ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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魔人達との再会

 

 

 

 

 ヘルマン国西端、番裏の砦。

 夜の闇に包まれる中、外壁に取り付けられているランプがその姿を照らし出す。

 

 砦の内部に響き渡る衝撃音の正体、それは魔人サテラが制作したガーディアンのシーザー。

 彼は目の前に聳える堅牢な大門に対して、先程から何度もぶちかましを繰り返していた。

 

「シーザー! お前の力を見せてみろ! そんな門、ぶち壊せ!」

「ハイ、サテラ様!」

 

 彼にとって主人の命令は絶対的なもの。シーザーは粘土で作られたその身体に気合を入れる。

 

「ねぇ、サテラ」

「シルキィ。大丈夫だ、ここはサテラとシーザーに任せろ。シーザーのパワーならすぐに終わる」

「いや、あのね……」

 

 ──ぶち壊されるとちょっと困るんだけど。

 熱くなっているサテラとシーザーを眺めながら、シルキィは着込んでいる装甲の中でふぅ、と息を吐き出した。

 

 

 呼び出しを受けて人間世界まで出向いてきた魔人サテラと魔人シルキィ。

 二人は先程目的地であるこの番裏の砦に到着したのだが、そこで少し問題が生じた。

 

 到着したのは良かったのだが、しかしこの番裏の砦とは魔物界とヘルマンを縦に区切る障壁、つまりとても長大な建造物である。

 手紙には番裏の砦に来いとしか書かれていなかった為、呼出人が何処に居るのかが分からない。最北の詰め所に居るならばここから更に歩かねばならないし、最南であっても同様である。

 するとサテラが「中に居る人間を脅して聞き出せばいい」と言い、それにシルキィが「けれど門が閉じているわよ」と返したら、再度サテラが「なら破壊すればいい」と答え、後はこの通りである。

 

(サテラは全く……。もうこんな遅い時間だし、中には寝ている人も居るでしょうに)

 

 魔人であるが何かと人間思い、そんなシルキィはこんな時でも砦内の兵士達の事を心配しながら、さてどうしたものかと眉根を寄せる。

 このままでは本当にシーザーが大門を破壊してしまいそうだし、そうなるとここの兵士達はみんな困るし、それだけで無くこの国で生活している全ての人々も困ってしまう。

 なのでそろそろサテラ達を止めようかと、そんな事を考えていた時。

 

 

「止めんかーーー!!!」

 

 その頭上から男の大声が聞こえた。

 シルキィには勿論その声に聞き覚えなど無かったのだが。

 

「むっ、この声は……!」

 

 一方でサテラには聞き覚えがあったのか、その声に応じてすぐに上を見上げる。

 声の主は大門の上、砦の縁に堂々たる姿で立ち、二人の魔人とガーディアンを見下ろしていた。

 

「……ランスっ! 遂に会えたな!! お前の希望通りに来てやったぞ!!」

「おう、遅かったじゃねーか、サテラ」

 

 すでに血気盛んな様子のサテラの言葉に、その相手は軽く返事を返す。

 

(……あれが世界総統ランス。か)

 

 月明かりが映し出すその姿を目にして、シルキィは装甲内でふむ、と頷く。

 魔人とは古来より人間にとっての恐怖の象徴、そんな魔人をわざわざ二人も呼び出すなど一体どんな人間の仕業なのだかろうかと、ここに来るまでそれがずっと気になっていた。

 こうして相対してみると、その男の表情からは内に秘めた自信と強い意志が見て取れる。そしてついでに言うと口が大きい。

 

(こうして見ると戦士のような出で立ちね。世界総統っていうからもっと……あっ)

 

 すると「とーーう!!」という威勢の良い掛け声と共に、その男は砦の縁から跳躍する。

 まさかそのまま飛び下りるつもりか、しかし地面までは結構な高さだが大丈夫だろうか。とシルキィがつい心配してしまった一瞬で、その男は大地にバシッと着地した。

 

「ぐ、ぬ、いつつ……」

 

 するとすぐにしゃがみ込んで足を押さえる。やはり痛かったらしい。

 どうにも格好が付かないその男を指差しながら、赤髪の魔人が気合と共に告げた。

 

「 遂に決着をつける時が来たな、ランス! さぁ勝負だ、サテラが勝ったらお前はサテラの使徒になってもらうぞ!!」

「使徒になれって……お前は相変わらずな事を言う奴だな……って勝負? なぜ勝負?」

「お前がサテラと決闘する為にここに呼び出したんだろう! ほら、この手紙!」

 

 サテラは右手に持っていた手紙を相手に向けてむんずと突き出す。

 それを目にしたランスは眉を顰め、こいつ何を言ってるんじゃと言わんばかりの表情になった。

 

「その手紙は確かに俺様が出したけど、決闘なんて書いとらんだろうに」

 

 その言葉に「あぁ、やっぱり……」とシルキィは内心で嘆息する。

 サテラはずっと戦う気満々だったが、しかしあの手紙にはそんな事は一言も書いていない。

 事は全てサテラの早とちり、なにかとおっちょこちょいな彼女がやらかしたミスであり、そんな所が気になって仕方無いというのがシルキィがここまで同行してきた理由となる。

 

(……けど。だとすると一体何の用事なのかしら)

 

 サテラが勘違いした理由として、あの手紙には会いに来いとだけ書いてあり、その肝心な要件が何処にも書かれていない。

 自分達二人を呼び出した理由は何なのだろうかと、シルキィがそんな事を考えていると、ちょうどランスの視線がそちらに向いた。

 

「シルキィちゃんも、久しぶりだな」

「………………」

 

 その言葉に思わずシルキィは硬直する。

 

(『ちゃん』? ……私が魔人四天王って知って呼び出したのよね? それとも知らない? それに久しぶりって……)

 

 魔物界で長い年月を過ごしているシルキィにとって、人間に出会ったのはもう随分振りの事。

 もし何処かで会っていたとしたら、こんな記憶に残りそうな男の事を忘れるはずが無かった。

 

「……ごめんなさい。私、以前に貴方と会った記憶が無いのだけれど」

「ぬ、それもそうだな。まぁそんな事はどうでもいい。それよりシルキィちゃん、せっかくこうして会えたのだからそのデカブツは脱いでくれんか」

 

 そう言ってランスが指差したのはシルキィがその身に纏うずんぐりとした丸っこい鎧。

 彼女は自衛の為、自身にのみ扱える魔法具の装甲を全身に装備している。この数百年以上、外に出る時と言えば基本的にはこの格好である。

 今回は人間の地に赴くとはいえ、争い事が無いとも限らない。現にサテラはとてもやる気満々だったため、当たり前のようにこの装甲を装備してきたのだが。

 

(……でもそうね。この人は戦うつもりじゃないようだし、初対面の人に武装状態は失礼かしら)

 

 基本的に常識人のシルキィは当たり前にそんな事を考え、装備していた装甲を一斉に解除する。

 どういう仕組みなのか、魔法具の装甲はシルキィの合図一つで何処かへと消えて、結果彼女の非常に際どい姿がランスの前に晒された。

 

「うむ、君は相変わらずエロい格好でグッドだ」

「………………」

 

 色々言いたい事気になる事はあったが、シルキィは無視して話を進める事にした。

 

「……貴方が世界総統ランスさん、よね。初めまして。私は魔人シルキィ・リトルレーズン。早速だけど、私達をここに呼び出した理由を聞かせてもらっていい?」

「そうだぞランス! サテラと決着をつけるためじゃないなら一体何の用なんだ! サテラ達は人間と違って暇じゃないんだぞ!」

「呼び出した目的か。そんな事は決まっとる!!」

 

 するとランスは人差し指と中指の間に親指を挟んで、下品な形の拳を二人の前に突き出した。

 

「……セックスだ!!」

「いや心の友、目的変わっとるて」

 

 何処かからツッコミの声が聞こえたが、それは二人の魔人の耳までは届かず。

 

(……え?)

 

 その衝撃的な返答に、シルキィはぽかんとした表情になった。

 セックスと聞こえたが聞き間違えたのだろうか。というかそうであってほしい。

 でなければまさかあの手紙の目的はそういうお誘いなのか。会ったことも無い自分とサテラに対し逆夜這い的な事を頼むものだったのか……とそんな事を考えるシルキィの一方。

 

「……ランス。お前は、お前は……」

 

 サテラの怒りのボルテージはぐんぐん急上昇していき、そしてすぐに爆発した。

 

「ランス、お前はやっぱり殺すーー!!」

「ぎゃー!! おい止めろ、危ねぇだろうが!!」

「ちょ、ちょっとサテラ……!」

 

 顔を赤く染めたサテラが振り回す得物、その手に握る鞭がひゅんひゅんと高速でしなる。

 ランスは跳ねたり低くしゃがんだりして、どうにかこうにか鞭の乱撃を回避する。

 

「心の友よ。さっさと本当の目的を話して話を進めた方が良くない? 相手は魔人二体だし、あんまり変に挑発するのは危なくね?」

「ぬう、俺様にとっては大事な目的の一つなのだが……しゃあない、よく聞け二人共!!」

「……む」

 

 ランスは気を引くように声を張り上げ、それに伴いサテラの攻撃も一旦収まる。

 

「いいか二人共、世界最強の英雄たるこの俺がお前達に協力してやろう。どうだ、嬉しいだろ?」

「……協力? 協力って?」

「つまりだな……」

 

 首を傾げるサテラに向けて、ランスはここに来た理由、二人を呼び出した理由などを説明した。

 それは派閥戦争に参加する為。彼女達ホーネット派が魔物界において戦っている敵、ケイブリス派打倒の為に自分が協力してやろうじゃないか。

 とそんな上から目線の説明を耳にしたサテラは、当然のように激昂した。

 

「協力だと!? 馬鹿な事を言うな、サテラ達にランスの協力なんて必要無い!! 誇り高き魔人が人間の協力なんて受けられるか!!」

 

 魔人サテラ。彼女は魔人としての自らに、人間を超える存在である事に誇りを抱いている為、自分達の戦いに人間であるランスの手を借りるなどプライドが許さない。

 だからこその拒絶の言葉であったのだが、しかしランスもそんな反応は予想していたのか、特に気にした様子もなくさらりと言葉を返す。

 

「んな事言ってぇ、今にも負けそうなのだろう? この俺様が手を貸してやると言っとるのだ、意地張ってないで素直になれ」

「んなっ! さ、サテラ達は負けない!! ランス、お前の協力なんて無くても勝てる!!」

 

 その軽い調子が余計に癇に障るのか、サテラは更にぷんすかと怒る。

 なんだか今日のサテラは怒ってばかりだなと、その傍らでそんな事を思いながらも、シルキィはランスの先程の言葉について思案する。

 

 彼女はここに来るまでの道中、この後会う事になるランスという人物について、同行していたサテラからいくつか話を聞いていた。

 すけべな奴だとか、卑怯な奴だとか、口がデカい奴だとか色々な事を聞いたのだが、その中でも一番興味を抱いたのはその男が所持する武器の事で。

 シルキィはランスの腰に備えてある剣、その黒き魔剣をじっと見つめる。

 

(あれが魔剣カオス……魔人の無敵結界を斬る事が出来る剣……)

 

 

 

 

 

 

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