香姫から届けられた贈り物、JAPAN酒。
ランスはそれを受け取って、そしてある計画を思い付いた。
女性に大量のお酒を飲ませる。そうして泥酔させてしまえば頭はくらくら、前後不覚となって判断力が低下した相手を美味しく食べてしまおう。
悪い男の考える古典的な手法であるが、それだけにその有効性も実証されているというもの。
今回のランスの獲物は三人、狙うは未だ経験出来ていない彼女達との4P。
そこでサテラとハウゼルとシルキィに招集を掛け、酒宴を開催する運びとなった。
ランスによる乾杯の音頭を皮切りに、一同はJAPAN酒の芳醇な甘みを味わって。
そして最初にその反応が起きたのは、誰あろう魔人ハウゼル。
それは乾杯をしてから一分も経たない内の事。
「……う」
その一言を口から零した、そのすぐ直後。
「うおっ」
ゴトンッ、と痛そうな音が聞こえる。
驚いたランスがそちらを向くと、見えたのはハウゼルの頭頂部だけであった。
「おい、ハウゼルちゃんが死んでるぞ」
「ハウゼル、大丈夫か?」
「……大丈夫、じゃ、ないかもしれません」
見ればハウゼルはテーブルに額をぶつけて、そのままの格好で突っ伏し微動だにせず。
隣に居たサテラがその肩を叩くものの、返ってくる声は病人のように弱々しいものだった。
「ハウゼル、ハウゼルってば」
「う、ゆ、揺らさないで……」
「ふむ、ハウゼルちゃんはお酒に弱いタイプか」
「……この様子を見ると、どうやらそうみたいね」
ランスの言葉にシルキィは頷き、そして手に持っていたグラスを置いて立ち上がる。
「……というかこれはもう弱いって言うより……」
「……一切ダメって感じだな」
ハウゼルの飲酒量はまだほんの一口二口程度だが、それでも見事に目を回している。
もはや強い弱いで言い表せるものでは無く、アルコールへの耐性はゼロ、一欠片も無いと呼ぶようなレベルにあった。
「けど、こうなっちまえば触り放題だ、むふふ。ほーれハウゼルちゃん、抵抗しないならおっぱい触っちゃうぞー」
「ちょっとランスさん、酔って苦しんでいる人相手にそういう事しないの。ほらハウゼル、辛いならベッドで横になった方が良いわ」
「…………は、い」
ササッとその隣に周り、早速とばかりにセクハラしようとするランスを咎め、シルキィは息も絶え絶えなハウゼルを優しく抱え上げる。
「……けどあれだな」
そうして面倒見の良い魔人四天王に介助され、要救助者となった魔人は寝室へと運ばれていく。
その後ろ姿をじっと眺めながら、ランスはしみじみとした様子で呟く。
「ハウゼルちゃんって、そうでなくとも押しに弱いくせに、お酒にもあんなに弱いのか」
ただでさえ器量良し性格良し、淑女を絵に書いたような女性である魔人ハウゼル。
だがその内面にはどうにも隙が多く、悪い事を考える男にとっては格好の餌食になりそうなもの。押しに負けて男に弄ばれ、あるいはお酒を飲まされて男に弄ばれ……とそんな絵面が容易に頭に浮かんでしまう。
「……なんつーか、あの子は魔人で良かったな。いやホントに」
ハウゼルが自分と会うまで処女でいられたのは、間違いなく魔人だったおかげだなと、ランスはそんな事を思わずにはいられなかった。
早速離脱者を出してしまったが、しかしランスの開催したこの酒宴に中止などは無い。
やがて寝室の方からシルキィが戻ってきて、一同は酒盛りを再開。
「さぁさぁ飲め飲め。たんと飲め。ハウゼルちゃんが倒れてしまった分、君達は沢山飲みたまえ」
ランスは作ったような胡散臭い笑顔で、残る二人の魔人に対してお酒を勧める。
「さぁシルキィちゃん、どんどん飲め。ほらほら」
「ありがとランスさん」
「うむ。ほれサテラも」
「お、おぉ……」
今日の真の目的は4Pにあり、それには残る二人をくらくらになるまで酔わせる必要がある。
ランスは自らお酌を引き受け、二人のグラスが空になったそばからおかわりを注いでいく。
「……うん、美味しい」
「……うん、まぁ……美味しいな」
シルキィは柔らかな笑みを浮かべて、一方のサテラは複雑そうに唇を歪めて。
この二人は少なくとも、先程のハウゼルのように数秒で倒れてしまうような事は無かった。
テーブルにある皿に沢山用意されている、メイドさんが作ったおつまみなども口にしながら、お酒を飲み続ける事20分程が経過した頃。
「……うーむ」
「どうしたの?」
ふいに聞こえた何かに悩むような声に、シルキィが反応する。
「……なんつーか、君は全然変わらんな」
「そう?」
「うむ。酔っているようにはまるで見えん」
ランスの目に映るのはシルキィの顔。いつも通りにしか見えないごく自然な表情。
すでにグラスで四杯程飲んでいるが、未だ彼女には全く変化が無い。JAPAN酒はビールなどよりもアルコール度数が高く、飲み慣れていない者ならばそろそろ反応が出てくる頃合いである。
「なんかこう頭がぼんやりしたり、ほわほわ~って感じになったりはせんか」
「んー、今のところは無いかな」
「……ぬぅ。つーかちゃんと飲んでるか? ほれほれ、もっと沢山飲め」
ランスは再度シルキィのグラスにお酒を注ぎ、
「もう結構飲んでるけど……」
彼女はそれをくいっと一口で飲み干すものの、
「……どうだ、酔っ払ってこない?」
「……うーん、どうなのかしら」
これまでの人生で酒に酔った経験が無い為、それがどのようなものか分からないのか、シルキィはきょとんとした様子で小首を傾げる。
だがその姿を見ている限りでは、彼女が酔っているようにはとても見えなかった。
「もしや君はあれか。うわばみというヤツか」
「そうなのかな。これまでお酒は全然飲んでこなかったから、何とも言えないけど……」
魔人四天王シルキィ・リトルレーズン。どうやら彼女は先程のハウゼルとは対称的、お酒を飲んでも中々酔わない体質らしい。
元々シルキィは人間の中では破格の強者、忘れられた英雄と呼ばれる程の存在であり、そういった者はえてして酒にも強いという事なのだろうか。
(……この分だと、シルキィちゃんを酔わせるのは大変そうだな。とりあえず……)
全然酔っ払う気配の無いシルキィは後回し。いざとなったらあの約束を盾にして何とか頷かせようと考え、ランスは残る魔人の方に目を向ける。
「んで、こっちのこいつはっと……」
「……う~」
すると奇妙な呻き声が聞こえた。
「……うむ。こいつはもう大丈夫そうだな」
「……む~! なぁ~にが大丈夫だ~?」
ランスの目に映るのはサテラの顔。まるで恥じ入っているかのような赤ら顔に、何処を見ているのか分からない据わった目付き、そして締まりのないその喋り方。
「……ぬ~!」
「ぬーじゃねぇっつの」
魔人サテラ。彼女は完全に出来上がっていた。
およそグラス四杯程、初めて酒を飲む者にとっては少し多めと言える程度で、お酒に強くも無く、しかし弱くも無くといった感じであった。
「サテラ、貴女もう顔が真っ赤よ。飲むのはそろそろ止めておいたら?」
「……まだ飲む」
「けどほら、今も頭が左右に揺れているわよ、本当に大丈夫なの?」
平衡感覚を失ったのか、サテラは振り子のようにふらふらと危なっかしく揺れており、何処からどう見ても挙動がおかしい。
シルキィが心配して止めるのも当然と言えたが、
「まだのむ~!!」
しかし酔っ払い魔人はてんで意に介さない。
空になったグラスに自らお酒を注ぐと、ごくごくと飲み下していく。
「……だいたいー、ランスもシルキィも、なんでこんなおいしくないものを飲んでるんだぁ~?」
「いや、あのねサテラ。別に美味しくないのなら無理して飲まなくてもいいのよ?」
「……うぅ~」
「ちょっと、聞いてる?」
「うぅ~、うるさぁーいっ!」
「えぇ……」
ぼけーっとした様子でいたかと思えば、突然がーっと吠え上がる。
その酔っ払い特有のテンションの変わり様に、素面のシルキィはとても付いていけない。
「シルキィ! おまえな~、さっきからランスとイチャイチャして~!」
「別にイチャイチャしてない、してませんから」
「してた! サテラをのけものにしてた!!」
シルキィはランスとただ普通に会話をしていたつもりなのだが、どうやらそれがイチャついていたように見えて気に食わなかったのか、
「ランスはサテラの使徒なんだぞぉ~! サテラの使徒を返せ~!!」
「うお、何じゃいきなり」
酔っ払い魔人はぴょーんと跳ねてテーブルを飛び越えると、自分の使徒であるランスの首にひしーっと抱き付いた。そしてその肩辺りに自分の頭をぐりぐりと擦り付ける。
「うぅ~、ランス~、ランスぅ~……」
「こいつ……絡み酒か。面倒くせぇ酔い方するな。サテラっぽいと言えばサテラっぽいが」
そんな酔っ払いを首に巻いたまま、ランスは気にした様子も無くつまみのイカゲソを齧る。こうして酒を飲ませると決めた以上、こんな事にもなるかもとは一応予想していたらしい。
「面倒くさいってなんだー! サテラはランスの主なんだぞぉ、もうちょっとこう~……」
「はいはい、分かった分かった」
「……むぅ~!!」
ランスはとても適当な調子で、その頭をぺしぺしと叩く。
そのおざなりな対応に苛立ったのか、むっとした表情のサテラは眉を釣り上げる。
「そーじゃないっ、もっとこう、大事にというか、優しくというか……」
「はいはい、いい子いい子」
「むむぅ~!!」
ランスの適当さ加減は変わらず、今度はその頭をわしゃわしゃと撫で回す。
それでも満足しなかったのか、サテラは真っ赤なほっぺをぷくーっと膨らませる。
「……そうだっ! ランス、お前に言いたいことがあったんだ!」
「言いたい事?」
「そう、この前の事だ! この前、ランスはどこに行っていた!!」
元々そうなのだが、今日は酒が入って普段よりも更に怒りっぽくなっているのか。
通常よりも3割増ぐらい目付きの悪いサテラに睨まれ、ランスは「この前?」と首を傾げる。
「この前って……バラオ山の事か? もしかして知らなかったのか?」
「知ってたぁ! いや知らなかったの!」
「どっちだよ」
「じゃなくてっ、なんで急にそんな所に行ったんだ! かってに~!」
抑えられない怒りの発露に、サテラは「このっ、このっ!」と掛け声を合わせて、自分の頭を何度もランスの肩にぶつける。
まるで子供が戯れているような光景だが、それでも魔人の彼女にされると中々に痛いもので。
「いでっ、いでぇっつの! なぁシルキィちゃん、こいつ何が言いたいのだ?」
「……そう言えばサテラ、ランスさん達が城に帰ってくるまで寂しそうにしてたっけ」
「寂しい?」
「うん。ほら、急だったから」
どうやらシルキィによると、ランスが何も告げずに突然バラオ山に出発してしまった為、魔王城に残されたサテラはしょんぼりしていたらしい。
その時に溜め込んだおよそ一週間分の鬱憤が今、お酒の力を借りて爆発しているようだ。
「……なるへそ、要はスネてんのかこいつ」
「スネてなぁ~いっ!」
「スネてんだよな、これ」
「うん、多分そういう事だと思うけど」
「だからスネてるんじゃないの~! サテラはランスの主として、使徒の勝手な行動にだな~!」
使徒として、出掛けるならば主に一言ぐらい残すべき。と言うか一緒に連れて行くべき。
それが彼女の怒りの火種。結局の所は置いてけぼりを食らってスネていたのである。
「分かった分かった、今度どっかに出掛ける時はお前も連れてってやっから」
「……ほんと?」
そう呟き、ランスの身体に引っ付いていたサテラは顔を上げる。
その目は期待に輝き、すでに先程のイライラはすっかり消えていたのだが。
「うむ。まぁ覚えていたらだが」
「……むむぅ~!!」
その余計な一言が癇に障ったのか、再度プンスカ怒ったサテラはランスにぎゅっと抱き付いた。それはもう、思いっきりぎゅぎゅーっと抱き付いた。
「ちょ、おいサテラ、苦しいって」
「むむむぅ~!」
それは怒り故なのか、それともその相手を求める気持ち故なのか。
とにかくその魔人は思いの丈の込めるかのように、目一杯ランスの身体に抱き付く。
「むむむむぅ~~!!」
「むむむじゃない、いいから離せっつー……ちょ、いだだ! いだだだだだッ!!」
その酔っ払いを引き剥がそうとしていたランスは、突如叫びと共に表情を苦痛に歪める。
どうやら酒に酔ったサテラは手加減を忘れているのか、その力はわりと容赦の無いレベルに突入し、彼の肋骨はみしみしと悲鳴を上げていた。
「し、シルキィちゃん、ヘループ!!」
「あぁもう、何やってるのよ全く……」
ランスから助けを求められ、しょうがないなぁといった感じで立ち上がったシルキィも、
「ほらサテラ、あんまり締めるとランスさん死んじゃうから……」
「むあ~!!」
「ぎ、ギブギブギブキブ!!!」
「わ、ほんとに凄い力!?」
その酔っ払いの尋常ではないパワーを見てすぐに血相を変える。
「ちょっとサテラ、いしょっと……!」
「む、むうぅ~!」
「もう、暴れないの……ランスさん、大丈夫?」
「げほげほ、死ぬかと思った……」
それでもさすがに魔人四天王、格上となるそのパワーを発揮して、強烈なハグで自らの使徒を絞めるサテラをどうにか引き剥がす。
やっとこさその拘束から開放され、ランスは痛む脇腹を押さえながら叫んだ。
「駄目だ!! 酔っ払った魔人は面倒くさい!! つーか手に負えん!!」
酒を飲むと理性が崩壊し、その結果タガが外れてしまうというのは良くある話。
ただそれが人間ならどんなに暴れたとしても、ランスならば黙らせるのに苦労は要しない。一発ぶん殴ればそれだけである。
しかしサテラは人間では無くれっきとした魔人。悪酔いして暴れる魔人というのは、さすがの彼にも手に余る面倒な存在で。
「かくなる上は……」
無敵結界によって攻撃が弾かれる以上、この酔っ払いを黙らせる方法は一つしか無い。
ランスは中身がたっぷりと残る酒瓶を手に取り、それをそのままサテラの口へと突っ込んだ。
「そーだなサテラ、全部お前の言う通りだ。だからもっと酒を飲もうな、ほれほれ」
「む、むむぐ、ランス、自分でのみゅから……」
顎を無理やり開かされ、サテラは子供のようにいやいやと首を振る。
だがランスはその頭をしっかりと押さえ、彼女の胃袋にどんどんアルコールを追加していく。
「さーさー遠慮はいらんぞー、ほーらほら」
「むぐきゅ……」
「飲め飲めー」
「んあが……」
「ちょ、ちょっとランスさん、そんな無理やりに飲ませるのは……」
その光景に見かねたシルキィが口を挟むものの、これ以上酔っ払いの相手をしたくないランスは一向に手を止めない。
そして。
「……うぅ」
限界までお酒を飲んだ、と言うか飲まされたサテラは完全に目を回してしまい、
「……いじゅは~~……」
最後に意味不明の言葉だけを残して、そのままこてーんと背後に倒れた。
「……くー……」
そしてすぐに可愛いらしい寝息が聞こえてくる。
こうして酔っ払い魔人サテラは、ランスの手によって見事に退治された。
「ふぅ、よーやく潰れたか。……今考えてみると、魔人を酔わせてセックスするってのは少し無謀だったかもしれんな」
眠りに沈んだサテラを脇に退けながら、疲れ果てた表情のランスは己の過ちを振り返る。
彼女達は皆一見すると普通の女性であるが、その身には強大な力を秘める魔人という存在。
その力は人間の比では無く、そんな相手を酔わせて判断力を低下させるのはリスクが大きく、今のように一歩間違えれば大怪我に繋がりかねない。
4Pはまた別の方法で挑戦するべきか。けれどもそんなリスクに挑んでこその自分だろうか。
と言うかサテラとハウゼルはもう眠ってしまったので、これは4Pというよりも眠姦になってしまわないか。それはそれでありなのだろうか。
とそのような事を、うーむと唸って悩んでいたランスの一方で。
「……呆れた。そんな事を考えていたのね」
この酒宴の本当の目的、それが下心から来る実に相変わらずな理由であった事を知り、シルキィは言葉通りに大層呆れた様子で嘆息する。
そしてその視線をテーブルの上、先程ランスが乾杯の際に一度口に付けたグラス、それきり中身が減っていないグラスへと向けた。
「通りでランスさん、さっきからちっともお酒を飲んでいないと思ったわ。せっかくの機会なんだし、エッチな事なんか忘れてもう少し飲んだら?」
「……そーだな、そうすっか」
エッチな事を忘れるなど出来ない。しかし浴びる程にひたすら酒を飲んで、ぐでんぐでんに酔っ払って胸のもやもやを吹き飛ばす。
それが当初の目的であった事を思い出したのか、ランスは自分のグラスを手に取った。
「んじゃシルキィちゃん、改めて乾杯といこう」
「うん、乾杯」
そして再度の乾杯。二人のグラスが合わさり、再びかちゃりと綺麗な音を鳴らす。
「ぐびぐびっと……うむ美味い。どうだ、この酒は美味いだろう?」
「えぇ、ほんのり甘口でとても美味しいわ。大昔に飲んだのは何だか苦味が凄くってね……」
「そーだろうそーだろう。これは香ちゃんがJAPANからわざわざ届けてくれた逸品だからな、そんじょそこらの酒とは違うぞ」
酔っ払い魔人サテラが討伐された影響で、騒がしかった部屋内には静けさが戻っていて。
「つーかこの城にある酒はちっとも美味しくない。あれはなんとかした方がいいと思うぞ」
「そうなの? この城にあるお酒はすぐそばのブルトンツリーで造られているらしいけど、私はあんまり詳しくないから……」
「この城の酒はなんつーか……そう、ヘルマンの酒に近い。考えてみりゃすぐ隣だし、どっちかが真似したのかもしれんな。ヘルマンの酒はアルコールが強すぎるだけで美味くないのだ」
「へぇ、お酒って言っても色々あるのね……とランスさん、もう一杯貰えるかしら?」
「おうおう、飲め飲め」
シルキィは空のグラスを差し出し、そこにランスがお酒を注ぐ。
そんな感じで二人は何気ない会話を交わし、しばし美酒の味を楽しんでいたのだが。
「……そういやぁ」
「どうかした?」
ふいにランスは何かを思い出したのか、目の前に座るシルキィの顔をじっと見つめる。
(……シルキィちゃんって確か、ホーネットの事は生まれた時から知っているとか言ってたよな)
ランスの脳裏に去来するのは、以前シルキィの口から聞いたそんな言葉。
そしてそれともう一つ、二日前からずっと悩んでいるあの魔人に関しての事。
どれだけ悩んでも自分にはさっぱり分からなかったが、しかしシルキィならどうだろうか。
彼女はホーネットとは古くからの付き合い、生まれた時から知る関係であるならば、ホーネットについては自分よりも遥かに詳しいはずである。
ホーネットが自分とのセックスを拒む理由、それもシルキィに相談してみれば見えてくるものがあるかもしれない。
「……ふむ、なぁシルキィちゃん」
「んくんく……はぁ、美味しい。あ、ランスさん、もう一杯貰っていい?」
「おぉ、どんどん飲め飲め」
だが。
「……ふぅ。お酒も美味しいけれど、おつまみも美味しいわね」
「確かにこのイカ焼きはウマい。こっちのチーズもいけるな」
「そうね、メイドさんに感謝しなくちゃね……と、ランスさん、もう一杯酌んで貰える?」
「お、おぉ、早いなシルキィちゃん」
そんなホーネットについての事を相談しようと思った矢先。
「こくこく……はー、やっぱ美味しいな。ランスさん、もう一杯ちょうだい」
「え、もうおかわり?」
「うん、このお酒ホントに美味しくて」
「そ、そうか……というかシルキィちゃん、君なんか酔っ払ってきた?」
「ううん、私はまだ全然酔ってないから大丈夫」
次第にランスもその違和感に気付き始めて。
「これかまぼこ? かまぼこかな?」
「お、おぉ。それはかまぼこだな」
「ね、かまぼこ美味しいねー。あ、ランスさん、もう一杯ちょうだい」
「……あの、なんか君、ペース早くないか?」
「大丈夫よ、まだ私は全然酔ってないから。ほら、酌んで酌んで」
「う、うむ……」
うわばみと言えども酔う事はあるのでは?
と言うかそもそもこの魔人は本当にうわばみなのだろうか? その評価は大きな間違いで、他の二人よりほんの少しお酒に強かっただけなのでは?
とそんな疑惑がふつふつと湧いてきて。
「……おいしー。お酒もおいしいし、おつまみもおいしいな。て事でランスさん、もう一杯」
「……そういやぁシルキィちゃん。これは誰かに聞いた話なのだが、私は酔ってない、っつーセリフは酔っ払いの常套句らしいぞ」
「へぇ、そーなんだ、けど私は酔ってないから」
「………………」
──これはもしかしてヤバくないか?
そう思った時にはすでに引き返す術など無く。
そして。
「ん」
もはやその一言。
酌んでと頼む事も無く、その魔人は空になったグラスを前に突き出す。
「……きみ、まだ飲むの?」
「ん」
「いやあの」
「んっ」
「………………」
早く早く、とグラスを揺する。そんな彼女の無言のプレッシャーに押されてしまったのか。
その後もランスは言われるがまま、いや言われぬがままにお酌を繰り返し。
そうしていつしか魔人シルキィの姿は、その場から見事に消えてなくなっていて。
「……ぷはーっ!」
そこには新たな酔っ払い魔人が出現していた。