キナニ砂漠にあるオアシス都市、シャングリラ。
そのプールサイドでの、魔人メディウサとの戦闘終了後。
「お、いたいた」
プールから程近い距離にあった建物の屋上、そこに居たシャリエラの下までランス達は戻ってきた。
メディウサとの戦闘が始まる前。戦いになったら危険だからと、ランス達は彼女の事を安全な場所に避難させていた。
実はそのシャリエラはある特別な能力を有しており、ランスはそれを前回の経験から知っていた。
その力を使えば戦闘が楽になる為、メディウサとの戦いに関しての作戦を考えた時に、彼女の力を使う事を少しだけ考えた。
だがシャリエラには特別な能力はあれど、敵と戦う戦闘能力などは全く無い。なので自分とホーネットの二人しか居ない現状で、自分の身を護る術の無い彼女を戦闘に出してしまうと、いざと言う時にその身を守れるかどうかの保証が無い。
基本的に後衛を守るのは盾を持った屈強なガードの仕事であり、そのような存在を一切連れて来なかったランスは、メディウサとの戦いではシャリエラの力を使うのを止めたのだった。
「シャリエラよ。この俺の大活躍、ちゃんと見てたろうな?」
「……うん、見てた」
しかし戦いには参加させずとも、せっかくだから自分が活躍している姿を見せようと思ったランスは、シャリエラに「どこか眺めの良い場所で俺様の戦いを見ているように」と命じていた。
彼女はその命令通り、見晴らしの良いこの建物の屋上に上がって、この場所からランス達とメディウサの戦闘をずっと眺めていた。
「どーだシャリエラ。俺様は凄かっただろ」
「……うん」
「がははは! そーだろうそーだろう。蛇女を退治出来たのは、あの使徒を連れ出してきたお前の活躍もあるからな、褒めてやろうじゃないか」
「……うん」
シャリエラはランスが考えた作戦通りに、アレフガルドの事を連れ出してきた。
主であるメディウサが昼寝についた後、さて掃除でもしようかと考えたアレフガルド。しかしそんな彼の下に、シャリエラがとことこと近づいてきた。
暇だから遊んで遊んでと、棒読みの声で要求するシャリエラに、ほとほと困り果てていたアレフガルドだったが、引っ張られるようにして彼は、ランス達が待ち伏せていた場所まで来てしまった。
そして桁外れの執事たるその使徒は、ランスの魔剣の一振りによりあっけなく斬り殺された。
そんな事の顛末を思い出し、褒美にその頭でも撫でてやろうかと手を伸ばしたランスだったが、
「……む」
しかし途中でその手を止める。
普段通りの無表情のシャリエラは、プールを眺めたままの姿でぼんやりとしている。先程から声を掛けてもこちらに顔を向けないその様子に、ランスは何やら妙に感じた。
「おい、どしたシャリエラ」
「……私は以前、デスココ様に仕えてた」
「あぁ、そりゃ知ってるが」
「……私はデスココ様に仕える為に生まれた人形。今までデスココ様からは何も命じられた事は無かったけど、いつデスココ様に呼ばれてもいいように、お料理やお掃除、踊りの練習を沢山した」
いきなり何の話だと、首を傾げるランスを無視して、シャリエラはどこかを眺めたまま、ぽつぽつと自らの過去を語る。
「……でも、デスココ様にそれを披露する事は一度も無くて、デスココ様は私の目の前でメディウサ様に殺された。だから、……それだけ」
シャリエラの目の前で主の命を奪ったメディウサは、同じように彼女の前でランス達に倒された。
「………………」
その踊り子は相変わらず、心の内を覗かせない人形のような無表情。だが儚く佇むその姿に、何となく声を掛けるのを躊躇ったランスは、代わりに自分の横にいた魔人に声を掛けた。
「なぁホーネット、こいつの事どうすっかな。ここに置いて帰るってのもちょっとあれだし」
「……私に聞くより先に、貴方は答えを出しているのではありませんか?」
「お、よく分かったな。まぁそんな訳でだ、こいつは魔王城に連れて帰るぞ」
広大で、人の気配の全く無いこのシャングリラの地に、シャリエラ一人を残していくのはさすがに気が引けたランスは、彼女をお持ち帰りする事をすでに決めていた。
ついでに言ってしまうと、せっかく主人になったのにもかかわらず、ランスはまだシャリエラを味わっていなかったのである。
「別に問題ないだろ?」
「……まぁ、今更の話ではありますね」
ホーネットは不承不承と言った様子で答える。本来は魔王を筆頭として、魔人や魔物達の住処である魔王城には、すでにランスを含めて外から来た客が何人か居る。それが一人増えた所で確かに今更の話ではあった。
「ですが、あの城はあくまで美樹様の物。私の許可を得た所で、美樹様が何と言うかは知りませんよ」
「美樹ちゃんはシャリエラ一人でどうこう言う子じゃ無いっての。よし、おいシャリエラ」
変わらない様子で遠い目をしている踊り子の頬を、ランスの右手がつまむ。
むにんとほっぺが伸び、それにようやく反応を見せたシャリエラがその顔を向けた。
「なに?」
「俺様はこれから魔王城に戻る。お前もご主人様に着いてくるんだ、いいな?」
「……うん、分かった」
何処と無く元気が無さそうなシャリエラは、それでもこくりと、しっかり頷いた。
◇ ◇ ◇
「うし、じゃあ魔王城に戻るとするか。……あぁ、戻るのか。戻らにゃあならんのか……」
さて帰るぞと、シャングリラの正門前からキナニ砂漠を眺めた瞬間、ランスの出したげんなりとした声に、ホーネットの眉が僅かに動いた。
「ランス、何ですかその言いようは。貴方にとって、魔王城は居心地が悪いのですか?」
「そうじゃない。そっちじゃ無くてな、まーたこの砂漠を越えにゃならんのかと思うと、今からやる気が無くなるっつーかなんつーか……」
眼前に広がる灼熱の砂漠、その地獄の道のりを思い出したランスはがっくりを肩を落とす。
キナニ砂漠を進むのは来た時にも散々愚痴を漏らしたが、帰るとなってもやはり憂鬱だった。
「……つーかあれだな。蛇女との戦闘もあって結構疲れたし……」
いっそ今日はここに泊まっていくのも良いか。
そんな事をやや逃避気味に考えたランスの脳裏に、ふいにピンと来るものがあった。
「……あー。そういやぁ確か……、いやけど、ありゃ何処だったかなー……」
ランスはぽりぽりと頭を掻く。実はキナニ砂漠には簡単に移動出来る手段が一つ存在しており、彼は前回の経験からその事を知っていた。
しかし毎度の如く、その時の記憶がもう曖昧である。自分の脳に頼る事を早々に諦めたランスは、ちらりとその魔人の顔色を伺った。
「なぁホーネット。お前、まだ魔法は使えるか?」
「えぇ、勿論。メディウサとの戦闘は然程長引きませんでしたから」
「よし、んじゃあちょっとお前に働いてもらうか」
◇ ◇ ◇
私は以前から思っていたのだが、彼はとても無口だと思う。
私がどれだけ話しかけても、彼は言葉を返してくれない。恋人の私に、褒め言葉の一つぐらいくれてもいいのにと、口を尖らせてしまう事もある。
けれど、無口でも構わない。私は彼のそんな硬派な所も好きだし、それにきっと照れているのだ。
彼のすらっとした細長い身体に向けて、くすぐるように息を吹きかけると、彼は恥じらうようにその身を揺らす。
その様子が、なんとも愛らしくてたまらない。
私は思わず緩む口を結ぶと、そんな彼に唇をそっと寄せて──
「ホーネット、次はここ。この辺の壁をぶち壊せ」
「……白色破壊光線」
魔法球から放たれた白い光線が、外側から反対側の壁までを遠慮無く貫通していく。
「ぎゃあーーー!!!」
すると部屋の中に居た少女の口から、少々聞こえの悪い悲鳴が上がった。
「お、ハウセスナース発見。やーっと見つけたぜ」
そこに居たのは『地』の二つ名を持つ聖女の子モンスター、ハウセスナース。
大地に関する事なら大概の事を行える力を持つ、とても恋多き神様である。
前回の時、シャングリラでハウセスナースを発見していたランスは、今回もきっと何処かに居るだろうと当然のように考えた。
しかしその居場所が分からない。前回は同じく聖女の子モンスターであるベゼルアイ、彼女がハウセスナースの気配を察知してくれたが、今自分のそばにその神様は居ない。
そこでランスは仕方無く地道に探す事にした。まだ都市内に僅かに残る魔物兵達の掃討も兼ねて、ホーネットを連れ歩きながらその高火力の魔法に物を言わせ、塀やら壁やらの一切を手っ取り早く片付けて、手早くシャングリラ内の捜索を行った。
そしてようやく、とある小さな建物の中にハウセスナースを発見して、ご満悦な様子のランス。
その隣には散々魔法を撃たさせて、疲れとも呆れとれる小さな息を漏らしたホーネット。
そんな彼女の肩を、シャリエラが労うようにぽんぽんと叩いていた。
「見ろ二人共。こいつは世にも珍しいイカマンに恋する女……て、あれ? イカが居ないぞ。もしや、さっきので死んじまったか」
白色破壊光線によって円状に空いた壁の穴から覗ける、部屋の中をランスはきょろきょろと眺める。
彼の朧げな記憶では、シャングリラに居たハウセスナースの恋人はイカマンであった。だが前回の時に499782回目の恋となった、イカマンの杉本君とは彼女はまだ出会ってはいなかった。
「いきなりやって来て、イカって何のことよ!! ていうか、あんた誰!!」
二つに結んだ水色の髪先を怒りに揺らしながら、恋人との逢瀬の時間への突然の乱入者に対して、ハウセスナースはがなり立てる。
「俺様はランス様だ。ハウセスナースよ、お前にちょっくら頼みがある。お前の力でキナニ砂漠に道を作ってくれ」
それは前回の時も彼女に要求した内容。ハウセスナースは地を操る力によって、キナニ砂漠に整地された道を作り出す事が出来る。
その道なら砂漠に掛けられた迷いの力を無効化出来る為、迂回した道を通らず一直線に進めるし、整地された道ならば砂に足を取られる事も無い。
そこを通った方が遥かに楽に帰れるので、そんな理由でランスは彼女の事を探していたのだった。
「はぁ? なんでこの私が、そんな事しないといけないのよ」
「なんでって、んなの俺様が帰りの道に使うからに決まってんだろ」
「なら駄目。私の力はね、そんな勝手な事の為に使う訳にはいかないの」
「あんだと? 勝手ってお前、イカの為に力を使うような奴が何を言うか」
しっしと、邪魔者を蹴散らすかの様にハウセスナースは手を払い、一方のランスはこめかみに青筋を浮かべて相手を睨む。
この二人は前回の時からあまり相性が良い関係では無く。ランスの決して下手に出ない偉そうな態度もあってか、ハウセスナースは願いを叶えてあげる気には全くならなかった。
「ハウセスナース、この俺様がこうして頭を下げて頼んでるんだ。つべこべ言わずに力を使え」
「あんたの頭、下がってるようには見えないけど」
「……いーから俺様の言う通りにしろ。さもないと、お前のあそこに俺様のをぶち込むぞ」
苛立つランスは傲然と彼女を見下ろしながら、従わなければ乱暴するぞと宣言する。
ただ、それはあくまで脅し文句。なぜならハウセスナースは現在、ランスのストライクゾーンの外側となる容姿をしているからである。
聖女の子モンスターは大人と子供の形態を交互に繰り返す神様で、今のハウセスナースは子供形態。
性豪のランスだが幼女趣味は全く無いので、今の彼女を襲うつもりはさらさら無かった。
だが、ランスのそんな事情などは、彼のそばに居た二人は当然知る由も無く。
「………………」
「……な、何だよホーネット」
もしかしたらだが、この魔人と出会ってから今まで見た中で、一番冷たい視線かもしれない。
ホーネットの金の瞳に見つめられ、思わず表情を引き攣らせたランスはそんな事を思った。
「……貴方は、このような幼い少女にまで性欲を向けるのですか」
「ランスは小さい女の子が好きなの?」
「ちゃうわ!! こいつは聖女の子モンスターっつって、今はこんなちんちくりんだが、すぐに大きくなる奴なんだっての!!」
ランスは自らの言動でもって招いてしまった、ロリコン疑惑を慌てて否定する。
意味がよく分かっていないのか、シャリエラの表情は普段通りであったが、同じく普段通りに見えるホーネットの視線に、軽蔑の色が混じっているように見えたのがとても辛かった。
「……つーか、んなこたどうだっていい。とにかくハウセスナース、砂漠に道を開け。減るもんじゃ無いし、一回位構わねーだろ」
「駄ー目」
「ぐぬぬ……んだとぉ……」
──クソ生意気な、自分のハイパー兵器はこれ相手では立たないから無理だが、そこらの木の棒でも本当に突っ込んでやろうか。
とそんな危ない考えを、怒りのあまりについ頭に浮かべてしまったランスだったが。
「……いい事思い付いた。なぁ、お前恋人が居るんじゃねーか? 居るなら俺様に紹介してくれよ」
「えっ」
その言葉に、ぱっとハウセスナースの顔が明るくなる。
「何、あんた私の彼に興味あるの!? いいわよ、そこの彼が私の恋人。どう、可愛いでしょう!?」
喜色満面の聖女の子モンスターが指差したのは、窓際に置かれた植木鉢に咲いた小さなお花
彼女は神様だからかどうなのか、恋人の選択に関しての守備範囲が莫大に広く、人間や魔物は勿論の事、はてはムシや無生物でも何でも構わないといった有様だった。
「……それか」
「うん! スリムな身体と、ひらひら揺れる花びらがとても素敵でしょう!!」
「……なんつーか、イカの方がまだマシな気がするな。まぁいい、んじゃハウセスナースよ、俺様の言う事を聞かないなら、その花をちょん切るぞ」
「な!! そんな事したら、あんたの事地面に埋めてやるからね!!」
指をちょきちょき動かすランスの事を、目を吊り上げたハウセスナースがぎりっと睨む。
大事な恋人を人質に取られてしまった彼女は、そのまま少しの間ランスと睨み合っていたが、
「……もういい、分かったわ」
やがて考えを改めたのか、大きな溜息を吐き出した。何となく目の前の男が気に食わないので断っていたが、砂漠に道を作るくらい大した手間では無いし、何より恋人の命には代えられなかった。
「……あんたの言う通り、キナニ砂漠に道を開いてあげる。……けれど条件があるわ」
「条件だと?」
「道は開くから、あんた達はとっととこの部屋から出てって。私、彼との時間を邪魔されたく無いの」
ハウセスナースはちらりと窓辺に置いた植木鉢を見る。そろそろ彼にお水をあげる時間だった。
「彼って、花じゃねーかよそれ。まぁがきんちょのお前に興味は無いから、言う通りにしてやろう。その代わり、大きくなったらちゃんと俺様に抱かれに来いよ」
「何がその代わりなのよ!!」
そして。
窓を開けたハウセスナースは、そこから見える砂漠に向けて手をひょいひょいと動かす。
それだけで「もう終わったから」と告げたハウセスナースは、邪魔者のランス達を部屋から追い出し、物言わぬ恋人を愛で続ける作業に戻った。
◇ ◇ ◇
「わぁ、すごい」
口を小さく開けたシャリエラが、あまり驚いているようには聞こえない驚きの声を、目の前のキナニ砂漠の光景に対して上げる。
本来なら波打っているはずの砂漠は見晴らす限り平らに整えられ、砂地は歩きやすいようにしっかりと固められている。
そして来た時のように目的地まで迂回する必要の無い、真っ直ぐに伸びた砂の道が、ハウセスナースの力によりキナニ砂漠に出現していた。
「これでよし。まぁくそ暑いのはどうしようも無いが、こっちの方が何倍も楽だよな」
安全に整備された砂漠の道を眺めながら、ランスは満足気に頷く。
「そうですね。これで時間を掛けずに魔王城に戻る事が出来ます。では、行きましょうか」
「うむ。シャリエラ、お前も着いてこいよ」
「うん、分かってる」
一向は魔王城に一番近づける、ヘルマンの方角に向けて砂漠の道を歩き出す。
ランスの隣にホーネット。そのすぐ後ろを、ちょこちょことシャリエラが続いていた。
「ランス、魔王城ってどんなところ?」
「ふむ、そうだな。世にも恐ろしい魔物共がいーっぱい居る所だ。油断してるとシャリエラなんかぱくーっと頭から食われちまうから、十分注意しろよ」
「そのような粗野な魔物は城には入れていません。間違った印象を与えないでください」
魔王城には礼儀正しい魔物しか居ません。と、睨むホーネットの視線を受け流して、ランスはふと魔王城に思いを馳せる。
ここまでのホーネットとの二人旅。それは関係性を深めるという点では有意義なものであったのだが、なにせ現状手が出せないので、ランスの性欲は溜まる一方である。
当然彼はは我慢など出来ないので、途中ヘルマンの町に立ち寄った際などで羽目を外していたのだが、そろそろ自分の女達で思う存分発散したい。
ついでに言うと、ランスはそろそろあのピンクの頭を、もしゃもしゃしたい気分だった。
「……魔王城に残して来たあいつら、俺様が居ない寂しさのあまりに、ぴーぴー泣いてるに違いない。帰ったら全員可愛がってやらんとな、うむうむ」
「………………」
「……ホーネット、その目はなんだっつの。お前だって、魔王城の事は気になるだろ?」
彼女は現在の魔王城の実質的な主であるし、何より真面目な性格であるので、戦列を離れている戦争の事なども気になるだろう。
そのようにランスは思っていたのだが、しかしホーネットは平然とした様子。
「当然気にはなります。ですが、然程心配はしていません。何かあったら使いを出すよう予め指示をしていますし、城にはシルキィが居ますから」
魔王城を出発して数日。人間世界の事情に疎いホーネットは、ともすれば一ヶ月近く掛かる旅程になるかもと想定していた。
そこから考えると大分早く目的を達成出来た為、戦争が始まってから魔物界を離れた事が無かったホーネットにも、さしたる焦りの色は無かった。
「確かに、サテラならともかくシルキィちゃんが居ればな。まぁ蛇女も殺した事だし、これで世界中の美女が犠牲になる事も無い。人間大好きのシルキィちゃんも大喜びってなもんだ」
「……そうですね。この派閥戦争は魔物界の主権争いです。人間世界にまで無用な戦火を広げるのは、私も本意ではありません」
そんな話をしながら、キナニ砂漠を進んでいたランス達だったが。
「……人間世界、か」
ぴたりと、ランスがその足を止める。
ホーネットの言葉に引っ掛かるものを感じたのか、彼は腕を組んで唸り始めた。
「……うーむ」
「どうかしましたか?」
「ぬぅ。……いや、だがなぁ。けど、しかし……うぬぬぬ」
「ランスがおかしくなった」
頭を揺らしながらあーでもないこーでもないと、ぶつぶつと唸るランスの事を、ホーネットとシャリエラの二人は奇妙な生き物を見る目で眺める。
そんな視線になど全く気付かず、ランスはその後暫く悩んでいたが、やがて何かしら決断したのか、足元に向けていたその顔を上げた。
「……やっぱそうだよな。ホーネット、予定変更。魔王城に帰る前にちょっと寄り道してく」