ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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魔王城への帰還

 

 

 次の日。

 

 早朝、起床したホーネットから捕獲ロープの拘束を解いて貰えたランスは、ようやく毛布の簀巻き状態から解放された。

 

 夜はもっと静かにして欲しい。そんな文句をシャリエラから言われながらの朝食を終え、身支度を済ませたランス達は早々に宿を出た。

 

 

「よし、んじゃあ魔王城に戻るとするか。シャリエラよ、忘れ物は無いだろうな?」

「わたし、何も持ち物持ってないよ」

「……そうだったな。ホーネット、お前はどうだ」

「問題ありません。むしろ、貴方が一番注意するべき事だと思いますが」

 

 ホーネットにも荷物はあるが、それは装備などを除けば替えの衣装など最低限のもの。

 この旅で使用したキャンプ用品など諸々の道具は、冒険慣れしているランスが奴隷に命じて準備させた物で、一番荷物が多いのはランスであった。

 

「この俺様が忘れ物などする訳無いだろ、ガキじゃねーんだから。つーかシャリエラ、この荷物は従者のお前が持ちなさい」

「うん、いいよ」

 

 ランスはその肩に掛けていたぱんぱんに膨らんだ荷物袋を、シャリエラへと手渡す。

 

「……あ」

 

 とその時、ふいに何かを思い出した様子で間の抜けた声を出した。

 

「どうしたの? 忘れ物? 宿に戻る?」

「いやそうじゃない。忘れ物じゃないが、忘れていた事を思い出したんだ」

「忘れてた事? ……あ、分かった。お土産買う事でしょ」

「違う。けど土産か。サテラ達に何か買ってくのもいいかもな。……と、忘れてたのはこれだ」

 

 ランスは地面に下ろした荷物袋の中から、昨日リア王女へと手紙を書く為にと購入した、便箋と切手の残りを取り出した。

 

「魔王城に戻ると手紙を出しにくくなるからな、今の内に出しておこうと思ってたんだ。……えーと、ゼスでいいんだよな。……いや、そうとも限らねーか? となると……」

 

 ぶつぶつ言いながらペンを走らせるランスは、最終的にリーザス、自由都市、ゼス、ヘルマン、JAPANのそれぞれの国の権力者へと、5通分の手紙を書き上げ、ポストへと投函した。

 

「これでよしっと。……ホーネットよ、さてはその顔、手紙の内容に気になってるな?」

「……えぇ、まぁ。聞き出すつもりはありませんが、気になるかと言われれば気にはなります」

「ふふん。この俺様はな、美女を抱く為なら手間を惜しまない男だ、とだけ言っておこう。……よし、んじゃあ今度こそ魔王城へと出発するぞ」

 

 

 ランス達は町の入口近くにあった、うし車屋にてうし車を雇い、それに乗ってノースの町を出発。

 

 一路目指すは魔王城。バラオ山脈を越えて、途中立ち寄ったヘルマンの町で休憩を挟み、番裏の砦を通過して、更になげきの谷を抜ける。

 

 そうしてランスとホーネットは、約二週間近くの旅路を終える事となった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 そして、ランス達は魔王城へと帰ってきた。

 

「どうだシャリエラ、これが魔王城だ」

「すごい、おおきいお城」

 

 巨大なその城の貫禄に圧倒され、初めて目にしたシャリエラが丸く口を開ける。

 

 ここまでの道中でも、時折目にする魔物や魔物界特有の魔界植物などに関心を示していたシャリエラだったが、これから自分が住む事になる魔王城にはよほど興味があるのか、きょろきょろと忙しなく辺りを見渡していた。

 

 城のそばに停めたうし車から降りると、開かれた城門を進み、一行は城の入口をくぐる。

 そして豪華なカーペットが敷かれた城の廊下を歩いている途中、先頭を歩くホーネットが振り向かないまま口を開いた。

 

「ランス。後で私の部屋に来てください」

「な、何!? ホーネット、まさか遂に……!!」

 

 ──俺様に抱かれる気になったのか。

 そんな思いでランスの目が期待に輝いたが、相手は小さく首を横に振る仕草を見せた。

 

「私達が魔王城を離れていた間に関して、シルキィ達からの報告を受けるだけです。メディウサとの戦いの顛末を彼女達に話す必要もありますから、貴方も居た方が良いでしょう」

「……あぁ、そういう事。単なる業務連絡ね」

 

 色っぽい展開を想像していたランスの頭から、途端にやる気が消滅する。

 ホーネットは「必要な事ですよ」とだけ残して、自分の部屋がある、魔王城の最上階へと階段を上がっていった。

 

 

 

 

 ランスはシャリエラを連れ、自分達が貸し切りにしている階まで階段を上がる。

 

「すー、はー」

 

 廊下の真ん中に立つと、一度深呼吸をしてぐっと大きく息を吸い込む。そしてランスは腹の底から、それぞれの部屋の中まで響かせるような大声を発した。

 

「お前らー!! ランス様のお帰りじゃー!!!」

 

 はた迷惑なその大音量への反応はとても顕著で、即座にある部屋のドアが開かれた。

 

「お帰りなさい、ランス様!!」

 

 待ちきれなかったといった様子で、シィルがぱたぱたとランスの下に走ってくる。

 

「うむ。奴隷として、真っ先に来るのは当然だな。……相変わらず、のんきな顔しおって」

 

 出発した時と変わらない様子に、何となく気分が良くなったランスは彼女の髪をぽふぽふと撫でる。その手触りが無いと、何故だかストレスが溜まってしまうのだった。

 

 それからすこし遅れて、かなみとウルザの部屋のドアも開かれる。二人もランスの無事の帰りを喜び、その顔に笑みを浮かべていた。

 

「ランス、おかえり。魔人討伐お疲れ様」

「おう。ま、俺様に掛かりゃ楽勝だったがな」

「どうやら見た所、大きな怪我が無くて何よりです。……それでランスさん、その子は?」

 

 ウルザの視線はランスの背後、所在なげに立っているその踊り子の方へと向いていた。

 

「ああ、こいつはシャリエラっつってな。シャングリラで拾ってきた」

「拾ってきたってそんな、わんわんやにゃんにゃんじゃ無いんだから……」

 

 それって人攫いって言うんじゃないの? と、事情を知らないかなみは不審な目を向けたが、他に説明のしようも無かったので、ランスはそのまま押し通す事にした。

 

「まぁぶっちゃけこいつはペットみたいなもんだ。色々あって今日からここに住む事になった。……ほれシャリエラ、挨拶しろ」

「うん」

 

 ランスに促されたシャリエラは、一歩前へ歩み出ると、シィル達に向けてぺこりとお辞儀をした。

 

「私はシャリエラ。主に仕える人形で、今のご主人様はランスです。人間のお役に立つのが私の役目なので、皆さんのお役にも立ちます」

「……シャリエラよ。今気付いんだが何でお前は俺の事を呼び捨てなんだ。メディウサとかデスココには『様』と付けてただろ」

「……んー。なんとなく」

「なんとなくだぁ?」

 

 ああん? とチンピラのような表情のランスに凄まれても、シャリエラは何か文句があるのかと言わんばかりの無表情。

 その様子に、随分堂々とした従者だなぁと思いつつも、少々気になる事があったシィルがランスの腕を叩いた。

 

「あの、ランス様」

「シィル。お前もご主人様に仕える奴隷として、主を敬わないシャリエラに対して一言言ってやれ」

「あ、えーと……それは置いといて。この子が言っていた人形って、どういう意味なんですか?」

「ん? まぁ、それはだな……あんま気にすんな。こいつはちょっと変な所がある奴なんだ」

 

 見た目人間のシャリエラが自らを人形と呼ぶ、そこら辺の諸々の事情について、ランスは前回の時にフェリスやミラクルなどから耳にしている。

 だがその事情を説明するとなると色々ややこしい話だし、説明した所で何が変わる訳でも無いので、ランスは一切合切を煙に巻く事にした。

 

「とにかくシィル、こいつがここで暮らせるよう、とりあえず部屋を用意してやれ」

「はい、分かりました。じゃあシャリエラちゃん、ついて来て」

「うん」

 

 シャリエラはシィルに手を引かれて、廊下に数多くある空き部屋の一つに入っていった。

 

 

 

 

 その後ランスは、久しぶりに戻ってきた魔王城の自分の部屋で一息ついた。

 

 そしてシャングリラでの戦いの武勇伝を、かなみやウルザに自慢げに語っていた時、先程ホーネットに呼ばれていた事をふと思い出した。

 単なる報告会など、面倒臭いと言えば面倒臭かったが、久しぶりに魔人達の顔も見ておこうかなと思い。ランスはホーネットの部屋へと向かった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 派閥の主の部屋にはすでに、サテラ、シルキィ、ハウゼルが揃っていた。

 

 三人の魔人が座るソファに腰掛け、お土産として買ってきたはにわ饅頭を食べていたランスだったが、食べ終わると同時にポケットから、今回の旅の成果を取り出した。

 

「じゃじゃーん!! これなーんだ!!」

 

 妖しい光を放つ真っ赤な玉を頭上にかざす。すると皆の視線がそこに集まり、それぞれ感心した様に顔を綻ばせた。

 

「おぉ。ランス、それはまさか……」

「うむ。察しの通り、蛇女の魔血魂だ。ほらよ」

 

 ランスは対面に座るサテラに向けて、その魔血魂をぽいっと投げる。両手をそれをキャッチした彼女は、嬉しそうにその顔に花を咲かせた。

 

「良くやったぞランス。まぁ、さすがはこのサテラの使徒と言った所だな」

「そうね、大したものだわ。魔人の私達でも苦労している事なのに」

「えぇ、本当に。聞いてはいましたけれど、ランスさんって凄い人だったのですね」

「その通り、俺様は凄いのだ。さぁ、もっともっと崇めていいぞ」

 

 魔人達からの称賛に気を良くしたランスは、腕を組んで自慢げに胸を張る。

 

「……けど。考えてみたら、ランスが偉そうにするような事じゃないよな」

「なんだとぉ?」

「だって、サテラは見た訳じゃ無いけれど、殆どはホーネット様のおかげだろうし……」

「いーや、そんな事は無いぞサテラ。あの蛇女退治は、この俺様の大活躍無しには語る事は出来ん。だよな、ホーネット」

 

 ランスはソファから少し離れた部屋の中央、大きな執務机に掛けていたホーネットの方を向く。

 目があった彼女は特に考える素振りも見せず、すぐに頷いて肯定の意思を示した。

 

「そうですね。メディウサを討伐する上では、貴方の働きはとても重要でした」

「だろだろ? 比率で言うと俺様の働きが8、ホーネットが2ぐらいだよな」

「……ランス。誰がどれだけ働いたのかはどうでもいい事だと、貴方は言っていませんでしたか?」

「……ぬ」

 

 以前の自分の発言を指摘され、ランスは二の句が告げずに口ごもる。

 ホーネットは「それより……」と会話を切って、ソファに座る別の相手へと目を向けた。

 

「ハウゼル。私達が不在の間、ケイブリス派の動きは無かったのですか?」

「はい、ホーネット様」

 

 話を振られたハウゼルは真面目な顔付きになり、すぐにソファから立ち上がる。

 

「主に私とメガラスの飛行部隊で、ビューティーツリー周辺を警戒していましたが、その限りでは目立った動きは見られませんでした。現在もメガラスが警戒中です」

「……そうですか。そろそろ、何か仕掛けてくるかと考えていたのですが……」

 

 ケイブリス派が動きを見せたのは、カスケード・バウでの人質交換が最後。その後ホーネットの療養期間、そしてメディウサ討伐の旅を終えて、今は人質交換から一月以上が経過している。

 派閥の主は顎に手を当てて少しの間思案していたが、やがてその金の瞳が、二つ目のはにわ饅頭に手を伸ばそうとするその男の姿を映した。

 

「ランス。貴方はどう思いますか」

「え、俺?」

「えぇ」

 

 呆けたように自らを指差すランスへと、ホーネットやその場の魔人達の視線が向けられる。

 

 話を振られると思っていなかった彼は当然何も考えてはおらず、「そうだなぁ……」と腕を組んで考えるフリはしてみたものの、現在のケイブリス派の動きなど考えた所で分かる筈が無かった。

 

「……昼寝でもしてんじゃねーのか?」

「私は真面目に聞いています」

「……えーと、影の支配者であるこの俺の事を恐れて、戦う気を無くしちまったって可能性はどうだ」

 

 意外とあり得るかも知れんぞ、と至極真面目に頷くランスの姿に、ホーネットは静かに瞼を伏せて、サテラはがっかりしたように大きな溜息を吐いた。

 

 

「……うーん」

 

 そしてそんなランス達の様子を、シルキィはじーっと観察していた。

 彼女はそっとソファから立ち上がり、こっそりとランスのそばまで近寄ってくると、内緒話をするように耳の近くに顔を寄せた。

 

「……ねぇ、ランスさん」

「ん? どしたシルキィちゃん」

「もしかしてだけど、旅の間にホーネット様と何かあった? ホーネット様の貴方への接し方が、柔らかくなったように見えるというか……」

 

 あまり周囲に聞かせたくない内容なのか、シルキィは口元に手を当ててひそひそと話しながら、その視線は派閥の主の方へと向いている。

 彼女の知る限り、その魔人のランスへの対応はもう少し厳しかった気がしていた。ランスに意見を求めるホーネットの姿など、シルキィはとても珍しいものを目にした気分だった。

 

 これはまさか旅の間に何かが起こり、ランスが以前の宣言通りにホーネットをメロメロにしてしまったのだろうかと、つい気になってしまったシルキィは尋ねずにはいられなかった。

 

「……何か、か。ふむ、あったと言えばあったな」

「え、ほんとに?」

「あぁ。あいつがちょっと油断してた時にな、あいつのおっぱいにこう、顔を突っ込んでやった」

「……わぁ」

 

 その光景を頭に思い浮かべたシルキィの口から、とてもシンプルな驚きの声が漏れる。

 同時に、今ここにその姿があるのが奇跡のように思えた彼女は、してやったりみたいな顔をしているランスをまじまじと見つめた。

 

「……ランスさん。今更だけれど貴方って、本当に命知らずなのね」

「確かにちょっと危険な賭けだったかもしれん。だが俺様はこの通り生きている。そんな訳で、もうホーネットのおっぱいは俺様のものだ」

 

 一体なにがどうなってそんな訳でなのか、彼女にはいまいちよく分からなかったが、ランスが嬉しそうに頷いている姿を目にすると、口を挟む気が失せてしまった。

 

「それとあいつの寝込みも襲ってやったのが、残念ながらそっちは失敗だった。なぁシルキィ、ホーネットを押し倒すグッドな方法はないもんかな」

「……ホーネット様は魔人筆頭よ。それを押し倒すなんて……、貴方も魔人になるとか?」

「あー、やっぱそれか。俺も前にそれを少し考えたのだがなぁ……」

「ちょっと、冗談だから。本気にしないでね?」

 

 それも最後の選択肢としては有りかもなと呟くランスの姿に、シルキィはこの男なら本当にそんな理由で魔人になりかねないと思ってしまった。

 

 

 

 その後、魔人達の話の内容はより真面目な方向へと進んでいく。

 

 魔界都市間の魔物兵の移動に関してだとか、魔界都市に生えた世界樹から採れる食料の供給量に関してだとか、とても眠たくなってしまう話題に変わったので、ランスはお役御免とばかりにホーネットの部屋を退出した。

 

 

 自室に戻ってきたランスは、シャリエラの部屋の案内を終えたシィルの手を引いて、部屋のベッドへと潜り込む。

 久しぶりに奴隷と一戦交え、そのままベッドで昼寝をして、目が覚めたら夕飯の時間になっていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「シィル、へんでろぱ」

「はい」

 

 魔王城の食堂へとやってきたランスは、隣にいた奴隷に開口一番そう告げる。

 久しぶりにそれを作るのが嬉しいのか、シィルは軽快な足取りで厨房に向かっていく。そんな彼女の背後には、手伝いをするつもりなのかシャリエラの姿も見えていた。

 

「ふぅ、腹減った」

 

 席について料理が運ばれてくるのを待つランスは、何気無く周囲を眺める。今、食堂内には丁度時間帯が合ったのか、見知った顔が多く居た。

 特に先程会った魔人達、サテラ、シルキィ、ハウゼルの姿を近くのテーブルで発見したのだが、

 

「……て、あれ、ホーネットは?」

 

 しかし先程は居たホーネットの姿だけが、どこの席にも見当たらない事に気付く。

 まさか派閥の主は食堂まで別なのかと、脳裏にそんな事を考えたランスだったが、その言葉を耳にしたサテラはとても複雑な表情を作った。

 

「……ホーネット様はな、その……。先程、前線の魔界都市へと向かわれた」

「……え。いやだが、さっきまで部屋で話を……」

「うん。だから、ランスが部屋を出て、サテラ達の話が終わった後すぐにだ」

 

 どうやらホーネットは魔王城に帰還して休む間も無く、またすぐに出発したらしい。

 自分がシィルを抱いて昼寝をしていた僅かな間の話であり、その事を聞いたランスは感心を通り越して少々呆れてしまった。

 

「あいつ、バカ真面目にも程があるだろ。その内にぶっ倒れるんじゃねーのか?」

「……バカは付けないで。あの後少し話したんだけどね、メディウサとの戦いが想定以上に楽に済んだから、全然疲労が無いんだって。その意味じゃ、ランスさんのおかげなのかもね」

 

 そう答えるシルキィの顔にも若干困った色が浮かんでいる。彼女はその身を案じて、せめて一晩くらい休んでいったらどうかと、出発の準備をしているホーネットへと伝えてみた。

 だがその魔人は小さく首を横に振ると、いつも通りシルキィに魔王城の守りを任せて足早に城を発ってしまった。

 

「くそ、また何か仕掛けてやろうと思ってたのに。つーかあいつ、もしかして俺様から逃げたんじゃねーだろうな」

「……ランス。あんまりホーネット様に変な事をしちゃ駄目だ。ホーネット様の気分を害して、何かあってからでは遅いんだぞ」

「だいじょーぶだって。裸で襲い掛かってもちょっと怒られるだけだったし」

「お前は一体何をしてるんだっ!!」

 

 

 その後シィルが出来上がったへんでろぱを持って来て、シャリエラと共に席に着く。

 そしてランスは、久しぶりのシィルのへんでろぱの味を大いに楽しんだ。

 

 

 

 

 

 食後。奴隷の淹れたお茶で一服しているランスを余所に、食事を終えた魔人達は席を立った。

 

「それじゃあランスさん。長旅で疲れているだろうし、せめて貴方はゆっくり休んでね」

 

 代表してシルキィがそんな挨拶を残して、彼女達は食堂から去っていく。

 

 と、その時。

 

 

「ちょーっとまったー!!」

 

 どん、と湯呑をテーブルに叩きつけたランスが、突然大声を上げる。

 そしてすぐに席から立ち上がると、サッと彼女達の前に立ちふさがった。

 

「どうしたのですか、ランスさん」

「ハウゼルちゃん。何か忘れてないか?」

「……ええと」

 

 忘れ物があったでしょうか? と、ハウゼルは先程自らが座っていた席の方を振り返る。

 

「そうじゃない。この俺様が蛇女を退治して魔王城へと凱旋した。つー事は、どういう事だ?」

「どういう事……ですか?」

 

 まだランスの考えを推し量るのに慣れておらず、顔に疑問符を浮かべるハウゼルに対して、サテラとシルキィの二人はすでに嫌な予感を覚えていたのか、どこか苦い表情を向けた。

 

「……ランス。お前は何が言いたいんだ」

「決まってんだろそんなん。大活躍した俺様への、ご褒美ターイムを忘れちゃいかんよなぁ?」

「……まぁ、そんな事だろうと思ったけどね」

 

 今夜のお相手。彼女達を引き止めた理由はただそれだけだが、しかしとても大事な事。

 英雄である自分の大活躍の後には、その英気を養う必要がある。それはランスにとって至極当たり前の話であった。

 

「ぐふふふ……今夜俺様に抱かれる事になる、幸運な女の子はだーれかなぁーっと」

 

 ランスは焦らすように魔人達の周囲をぐるっと一周した後、サテラの隣で立ち止まった。

 

 

「俺様の今晩の相手。それは、超ー敏感肌でエッチな、サーテラちゃんかなぁー?」

「うぐ……」

 

 にやりと笑うランスは、サテラの頭の上にぽんと手を乗せる。

 思わず唇を噛んだその魔人は、照れ隠しの体でランスをキッと睨み上げる。

 

 

「それとも、隠しているが実はノリノリでエッチな、シルキィちゃんかなぁー?」

「……はぁ」

 

 サテラから離れたランスは、今度はシルキィの隣に来てその肩を抱き寄せる。

 小さく溜息を漏らしたその魔人は、全て受け入れる様子で静かに目を瞑る。

 

 

「いやいやそれとも、とっても押しに弱くてエッチな、ハウゼルちゃんかなぁー?」

「うぅ……」

 

 シルキィから離れたランスは、今度はハウゼルの隣に来てその腰に手を回す。

 脳裏に以前抱かれた時の記憶が蘇ったのか、その魔人は頬を染めて顔を背ける。

 

 

「て、ちょっと待て。ハウゼル、お前まさか……」

「そ、そんな目で見ないで、サテラ……」

 

 今の話の流れから、とある事に気付いてしまったサテラ。そんな彼女の視線から逃げるように、ハウゼルは自らの顔を両手で覆った。

 

「あぁ、やっぱりそうなんだ」

「やっぱりって、シルキィ知ってたのか!?」

「……んー、そういう訳じゃないんだけどね。ハウゼルの事だからその、遅かれ早かれというか……」

 

 人の頼みを断れない性格のハウゼルにとっては、魔人だと言う事に恐れを持たず、ぐいぐい攻めてくるその男は天敵に近い相手。

 信頼している仲間の事ながら、ランスの魔の手に落ちるのは残念だが時間の問題だろうと、シルキィは内心で考えていた。

 

「ハウゼル。貴女がそうなった経緯は聞かなくても何となく分かるけれど、それでも、ちゃんと断れる性格にならないと駄目だと思うわ」

「……シルキィ。えぇ、これでも分かってはいるんだけど……」

 

 自分の事を心配してくれているシルキィの言葉を受けて、ハウゼルは切ない表情で顔を伏せる。

 

「……とはいえ、私も貴女に対して、偉そうに言える立場じゃないんだけどね」

「……そうなの?」

「うん。そうなの」

 

 俺様に感謝しているんだろ? と言われてしまうと色々と断れなくなっている現状を憂い、ハウゼルと顔を合わせたシルキィは似たような表情で、二人同時に似たような溜息を吐いた。

 

 

 

 

 そんな思い悩む魔人達をよそに。

 

「今晩の俺様の相手。それは、お前だー!!!」

 

 ランスは未だ食堂のテーブルにて夕食を食べている途中の、その少女に向かって人差し指を勢いよく突き出した。

 

「……わたし?」

 

 ご指名を受けたシャリエラは、スプーンを口にくわえながらちょこんと小首を傾げる。

 

「うむ。旅の間はちょうど良いタイミングが無かったからな。ご主人様として、そろそろお前とセックスしておかないと。シャリエラ、覚悟はいいか」

「うん、もちろん。ご主人様とエロい事するのも人形である私の役目だから」

 

 テーブルに食器を置いたシャリエラは、かかってこいと言わんばかりの無表情で胸を張る。

 全くの未経験ではあるが、主人から命令された時の為にと何度もイメージトレーニングをしていたらしく、感情の色が浮かばないその目の奥には自信が溢れていた。

 

 

「よーし、いい度胸だシャリエラ。んじゃ、俺様の部屋へとレッツらゴー!!」

「あーれー」

 

 本日のお相手軽く抱え上げ、ランスはそのまま自室へと走っていく。

 

「ぽーいっ!」

「きゃー」

 

 棒読みの悲鳴を上げるシャリエラを、寝室のベッドの上へと放り投げる。

 

「それじゃ、いただきまーっす!」

 

 その華奢な身体の上に覆い被さり、しっかり一礼した後手を伸ばす。そして彼女の胸を掴んだ所でその無表情の顔が横に振られた。

 

「待ってランス。これはやり方が違う。作法なら覚えているから、シャリエラにまかせて」

 

 そう言ってシャリエラはランスの下から脱出すると、逆にランスの体の上にその身を乗せる。

 

「あー、そういやそんな感じだったな。んで、結局全然まともに出来ないんだよな、シャリエラは」

「……む」

 

 前回と似た展開を懐かしむランスの様子に、事情は分からないが侮られた事は理解したシャリエラの眉が、ぴくんと動いた。

 

「出来なくない。シャリエラは夜伽の練習も沢山した。する前から決めつけられると不愉快」

「んな無理すんなって、初めてだろお前。俺様が優しくしてやるからよ」

「そんなの必要無い。シャリエラに任せて、ご主人様はそのまま寝てればいい」

 

 シャリエラは全く譲らず、ランスの身体の上から下りようとはしない。

 主の為に働く人形である事に拘るあまり、殆どその感情を見せてしまっていたのだが、その様子を見たランスはそれでもいいかと思い、両手を頭の後ろに組んで身体の力を抜いた。

 

「分かった分かった。んじゃあまた、シャリエラちゃんに任せてみるかね。その無表情の顔がどこまで保つか、愉しませてもらおうじゃねーか」

「ん。シャリエラ、がんばる」

 

 

 

 

 その無表情が崩れるまで、時間にして約一分も掛からなかった。

 

 ランスのハイパー兵器を見ただけで、彼女は驚きに目を丸くし、その後はとっても感情豊かになってしまう。

 それでもがんばると決意したシャリエラは、逃げ出したくなる気持ちを必死に抑えて、ぎこちない様子でランスの性欲に精一杯応えた。

 

 そして終わった後には、彼女は自らご褒美を要求して、ランスに沢山褒めて貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 

 ホーネットが救出されて以降、動きの無かったケイブリス派。

 だが、当然の事ながら寝ていた訳では無い。

 

 今現在、ホーネット派の最前線となる魔界都市、ビューティーツリー。

 

 その都市が、為す術も無くケイブリス派によって奪われた。

 そんな知らせがランスの下に届いたのは、次の日の事であった。

 

 

 

 

 

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