ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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魔人サテラと彼女の使徒

 

 

 魔物界の中部にあって、ホーネット派の前線拠点となっているサイサイツリーとほぼ横並びの位置にある魔界都市、ビューティツリー。

 

 ケイブリス派の前線拠点となっているその都市内は現在、大勢の魔物兵達が出撃の準備に追われて慌ただしくしている。

 その魔界都市からある程度離れた場所に、まるで人間の少女のような魔人が居た。

 

 魔人ワーグである。

 

 先日ケイブリス派に所属する事となったその魔人は、早速戦いに駆り出される事になった。

 だが彼女は周囲の者を無差別に眠らせてしまうという厄介な体質を有している。その為魔界都市内には立ち入る事を許されず、周りに誰も居ない場所で寂しく待機していた。

 

「……ふぅ」

 

 この先の事を思い、ワーグの口から自然と溜息が漏れる。それを聞いていたのはただ一匹、彼女の隣にはペットとして飼っている夢イルカのラッシーが寄り添っていた。

 退屈しのぎの手慰みにと、ワーグはラッシーのもこもことした白い毛並みを撫でてみる。するとそのペットが口を開いた。

 

「戦いなんてやだよー! 怖い! 逃げたいー!」

「……ラッシー、黙りなさい」

 

 触れた時、そのような弱気な言葉がラッシーの口から出てくるとワーグは気付いていた。けれどその手を止めようとはしなかった。どうせ周囲にそれを聞く者など居ないからだ。

 

「だってー、ワーグは戦いなんて嫌だろー。なら、いっそ逃げちまおうぜー。……でも、逃げるのも怖いよー!」

「ラッシー。……黙って、お願い」

 

 ラッシーのもこもこの身体に額を当て、彼女が深く目を瞑る。

 ワーグは自分の能力を戦いに利用される事を心底嫌っていた。そのような事をしてしまえば、今より更に周りの者は自分を怖れ、今より更に孤独になる事が分かりきっているからだ。

 

(……ラッシーの言う通り、本当は逃げたい。けど……)

 

 あの事の恐怖を思い出し、ワーグは思わず自分の身体を抱き締める。

 彼女は先日、ケイブリス派の主から派閥への勧誘を受けた。だがそれは勧誘と呼ぶより、殆ど脅迫と呼ぶべきものであった。

 

 ワーグは周囲を遠ざける自分の体質を嫌悪していたが、同時にそれによって自分は無敵なのだとも思っていた。

 しかし魔人ケイブリスはその体質が効かない、彼女にとっての天敵と呼べる存在だった。その巨大な拳で殴られ、壁に強く叩きつけられた時、数百年振りに死の恐怖を感じた。

 

 ワーグは極めて強烈な体質と、相手の思想すら変えてしまえる凶悪な能力を有しているが、それ以外の部分では見た目通り普通の少女と何一つ変わりない。普通の少女と同じように、死ぬのはとても怖かった。

 

 そしてケイブリスの暴力に屈服したワーグは、その派閥へ参加する事となって今ここに居る。

 ここで逃げたら間違いなく自分は殺される事になる。儘ならぬ現状を憂い、ワーグの口からはぁ、と再度の溜息が漏れた。

 

 とその時、彼女のそばに一本の矢が刺さった。

 その魔人の周囲に誰一人近づく事が出来ない為、連絡用として使用されている矢文である。そこに書かれていた自分への命令を見たワーグは、首を傾げて呟いた。

 

「……何、この命令。どういう意味?」

「何々? 何だってー?」

 

 

 

 

 

 その日の夜。ワーグは立ち入りを禁止されている魔界都市、ビューティツリーの内部にいた。

 都市内にいる兵達は全員、ワーグの身体から出る特殊なフェロモンにより眠りについている。

 彼女とってはありふれた光景、自分以外動く者のない静かな都市内を歩くことしばらくして。

 

「あそこね」

 

 矢文で指示されていた目的のテントを発見した。

 そっと入り口に手を差し込み、その中の様子を覗いてみる。中ではとある軍を取り仕切る魔物将軍の一人が、すやすやと心地よさそうに眠っていた。

 

(こんな事、本当はしたくないけど……)

 

 責め苦を受けているような辛い表情を浮かべて、ワーグは俯く。

 

 魔人ワーグの有する能力、夢操作。そう聞くと可愛げがあるが、実際は夢を操作する事により、その者の思想や記憶まで操作する事が出来てしまうとても凶悪な能力である。

 彼女が自身の体質以上に嫌悪するその能力を、この魔物将軍に使用する。それが昼間届いた矢文に書かれた命令だった。

 

 同じ派閥内に属している、味方の筈の魔物将軍に対してこの能力を使う意味も、記憶を弄るよう指定された内容にもワーグは理解出来なかったのだが、とはいえやっぱり命令に逆らう事は出来なかった。

 

 ごめんなさい。と、声なき声で謝って、彼女は能力を使用した。

 

 

 

 そして、次の日。

 ケイブリス派の大軍勢は、ホーネット派の前線拠点サイサイツリーに向けて出発した。戦いはもう間近に迫っていた。

 

 魔人ワーグはその軍には同行していなかった。彼女にはすでに別の命令が下されていた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 一方で、所変わって魔王城。

 

 前線に迫る開戦の前兆などどこ吹く風、今日もランスは魔王城で気ままな日々を過ごしていた。

 そして本日の目的は魔人サテラである。廊下を歩くランスはサテラの部屋に向かいながら、つい先日起きた出来事を思い出す。

 

 

(まったくサテラの奴。俺様が気絶している間に、シルキィちゃんもハウゼルちゃんも居なくなってしまったではないか)

 

 魔人ハウゼルに初めて遭遇した先日、サテラの飛び蹴りを食らってランスは気絶した。

 そして彼がノビている間に、二人の魔人は早々に魔王城を出発してしまっていた。

 

 シルキィとは出発前にもう一度抱いておこうと思っていたし、ハウゼルとはようやく会えた事だしベッドの中でもっと親交を深めようと思っていた。

 しかしそんなランスの計画は、サテラの飛び蹴りのせいで全て台無しになってしまった。

 

(この責任はサテラにとってもらう必要があるよな、うむ)

 

 という事で、今日はサテラを抱く事にした。

 

 

 

 

 

「つー訳だサテラ。俺様とセックスをしようじゃないか」

「する訳無いだろう、馬鹿」

 

 魔人サテラの部屋。テーブルの上で粘土をこねこねしていたサテラに対して、部屋を訪れたランスは早速とばかりに要件を切り出した。

 しかし返ってきたのは罵倒一つ、彼女はまるで意に介さなかった。

 

「いい機会だから教えてやる。サテラは魔人。ランス、お前は人間。人間が魔人を抱こうだなんて、恐れ多い事なんだぞ」

「そうは言うがお前、すでに俺様に何度かセックスしているじゃないか」

「う、うるさいっ! あれはその、事故みたいなものだ!!」

 

 以前ハイパービルにて処女を失った時の事を思い出し、サテラの顔が羞恥に染まる。

 初回はともかく二度目の時は半分合意の上のようなものであったが、彼女の中では全て事故扱いだった。

 

 魔人サテラ。彼女は魔人ホーネットの遊び相手として、魔王ガイに連れてこられた少女である。

 その際にホーネットと似た教育を受けた為か、魔人と他の生物間の絶対的な格差を重視している。誇り高き魔人の自分が人間に身体を委ねるなど、彼女にとってあってはならない事。

 

 粘土をこねる手は止めぬまま、ついっとそっぽを向いたサテラはきっぱりと宣言した。

 

「サテラはエッチな事なんてしないぞ。そんなにしたければ一人ですればいい」

「……セックスが一人で出来るか。ぬぅ……あ、そうだ」

 

 どうにかしてサテラを抱く良い方法は無いか。

 そう考えた時、ランスは前にホーネットに言われた事を思い出した。

 

「おいサテラ、俺様はガルティアをホーネット派に引き抜いた功労者だ、そうだな?」

「……みたいだな。それがどうした」

「うむ。俺様はそれはもう多大な働きをした。だから褒美をくれ。お前は俺様の主なんだろう?」

「む」

 

 俺様の主。その台詞にサテラがぴくんと反応する。彼女はランスの主である事に結構なこだわりがあった。

 

「確かにサテラはランスの主だが……、一応聞いてやる、褒美とは何が欲しいんだ?」

「俺様の欲しがる褒美など決まっているだろう。もちろんサテラ自身だ」

 

 サテラはその返答は予測済みであったのか、特に動転する事なくランスを軽く睨みつける。

 

「やっぱりそれか。さっきから言ってるだろう。サテラはそんな事しない」

「ケチくさいぞサテラ。褒美ぐらいくれたっていいだろ」

「ふんだ。だいたい、ランスはサテラの使徒なんだから、サテラの為、ひいてはホーネット様の為に働くのは当たり前だ。当たり前の事をしただけで偉そうにするな」

「こ、こいつ……、ホーネットと似たような事言いやがって……」

 

 派閥の主従として考えも似るのだろうか、ランスとしては全く面白くない。

 何かサテラを抱く良い手段は無いだろうか、そんな事をじっと悩んでいた時、ふいにサテラの表情が真剣なものに変わった。

 

「……ランス。そんな事よりだな、お前に一つ聞きたいことがある」

「聞きたい事?」

「あぁ……その、シルキィの事だ」

 

 前々から内心とても気になっていた事について、サテラは意を決してランスに尋ねる事にした。思わずその手には力が籠もり、形取っていた粘土が拉げる。

 

「その、だな。ランスはシルキィとの約束を果たしたんだよな? という事は、やっぱりもう、シルキィとはその、え、エッチな、こ……!」

 

 声が上擦り、そこから先は言葉に出せず。

 ガルティアがホーネット派に属する事になってから、サテラはそれがずっと気になっていた。

 番裏の砦でランスとシルキィはある約束をしていた。それが達成されたという事は……。

 

「なんだ、そんな事か。勿論セックスしたぞ。もうシルキィは俺様の女だ。がはははははっ!!」

 

 高笑いと共に告げられたランスの返答に、サテラはハッと顔を上げる。その心には稲妻に撃ち抜かれたような衝撃が走っていた。

 

 これまでの二人の様子から、彼女も内心では薄々分かってはいたのだが、遂にランスから断言されてしまった。

 魔人四天王のシルキィが、同じ派閥同士で何かと自分を気にしてくれていたあのシルキィが、自分の使徒であるその男のものになってしまった。

 言葉には言い表しようの無い、複雑な感情がサテラの頭の中をぐるぐると回り、思考が定まらないまま彼女は何とか口を開く。

 

「……ラ、ランス。お前はその、シルキィの事をどう思ってるんだ?」

「ふむ。そうだな、シルキィは真面目だが実は凄いエロい子だと思っている。いつも最初は乗り気では無いのだが、気が高ぶってくるとそのうち自分から動いてきて……」

「わぁ! な、何の話だっ! そういう事じゃなくって、そ、その……もういい!」

 

 思わず二人の官能的なシーンを思い浮かべてしまい、、慌ててぶんぶんと頭を振る。

 そもそもランスがシルキィをどう思っていようが、それが一体何だと言うのか。サテラには自分が何を聞きたいのかがよく分からなかった。

 彼女は一つ深呼吸を置いてどうにか気を落ち着け、そしてランスに向き直る。

 

「と、ともかくだな。ランスはサテラの使徒なのだから、あんまりシルキィに迷惑掛けちゃ駄目だ。そう、それが言いたかったんだ!」

「……けど、サテラはサービス悪いしなぁ」

「使徒と変な事する訳無いだろう! 普通の事だ!!」

 

 魔人と使徒の関係をこの男は勘違いしてるんじゃなかろうか。そんな事を思ったサテラだが、続くランスの言葉に再度雷に打たれたような衝撃を受けた。

 

「でも、シルキィならしてくれそうだし……いっその事、シルキィの使徒の方がいいかもしれん」

「え!!」

 

 サテラは驚愕に目を見開く。それはとてもショックな言葉だった。ランスが自分よりシルキィの使徒である事を望むなど考えたくもなかった。

 

 一方で、先程からサテラとセックスする良い方法はないかと考えていたランスは、そんな彼女の様子を見て思い付いてしまった。

 

(この反応は……。うむ、これだな)

 

 ランスはにやりと笑った。

 

「そーだそーだ、そうしよう。今日からシルキィの使徒になった事にしよーっと!」

「な、そんなの駄目だっ! お前はサテラの……」

「いーやもう決めた。サテラは俺様がホーネット派の為に頑張ったのにまるで褒美をくれんからな。ケチくさい主はもうり懲り懲りだ、シルキィならあーんな事もこーんな事もしてくれるからなぁ!」

 

 もはや話す事など無いとばかりに、ランスはサテラに背を向けた。

 

「あ、ま、待て!!」

「待たーん! シィール、今からシルキィの所に行くぞー!!」

 

 そう言って男はさっさと部屋を出ようとする。このままでは本当にランスがシルキィの使徒になってしまうと思ったサテラは、もはや覚悟を決めるしか無かった。

 

「待ってランス! 分かった、分かったからっ!」

 

 その言葉に、ドアノブに手をかけていたランスの身体がぴたりと止まった。

 

「ほう? 何が分かったって?」

「だ、だからその……、う、うぐぐ~……」

「うぐぐ、じゃ分からん」

 

 羞恥に顔を伏せるサテラはすでに耳まで真っ赤、その大きな瞳も涙目になっていた。

 とても恥ずかしくて言葉にしたくない。けれど言わないとランスが自分の使徒で無くなってしまう。ランスを使徒にするのは彼女の以前からの野望であり、やっと叶ったのに手放したくはなかった。

 

「……し、していい」

「何をだ?」

「サテラにも……その、シルキィにした事と、同じ事、していい」

 

 サテラはなんとかそれだけを口にした。

 聞いたランスはようやくこの魔人を丸め込む事が出来たと、心の中でガッツポーズ。

 

「ほほーう。言ったなサテラ。後からやっぱ無しは駄目だぞ」

「……分かってる。それより、ちゃんと褒美をやるから、ランスはサテラの使徒で構わないよな!?」

「オーケーだとも。がはははは!! いやー、使徒思いの主を持って俺様は幸せ者だなぁ! ……よっと!」

「きゃ!」

 

 サテラの了承を得た途端、ランスは逃さぬとばかりにその華奢な身体を抱き上げると、そのままベッドにぽーいと投げる。

 そして一瞬で服を脱いで素っ裸になると、ベッド上の獲物に覆い被さった。

 

「さーて、敏感肌のサテラちゃんっ! 俺様がシルキィとするセックスは結構ハードだからな。ちゃんと付いて来いよ!」

「ラ、ランス。サテラはその、あれだから、せめてゆっくり……んっ!」

 

 唇がサテラのそれに触れる。それだけで、彼女はどうにかなってしまいそうだった。

 

 

 シルキィにした事と同じ事をしていい。そのようにサテラが言ったので、普段シルキィとするようなフルコースでいこう思ったランスだったが、しかしサテラにはちょっと刺激が強すぎたのか、途中で果てるように気を失ってしまった。

 

 だが、それでもランスは十分満足した。

 

 

 

 

 

 

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