ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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姉妹喧嘩

 

 

 

 バラオ山の空を、二人の天使が交錯する。

 両者が飛び交うその周囲は今、冷気と高熱に溢れるこの世の地獄となっていた。

 

 

「こっ、のぉぉぉおおお!!!」

 

 張り上げた怒声と共に、青の天使が幾つもの冷気の弾を放つ。それは耳障りな高音を伴いながら、高速で直線状に駆け抜けていく。

 

 魔人サイゼル。氷の力を操る彼女がその手に持つのは、愛用の魔銃クールゴーデス。

 その銃口から発射されるは周囲を瞬時に凍らせる冷気、極限まで収縮した極細のレーザー。

 最大9連射が可能なその氷結砲を、サイゼルは肉親目掛けて惜しむ事無く連発していく。

 

 

「はぁぁあああっ!!」

 

 対するは赤の天使、こちらも張り合うように大声で吠えながら熱量の塊を放つ。轟音と共に発射された火炎放射は、またたく間に広がり空を覆う。

 

 魔人ハウゼル。炎の力を操る彼女がその手に持つのは、愛用の巨銃タワーオブファイヤー。

 その銃口から放たれるは周囲を瞬時に燃やし尽くす炎、膨張して拡散する大砲の如き一撃。

 放射状に広がる火炎砲は壁の如く広がり、迫りくる冷気の弾丸を一つ残らず飲み込んでいく。

 

 元は一つの存在から分けられ、その破壊の力を二分した結果正反対の属性を操る魔人姉妹。

 全てを凍らせる姉の氷と全てを燃やし尽くす妹の炎は、現在全くの互角で張り合っていた。

 そして姉妹同士で互角となっているのは、何も互いの力量だけには留まらず。

 

「姉さん!! 先程のランスさんへの悪口を訂正してくださいっ!!」

「訂正なんてしないわよ!! 最低のエロ男を最低のエロ男って呼んで何が悪いっての!!」

「なっ、また言いましたね!? いい加減にしないと私だって怒りますよ!!」

「あんたもうしっかり怒ってるじゃない!! この馬鹿ハウゼル!!」

 

 高レベルな射撃戦と並行して行われている、低レベルな口喧嘩も同様であった。

 本来であればとっても仲良し、先程もあとちょっとで仲直り出来た筈だった姉妹の仲を引き裂いているのは、妹と親しくしていたあの人間の存在。

 

「ていうかハウゼル、あのエロ男といつからそういう関係になったのよ!!」

 

 清純だった筈の妹が隠していた淫行の事実、ランスとのみだらな性的関係。

 未だに受け入れがたい、決して知りたくはないその事を、しかし聞かない訳にもいかないのか。

 

「全部っ! きちんとっ! 姉さんにっ! 説明しなさいってのッ!!」

 

 言葉を区切ると共に引き金を引き、計四発。

 まるで浮気を問い詰める恋人のような台詞を口にしながら、サイゼルは氷結砲を連射する。

 

「せ、説明!? そんな事……っ!」

 

 視界に映るは迫り来る冷気の弾丸、だがその脳裏に浮かぶのは初めて事に及んだ初夜の一幕。

 ふと如何わしい映像を思い返してしまったハウゼルは、慌ててその首を左右に振り、

 

「そんな事、姉さんには絶対教えられません!!」

 

 ぎゅっと引き金を引き絞ると同時に、巨銃の砲身を右から左へと振り抜く。

 銃口からは分厚い炎の一撃が薙ぎ払うように放たれ、それは飛来する冷気の弾丸を阻み、さらにはサイゼルの元へと肉薄していく。

 

「教えなさいよ! 私はあんたの姉なのよ!!」

 

 サイゼルは叫びながら、大きな弧を描くように飛翔して火炎の奔流を回避する。

 魔人としての長い生の中、このように本気の姉妹喧嘩をした事も数知れず。そんなサイゼルにとって妹の手の内など全てお見通し。

 その火炎砲は破壊力こそあるものの小回りが効かず、自分が空を駆ける速度には付いてこられない。ぐるっと回避軌道をとって妹の攻撃を躱した後、お返しとばかりに氷の弾丸を連発する。だが、

 

「嫌ですっ! 大体姉さんだからって、なんでもかんでも報告する義務なんて無いはずです!!」

 

 ハウゼルも負けじと引き金を引き、炎の塔と見紛うような火炎を放射して盾とする。

 相手の手の内を知り尽くしているのは、勿論ハウゼルにとっても同じ事。姉の氷結砲は連射こそ効くものの一撃の威力に難があり、自分が作り出す業火の壁を貫く事は出来ない。

 

 魔人姉妹が有する武器、クールゴーデスとタワーオブファイヤーの性能は共に一長一短。

 どちらかがより優れている訳では無く、だからこその双子の姉妹。今までその喧嘩に勝者があった事は無く、常に引き分けとなっていた。

 

「そもそもハウゼル、あんたああいうのがタイプなわけ!? あんなエロ男のどこが良いの!?」

「……タイプかと言われると難しいですが、けどランスさんにだって良い所はあります!!」

「良い所ってどこよ、言ってみなさいよ!! てかもしかして顔? 顔なの!? 顔だとしたらあんたの目ぇ完全に腐ってるわよ、ハウゼル!!」

「べ、別にランスさんのお顔は悪くありませんっ、ちょっと口が大きいだけです!!」

 

 互いにぎゃーぎゃー言い争いながらも、互いの指は愛銃の引き金を休む事なく弾き続け。

 その都度銃口から放たれる互いの魔力、全てを燃やし尽くす炎と全てを凍らせる氷は衝突し、空には青と赤の光の残滓が舞い散る。

 

 二人の天使の外見も相まって、その光景は誰もが思わず息を呑む程に美しく。

 番の魔人の空を飛び交いながらの銃撃戦は、見る者の心を奪う派手やかな激戦となっていた。

 

 

 そんな姉妹喧嘩が繰り広げられている、バラオ山の上空の一方。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハウゼルさん達、どちらも本気ですねぇ」

「つーかサイゼルはともかく、ハウゼルちゃんまであんなにキレるとはな」

「おや、知りません? ハウゼル様ってあれ、キレさしたらマジ怖いんすよ」

「実はそうなのです。ハウゼル様、普段は滅多に怒らないお優しい方なのですが……」

 

 バラオ山の大地に留まるランス達四人。

 彼等は皆大空を仰ぎながら、二人の戦いを文字通り遠くの出来事のように傍観していた。

 

「しかし間一髪でしたね。ハウゼル様が空を飛んでくれたお陰で火炎達に被害は無さそうです」

「確かにあんな喧嘩を地上でされたら、人間の私達ではひとたまりも無さそうですね」

「……まぁな。しかしハウゼルちゃん、あれだけ姉さんと仲直りしたいって言ってたのに、一体どうして喧嘩なんかする流れになっちまったのだ?」

「……え?」

 

 口をついて出たランスの純粋な疑問に対して、他3人の呟きがきれいに重なる。

 程度の差こそはあれど、皆一様にして「こいつ何いってんだ」と言いたげな表情をしていた。

 

「あのですねランスさん。二人の喧嘩の原因は火を見るより明らかだと思うのですが」

「火炎ちゃん、これきっと若年性痴呆とかいうあれっしょ。今若者の間で増加してんだってよ?」

「おうユキ、そりゃどーいう意味じゃコラ」

「だってー。最初にサイゼル様を挑発したの何処のどいつだオラー!! っていうか。駄目ですよサイゼル様をからかっちゃ、あれは見たまんまのおバカでキレやすい魔人なんすから」

「ホントですよ。せっかくあのお二人を仲直りさせようと思ってここまで来たのに、台無しになっちゃったじゃないですか」

 

 姉妹の喧嘩を誘発した張本人に向けて、ユキと火炎書士は異口同音で文句を言うが、しかしその程度で動じるような男では無く。

 ふんと鼻を鳴らしたランスは、相変わらずのいけしゃあしゃあとした表情で腕を組んだ。

 

「別に挑発などしとらんぞ。あいつが俺様とハウゼルちゃんの関係性を聞いてくるから、ただ事実をありのままに伝えて、んでちょっとハウゼルちゃんのおっぱいを揉んだだけだろうに」

「いやそれー、それそれー」

「……まぁでも、こんな事になっちゃうような予感もしてましたですけどね。あの二人の仲を元通りにするのはとっても大変な事ですから。今まで火炎達がどれだけ失敗してきたか……」

 

 過去の苦労の日々を思い出したのか、火炎書士は仮面の奥で深い溜め息を漏らす。するとその隣にいた彼女の友人、その大変さを知るユキも「同感だぜ火炎ちゃん」と大きく頷く。

 どうやら二人は共に使徒となってからの長い日々の中で、繰り返される姉妹喧嘩の事後処理に何度も奔走してきた経験があるらしい。

 

「実は派閥戦争が始まってからもどうにかして二人を仲直りさせようと、ユキちゃんと協力して色々頑張った事があるのです。けれども結果はご存知の通り、てんで駄目だったのですよ」

「そーそー。あいつら一度喧嘩すると頑固でさー、ユキちゃん達はもーたまりませんわ」

「へー。けどあれだな、戦争してるのにそんな事出来るもんなんだな。お前達って別々の派閥で戦っていたのではないのか?」

 

 火炎書士の所属はホーネット派であって、そしてユキの所属はケイブリス派。

 敵派閥で対立していた者同士、一体どのようにして協力していたのか。ランスがふと思っただけの何気ない疑問を受けて、

 

「あ。そ、それはですねぇ、なんと言うか……」

 

 自らの失言に気付いた火炎書士は、どうにか誤魔化そうとして言葉に迷う。そしてその一方で、

 

「……キラーン☆彡」

 

 事の詳細を知る友人、自らの口で擬音を発し、それと同時にその目を妖しく光らせたユキは、悪戯を思い付いたような表情でにぃと笑った。

 

「へいへいダンナ、ここで超特ダネを一つ。実はこの火炎ちゃん、ケイブリス派がホーネット派に送り込んだスパイなんすよ。裏ではユキちゃんと繋がってて、だから敵派閥に居ても協力し合えるって訳」

「なんだと?」

「わぁっ! ゆ、ゆゆユキちゃん、いきなりなんて事をいうのですかこの子は!!」

 

 友人からの突然の暴露を受けて、火炎書士は驚きのあまりに肩を跳ね上げる。

 

「おい火炎書士、お前はスパイなのか?」

「ち、違います、違いますですよ? 火炎はスパイなんかではありませんからね?」

 

 ランスから疑惑の眼差しを向けられ、その使徒はお面の顔を必死に振りかぶって否定する。

 だが見事に狼狽したその姿は、全くの事実無根な話では無い事を如実に物語っていた。

 

「ホントか? そう必死になって否定されると怪しく見えてくるな」

「あ、怪しくなどありません! もうっ、ユキちゃん!! 駄目でしょ変な事いっちゃあ!!」

「えーだってー火炎ちゃんってばー、ホーネット派の大事な情報を今まで何度もケイブリス派に流してくれたじゃーん」

「わぁー! それ言っちゃ駄目ー!!」

 

 いけない事をペラペラと喋る友人を叱ろうとした所に、カウンターで更なる暴露を受ける。そしてそれは見方によっては正しく、火炎書士にとっては決して否定する事の出来ない事実。

 

「おい火炎書士よ、そりゃどういう事だ」

「あ、あれはそういうのでは無いのです!! 単にちょっと必要そうに見えて、けど実は全然価値の無い情報を与えていただけで……!!」

「……って言う建前で、実はホントに大事な情報を渡していた火炎ちゃんなのでした☆」

「渡してないです!! ていうかユキちゃんだって本当の事は知ってるじゃん!!」

「ここだけの話、これまでのホーネット派の負けは全部、火炎ちゃんが仕組んだ事なんですぜ?」

「うわーんっ!! ユキちゃんのバカバカー!!」

 

 いくら何でもそれはヒドいよぉと、悲鳴を上げる火炎書士は友人の肩をぽこぽこと叩くが、叩かれたユキはケタケタと笑っていた。

 

 

「……で。結局の所はどーいう事なんじゃ。火炎書士よ、ちゃんと説明しろ」

「……そのですね、これには訳があるのです……」

 

 そして火炎書士がした弁明によると、どうやら彼女がケイブリス派にあれこれ情報を流していたというのは本当の事。だがそれらは全て価値の無い情報だけというのも本当の事。

 必要の無い情報を流して協力するフリをし、ケイブリス派の者達の信用を得る事で逆に相手の情報を得る。それが知恵の回る彼女が企んだ事で、つまりは二重スパイという事にある。

 加えて万が一にもホーネット派が敗れた場合、ケイブリス派に協力していた事で立場を示し、その後のハウゼルの扱いを守る考えもあったらしい。

 

 そんな火炎書士の事情を一通り聞いたランスは、呆れたように息を吐いた。

 

「……なんつーかあれだな。火炎書士よ、君は結構みみっちくてセコい事を考えるんだな」

「……うぅ、火炎がみみっちくてセコい事しか出来ない使徒だって事は、火炎が一番良く分かっているのです」

 

 ランスの言葉に自ら同意して深く俯く。不気味な仮面の表情は一切変化が無いが、しかし寂しげに額を下げるその姿には哀愁が漂っていた。

 

 火炎書士の担当は頭脳労働。魔物兵達を指揮したり、時には先程暴露したような裏工作も行う。

 彼女とて出来る事ならハウゼルと同じ戦場に立って戦い、直接に主の手助けをしたい。しかし残念ながら、生身での戦いの場ではこれと言って活躍する事は出来ず。

 

「火炎はとてもへっぽこで、戦闘には向きません。けど、それでもハウゼル様の役に立ちたいのです。へっぽこな火炎がハウゼル様の為に出来る事と言ったら、そんなセコい事くらいしか……くすん」

「おうおう火炎ちゃん!! 泣きたいなら泣いていいよ!! いやむしろ泣け!! わめけ!!」

 

 大切な友人の泣き出す寸前の上擦った声を耳にしたユキは、さぁこい! と言わんばかりにその両腕を広げる。

 

「……うえぇぇーん、ユキちゃーん!!」

 

 友人の優しい素振りに感極まった火炎書士は、その胸元に飛び付いておいおいと涙を流した。

 

「よしよし、良い子良い子。ユキちゃんはさ、セコくて裏切り者な火炎ちゃんでも大好きだから」

「うぅ、ユキちゃぁん……、だから裏切り者じゃないってばぁ……」

 

 泣きじゃくる友人をその胸に抱くユキは、相手の震える背中をぽんぽんと優しく叩く。

 時に自らの事をキチガイとも称するその使徒の表情には、溢れんばかりの慈愛があった。

 

「……いや。なんか良い感じな雰囲気だけど、これ殆どユキのマッチポンプじゃねーかよ」

「……あの、それよりランス様」

「おう、どしたシィル」

 

 極めて冷静なツッコミを入れるランスの腕を、ここまで蚊帳の外にいた奴隷がぽんぽんと叩く。

 先程から彼女はずっと、上空で行われている争いを食い入るように注視していた。

 

「ハウゼルさん達の戦い、このまま放っておくのですか? 止めなくていいんですか?」

「……うーむ。まぁ、いいんじゃねーの?」

「けれど、何か凄い戦いになってきてますし、ハウゼルさんがゲガでもされたり、倒されてしまったりでもしたら……」

「つってもなぁ……」

 

 ハウゼルの事を心配するシィルの気持ちは理解出来たが、しかしランスはぽりぽりと頭を掻き、困惑を浮かべた表情で空を見上げる。

 

 今もまだ続く魔人姉妹の激闘。まるで天使かと見紛うような二人の女性が華麗に飛び交い、火炎砲から放たれる赤と氷結砲から放たれる青が咲き乱れる幻想的な戦い。それが繰り広げられているのは彼らの遥か上空となる。

 

「あの二人の戦いを止めるっつっても、とても手が届くような距離じゃないぞ。シィル君、君には何か良い方法があると言うのかね」

「う、うーんと……。あ、捕獲ロープ投げてみますか?」

「……貸してみ」

 

 ランスはシィルから捕獲ロープを受け取ると、片側を輪っかにくくって手元で回し、投げ縄のように遠心力を利用して上空に放り投げてみる。

 狙いは悪くなかったが、しかし空中に乱射されている氷のレーザーに触れては凍結し、火炎の奔流に飲み込まれて捕獲ロープは燃えカスとなった。 

 

「無理」

「……ですね」

 

 結果を冷静に確認しあった後、二人は再度その空の光景を眺める。

 時に急降下、時に急速旋回を挟んだりなど、両魔人の体力にはまだまだ陰りは見られない。しかし決して無尽蔵という訳では無いだろうし、その火炎砲と氷結砲も元は両者の魔力である以上、弾数にも尽きる事はあるはずである。

 

「こりゃもうあの二人の好きに戦わせて、ほとぼりが冷めるのを待つしかないだろ」

 

 このまましばらく上空の戦いは放置しておいて、ハウゼルとサイゼルがバテるのを待つ。

 それがあの姉妹喧嘩を終わらせる一番楽な選択肢だろうと、ランスはそう考えたのだが。

 

「それが、そうもいかないかもしれませんですよ、ランスさん。ほら、後ろを見てください」

「あん? ……げっ!!」

 

 ようやく泣き止んだらしい火炎書士の言葉に、ランスは背後を振り返る。すると目に飛び込んできた光景に仰天して頓狂な声を上げた。

 

 後方には彼等がついさっき通ってきた山林地帯が広がっていたのだが、そこは今、二人の魔人の戦闘の余波を受けて悲惨な事になっていた。

 上空から狙いが逸れて降ってきた氷結砲、サイゼルの冷気を受けて氷結している木々もあるが、それよりもハウゼルの火炎は自然に対して優しくない。

 すでに所々炎が燃え移り、このまま放置しておいたら山火事もかくやといった有様だった。

 

「……あれま。これ自分がやってる事に、ハウゼルちゃんは気付いてないのか?」

「はい、恐らくは……。ハウゼル様、普段はとってもお淑やかな方なのですが、サイゼル様の事となると周りが見えなくなってしまう事があって……」

 

 魔人ハウゼル。彼女は滅多に怒ったりはしないのだが、しかし怒ったらとても怖く、そして怒った時にはどうしても視野狭窄に陥りがちで。

 本人にその気は決して無いのだが、このまま二人の戦闘が更にヒートアップしたら、彼女が山林火災の実行犯となってしまう事は明白だった。

 

「ぬぅ、これは確かに何とかしないとマズいかも。おいシィル、お前がどうにかしろ」

「え、私がですか!? ええと……あ、なら私は炎を消してきますね、魔法が使えるので!!」

「あ、おいっ」

 

 そっちじゃ無くて上の二人をどうにかしろ、とランスが言うより一足早く、シィルは燃焼し始めている山林に向かって駆け出していく。

 

「……なら火炎書士よ、主の不始末は使徒のお前が何とかせい」

「無理ですよ。ハウゼル様とサイゼル様の喧嘩を止めるなんてそんな事、このへっぽこぴーな火炎ちゃんに出来る訳が無いのです」

 

 ランスは火炎書士に話を振ってみるが、彼女はお手上げといった様子で首を振る。

 

「ならユキ、お前が……」

「あぁ!? やんのかテメー!!」

 

 ランスはユキに話を振ってみるが、何故か分からないが中指を立ててブチギレられた。

 

「……どいつもこいつも役立たずめ。しゃーない、結局俺様がやるしかないという訳か」

「けれどもランスさん、何か手があるのですか? さっきは無理とか……」

「さっきの捕獲ロープはただの遊びじゃ。本当は一つだけ秘策があるのだ、俺様は英雄だからな」

 

 不安げな様子の火炎書士の言葉にランスは力強く頷く。手出しが出来ない空での戦いに対して、彼には一つだけ対抗策が浮かんでいた。

 

「……さてと」

 

 そしてランスは腰から魔剣を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 


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