ケイブリスが叫ぶ。
「あれが──魔王ククルククルなんだよ!!」
初代魔王──ククルククル。
丸いもの出身の魔王。初代にして最強の魔王と謡われている存在。
「あれが……魔王?」
耳を疑う言葉に呆然と空を見上げる魔王ランス、その視界の先。
その姿は一見すると空を悠然と漂う巨大な雲、のように錯覚してしまっても無理はない程。
「いや、嘘だろ」
「嘘じゃねぇよ! あれが魔王ククルククルなんだ!」
「いやだが……遠目にはへんてこな形をしたタコかナメクジのようにしか見えんぞ」
軟体生物のような胴体、そこから生える無数の触手。
その不気味な姿形はランスが想像していた魔王の姿とは大きく異なるもの。
「それに……あれってちょっとデカい……いや、デカすぎないか? だってあれ……」
ランスはじーっと目を凝らして。
「……ううむ、やっぱ見た感じ結構遠くの方に……んん? いや、意外と近い、のか? でもそれだとなんかもうデカいっつか、あれは山みたいな大きさなんじゃ……」
更にじーっと目を凝らして、それでも見えたものを正しく認識出来ずに目を擦る。
初代魔王の一番特徴的なのがその大きさ。全長は4.7kmというとんでもない巨体を誇る。
言うなれば翔竜山の標高の半分程となる立派な山脈が空に浮かんでいるようなもの。じっと見て尚距離感がおかしくなってしまうのも無理はない。
「へんてこなタコだろうがナメクジだろうが、とんでもなくデカかろうがなんだろうがあれが魔王だ! 正真正銘の魔王ククルククルだ!」
「……マジか」
「マジだ! んでついでに言えばこの俺を作った張本人だ!」
「へー……」
そういえば、とランスは思い出す。
派閥戦争の最終決戦の折、あの時にケイブリスが魔王ククルククルについて話していた。
曰く、大昔にいた最強の魔王だとか。どうやら空に浮かんでいるあれがそれらしい。
「……まぁ、考えてみりゃ全ての魔王が人間っぽい姿をしている訳でもねーか。なんせ魔物の王で魔王なんだしな。にしてもちょっとデカ過ぎるような気はするが……」
「理解したか。けどまさかククルククルが現れるだなんて……」
「……いやでもそれにしたってデカ過ぎるような……」
「もう受け入れろよ! そういうもんなんだからしょうがねーだろ! あいつはデカい魔王なんだよ!!」
「ぬぅ……んじゃなにか、今回のステージはあいつをやっつけろって事か?」
誇張抜きに山のような圧倒的な存在感。さすがにあんなデカい生物を倒すというのは骨が折れる作業になるのではなかろうか。
嫌だなぁ面倒くさいなぁと思いながらランスが尋ねると、ケイブリスは大げさなぐらいに首(というか全身)を左右にブンブンと振った。
「ば、ばば、バカ言うな! ククルククルをやっつけるなんて、んな事出来る訳がねぇ!」
「つってもあれが魔王なんだろ? だったらあれが間違いなくこのステージのボスだろ」
「そりゃそうだろうが、ククルククルと戦うだなんて無茶もいい所だ! 見りゃあ分かるだろ! あのデカさ!! あのヤバさ!」
「無茶だろうがあれがボスなら倒すまでだ。それがステージクリアの条件なんだからな」
これは超・挑戦モード、強敵と戦う為に用意された特別な舞台。
リタイヤなんてする気が無い以上、あれを倒さなければ元の世界にだって戻れない。戦って勝つ以外に進む道は無いのである。
「向こうはこっちに気付いてなさそうだし、ここは先制攻撃で一発かましてやるとするか」
「お、おい待てって、ランス……!」
戦う前から逃げ腰でビビり散らしている子リスの一方、魔王ランスは当然のようにやる気満々。
スッと腰から剣を引き抜いて。
「さってと……」
彼方を見据えて、構え。
ただ差し当たっては──
「……これ、どうやって戦えばいいんだ?」
構えて、剣先の奥に遥か仰ぎ見る程の非現実な相手にランスも困惑顔。
相手は空中に浮かぶ山のような物体。ランスが立つ位置からは文字通り天と地の差がある。
さて、あれと戦うと一口に言ってもどうやって戦えばいいのか。
「さすがの俺様も空は飛べない……あいつの近くまで徒歩で近付いたとしても……ううむ」
ランスは近接戦闘を得意とする戦士である為、飛行能力を持つ相手とは嚙み合わせが悪い。
武器投擲攻撃は得意ではあるもののおよそ一回限りの大技、あの巨体と比べると爪楊枝みたいなサイズの剣がちょっと突き刺さったぐらいで大した効果があるとも思えない。
確実なのはやはり接近戦。接近戦まで持ち込めば如何なる相手だろうとも自分が絶対に勝つ。
「……おーい! そこの巨大タコ生物ー! もうちょっと下まで降りてこーい!」
とりあえずランスは大声で呼んでみた。
「お、おいおい! あんまりククルククルを刺激すんなって……!」
「バカ者、あいつを倒さねーと元の世界に戻れねーっつってんだろ。やーい、デカブツー!!」
地上から叫ぶ声が届いているのかいないのか。届いてはいるか気にかけていないだけなのか。
ともあれランスがどれだけ呼んでも、空に浮かぶ巨大な生物の様子に変化は見られない。魔王ククルククルは世界の支配者の如く悠然と空を漂っている。
「くそ、こうなったら……!」
一方でこちらだって魔王。桁違いなのはお互い様。
埒が明かないと感じたランスは両手に力を貯めて、膝をぐぐっと曲げて。
「ひっさーっつ!!!」
全身のバネを生かしてぴょーん、と跳躍。
高々と飛び上がって、その勢いを乗せたまま両手を振り下ろした。
「ジャーンピングー、魔王アターーーック!!」
衝撃波は、飛ぶ。
より正確に言うならば、ランスのランスアタックは破壊力を推進力に変えて直進する。
故に飛ばせる。それがランスアタックの数十倍の威力ともなる魔王アタックであれば、それが剣LV3であれば、その軌道を斜め上方に向けて放つ事で対空必殺技へと姿を変える。
「いけー! ぶっ飛ばせー!」
放たれた衝撃波が空を切り裂いて邁進する。
ほぼアドリブで繰り出した技だったが狙い通り、それはククルククルの巨体に噛みつかんとする。
「………………」
すると──
「………………」
遥か上空を浮遊していた、ククルククルは。
「………………?」
ズバッっと、無数にある触手の一本を深々と切り裂く衝撃を感知した。
「………………」
ダメージは大した事はない。この程度の傷だったら修復可能。
「………………」
しかし──地上から、攻撃された。
ドラゴンの襲撃か。そう感じて、しかし続けざまの攻撃が無い事に違和感を覚えた。
先程から奴らの気配は感じている。しかし奴らは彼我の戦力差を理解しているので一体だけで仕掛けてくる事はまず無い。挑んでくる時は必ず100体以上の大群で向かってくる。
「………………」
加えて、今の攻撃はこれまでに感じた事の無い衝撃。
今までこの身に幾度となく食らってきた宿敵達の攻撃手段、ドラゴンの牙や爪、吐き出すブレスとは痛みの入り方が違う。
「………………」
となれば──これは。新たなる敵性体が、いる。
ドラゴンではないとすると、自分と同じような丸いものか。それともまさか貝か。
いつもパクパクと手当たり次第に食べていたせいで遂に貝達も反旗を翻したか。だとしても全く脅威ではないし問題だとは思わないが──
「………………」
そうと知ったククルククルは地表に向かって一本の触手を伸ばし始めた。
ククルククルはその身体に大小異なる幾つもの触手を生やしている。その触手には各種センサーが備わっていて、あまりに巨大過ぎるククルククルの視覚や聴覚を補助している。
「……………………」
そして、見つけた。
「……お?」
すると──地上にいたランス達の下に。
「なんだ?」
「く、ククルククルの身体から……!」
遥か上空に浮かぶククルククルの本体から。真っ直ぐに影が伸びてくる。
びよーんと一本、横幅5m程の分厚い、それでもククルククルの巨体からしたら細めの触手がランス達のいる地上付近まで伸びてくる。
「んー?」
なんだこれ、と訝しむランスの目の先。
その触手が、一度大きく弧を描くように持ち上げられて。
「ぐへーーーっ!」
べちーんっ!
と、ランスは思いっきり引っ叩かれた。
「ら、ランスー!?」
「ぐ、ぐぐぐ……!」
そして吹っ飛んだ。まるでギャグみたいな攻撃を受けてギャグみたいに吹っ飛んだ魔王ランスだったが、されどそのダメージは。
歴代最強の魔王ククルククルの一撃。それは山を抉って地形を変える程の一撃、決してギャグで済ませられるような破壊力ではない。
「こ、この野郎……!」
痛む身体を起こして、上空をキッと睨むランスだったが、しかし。
「…………(すーっ)」
「あ、おい!」
その一発だけで満足したのか、ククルククルの触手はしゅるしゅると上空に戻っていく。
「テメェ、待ちやがれ!!」
やられたままでなるものかと、ランスは再度剣を掲げて対空魔王アタックをぶちかます。
「………………」
直撃。その破壊力に触手の先端が消し飛んだ。
すると──
「ぐへーーーっ!!」
「ランスー!?」
どこからともなく伸びてきていた別の触手が、べちーんっ! と。
魔王ランスはまたギャグみたいに吹っ飛ばされた。
「ぐ、ぐぬぬ……いだい。これ、でたらめな攻撃にしてはすげー痛い……!」
「だーから言ったんだ! ククルククルとやりあうなんて無謀もいい所だって……!」
ククルククルは最強の魔王。その領域にはどの魔王だって及んでいない。それは歴代の魔王全員に仕えた経験のあるケイブリスだからこそ断言出来る。
そしてそれは魔王だけに留まらず、この魔王が支配していたこの時代そのものについても。世界の隅から隅まで、今の世界よりも遥かに過酷な事を知っていた。
「それよりもランス、早くここから逃げるぞ!」
「はぁ? 逃げるって、なんで──」
「ここはヤベェんだよ! ククルククルがあんだけの触手を出してるって事は臨戦態勢なんだ! てことはつまり──!」
この時代の殺伐とした空気、この時代の姿を深く理解しているケイブリスにはすぐに分かった。
この状態は。きっと今、この周囲には──
『──ッ、ゴガアアァァァアア!!』
「き、きたーー!!」
「な、なんだぁ!?」
突如聞こえてきた怒号、先触れのような咆哮を合図にして。
『グガガァァーー!!』
「きゃー!!」
「ど、ドラゴン!?」
姿を見せたのは最強の古代種ドラゴン。
それもランスがぎょっとする程の数が。至る所からドラゴンの群れがわらわらと。
それまで何処に隠れていたのか、攻撃開始の合図を受けて一斉に現われたドラゴン達は地を駆けて飛び立ち、空を一直線に飛翔して、そのまま──
『グゥウ、グァアアッ!!』
その触手に、巨大な本体に食らい付く。爪牙やブレスを畳みかける。
「………………」
対してククルククルも黙ってはいない。
その触手が縦横無尽に暴れ回り、纏わりつくドラゴン達の強靭な身体を潰していく。
「なんだこれ……? ドラゴンとククルククルが……戦ってんのか?」
魔王とメインプレイヤーの果てなき戦い。その光景が遥か1000年以上も続く──Kukuの世界。
この時代、魔王ククルククルとドラゴン達は終わりなき闘争の日々を繰り広げていた。
飛び交うドラゴンの群れ、吐き出されるブレス。鳴り響く咆哮。それがこの世界の日常。
「ひ、ひぃぃ……! あ、あの頃と全く同じ……あ、悪夢だぁ……!」
そんな中で、小さなリスも懸命に生きていたりする。
一世代前のメインプレイヤー、丸いものから派生して生まれたリスはとても弱く、ドラゴンなどに見つかったら一貫の終わりである。
だから巣穴を掘って、その中で息を殺して身を潜め続ける。それが当時のケイブリスの生き方。
「ひゃーー!!」
するとドスンッ! と、力を失った一頭のドラゴンがケイブリスのほど近くに落下した。
落下の衝撃とは異なる力でその全身がひしゃげており、すでにこと切れているのは明らか。どうやらククルククルの触手の一本に捕まり絞め殺されたらしい。
小さなリスが逆立ちしたって勝てっこないドラゴン。そんなドラゴン達をまとめて100頭単位で相手にしてもビクともしない、それが最強の魔王たるククルククルが誇る圧倒的な実力。
「だ、駄目だここは、ここはヤバい……ランス、巻き込まれないように逃げるぞ!!」
「逃げる? なんでだ」
「バッカお前あの戦いを見ろよ! こんな怖ぇところに居られねぇだろ!」
衝突する力と力。魔王とドラゴン。怖い。とても怖い。
こんな戦場にいては小さなリスなんてあっという間に死んでしまう。怖すぎる。
「特に今はこの周辺一帯にドラゴンがどれだけいるか……! 考えただけで恐ろしい……!」
「いや別に。俺様ドラゴンなんか怖くねーし」
「俺は怖ぇーんだよ!! 今の俺がどんだけ弱いと思ってんだ!!」
「知るか。んなこと偉そうに宣言すんな。それにこの状況はチャンスだろう」
一方でランスの思考は機を捉えていた。敵の敵は味方とまでは言わないものの、ああして戦っているドラゴン共は囮に使えると思った。
ククルククルの目が大勢のドラゴンに向いている状況は自分が動きやすい。火事場泥棒上等なランスとしてはこういった乱戦はお手の物である。
「とは言っても近付かなければ話にならん。となれば……これもドラゴンだな、俺様でも乗れそうなドラゴンを探して乗せてもらおう」
「バカ、よせよせ! この時代でドラゴンを利用するなんて絶対に痛い目を見るだけだ!」
この時代はドラゴンの時代。現代のドラゴンとは比べ物にならない程に頭数が多く、その数の暴力は最終的に最強の魔王だったククルククルをも地に堕とす程。
そんな光景も見てきたケイブリスとしてはドラゴンを利用するなんて気が気でないのだが。
「飛べるドラゴンじゃないと駄目だよな……どっかに居ないかなーっと、ドラゴンちゃんやーい」
されども魔王ランスにとって今更ドラゴンなどビビるような存在ではない。
魔王から見たら所詮は雑魚モンスター。上手く乗り物に使えそうな奴がいないかなーと呟きながらランスはずいずい先へ進んでいってしまう。
「お、おい待てって! ランス──」
その後ろをおっかなびっくり追い掛けていたケイブリスだったが──
──その時。
「……グルル」
「ん?」
低い、呻き声が。
いやな、嫌な予感と共にケイブリスの耳に入る。
「……あ」
ちらっと、そちらを向いた。
そこには、岩の影から覗く、赤い瞳。
舌なめずりする、音。
「は、はわわ……!」
そこにいたのは──ドラゴン。
空を飛ぶ翼を持たない為ククルククルとの戦いに参加出来ないらしい一頭のドラゴンが、小さなリスを標的に捉えていた。
「グルルル……!」
「ぴ、ぴぎぃ……」
獲物を見つけて恐ろしげに喉を鳴らす捕食者。
その唸りに、その睨みに、まるで石にされたが如くケイブリスはぴくりとも動けない。
これは──そう。これは六千年前のあの世界と全く同じ、全く同じ地獄の味。
あの頃、自分は魔人になったとはいえ最弱の域を出ず、一日一日を生き延びるのに必死だった。
小さき身体、小さきリス。ドラゴンの世界。ここはあの時の世界のまま。小さなリスなんてふとした拍子に死んでしまうような世界。
それなのに自分は、あの頃のように隠れ潜んで息を殺して生を繋ぐ事を怠ってしまった。
(あぁ、死んだな、これ)
だから、死ぬ。
すでに諦めたのか、投げやりになった思考でそんな事を考える。
(あぁ、俺は結局なんにも変わっちゃいな──)
そして、その鋭いかぎ爪の生えた前足が。持ち上がって、振り下ろされる。
ケイブリスにはその瞬間がスローモーションのように見えて──
「ガァッ!!」
「ぐわ────っ!」
引き裂かれた。巨大な前足の一撃。
その一撃だけで終わりを迎える、弱きリスにはそれが分かっていた。
しかし。
「──はっ!? あれ? 生きてる!?」
反動で吹き飛ばされて、地面を転がったのち、ケイブリスは自分がまだ生きている事に気付いた。
いやそれどころかちっとも痛くない。即死確実だと感じた一撃で全くダメージを受けていない。
全てのダメージを無効にする、これは。
「そ、そうか!! 無敵結界!!」
あの頃とは違って、今のケイブリスにはそれがある──魔人を守る極めて強力な力、無敵結界。
「そうだそうだった! 今の俺様にはこれがあるんだ!! ありがとう無敵結界!!」
それは6000年前の時代の魔人には無かったもの。当時と今の大きな違い。
当時の姿で当時の世界に舞い戻った為、当時のトラウマをそのまま発症してしまっていたケイブリスだったが、しかし当時と今は別物なのである。
「もうあの時とは違う!! これさえあればドラゴンなんか怖くない!!」
最弱に戻ってしまった今の自分ではドラゴンを倒す事は出来ないだろう。
それでもだ。無敵結界がある以上は自分が殺される事もないわけで──
「……グルァ」
パクっ。
「あ」
ドラゴンは大きく口を開けて、一口。
無敵結界の上から丸ごと、小さなリスはぱくりと食べられてしまった。
「グァウ」
そうして、腹を満たしたドラゴンは満足げに去っていく。
「なーにやってんだあいつは……」
そんな光景を、魔王ランスは大層呆れた目で眺めていた。
──そして。
「つーか!!」
小さなリスが叫ぶ。
「つーかよぉ!!」
「なんだ」
「どうして助けてくれねーんだよ!! 俺が食われた瞬間を見てただろーが!!!」
ケイブリスは頑張った。頑張って頑張ってドラゴンの胃袋の中から逃れ出た。
幸い無敵結界のおかげでドラゴンの胃液に晒されても消化されるような事は無かった。ケイブリスは我が身に無敵結界を齎してくれた魔王スラルに感謝の祈りを捧げたい気分になった。
「バカ者め。なんでこの俺様がお前如きを助けてやらなくちゃならんのだ」
「俺はお助けキャラだろうが!! 助けろよ!!」
「お前、お助けキャラの意味を分かってねーだろ」
無論ながら魔王が助けてくれるような事は無く。
ランスにとってケイブリスは死のうが生きようがどうでもいい存在。どうでもいいからこそ生存を許されているとも言えるのだが、どうでもいい奴の扱いに関してランスはシビアである。
「あぁぁあ……やっぱり駄目だ、この世界の空気がもう俺様には駄目なんだ。いくら無敵結界があるとはいえ、こんな物騒過ぎる世界に留まっていたら頭がおかしくなっちまう……元の世界に帰りたい!!」
「その点については俺様も同意だ。とっとと元の世界に戻りたい。……が」
言いながらランスは空の彼方を見つめる。
ケイブリスがドラゴンとじゃれあっている間に移動したのか、先程まで上空付近を漂っていた巨大な影が今では握り拳大の大きさに見える程に遠ざかっていた。
それでも異様な存在感。歴代最強と謡われる者の圧倒的な威圧感。
「どうしたもんか……あれは」
魔王ククルククルを倒さない限り、元の世界に戻る方法は無い。
ケイブリスに言われるまでもなく、ランスもその難易度を肌で感じ取っていた。