ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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番裏の砦

 

 

 

 

「行け」

「むり」

 

 ランス城を出発してから数日後。

 ランス達はヘルマン共和国にある番裏の砦に到着していた。

 

 番裏の砦。それはヘルマン西端、人間と魔物の世界を縦に区切るとても長大な砦。

 そしてその砦にある一室にて、現在ランスは同行者の一人と言い争いをしていた。

 

「あのなぁかなみよ、お前は俺様専用の忍者だろう。ちゃんと言うことを聞かんか」

「そんなこと言われても、無理!」

 

 彼女は見当かなみ。元はリーザス国王女お抱え、そして現在はランス専属となった忍者。

 ランスがシィルを連れて城を出発しようとした直前、かなみは自らも同行すると宣言した。

 

『ランス専属の忍者になったんだから、冒険についてくのは当然でしょ』

 

 との事である。そういえば前回もこんな感じで付いて来たんだっけなぁと、ランスは遠い昔を懐かしく思いつつも、特に断る理由も無いのでかなみも一緒に連れて行く事にした。

 しかし今、その専属の忍者は主人に対して大いに反発している。その理由は先程ランスから告げられたとある命令にあった。

 

 ランスの目的はホーネット派に協力して派閥戦争に勝利する事。

 その為にはまずホーネット派と接触し、協力を取り付ける必要がある。

 

 だが派閥戦争とは魔人同士の戦争、そこに人間が参加するなど果たして可能なのか。そもそもホーネット派は自分達の協力を必要とするのか、受け入れてくれるのか。

 などの問題はランスの頭にも浮かんだが、恐らく問題無いだろうと判断した。

 

(まぁあれだ。ぶっちゃけホーネットは人間の手を借りるなど絶対に認めなさそうだし、会った事の無いハウゼルちゃんはどんな子か知らんが、サテラとシルキィちゃんに会えれば大丈夫だろ)

 

 魔人サテラ。そして魔人シルキィ・リトルレーズン。

 前回の第二次魔人戦争で共に戦った二人の魔人、これからホーネット派と接触するに当たって会うべきなのはこの二人。

 

(サテラはもう俺様にメロメロだし、シルキィちゃんは魔人だけど人間を守りたくてしょうがないような子だ。俺が人類を守る為にホーネット派に協力してやるとでも言えば、あの子ならノーとは言わんだろう)

 

 とそんな腹積もりの元、二人の魔人と接触するべくこの番裏の砦までやってきた。

 しかしここで問題があった。如何にしてその二人の魔人と接触すれば良いのか。

 

 ランス達が今居るこの番裏の砦から西側、そちら側は全てが魔物の領域。当然ながら人間が大手を振って歩けるような場所では無い。

 サテラ、シルキィ両魔人が居ると思われる場所、ホーネット派の本拠地である魔王城。その城までの道程には途中にあるなげきの谷と呼ばれる渓谷を越える必要があり、そこには当然ながら大勢の魔物が棲息しているはずである。

 

 魔物界とは人類にとって暗黒の世界。現在のランスは前回のような人類の精鋭を集結した魔人討伐隊を率いている訳では無い為、魔物界へ強行突入が出来るような状態では無い。

 

 そこでどうするか。

 

(うむ、簡単な事だ。会いに行けないなら向こうから来てもらえばいいだけだ)

 

 という事で、二人の魔人をこの番裏の砦に呼び出すべく手紙を届ける事にした。

 

『サテラ、シルキィへ。世界総統たるランス様がお前達に会いに来てやったぞ、喜べ。番裏の砦にいるから、とっとと来い。今なら一発抱いてやる』

 

 そんな内容の手紙をかなみに持たせて、魔王城まで配達させる事にした。

 それが先程からの言い争いになった理由である。

 

「むりむり、絶対無理よそんなの! 魔物界になんて行ける訳がないでしょー!! どれだけ魔物がいると思っているのよー!」

 

 かなみは両腕で大きなバツ印を作り、ランスの命令に対して徹底抗戦。

 魔王城までの手紙の配達任務。それは彼女にとって殆ど死んでこいと言われているようにしか聞こえなかった。

 

「えーいうるさい。何もその魔物と戦えと言ってる訳じゃないんだ。お前は忍者だろうが、抜き足忍び足ーでパパっと行ってくるだけだろ」

 

 だがランスも折れない。他にあの二人と接触する方法が思い付かないのでここは譲れなかった。

 

 

 

 そして問答する事、小一時間。

 

 かなみは最後の最後まで抵抗していたが、命令を聞かない生意気な忍者に対してランスが解任をちらつかせると、

 

「ちょっとでも無理だと思ったらすぐに諦めて帰るからね!!」

 

 との情けない捨てゼリフを残して、泣く泣く魔王城に向けて出発していった。

 

「ふぅ。やっと行ったか。全く最後まで駄々をこねやがって……」

 

 呆れたように呟くランスだが、そんな彼にとってかなみも当然ながら自分の女。

 以前のヘルマン革命の際には遂にその恋心を認めさせた相手であり、古くから馴染みのある大事な女の一人。なのでかなみ単独でならさすがに危険過ぎるのでそんな命令は出さない。

 

 しかし今、かなみの下には凄腕の忍、フレイア・イズンが付いている。

 フレイアとはこの番裏の砦に来る前、ランス達がヘルマン国の首都ラング・バウに立ち寄った際に再会し、そのまま同行する運びとなった。

 ちなみにランスが首都に立ち寄ったのは「番裏の砦に向かうならヘルマンの上層部に話を通しておいた方が良い」とシィルとかなみに言われたからで、もう一つの理由はヘルマン現大統領と一戦交える為なのだが、それはともかく。

 フレイアは不思議とかなみの事を慕っており、出発前かなみがひたすら駄々をこねていた時、

 

「ほら隊長。忍が主の命に逆らうのは良くないわ。私も付いて行ってあげるから泣かないの」

 

 そんな言葉で頼りない元上司を慰めて、その結果共に任務に就く事となった。

 

(かなみはともかくフレイアが付いている事だし、まぁ魔物界でも大丈夫だろ)

 

 ランスの考えはもっぱらフレイアの能力に期待しての事で、かなみは殆どおまけだった。

 

 

 

 

 そして、それから数日後。

 ランスの下に二人の忍が帰ってきた。

 

「やっと帰ってきたか、遅いぞまったく」

 

 二人の帰還を待ちくたびれていたランスは、寝っ転がっていた部屋のベッドから身体を起こす。

 

「帰ってきていきなりそれ!? これでも相当急いだのよ! 先に労ってよね!」

「……ふむ、それもそうかもしれんな。よーしよし、えらいぞーかなみー」

「え、えへへ……」

 

 ランスは手を伸ばしてかなみの頭を撫でる。するとその表情が幸せそうにとろける。

 任務中は文句たらたらだった彼女だが、それだけで色々な事がどうでも良くなったらしい。

 

「うーりゃうーりゃ、良くやったぞー」

「えへへ、えへへ……ランスの為に頑張ったんだから……」

「うむ、お前は相変わらずだな。んでフレイア、任務はどーだったのだ?」

 

 自分の手の中にいるへっぽこ忍者から視線を外して、ランスはその隣にいた凄腕忍者の方に首尾を報告させた。

 

「魔物界への潜入なんてどうなる事かと思ったけど、意外と何とかなったわね。想像していたより魔物の数が少なかったのが幸いだったわ」

「数が少ない?」

「えぇ。以前はもっと大勢の魔物の姿が遠目からでも見えていたんだけど……魔物の世界でも色々あるのかしらね」

 

 フレイアのそんな疑問にランスは「……ほーん」と適当な相槌を返す。 

 そんな二人には知る由も無いが、この時魔物界では戦争の機運が高まっており、ホーネット派とケイブリス派の数度目となる衝突が迫っていた。

 その為、ホーネット派の本拠地周辺にいた魔物達はあらかた招集されて、戦いの前線となる魔物界の大拠点、魔界都市キトゥイツリーとサイサイツリーの方へ送られていたのである。

 

「ただそれでも進めたのはなげきの谷を越えるまでだけど。魔王城の周辺にはもの凄い数の魔物が居たわ。とても近づけない程」

「お前でも無理か」

「さすがにあれは無理ね。あれを見た時の隊長の慌てっぷりと言ったら……」

「だ、だってあそこに居たの、10万や20万なんていう数じゃなかったし……!」

 

 その時の光景と自分の振る舞いを思い出し、羞恥に顔を赤らめながらかなみが答える。

 小高い丘から魔王城周辺の偵察を行った際、かなみは眼下に広がる大量の魔物の圧に押され、半泣きになって「もう帰るー!」と連呼していた。

 

「で? 結局あの手紙はどうしたんだ」

「一応届けたわ。魔王城の一室に大きな窓が開けっ放しになっている部屋が見えたから、その部屋内に投げ込んでおいた。それが限界ね、大将の言う二人の魔人の手に渡るかまでは責任持てないわ」

「そか。まぁしょうがないな。なんとかなるだろ、駄目だったら別の手を考える」

 

 二人の任務の成果を聞き終えたちょうどその時、部屋のドアが開かれる気配が。

 

「お疲れ様でした。かなみさん、フレイアさん」

「わ、ありがとシィルちゃん」

 

 帰還した二人を労る為、先程まで食堂で軽食を作っていたシィルが部屋に入ってくる。

 運んできたおにぎりとピンクウニューンを二人に手渡し、ついでにランスにも渡しながら、彼女は心配そうな表情で口を開いた。

 

「ランス様。もしあの手紙がちゃんと届いたら……その、本当に来るのでしょうか。魔人なんですよね、相手は……」

「まーだ言うとんのかお前は。問題無いと言っとるだろーに」

 

 手渡されたおにぎりに齧り付きながら、ランスは心底呆れた声を出す。

 彼にとってこの話題はもう数度目。シィルはこの番裏の砦にやって来た理由を知って以降、ずっと不安な表情でいた。魔人に会う為に来た、など言われたら当然の反応ではある。

 魔人シルキィが人間びいきな事など彼女は知らないし、魔人サテラには以前殺されかけた事もあり、その時の恐怖が心に残っているらしい。

 

「それに……魔人と協力して敵対する派閥と戦うなんて……」

「ランス、シィルちゃんの言う通りよ。ランスがむちゃくちゃするのはいつもの事だけど、さすがにこれは危険過ぎると思うけど」

「ええい、うるさい。俺様のすることに間違いは無いのだ」

 

 無茶は承知の上。というかランスに言わせれば、派閥戦争をどうにかしないと世界が更にむちゃくちゃな事になってしまう。

 だからこそこんな事をしている訳だが、色々と面倒くさそうなのでそこら辺の事情をシィルやかなみに説明するつもりは無かった。

 

(手紙は一応届けた訳だし、後は待つだけだな。よーし、なら今日は4Pといくか!)

 

 冷えたピンクウニューンを一口で飲み干し、今夜の獲物に目を向ける。

 任務成功のご褒美と称して、ランスは二人の忍者に奴隷を交えて楽しんだ。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 魔物界の北部に存在している魔王城。そのとある一室。

 部屋にある開けっ放しの大きな窓から、もの凄い速度で何かが室内へと飛び込んできた。

 

「………………」

 

 それはその部屋の主、ホーネット派に所属する魔人の一人、メガラスである。

 メガラスは高速で空を飛行する能力を有している。その特技を使用する際に邪魔になる為、自分の部屋の窓は常に全開にしていた。

 

「………………」

 

 メガラスはつい先程まで敵の拠点の偵察任務を行っており、今こうしてその任務を終えた。

 なので偵察結果の報告をしようと、派閥の主の部屋に向かおうとしたその時。

 

「…………?」

 

 床のカーペットの上、出発した時には無かったはずの見慣れない手紙がある事に気付く。

 

「………………」

 

 それを拾い上げて調べてみると、差出人の欄には『世界総統ランス』と記載されている。

 その名はメガラスにとって全く知らない相手だったが、しかし宛名には心当たりがあった。

 

「………………」

 

 部屋から出て、宛名の人物の元へと歩く。

 すると廊下の角を曲がった所で、偶然にもその相手と遭遇した。

 

「………………」

「……おぉ、メガラスじゃないか。もう城に帰ってたのか。……ん? サテラに? なんだこの手紙は……って、これは……!!」

 

 

 

 

 

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