ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

59 / 197
夢のハーレム

 

 

 ある日の魔王城。

 

 

「ぐぅぐぅ……ぐぅぐぅ…………んが?」

 

 朝。

 自室のベッドの上で、ランスは目を覚ました。

 

 

「ぬぅ……。あー、よく寝た」

 

 まだ半覚醒のぼんやり頭のまま、のそのそとベッドから体を起こし。

 くあー、と大あくびと共に腕を伸ばすと、軽い倦怠感の残る全身に徐々に力が巡っていく。

 

「……お?」

 

 ふとランスは横を見てみる。するとすぐ隣に魔人サテラが居る事に気付く。

 同じ毛布に包まれて、ランスに引っ付くようにして寝入っている彼女は一糸纏わぬ格好であり、意外とあるその胸の双丘から、大事な箇所さえも全て無防備に晒していた。

 

「……あー。そういやぁ、昨日はサテラを抱いたんだっけか?」

 

 まだ頭がしゃんとせず、どうにも記憶が定かでは無いが、この魔人が裸で自分の隣に居て、ついでに自分も素っ裸だと言う事はそういう事だろう。

 朝起きた時に誰かしらの女性が隣に居る事は、その男にとっては当たり前の日常であって、一々気にするような事では無かった。

 

「……ふーむ」

 

 すやすやと眠るサテラの裸体を見ていたら、朝っぱらだと言うのに何だかむらむらしてきたランスは、何となしに彼女の胸の先を弄ってみる。

 

「ん、ふぁ……」

「……おぉ、反応した。やっぱ寝ている時でも敏感なんだなぁ、こいつは」

「……んゅ、やめ……あ、らんす……」

 

 身体に強く走る甘い痺れに、どうやらサテラの意識も覚醒したらしい。

 胸を無遠慮に触る手を払いのけ、ゆっくりと身体を起こした彼女は寝ぼけ眼で相手を睨んだ。

 

「……ランス。お前というやつは、朝から何をしているんだ」

「がははは。軽いジョークだ、そう怒るなって」

「まったく……」

 

 魔王城にやって来たランスの口車に乗せられ、その身を委ねる事になってから早3ヶ月近く。

 何かと怒りっぽいサテラといえども、この程度のセクハラにはさすがに慣れてしまったのか、怒るというよりは呆れたように嘆息した後。

 

「ランス、ちょっとこっち向け」

「あん?」

「……んっ」

 

 サテラはそっと目を瞑り、くいっとその首を少し上向きに傾けて、僅かに突き出したその口元をランスの顔の前に寄せる。

 それはまるで、恋人が相手にキスを求める仕草。いや、まるでと言うかまさにそのものだった。

 

「……どした?」

 

 柄に合わない、とても柄に合わないその魔人の起き抜けの奇怪な行動に、つい面食らってしまったランスはそう尋ねてみたものの。

 

「……んっ!」

「いやあの、ん、じゃなくて……」

「……んー!」

 

 サテラは一向に答えようとはしない。閉じた瞳も開く事は無く、そのままの姿で更に首を伸ばし、更に口元をアピールする。

 早くキスをしろ。さもそう言わんばかりの態度に、ランスの頭の中に沢山のはてなが浮かんだ。

 

(……なんだこいつ、頭でも打ったか? もしかして、寝返りをした時に肘が入っちゃったか?)

 

 そんな事を考えてしまうのも致し方無く、サテラが自分に対してキスをねだる姿など、ランスは一度たりとも目にした記憶が無い。

 

 この魔人はプライドが高く尊大な性格をしており、基本的に自分に対してはつんけんしている。それでも言葉や行動の端々から好意が滲み出る事があり、自分にメロメロなのは間違い無い筈。

 言ってしまえば、普段の尖った態度は全て照れ隠しであって、そういう所が中々可愛い奴じゃないかと思うランスなのだが、とにかくこんな真っ直ぐに自分を求めてくる姿は見た事が無かった。

 

 

 魔人サテラの急な変化、その妙な変わり様に、ランスは内心大いに疑問を抱いたものの、

 

「ま、いっか」

 

 よくよく考えてみれば、別に何か自分にとって不都合があるような変化では無い。

 ランスは相手の要望通りにキスをしてあげた。

 

「んー……」

 

 待ちわびていた柔らかな接触に、その魔人の喉から嬉しそうな声が聞こえて。

 そして数秒後に互いの顔が離れる。だがサテラはまだ物足りなさを感じたのか、そのまま自分の頭をランスの引き締まった胸板に寄せた。

 

「……ん~♪」

 

 すりすりと頭を動かして真紅の髪を揺らしながら、心地良さそうに寄り付くその仕草は、まるでわんわんかにゃんにゃんかと言った所か。

 加えて言えば未だにサテラは裸であり、そんな格好で幼子のように甘える姿には得も言われぬ色気を醸し出していたのだが、いずれにせよこの魔人にはさっぱり似合わない姿であった。

 

「……おいサテラよ、お前どうした? さっきから全体的に何だかおかしいぞ」

「べ、別におかしくは無いだろう。えっと、あれだ。たまにはその~、使徒に褒美をと思ってな」

「……ほーん、褒美ねぇ」

 

 サテラがそんなサービス精神に溢れる魔人だった覚えは無いのだが、考え方でも変わったのだろうか。というか、ご褒美というならもっと性的な内容の方が嬉しいのだが。

 などと思うランスであったが、滅多に褒美など与えないこの魔人がその気になったと言うのなら、ここは深く考えず受け取っておこうと思い、小動物の真似を続ける彼女の頭の上に手を乗せる。

 

「よーしよーし、なーでなーで」

「あ、ランスぅ……」

 

 大きな手のひらで頭を雑に撫でられ、人より敏感な彼女はきゅっと目を瞑り、そのくすぐったい感覚を頑張って耐え忍ぶ。

 

「ほーれほーれ、わーしゃわーしゃ」

「うぅ……」

 

 そうして少しの間、ランスはサテラの頭をなでなでしていると、

 

「さーわさーわ……お?」

 

 コンコンと、部屋のドアを叩く音が聞こえて。

 ノックをしたその人物は、部屋の中に居るランス達はまだ眠っているだろうと思ったらしく、返事を待たずしてすぐに戸を開いた。

 

 

「あ、やっと起きたのね。もう、寝坊よ二人共」

「ありゃ? シルキィちゃんだったか」

 

 部屋に入ってきたのは、魔人四天王シルキィ・リトルレーズン。

 ノックの音が聞こえた時、ランスが想像したのはシィルの姿だった。毎朝自分の事を起こしに来るのは、奴隷の仕事だからである。

 

 そんな想像とは異なり、部屋に入って来たのがシルキィだった事にランスは少々不思議に思ったものの、そんな些細な疑問などどうでもよくなる程に、とても気になった事が一つあった。

 

「……てかシルキィちゃん。君、何で裸なの?」

 

 その魔人は上も下も一切服を着ておらず、健康的な色の肌、起伏の少ないなだらかなボディラインの全てを余す所無く露出していた。

 

 彼女の普段着は布面積がとても少なく、着ていても着ていなくても然程違いの無い服ではある。

 しかし、とはいえシルキィには露出癖があるという訳では無いし、寝起きのサテラとは違って、自分達を起こしに来たらしいシルキィには服を着る暇があった筈なのに、一体何故に全裸なのか。

 

 ランスのそんな疑問に、あたかも当然の事を言うかのような口ぶりで、その魔人はあっさりと答えを返した。

 

「だってランスさん、こっちの方が好きでしょ?」

「……え?」

「え? って……違うの?」

「あ、いや、違くは無いのだが……」

 

 しかしそんな理由で全裸なの? と、その発言の真意がよく分からず、思わず首を傾げてしまうランスに対して。

 一方のシルキィには特に気にした様子もない。それどころか、彼女はランスのすぐそばにまで歩いてくると、自然に顔と顔を近づけて、

 

「おはよ、ランスさん」

 

 ちゅっ、と音が鳴る。

 シルキィは朝の挨拶と共に、ランスの頬に触れるような口付けをした。

 

「……お? おぉ……!」

 

 魔人四天王のまさかの行動を受けて、ランスは胸中に湧き上がるものがあったのか、呆然とした様子で唇の感触の残る頬をその手で触れる。

 そして以前からちょくちょく考えていた、実はそうなのではないかと薄々気付いていたその事に、ここに来て遂に確信を持った。

 

「……ははーん。そーかそーか、そういう事か」

「んー、なんの事?」

「シルキィちゃん。さては君、俺様に惚れたな?」

 

 きっとそういう事だろう。であれば先程の行動にも納得がいくと、ランスは脳内で大いに頷く。

 

 元々シルキィとは魔人を一体倒すという約束を交わし、その結果ランスは彼女を抱けるようになっただけで、そこに恋愛感情があった訳では無い。

 シルキィはとても義理堅い性格であり、自らの口で約束した以上は仕方無い事だと、今までランスのあれやこれやに付き合ってきた。

 

 だがその後、共に日々を過ごす内に惹かれるものがあったのか、もしくは何度も肌を重ねる内に情が湧いてしまったのか。いずれにせよ遂にこの魔人四天王も陥落して、心の底からメロメロになったのだろう。

 

 そう考えたが故の、自分に惚れたのだろうというランスの問いに対して。

 

「もう、何言ってるの」

 

 くすりと、からかうように小さな笑みを零したシルキィは、その両腕をランスの首に抱きつくようにぐるっと回し。そして。

 

 

「そんなの当たり前でしょう? 愛しているわ。ランスさん」

 

 熱の籠もった視線でランスの瞳を覗き込みながら、身体を預けるようにしな垂れ掛かってきた。

 

「な、なななっ!! シルキィちゃん、君、なんと積極的と言うか、情熱的と言うか……」

「そう? 普通だと思うけど」

 

 シルキィは平然とした様子でそう言うが、決して普通では無いとランスは思う。このような彼女の姿など、先のサテラ同様に今まで見た記憶が無い。

 

 シルキィ・リトルレーズン。彼女はとても真面目な魔人である。

 性行為の最中などは人が変わったように激しく求めてくる彼女ではあるが、しかし日常ではそのような夜の顔を見せる事など決して無い。

 朝の挨拶のようにキスをされた事など初めての経験であるし、愛の言葉を囁くなどもっての他。

 

 これは自分の気持ちを自覚したが故なのか。

 恋愛とは、こんなにも人を変えるのだなぁと、しみじみと思うランスの一方。

 

「……うぐぐぐ」

 

 そんな光景を見せ付けられていた別の魔人、今まで一応気を利かせて黙っていた彼女にとっては、そろそろ我慢の限界だった。

 

「……あのなぁシルキィ!! 言っておくが、ランスはサテラのものなんだからな!!」

 

 彼女は所有権を主張するかのように、ランスの右腕を自分の胸元に抱き寄せながら吠える。

 ランスは現状サテラの使徒という扱いであり、それはシルキィとも相談して決めた事。そして、当然だが使徒というのは主たる魔人のものである。

 

「分かってるって。サテラのものを取るつもりは無いわ」

 

 ムキになるサテラに対して、シルキィは実に呆気なくランスの首から両腕を外す。

 その態度は決してサテラと争うつもりなど無く、早々に身を引く事を表明した姿のようにも見えたのだが。

 

「でも……」

 

 小さく呟きながら、シルキィはサテラと同じようにランスの腕を持ち上げる。

 そして、それを抱き寄せた逆側の魔人に対して、彼女はまるで二人の関係を示すかのように、ランスの左腕を自らの首に回し、その懐に潜り込んだ。

 

「ランスさんは私のものじゃないけれど、私がランスさんのものなのよ」

 

 ランスとシルキィが交わした約束、それは自分の女になれという内容であり、そこから考えれば彼女の発言は間違ってはいない。

 しかし、わりととんでもない事を平気な顔で口にするシルキィの姿は、先の言葉とは裏腹にランスの事を譲る気など全く無いように見えた。

 

「なぁっ!? シルキィ、それは屁理屈だぞ!!」

「別に屁理屈じゃないわよ。私がランスさんのものだというのは事実だもん。ねーランスさん?」

「そのとーり!!!」

 

 魔人サテラと魔人シルキィ。

 共に見目麗しく、魅力的な二人が自分を取り合う男冥利に尽きる状況に、ランスは辛抱堪らず両者をぐいっと両腕で抱き込む。

 朝っぱらから妙に積極的な両魔人のアピールに、この際理由など気にしない事にしたランスは大層気を良くして、ついでとばかりにハイパー兵器は元気一杯になっていた。

 

「全く二人共、俺様を取り合って喧嘩などするんじゃない。そんなに俺様が欲しいなら、すぐにでも二人共にくれてやろうじゃないか」

「……む。今からか? サテラはその、ランスがどうしてもと言うなら、まぁ……」

「私も構わないけど……。けどランスさん、朝ごはんを食べてからにしたら? お腹空かないの?」

「……言われてみると」

 

 確かに目が覚めてから多少時間が経った事で、腹部に強い空腹感を覚えてはいるが、しかし自分にとって性欲は食欲に勝る。

 今は朝飯などよりもセックスだ。そう思うランスの耳に、ふと気になる言葉が飛び込んできた。

 

「朝ごはんの準備ならもう出来ているし、それに、向こうで二人も待っているわよ」

「……二人?」

 

 シルキィの言う二人とは、一体どの二人の事を指しているのか。それが何だが無性に気になったランスは、自然と眉を顰める。

 この状況において幾つか可能性は挙げられるが、この時ランスの直感がびびっと働き、恐らくシルキィの言う二人とは魔人なのではないかと思った。

 

 つまり、あの魔人とあの魔人。

 その答えを確かめたくなったランスは、両腕に抱えた二人の魔人の事は一旦置いておき、すぐにベッドから下りる。

 

 

 そして、寝室と居室を隔てる戸を開くと、一人の女性の姿が目に映った。

 

「あ、起きたのですね」

「ふむ、やっぱりハウゼルちゃんか」

 

 先の直感通り、そこにいたのは魔人ハウゼル。

 彼女は座っていた食卓の椅子から立ち上がると、ランスに向けて嫋やかに微笑んだ。

 

「ふふっ、ランスさん、寝癖が立っています」

「む、後で直すか」

「昨日は良く眠れましたか? 朝ごはんならもう出来ていますよ」

 

 彼女の言葉通り、食卓の上には朝に食べるにしては少々豪華過ぎる食事の数々が並んでいる。

 果たして誰が作ったのだろうか、もしやハウゼルが作ったのか。なんて事を思う余地など無く、ランスの意識は眼前の魔人の素晴らしい格好に釘付けになっていた。

 

「あぁ、それは良いのだが……君も裸なんだな」

 

 普段着用している赤色で揃えられた上下の装いは何処へやったのか、ハウゼルの姿もサテラやシルキィと同じく何一つ隠さない素っ裸。

 今この部屋には服を着ている者など誰も居らず、とても明け透けな空間となっていた。

 

「もしや君も、俺様が喜ぶからと裸なのか?」

「えぇ。……その、少し照れますけどね」

 

 恥じ入るように頬を染めるハウゼルだが、しかし一向にその身体を隠そうとはしない。

 先のシルキィ同様、冷静になって考えればさっぱり意図が理解出来ない行動であり、どう考えても妙な事になっているのだが、すでに脳内の八割方がピンク色に侵食されたランスにとって、そんな不自然さなど些細な事だった。

 

「少し待っていてください。ごはんが冷めてしまったので、温め直してきますね」

「いや、飯などどうでもいい。俺様は朝飯よりもハウゼルちゃんを食べたい」

 

 ランスのそんなどストレートな要求に、性的な事に耐性の無いハウゼルはすぐに平常心を失う。

 駄目ですランスさん。と口だけの抵抗をするものの、決して嫌だと言えない彼女は、ぐいぐいと押しに押していくランスの前に、最終的にはベッドインにまで持ち込まれてしまう。

 

 以上がランスにとっての、ハウゼルとセックスする時のいつもの流れなのだが、しかし今日の彼女は何かが違っていた。

 

 

「……はい。私も、朝ごはんよりも私の事を食べて欲しいです」

「なんと!?」

 

 さすがに平常心で言える言葉では無いのか、照れ笑いを浮かべているハウゼルではあるが、その顔はともすれば妖艶に微笑んでいるようにも見えて。

 思わずランスが仰天してしまう程に、今日のハウゼルは何故だかとても積極的であった。

 

「……そうかそうか。君もシルキィと同じように、自分の心に素直になったという事か」

「そういう訳では無いのですが……」

「なぁに、照れる必要など無い。そういう事なら、君の事も美味しくいただいてやろうじゃないか。……だが」

 

 言葉を一度区切ったランスは、逸る気持ちを抑えるようにこほんと咳払いをして。

 

「ハウゼル、なんでも聞く所によるともう一人居るそうじゃないか。そいつは何処だ?」

「あ、はい。ランスさんが寝ている間に所用を済ませてくると、今少し外されていまして。多分そろそろ……」

 

 ここに居ない最後相手について尋ねたちょうどその時、ランスの背後にあった出入り口のドアが開かれて、一人の女性が部屋の中に足を踏み入れる。

 

「あ、戻られましたね」

「……お」

 

 振り返ったランスの眼に映ったのは、先の直感通りのあの魔人。予想通りだったのにも関わらず、ランスは言葉を失ってしまった。

 その理由はつい先日、彼女を抱くのにあと一歩と迫ったが最終的に取り逃がしてしまい、その後悔はあれから数日経った今でも尾を引いている程の、ランスにとっての因縁の相手だったからである。

 

 

「ほ、ホーネット……」

「あぁ、ランス。起きましたか」

 

 最後の一人、それは魔人ホーネット。

 

「……ごくり」

 

 彼女の姿を目にしたランスは思わず息を呑む。

 やっぱりと言うか何と言うべきか、ホーネットも先の三人同様に一糸纏わぬ全裸であり、均整のとれたその抜群のプロポーションを、ランスの眼前に堂々を突き付けていた。

 

 先日の混浴の後、彼女はすぐに前線の魔界都市に出発した筈なのに、何故今ここに居るのか。

 ついでに言ってしまえば、この部屋の中ならともかくとして、そんな格好で部屋の外の廊下を歩いて大丈夫なのだろうか。

 などと言う疑問など欠片も持たず、ランスはふらふらとホーネットに近づいてゆく。

 

 今すぐあの日のリベンジを。それしか頭に無いランスは、自然と彼女の胸に両手を伸ばす。

 

「……くっ」

 

 しかしその手がその膨らみに触れる寸前、誰に止められる訳でも無く、ランスは自らの意思で両手に待ったを掛ける。

 

 先日の混浴の際には、その溢れる色気の前に興奮して攻め手を焦り過ぎてしまい、結果大魚を逸する事となった。

 その時の反省が生きた結果、ランスは欲望に釣られてしまう我が腕を寸前で食い止める事に成功したらしい。

 

 だが、とはいえその胸、その身体に触りたいという気持ちも抑えられるようなものでは無く、暫し煩悶したランスは結局。

 

「……なぁホーネット」

「何ですか?」

「おっぱい触っていいか?」

 

 一番無難な方法、本人から許可を取る事にした。

 普通に考えれば頷く筈など無い話だが、何故だか今のランスにはいける予感があった。

 

「………………」

 

 その予感は果たして、当たっていたのかどうか。

 セクハラそのものな質問を受けたホーネットは、少し悩む様子を見せた後、僅かに首を傾げる。 

 

「何故ですか?」

「……いや、何故って言われてもな……そこに触りたいおっぱいがあるから?」

 

 一体何故おっぱいに触りたがるのか。ランスにとってはまるで哲学のように聞こえるその疑問に、山を前にした山男のような答えを返す。

 

 だがランスのその返答は、ホーネットが質問した意図とは大きく違っていたらしく。

 

「……そうではありません」

 

 魔人筆頭は小さく首を横に振ると、その豊かな胸の谷間をそっと押さえて。

 決してランスからは眼を逸らさないが、その瞳は熱を持ったように艷やかに潤み。

 そして、とどめとばかりにその頬を赤く染めて。

 

 

「……この身体も、この心も、私の全てはもうランスのものです。何故今更、私に触れる事を躊躇うのですか?」

「…………ぁ」

 

 ホーネットのその台詞でもって、ランスの自制心はめでたくノックアウト。

 彼女の全てを手に入れた覚えなど無いような気もしたが、そんな事はもうどうでも良かった。

 

「……っがーー!!! どいつもこいつも、俺様を興奮させる事ばっか言いやがってーー!!!」

「あっ」

「きゃ、ランスさん!?」

 

 猛るランスは右腕にホーネット、左腕にハウゼルを抱えると、部屋の中をダッシュで猛然と駆け抜けてそのまま寝室の戸を蹴飛ばす。

 

「あ、帰ってきた」

「やっぱり二人も一緒ね。ランスさんの事だからそうなると思ったけど」

 

 未だベッドの上には二人の魔人の姿。どうやら寝起きのサテラの髪を、シルキィがポニーテールにセットしてあげていたらしい。

 

 そんな二人のそばに、ランスは両腕に抱えた二人の魔人を放り投げた結果、遂にランスの寝室にホーネット派の魔人達が勢揃いした。

 

「お前ら全員、ランス様が可愛がっちゃるわーー!! 明日の朝、いや、明後日の朝まで一人たりとも寝かさん!! 覚悟はいいかーー!!!」

 

 ベッドの上で待ち構える四人の下へ、宣言と共にランスはぴょーんと大ジャンプ。

 

 宙を飛んでくる人間の男を、四人の魔人はそれぞれの笑みで迎え入れた。

 

 

 

 突然降って湧いた、ホーネット派魔人達とのハーレムプレイ。その最中にふとランスは思う。

 

 もしかしてこれは一時の夢なのではなかろうか。そんな事を思い、そしてまたすぐに思う。いいや、これは決して夢などでは無い。

 それが証拠に彼女達に触れた感触、その熱、その息遣い、そして聞こえる嬌声までもが全てが生々しく、ランスには彼女達を貫いている確かな実感、確かな悦びがそこにあった。

 

 一体何故こんな事になったのか。彼女達の身にどのような心境の変化があったのか。

 もしかして日々をいい子に過ごしていた自分へのご褒美、神様の粋な計らい、天からの素敵なプレゼントなのだろうか。

 

 そんな事を思ったのは寸刻の事、すぐに自分を欲しがる彼女達の声が聞こえたので、もはや思考など捨てて極上の快楽を味わう事だけに只々没頭し。

 先の宣言通りに次の日、そしてまた次の日が訪れても尚、四人の魔人を隅々まで堪能し尽くさんと、猛るランスが止まる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 そして、ランスは目を覚ます。

 

 時刻は朝ではなく昼、場所も魔王城では無い。

 ここはワーグの小屋。そこにあるベッドの上にランスは居た。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。