ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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超・挑戦モード④

 

 

 

 

 

 とある日──

 

「……うーむ」

 

 と眉を顰める魔王ランス。

 その日、彼はアメージング城中層に設けられた空中庭園にいた。

 

「ぬぅ……なーんも用事はねーのに、なんとなくここに来なきゃいけないような気がしたぞ」

 

 昼食後、ふらふらと場内を散歩していたらいつの間にかここに辿り着いていた。

 故になんとなくここに来た。というか、来なければいけないような気がした。

 

「……あやしい。よく分からんけど、なーんかあやしい」

 

 冒頭から説明口調なところとか。誰がいる訳でも無いのに言い訳のような独り言をするところとか。

 その様子からはどこか作為的なものを、あるいは何かしらの意思を感じてしまう。その違和感には当のランス自身も気付いていた。

 

「……ん?」

 

 すると──

 

「あれは……」

 

 ふと見上げた頭上、遠い遠い彼方の星が、ピカピカッと。

 まるで悪しき予兆のように、まだ昼間の空が何度も瞬いたような気がして。

 

 

 そして──光が。

 

 

「なんか、前にもこんな事あったような……」

 

 光が──迫り来る。 

 なんだか見覚えあるなぁやだなぁと訝しむ魔王、その視界の中で急速に存在感を増していく。

 ぴゅ~~、という甲高い効果音と共に、輝く極星が一直線に落下してきて。

 

 そして……どかーんっっ!! と着陸。

 

 

「やっほー!!」

 

 そうして聞こえた明るく元気なその声は。

 皆が待ちに待っていた、大いなる存在の威厳たっぷりなキングの声。

 

「帰ってきた! ハニーキングが!! 戻ってきたよー!!」

 

 そこにいたのは真っ白ツヤツヤな陶器。ハニー種を統べる王、素晴らしきハニーキング。

 いつ見てもキングはカッコいい。いつ見てもキングは美しくて誇らしい。

 

「待たせたねみんな!! 約束通りに私が帰ってきたよーー!!」

 

 という事で、以前の宣言通りにハニーキングが戻ってきた。

 

「しっかり7話分進んだからね!! ここからまた私の出番ってわけさ!」

「そーかい」

「おや冷たい。せっかく私が戻ってきたってのに。もっと歓迎してくれていいんだよ」

「歓迎なんぞするか。お前の事を待っていたヤツなどおらんわ」

「えー」

 

 何かと思えばコイツかよ、とランスは相変わらずの塩対応。

 幾度とその姿を見ても、艶のある白い陶器には毛ほども興味が湧かないようである。

 

「でもでもでもー、みんなは私の戻りを待ってたよねー? ねー!」

「みんなって誰だ」

「みんなはみんなさ。ねーみんなー、そうだよねー!」

「おい、お前は誰に話しかけとるんだ」

「ふふふ、私には見えるのさ。遠い彼方で私の戻りを待っていてくれた者達が……!」

「なんだそりゃ……」

 

 ハニーキングは明後日の方向に振り向いてブンブンとにこやかにその手を振っている。

 その空洞の瞳には何が見えているのか、一体誰に向けて愛想を振りまいているのか。それは遥か高次元の存在であるキングにしか分からない領域の話なのである。

 

「で」

「うん?」

 

 とはいえこれでは埒が明かない。ランスはとっとと話を進める事にした。

 

「白ハニワ、お前がここに戻ってきたって事は要するに……あれだろ?」

「その通り! あれだよ!」

 

 本日のメインイベント、勿論あれである。

 

「ということで……超・挑戦モード、再開といこうか!!」

 

 ドンドンぱふぱふー! と軽快なクラクションBGMが鳴り響く。

 それはハニーキングにのみ可能なスペシャルイベント。先日唐突に挑戦させられてまた唐突に中断させられていた超・挑戦モード、その再開の鐘が鳴らされたようだ。

 

「めんどくさ」

「はいそれ禁止ー! これは強制イベントだからね、めんどくさくても挑戦してもらうよ!!」

「勝手に決めるな」

「残念ながら私が決めなくてもそうなるのさ。強制イベントの強制力は絶対なんだねぇうんうん」

 

 そのイベントをクリアしない限り、その先の話が続かない。

 そういう意味でこの超・挑戦モードへの挑戦は必須となる。……とのことらしい。

 

「再開の前にざっとルールのおさらいをしようか。この超・挑戦モードとは、私が用意した超スゴい挑戦ステージに挑んで、その先に待ち受ける超スペシャルなボスを倒すのが目的だ」

「知っとる」

「チャレンジャーはランスくんただ一人だけ。でも一人ぼっちはなんか可哀想だからランダム選出でお助けキャラを一名用意してあげるからね。二人で力を合わせてボスを倒せばステージクリアだ」

「だから知っとるっての。たしか次は第三ステージだったよな」

 

 知っている人は知っている、それがこの挑戦モード。

 待ち受ける全六ステージの内、以前の挑戦で第一ステージ、第二ステージを攻略した。よって再開は第三ステージからとなる。

 

「次はどんなボスが待ち受けているかな? 果たしてランス君の運命はいかに……!」

「どうせ前の二つと似たようなもんだろ? 何が出てきたって問題ないわ」

「おおー、強気だねー、いいねー! それじゃあ早速挑戦スタート! の前に、次のステージボスを選ぶくじ引きといこうか! くじ箱カモーン!!」

 

 カモーン!! の掛け声を合図にして、

 その手元にポンっ! とくじ引き箱が出現。

 

「さぁさぁドキドキターイム! ランス君が次に挑むステージは…………こーれだーっ!」

 

 箱の中に手を突っ込んでかき混ぜて。

 そして、ハニーキングが一枚のクジを掴んだ。

 

 

「……む、むむむっ!」

 

 クジに書かれていたのは──『1』

 

 

「うわわー!! で、でたー!! 1が、1がでたー!!」

 

 カランカランカラーンっ! 

 と何処からともなく取り出したハンドベルをめちゃくちゃに鳴らして騒ぐハニーキング。

 

「どうしようどうしよう! きゃーきゃー!」

「なんだなんだ、急にテンション上げやがって」

「だって1が出たんだよ! まさかの大当たりくじがここで登場だー!!」

 

 3つ目のチャレンジにしてその数字が出現した。

 ハニーキングでもこれ程テンションを上げる理由がある──それが『1』のクジ。

 

「1が当たりなのか?」

「あったり前じゃん! だって1だもん! 一番すごそうでしょ!?」

「そりゃまぁ分からんでもないが」

「1がここで出てくるとはねー! こりゃ運命のいたずらってやつだねー!」

「くじ引きに運命もクソもあるか」

 

 その先に待ち受ける相手を知らないランスは平然とした顔。

 あくまでこの超・挑戦モードの対戦相手はランダム抽選形式、……という名目。なので6の次に7が来て、その次に当たりの1が来る事もあり得る。……という建前がある。

 ともあれ引いてしまったクジは変えられない。次の相手は『1』なのである。

 

「ふふふのふ。ランスくん、心の準備はいいかい?」

「いいからとっとと進めろっての」

「いやいやぁ、さすがにこのステージに関しては正直言ってリタイヤ推奨かもねー。なんせ今までの2つとはちょっとレベルが違うからねー!」

「リタイヤなどするか。誰が相手だろうが関係ない、俺様は最強だからな」

「その威勢がどこまで続くか、見せてもらおうじゃないの。という事で……よっこいせー!」

 

 ハニーキングは頭上に掲げた左手を大きく下に振り下ろした。

 するとぐにょーんと空間が歪んで、人一人通れる大きさの円形のワープゲートが出現。

 

「さぁ! このゲートをくぐったら挑戦開始だ! もう後戻りは出来ないよ!」

「ほんじゃちゃっちゃと終わらせてくるか」

「うぅうう……! 辛いけど、悲しいけど、でも笑って送り出すよ! いってらっしゃーい!」

「おう」

「絶対に、ぜったいに生きて帰ってくるんだよぉー!! よよよよよ……っ!」

「なに泣いてんだお前」

 

 こうして、ランスは足を踏み入れた。

 『1』が待つ、そのステージへと。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「……で、到着した訳なのだが」

 

 ワープホールを通過して、辿り着いた超・挑戦モード第3ステージ。

 すでに三度目の事だけあって、見知らぬ世界に降り立ったランスも慣れたものである。

 

「……うーむ」

 

 辿り着いたそこは──雄大な大自然の中。

 そのように表現するに相応しい、というかそう表現するしかないような場所。

 

「……うむ。こりゃステージ2と同じで、今いる場所が何処なのかさっぱり分からん」

 

 四方八方、見晴らす限り人気のない自然の景色。広がる視界の先には山々や生い茂る木々達。

 その光景から現在地点を割り出すのは困難極まる。第2ステージ同様、ボスを探し出す云々の前に状況の把握から始める必要がありそうだ。

 

「こうなると目の前に魔王城があった第1ステージって簡単な方だったんだな……」

 

 分かりやすい目的地の影なども無く、見知らぬ世界にただ一人、何も分からない状況。

 ハニーキングに言わせれば「それも含めてのチャレンジだよー」という事になるだろうが、右も左も分からない状況で目的のボスを探し出すのは結構な手間である。

 

「あれだなぁ、今回もリトルプリンセスみたいな犯し甲斐のあるボスだといいなぁ」

 

 それでも第2ステージの場合、感知能力のある魔剣カオスのおかげでなんとかなったが──

 

「ってそうだ。今回のお助けキャラは……」

 

 思い出したように呟いてランスは周囲を見渡す。

 するとそのタイミングで、すぐそばの空間がぽっかり丸く切り取られて。

 

「お」

 

 ぐにょーんとワープゲートが出現。

 その中から姿を現したのは──

 

「……ん?」

 

 ちょこんと、一匹。

 

「は?」

 

 それは、白い毛玉。

 もじゃもじゃの丸い物体。それに手と足と角をはやしただけのような。

 とてもシンプルなデザイン。子供でも描けそうなぐらいに簡単な姿。

 

「え」

 

 それには目が合ったランスも。

 そして選ばれた当人もびっくり。

 

「り…………リスだとぉ!?」

「え?」

 

 そこにいたのは、リス。

 最強最古の──もとい、今では最弱最古と称するに差し支えない一匹。

 

「え、なんだこれ、どういう状況?」

 

 どうやら事情を説明されていないのか、訳も分からず呆然としているリス。

 という事で、今回のお助けキャラは魔人ケイブリスのようだ。

 

「あっ……あんのクソハニワめー!! お助けキャラの意味を分かってんのかーー!!!」

 

 第2ステージ同様、魔王の怒りが天を衝いた。

 かわいい女の子をオーダーしていたはずなのに、やってきたのはリス。よりにもよってケイブリス。

 その存在自体に価値が無いし、お助けキャラとしても全く使える気がしない。使えない度は魔剣カオスを優に超えている。ふざけている。

 

「……え、ここ、どこだ?」

「おいリス、いますぐ返品だ。リコールだ。クーリングオフだ」

「は、え、なんのこと? 本当にこれ、どういう状況なんだ」

「………………」

 

 自分の置かれた状況が理解出来ずにきょろきょろと辺りを見渡すケイブリス。

 ランスは蹴飛ばしたくなる気持ちをぐっと押さえて、現状をざっと説明してやった。

 

「はぁ、超・挑戦モードね……」

「……おう」

「で、それになんで俺が呼ばれたんだ?」

「知るか!! そんなもんこっちが聞きたいわー!!」

「ぐ……っ、そ、そんなキレんなよ……」

 

 魔王怒りのオーラを真っ向から浴びたケイブリスは反射的に身体を竦める。

 理不尽な怒りをその身に受けるケイブリスは巻き込まれただけ。完全にとばっちりなのだが、そんな訴えが通るような相手でもなければ状況でもない。

 

「つーか最初はホーネットだったのに……なんか第一ステージから比べてどんどんお助けキャラの質が下がってる……」

「はぁ……」

「このままじゃ次はヤンキーとかうっぴーとかになっちまうんじゃ……」

「はぁ……」

「はぁ、じゃない。お前にも責任の一端があるんだぞ」

「んな事言われたって、俺にはなにがなんだかよく分からねーし……」

「チッ……まぁいい」

 

 悪化する一途を辿るお助けキャラの抽選も不安だが、目を向けるべきはこのステージ。

 いずれ文句は白い陶器にぶつけるとして、ランスは強引に思考を切り替えて進みだした。

 

「とにかくボスだ。このままじゃ埒が明かねーし、とっととボスを探してやっつけるぞ」

「お、おぉ。そのボスを倒せば元の場所に戻れるってことだよな」

「そういう事だ。……しっかし、本当になんもねー場所だなここは……」

 

 肌に当たる風が涼しい。なんとなく元の世界よりも空気が澄んでいるような気がする。

 魔物界の異様な植物は見当たらないので、人間世界の何処かだろうとは見当が付く。

 

「ヘルマンだったらもっと寒くて雪がチラつくだろうし……ゼスか、リーザスか自由都市か……」

「見た感じ魔物界じゃ無さそうだけど……つーか、ここが人間世界だってんなら俺には地理がほとんど分かんねーんだけど」

「安心しろ、最初からお前には何一つ期待しとらん。とりあえず道の一つでも見つかればその内に人気のある場所に辿り着くはずだ」

 

 何処かの町や村、それが無くとも民家の一つでもあればいい。

 そこで誰かに話を聞けば進むべき道は見えてくるはず。冒険の基本は情報収集から。

 

 ……などと、気楽に考えているランスはまだ知らない。

 ──今この世界には、人工の建造物などはまだ一つも存在していない事を。

 

「あ、そうだ」

 

 その時、ふと直感が働いた。

 

「もしかしたらこのステージのボスも魔王かもな」

「ま、魔王? 魔王だと?」

「あぁ。第一ステージも第二ステージもボスは魔王だった。どうせあの白ハニワのやることなんてワンパターンに決まってる」

「お、おいおい……それじゃ魔王と戦うって事かよ。……でも、まぁ、考えてみりゃそうか、魔王の相手が出来るのなんて魔王ぐらいなもんだよな……」

 

 スケールの大きさに驚きつつも一方で納得顔のケイブリス。

 魔王の相手は魔王。そのあり得なさに目を瞑れば、確かに分かりやすいと言えば分かりやすい。

 

「え、でもよ。ここのボスが魔王だったとして、それならこの俺がなんの戦力になるってんだ?」

「だからそう言ってんだろーが」

「……ていうか、俺、正直今じゃそこらの魔物兵相手でも勝てる自信無いんだけど」

「お前そんなんでよく魔人やってられるな」

「ぐっ……」

 

 俺が弱くなっちまったのはお前のせいじゃねーか、とは言えないケイブリス。

 派閥戦争で敗れて、一度魔血魂状態に戻った結果鍛え上げた強さを失った。敗れたのは自分が弱かったからなので文句は言えない。

 そして一度戦い勝敗が決したからか、双方共に後腐れのようなものは無い。ついでに魔王様に対する敬意や忠誠とかも無くなっているような気もするが、それはそれである。

 

「……はー、しっかし、魔王ねぇ……」

 

 そんなケイブリスは、ふと考える。

 

「………………」

 

 ──魔王。

 その単語を耳にして、ケイブリスの脳裏に自然と思い浮かぶのはただ一人。

 それはすぐ隣にいるランスではない。遠い遠い記憶の奥底に眠る偉大な姿。

 

「……魔王」

 

 ふと見てみれば、目の先に広がるのは雄大な自然の世界。

 懐かしい、とまでは思わない。そこまで察するものがあったわけではないのだが、しかし妙に肌に馴染む感覚があるのもまた事実。

 

「………………」

 

 そしてもう一つ気になる事。それはお助けキャラとして自分がここに呼ばれた意味。

 ランダム選出らしいが何の理由もなく自分がお助けキャラに選ばれるだろうか。いいやそれはない。

 自分が選ばれた以上は何かしらの理由がある、なにかしらの意味があって自分が選ばれたのだと、臆病で用心深いリスはそう考える。

 

「………………」

 

 その上で改めて、考える。

 ここのボスは──魔王、らしい。

 

「……ははっ! まっさかなぁ!」

 

 その時、頭の中に降って湧いた予感をケイブリスは殊更明るい声で笑い飛ばした。

 

 ──さすがにそれだけはあり得ない。

 だってあれは。あれがボスだなんて、そんなの。

 もしあれがボスだったら、そんなのどう足掻いたって勝ち目が無さ過ぎる。

 

「案外ボスって魔王じゃないかもしれねぇしな。それこそ今の俺でも勝てるような相手かも!」

「今のお前でも勝てる相手? それってどれぐらいのレベルなんだ?」

「そりゃ……イカマンとか」

「お前もう潔く魔人辞めた方がいいぞ」

 

 イカマンは冗談だとしてもさすがにあれではないだろう。

 そんな楽観的な思考を浮かべたケイブリスだったが──しかし、悪い予感ほど当たるもの。

 特にその性根がとても臆病なリスにとってはそういう予感ほどよく当たる。楽観的な思考などなんら無価値なものだと、臆病なリスは心の底で深く理解していた。

 

「にしても……町はおろか民家の一つも見えてこない。さてはここ、相当な辺境のド田舎だな」

「……まぁ、そうかもな」

「こんな場所に魔王なんかいるのか? 魔王ってのは普通デカくて立派な城とかに住むもんだろうに、どこにもそんなもん見えねーぞ」

「城か……確かに歴代魔王の殆どは自分の城を建てたな。居城を持たなかったのはそれこそ──」

 

 と、その時──

 

「……ん?」

 

 はたとケイブリスは立ち止まる。

 

 急に、辺りが暗くなった。

 先程まで出ていた日の光がなくなった。どうやら雲の影に遮られたか。

 たったそれだけの変化、現にランスは気にも留めていない。

 

「………………」

 

 しかし、ケイブリスは。その身に奇妙な寒気が走った。

 それは臆病が故の生存本能のようなものか、あるいは魔人であるが故の血のざわめきか。

 そうでないように。と心の何処かで祈りながら、暗くなった空を見上げる。

 

 するとそこには──

 

 

「────は」

 

 そこには。

 その空には、あまりにも異様な物体が。

 

「は、はわわわわ……!」

 

 それは。その存在が、そこにいた。

 それがケイブリスには理解出来た、どうしようもなく理解出来てしまった。

 

「……ら、らんす」

「あん?」

 

 思わず、その名を呼ぶ。

 

「い、いた」

「は?」

「そ、そらだ」

「空?」

「そ、そうだ。そら、空を見てみろ」

 

 空がなんだってんだ、と眉を顰めながらもランスは視界を上空へと向ける。

 

「……あーん?」

 

 すると。そこには。

 逆光となって暗く映る、なにかのシルエットがあった。

 

「なんだあれ? 入道雲……にしては不気味な色をしているが」

 

 日の光を遮る程に分厚い入道雲。

 そうと錯覚する程にそれは大きい。空を浮かんでいるにはあまりにも不自然。

 

「あ、もしかして闘神都市か? だったらあそこにボスがいるかも──」

「ち、ちがう。入道雲でも闘神都市でもない、あれは──」

「ん? なんかあれ……動いてる?」

「……あぁ、そうだ。あれは生き物だ、とても信じらんねぇだろうが……」

 

 それは生物──つまり生きている。この時代にそれが生きているという事。

 その姿を見て、今再び相まみえて、その身に走った衝撃は恐怖なのか、それとも違う何かなのか。ケイブリスにはよく分からない。

 

「生きているって……んじゃモンスターか? こんにちわの親戚か? いやでも、あのサイズだと生き物にしてはちょっとデカすぎじゃ……」 

 

 軟体の身体の至る所から触手の生えた姿のそれは──

 

「……あれだ」

「なにが?」

「だから、あれだ。……あれが、あいつがこのステージのボスなんだよ……」

「は?」

 

 この時代を象徴するもの。空に浮かぶあまりにも巨大な生物──それが。

 六千年前から、そして今も。ケイブリスが畏怖し、憧れた唯一の存在。

 

「あれが──魔王ククルククルなんだよ!!」

 

 第三ステージのボス。初代魔王ククルククル。

 

 

 

 

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