ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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新たなる魔王様の新たなる日々⑦

 

 

 

 

 

「なぁ知ってるか、ぷれすて」

「ぷれすて?」

 

 聞きなれない言葉に眉を揺らす絶世の美女。その前には仕えるべき主となった元人間の魔王。

 その日、ランスはケッセルリンクの部屋を訪れていた。

 

「そうだ、ぷれすて」

「さて……聞いたことがないな」

「だろうな。ぷれすてってのはパイアールに作らせた異世界のゲーム機なんだ。ここ数日、俺様はその恋愛シミュレーションゲームに熱中していてな」

「ほう、異世界の恋愛シミュレーションゲームとは……」

「うむ、ゲーム内での恋愛なんぞ所詮お遊びだろうと思っていたが……これが中々に奥が深い。ゲームだからと馬鹿に出来んもんでな、気付けばこの数日間ぶっ続けでプレイしちまった」

 

 ここ数日、ランスは日課のセックスも忘れて『どきどき☆メモリアル』に熱中していた。

 次元3E2における恋愛シミュレーションゲームの金字塔。その自由度の高さと奥深さ、そして設定ミスとなる攻略難易度を前に何度も絶望を味わい、その末の感動を思い出したランスは満足げに語る。

 

「やっぱり男の魅力ってのは学力と運動、あと根性と容姿と雑学と礼儀と芸術その他で決まるな」

「ふむ」

「後はイベントだな。学校内で発生するイベントは勿論の事、好感度が上がりやすい恋愛イベントやエンディングに必須となる特殊イベント、それらが発生する時期やその条件を正確に把握していないといかん」

「ふむ、イベントか」

「期末テストや体育祭のような強制的に発生するイベントもあれば、偶発的に発生するランダムイベントもあるのだ。中には特定の時期に特定のデートスポットでデートしなければ発生しない特殊イベントなんかもあってな。そういう好感度が上昇しやすいイベントを押さえる事でスケジュール管理に余裕を作る、そうして空いた時間でひたすら自分磨きをしてクリアに必須なパラメータを伸ばす。これがハッピーエンディングを迎えるコツだな」

「ふむ……聞いていると中々に難しそうなゲームだね」

「あぁそうだ。改めて感じたが女を口説き落とすってのは難しいもんだ。しかし難しいからこそ挑戦し甲斐があるとも言えるし、だからこそやり遂げた時の嬉しさも一入なんだなぁうむうむ」

 

 全ては効率的なパラメータ稼ぎと必須イベントを押さえて、クリアフラグを満たす事。

 それを理解し、もはや攻略本要らずの『どきメモ』マスターを自認するランスはしたり顔で頷く。

 

「どきメモを通して実感した。女ってのはただ単純に抱くだけじゃない、口説き落としてものにするという過程にも奥深さがあってやり甲斐があるもんだ」

 

 このように語るまでに熱中してマスターするまでやり込んだ結果。ランスはここ最近自分の中で感じた事のなかった感覚を思い出した。

 魔王になって、全てが自分のものになった一方で薄れていた感覚──欲しいものに挑んで手に入れる感覚である。

 

「なので、久々にそれをやってみようという気分になってな」

「ほう」

「んじゃあ誰をターゲットにするか……と考えたところ、パッと頭に浮かんだのがまずお前だったのだ。ケッセルリンクよ」

「成る程、私か」

 

 魔王様直々のご指名。突き付けられたケッセルリンクは静かに喉を鳴らす。

 第八代魔王、歴代随一の好色魔王ランス。その毒牙に掛かった者は数多く、人間世界は元より魔物界にもその手は伸びている。つまり現状すでに攻略済みの相手はまぁまぁ多い訳で。

 今回の対象は攻略経験の無い女性、ただそうは言ってもそこらにいる名も知らない一般美女を落とすというのも張り合いが無い。あの幼馴染の『ホーネットちゃん』レベルとまでは言わずとも多少なりとも登り甲斐のある山であって欲しい。

 そうして思い付いたのが今目の前にいる絶世の美女、魔人四天王ケッセルリンクだった。

 

「お前の事はもう何度か抱いたな」

「あぁ、そうだね」

「お前は見掛け通りにエロいし意外とテクニシャンでセックスレベルが高い。他の魔人達では中々味わえない趣のセックスを体験出来る、実にグッドでよろしい」

「そうか。喜んでくれているのであれば幸いだ」

「……が、だ。それでもお前を落とした感触は無い」

「そうだね……確かに、落とされたつもりは無いかもしれない」

 

 うむ、と魔王は重々しく頷いて。

 

「という訳で、口説き落としてみようと思う」

「そうか」

 

 あの時の興奮と充実感をもう一度。

 という事で、ランスは未だ落としていないケッセルリンクを口説き落とす事にした。

 

「ケッセルリンクよ。今お前の前にいるのは世界で一番カッコいい男だ」

「そうか」

「ケッセルリンクよ。お前はイイ女だ。イイ女はイイ男に惚れるべきだ」

「そうか」

「うむ、そうなのだ」

「そうか……」

 

 なんと返事をしたものか、とケッセルリンクは悩ましげに目を閉じる。

 

「……魔王様」

「なんだ」

「これは……察するに、私は今、貴方に口説かれているのだろうか」

「あぁそうだ。口説いている」

「成る程。これで口説いているのか」

 

 どうも先程からのは魔王なりのアプローチらしい。

 まるで口説かれている気はしなかったが、相手がそう言うのであれば否定しようもない。

 

「どうだケッセルリンク、俺様の女になりたくなってきただろう。落ちたか、落ちたか?」

「さて、どうかな……女性を口説き落とすというのは存外難しい行為なのだと、つい先程魔王様はそう言っていたような覚えがあるが」

「うむ。それはそうだ。でもほれ、俺様ってもう学力も運動もMAXだし、根性も容姿も雑学も礼儀も芸術も全パラメータがMAXな男だろ? つまり女を口説き落とすのにこれ以上の努力は必要ない」

「成る程。パラメータという数値だけで表現するならばそうなるのかもしれないね」

「だから『どきメモ』の主人公「ランスくん」とは違って、本物の俺様であればどんな相手だろうとすんなり落とせるはずなのだ」

 

 自分のパラメータはオールMAXである。なので自分に落とせない女はいない。

 ランスは本気でそう思っている。普段通りの自信満々な表情からそれが伝わってくる。

 

「さて……」

「うむ。どうだケッセルリンク」

「……さて、困ったものだ……」

 

 悠然と呟いて、貴族然とした上品な所作で紅茶を一口飲む。

 ……その内心、ケッセルリンクは結構本気で困っていた。目の前の男の取り扱いに。

 

「いっそ抱かせろと命じられる方が私にとっては何倍も有難いのだが」

「それじゃあ駄目だ、今日の目的はそれではない。今日は俺様の魅力で惚れさせて口説き落とした感を味わいたいのだ」

 

 いつでもどこでも使える成功率100%な犯すコマンドを実行したいわけじゃない。

 ちゃんとエンディングをコンプする為、口説き落として惚れさせる過程を楽しみたいとランスは言う。

 

「惚れる……か」

「そう、惚れる」

「ふむ……他ならぬ魔王様からの要望だからね。私とてなるべくなら応えたいとは思うのですが……しかし、惚れるというのは……なんとも」

 

 しかしてその要求はケッセルリンクにとって難題過ぎた。

 ランスが要求しているもの、心の動きというのは本人にさえどうしようもないもの。

 

「抱かせろ、と言われたなら身体を委ねる事は出来るのだが。しかしそれで気持ちが揺れるのか言われると……難しいね」

 

 惚れろ、と言われて、はい分かりました、とそう簡単に惚れられる訳ではない。

 特にケッセルリンクはそういう感情とは無縁の人生を送ってきた為、元より自分の中にそういったものは無いだろうと半ば確信を抱いている。

 だからこそ困る。困った魔王の困った要求には逃げ道を探すので精一杯である。

 

「ううむ……さてはまだ好感度が低いってことか。そうなのだな?」

「どうだろうね。好感と言うならば決して低い訳ではないとも思うのだが」

「む、そうなのか?」

「あぁ。まぁ確かに魔王様の人間性については疑問視したくなる部分も多々ある」

「おい」

「が、人間ではない魔王様の人間性を見ても仕方が無いとも言える。それに現状魔王様は私との約束をちゃんと守ってくれているからね。その分は好意的に見ているつもりだ」

 

 使徒達に対して意に沿わぬ手出しはしないという約束。ランスが歴代随一の好色魔王であると知った以上、その約束には自分が思うよりも大きな意味があるのだと理解している。

 自身の外見が美女だからという要素が極めて大きいのだが、それでもこちらの話をちゃんと聞いてくれる魔王なのだと分かった為、ケッセルリンクとしては友好的な態度を示しているつもりである。

 

「ただ……それで惚れるか、と言われるとね」

 

 それはそれ。話は最初の地点に戻ってくるのである。

 

「ケッセルリンク。お前って過去に付き合っていた男とかいねーのか?」

「いない。なにせ私は元々カラーだからね、付き合うどころか周囲に男性自体がいなかった」

「あぁそうか、カラーか……こんなに美人なのに勿体ない……」

「それは私だけでなくカラー種全体の問題だと思うがね。とにかくそんな訳で、私はこれまでの人生で男性に見惚れた事も無ければお付き合いをした事も無い。しようという気さえ抱いた事が無い」

「……せっかくこんな超美女なのに……なんつー枯れた人生だ……」

「枯れる、か。そうだね、表現としては中々に的を射ていると思う」

 

 自らの生を枯れていると評された事について、頷き一つで返すところも含めて。

 ケッセルリンクがそう感じるのは自らの内面。特に彼女はランスが高い評価をしている自らの外面というものを重要視していない為、余計にそう感じている。

 

「魔王様も長く生きてみれば分かる。このぐらいの歳になるとね、何事に関しても強い情動を抱くような事は無くなってくるのだよ」

「お前、せっかく超絶美女なのに……足腰立たなくなった老人みたいな事言いやがって……」

「これでも3000年以上は生きているからね。みたいな、ではなくて老人そのものと言える」

 

 最大1000年で代替わりを行う魔王に六度仕えて、足掛け3000年以上。

 魔王になってもまだ25歳程度のランスには想像も及ばない年月の話である。

 

「私よりも年上となるカミーラやメガラスも似たように達観した性格をしているだろう。……例外はケイブリスぐらいか」

「リス?」

「あぁ。あれは私よりも長生きしている最古の魔人となるが、達観などとは無縁の性格をしていただろう? あれはあれで珍しい事なのだよ」

「あんなもん珍しかろうがどうでもいいが」

「まぁ、魔王様には分からぬ事かもしれないがね。ただ6000年以上もの長きに渡る間ずっと、同じ野望を強く抱き続けるというのは存外に難しい事なのだよ」

 

 同じように長く生きている分、ケッセルリンクにはそれがよく分かる。

 魔人ケイブリスの一番の凄さはそこだろうねと語る声には素直な賞賛の響きがあった。

 

「そんな野望もこの俺様が見事にへし折ってやったがな。がははははっ!」

「確かに。何事も強く願えばいつかは必ず叶うというものではない。それもまた然りだね」

「つーかケイブリスの事なんざどうでもいい。問題はお前だ、お前」

 

 ケイブリスと違って精神性が達観しているケッセルリンクは惚れたり落ちたりする事が無い。

 説明されると理解出来なくもない話ではあるが、それでもなんとかしたい。ふとランスは部屋の脇に立つメイドに視線を向ける。

 

「なぁ、パレロアちゃん」

「はい、なんでしょうか」

「ケッセルリンクが俺様に惚れるにはどうすればいいと思う?」

「ケッセルリンク様が惚れる、ですか……それは……私にはちょっと想像出来ない姿ですね……」

「ぬぅ……」

 

 本日のメイド、ケッセルリンクに長く仕える使徒パレロアに訪ねても反応は薄く。

 

「ふむ……では魔王様、先程貴方が仰っていた恋愛シミュレーションゲームを例にするとだ」

「ぬ?」

「私が実際に体験した訳ではないから想像で語る事になるが……そのゲーム内に登場する全ての登場人物が攻略対象だった訳ではあるまい。中には攻略が出来ない女性キャラもいたのではないか?」 

「そりゃまぁ、いたけど。塾の先生とか、バイト先のコンビニの店長とかはただのモブキャラだからな」

「ならばそれが私だと思えばいい。ただ魔王様の周りで生活をしているだけ、攻略対象に含まれないモブキャラだって物語の中にはいるだろう」

「な!? お、お前が、モブキャラ、だと!?」

 

 まさかのモブキャラ宣言に魔王ランスは驚愕の表情。

 

「恋愛イベントの発生しないキャラも存在する。それはゲームも現実も同じだろう」

「れ、恋愛イベントが発生しない……!」

「うむ」

 

 登場する全ての女キャラとイベントが発生する訳ではない。

 それはあの『どきメモ』でもそうだった以上、言い返す言葉も無いのだが。

 

「……いーや駄目だ! お前はちょっとモブキャラにしては美人過ぎる!!」

「外見は関係無いと思うが……」

「関係あるに決まってんだろ! お前程の美女がゲームには登場するけど手出しは出来ない攻略不可キャラだなんて、そんなのユーザーから文句言われるぞ!!」

 

 こんな美人を登場人物一覧に並べてはいけない。あくまで登場人物一覧に並べるのであれば、攻略不可キャラであってはいけない。そんなのクレームの元である。

 どうやら『どきメモ』を通じてランスはすっかり異世界産のゲーム脳に染まったらしい。

 

「そう言われてもね……実際問題男に惚れろと言われても難しいのだよ。なんせ私はつい先日までは他ならぬ男として数千年以上も生きてきた身だ。それは魔王様もご存じだろう?」

「そりゃおっさんのお前を美女に戻してやったのは俺様だからな」

「長らくあの姿だったのだ、そう簡単に意識が切り替わるものではない。そんな私に男性に惚れろと言われてもね……」

 

 元々ケッセルリンクはカラーの女性だったが、魔王スラルを守る為に魔人化した際に男性となった。つまりその時点から自意識としては男性よりにあったと言える。

 更にはそれ以後。救いを求める哀れな女性達を庇護しては、時としてそんな使徒達を慰める為に男性として身体を重ねる事も沢山あった。もはや自意識は完全にそっち側である。

 

「ぬぅ……そう考えるとお前も中々けったいな人生を歩んでいるなぁ」

「さて、人間の身で多くの魔人を討伐してあまつさえ魔王になった貴方に比べたら、私など穏やかな人生を歩んでいるものと思うがね。ともあれそういう訳で、私が魔王様のご希望に沿うのは難しいのだ」

 

 モブキャラとか、恋愛イベント対象外とか、精神的に男よりであるとか。

 色々述べたが、結論としては冒頭から同じように「ランスくん、ごめんなさい。貴方と付き合うのはちょっと……」というお断り宣言である。

 

「あるいは……実際に惚れる事は難しいが、惚れたフリならば出来るだろう。それで魔王様のお気持ちが満足するというのであれば付き合いますが」

「フリって思いっきり宣言しているのにそんな事してもなぁ」

「であれば、やはり難しいでしょう。こればかりは強制命令権でもどうにもならない事ですから」

「ぐぬぬ……」

 

 強制命令権で強制出来るのは行動のみ。内心の自由まで強制出来るものではない。

 惚れた腫れたとは無縁の世界に生きているケッセルリンクを前にして、強引に恋愛イベントを起こそうにもゲームのようには上手くはいかない。

 相手がゲームのキャラではない以上、それは当然の話なのである。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……と、ケッセルリンクにはそう言われた」

「………………」

「長年生きるとどいつもこいつも枯れた老人みたいなヤツばっかになるらしい。せっかくあんだけの美女なのに勿体ないよなー勿体ない」

「………………」

「だが俺様は諦めんぞ。何事も諦めなければチャンスはある。あれだけゲームオーバーを繰り返したホーネットちゃんルートだってクリア出来たんだからな」

「………………」

「という訳でカミーラよ。いっちょ俺様に惚れてみろ」

「………………」

 

 次いでやってきてのは魔人カミーラの部屋。

 ケッセルリンクに負けず劣らずの美貌を持つ部屋の主は「はぁ」と嫌そうに息を吐いた。

 

「………………」

「おい。聞いとるか?」

「……聞いてはいる」

 

 聞きたくもない話だが、とその美貌に隠し切れない苛立ちを乗せる。

 

「……ランス。お前はケッセルリンクが言っていた事を理解出来なかったのか?」

「いや? そんな事はないが」

「ならばそれを理解した上で何故私の下を訪れる。私の精神性もケッセルリンクと同様だ、お前に惚れるような事などない」

 

 わざわざ説明するのが億劫だと言わんばかりの視線。とっても冷めた表情。

 ケッセルリンク以上に長い年月を生きているカミーラも当然ながらその領域にいる。よってケッセルリンクの時の同じ注意事項がそのまま彼女にも当てはまる。

 

「案の定つーかなんつーか、お前も枯れてるなぁ」

「………………」

「いや、枯れてるというより……全体的にやる気ゼロだよな、お前って」

 

 そしてカミーラは使徒の保護を求めたりなどの恩も受けてはいない為、ケッセルリンクのように魔王ランスに対して一定の好感を抱くような事もない。

 好感度で見るなら、ケッセルリンクと同等どころかそれ以上に攻略不可キャラと言えた。

 

「もしかしてあれか、あの時ケイブリスにボッコボコにされたのがそんなに堪えたのか」

「……別にそういう訳ではない。元より私はこういう性格だ」

「そうかぁ? ゼスで会った時はもうちょっと偉そうにふんぞり返ってたし、元気やる気もあったと思うが……」

 

 ランスと初対面はLP4年のゼス侵攻時。その時のカミーラは古き時代からの強者たる魔人四天王に相応しい傲慢で尊大な性格をしていた。 

 しかしその一件でランス達一行に敗北を喫した。その戦いで長らく自分に仕えていた使徒や寵愛していた最愛の使徒を失って、捕縛された挙句に身動きがとれぬままに何度も犯される始末。

 

「なにがあったのかは知らんけど、元気出せって」

「………………」

 

 その元凶にこのように言われてしまっては。

 かつその相手が絶対に逆らえない魔王になってしまっては。もはや怒りも湧かないというもの。

 この状況でカミーラにやる気を出せというのが無理というものである。

 

「……お前の下らぬ話に付き合うつもりは無い。いつも通り、したいならすればいい。そうでないならばとっとと帰れ」

「む……」

 

 そんなやる気ないカミーラとは、魔王になってからランスはすでに何度か手を出している。

 このアメージング城に半強制的に移住をさせた事もそうだが、絶対命令権をチラつかせれば言う事を聞かない魔人はいない。そうやってほぼランスが一方的に楽しむような形で都度致してきた。

 

「なんだ、セックスしたいのか」

「そうではない。好きにすればいいと言っているだけだ。無駄なやり取りをしたくないからな」

 

 すでにカミーラは色々と諦めているので抵抗の意思も無い。

 何をどうしても相手は魔王、絶対命令権の前で魔人が逆らえるはずがない。

 

「そうか……それなら」

 

 セックスしていいというのなら、とりあえずセックスをしておこうか。

 半ば反射的にそんな事を考えた、その時だった。

 

 

『……駄目だ!』

 

「……ぬ?」

 

 その時、ランスの頭の中に響く声が。

 

『それじゃあ駄目だ! そんなやり方じゃあ女の子は好きになってくれないよ!』

「……はっ!」

 

 その声は。聞いた事も無い声なのにやけに脳裏に馴染む懐かしの──

 

「お前は……ランスくん!?」

「……はぁ?」

 

 その時、ランスの脳内に響いたのは天の声……ではなく、画面の中にいた彼の声。

 なんとどきどき☆メモリアルの主人公「ランスくん」の声が聞こえてくるではないか。

 

『君はあのゲームをクリアしたじゃないか! 俺が幼馴染のホーネットちゃんと恋人になる為に、エンディングに辿り着く為にはどうすればいいのか、あの日々を思い出すんだ!』

「そ、そうか……そういえば、あのゲームで画面の中にいた俺は……」

 

 ランスは思い出す。最強無敵の幼馴染キャラ、ホーネットちゃんを攻略した時の事を。

 俺に惚れてみろ、抱かせろ、と言われて惚れる女などこの世にはいない。そんな方法であの幼馴染を落とした訳ではない。それではゲームオーバー一直線である。

 そうではなくひたすら自分を磨いて、何度もデートに誘って。地道に好感度を積み上げて。そうした努力の果てに幼馴染のホーネットちゃんと結ばれたのだ。

 

「しかし……自分磨きは難しい。俺様はすでに最強でパラメータはオールMAXだ。これ以上何をしたところで磨く部分なんてどこにも無い」

 

 自分以上の男なんてこの世に存在しない以上、これ以上パラメータが上がる余地はない。

 つまりパラメータが足りなくてクリアが出来ないという事は無い。問題はやはり好感度か。

 

「んじゃカミーラよ、デートしよう」

「断る」

 

 デートの誘いを断るキャラは、いる。

 特に好感度が低い内は断られやすい。当然と言えば当然だが。

 

「……おい、カミーラ」

「なんだ」

「俺様って魔王様なんだぞ。そこんところを分かってるか?」

「ならば強制命令権を使えばいい。それならば仕方ないが付き合ってやる」

「………………」

 

 お誘いを断られる事は、ある。それは経験済みだし分かっているが、されどイラつく。

 イラつく気持ちも仕方ないと言えるが……しかしランスはそれだって経験済みである。

 

「……ふふ、ふふふ、甘い甘い、甘いぞカミーラ。俺様はこれぐらいではめげんからな」

「何も言ってないが」

「ここでイラついて犯すコマンドを実行するのは悪手なのだ。何度もそれでゲームオーバーになったからな、さすがにもう学習したぞ」

「そうか」

 

 カミーラには意味が分からないが、ランスはやたらと得意げである。

 

「だったら……そうだ。なぁカミーラよ。なんか俺様にして欲しい事とかないか?」

「ない」

「いやあるだろう。あるよな?」

「ない」

 

 にべもない。取り付く島もない。好感度を稼ぐ取っ掛かりさえ与えてくれない。

 最近のカミーラは何に関してもやる気が起きない。というか元々活発的な性格ではない。

 遥か昔から自身の館に籠って寵愛する配下達を可愛がる事に耽っていたような魔人である。

 

「……なんかあるだろ。なんでもいいぞ」

「………………」

 

 愛する配下達も死んでしまった今、したい事など、して欲しい事など特にない。

 それもランスの言に乗るような形では。これまでの経験から警戒するのも当然だが──

 

「……いや」

 

 前言撤回。

 無いことも、無い。

 それも今となってはどうでもいい事と言えばそうなのだが、それでも。

 

「……そうだな」

 

 特にこのアメージング城に住処を移してから。

 やたらと目に付くものがある。癇に障る、というべきか。

 

「……一つ、戯れ程度に思い付いた事がある」

「お! なんだ、言ってみろ」

「それなら──」

 

 今更どうでもいい事、と見て見ぬふりをする事も簡単なのだが。

 しかし魔王が叶えてくれるというのなら、望み通りに叶えてもらう事にした。

 というか、そうでもしないと目の前の男が満足しそうにないので面倒くさい。

 

 

「──と、いう事だ」

「ほー……」

 

 そして、それを聞いたランスは。

 

「……え?」

「なんだ? なんでもいいぞと言っただろう」

「いやそりゃ別にいいけど……でもそれ、なんか意味あんのか?」

 

 叶える事は簡単だが、その行為の意味がよく分からず魔王は眉を顰める。

 

「意味がない事もない。強いて言えばほんの少し、溜飲が下がる」

「……え、それだけ?」

「あぁ、それだけだ」

 

 どうやらそれを行うと、カミーラはちょっとだけスッキリする、らしい。

 

「ちなみにそれ、好感度は上がるのか?」

「さぁ、どうだか」

「えー……」

「だから言っただろう。ただの戯れだと」

「そうか……まぁ別にいいけど……でもそれ、ちょっと性格悪いと思うぞ」

「私は元々こんなものだ」

「うーむ……」

 

 カミーラが言う戯れに付き合うか、ふとランスは考えてみる。

 実行するのは簡単。けれどもなんだか後で面倒な事になるような、ならないような。

 

「……でも、ちょっと面白そうだな」

「……だろう?」

 

 しかし、すぐに湧いてきた興味が勝った。

 なんでも思い通りに出来るのが魔王、ならばあえてやらない理由も無い。

 

「けれど……なぁカミーラ、それならいっその事こういうのは──」

「……ほぅ? 成る程、それは面白い」

「だろ?」

「あぁ。しかしランス、どう考えてもお前の方が性格は悪い」

 

 更には改案まで出す始末。

 魔人四天王をして唸らせる程に魔王の性格の悪さは群を抜いていた。

 

「そんじゃカミーラ、しばらく頑張ってもらうぞ」

「あぁ」

 

 するとカミーラは、久方ぶりに。

 本当に久方振りに、その顔に愉快げな微笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、翌日。

 

「ホーネット」

「はい」

「魔人筆頭、交代する」

「……え?」

 

 瞬間ホーネットは思考が停止した。

 

 

 

 

 

 

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