ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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サテラとシルキィ

 

 

 

 

 本日昼日中、ホーネットの部屋ではお茶会が行われた。

 

 サテラとシルキィの肝を冷やすようなホーネットの発言や、彼女のある悩みを打ち明けられたりなどしたお茶会は、その後恙無く終了した。

 久しぶりに穏やかな、それでいて有意義な時間を過ごしたサテラとシルキィは、派閥の主の部屋を退出して廊下を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、あの人は全く……。あんな事、ホーネット様には言わなくていいでしょうに」

 

 はぁ、と大きな溜息を吐いたシルキィ、彼女の脳裏にあるのは先程のお茶会での一幕。

 

 自分はランスと関係を持った、その事を派閥の主に知られてしまっていた。それはホーネットの言う通り自主性に関する事であって、他人にどうこう言われる問題では無いのかもしれない。

 しかしそれにしたって言い方というものがあるだろうと、シルキィは考えずにはいられなかった。

 

「やりまくり、だなんて……。ホーネット様に変な誤解されたらどうするのよ」

 

 先程ホーネットの口からその言葉が出た時、シルキィは背筋が凍る思いがした。

 

 確かに客観的に見たら、そう言われる位には回数を重ねたかもしれない。しかしその全ては自分から求めた訳では無くて、好色家のランスが求めてきたから仕方無く応じた事。自分もその同類のように思われたらたまったものでは無い。

 それでも見識あるホーネットなら、個人の嗜好だからと気に掛けないかもしれないが、決してそういう問題では無いのである。

 

「ねぇサテラ、貴女もそう思……て、あれ。サテラ、どうしたの?」

 

 恐らくは自分と同じ境遇であろう、サテラに話を振ろうとした所で気付く、

 隣を歩いていたその魔人は、いつの間にか立ち止まっていた。そして真下に俯きその目を閉じて拳を震わせている。その姿を一見した所、何かに怒っているように見えた。

 

「……そういえば、シルキィに言わなきゃいけない事があった」

 

 サテラは今の話で思い出した。ここ最近、ホーネットが捕らえられたり救出したりと、色々忙しくてすっかり忘れていたのだが、シルキィと再会したら必ず言ってやろうと決めていた事があった。

 がばっと勢いよくその顔を上げ、その目で仲良しの魔人四天王の事を強く睨みつける。

 

「……サテラ?」

 

 このような強い敵意を向けられるような覚えが無く、気後れするシルキィをよそに、サテラは一度大きく呼吸をした後に大声で叫んだ。

 

 

「……シルキィのエッチッ!! すけべー!!!」

 

 壁まで震わすようなその大声には、その魔人の内心の気恥ずかしさ、それに怒りと言ったものが目一杯に込められていた。

 一方、魔王城の廊下で突然そんな事を叫ばれたシルキィは、寝耳に水の驚きに打たれた。

 

「ちょ、ちょっと待って、それどういう事!?」

「どうもこうもない、サテラは見損なったぞ! シルキィがそんな魔人だったなんて知らなかった!」

 

 気色ばむサテラの怒りの理由は、先程のシルキィの悩みの理由と元は同じもの。

 自分がランスと何度も性行為を重ねていると、ホーネットに知られてしまった事。だがサテラに言わせれば、それは全部シルキィが原因なのである。

 

 彼女は少し前にランスの口車に乗せられた結果、「シルキィにした事と同じ事を自分にしていい」と宣言してしまった。それが根本の原因なのだが、それでも一回二回で済むだろうと考えていた。

 しかしその見通しは大きく外れ、今も続く程に何度も関係を持つ事になってしまい、思い出すと顔から火が出そうな事まで色々させられてしまった。

 

 ホーネットからやりまくりとまで言われる程に、ランスに散々抱かれる羽目になったのは、全部シルキィが悪い。シルキィがランスとやりまくっていたから、自分もそんな事になってしまった。と、サテラはそう考えていた。

 

 

「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってねサテラ」

 

 その一方、そんな事の顛末など知る由も無いシルキィは、顎に手を当て思い悩む。

 自分にはサテラからエッチだと言われる理由など無い、無いはずである。なぜなら、自分は断じてそんな魔人では無いからだ。ランスと肌を重ねている時、途中からなんか変な気分になる事もあるが、あれは自分の本性ではないので関係は無い。

 

 きっとサテラが変な思い違いをしているだけなのだろう。シルキィは動揺を押し隠し、冷静に対処しようと口を開いた。

 

「えっとねサテラ、落ち着いて聞いて。多分、貴女は何か勘違いをしているんだと思うの」

「勘違いな訳あるか! シルキィが男をエッチな事に誘うような魔人だって事、サテラはもう知ってるんだからな!!」

「待って!! それ本当に何の話!?」

 

 顔を真っ赤にした相手の言葉に、全く見に覚えの無いシルキィは戸惑う。

 それもその筈、今のはランスの吐いた嘘の話で、シルキィが男を誘った事実など無い。だがサテラはそれを信じ込んでしまい、シルキィもしたんだからと唆されて、自らランスの事をベッドに誘ったりなどもしてしまった。

 

「シルキィはエッチだ! 大体、普段着がその格好は絶対おかしいってずっと思ってたんだ!!」

「な!? 今更それを言うの!?」

 

 装甲を装着していない時のその魔人の格好は、胸と下腹部以外はほぼ素っ裸のようなもの。

 確かにサテラの言葉は尤もと言えば尤もなのだが、そこはそれ。長い付き合いの中で、理解をしてくれていたのでは無かったのか。シルキィはとても悲しい気持ちになってしまった。

 

「シルキィの、シルキィのエロ魔人ーー!!」

「ちょっとーー!!」

 

 そしてサテラは言いたい事だけ言うと、ぴゅーっと走り去ってしまった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「……と、言う事があったのよ」

「ほー」

 

 その日の夜。シルキィはランスの部屋を訪れた。

 

「自分から部屋に来るなんて、俺様の女としての心構えが備わってきたようだな」などと言いながらベッドに向かおうとするランスを一旦椅子に座らせて、先程の事について尋ねてみた。

 

「……サテラは何か誤解をしているわ。私が魔王城を離れる前にはあんな様子じゃ無かった。ランスさん、私の居ない間にあの子に何かしたでしょう」

 

 サテラの急な変わり様、いきなり自分の事をエッチだなんだ言い出す理由など、目の前に居る魔王城で一番エッチな男が原因に決まってる。そうシルキィは見抜いていた。

 

「……ふーむ」

 

 相手にじっと睨まれたランスは、机に肘を立てて思案する。するとすぐその理由には見当が付いた。

 

(そりゃまぁ、シルキィとしたから、っていう理由で、サテラと何度もしたからだろうなぁ)

 

 彼女が魔王城を離れていた時に、自分がサテラにした事などそれ位しか思い浮かばない。

 どうにも怒られそうだったので、その事を打ち明けるべきかどうか少し悩んだのだが。

 

「ま、話してもいいか。それはだな……」

 

 よくよく考えれば、別に自分が悪い訳ではないなと思ったランスは、経緯を話す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっきれた! ほんっとーに貴方には呆れた!!」

 

 ー通りの事情を聞いたシルキィは、完全にご立腹だった。

 

「貴方ね、いくらサテラとエッチな事をしたいからって、そんな事言う!?」

 

 まさか自分の事を口実にしてサテラを抱いていたとは。それではサテラが変な誤解をしてしまうのも当然である。

 シルキィは怒りの丈を相手にぶつけるが、ぶつけられたランスは涼しい顔をしていた。

 

「いやいやシルキィ、あれは俺様じゃなくてサテラが言い出したんだぞ。サテラの方から、シルキィと同じ事をしていいぞって言うから、俺様はその宣言通りにして貰っただけで、何も悪くないだろ」

「……百歩譲って、それは良いの」

 

 サテラから言ったと言うのが真実なら、確かにサテラにも原因の一端はあるのだろう。

 だが自分の怒りはそこにあるのでは無いと、シルキィはその男の耳を掴んだ。

 

「私がっ! 貴方を誘った事なんて無いでしょう! いっつも貴方から無理やりじゃないの!!」

「いだ、いだだ! ちょ、ちぎれるちぎれる!!」

 

 いっそ千切れてしまえと、ぐいーっとランスの耳を引っ張るシルキィは怒り心頭だった。

 

 性行為をしているのは事実であるが、それを単に受け入れているだけなのか、自らそれを誘っているのかは大きな差があり、女性としての沽券に関わる重要な事である。

 自分はランスとの行為を受け入れはしたが、それを求めた事は一度も無いのである。ちょっと行為の最中で頭がくらくらしてくると、ついそのような事を口走る事が無いでも無いが、あの自分は正気では無いので一切関係無い。

 

 

「どうしてサテラに、私が貴方を誘ったなんて嘘を吐いた訳?」

「それはな、その方が丸め込み易かったのだ。それとあいつの事を好きに出来るのにいつもと同じじゃつまらんから、少し趣向を凝らしたかったってのもある。真っ赤な顔で照れながら、俺様を誘ってくるサテラは中々可愛かったぞ。がははははっ!」

「そ、そんな理由で……」

 

 そんな理由で、この自分の事をまるで好きもののように勘違いさせてしまったとは。

 シルキィは呆れて物も言えず、大きな溜息を吐き出して額を押さえた。

 

「……とにかく、一刻も早くサテラの誤解を解かないと。このままじゃ、顔を合わせる度にエッチな魔人だとか言われそうだわ」

「……ていうか、さっきから思っていたのだがそれは誤解じゃないぞ。シルキィちゃん、君はとてもエッチな魔人で──」

 

 言い終わる前に、シルキィはランスの事をぎりっと睨む。

 

「誤解だから」

「……お、おう」

 

 その視線には、魔人四天王たる迫力があった。

 

「ともかくランスさん。私がサテラの誤解を解くまで、あの子に変な事言わないでよね」

「分かった分かった。……けども誤解を解く、か。……あ、そうだ。いい事思い付いた」

 

 指を鳴らしたランスはシルキィの顔を覗き込む。

 

「……何?」

 

 すると彼女は思わず首を引いて身構える。何となくだが、自分にとってのいい事な気はしなかった。

 

「シルキィ、君は誤解を解きたい。つまり、サテラに本当の自分を知って欲しいという事だな?」

「ええと、まぁ……そう、なるのかしら」

「だよな。なら、いい方法があるぞ」

 

 ランスはにぃと口角を吊り上げた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 翌日の夜。

 

「んな所に立ってないで、こっち来い」

 

 ベッドに腰掛けているランスが自分の隣をぽんぽんと叩いて、そこに座るよう指示を出す。

 

「……ん」

 

 部屋のドアを背に立っていたサテラが、ぎこちない挙動で近づきランスの隣に座る。すでに若干その頬は染まりつつあるが、素知らぬ顔で口を開く。

 

「それで、サテラに何のようだ」

「あのな。この時間に呼び出す理由、さすがにもう分かってんだろ」

 

 その言葉に一層サテラの身が強ばる。こんな夜遅くにこの男の部屋に呼び出される理由など一つしか無く、彼女もそれはもう理解していた。

 

「俺様、ホーネットを救出した訳で。当然だが褒美はあるよな、サテラ」

「……そういえば、まだちゃんとその事を言ってなかったな」

 

 サテラは一つ深呼吸して火照りつつある顔を冷ますと、すぐ隣に居るランスに向き直る。

 

「ランス。ホーネット様の事に関しては……その、良くやった。うん、良くやったぞ」

「まぁな。俺様はとってはあの程度、大した事じゃないが、サテラも主として鼻が高いだろう」

「そ、そうだな! サテラの使徒ならそれ位は出来ないとな!! ……褒美、褒美か……よし」

 

 サテラは小さく頷くと、相手の二の腕の辺りにぽすんと額を当てる。ランスの顔近くで、彼女の真紅のポニーテールがふわりと揺れた。

 

「どした?」

「褒美だ。サテラの頭を撫でさせてやる」

「……いや、俺様そんな褒美は別にいらん。そんなんよりもっと……」

「い、いいから撫でるのっ、主に口答えするな!」

「……まぁ、いいけどよ……」

 

 ランスはサテラの頭の上に手を乗せると、少々雑な感じでわしゃわしゃと撫で回す。

 

「……う、んぅ……っ」

 

 それだけで身体がぴりぴりとしてきたのか、サテラは耐えるように目をぎゅっと閉じる。

 サテラは人よりも過敏な体質を持つ為、他人に触れられる事を忌避している。故に他人に頭を触れされるのは貴重な事であり、彼女にとってはれっきとした褒美なのだった。

 

「……でも、ホーネット様の事に関しては本当に良くやった。偉いぞ、ランス」

「お前が俺様の事を褒めるとは。なんかサテラ、妙にしおらしいな。変なもんでも食ったか?」

「ぐっ、……あのなぁ! ……はぁ、全く……」

 

 空気の読めない奴だと、サテラは少し気落ちしながらも、寄り添うようにしてランスに撫でられている、その頭を動かす事は無く。

 

(……なんだか、どきどきする)

 

 徐々に熱を持つ顔と、妙にうるさい心音。ランスのそばに寄ると、なぜだか自分はいつもこうなってしまう。

 しかし今日は、いつも以上に落ち着かない気がする。それは多分、先程の会話であの時のランスの事を思い出したからだとサテラは思った。

 

(……あの時)

 

 あの時。戦いに出ていたシルキィが急に魔王城に戻ってきたかと思ったら、ホーネットの敗北を伝えられたあの時。サテラは眼の前の全てが絶望の色に染まった心地がした。

 親友であるホーネットの生死や、自分達のこれからの事など、とても考えたくないような事が嫌でも頭に浮かんでしまい、泣き出したくなる気持ちを止められなかった。

 だがそんな時でも、今自分の頭を撫でる男の目は前を向いていた。そしてその目で見つめながら、心配するなと、全部任せろと言ってくれた。

 

(あの時のランスは、なんていうか……)

 

 トクンと音がなり、思わず胸元を押さえる。普段よく見る鼻の下を伸ばした顔じゃない、真剣で、それでいて自信に溢れたあの時の表情を思い出すと、彼女には胸の早鐘を抑えられなくなってしまう。

 訳も無く涙が滲み、息が詰まる。とても苦しい気分なのだが不思議と嫌な感じでは無かった。

 

「……あの、ランス。サテラ、その……」

 

 自分が言おうとしているのか、よく分からない。

 けれども分からない事を考える前に、自然と言葉が口から溢れてくる。ならその流れに身を任せても構わないのでは、サテラにはそんな気がした。

 

「その、サテラ、ランスの事が……!」

「お、来た来た」

「うん?」

 

 来たとはなんだ? そう首を傾げる彼女を無視して、ランスがベッドから立ち上がる。

 頭が一杯一杯だったサテラはようやく、部屋のドアがコンコンとノックされている事に気付いた。

 

 

「こんばんは、ランスさん」

「おうシルキィちゃん、よく来たな」

 

 ドアを開けた先に居たのは魔人シルキィだった。

 

 

「……もう、これで3日連続……って、あれ、サテラ? どうしてサテラが……」

「よいしょっと」

「きゃっ!」

 

 怪訝そうなシルキィが何か言い出す前に、ランスは小柄な彼女をひょいと持ち上げる。そのまますぐにベッドまで運び、サテラの隣に座らせた。

 

「……あれ」

「………………」

 

 二人の魔人は互いに顔を見合わせる。何とも言えぬ表情のまま硬直するサテラも、はっと目を見開いたシルキィも、二人共がランスの狙いには気付いたようだった。

 

 サテラは何故だか固まったまま動かないので、その様子を見たシルキィが代表して口を開く。

 

「……ランスさん。これって、まさか……サテラと一緒に、って事?」

「うむ。俗に言う3Pだな。シルキィが戻ってきたらしようと決めていたのだ。すでに二人はこの俺様のもの、なら同時にしてみようと考えるのは男の性ってもんだ」

「………………」

 

 ──この男の一緒に居ると頭の痛い事ばかりだ。

 沈黙の中でそんな事を考えながら、シルキィは自分の正面に立つランスの事を見上げる。

 

「……私、貴方に抱かれるとは言ったけど、そこまでするとは約束してないわよね?」

「んなケチ臭い言うな、一人も二人もそう変わらんだろう。それに君が言ったんじゃないか、サテラの誤解を解きたいと。なら二人共一緒にすれば、シルキィの本当の姿がサテラにもすぐに分かるだろう」

「昨日言ってた、いい事って……」

 

 シルキィは疲れたように肩を落とす。やはり自分の懸念通りいい事などでは無い、ランスが得をするだけのろくでも無い事だった。

 

「大丈夫だシルキィちゃん、君は決してエロい魔人などでは無い!! だからそれをサテラにも証明してやろう、俺様も協力してやるから、な?」

「あ、貴方ねぇ……!」

 

 どの口が言うかと、シルキィは非難がましい視線をランスに向ける。

 彼女にとって複数人で性行為をするなど、道義的に考えてちょっと受け入れがたいし、サテラと共に抱かれるとなると憂慮すべき事が一つある。

 普段ランスに抱かれている際、時折見せてしまうような恥ずべき自分の姿。あんな姿をサテラに見られてしまったら大変である。

 

 あれは決して自分の真実の姿では無いのだが、隠し通す事が出来るだろうか。

 確かにあれさえ隠し通せれば、全てはランスに無理やりされていた事なのだと、サテラに伝えて誤解を解く事も出来るかもしれない。

 だが隠し通せるかどうか、正直言ってあまり自信無い。やはり3Pなど断った方が無難だとシルキィは思った。

 

「ランスさん、やっぱりそういうのは良くないわ。せめて別々に……」

「おーっと、俺様に心の底から感謝しているはずのシルキィが、何か言いたいようだな?」

「……それ、ずるい」

 

 何も悪い事などしていないのに、何故だか弱みを握られてしまった気分である。

 人の善意に付け込む性格のランスに、根が実直かつ素直なシルキィはいいように翻弄されていた。

 

「……分かった。けど私はいいけど、サテラが何て言うかは知らないわよ」

 

 感謝の心を突かれると弱く、仕方なしと容認してしまったシルキィには、頼むから断ってくれとサテラに願いを託すしか無かった。

 

 

 

 シルキィの承諾を得たランスはその隣、未だに固まっているサテラを見る。

 

「サテラ、お前も構わないよな?」

「……サテラの」

「あん?」

 

 首を傾げるランスに向けて、その魔人は吠えた。

 

「サテラのドキドキを返せーーー!!!」

「ぎゃー! なんのこっちゃーーー!!!」

 

 がーっと、牙を立てて襲い掛かってくる魔人に対し抵抗する術など無く、あえなくランスの肩に小さな歯型が付いた。

 

 

「い、いてて……、くそ、凶暴な魔人め……」

「ふんだっ! ランスが悪い!!」

 

 サテラはぷいっとそっぽを向く。先程感じていた微熱、高鳴る心音、そして甘い空気はいつの間にか何処へやら消えていた。

 

「何だよサテラ、いいだろ3Pくらい。ほれ、褒美褒美」

「褒美って言えば、何でもかんでもすると思ったら大間違いだ!!」

 

 羞恥と怒りに顔を染めてサテラは声を荒げる。自分とランスは魔人と使徒。幾ら褒美と言ってもその分別は持つべきである。何よりついさっき大いに気分を害されたので、この男の要望など叶えてやりたくない。

 

 彼女は断固として断ろうと思ったのだが、その時ふと考えてしまった。

 

(けど、サテラが断ったら、ランスは多分……)

 

 ここで自分が引き下がると、ランスの今夜の興味はシルキィだけに向く事になるだろう。そう考えた時、複雑な感情と対抗心が彼女の胸に湧き上がる。

 シルキィと共にランスに抱かれるなど、恥ずかしくて死んでしまうかも知れない。しかし自分が引き下がるのはそれはそれでなんだか嫌だ。

 そしてシルキィはすでに覚悟を決めている様子。ならばもう、どうしようも無いのではないか。

 

「う、うぐぐぐ……!」

「な、サテラ。一回、一回だけ、一回だけだから」

「……あーもう! ランス! これは褒美だ!! 本当に一回だけだからな!!」

「よっしゃ!!」

 

 ランスはグッとガッツポーズ。その一方でシルキィはがっくりと項垂れた。

 

「……サテラ、本当にいいの?」

「いい! もうどうなってもいい! サテラ知らない!!」

「そんな、投げやりにならないでよ……」

 

 自分はランスからいいように扱われている。その自覚はあるが、この様子だとサテラも似たようなものだなと、シルキィはもはや癖になりつつある溜息を漏らした。

 

「さーて、どーれどれ……」

 

 ランスは両腕を伸ばし、サテラとシルキィを脇の下から抱え込む。

 ぎゅっと抱き寄せると吐息が首に掛かる距離になり、服越しに二人の柔らかい身体が密着する。

 

「……うむ。よーしよし、良い子だ二人共!! がーはっはっはっはっは!!!」

 

 ぐっと腕に力を入れて抱き締めても、二人は顔を染めるだけしか抵抗しない。

 その事に気分を良くしたランスは、そのままベッドに飛び込んだ。

 

 

 

 

 シルキィには負けたくない。そう意気込むサテラと、サテラの前で醜態は晒さない。そう心に固く誓うシルキィ。そんな二人の魔人をランスは心行くまで堪能した。

 

 しかし両魔人の決意は叶う事は無く、サテラはランスの攻めの前に早々にダウンしてしまう。

 一方でシルキィは気分が昂ぶってしまい、途中からベッドの脇で目を回すサテラそっちのけで、ランスの事を求めてしまった。

 

 そんなこんなで魔王城の夜は更け。

 結果としてサテラの誤解、シルキィはエッチな魔人だという疑惑は晴れず、むしろ彼女の中でそれは確信となってしまった。

 

 

 

 

 

 


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