ある日の魔王城。
「……暇だな」
ランスは暇を持て余していた。
ここ最近のランスはとかく暇であった。だったのだが、しかしそれはもう以前までの事。
ランスがここ最近を退屈に過ごす事となった一番の原因、ホーネット派の総力を挙げた魔界都市ビューティーツリー再奪還作戦は、つい先日勝利という結果で幕を下ろした。
直後に派閥の主である魔人ホーネットは魔王城に帰還しているし、その日から数日が経過した今では他の魔人達も城に帰還している。
城内は普段通りの様子に戻り、なので今現在のランスには暇を潰す手立ては幾らでもある。先程の言葉は「さて今日は何して遊ぶかな」と、そんな意味合いを含んでいた。
「ふーむ、そうだなぁ……。昼間っからセックスってのも、それはそれで悪くないが……」
しかし質の良いセックスとは、退屈しのぎの妥協の産物では中々味わえない。自分の下半身が反応するような、素晴らしいエロイベントがどこかに落ちていればいいのだが。
などと、余人に話したら不審な目で見られそうな事を考えながら、ランスは活気の戻った魔王城内を気ままにぶらついていた。すると、
「……お」
城のとある階層、たまたま通り掛かったある部屋の前で立ち止まった。
「……そーだな。この前ホーネットの部屋で遊んだ事だし、次はここにするか」
勝手知ったるその相手の事だしと、ランスはノックもせずに部屋のドアを開いた。
◇ ◇ ◇
室内に居たのは、真紅の髪をポニーテールに結んだお馴染みの魔人。
「よう、サテラ」
そこは魔人サテラの部屋。主に彼女を抱く為などで、ランスも何度か入った事のある部屋。
「おぉ、ランスか。どうした、サテラに用事か?」
「うんにゃ、ただ暇を潰しに来ただけだ。……しかし、お前は相変わらずそれか」
呆れたように呟くランスの視線が刺さる先、それは座卓の前に女の子座りで座るその魔人、より正確に言えばその手元。
サテラは今、粘土をこねこねしていた。ランスがこの魔王城に来てから、そしてそれ以前に前回の時から何度も目にした姿である。
「お前って、本当に粘土遊びが好きだな」
「む。ランス、サテラは遊んでいる訳じゃない。これは戦力増強の為に必要な事なんだ」
子供っぽい奴だと言われているようで癇に障ったのか、彼女は不機嫌な声で言い返す。
魔人サテラの粘土遊び。それは幼児が行うような単なる遊びでは無く、彼女にとっての趣味と実益を兼ねたガーディアンメイクが本当の姿。
サテラはガーディアンを作製する高い才能を有している。今も壁際で控えている彼女の使徒、魔人と同程度の力を有するシーザーは、彼女がその才能によって造り上げた最高傑作となる。
「こうやって粘土でガーディアンを作る事で、サテラはホーネット派の戦力を増やしているんだ。決して遊んでいる訳じゃない」
「……けど、お前が普段こねこねしてる粘土が完成した所など、俺様見た記憶が無いのだが」
「うっ、……うるさいっ」
返答に窮したサテラのその様は、ランスの指摘が見事に図星を突いた事を示している。
暇さえあれば粘土をこね出す程、普段からガーディアン作りに精を出すサテラなのだが、しかし彼女はその事においてはとても職人気質。小さな妥協も決して許さず、一つミスがあればすぐに作り直しをしてしまう為、中々新規のガーディアンが完成しないという難点があった。
「サテラだってな、完成させたいとは思ってる。……けど、シーザーみたいな強いガーディアンを作るのはとても難しい事なんだ」
「難しいって、粘土をこねて形にするだけだろ?」
「ふんっ、ランスのような素人から見ればそう見えるのかもしれないがな。これはすごく繊細な技術が必要で、簡単に出来る事じゃないんだぞ」
つんとした態度のサテラの言葉に対し、「ほーん、そんなもんかねぇ……」と適当な返事をしたランスだったが、それでも次第にふつふつと興味が湧いて来たのか、あるいは単なる気まぐれか。
「……うし、じゃあ俺様もやってみるか」
腕まくりをしながらそう宣言すると、サテラの対面の位置に腰を下ろした。
「……え、ランスがガーディアン作りを?」
「おう。この俺がそのデカブツに勝るような素晴らしいガーディアンを作ってやろうじゃないか。サテラよ、粘土をよこせ」
「……いや、けれど、これはサテラの特別な能力が必要だから、多分ランスが作った所でガーディアンにはならないぞ?」
ガーディアンメイクは特殊な才能が必要となる。サテラ自身も魔人となってから開花した程の希少な才能であり、その才能を持たないランスにとっては完全なる粘土遊び、何かを作ったとしても単なる粘土の人形にしかならないのだが。
「そか。まぁとりあえず粘土を貸せ、暇だからなんか作る」
特に気にした様子も無いランスは、相変わらずの様子で粘土を要求する。どうやら、暇潰しになるのならこの際何でも良かったらしい。
「……そういう事なら。ほら」
粘土遊びとは、ガーディアンが完成せずとも十分に楽しい事。その気持ちはランスにとっても、どうやら同じなのだろう。
と、サテラは少々ズレた事を考えながら、手元でこねこねしていた山盛りの粘土を半分に分けて、その片方を相手に手渡す。
「いいかランス、愛情だ。愛情を込めるようにしっかりと粘土をこねるんだ」
「よっしゃ……って、それ関係あんのか?」
粘土遊びの先達として彼女には一家言あるのか、ランスの疑問に対して「とても重要な事だぞ」と大きく頷く。サテラによると、愛情を込めなければガーディアンとしての魂は宿らないらしい。
「こねこね、こねこね……」
「こねこね、こねこね……」
二人は座卓に向かいあったまま、同じように仲良く粘土をこねこね。
「……うーむ、しかしあれだな。粘土をこねる感触ってのは、おっぱいを揉む時の感触に通じるものがあるな。サテラよ、お前もそう思わんか?」
「……さぁな」
「この感触はあれだな、ハウゼルちゃんのような柔らかいふわふわおっぱいっつーより、シルキィちゃんのようなハリのあるぷにぷにおっぱいに近いな。サテラよ、お前もそう思わんか?」
「知るかっ!」
などと他愛の無い会話を交わしながらも、二人の手元は休む事は無く。熟練の手付きで念入りに粘土をこねこねするサテラとは違い、ランスはとっとと先のステップへと進んでいく。
「よし、ここをこうして、んでこっちをこう……」
脳内に浮かんだインスピレーション、それを元にして手を動かし、次第に粘土は何らかの姿を形成していく。
「……ちらっ」
ランスが粘土で何を作るのか。自分の事よりもそっちがどうしても気になってしまうのか、サテラはちらちらとその様子を伺う。
ランスの手元で形造られていく粘土、それは真っ直ぐ伸びる二の腕程の太さの棒のような姿をしており、そしてその根元に握り拳大の球体が2つ。
どこか見た事があるようなその形状に、彼女は思わず声を掛けた。
「……ランス。それ、一体何を作ってるんだ?」
「ちんこ」
ランスが作っていたのは男性器だった。
「ら、ランス!! お前、サテラの粘土で下らないものを作るな!!」
「下らんとはなんだ、失礼な。これは俺のハイパー兵器を忠実に模した逸品だぞ」
「なっ、あ、て、ていうか、そこまで大きくは無いだろう!!」
「いーや、俺が本気を出したらこんくらいはある」
眼前の相手のそれを脳裏に思い出したのか、瞬く間に頬を染めたサテラの言葉に、ランスは真っ向から反論する。
完成途中のそれは太さも長さも尋常では無く、ランス自慢のハイパー兵器をもってしても忠実に模したというのは少々誇張表現に見えるのだが、あくまで彼にとってはそういう事らしい。
「あそーだ。サテラよ、これ出来上がったらお前にプレゼントしてやろうか。んで、俺様がそばに居なくて身体が寂しい時、これで自分のあそこを……」
「ぐ、……シーザー」
その男が聞くに堪えない事をぺらぺらと口にするのはいつもの事だが、対するその魔人が結構短気であるのもいつもの事であって。
こめかみに怒りマークを浮かべたサテラは、怨嗟が籠もるような低い声で使徒の名を呼んだ。
「ハイ、サテラサマ」
「お?」
今まで無言で控えていたシーザーが、主の言葉をきっかけとして動き出す。そして鋼鉄のようなその腕で、失礼な人間の首根っこをひょいっと持ち上げてそのまま出口へと向かい。
「出てけー!!」
ランスはサテラの部屋を追い出された。
シーザーにぽいっと部屋から投げ捨てられてしまったランスは、廊下に尻もちを付いていた。
「……全くサテラめ、あの程度でぷりぷりと怒りやがって……」
ジョークの分からん奴だなぁと、溜息を吐きながらよっこいせと身体を起こす。
先日ワーグに見せて貰ったハーレムの夢。あの夢の中ではとても甘えん坊で可愛らしかったサテラだが、しかし往々にして現実とはこんなものか。
自身の非を決して顧みる事は無いランスはそんな事を思いながら、先程と同じように当てもなく適当に廊下を歩いていた。
すると、やがて辿り着いたのはある魔人の部屋。
「……よし、なら次はここにするか」
◇ ◇ ◇
室内に居たのは、水色の髪を自然体に下ろしたお馴染みの魔人。
「よう、シルキィちゃん……おぉっ」
そこは魔人シルキィの部屋。主に彼女を抱く為などで、ランスも何度か入った事のある部屋。
「あら、こんにちはランスさん。どうしたの? 私に何か用事?」
「うんにゃ、ただ暇を潰しに来ただけだ。……しかし、なんか凄い事なってるなこれ」
部屋に入った直後にたじろぐように一歩引いたランスは、その室内を一望する。
先程のサテラの部屋と間取りは共通しているが、しかしの内部の様子は大きく違っており、そこにはとても異様な光景が広がっていた。
「シルキィちゃん、これどったの?」
「あぁ、散らかっててごめんね。今、リトルを直していたのよ」
部屋の中央には彼女がリトルと呼ぶ巨大な装甲の一部が鎮座しており、その周囲はありとあらゆる物で埋め尽くされていた。
例えば剣や槍などの武器、盾や鎧などの防具にその原材料となる数多の金属。そして多種多様な種族のものが入り交じっていると思わしき、骨や爪など生物の身体の一部。
更には植物、終いにはランスにはよく分からない謎の物体などなど、とにかく色々な物が机の上は勿論の事、部屋の床や壁にも立掛けるようにして所狭しと並んでいた。
「私がいつも使っているこの装甲、リトルって言うんだけどね。これはこういう色んな物を混ぜたりくっつけたりして、そうやってどんどんと強化して出来上がったものなの」
魔人シルキィ。彼女は付与の能力により、彼女専用の強力な魔法具を作り出す事が出来る。
元々有する高い戦闘能力、特に剣、槍、斧という複数の武器を振るう才能を持つ彼女にとって、その才能を十二分に発揮する為に造り上げた、形状を変えるその魔法具こそが魔人シルキィの真骨頂。
どうやら彼女は今、先日のケイブリス派との戦闘を受けて、装甲の傷んだり凹んだりしてしまった箇所を修理していた途中のようだ。
「……なんかあれだな。君もサテラと似たような事しとるんだな」
「そうね、あの子のガーディアン作りと似通った所があるかもね。私のこれはあくまで武器だから、シーザーみたいに喋ったりはしないんだけど」
「ふーん……」
ランスは空いている適当な場所に腰を下ろして、そばにあった角の生えた生物の白骨化した頭蓋骨らしき物体を、何となく手に取って眺める。
「なるほど、例えばこれと別の素材をくっつけて、んで大きくしていった結果それが出来上がったという訳か。なんか工作みたいだな」
「えぇ、そういう事。ちゃんとした魔法具にするのには付与の力が必要になるから、誰にでも出来る訳じゃ無いんだけどね」
魔人シルキィの魔法具作製、それは魔人サテラのガーディアンメイクと同様に、特別な才能を持つ者にしか出来ない事である。
よってこれまたランスが何か作った所で魔法具にはならないのだが、しかしそれでも暇潰しにはなるかと思ったらしく。
「……とりあえず、またちんこでも作るか」
「え、何を作るって……ていうか、また?」
「うむ。さっきサテラの部屋に居たのだがな、あいつの粘土でちんこを作ったら追い出された」
「……何ていうか。ランスさん、貴方子供じゃないんだから……」
まるで幼児がするようなしょうもない行いに、何とも言えない表情で呆れるシルキィ。
その一方、何故そんなにもそれを作りたがるのかは謎だが、ランスはすでに男性器製作に取り掛かっていた。白骨の角の部分をへし折って、そこによく分からない植物の蔦をぐるぐると巻き付けていく。どうやら竿の部分を作っているらしい。
「しかしあれだな。サテラの粘土遊びはともかく、相変わらず君は真面目なやつだな」
「そう?」
「そうだとも。これだって要は戦いの為の準備な訳だろ? ついこの前戦争を終えて帰ってきたばっかな訳だし、しばらくは戦いから離れて遊ぶぞーとか思わんの?」
「うーん……。て言っても、ケイブリス派との戦いが終わった訳では無いしね。戦いの役に立つ事をしていないとなんか落ち着かなくて、中々遊ぶって言っても……」
シルキィはとても真面目な魔人であり、それこそランスのように日々を自堕落に過ごす事は性格的に出来ない。彼女の日常と言えば自らを鍛えるか、リトルを鍛えるかの基本的にその二択。
元人間である彼女が、魔人としては決して長くは無い1000年程の期間で魔人四天王の地位にあり、そう認められる程の力を持つに至ったのは、ひとえにその実直さあっての事である。
「そういや俺様も最近思ったのだが、魔物界っつーのは遊ぶもんが少ないってのはあるな。てか、君らって普段何して遊んでんの?」
「あ、それなら今度、皆で野球でもする? そういえばここ最近はしてなかったかもね」
「あぁ、そういや君は野球が好きだったっけな。好きっつー割には大した腕でも無かったけど」
「……私が実は野球下手っぴだって事、よく知ってるわね……誰かから聞いたの?」
などと他愛の無い話を交わしながらも、二人の手元は休む事は無く。シルキィは戦いの際に重要となる装甲の修理と強化、そしてランスは特に意味の無い男性器製作を続けていく。
二人がお互いの作業に没頭していたその時、ランスのすぐ背後にあった部屋の入口のドアから、コンコンとノックされる音が響いた。
「お、シルキィちゃん、来客だぞ」
「本当だ、誰かしらね」
動かしていた手を一旦止めて立ち上がったシルキィは、来客を迎え入れようとドアを開く。すると、
「うおっ!」
その相手の姿を視界に捉えたランスは、ビクッと大袈裟な程に反応した。そしてすぐに四つん這いになってそそくさと移動を開始する。
「あら、こんにちはメガラス。……て、ちょっとランスさん、何してるの?」
背後から抱き締められる感覚に、シルキィは思わず首だけで背中を振り返る。
すると背丈が145cmのとても小柄な彼女を盾にするように、その背後にいい大人のランスが縮こまるようにして隠れていた。
「ぬ、ぬうぅぅ……」
「ランスさん、貴方一体……て、あ、メガラス、これを? ……うん。分かった、ありがとう」
謎の呻きを口から漏らし、何故か忌避感を剥き出しにしているランスの意味不明な行動。
それに困惑するシルキィの一方、来客のメガラスは気にした様子も無く、自分の用事を済ませるとすぐに部屋を退出していく。
「……ほっ」
シルキィの肩口からこっそりとその様子を窺っていたランスは、来客が帰って部屋のドアがぱたんと閉まった事に、一安心といった様子で肩を撫で下ろした。
「……どうしたのランスさん、そんなに警戒して。もしかしてメガラスと何かあったの?」
「何かあったっつーか、なんつーか……」
決して何かがあった訳では無いのだが、しかしランスは深刻そうに顔を顰める。
「……なぁシルキィちゃん、さっきのアイツ、女は居るのか?」
「女……って、恋人って事で良いのよね? メガラスに恋人かぁ……今は居ないんじゃない?」
「ならば、居たのを見た事はあるか?」
「……そう言えば、見た事無いような気も……私もそれ程詳しい訳じゃ無いからあれだけど……」
シルキィは1000年にも及ぶ自身の記憶を振り返ってみるが、あの無口な魔人が誰かしらの相手とそういう関係だった様子は見た覚えが無い。
その事実を深く突き詰めると、そこにはランスが恐れている一つの疑惑が浮かび上がる。
「女と居た所を見た事が無い……て事は、アイツはホモだっつー可能性も十分あるよな?」
「え、えぇ!?」
「可能性は、あるよな!?」
「……そ、そりゃまぁ、可能性で言えば無いとは言えないけど……」
あのメガラスが実は同性愛者、そんな可能性など今まで考えた事も無く、「どうかなぁ……」と呟きながら首を傾げるシルキィの一方。
先日見たとある夢。あれは夢だと理解してはいるのだが、しかし一度生じてしまった疑惑は中々消えないのか、「うーむ、恐ろしい……」と呟くランスの表情は真剣そのものだった。
「……なぁシルキィちゃん、さっきのアイツ、ホーネットにバレないようにしてこっそりとぶっ殺しちゃ駄目?」
「……あのねぇランスさん。その答え、私に聞かなくても分かるわよね?」
さすがにそこまでランスがぶっ飛んだ人間だとは思いたくないシルキィは、駄目に決まっているでしょう、とまでは言わず。
「はいこれ、ランスさんにだって」
その代わりに、先程の来客から頼まれた要件を差し出した。
「俺様に?」
「うん。なんでもいつかの時みたいに、メガラスの部屋に投げ込まれていたらしいの」
シルキィから手渡されたのは、五通分の手紙。それは以前ランスがとある理由により、ノースの町で送った手紙の返信に当たるもの。
一旦はランス城の方に届いたのだが本人不在だった為、城内の者達がランスの手元にどうやって送るか色々考えた結果、最終的にフレイヤの手によりメガラスの部屋に投じられたという経緯らしい。
「あぁ、そういやこんなん出したっけか。もうすっかり忘れてたな」
ランスは五通の手紙の内、とりあえず一枚目の手紙の封を切ってその内容に目を通す。
「……ぬ」
「どうしたの?」
「どうやらハズレみたいだ。次」
くしゃくしゃに丸めた手紙をぽいっとゴミ箱に放り捨て、二枚目の手紙の封を切る。
「……ぬぅ、これも外れか、次」
そして三枚目、
「……ぐぬぬ。次」
更に四枚目と、
「……次」
次第に不機嫌になっていくランスだったが、
「……お」
最後に封を切った五枚目の手紙の中に、待望していたある情報が書かれていた。
「なんだ、ちゃんと当たりがあるじゃねぇか。……なるへそ、リーザスね」
手紙の送り主はリーザス王国のリア王女。以前より行方が気になっていたとあるもの、それがどうやらリーザス国近辺に存在しているらしい。
ならばこうしてはいられないと、彼は勢いよく立ち上がった。
「シルキィちゃん、俺様用事が出来たから帰る。これは完成途中だが君にあげよう」
「いや、いらないから……。ちょっと、机の上に飾らないでってば」
ランスは作りかけの男性器のオブジェをシルキィにプレゼントすると、彼女の部屋を退出した。
◇ ◇ ◇
「えーと、確かここだったよな」
そしてランスが辿り着いたのは、これまたとある魔人の部屋。
勝手知ったるその相手の事だしと、ノックもせずにドアを開いて室内に足を踏み入れる。
「よう、ハウゼルちゃん……ってあれ、居ねぇな」
そこは魔人ハウゼルの部屋。主に彼女を抱く為などでランスも何度か入った事のある部屋なのだが、しかし部屋主の姿が見当たらない。
先日魔王城には帰ってきた筈なので、単に留守にしているだけだろうと、そのまま引き返して城内を探しに行こうとしたのだが。
「……いや、なんか物音がするな。おーい、ハウゼルちゃーん、いるかー?」
「……あ、ランスさんですか?」
壁を隔てた向こう側からの気配を感じて、大声でその名を呼んでみる。すると、隣の寝室に居るらしきハウゼルからの返事が聞こえた。
「お、居た居た。ハウゼルちゃん、君に少し用事があるのだ。て事でそっち入るぞ」
「えっ、あ、あのっ! 少し待ってください!! 今は……!!」
途端に上がるその魔人の慌てた様子の声。それを耳にしたランスはしかし待つ事はせずに、
「待ってくださいって言われちまうと、余計に入りたくなっちゃうよなぁ」
などと適当な理由を付けて、制止の言葉などお構いなしに寝室のドアを開く。特にそういう方面での勘は冴えるので、今のハウゼルの格好に彼は何となく予想が付いていた。
「っ、ランスさん……っ!!」
「おぉ、やっぱり着替え中か」
予想通り彼女は服を着替えていたらしく、そこに居たのは下着姿の魔人ハウゼル。
肌を晒す事に未だ慣れないのか、その頬は見る見る内に赤く色づき、今まさに着ようとしていた上着で身体を隠しながら、身勝手な人間への文句を彼女なりに精一杯突き付けた。
「ら、ランスさん、あの、その、出来ればこの部屋から、出て行って貰えると……」
「それはちょっと無理な相談だな。なんせハイパー兵器が反応してしまった」
「え?」
自分の下半身が反応するようなエロイベント。それに遭遇してしまった以上は仕方が無い。
ランスはその魔人の腕を掴むと、流れるような動きですぐそばにあったベッドの上に押し倒す。
「あ、あの、」
「それじゃ、いただきまーす」
急な展開に戸惑うハウゼルに対しきちんと一礼した後、その身体に手を伸ばした。
そして小一時間程が経過して、一戦を終えた二人はベッドで横になっていた。
「ほへー、えがった……」
「……はぅ」
一発出したランスはとてもスッキリ、心地良い充実感と共にまったりしている。
一方のハウゼルは荒い呼吸を繰り返しながら、未だ身体に残る予熱を落ち着かせていた。
「……はぁ、ランスさん……。もう、いきなりこんな事……駄目ですよ……」
「ハウゼルちゃん。君な、駄目と言うのがちょっと遅すぎるぞ。そういう事はセックスが終わる前に言いなさい」
「……そうですね、返す言葉も無いです……」
事が最後まで済んでからの制止の言葉に、ランスの至極真っ当なツッコミが刺さる。
ただ一応状況からすると彼は加害者であり、立場を弁えていないようなその台詞だが、しかし被害者たるハウゼルは、まるで自分が悪い事をしたかのようにしゅんとしていた。
「大体な、部屋で着替えなんぞをしてるのも良くない。君はただでさえ押しに弱いっつーのに、そんな無防備な事では襲われても文句は言えんぞ」
「け、けど、それじゃ私は何処で着替えれば……」
無茶な話に困惑するハウゼルを尻目に、ランスはちらりと壁掛け時計に視線を送る。
まだ夕飯までは少し時間がある事だし、もう一回戦行くとするか。などと考えた時、ふと思う事があった。
「あれ? そういや俺様、何でハウゼルちゃんの部屋に来たんだっけ?」
「……そういえばランスさん、何か私に用事があると言っていたような……」
「ハウゼルちゃんに用事……あ、そうそう」
ランスはベッドから身体を起こすと、隣りにいるハウゼルの肩を叩く。
「何してんだハウゼルちゃん、とっとと服を着ろ。すぐに出掛けるぞ」
「……もう、着ていた所を脱がせたのはランスさんです……て、出掛ける? これからですか?」
ランスがハウゼルの部屋を訪ねた用事。
それは先程リーザスから届いた手紙に書かれていた、とある魔人に関しての重要な情報。
「おう。サイゼルの行方が分かったのだ。つー訳で今から取っ捕まえに行くぞ」