ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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VS 魔王ククルククル⑥

 

 

 

 

 かつてのケイブリスにとって、それは仰ぎ見るだけの存在だった。

 そして──今。

 

「おーい、おーい!」

 

 懸命に走っていたケイブリスの目の前に。

 

「お……」

 

 先程からの呼び掛けが届いたのか。

 上空よりうにょーんと差し出された触手。乗れという意味だろうか。

 

「ククルククル……」

 

 かつての魔王。今も変わらぬ遠い目標……なのだが。

 あるいはだからこそか、ケイブリスとしてはこの世界に舞い戻ったとてククルククルに会いたいとか思っていた訳ではない。今再びククルククルと相対したとて、正直何をすればいいのかも分からない。

 それ故ほんの少しだけ躊躇したが、とはいえ魔王ククルククル手ずからの招待。無下にするのもそれはそれで気が引けてしまうので、厚意に甘える形で触手の上に乗る。

 

「……デケェなぁ、相変わらず」

 

 ケイブリスを乗せた触手が上昇していく。ククルククルの本体に近付いていく。

 するとよく分かる。ケイブリスが目一杯見上げても尚、全てを捉えられない程に大きな姿。

 小さな自分とはこれ以上無いぐらいに対照的な姿、最も分かりやすい最強の証明。

 

「………………」

 

 そんなククルククルが、目の前にいる。

 六千年前と何一つ変わらない姿で今、ケイブリスの目の前にある。

 

「これが……これが元々は丸いものだっつうんだからな、ほんと信じられねぇ話だ」

 

 ククルククルは丸いもの。最も初期に、最も単純に作られた第一世代メインプレイヤー。

 そしてケイブリスはリス。リスというのは『丸いもの』から枝分かれして誕生した種族に当たる。

 同一種とは呼べないものの種族的にはとても近しく、その意味でククルククルとケイブリスには共通項がある。少なくともドラゴン種や貝などに比べれば遥かに近い立ち位置にいる。

 

「本当に……何一つ似ちゃいねぇ」

 

 しかし。かつてのケイブリスにとって、それは仰ぎ見るだけの存在。

 だから自分とあのククルククルが近い存在だと、そう感じた事はこれまで一度たりとも無い。

 

 自分が生まれたその時から、ククルククルはこの世界に君臨する魔王だった。

 空を覆い尽くすこの世で最も巨大な存在だった。数多のドラゴンを殺し尽くす最強の象徴だった。

 たとえ種族的に近いからといって、そのような桁外れな存在と矮小な自分を近しく感じられるはずもない。むしろその逆でケイブリスにとってククルククルとは、何よりも大きくて何よりも遠い存在、この世界を支配する魔王だった。

 

「そもそもが俺はリスだからな。まるとは違う」

 

 そうした理由からか、ケイブリスはククルククルの意思や意図といったものを明確に感じ取った経験が無い。魔人になってから一番最初に魔王として仰ぎ見た時からずっと。

 あまりに遠すぎる存在故に、その思考や思惑が分からない。感覚としては一生物ではなくて自然現象や災害と接している感じに近い。

 

「………………」

 

 魔王ククルククルが、その触手で小さな自分を拾い上げる。

 最初にそうして貰った時からずっと、そこにあるのは完全な沈黙のみ。

 

「俺はまるじゃねぇんだって。分からねぇ、分かんねぇよ」

 

 だからケイブリスには分からない。分からなかった。

 ククルククルの考えが。魔王の意思が。自分を魔人にした理由も。何もかも。

 

「………………」

 

 ククルククルは『丸いもの』であり、丸いものの殆どは言語機能を持たない。

 特にこのKuku歴に存在している丸いものは進化の段階を全く踏んでいない原種の「まる」であり、球体に目があるだけの丸いものは言語機能どころか音声を発する口部すら有していない。

 しかし意思疎通が行えない訳ではなくて、実際丸いものの多くは集落を作って共同生活を送っている。丸いもの同士であれば身動きで、転がったり飛び跳ねたりで意思疎通を図りコミュニケーションを取る事が出来る。

 

 一方でケイブリスは。ケイブリスは『丸いもの』の中でもその進化種となるリス。

 リスには口部があって声を発する事が出来る。なのでリスは身動きではなく鳴き声や言語を使用して意思疎通を図る。

 それがリスなので、言語を有しない原種の丸いもの達と意思疎通を図るのは困難。同じ『丸いもの』でも『まる』と『リス』は生態が大きく異なるのである。

 

「………………」

 

 そもそもククルククルは元々丸いものとはいえ、その生態は丸いものと大きく乖離している。

 4.7kmとなったその巨体では丸いもの本来の飛んだり跳ねたりでコミュニケーションを取る事は出来ず、しかし元々の丸いもの同様に口部や言語機能を持つ訳でも無い。

 なのでククルククルは意思疎通手段を持たず、コミュニケーションを取るのがとても難しい存在。

 

「………………」

 

 とはいえククルククルはこの世界における魔王、唯一にして孤高の存在で。

 なのでそもそも意思疎通を必要としない。出来ないからと言って困った事は無い。

 ククルククルはどんな時も気ままに生きている。同族の丸いもの達が何を訴えかけてこようとも、ドラゴン達がギャアギャア吠えていようとも、ククルククルにとってはどうでもいい事なのである。

 

「………………」

「ククルククル……」

 

 しかし、ケイブリスは。

 そんなククルククルによって、その意思によって生み出された魔人で。

 

「………………」

 

 かつてのケイブリスにとって、それは仰ぎ見るだけの存在。その意思を読み取る事は出来なかった。

 それでいいと思っていたし、それが当然だとも思っていた。相手は生物を越えた自然災害のような超巨大生物、そもそもコミュニケーションを取れるような相手には思えなかった。

 ククルククル側から何かを命じられたり要求されたりする事も無くて、そうした経緯からケイブリスはククルククルと意思疎通を図った事が無い。ただ相手の思惑を当時のケイブリスなりに想像する事しか出来なかった。

 

 ──しかし。

 

 

「……あぁ、分かる。分かるぜ」

 

 今ならば分かる。分かった。

 それはただのリスだった当時とは違う、紛れもなくケイブリスの成長。

 

「大昔のあの頃よりも……お前の言いたい事がよく分かる」

 

 何故ならケイブリスは、この六千年間をそうやって生きていたから。

 ケイブリスは最弱の魔人だった。自分より強い相手は自分の周囲にいくらでもいた。戦った所で絶対に勝てない、負ける、殺される。

 だから警戒する。そういう強い相手には決して逆らわずに、相手の機嫌を、顔色を伺って下手に出る。そうしなければ生き延びる事が出来なかった。

 

「我ながらろくでもねぇ生き方だがな、全くの無駄ってわけでもねぇもんだ」

 

 ククルククルの次の魔王はドラゴンであり、その次の魔王は新しく誕生した第三世代メインプレイヤーである人間。

 種族の異なる魔王相手でもその意思を的確に読み取り、こちらの服従を示す事で命を保証して貰う。そんな生き方を数千年単位で繰り返してきた今のケイブリスは相手の意思を読み取る能力、言わば観察力がずば抜けて発達している。

 

「………………」

 

 ククルククルのような最強の存在に憧れて。

 それでも最弱だったケイブリスは弱者なりに生き延びる為、周りの全てを警戒して夜も眠らずに生きてきた。

 そうやってケイブリスは、最強の魔王ククルククルの三倍も長生きしてきた。

 

「………………」

「……ククルククル」

 

 だからこそ。分かる。

 あの頃とは違う、今のケイブリスにならそれが分かる。

 言語機能を有しない魔王ククルククルでも、その意思は──

 

「………………」(あ、ケイブリスだー、という顔)

 

 を、している事が、今のケイブリスには分かるのである。

 

「お、おう……久しぶりだな、ククルククル」

「………………」(そうだね、久しぶりー、という顔)

「あぁ、本当に……久しぶりだよな」

 

 触手に乗せられて辿り着いた上空、その巨大な生物と目線があった、ような気がする。

 こうやって魔王ククルククルと、久しぶりに再会した挨拶を交わす。それは初めての経験。

 あるいは当時からククルククル側はそうした意思を発していたのかもしれないが、当時はまだ観察力が未熟だったケイブリスにはそれを読み取る事が出来なかった。

 

「なんだ、こうして見りゃあ結構分かりやすいもんじゃねぇか」

「………………」(分かりやすいって、なにが? と尋ねる顔)

「なにってそりゃ、そうやってる事がだ」

 

 ククルククルは言語機能を有しない。とはいえ生きて思考をしている生物ではある訳で、そうした思考に基づき行動や動作が行われている以上そこから読み取れるものがある。

 例えば、よく見れば触手の一本を楽しそうに揺らしている。そこから今の機嫌が伺える。そしてケイブリスレベルの観察力があれば、もはや喋らなくても会話が行えるのである。 

 

「けれどもあの頃は、俺が……このデカさに圧倒されちまってたんだろうな」

 

 しかし、当時のケイブリスにはそれが出来なかった。

 だからこれは初めての事。六千年経って初めて、ククルククルとの意思疎通が可能になった。

 

「………………」(ところでケイブリス、なんでこんなところにいるの? と不思議がる顔)

「え?」

「………………」(だって、とっても臆病なケイブリスがこんな危険な場所に出てくるなんて珍しいじゃん。なにしてたの? と尋ねるような顔)

「あ、あぁ、そういう事か。えーと、なんて説明すっかな……」

 

 返答に困る。どのように事情を説明すべきか。超・挑戦モードとかいう訳の分からないものに巻き込まれたんだーと説明してククルククルは理解してくれるだろうか。

 そもそも今ここにいる自分はククルククルが知っている自分そのものではない。ククルククルは気ままな性格なのであまり細かい所は気にしていないようだが、今ここにいる自分は六千年後の未来から来た自分。まずはそれを説明する必要がある。

 

「……つまり、かくかくしかじかで」

「………………」(ふむふむ、ほうほう、と相槌を打つ顔)

「……つー訳で、今ここにいる俺はお前が知っているケイブリスとは違うんだよ」

「………………」(違う? と疑問形な顔)

「あぁ」

 

 Kukuの世界を生きるククルククルからすれば。

 RAの世界から来たこのケイブリスは遥か未来の住人という事になる。

 

「なんと六千年も先だ。ビックリだろ」

「………………」(え? 六千年? とちょっと驚きな顔)

「あぁそうだ。俺は六千年も生きたんだ。だから今となっては俺の方がお前よりも年上なんだぜ」

 

 約六千年。それがケイブリスの歩み。

 

「………………」(へぇー、そっかー、六千年かー、と遠くを眺めて物思いに耽るような顔)

 

 一方でこの時のククルククルは千年とちょっと。六千年には遠く及ばない。

 

「………………」(……ううーん、となんだか微妙な顔)

 

 すると、今のケイブリスにだけ読み取れるククルククルの表情が。

 何か憐れむような、あるいは何処かガッカリしたような表情に変化して。

 

「………………」(なんか六千年も生きたわりには全然強くなってないなー、と言いたげな顔)

「ち、違う! 違ぇんだよ! 一度はすげー強くなったんだ! 今とは比べ物になんねぇくらいに強くなって、それこそ魔人の中では断トツ最強にまで上り詰めたんだって!!」

「………………」(えぇー、うっそだー、だって六千年も生きたにしては私が知っているケイブリスと同じで小さいままじゃん、と言いたげな顔)

「本当だって! 本当に超強かったんだけど、ただ……一回だけ、死んじまって。それで……元に戻っちまったっつうか……」

 

 魔人は魔血魂が初期化されなければ死んだとしても復活出来る。そして復活の際には多少なりとも力を落とす事があるものの、魔人になりたての初期状態にまで戻る事は無い。

 なので自分がここまで弱くなってしまったのは何かのバグ、魔王ランスの嫌がらせなのではとケイブリスは疑っているのだが、とはいえ命あっての物種なので文句は言えない。

 

「本当はもっとビッグな俺様だったんだ。まぁさすがにお前程大きくなっちゃいねぇけどよ……」

「………………」(ケイブリスは少食だから大きくなれないんだよ。もっと私みたいに普段から貝をパクパク食べた方がいいよ、とアドバイスしてくれる顔)

「あのなぁ、こっちはお前と違ってクソ雑魚なリスなんだよ。この当時は貝相手だって数体に囲まれようもんならあっけなく負けちまうぐらいで……って、んなことはどうでもいいんだ」

 

 先程からケイブリスがククルククルを追い掛けていたのには訳がある。

 今はとにかくあいつをどうにかしなくてはいけない。すると、

 

「うがー!! うがががーーー!!!」

 

 と、ちょうどよく下方からランスの雄叫びが。

 

「ウキー!! ウキキーー!! セックスセックスーーー!!!」

「………………」(ところでケイブリス、これ、なにか知ってる? と尋ねる顔)

「それは……」

 

 やはり聞かれる。あいつについての説明を省く事は出来ない。

 しかし説明し辛い。ククルククルと同格の存在がもう一人いるというだけでも事が事なのに、ランスのパーソナルな部分も加えて、結果的にこうした状況になってしまった全てが説明し辛い。

 

「そういやククルククルは人間すら見た事ないんだもんな。あれは人間っつう生き物でよ」

「………………」(へぇ、人間って言うんだ。随分と気色の悪い生き物なんだね。と率直な感想を述べる顔)

「んで、あいつはランスっつって……俺と一緒に未来から来た。六千年先の魔王なんだ」

「………………」(え? あれ、魔王なの? と驚き顔)

「あぁそうだ。今の俺にとってはあいつが今の魔王なんだ」

「………………」(へぇ~……、という顔)

 

 魔王。これが魔王。六千年後の魔王。

 さすがのククルククルもさっきまで戦っていた不気味な生き物が遠い未来の魔王だとは想像していなかったらしい。

 というかククルククルは初代の魔王である為、自分の死後に魔王という役職が次代に引き継がれていくものだとも知らなかったようだ。

 

「………………」(えー? でも本当にこれが魔王? あまりにも小さすぎない? と疑う顔)

「人間としてはそれで一般的な大きさなんだけどな。つーか大きさはあいつが小さいんじゃなくてお前がデカすぎるんだよ」

「………………」(でもそっか、魔王か。通りで何度も叩いたり握り締めたりしても中々死なないなーと思った。と納得顔)

「お、おぉ……」

 

 何度も叩いたり握り締めたり。ランスを追い掛ける最中、ケイブリスは遠巻きながらにその戦いを目撃していたのだが、改めてあのランスとククルククルが戦っていたのだと実感する。

 数多の触手や大爆発、果てはククルククルの巨大な全身全てを使用してのブチかましなど、規模が違い過ぎてこの世の光景とは思えなかったそれも魔王同士が戦うとなるとそうなるのか。

 

「おんなー!! おおおおおんなーーーー!! セックスさせろーー!!!」

「………………」(ところでケイブリス。これが魔王だってのは分かったんだけど、こいつは一体何がしたいの? なんで私に攻撃してくるの? と尋ねる顔)

「そ、それは……」

 

 ケイブリスは閉口する。説明し辛い事この上ない。

 ククルククルが不思議に思うのも無理はない。それはどの時代にあっても異常、何処の誰が見ても奇行としか表現出来ないものである。

 

「なんつーか、まぁ……要するに、あいつにとっては、その……お前に生えている触手の内の一本が……好みっつーか、欲情するっつーか」

「………………」(は? 触手? と思ってもみなかった話にきょとんとする顔)

「あぁ。さっきも言ったけどあいつは人間っつー種族で、お前が知らなかったようにこの世界にはあいつ以外の人間がいないんだ。そんな中で唯一見つけた好みの女を追っかけてたっつーか、自分のものにしたがってたっつーか」

「………………」(え? と困惑顔)

「要するに……性交をしたがってたっつーか」

「………………」(……え?)

 

 ククルククルは表情を歪ませた。ケイブリスだけには読み取れるぐらいの感じで。

 

「………………」(え、まって? こいつ、私と交尾がしたいの? と不審がる顔)

「……まぁ、うん」

「………………」(いやでもまって、だってこいつって人間とかいう種族なんでしょ? 私は元々丸いものだから、こいつと交尾をしても子供は生まれないしなんの意味も無いと思うんだけど。と本気で不思議がっている顔)

 

 丸いものは子供を成す種族ではあるのだが、丸いものにとって番となるのは当然丸いものである。

 丸いものとドラゴンが生殖行為をしても子供は生まれないように、丸いものと人間が生殖行為をしても子供は生まれない。当然の道理である。

 

「………………」(それなのに、なんで? と疑問が尽きない顔)

「あー、いや……別にランスはガキを作る為にセックスしたがってるわけじゃないから……」

「………………」(え? だったら猶更何のために? とちんぷんかんぷんな顔)

「そこはまぁ……ほら、気持ちよくなれればなんでもいいぜー、みたいな感じで……」

「………………」(……それで、人間でもない丸いものな私を? しかも触手で? と恐々尋ねる顔)

「……うん」

 

 ──あれは人間。あれはランス。

 あれは遠い未来からやって来た魔王で、性欲解消目的で自分は襲われていた、らしい。

 という状況を、ククルククルはようやく理解した。

 

「………………」(……こわっ、とドン引きな顔)

 

 状況を理解しての感想、ククルククルはドン引きだった。

 

「………………」(自分が気持ちよくなる為に誰かを襲うなんてあり得なくない? それでしかも異種姦なんて。ヤバすぎない? とすっごくまともな事を言いたげな顔)

「そ、そうだな……でも……なぁ、ククルククル。これは例えばの話なんだけどよ」

「………………」(なに? と先を促す顔)」

「人間なのに丸いものと交尾したがっている今のそいつみたいに、もしも……もしもリスが、ドラゴンと交尾をしたがっていたら……どう思う?」

「………………」(……え? リスとドラゴンが交尾?)

 

 ククルククルは一瞬沈黙をして。もとい、そういう表情をして。

 

「………………」(いやいやないないそんなの。気持ち悪い。と更にドン引きな顔)

「……そ、そっかー。まぁ、そりゃー……そうだよなー……」

 

 気持ち悪い。そうらしい。なんか予想以上に胸に突き刺さった気がする。

 ククルククルは間違っていない、異種姦に嫌悪感を示すのは生物としては自然な姿。とはいえ長年の夢だったそれをこれまた長年の目標だった相手にドン引きされて、ケイブリスは切なくなってしまったようだ。

 

「………………」(……え、ていうか、リスって……え? あれ? もしかしてケイブリスって……、と疑惑の目)

「ち、ち、ちげーよ! 俺の話じゃねーって! 俺は魔人ケイブリス様だぞ!? ドラゴンなんかとセックス出来るかっての!!」

「………………」(そっか。まぁそりゃそうだよね。異種姦なんて変態のすることだよねー、と言わんばかりな顔)

「そ、そりゃそうだ。そうに決まってんだろ。ははは……」

 

 異種姦は変態のすること、その事実をもっと早く教えて欲しかった。

 あるいはこの時代のこの当時にククルククルからそう言われていたなら。それが自分の中での常識になっていたならカミーラに対して立場違いな想いを向ける事も無かったかも知れない……が。

 とはいえもう全て後の祭り、今更になって性的趣向は変えられないのである。

 

「………………」(分かった。この小さい魔王は変態魔王なんだね。と納得の顔)

「あぁそうだ。そいつは間違いなく変態だ。俺とは違ってな」

「………………」(でもケイブリス、じゃあこいつはどうすればいい? さっきから付きまとわれていて困ってるんだけど。とうんざり顔)

「そうなんだよな……そこが問題でな……」

「………………」(敵視されていたならまだしも、まさかその逆で襲われていたとは思わなかった。嫌悪感がすごい。と異種姦は絶対NGで受け入れられない顔)

「まぁな……」

 

 異種姦云々は置いといても、現在暴走中のランスの事はどうにかする必要がある。こうしてククルククルが困っている姿を見るなどケイブリスの長い人生の中でも初の事。

 しかしどうするか。性欲が爆発してああなっている以上解決には性欲を解消するしかないのだが、仮に何かしらの手段で一時的に解消したとしてもこの世界に女性がいない以上根本的な解決にはならない。

 

「さっきも言ったけどよ、俺とあいつは未来から来ていて……だからその元いた世界に戻る方法があるにはあるんだけど」

 

 根本的解決は元の世界に戻る事。ゲームのルール通りにステージをクリア事である。

 

「………………」(その方法って? と先を促す顔)

「いやそれが……なんつーか、ここにいるボスを倒せっつー話で……」

「………………」(ボス? と首を傾げる顔)

「まぁ要するに~……その、お前を倒したら元の世界に戻れるらしくて……」

「………………」(え、わたしが倒されないといけないの? と問いかける顔)

「あ、あぁ……」

 

 なんとも言えない表情で頷くケイブリス。

 そんな理由で魔王を、特にこのククルククルを倒そうだなんて正気とは思えない。

 最初からムリゲーだったようなもので、この世界に連れてこられた当初からケイブリスはほぼ諦めていた。その挙句にランスも性欲に狂ってしまった。全ての問題は攻略難易度が高すぎたが故。

 

「………………」(じゃあ逆に言うと、私が倒されない限りあいつは私に付きまとってくる? と薄々理解しながらも一応確認する顔)

「あぁ……多分、つーか間違いなくそうだろうな。ランスの目的はお前との交尾だから……」

「………………」(……ぞわわっ、と鳥肌が立った顔)

 

 交尾。あの不気味な生物と。

 この先ずっと、異種姦を目論むあれに付きまとわれる事になる。

 

「………………」

 

 その解決策は。一番分かりやすいのはあれを倒してしまうこと。

 でも聞けばあれは魔王だった。だったら倒すと言っても相当な時間が掛かると思う。

 

「………………」

 

 そしてもう一つが、自分が倒されること。

 そうすれば、あれとここにいるケイブリスは元いた世界に戻るらしい。

 

「………………」

 

 倒される──やられる。やられる?

 ドラゴンにやられるならまだしも、あれにやられるのは絶対に嫌である。

 ──となれば。

 

「………………」

 

 そして。

 ククルククルは。

 

 

「………………」(やーらーれーたー……という顔)」

 

 そういう顔をした。魔王ククルククル渾身の顔芸。

 そしてふらふらよろよろと、空に浮かんでいた高度を下げていって。

 

「お、おお、お……!」

 

 やがて、ズシーンッッ!! と、

 ククルククルの超巨体が大地に落下した。

 

「………………」(やーらーれーたー、まーけーたー……という顔)

「お、おぁ……」

 

 やられた。あの魔王ククルククルが、山脈と見紛うような圧倒的超巨体が地に堕ちた。

 この世の終わりのような光景をケイブリスが目にしたのは、これで人生二度目の事。

 

「………………」(ばたんきゅー……という顔)

「ククルククル……知らなかったぜ、お前って結構ノリが良い性格をしてたんだな……」

 

 最強と恐怖の象徴……ではなく、意外と話せば分かる魔王だったククルククル。

 仰ぎ見るだけではなく、ちゃんと対話してみれば知らない一面が見えてくるものである。

 

「とにかく、これで──」

 

 魔王ククルククルは、倒れた。

 

「……けどなぁ、こんな倒れたフリでどうにかなるかっつうと──」

『はいはーい、おわりおわり―』

「お?」

 

 すると、何処からともかくハニーキングの声が。

 

『パンパカパーン! ステージクリアおめでとー!』

「マジか、これでクリアになるのか」

『まぁ駄目だけど。どう見てもボスを倒したとは言えないけど。でも最初からムリゲーだったし、これ以上時間掛けてもどうにもならなそうだしね。一応倒した扱いという事で、もーいいや、撤収撤収ー』

 

 主催者からしても無理難題を押し付けているという自覚はあったのか。

 今だククルククルはピンピンしているものの、おまけという事でクリア扱いにしてくれるようだ。

 

「………………」(帰るの? という顔)

「あぁ、そうみてぇだな」

「………………」(そっか、ばいばーい。あ、くれぐれもあの生物もきちんと持って帰ってね。ここに置いてっちゃダメだよ。と念を押す顔)

「お、おぉ、分かったって」

 

 ほんの数時間の邂逅だったが、どうやらククルククルは余程それが苦手になったらしい。

 

「ウキ?」

「ほらランス、クリアだってよ」

「ウキキ? ウキャキャ?」

 

 という事で、サルになっている魔王ランスを回収して。

 超・挑戦モード第三ステージはクリア扱いとなった。

 

 

 

 


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