な高校生だった健太郎の脳には一般的な高校生程度の知識しかなく、生憎とパイアールの研究に活かせそうなものは無かったのだが……。
しかし、小川健太郎は次元3E2においてはゲーム好きの少年だった。
故にその頭の中には多種多様なテレビゲームの知識が沢山詰め込まれていた。
そこでと今回、魔王の暇潰しには使えるかなとパイアールはそれを再現してみる事にした。
そうして作られたのがこれ。
小川健太郎の脳内データを元に作り出された異世界のゲーム機『ぷれすて』
そして今ランスがプレイしているゲームがこの『どきどき☆メモリアル』という訳である。
「まずこのゲームの目的だけど……冒頭でランスくんが語っていた通り、今日から三年間ランスくんはこの『私立ルドラサウム学園』っていう場所で学園生活を送る。どんな日々を過ごすかはプレイヤーである魔王様が決める事で、最終的に三年後の卒業式の日に女の子から告白されたらゲームクリアって訳だね」
「ふむふむ」
「まずは一週間毎のスケジュールを決める。ほら、画面上部に『勉強』とか『運動』『バイト』とかってコマンドが表示されているでしょ? その中から魔王様がこれだと思うコマンドを選ぶ」
「ふむふむ」
「それでスケジュールを実行すると、各スケジュールで決められた経験値が取得出来る。例えば勉強なら学力が上昇する、みたいな感じで」
「ふむふむ」
「そうやって主人公の『ランスくん』を成長させていく。すると成長に伴いイベントとかも発生して、ランスくんの高校生活がプレイヤーの選択によって進められていく……っていうゲームのようだね」
「ふむふむ、なるほどなるほど」
取説(電子書籍)片手のパイアールによる説明にふむふむと頷くランス。
自らの分身となる主人公を操作して、ゲーム上のキャラと架空の恋愛を楽しむ事が出来る。それが次元3E2における大人気恋愛シミュレーションゲーム『どきどき☆メモリアル』
学校名などに少々危険な要素が混じっているようにも思えるが、そこは異世界産。あくまで異世界のゲームクリエイター達が作った異世界のゲームなので特に深い意味は無い。
「4月の一週目からスタートってわけか。んじゃ今週は……『遊び』にするか」
ランスは早速『遊び』のコマンドを実行。
すると画面内のランスくんがゲームをして遊ぶシーンが表示され、一日一日と進んでいく。
「おぉ、遊んだ遊んだ。遊びのコマンドだと『雑学』や『容姿』のパラメータが上昇するのか」
「スケジュール選択は一週間毎ですから、入学早々ランスくんは一週間遊び続けるんですね……」
「どうやら各スケジュールの実行には体力を消費するみたいだね。適度に『休憩』コマンドも挟んで体力を回復させるのを忘れないようにって取説には書いてあるよ」
「つーかパイアール。取説なんぞ読まんでもこれってお前が作ったゲームじゃないのか?」
ランスがそう尋ねると、パイアールは疲労感の見える表情で首を横に振る。
「僕はコピーした小川健太郎の脳内データからゲームとして必要なデータを抽出して、それをモニターに出力可能な形に整えただけ。このソフトの中身はブラックボックスみたいなものだよ」
「……言ってる意味がよく分からんが、つまり?」
「つまり、製作者である僕にもこのゲームの詳しい事は分からないって事。ちゃんと解析すれば分かるだろうけど、なんせ魔王様が今日の今日で仕上げろって急かすから……」
「そりゃ俺様は今日ヒマなんだから今日のヒマつぶしにならねーと意味ねーだろ」
「……ま、そういう訳だから、僕に分かるのはこの取説に書かれている内容まで。ゲームの攻略法なんかを僕に聞かれても知らないからね」
小川健太郎の脳内データ、つまりその記憶を元にして作られた未知なるゲーム。
脳細胞にある記憶をデータ化してそれを元にゲームを作成してしまうのはさすがパイアール、さすがは科学LV3といった所か。
しかし才能にものを言わせて強引にゲームとしての形を整えただけの代物な為、このゲームの詳細やマスクデータはパイアールも知らないらしい。
よって、ハッピーエンディングを迎える為にはランスが自らの手で攻略するしかない。
「よし。んじゃ次は……」
ランスはポチポチとコントローラーを操作してスケジュールを選択する。すると……。
『──今日の三限目は数学だ。数学の授業は普通クラスと特進クラスに分かれる。俺は普通クラスなので隣の1-B教室へと向かった』
「お、なんかランスくんが喋りだしたぞ」
「どうやらイベント発生みたいだね。『理系』コマンドの実行が発生条件かな?」
『教室に入って席に着く。隣の席に座った子は真っ赤なポニーテールがとても良く目立つ──』
『あぁ、ランス。お前が隣か』
『あ、サテラちゃん』
『──彼女の名前はサテラ。俺と彼女は中学校からの知り合いだ』
そんなイベントシーンが発生して。
画面一杯にはセーラー服を着た魔人サテラがこちらを振り向くイラストが表示された。
「なんでサテラ?」
「キャラデータなんかのグラフィックは記憶の欠け落ちによるデータ欠損が多くてね。そのままだと上手く表示するのが難しかったから身近にいるヤツらの外見データを利用したんだ。ゲーム進行には問題無いはずだから気にしないで」
「……ぬぅ、なーんかご都合主義の匂いがするけど……まぁいいや。とにかくこうやって女の子と出会うってわけだな。んでデートに誘ったりしてアピールすると」
主人公ランスくんは高校生活二週目にして女の子と出会った。
それが恋に発展するかはまだまだ先の話だが、ともあれ中々順調な滑り出しである。
「やっぱ女の子との出会いが大事だよな。もっと沢山の女の子達と出会いたいぞ」
「それなら手広く色々なコマンドを実行してみるといいんじゃないかな。このゲームで出会えるキャラは文化部の子もいれば運動部の子もいたり、同級生だけじゃなく先輩もいれば後輩もいたりと、バリエーション豊かで魅力的なキャラ達が本作最大の魅力……って取説に書いてあるし」
「よし、んじゃあ次はバイトだ。んでその次は運動をして、その次は休憩を挟むか」
コントローラーをポチポチと操作して、画面内のランスくんに次々と指示を出す魔王ランス。
そんなこんなでゲーム内の時間は進んで、5月の4週目になった頃──
『──放課後──』
『……あれ? ピアノの音が聞こえるな……』
「おっ! イベント発生だ!」
「新しい女の子との出会いですかね?」
『軽やかな音は音楽室から聞こえてくる。俺はドアを開いて室内を覗いてみた。すると──』
『~~~~♪』
『──女子生徒がピアノを弾いている。あれは確か……隣のクラスのハウゼルさんだ』
そこで画面に表示されたのは、優雅にピアノを弾く魔人ハウゼルのイラスト。
「おぉ、ハウゼルちゃんだ。ピアノを弾く姿が似合ってるな」
「ハウゼルの元になったキャラは音楽好きでお淑やかな性格のキャラみたいだね。ちなみにさっきのサテラは主人公の中学校からの知り合いで初期好感度が若干高めな設定のキャラだってさ」
『ハウゼルさんはこちらに気付く事なくピアノを弾き続けている。ここは……』
すると画面に選択肢が表示された。
『声を掛ける』
『立ち去る』
「犯す」
「は?」
「犯す。ここは犯す一択だろ」
表示されている二択を無視して大真面目に答えるランス。
平凡な高校生活の日々の中、放課後に偶然見つけた隣のクラスの女子生徒を犯す。
それがランスの選択。すなわちプレイヤーの分身であるランスくんが取るべき選択肢なのか。
「可愛い子と出会ったら犯す。俺様はこれまでそうやって生きてきた。なぁシィル?」
「え、ええと……そうですね……」
「勝負っつーのは出会い頭で決まる。こういうのは第一印象が大事なんだ」
「いや、いきなりレイプしに掛かるのは第一印象どころの話じゃないと思うけど……」
「大丈夫だ。イケる。気弱なハウゼルちゃんが相手だったら出会って即レイプ出来るはずだ」
「いやいや……ていうか、そもそも『犯す』なんて選択肢は無いからね? ここで選ぶのは『声を掛ける』か『立ち去る』かのどちらかだけだよ」
ハウゼルと知り合いになりたいなら『声を掛ける』が正解か。
……などと、呑気にそんな事を考えていたパイアールの耳に驚愕の一言が。
「じゃあ作れ」
「は?」
「作れ。ゲーム内のいつでもどこでもセックスが出来るように『犯す』コマンドを作れ」
「………………」
魔王の目は本気だった。
そこに冗談を言っているような雰囲気は無かった。ついでに優しさなんか欠片も無かった。
「……い、いやそんな、無茶言わないでよ。作れなんて、そんな……」
「作れ」
「……あのね? さっきも言ったけどこのゲームのシステムについては僕も全然──」
「やれ」
「…………はい」
魔人パイアールはあらゆる感情の死んだ声で頷いた。
それが魔人という社畜の運命。上司がやれと言ったら残業覚悟でやるしかないのである。
「俺とシィルはおやつ食ってくるから食い終わるまでに仕上げとけよー」
「……はーい。……はぁ、僕は科学者であってプログラマーじゃないってのに……ぶつぶつ……」
という事で。
科学者からプログラマーに転身したパイアールによってアップデートパッチ(非正規品)が制作されて。
そして。
「……終わったよ。『犯す』コマンドの実装」
「お、出来たか」
「うん。無理矢理突っ込んだだけだからバグとかあるかもしれないけど、まぁエラーは吐いてないからとりあえずプレイは出来るはず」
天才科学者にして天才プログラマーでもあったパイアールは一時間弱で上司の期待に応えた。
こうしていつでもセックス可能な『どきどき☆メモリアル(R-18)』が出来上がった。
「よーし。ポチッとな」
ランスは早速ゲームを起動して中断した場面からプレイを再開する。すると……。
『ハウゼルさんはこちらに気付く事なくピアノを弾き続けている。ここは……』
『声を掛ける』
『立ち去る』
『犯す』
「……わぁ、本当に『犯す』がありますね」
「やっぱし俺様みたいな大人の男が遊ぶゲームはこうじゃないとな。んじゃ勿論『犯す』っと」
コントローラーをポチポチと操作して、ランスは一番下の選択肢を実行した。
『声を掛ける』
『立ち去る』
→『犯す』
『──手前側のドアは避けて、音楽室の後方にあるドアから中へと侵入する』
『~~~~♪』
『──ピアノを弾くのに夢中なハウゼルさんに気付かれないよう、俺は足音を殺して静かに彼女の背後へ近付いていく。そして──』
『──そして、覚悟を決めた俺はハウゼルさんに襲い掛かった!!』
『きゃあ! だ、誰ですか!? あ、ちょっとなにをするんですか!? いや──!!』
『声を出すな! 静かにしろ!!』
『──俺はハウゼルさんの両手をガムテープで拘束した。そして口元もガムテープでぐるぐる巻きにして喋れないようにした』
『んー!! んんーー!!』
『へ、へへへ……』
『──そして服を脱がしに掛かった。制服をむりやり剥ぎ取ると下着が露わになる。ハウゼルさんによく似合う清楚な白のブラジャー、その上からハウゼルさんの大きな胸を乱暴に揉みしだいた』
『んっ、んんっ! んんーー!!』
『──ハウゼルさんの目には涙が溢れていた。俺はそれを見ないようにしながら彼女のスカートの中に手を伸ばす。そしてハウゼルさんの一番大事な部分に硬くなった自分のそれを──』
「パイアール、ここのイベント絵は?」
「無いよそんなもの。僕はグラフィッカーじゃないんだから」
どうやらイベント絵はないらしい。
とにかくこうしてR-18となった話は進み、主人公ランスくんは音楽室で出会った隣のクラスの女子生徒ハウゼルをレイプした。
そして。
『……うっく、ひっく……』
『──犯し終えて、今はハウゼルさんの啜り泣く声だけが聞こえる。その声を聞きながら俺は心に湧く暗い愉悦感に満足していた。だが……』
『おい! そこで何をしている!!』
『げっ……!!』
『──俺の凶行は教師に見つかってしまい、その場で取り押さえられてしまった』
『──その後は警察での取り調べ、家庭裁判所での審判を挟んで、最終的に俺は少年院へと送られる事になった』
『──俺の高校生活は終わった。あぁ、なんで俺はあんな事をしちゃったんだろう……』
『──GAME OVER──』
「おい! ゲームオーバーじゃねぇか!!」
ランスはどきどき☆メモリアルの攻略に失敗した。
「当たり前でしょ。冒頭でランスくんが言っていた通り、このゲーム内において彼はただの15歳の少年なんだから。それがいきなり学校で女の子をレイプしたら逮捕されるに決まってんじゃん」
「なら逃げろ! それか戦え!! 教師だろうが警察だろうがとっちめてやりゃあいいんだ!」
「だからそんな選択肢は無いって。これはアクションゲームじゃないんだから」
これは恋愛シミュレーションゲーム『どきどき☆メモリアル(R-18)』
恋愛を無視してハッピーエンディングに辿り着く事など出来ないのである。
「くそ……やり直すか」
ランスはしぶしぶ最初からを選択。
『俺の名前はランス。これと言って取り柄のない、何処にでもいるような一般的な15歳だ』
「まーたこっからか、今までのが全部おじゃんになっちまうとは……」
二度目となるオープニング画面、ランスはAボタンを連打して話を読み飛ばしていく。
そして。前回のように多種多様なスケジュールをあれこれ選択していって……。
「……ふむ、結構進んだぞ」
そして、ゲーム内で新たな動きがあったのは9月の二週目になった頃。
『──まずい! 体育の授業に遅れてしまう!』
「お、イベント入った」
「運動のスケジュールを選択してイベントが入るのは初ですね。新キャラでしょうか?」
『──着替えに時間の掛かってしまった俺はダッシュで体育館に向かっていた。すると……』
『こらっ!』
『え……』
『そこの君、廊下は走っちゃ駄目!』
「お、これはまさか……」
主人公ランスくんを叱りつける女子生徒。
聞き覚えのあるその口調は──
『君、一年生でしょう? 授業に遅れそうなのは分かるけど、ルールは守らなきゃ駄目よ』
『ご、ごめんなさい……』
『──そこにいたのは背丈の小さな女子生徒。この人は確か……二年のシルキィ先輩だ』
「やっぱシルキィちゃんか。てかこの子は先輩キャラなんだな」
「みたいだね。ええっとこのキャラの元は……実家の影響で柔道と剣道を習っていて、学校では風紀委員に所属している真面目な先輩、だってさ」
画面に表示されたのは廊下を走った主人公を叱るシルキィのイラスト。
元の性格を反映しているのか、魔人シルキィにぴったしな役割配置である。
「よし。この子も犯すぞ」
「えっ、また!? それやったってさっきみたくゲームオーバーになるだけだよ?」
魔王ランスは性懲りもなく『犯す』コマンドを実行したいらしい。
天才プログラマー・パイアールが実装したこの『犯す』コマンドは対象ヒロインの性格や好感度などによって成功率が変わる仕組みになっている。
主人公のパラメータが低く、ヒロインと出会ったばっかで好感度が低い状態ではほぼ失敗する事間違い無しのコマンドなのだが、しかしランスは聞く耳持たず。
「いいや、次は上手くやる。まずはシルキィちゃんを気絶させて人気の無い場所に移動する。そこでレイプして魔法カメラで写真を取る。んでその写真を校内でバラ撒くぞと脅して口止めをするのだ」
「……さすが魔王様、随分と卑劣で悪どい手口だね……」
果たしてランスの作戦は成功するのか。
その指がポチッとAボタンを押して『犯す』コマンドを実行した。
『(……よしっ! 今だ!!)』
『──俺は隙を見計らってシルキィ先輩の背後から殴り掛かった! しかし……』
『ふッ!!』
『え? あいたっ!』
『──気付いた瞬間には腕を掴まれていて、俺はそのまま軽く投げ飛ばされてしまった』
『君、どういうつもり?』
『い、いやその……ち、違うんです! ちょっと身体が滑っちゃって……』
『ふーん……ま、いいけど。とにかく廊下は走っちゃ駄目だからね』
『──疑いの目で俺を見ていたシルキィ先輩だったが、やがてそう言い残して去っていった』
『(「ランスの体力が減少しました」……というシステムメッセージの表示)』
「おい」
「なに?」
「あっさり負けたぞ。この主人公は女を襲う事も出来ねーのか」
「これも冒頭でランスくんが言ってたけど、彼は何の取り柄も無い少年だからね。一方でシルキィ先輩は剣道三段かつ柔道三段の格闘技少女、とてもじゃないけど勝ち目は無いでしょ」
「ぐぬぬ……女に投げ飛ばされるとは……なんて情けない主人公なんだコイツは……!」
憎々しげに唸るランス。このゲームを操作するプレイヤー本人はランスだろうが、しかしこのゲームにおける主人公はランスではない。
ゲーム内における主人公の少年はだたの15歳の一般人。女を襲った経験などは無いし、当然ながら魔王のように強くもない。
「これで分かったでしょ? 『犯す』コマンドは止めて地道に好感度を稼いだ方が良いって。そもそもそういうゲームなんだから」
「そうですよランス様。幸いシルキィ先輩が見逃してくれたおかげでゲームオーバーにはなっていませんし、ここからだって挽回出来ますよ、きっと」
「チッ、しゃーない。なら普通にやって普通にシルキィちゃんを落としてやろうじゃねーか」
そして、ここからランスは『どきどき☆メモリアル(R-18)』を普通にプレイした。
狙いは二年のシルキィ先輩。レイプが出来ないのならと好感度を稼いで普通に落とす。
世界一のプレイボーイを自称するランスにとっては本領発揮とも言える展開である。
「友人に電話を掛けるとヒロインの主人公に対する好感度を教えてくれるみたいだね」
「ほう、どれどれ……うわ、シルキィちゃんからの現在好感度『1』だってよ」
「最初はそんなもんでしょ。そこからデートとかで好感度を稼いでいくゲームなんだから」
「んじゃさっそくデートっと」
『……デート? 君と?』
『……ごめんなさい。その日は予定があるから……』
「断られたじゃねーか」
「断られたね」
「……いっそ犯すか?」
「止めなって。デートに振られた腹いせにレイプするなんてみっともないよ?」
「ぐぬぬぅ……!」
最初は中々上手くいかない。
赤の他人から知り合いになって、しかしそこから恋人となるには高いハードルがある。
「デートの成功率も主人公のパラメータが関わってくるみたいだからね。もっとランスくんを成長させる必要があるんじゃないかな」
「シルキィ先輩は格闘技少女との事ですし、運動系のパラメータが大事になりそうですよね」
「んじゃ『運動』とか『根性』か。ならその逆に学力はいらないっぽいな。シルキィちゃんは学歴とかに拘るタイプじゃなさそうだし」
「そうかな? でもこのシルキィ先輩は風紀委員にも入っている真面目なキャラだし、ある程度の学力は必要そうじゃない?」
「んじゃあ『容姿』はいらないか。シルキィちゃんは顔で人を判断するタイプじゃないし」
「いやいや容姿こそ必要でしょ。人間の内面性は外見に表れるって言うし」
「ぬ……、おいシィル、ちょっと本人にどんな男がタイプなのか聞いてこい」
「し、シルキィさん本人に聞いてもあんまり意味はないんじゃ……」
どうやったら相手に好かれるか。
それを考え悩み、四苦八苦する事こそ恋愛の醍醐味なのか。
『──今日はシルキィ先輩と海でデートだ』
『おまたせ、ランス君。それじゃあ行こっか』
「二年目に入って、安定してデートにも誘えるようになってきましたね」
「だな。好感度も50前後まで上がってきたしここからが勝負だぞ」
『──更衣室からシルキィ先輩が出てきた』
『……どうかな? 似合う?』
『──可愛らしい水着を着たシルキィ先輩が目の前にいる。ここは……』
→『とても似合ってるよ!』
『あ、ありがとう……。でも、ちょっと恥ずかしいかな……』
「あ、この反応なら選択肢は正解みたいですね」
「にしても水着程度の露出で照れるとは……シルキィちゃんっぽくなくて新鮮だな」
「そりゃあね。シルキィのグラフィックを流用してるだけで中身はゲームのキャラだし」
あれやこれやと言い合いながら、三人は仲良くテレビゲームをプレイして。
その後は体育祭、期末テスト、文化祭、クリスマスなど、季節毎の行事が過ぎていって。
そして──
『──3年目 3月──』
『遂に卒業式の日を迎えた。この三年間、本当にあっという間だったなぁ』
『ふと下駄箱を見ると手紙が入っていた』
『手紙には「放課後、校庭にある伝説の桜の木の下で待っています」と書かれていた』
『卒業式を終えて放課後、俺は手紙の差出人に会う為校庭へと向かった』
『すると……一番大きな桜の木の下で待っていたのは──』
『……ランス君。卒業おめでとう』
『シルキィ先輩……』
『──待っていたのはシルキィ先輩だった。これはもしかして……』
『……ランスくん。私、あなたの事が……』
『あなたの事が……好き』
『──シルキィ先輩はきらきらと潤んだ瞳で俺を見上げながら、そう言った』
『──俺の返事はとっくに決まっていた』
『俺も……あなたが好きです。シルキィ先輩……』
『嬉しい……ランスくん……』
『シルキィ先輩……』
『ここで告白をすると永遠の愛が約束される、そんな伝説がある桜の木の下で』
『俺とシルキィ先輩は思いを伝えあい、永遠の愛を誓いあった──』
『──HAPPY END──』
「やったー! シルキィちゃんを落としたぞー!!」
バンザイをする魔王の顔には歓喜の笑みが。
どきどき☆メモリアル攻略成功である。
「さっすが俺様、世界一の恋愛上級者だぜ」
「途中で風紀委員長とのタイマンバトルになった時はハラハラしましたけど、あそこでランスくんが勝てたのが大きかったかもしれませんね」
「工事現場のバイトを繰り返して『運動』と『根性』のパラを稼きまくったのが勝因だろうね。初プレイにしては上々なんじゃないかな」
桜の木の下で抱き合う二人。そして画面に表示されたHAPPY ENDの文字。
ランスは見事に主人公ランスくんを導いて『どきどき☆メモリアル』のヒロインの一人であるシルキィルートをクリアした。
「よし。じゃあ犯そう」
「ここで!?」
スタッフロールが流れる中、ランスは『犯す』コマンドを押してみた。すると──
『……シルキィ先輩、俺……!』
『え? あ、ちょっとランスくん、どうしたの? なに、あ──!』
『──我慢出来なくなった俺はシルキィ先輩の身体に手を伸ばした。その小ぶりな膨らみを服の上からマッサージするように揉みしだく』
『だ、駄目よランスくん! こんなところで……!』
『好きです、シルキィ先輩……好きです……!』
『あ、ちょっと……やぁ……!』
『──俺の手は止まらない。その身体のどこに触れてもシルキィ先輩は抵抗らしい抵抗をしなかった』
『先輩、そこに手を付いて……』
『こ……こう……?』
『──こちらに背中を向けたシルキィ先輩の腰を掴んで、そして──』
『よし……いれますよ』
『あ、う、んぅ……!』
「ほほーう。なんのかんの言って乗り気になっちゃうあたりがシルキィちゃんだなぁ」
「伝説の桜の木の下でセックスするなんて……なんて罰当たりなカップル……」
「ところでパイアール、ここのイベント絵は?」
「だから無いって。どうしてもっていうなら本物のシルキィと同じ構図でセックスしてきたら?」
残念ながらイベント絵は無いものの、それでも二人はこうして初体験を済ませて。
「お」
最後に画面が暗転。
そして『どきどき☆メモリアル(R-18)』のスタート画面が再び表示された。
「どうやらゲームクリアみたいですね」
「なるほど、これが恋愛シミュレーションゲームか……中々面白いじゃねぇか」
次元3E2における大人気恋愛シミュレーションゲーム『どきどき☆メモリアル』
その魅力と面白さにはどうやら魔王ランスもお気に召したようである。
「よーし。このゲームのやり方も分かったし、次はあいつを落としてやる」
「あいつ?」
「あぁ、さっきのプレイの途中で出会ったろ。このゲーム内で一番手強そうなあいつだ」
それはシルキィ先輩を攻略中、知り合いとして一度紹介だけは受けていた人物。
学内ミスコン優勝、そして全国統一模試一桁順位の才色兼備を地でいく学園のマドンナ。
そして二年次には生徒会長に就任しており、更には主人公の幼馴染でもあったりして。
少々設定を盛りすぎなようにも思える攻略最難関ヒロイン、その名は──
「ぐふふ……落としてやるぜ、ホーネット!!」
──その名はホーネット。
ランスは今再び、ホーネットという女性に挑む。