「ちょっとシルキィ、離して、離してってばっ!」
「さいぜるぅ~♪」
べったりとくっ付く酔っ払い魔人、その腕を引き剥がそうとするのは氷の力を操る魔人。
時刻は夜。場所は魔人シルキィの部屋。
この部屋で本日、ランスとホーネット派魔人達による酒宴が開催された。
最初にハウゼルが倒れて、次にサテラが倒れて、遂にはランスまでもが倒れて。
そして最後まで生き残った酒豪、魔人四天王シルキィ・リトルレーズン。
その酔っ払いは今、不運にもその部屋を訪れてしまった魔人サイゼルに絡んでいた。
「シルキィっ! ハウゼルが、ハウゼルがランスに食べられちゃうってー!」
「だいじょーぶだってばー。ほら、らんすさんももう眠っちゃったみたいだしさ」
そう言ってシルキィが指差した方向、開けっ放しの寝室のドアから覗けるベッドの上。
そこでは酔い潰れて寝ているハウゼルを抱きしめるような格好で、同じく酔い潰れたランスが「ぐがー、ぐがー」と大いびきをかいていた。
「……それはまぁ、そうみたいだけど……。ていうかあんた達、これお酒を飲んだって事よね? サテラとかそこに倒れてるし……」
室内に漂うは強いアルコールの匂い、テーブルの上には食いかけのつまみ皿、辺りには空になった酒瓶が無造作に転がり、ついでとばかりに酔い潰れたサテラも転がっていて。
その部屋の目を覆いたくなるような有様に、サイゼルは呆れたような表情で呟く。
「シルキィ。あんたって酒飲んで酔っ払うと、こんなぐだぐだになっちゃうわけ?」
「んー? 私は酔ってないわよー。まだまだぜーんぜん元気だもーん」
「いや酔ってるから。だもーん、とか普段絶対言わないでしょうに」
そもそもが自分の腰にしがみ付いたままの状態、普段通りであればこんな事をする訳が無く、この魔人が酔っ払っていないはずが無い。
約千年前から知った相手であるが、真面目で実直な姿しか見た記憶が無い。そんなシルキィのこんなあっぱらぱーな姿を見る事になるとは。
と、あくまで第三者の立場として、サイゼルがそんな事を考えていると。
「よし。じゃあさいぜるも飲もっか」
ふいにその酔っ払いは、そんな言葉を口にした。
「え。飲むって……お酒を?」
「うん」
「……ううん、別にいい。何か怖いし……」
サイゼルは引き気味でその首を横に振る。
この酔っ払いに関わると面倒な事になる、絶対にろくな目には合わない気がする。
故にすぐにでもここから退散したかったのだが、けれども相手はそれを許さなかった。
「だいじょーぶだいじょーぶ。さいぜる、別にお酒はこわいものじゃないのよ?」
「いやお酒じゃなくてね、私が怖いのはあんたの方だから」
「もー、なに言ってるの。わたしが怖いわけないでしょ? ほら、おいでおいでー」
シルキィはすくっと立ち上がると、サイゼルの腕を掴んですたすたと歩き出す。
「ちょ、ちょっと、おいでっていうか引っ張ってるしっ! ねぇシルキィってば!!」
問答無用で自分を連れていく酔っ払いに対し、サイゼルも必死に抵抗を試みるのだが、しかし彼女は魔法に長けた魔人であり、その身に秘める膂力などは然程でも無い。
人間の頃から屈指の戦士、更には格上の存在である魔人四天王、その酔っぱらったパワーに抗えるはずも無く。
「さーさいぜる、飲みましょーねー。このお酒ね、すっごくおいしいんだから!」
「あぁもう、ハウゼルと一緒にお風呂入ろうと思って来ただけなのに、なんでこんな事に……」
テーブルまで連行されたサイゼルは、シルキィの隣で酒宴の席に付かされる。
やはり面倒な事になりそうだ、こういう言っても聞かない所が酔っ払いは怖いのだと、彼女は後悔と諦めを混ぜたような溜息を吐き出した。
「メイドさーんっ、おつまみ追加ー! おいしいのいっぱい持ってきてー!」
「うわ、なんか今のシルキィ、居酒屋に居るおっさんみたい」
「えへーっ!」
「いや、えへーって……」
何がそんなにも楽しいのか、底抜けに明るいシルキィはにこにこと笑う。
そんな様子にサイゼルが困惑していると、やがてメイドさんが部屋のドアを開く。注文通りに新たな酒のつまみを持ってきて、テーブルに残っていた食いかけの皿が下げられる。
「ほらほら、グラスを持ってー」
「……ん」
「でー、こーして酌んでー」
二人の魔人が手に持つグラス、その中にJAPAN酒がなみなみと注がれる。そして、
「はいさいぜるー、かんぱーいっ!」
「か、かんぱーい……」
高テンションと低テンションで対象的な乾杯の声と共に、2つのグラスが合わさった。
「んくんく……おいしーっ!」
シルキィは気持ちよく喉を鳴らし、見る見る内にグラスを空にしていく。
もしランスが起きていたなら、「まーだ飲むのかこの子は」と驚き顔をしていたに違いない。
「……ん、この酒、確かに美味しい事には美味しいけど……けっこうキツい味なのね」
一方のサイゼルは恐る恐る一口味わい、偶然にも妹とは真逆の感想を口にする。
「ねー? この酒おいしーでしょー? さぁさぁ、どんどん飲んでねー」
「わかったって、飲むからそう急かさないでよ」
「ほらほら、飲んで飲んでー」
シルキィはサイゼルのグラスが少し減る度、即座におかわりを注いでいく。
どうやら自分が気に入った美酒を是非とも飲ませたいのか、相手の急かすなという言葉もお構いなしである。
「ほらぐいーって。さいぜる、ぐいーって」
「あのねぇシルキィ。それアルハラよ、アルハラ。そうやって無理やりお酒を飲ませようとするの、今人間世界で問題になってるらしいわよ?」
「えへへーっ!!」
「いやだからえへへーじゃなくて……」
何を言っても屈託なく笑うシルキィ、ランスでさえも手を焼いたその様子に、これはいわば無敵の状態なのだなとサイゼルも何となく悟る。
「……はぁ、まったく。まぁ美味しいから飲むけどさぁ……」
魔人四天王にこう催促されては堪らない。かと言ってこの場から逃げ出す事も出来ず、仕方無くサイゼルもせっつかれようにしてグラスを呷る。
そうして暫く二人がお酒を味わっていると、やがて「あー、そういえばさー」とシルキィがゆるい調子で口を開いた。
「お酒、さいぜるはどうなんだろう。はうぜるはね、お酒飲んですぐに寝ちゃったんだよー」
「え、あの子ってお酒に弱いの?」
「うん。もーねー、一口飲んだだけでへにゃへにゃーってなっちゃったんだから」
「……へぇ。ハウゼルってそうなんだ……」
言われて彼女も今更のように気付いたが、妹がお酒を飲んでいる所は見た記憶が無い。
故にハウゼルがお酒に弱いという話は、姉であるサイゼルも今初めて知った事で。
「………………」
お酒を一口くいっと飲んで、それだけでくたーっとなって倒れてしまう。
そんなハウゼルの情けない姿を、ふと頭に思い浮かべてみたサイゼルは。
「……かわいい」
ぽつりと呟いたその顔は、まさしく恋する乙女のような表情であった。
魔人シルキィと魔人サイゼル。
約千年前からの付き合いであるが、これまで二人がこのように杯を交わした機会は無い。
そんな事もあってサイゼルには少し緊張があったのだが、勿論酔っ払いにとってはお構い無し。
その後もお酒を飲んだり飲まされたり、おつまみを食べたりしていると、次第にサイゼルの脳内にもほんわかとした酩酊感が押し寄せてきて。
そして二人だけの酒宴が開催してから、およそ一時間程が経過した頃。
「……シルキぃ~」
そう言って、でろーんとしなだれかかってくる酔っ払い、またの名を魔人ラ・サイゼル。
「なぁにー?」
そう答えるのは同じく酔っ払い、魔人シルキィ・リトルレーズン。
体重を預けてくる相手の事を受け止めながら、その翼の生えている背中をぽんぽんと叩く。
「……シルキぃ~、聞いてよぉ~」
「聞いてますよー、なんですかー?」
「聞いてよぉシルキぃ~、聞いてよぉ~!」
聞いているとの言葉が届いていないのか、その酔っ払いは聞いてよ聞いてよと連呼する。
お酌をしてくる魔人四天王に促されるまま、サイゼルもぐびぐびと酒を飲み続けて。
そうして今はもうしっかりと酔っ払った様子で、ものの見事に管を巻いていた。
「聞いてるってばー。どうしたのーさいぜる、何かあったの?」
「……うん」
「……その様子だと、つらいことなの?」
「……うん」
「……そっか。わたしで良ければ相談に乗ってあげるから、なんでも話してみて? ね?」
「……うん」
酔っ払っていてもその気質は変わらないのか、持ち前の包容力を見せるシルキィ。
その言葉にサイゼルはこくりと頷き、自然と相手の華奢な二の腕にぎゅっと抱き付いて、
「……わたしね、嫌われてるの」
泣き出す寸前のような声でそう呟いた。
「……きらわれてる? 誰に?」
「この城に居るみんなぁ! ……ハウゼル以外の」
「……はうぜる以外のみんなから嫌われてる? ……まっさかー。そんな事ないでしょ~」
大げさなんだからー、とシルキィは軽い調子で否定して、おつまみのイカ燻製に手を伸ばしてはむはむと味わう。
「あるっ! あるもん!!」
しかしそれはサイゼルにとって大真面目な悩み、その表情はとても深刻なものだった。
本来なら妹にだって打ち明けないような話だが、今の彼女は酔っ払い。脳がアルコールに侵されて歯止めが利かなくなっているのか、語り始めたその口の滑りは一向に止まらない。
「みんなみんな、私の事嫌ってるんだわ。だってそーいう目で見てくるもん!」
「そーいう目?」
「そうなの! なんて言うかなー、こうー、不審者を見る目ってゆーかさぁ、嫌な相手を見る目っていうかさぁ~!」
溜め込んでいたものを吐き出すように喋り、そしてグラスをぐいっと呷る。
自分へと向けられる穏やかならぬ視線。聞けばそれはサイゼルの被害妄想とかそういう話では無いらしい。
「この城に来た時からなんだけどね……」
ランス達と一緒にバラオ山から戻ってきて、この魔王城で過ごす事になってから早三日。数年振りに戻ってきた場所であるが、以前とはその雰囲気が少し違っていた。
城内の魔物達から時折ちらちらと視線を向けられたり、自分を見てはヒソヒソと話していたり。そんな姿をサイゼルは度々目撃しており、ずっと居心地の悪い空気を感じていたらしい。
「あ~、そーいうことかぁ、なるほど。さいぜる、それは多分しかたない事だと思うの」
話を聞いてシルキィは納得したように頷き、その赤ら顔を少し残念そうな表情へ変える。
「あなたはこれまで敵の派閥に居たわけだし、どーしてもこの城の魔物たちは意識しちゃうのよ。少し経てばみんなも慣れるだろうから、それまでのがまんだって」
その悩みの原因、それは2つに分かれて戦争をしている今の魔物界の現状が大元の原因。
サイゼルは元ケイブリス派だが、しかしこの魔王城はホーネット派の本拠地であって。これまで敵として命の奪い合いをしてきた以上、すんなりと受け入れられなくてもそれは仕方の無い事。
きっと時間が解決してくれる問題だろうと、シルキィはそう思っていたのだが。
「違うもんっ、嫌ってるんだもん! 魔人サイゼルなんて魔王城から出てけーって、きっとみんなそう思ってるんだわ、ぐすん……」
しかしサイゼルは聞く耳持たない。
彼女はどうやら酒が入ると心が弱くなるタイプなのか、普段ならそうは思わないであろう悲観的な考えを口にした後、
「うぅ……いくら私が元ケイブリス派だからって、こんなのヒドい……」
遂にはテーブルに突っ伏して、しくしくと泣き出してしまった。
「……ふぇぇ、はうぜるぅ……、私の味方ははうぜるだけ~……」
「ほらさいぜる、いい子だから泣かないの」
シルキィはまるで子供をあやすかのように、サイゼルの頭をなでなでしていたのだが、
「………………」
「……さいぜる、だいじょうぶ?」
「……考えてみれば、シルキィだってそうよ」
しかしその魔人の涙は止まらず、それどころかその悲しみは更になる猜疑心を呼び寄せたのか。
サイゼルはテーブルに頭を乗せたまま振り向き、殆ど八つ当たりのようにその瞳を鋭く尖らせると、数年前までは敵として戦っていた魔人四天王の事をぎっと睨んだ。
「わたし?」
「そう! シルキィだってほんとは私の事、そーいう嫌な目で見てるんでしょう!」
「そんなことありませんー。わたしはもうね、さいぜるの事を敵だなんて思ってませんから」
「うそっ! 絶対うそ!! シルキィだってホントは──」
──私の事を嫌ってるんでしょ!
と、サイゼルがそう叫ぼうとしたその刹那。
「そんな事ありませんっ!!」
「ひぃ!!」
突如飛んできた否定の言葉、ボリュームの調整を間違えたようなその大声に、サイゼルはびくりと肩を揺らして飛び起きた。
「……し、シルキィ。いきなりびっくりさせるのは止めてよ……」
「さいぜる。私はそんな事思ってないわ。あなたにこの城からでてけーなんて思ってませんから」
「……ほんとぉ~?」
本当は欲しかったその言葉だが、しかしすぐには受け入れられない。
今の彼女は酔っ払ってマイナス思考が全開であり、最初は疑いの眼差しを崩さなかったのだが、
「ホントですー。私はね、さいぜるの事だってずっと心配だったんだから。あなたがケイブリス派に居た時だって、戦いたくないなーってずっと思っていたのよ?」
「……ほんとに?」
それでも次第に心が揺れ動かされ、シルキィの言う事を信じたいな、信じていいの? と言わんばかりの素直な表情へと変わる。
「ホントですー、ほんとですー」
今のシルキィは酔っ払ってはいるものの、それは嘘偽りのない彼女の本音。
基本的に優しい性格をしている彼女は、古くから知る関係のサイゼルの事も気にしていた。そもそも平和を心から愛する彼女にとって、真に争いたい相手などこの世には存在しない訳で。
「さいぜる、あなたはこの城に居ていいのよ。魔物たちにはわたしからも言っておくから」
「……シルキィ」
「だから元気だして、ね? わたし達は同じ魔人同士なんだから、仲良くしましょ?」
そう言ってシルキィはふにゃりと笑う。
それは見る者全てに安心を抱かせる、花の咲いたような優しい笑顔。
「……うぅぅ~! しるぎぃぃ~~!!」
その温かさに、サイゼルの凍りついていた……と言う程でも無いその心が溶かされる。
そして感極まったあまりに、自分よりも小さな年下の魔人四天王の胸へ勢いよく飛び込んだ。
「よしよし。さいぜるが本当はすごくいい子だって事、私にはちゃんと伝わってるから」
「うえぇぇ~ん、しるぎぃ~……」
慈愛に満ち溢れたその言葉に、サイゼルはおいおいと滂沱の涙を流す。
シルキィは先程ランスが自分にそうしてくれたように、泣きじゃくる相手を優しく受けとめる。
そうして暫くの間、想いが通じ合った二人はぎゅっと寄り添い合っていたのだが。
「……しるきぃ。その言葉さぁ、ホーネットのやつにも言ってあげてよぉ」
やがてサイゼルは顔を上げ、目元をごしごしと擦りながらそんな言葉を呟いた。
「うん? ほーねっと様? ほーねっと様がどうかしたの?」
「どうかするもん。私の事を一番嫌ってるのはホーネットなんだから」
「……えぇ~?」
あのホーネットがサイゼルの事を嫌っている。
そんなまさかとシルキィは思うのだが、これまたサイゼルにとっては冗談などではないようで、至って真剣な様子で語り始める。
「だってだって、この前さぁ……」
この前。この魔王城に帰還した当日。サイゼルはハウゼルと一緒にその部屋を訪れ、魔人筆頭と数年ぶりとなる挨拶を交わした。
そしてバラオ山で起きた事や、今後のサイゼルの身の振り方など、ハウゼルは旅の中で起きたあらゆる事を報告した。
一切合切の事情を聞いたホーネットは、サイゼルと視線を合わせて「魔王城への滞在は構いませんが、派閥に仇なすような妙な動きをみせた時は知りませんよ」と、そんな言葉でもって脅してきた。
その時に見たあの魔人筆頭の表情、それは思わずサイゼルに死の覚悟をさせてしまうくらい、それはもう恐ろしく鋭い目付きをしていたそうだ。
「ホーネットはきっと、ケイブリス派に居た私の事を嫌ってる、いや恨んでいるのよ!」
「……うーん、そんなことないと思うけど……」
「あるっ、あるの!! あの人を殺しそうな目付きが語ってるわ、絶対そういう事なの!!」
この城において最強の存在たる魔人筆頭。そんな相手から自分は恨まれている、標的としてロックオンされている。そんな思い込みにサイゼルの表情が恐怖に歪む。
「……ほーねっと様がねぇ……」
一方のシルキィは懐疑的。ホーネットの言葉は派閥の主として当然の忠告で、そこに嫌ったり恨んだりといった感情は混じっていないはずである。
むしろそれはサイゼル側の問題ではないか。その時サイゼルには敵派閥に属していた負い目があったので、おそらくそれでホーネットの言葉を強烈に受け取り過ぎてしまったのだろう。
シルキィはそのように今の話を解釈したのだが、それをここで自分が説明したとしても、きっとサイゼルは納得しないような気がしたので。
「……よし。じゃあ言いに行こっか」
そんな言葉と共にすくっと立ち上がった。
「……え? 言うって何を? てか誰に?」
「だからほーねっと様に。さいぜるの事を嫌わないでくださいーって。そんな怖い目で睨まないでくださいーって、そう言いにいきましょ?」
その方があなたも安心出来るでしょ?
と、にっこり笑顔のシルキィは100%の親切心からそんな提案をしてくる。
「いやいやいやいや、いいからいいから。そんな事言ったら殺されるから」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「大丈夫じゃない! 大丈夫じゃないから!!」
突然となるまさかの話に、サイゼルは酔いが冷めた様子でその首をぶるぶると横に振る。
ほんのつい一昨日、ホーネットからは妙な真似はしないようにと釘を刺されたばかりである。
それなのに「その目付きが怖いから止めろ」などと口にしようものなら、お返しに飛んでくるのが六色破壊光線でもおかしくない。
「だいじょーぶだってば。ほら、行こ?」
「ちょちょちょちょっとまって待って!! ほんとに行く気なの!? 今から!?」
「もっちろん。こーいう事はね、早く本人に伝えた方が良いんだって」
「やだやだ、無理無理絶対無理!! わたしはホーネットとはなるべく関わらないように生きていくって誓ったの!!」
余程ホーネットがトラウマになっているのか、サイゼルは大声で叫びながら必死の抵抗、テーブルの足にしがみ付き亀のように身を丸める。だが、
「さ、行きましょーねー。……よっこいしょー」
「ぎゃー!! 助けてハウゼルー!!」
しかしシルキィにはさっぱり通じない。その首根っこを片手でひょいっと掴み上げると、そのままテーブルごと引き摺ってとことこと歩き出す。
「シルキィ、ほんとに無理だって!! 大体あんただってさ、そんな酔っ払った状態でホーネットと顔を合わせても良いわけ!?」
「だからー、何度も言うけどー、わたしは酔ってないんだってばー」
「酔ってるに決まってんでしょー!!」
この酔っ払いー!! と大声で叫びながら、同時にサイゼルは嫌な事を思い出した。
この酔っ払った魔人四天王はもはや無敵の状態、自分には決して抗う事など出来ず、関わってしまったら絶対に面倒な事になる相手だという事を。
そして。
「……分かったシルキィ!! 行くから、行くからちょっとだけ待ってっ!!!」
「うん? どーしたの??」
恐らくはどうやっても抵抗は出来ない。
このシルキィからは逃げられず、これからあのホーネットと会わなければならない。
嫌々ながらもそれを受け入れたサイゼルが、せめてもの抵抗と選んだ選択肢。それは。
「……その、もうちょっとここでお酒を飲んでからにしたいなー。なんて……」