ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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超・挑戦モード⑤

 

 

 

 

 

 所変わって──そこは相変わらずのアメージング城、空中庭園。

 なにもない空間が突如丸く切り取られて、ほわほわーっとした淡い光に包まれて。

 

「──ウキ?」

「おぉ、やった、なんとか無事に帰って来られたぜ……」

「ウッキッキ?」

「やぁやぁ! おっかえりー!!」

 

 その姿が現れる。

 ランスとケイブリス、二人の挑戦者が無事元の世界に帰還した。

 

「という事で……超・挑戦モード、ステージ3──」

「ウキ!?」

 

 すると主催者ハニーキングが喝采の声を上げるよりも早く。

 その男は、いやその獣は慣れ親しんだ世界に漂う大好物の匂いをかぎ取った。

 

「──ウッキャァァァアアアーー!!」

 

 そして駆けていく。目にも止まらぬ一瞬で。

 アメージング城居住区画、そこにあるのは魔王にとって血肉の如しもの。

 要するに、女性である。

 

「……あー」

 

 行ってしまった。これにはハニーキングも呆然。

 Kuku歴という人間がまだ生まれていない世界で耐えに耐えていた結果、理性さえ失った。そんな獣に待てを強いるのは酷、というかそもそも不可能なのである。

 

 という事で、その暫くの後。

 

「ふー、スッキリしたぜ」

 

 手当たり次第食い散らかして、出すもの出してようやくスッキリ出来たランスが戻って来た。

 生命維持活動に必須となるセックスを十分に満たした結果、獣に成り下がっていた脳みそも人間の言語を喋れるぐらいに理性を回復したようだ。 

 

「ちょっとちょっとー、こういうのは進行の流れってもんがあるんだからさー、ちゃんと守ってくれなきゃ困るよー」

「知らん。んなこたどーでもいい」

「まぁいいや。んじゃ改めて、超・挑戦モード、ステージ3クリアおめでとー!!」

 

 そして改めて。どんどんぱふぱふー!! と祝福のファンファーレが鳴り響く。 

 何はともあれランスは超・挑戦モードステージ3をクリアした。超超超巨大な丸いもの、歴代最強と謡われる初代魔王ククルククルを倒したのだ。

 

「ま、倒したのだーとか言ってもねー、本当は倒してないけどねー」

「いいや倒した。どんな相手だろうと俺様に掛かれば楽勝なのだ」

 

 ハニーキングの言う通り、その実態は倒したというより倒れたフリだったのが、それはこれ。

 これまでのステージを踏まえても相手の息の根を完全に止めなければクリアにならないという訳でもないので、結局は運営側の匙加減一つである。

 

「俺様の最強の一撃が、あのデカブツを真っ二つに叩き斬って──ぬ? あれ? 叩き斬ったんだっけ?」

「いやだから倒してないって」

「つーか……うぬぬ? なんか途中からなーんにも記憶がないのだが。どうやってクリアしたんだっけ?」

 

 よくよく考えてみれば倒した記憶などなく、こてりと首を傾げる魔王ランス。

 ランスは途中から理性を失っていた為殆ど何も覚えていないらしい。とはいえそんな状態に陥っても、あるいはそんな状態だったからこそ結果的に魔王ククルククルに対して多大な精神的ストレスを与える事には成功していた。

 それによって面倒だと感じたククルククルが倒れたフリに付き合ってくれた一面もあるので、そういう意味では健闘していたと言えるかもしれない。

 

「本当に、本当にあのまま一生あの世界から帰れねぇんじゃねぇかとひやひやしたぜ……」

 

 そう語るのは協力者に選ばれていた魔人ケイブリス。彼は約6000年ぶりに自分を生み出した魔王ククルククルと再会する事となった。

 当時は恐れ多く崇めるような目で見ていた相手と初めてちゃんと話してみて分かったが、ククルククルは意外とフレンドリーな性格をしていた。6000千年経っての新発見である。

 

「魔王ククルククルは耐久力が桁違いだからねー。それでも10年ぐらい頑張ればなんとかなるんじゃないかなーって思ってたんだけど」

「10年って……」

「んなこと誰がするか。あんな色気も面白みもねぇ世界で10年なんか──ぬ?」

 

 とそこでランスはピーンと来た。

 すると即座に剣を引き抜いて、

 

「思い出したぞ!! やいクソハニワめ!! 死にやがれーーー!!」

 

 ドバーンッ! と魔王アタック。

 

「きゃー」

 

 衝撃波に呑まれてハニーキングはぴゅーと吹っ飛んだ。

 

「おいおい、いきなり何をするのさ、危ないなぁ」

 

 ぴゅーと吹っ飛んだが、すぐに戻って来た。

 魔王必殺の一撃を食らってもハニーキングはピンピンしている。ここら辺はキングのキングたる所以である。

 

「やいテメェ! この俺様をよりにもよって女がいない世界に送り込みやがって!! ケンカ売ってんのか! そうなんだな!?」

「いやいや別にそういう訳じゃないけど。たまたまっていうかー、歴史の必然っていうかー」

「危うくボス退治とは全然関係ない所で死に掛けたじゃねぇか!! どうしてくれる!!」

「いやぁそもそもがだね、この挑戦モードってのは戦闘だけでエロシーンとかは用意されてないモードだからね。そこの文句を私に言われても──」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねー!!」

「きゃー」

 

 ランスはまたまた魔王アタック。夥しい衝撃波の圧に呑まれてまたまた吹っ飛ぶハニーキング。

 エロを取り上げられた世界では生きていく事など不可能。ランスにとって女性がいない世界とはそういうもので、今回はそういう目に合わされたのである。当然ながら怒り心頭である。

 

「わ、分かった分かった。じゃあ次からはそういう事は起きないように善処するから」

 

 その怒りに押されてハニーキングも折れた。

 挑戦モードは本来エロとは無縁の硬派なモードなのだが、それでも次からは斟酌してくれるらしい。

 

「俺様の往く先に女在り、これは絶対のルールなのだ。これまでも、これからもな」

「ただ女がいねぇってだけで大変だったんだぜ……正直あのククルククルよりもそっちが大変だった」

「いやいや大変だったのはこっちのセリフだよ! 今回の裏で私がどれだけ苦労したか! なんせ当初の予定が最初から──」

「知らん。どーでもいい」

 

 最強の魔王ククルククルのステージ。全てが規格外な相手との戦いはこれまでの常識を超えるもの。

 故に挑戦者のランスやケイブリスは勿論の事、どうやらそれを用意したハニーキングにも相当の苦労があったようだが……ともあれ。

 

「まぁそんな事はどうでもいいや。とにかく大変だったステージ3も終わったという事で!!」

「おう」

「次は超・挑戦モードステージ4!! いよいよ後半戦だね!」

 

 3を終えて、次に待つは4つ目。

 全6ステージからなる超・挑戦モード。前半戦を終えて後半戦の開始である。

 

「という事で、早速だけど4ステージ目のボスを決めて貰うよ!! えぇ? なんだって? そのクジを私に引いて欲しいって?」

「何も言ってないが」

「しょうがないなぁ、それじゃあ今回も私が決めまーす!! てなわけでクジ引きカモーン!!」

 

 カモーン!! の掛け声を合図にして、

 ハニーキングの手元にポンっ! とくじ引き箱が出現。

 

「さぁさぁドキドキターイム! ランス君が次に挑むステージは…………こーれだーっ!」

 

 箱の中に手を突っ込んでかき混ぜて。

 そして、ハニーキングが一枚のクジを掴んだ。

 

 

「……む、むむむっ!」

 

 クジに書かれていたのは──『2』

 

 

「おぉー、2かー2が出るかー。これはまた中々に渋いチョイスだねー」

「今の時点で予言してやる。次のボスもどーせ魔王だろ」

「こらこら、ネタバレしちゃ駄目だよ」

「1を引いて初代の魔王だったからな。2って事は二代目の魔王がボスだぞきっと」

「ちょっとちょっとー、困るってばー」

 

 さすがに繰り返し4回目ともなればランスにも先の展開が予想出来るようだ。

 その言葉通り、第4ステージで待ち受けるボスは第二代目の魔王なのかどうか、果たして。

 

「やいハニワ、次のボスの魔王はボンキュッボンな金髪美人にしやがれ。それならやる気が出る」

「だからー次のボスが誰なのかはまだ秘密なんだってばー。という事で……よいしょー!」

 

 ハニーキングは頭上に掲げた左手を大きく下に振り下ろした。

 するとぐにゅーんと空間が歪んで、人一人通れる大きさの円形のワープゲートが出現。

 

「再び出現、ワープゲートー! このワープゲートに入った瞬間から超・挑戦モード開始だ! 何度も言っているけど以後はステージクリアするかリタイアしない限りはこっちの世界に戻って来られないけど……覚悟はいいかい?」

「次からは女がいなかったら即リタイアするぞ」

「わ、分かった分かったって……次は大丈夫だから」

 

 疑り深い目線にハニーキングはたじたじになりながらも。

 どうにか説得をして、ランスを次なるステージが待つワープゲートに押しやる事に成功した。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「……で、到着した訳なのだが」

 

 という事で、攻略開始。

 毎度のようにワープホールを通過して、辿り着いた先は超・挑戦モード第4ステージとなる世界。

 

「……うーむ」

 

 ランスが降り立った見知らぬ世界。

 毎度の事態に動揺せず、慌てず騒がず周囲を確認。

 

「……ううーむ」

 

 場所は野外だった。時刻は昼頃だろうか、空は明るく肌に当たる風が涼しい。

 少し開けた野原の上、周囲には雑木林が見える、自然の中にある自然の光景である。

 

「……なーんか、怪しい」

 

 そんなありふれた光景から、しかしランスは早々に感じ取った。野性的勘の働きで嗅ぎ取った。

 自然。自然と表現するしかない光景も見慣れたものだが……しかし。

 

「なーんか匂うぞ」

 

 自然と表現すれば聞こえは良いが、その実情はむしろ人工物の見当たらない光景。

 時代が変われば環境も変わる、その時代特有の澄み切った空気の匂いには覚えがあって。どれもこれも全てがさっきまで見ていた光景に似ているように感じるのは気のせいか。

 

「つーかさっきのが1で、ここが2だ。てことはさっきのデカいのの次の世界ってことだよな?」

 

 さっきのデカいの。ランスの記憶には無いがいつの間にか倒していたらしい魔王ククルククル、それが1番のクジだった訳で。

 2番のクジは1の次。その読みが正しければここは魔王ククルククル亡き後の世界という事になる。

 

「で、あの世界には人間の女がいなかった。ってことは──」

 

 ──必然的に、この世界も。

 そう考えてしまうのも無理無い話である。

 

「いや、いやいや待て。まだ結論を出すには早い。とりあえず今回のお助けキャラに──」

 

 恐るべき結論を出すのを後回しにしたランスがそう呟いたその瞬間。

 何度も見た光景、すぐそばの空間がぽっかり丸く切り取られて。

 

「お」

 

 ぐにょーんとワープゲートが出現。

 その中から姿を現したのは──

 

「……む」

「お!」

 

 その姿の一部が見えた瞬間、ランスにはすぐに分かった。

 何故なら世に言う絶世の美女とは、その姿形振舞い息遣いからしてもう違うから。

 ただそこにあるだけでその雰囲気が、纏っているオーラが一般人とは別物なのである。

 

「おぉ!!」

 

 すらりと伸びた手足も、元の種族を思わせる翼も。

 気だるげな表情の奥にある鋭い瞳も、何もかも──美女である。

 

「………………」

「カミーラだ!!」

 

 その名はカミーラ。魔人四天王カミーラ。

 彼女が第四ステージのお助けキャラとして選ばれたようだ。

 

「やったーーー!!! 大当たりだーーーー!!」

 

 これには魔王ランスも諸手を挙げての万々歳。

 これぞ待ち望んでいた相手。第一ステージのお助けキャラだったホーネット以降、剣とかリスとかしょうもないハズレ続きだった、ここに来てようやくの当たりを引いた気分である。

 

「カミーラよ、まさかお前が来るとはな。ちぃとばかし意外だったぞ」

「……あぁ」

「うむ! 相変わらずやる気なさそーだな! だが問題無いぞ、俺様のやる気が出たからな!!」

「……そう」

 

 視線も合わせず、言葉少なく返事を返す。派閥戦争中に再会してからずっと、相も変わらずローテンションな魔人カミーラ。

 とかくランスが絶対的上位者である魔王になって以後、彼女のスタンスは命じられたら渋々従うけど自発的には何もしない、で一貫している。

 となるとお助けキャラとしてはあんまりサポートを望めない相手になるのだが、それでも美女というただ一点だけでテンションが上がったのでランス的にはOKのようだ。

 

「……それで、これから何を?」

「うむ。こうしてお前がここに来た理由を教えてやろう、これは超・挑戦モードっつって──」

「知っている。ここに飛ばされる前に説明は受けた」

「そか。まぁとにかくボスをぶっ飛ばせばクリアっつー簡単なルールなのだが」

 

 ボスを倒す。その為にはボスを発見する必要があって、その為にはボスを知る必要がある。

 毎度の事だが重要なのはこのステージのボスは何者なのか、という事。しかしこれまた毎度の事、ランスにはすでにその予想が付いていた。

 

「で。このステージのボスは魔王だ。これはずっとそうだったからまず間違いない」

「……そう」

「んで。俺様の予想だとな、ここのボスは二代目の魔王なのだ」

「……二代目の魔王、だと?」

 

 ──二代目の魔王。

 ランスがそう発した瞬間、カミーラの眉間に不機嫌そうな皺が寄った。

 

「なんせクジが2番だったからな。このステージのボスはまず間違いなく二代目の魔王、俺様の天才的頭脳がそう言っている」

「………………」

「どうだカミーラ。二代目の魔王、なんか思い当たる奴はいねーか」

「………………」

 

 二代目の魔王。と聞かれて。

 カミーラには、すぐ脳裏に浮かぶ姿がある。

 

「……成る程」

 

 忌々しい事に。未だにその姿は鮮明に思い出せる。

 そしてお助けキャラとして自分が選ばれた理由も察した。輪を掛けて忌々しい。

 

「二代目の魔王、ね。確かに思い当たる相手ならいる」

「おぉ、どんな奴なんだ?」

「名前は……アベル、魔王アベル」

 

 その名を声に出したのは幾星霜ぶりか。

 AV歴を支配していた第二代魔王アベル。カミーラにとって因縁深き魔王。

 

「アベル……」

「あぁ。アベルはあの魔王ククルククルの最期に止めを刺して、その力を継承して魔王となった」

「ほー、あのデカブツを倒したのか。そりゃ強そうだな」

「違う、魔王ククルククルは遍くドラゴン達が総出となって倒した。そうした戦いの末、瀕死のククルククルに偶々止めを刺したのがアベルだっただけだ」

 

 Kuku歴に君臨していた最強の魔王ククルククル。

 しかし最強にも最期は訪れる。長きに渡るドラゴン達との戦いの末、ククルククルは敗れた。

 

 その際、総力戦となった戦場で最後に止めを与えたのがアベルというドラゴンだった。

 巨体から噴き出したククルククルの血を浴びたアベルは魔王の力を継承した。

 そして魔王が誕生した。アベルは時の運によって第二代目の魔王となった。

 

「アベルは少し運が良かっただけ、それ以外は特段優れた点など無いただのドラゴンだ」

「ほーん、そう聞くとなんか弱そうだな」

「事実弱いのだろう。実際アベルは魔王になって50年程度という短さでドラゴン達によって討伐されている」

「50年も掛かったんだったら十分長い気もするが」

「ククルククルの2000年と比較すれば短い方だ」

「なるほど、そりゃ確かに」

 

 魔王となったアベルは元同族であるドラゴン達と対立した、そして戦争が始まった。

 しかしこの時代のドラゴン族は世界の覇者、最強の魔王ククルククルですら潰されるその力を前にしてククルククルより弱いアベルが抗えるはずも無い。

 一個体としても優れるドラゴン族の圧倒的な数の暴力によって、ククルククルと同じようにアベルも討伐された。約50年続いたその戦いは『ラストウォー』と呼ばれた。

 

「そういやククルククルを倒したのがドラゴンのアベルで、そんでそのアベルを倒したのもドラゴンだってんなら三代目の魔王もドラゴンなのか」

「いや……正確に言うならばアベルは倒されていない。ククルククルの時と同じように魔王の力が引き継がれてしまうのを危惧したドラゴン達によって、瀕死のアベルは拘束されて生きたまま幽閉された」

「うわダサ。魔王のくせにしょっぼいな」

「……そうして魔王の脅威は去って、この世界にはドラゴンによる統一国家トロンが建国された」

 

 魔王が封印されて、この世界に外敵はいなくなった。

 ドラゴンとは知性が高く理性的な生き物である為同種族間で無駄な争いをしたりはしない。故に無駄な分断を必要とせず、世界を一つに統一する唯一国家が作られる事となった。

 

 その名はトロン。ドラゴンの時代、ドラゴン王マギーホアを国王とする有史初の統一国家。

 ラストウォーの名の通り、最後の戦争を終えてこの世界から争いは無くなった。

 

「ドラゴンによる統一国家?」

「あぁ、それもすぐに滅んだが」

 

 そうして誕生した争いの無い平和な統一国家は、しかし天からの光によって瞬く間に滅ぼされて。

 その時に存在していたドラゴンも9割以上が死滅する事となった。それによって知性が高く理性的なドラゴンがそれでも同種族間で争う唯一の理由となる存在、カミーラもようやく一定の自由を得る事となった。

 ……とここまでが、魔王アベルが君臨していたAVの時代に起きた主な出来事となる。

 

「ちょっと待て。魔王アベルがやられた後にドラゴンによる統一国家なんてもんが出来るって事は……」

「なんだ?」

「それじゃあやっぱり、やっぱり、今この世界には人間なんか一人もいないって事じゃ……」

 

 今カミーラが話してくれたAV歴の流れにおいて、人間というキーワードは一度も出てきていない。

 となると。ランスが感じた嫌な予感の通り、今のこの世界には──

 

「人間? あぁ、そう言えばそうね。今この世界には人間なんていない」

「……やっぱり」

「人間が生まれてくるのはトロンの崩壊後、ドラゴンの大多数が息絶えてからになる」

 

 カミーラはあっさりと真実を口にした。

 ここのボスは第二代魔王アベル。あくまでその仮定が正しいとする場合、ここは人間が生まれてくる前の時代という事になる。

 

「やっぱり……!」

 

 案の定と言うか何と言うか、やっぱりランスが予想した通りだった。

 この世界には人間がいない、つまりここは第三ステージと同様女性が一人も存在しない世界。

 

「あのハニワめーーッッ!!! 性懲りも無く女のいない世界に俺様を送りやがってーー!!!」

 

 嵌められた。これでは先の第三ステージでの悪夢と同じである。

 こうなるとボスと戦うなどどうでもよくて、探しても探しても女性が一人も見つからない絶望と性欲を解消出来ない苦しみに苛まれ続ける事になる。きっとその姿を見て嘲笑っているのだろう。

 

「ぶっ殺す! 絶対にぶっ殺すーー!!!」

 

 非道な行いに魔王ランスはブチ切れた。なんならこのまま殺戮衝動に飲まれそうな勢いだった。

 一体どうして自分は先のインターバルの時に流してしまったのか。今思えばあの時にちゃんと叩き割っておくべきだった。そうすればこんな二の舞を演じる事には──

 

「──はッッ!!」

 

 とそこでランスは気付いた。

 そしてバッとそちらに振り向く。ここには先の第三ステージとは大きく違う点が一つ。

 

「……なんだ?」

「いや待て、違うぞ! 今回はいる!!」

「いる?」

「あぁそうだ! 今回はここにカミーラがいる!!!」

 

 そこに佇むは魔人カミーラ。言うまでも無く絶世の美女。

 たとえこの世界にはいなくとも、今回はすぐそばにそれがいる。

 

「カミーラがいる!! カミーラがいるぞーーー!!!」

「……一体どうした」

「やったー!! この世界にも癒しがあったー!!!」

 

 これで人間の女性が一人も存在しないこの世界でも性欲解消に困る事は無い。カミーラは人間では無いけどランスは異種姦全然OKなタイプなので何ら問題無し。

 どうやらインターバルでの宣言通りにハニーキングはちゃんと考慮してくれたらしい、お助けキャラ魔人カミーラはまさしくランスの為のお助け要素としてここにいるのである。

 

「あー良かった。やっぱし持つべきものは美女の魔人四天王だな」

「………………」

「考えてみりゃあそもそも第三ステージだってお助けキャラにあのリスが選ばれていた事がおかしかったんだ。あいつが全ての元凶だったんだな」

「……そうかもな」

「そういやここって過去の世界だよな、ならこの世界にいるこの時代のケイブリスを見つけて焼きリスにしてやろう。そしたらなんやかんや上手い事なって現実にいるケイブリスも消滅するかもしれん」

 

 何処かにいるリスが身震いするような物騒な事をランスが考えた、そんな時だった。

 

「うし、んじゃまとりあえずどっかに────ん?」

 

 急に視界の端が赤く光った。ランスは自然とそちらを向く。

 すると煌々と燃える赤が迫る、その奥に潜む姿は逆光が滲んで見えなかった。

 

「なんだ──」

 

 なんだあれ、と言う間も無く。

 それがドラゴンの吐き出すブレスだと認識する間もなく、直撃を食らった。

 瞬間、爆発と共に辺り一面が燃え上がった。

 

「あぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃーーー!!!」

 

 突然の炎である。それも周囲一帯を一瞬で火の海に変える程の圧倒的な火力。

 熱い。とても熱い。ランスは魔王なのでこの程度の炎に焼かれて死ぬことはないが、さりとて痛覚が消失した訳では無いので熱いものは熱いのである。

 

「火事だ火事! シィール! 消火だ消火ー!! ってそうだシィルはいないー!!」

「──ゴアアァァァアアーーッッ!!」

 

 突然の火災にテンパったランスの喚きに混じってドラゴンの咆哮が聞こえた。

 

「──ッ」

 

 カミーラは気付いた。その哮りには覚えがあった。

 思えばこの遠距離からのブレス攻撃での奇襲、これは臆病で狡猾な者の常套手段だった。

 真っ向から戦おうとはせず、遠方から先制奇襲攻撃、その混乱に乗じて一瞬で距離を詰めて──

 

「あークソ! なんなんだいきなり──」

 

 その時、ランスの程近くを黒い影が過ぎ去った。

 

「あぁん?」

 

 夥しい炎と煙に視界が遮られる中、一瞬だけそのシルエットが見えた。

 先程聞こえた咆哮とこの炎からして、恐らくドラゴンだろうと予測は付いた──が。

 

「おいカミーラ、お前水の魔法かなんかでこの炎を……あり?」

 

 しかしそれはほんの一瞬の事。

 遅れて吹き抜けた突風だけを残してランスの視界からそれは消えていた。

 瞬くような黒い巨影が。そして、お助けキャラ魔人カミーラの姿も。

 

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