ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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魔王城到着

 

 

 

 

 

 

 谷底の道には時折生温かい突風が吹く。その風は不規則に曲がりくねる谷間を擦り、その結果聞こえる風の音が人の嘆く声に似ているとか。

 あるいはそれとも。その昔この地の近くには人間を飼育する牧場があり、そこで飼われていた人達の嘆きがこの地まで聞こえていたからとか。

 

 そう呼ばれるに至った理由はもはや定かでは無いが、ともかくこの場所はなげきの谷。

 番裏の砦の魔王城の間にある谷道であり、そして一行の現在地である。

 

「ふんふんふふ~ん……♪」

 

 鼻歌を歌いながら軽快に歩く男、ランス。彼はサテラとシルキィの道案内の下、シィルとかなみを連れてなげきの谷を進んでいた。

 ホーネット派に協力する事となった為、その本拠地である魔王城へと向かっているのだ。ちなみにフレイアはヘルマン国内での任務がある為、番裏の砦にて別れている。

 遂に人間世界を離れ、魔の領域である魔物界に足を踏み入れたランスだが、そうとは思えない程に足取りは軽く、とても上機嫌で。

 

(くっくっく……上手くいったぞ、実に上手くいったぜ。やっぱシルキィちゃんみたいな真面目な子は最初に条件を付けちまうに限るな)

 

 内心での笑いが抑えられず、思わずランスの口元がニヤける。

 

 前回の時、ランスはセックスさせてくれないなら総統を辞めるぞーという駄々をこね、結果シルキィとのセックスを取り付ける事に成功した。

 しかし前回はその一度きり。一度はシルキィの身体を味わう事が出来たのだが、その後二度目の機会を持つ事が出来なかった。

 ランスはその時の反省を大いに生かして、今回は何度でも抱けるように『俺様の女になれ』との条件を飲ませたのである。

 

(それにしてもあんな条件で良いとはな。ケイブリス派の魔人なんぞ元から全員叩き潰すつもりなのだから、俺様にとってはあんな条件あって無いようなもんだ。これでシルキィちゃんはオーケー、サテラはすでに俺様にメロメロだから、残るはハウゼルちゃんとホーネットだな)

 

「……うむ。くくく、がーはっはっはっは!!」

 

 ランスが突然高笑いをすると「いきなり変な笑い声あげないでよっ!」と、その後ろを歩くかなみが大袈裟な程に反応する。

 ランス専属の忍者たる彼女の表情は暗く、それは隣を歩くシィルも似た表情。どうやら彼女達は今歩いているこの地への怯えがある様子だった。

 

「それにしても……魔物界ってなんだか不思議な場所ですね……」

「……うん。手紙を届けた時にも思ったけど、私達の住む世界とはまるで別世界っていうか……」

 

 不安そうにきょろきょろと、辺りを見渡しながら二人が呟く。

 空は不気味な赤紫色、時折激しい雷鳴が鳴り響き、辺りには見慣れない形の奇妙な植物。

 ここ魔物界は普段ランス達が生活する人類圏とは何から何まで違う所。今の天気も魔人達に言わせれば普通の空模様なのだそうだ。

 

「まぁ確かにな。ここは相変わらず奇妙な場所だ。おいサテラ、魔王城へはまだ着かんのか」

「まだブルトンツリーも見えていない。魔王城はその先だからまだまだ掛かる」

 

 ガーディアンの肩に乗るサテラが答えながら、ふと先頭を歩くシルキィの様子をじっと眺める。

 

「どうしたシルキィ。さっきからずっと静かじゃないか」

「ん、ちょっと考え事をね」

 

 そう答えながらもシルキィは顎に手を当て難しい顔をしたままで。

 先程から、というか番裏の砦を出発した時から彼女の頭を悩ませていた事、それは。

 

「……ランスさん達の事、ホーネット様にどうやって説明しようかなーと思って」

「あぁ……」

「あぁ……」

 

 サテラの困ったような相槌に、思わずランスも同じ言葉を被せてしまう。

 ランスは前回の第二次魔人戦争の最中にて、魔王城に囚われていたその魔人を救出した際、初めてホーネットと顔を合わせる事となった。

 その時に交わしたのは短い会話だったが、彼女がどんな性格、どんな思想の持ち主かはその時の短い会話だけでも容易に知る事が出来た。

 

(人間をわんわんのようにしか思っとらん奴だからなぁ、あいつは。さてどう口説いたもんか)

 

 ランスがホーネット派に協力する一番の理由。

 それは前回味わう事の出来なかった彼女、魔人ホーネットを今回こそ抱く事である。

 そしてゆくゆくはホーネット派魔人達全員でのハーレムプレイ。そこまでの夢を膨らませるランスにとって、かの魔人筆頭は必ず落とさなければならない強敵である。

 ただそうは言ってもあのホーネットを口説く云々の前に、そもそもまずは協力する事への許しを得なければ何も始まらない訳で。

 

「……それでね、少し考えたんだけど……」

 

 そしてそれはランスが考える事では無くて彼女の役目。

 自分が全部の責任を持つと宣言した手前、その事をずっと考えていたシルキィは足を止めてランス達の方へと向き直った。

 

「人間のままだと色々難しいと思うのよ。だから皆は私の使徒になるって事でどうかしら」

「えっ!!」

「君の使徒に?」

「うん。と言っても形だけで実際に使徒にする訳じゃないけれど。多分その方がホーネット様にも説明しやすいし、それに魔物が大勢棲む魔物界で動く場合、人間の協力者よりも私の使徒って事にした方が貴方達も動きやすいと思うの」

「……ふむ、なるほど。確かにそうかもしれんな。分かった、んじゃそういう事にしよう」

「えぇええっ!!」

「……さっきからどうしたの、サテラ」

 

 途中途中で大声を挟んだサテラは、驚愕の表情で口をパクパクさせていた。

 

「だ、だ、だって、ランス、お前、前にサテラが使徒に誘った時は、ぜんぜん……!! それなのにシルキィの使徒ならいいのか!?」

「いやいや、俺だって別に本気で使徒になるつもりなどは無いぞ」

「そうよサテラ、使徒になったっていうフリをするだけよ。……二人もそれでいいかしら?」

 

 シルキィは首を傾け、ランスの少し後ろを歩くシィルとかなみに話を振る。

 

「は、はいっ! あ、ありがとうございます……」

「お、お構いなく……」

 

 すると二人は硬い表情でこくこくと頷く。どうやらまだこの状況に、魔人が二人もすぐそばに居る状況に慣れていないらしい。

 ともあれ。そんな理由でランス達は便宜上、シルキィの使徒と名乗る事になった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 そしてそれから数時間後。

 ランスが疲れたーと騒ぎ出したので、一行は休憩を入れる事となった。

 

「シィル、昼飯」

「はいランス様、お弁当作ってきましたよ。かなみさんも良かったらどうぞ」

「うん。ありがとシィルちゃん」

 

 地面に敷いたシートの上、ランスとシィルとかなみの三人はランチタイム中で。

 

「……ふぅ」

 

 そしてその頃、シルキィは食事をとる人間達から少し離れた場所にいた。

 この辺りに棲息している魔物達が近づいてこないよう警戒をしていのだが、するとそんな彼女の下にサテラが近づいてきた。

 

「な、なぁシルキィ」

「ん? どうしたのサテラ」

「……その」

 

 言い淀むサテラは何やら思い悩んでいる表情をしている。

 何かと素直な彼女には珍しい表情、あまり似合わない表情だなとシルキィは思った。

 

「……その、本当にシルキィはその……ランスの女になるのか?」

「あぁ、その話? まぁ……ね。約束した以上は……そうなる事もあるかもね」

 

 すでにその覚悟はしている。決してそうなりたい訳では無いのだが、しかし一度約束をしたからにはどんな事であろうと違えるつもりは無い。真面目なシルキィにとっては至極当たり前の事である。

 

「……けれど、それは彼が魔人を倒せたらの話よ? いくら魔剣カオスがあるからと言っても容易く出来るような事じゃないわ。サテラだってそれは分かるでしょう?」

「それはそうだが……うぅ、シルキィが、ランスの女。さ、サテラは、サテラは……」

 

 どうやら自分の言葉もあまり届いていないのか、サテラは真っ赤になってまごまごしている。

 どうにも様子が変だ、一体どうしたのだろうと思った所、一つだけ思い当たる節があった。

 

(……あぁ、そう言えば)

 

 ランスはあの条件を告げた際、自らの女になれという話にサテラも含めてはいなかったか。

 もしかしたらその事を気にしているのだろうか。それならば心配無用な事だと、シルキィは努めて優しい声色でその口を開く。

 

「大丈夫よサテラ。これは全部私が責任を持つって言ったでしょ? 仮にランスさんが魔人を倒せたとしても、私だけで我慢するよう必ず言って聞かせるから、サテラが彼の女になる必要は無いわ」

「えっ! あ、いや違……く、はないぞ? けど、うぅ……」

「……うん?」

 

 続く言葉が出てこないのか、サテラは更に言葉を濁して更にもじもじと。

 そんな様子を見ていたシルキィはふいにピーンと来てしまった。

 

(あれ、もしかしてサテラって……あぁ、そういう事か)

 

 どうやら自分が考えていた事とは逆みたいだ、と小さく笑みを零す。

 

「安心してサテラ。サテラのお気に入りを奪ったりはしないから」

 

 おそらくそんな言葉が欲しかったのだろうと、シルキィはそう思って口にしたのだが。

 

「な、いや、サテラはべ、別にそんなんじゃ!?」

 

 しかしその相手は決して自分の気持ちを認めず、ぶんぶんと騒がしい程にその首を振る。

 

(そんなに慌てて否定したらむしろ、ねぇ? 本当に分かりやすいなぁサテラは。……ん、そうだ。それなら……)

 

「ねぇサテラ。さっきの使徒の話、ランスさんだけはサテラの使徒って事にする?」

「え、いいの?」

「えぇ。……けど分かってるとは思うけど、本当に使徒にしては駄目だからね?」

「わ、分かってる!!」

 

 自分のちょっとした思い付きを受け、サテラは「ランスが、サテラの仮の使徒、仮の使徒……」とぶつぶつ呟いていたが、しかし頬が緩むのを全く隠せていない。

 本当に分かりやすい子だなぁと、旧知の間柄となるその魔人の可愛らしい様子にシルキィはもう一度微笑を浮かべるのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 そして休憩を終えたランス達は歩みを再開。

 

 魔王城に近づくにつれ、魔物の姿を目にする機会も増える。出会った魔物は皆ランス達に不可解な目を向け、中には襲い掛かってくる者も居たが、サテラとシルキィが「彼らは自分達の使徒だ」と告げるとすぐに散っていく。

 そんな事を何度か繰り返しながら、その後一行はなげきの谷を越え、そして魔界都市ブルトンツリーも通過して、遂に目的地である魔王城へ辿り着こうとしていた。

 

 

「しっかし、確かにあれはすげぇ魔物の数だったな。かなみがちびるのも分かる気がするぞ」

「ち、ちびって無い! ちびってはないから!」

 

 ランスの言う「あれ」とは、先程彼等が通過した場所で目撃した壮観な眺め。

 魔物界においての大拠点となる魔界都市、魔王城のすぐ近くにあるブルトンツリーに棲む莫大な数の魔物がひしめく光景の事。

 

「なぁサテラ。あそこに居たあれって全部がホーネット派の魔物なのか?」

「そうだな。ブルトンツリーに居る魔物達だったらほぼ全員がホーネット派だろうな」

「私達ホーネット派に所属する魔物は約150万。現在魔王城とブルトンツリー周辺にはその内の50万程が居て、残る100万は前線近くにある別の都市に集められているの」

 

 シルキィは付け加えた話、ホーネット派に属する魔物兵の数が約150万。

 それに加えてサテラ、シルキィ、ハウゼル、メガラス、ホーネットの5体の魔人。それが現在のホーネット派の総戦力となる。

 

「150万って……すごい数ですね、ランス様」

「ただまぁそれでも、ケイブリス派には300万程居るんだけどね」

「さ、300万!? ランス、本当に大丈夫なの?」

「なーに、俺様に掛かれば全く問題無いわ」

 

 魔物兵約300万に加え、レイ、パイアール、レッドアイ、ガルティア、メディウサ、バボラ、ケッセルリンク、ケイブリス。

 以上八体の魔人が現在のケイブリス派の総戦力となる。

 

「ふん、ランスが居なくってもサテラ達は勝つがな。……まぁ仕方無いから協力はさせてやる。サテラの使徒としてしっかり働けよ。ランス」

「あれ、いつの間にお前の使徒に……まぁ誰の使徒でも構わんが俺様がするのはフリだからな?」

「む。ふりでも、いやふりだからこそ、バレないようにしっかり使徒らしくするんだ。いいな!」

「へいへい。……と、着いたみたいだな。おぉ、これが……」

 

 足を止めたランスは首を上に傾ける。

 だがそれでも全てが視界には入り切らない程に、とても巨大な城がそこにあった。

 

(ううむ、相変わらずデカい。もしかしたら俺様の城より大きいかも……でもまぁセンスは俺様の圧勝だがな)

 

 思わずランスも気後れしてしまう程、荘厳な佇まいのその巨城が目的地である魔王城。

 魔物界の北部に建てられている城であり、前魔王ガイが亡くなってから主不在となる城である。

 

 前魔王ガイ。彼は異界より連れてきた来水美樹を新たな魔王として指名した。

 しかし来水美樹は魔王になる事を拒み、この城の主とはならずに逃げ出してしまった。

 すると残された魔人達の意見は割れ、ガイの遺言に従う者、来水美樹を魔王として戴き統治してもらうことを目的とする派閥と、ガイの遺言に逆らう者、魔物による力の支配を目的とする派閥とに分かれた。

 

 前者がホーネット派。後者がケイブリス派であり、この魔王城はホーネット派の本拠地となる。

 

 

 魔人二人の帰還に気付いたのか、内開きの魔王城の城門がすぐに開かれる。

 サテラとシルキィ当たり前のように、ランスも何も気にせず堂々と、シィルとかなみは恐る恐るといった様子で城門を越え、そして城の入口をくぐる。

 前回ランスが訪れた際は無残に荒らされていたこの魔王城だが、しかし今回はそんな事も無く、城内はこの世界の支配者たる魔王の居城に相応しい豪華な内装に整えられていた。

 

「……さて。まずはホーネット様に貴方達の事を紹介しないとね」

 

 先頭を歩くシルキィが少し緊張した声色でそう告げた。

 

 

 

 

 

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