「全くお前ら、何を朝っぱらから喧嘩などしとるんじゃ。ちゃんと仲良くするよーに」
「別に喧嘩なんてしていないわよ。……してないわよね、シルキィ?」
ふっと笑い、してやったりといった表情で同意を求めてくるワーグ。
「……まぁね」
その隣、まんまとしてやられたシルキィは釈然としない表情でしぶしぶ頷く。
起き抜けとなるランスの目の前、そこで繰り広げられていた魔人同士の口喧嘩。
夢を操る魔人が仕掛けた悪戯に端を発する言い争いは、最終的に証拠不十分という事で決着。
ワーグが自分の仕業ではないとひたすらしらばっくれる以上、その夢が単なる夢なのか作為的なものなのかを決定付ける事は出来ず、仕方無くシルキィはひとまず矛を収める事にした。
だったのだが。
しかしその矛以外の感情、それがそう簡単に収まってくれるかと言うとそうでもなくて。
「で? 結局何が原因で喧嘩しとったのだ?」
「う、ううん、本当に喧嘩とかじゃないから。ランスさんが気にするような事じゃないわ」
「……ま、それならいーけど。んじゃあシルキィちゃん、早速だが朝飯を作ってくれ」
「うん、分かっ──」
た。と口にしながら、自然とそちらに顔を向けたシルキィだったが、
「……ぁ」
その人物の顔を目に入れた途端、全身をピタっと不自然に硬直させる。
「……う」
「ぬ、どした?」
「……ぁ、う」
引きつった顔で口をパクパクとさせるシルキィ。
彼女のその目に映っているもの、それは普段となんら変わりの無いランスの表情。
だがその顔を見ているとあの時の事が。
その瞳を覗いていると、世界で一番好きだと告白されたあの時の熱い視線が。
その口元を見ていると、夢の中で告げられたプロポーズの言葉が脳裏に蘇ってきて。
「ぁー……」
「あー? つーかシルキィちゃん、君なんか顔が真っ赤だぞ」
「ぅー……」
「うー?」
あー、とか、うー、とかしか言えなくなってしまった魔人四天王。
その不審さにランスが首を傾げていると、
「……ランス。朝ごはんは私達が作っておくから、あなたは顔を洗ってきたら?」
「お、そういやそーだ。まだ顔を洗ってなかった」
見るに見かねたワーグが助け舟を出して、ランスは少し離れた水場へと歩いていく。
その後姿を見送った後、
「……それにしても」
ワーグは真っ赤な顔でまごついている魔人四天王に対して、それはもう呆れを込めた視線を向けた。
「シルキィ、あなた少し動揺しすぎじゃない? そんなんでよく昨日私に対して『ランスさんの事は何とも思ってないわー』なんて言えたものね」
「ワーグっ!! 貴女がおかしな夢を見せるからでしょう!? ほんとにもうっ、私がおかしくなっちゃったら貴女の所為だからね!?」
と、朝っぱらからそんな一悶着を挟みつつ。
その後彼等は朝食を食べ終わり、そしてテントの撤収など出発の準備を整えて。
「皆、忘れ物は無いかしら?」
「おう」
「うん」
朝食の間に何とか平静さを取り戻したのか。
普段の様子に戻ったシルキィがそう声を掛けると、すぐにランスとワーグが頷きを返す。
「それじゃあランスさん、行きましょうか」
「よっしゃ。では本日も作戦行動開始といくか」
そして一行は前進を再開、進路はこれまでと同じく南の方角。
今日で出発から4日目。夜中に魔人四天王が悪夢を見た事以外はこれまでと何ら変わらず、ここまで作戦は順調に進んでいる。
「……まぁ作戦行動開始っつってもやる事は昨日と同じ、朝から晩まで歩くだけなのだが」
「もう、出発早々気が滅入る事を言わないでよ。大体この作戦はランスが考えたのでしょう?」
「そりゃそうだけどな。けど俺様の想定ではうし車を使ってパパーっと事が済むはずだったのだ。車が使えんともっと早く気付いていれば……」
「まぁ確かに歩くには大変な距離があるのは事実だけどね。けれどその距離以外には何ら障害が無いんだし、楽な作戦だと私は思うけど」
シルキィがそう評価した通り、この作戦の問題点と言えるのはその途方も無い移動距離のみ。
それを越えるだけでロナを楽に救出する事が可能であり、かつ魔人レッドアイを楽に討伐する事も可能。掛かる手間暇は多いがそれを遥かに上回る見返りが望める素晴らしい作戦だと言える。
故に彼等は歩く。ただただ歩く。
魔界都市キトゥイツリーを通り過ぎて、南の方角へと一直線。
「……あー、だりー、もう歩きたくなーい」
「ランス、そうやってぐちぐち言わないの」
「だってなぁ。……あそうだシルキィちゃん。確か君が着ているその装甲ってめちゃくちゃデカくする事が出来たよな?」
「えぇ、そうね。全部のパーツを使用すればかなり大きく展開する事は出来るけど」
「ならこの前みたいにその上に乗っけてくれ。それで移動した方が絶対に早いだろう」
「駄目よ、それだと目立っちゃうもの。目立たないようにわざわざ森の中を進んでるんでしょ?」
それから3日が経過。
まだまだ彼等は歩く。とにかく歩く。
魔界都市サイサイツリーを通り過ぎて、更に更にと南進を続ける。
「よし、じゃあ淫語しりとりをしよう」
「うん? 何をするって?」
「淫語しりとり。エロいワードしか使えんしりとりだ。んじゃいくぞ、おっぱい。はいワーグ」
「え、私!? え、ええと、おっぱ『い』だから……その、えっと……」
「どうしたワーグ? 答えられんかったら罰ゲームでストリップだからな」
「ちょ、ちょっと待ってよ、そんなの……! い、い、い……!」
「……ワーグ。何でもかんでもランスさんに付き合ってあげる必要は無いのよ」
それからまた3日が経過。
変わらず彼等は歩く。ひたすら歩く。
ホーネット派最前線の魔界都市ビューティーツリーまで到着すると、その先にはいよいよケイブリス派支配圏が見えてくる。
「シルキィちゃんの肌の色に関してなのだが」
「私の肌の色?」
「うむ。君の肌って少し濃い色をしてるだろ? ワーグよ、これはなんでだと思う?」
「て、それを私に聞くの? ……そうねぇ、日焼けでもしたんじゃないの?」
「と思うだろ? けどな、この子の身体には日に焼ける前の色をしている箇所がどこにも無い。普段は服で隠れるはずの乳首の際ぎりぎりまでこの色をしているのだ。知ってたか?」
「あのね、知る訳無いでしょそんな事。……でもそうなんだ、て事はシルキィの肌は地の色──」
「そう。つまりシルキィちゃんは素っ裸で青姦しまくったからこうなったって事だな」
「ランスさん、ぶっとばすわよ」
それからまた2日程が経過して。
ビューティーツリーとペンゲラツリーを結ぶ道の途中、そこから南に進んでケイブリス派の支配圏となる森の中へと突入する。
そこは魔物界においては一般的、通行用に切り開かれてはいない森林地帯。木々や草花が視界を遮る程に生い茂り、更には危険な魔界植物も群生していたりと本来ならば歩くだけでも危険な一帯である。
とはいえ魔人ワーグの能力によって森の中は全てが深い眠りに落ちて、そして先頭を歩く重装甲、魔人シルキィが邪魔な木々や蔦などを取り払って。
そうして進み続ける事数時間程。
「……いよいよね」
全体を通して掛かった日数は12日近く、彼等は遂に目的地の付近へと辿り着いた。
そこはその森に入ってから数10km南へと進んだ地点、魔人レッドアイ指揮下の魔物兵の一団の現在地と思わしき場所である。
「この先にロナとレッドアイが居るのか?」
「えぇ、一昨日に会ったメガラスの情報に間違いがなければそのはずよ」
ランスの言葉にシルキィが頷きを返す。
事前に立ち寄った魔界都市ビューティーツリー、そこで接触した魔人メガラス指揮下の飛行魔物兵部隊はランス達の期待に見事応え、数日前に魔人レッドアイの一団を発見してくれていた。
「よし。ワーグよ、お前の能力の効き目はどうだ」
「この距離なら絶対に大丈夫。きっともう全員眠っている頃だと思うわ」
緊張からか自然と声を顰めて、ランス達は小声でひそひそ声で会話を交わす。
相手はもう間近の距離、木々に遮られてまだ見えてはいないがそれでも気配は伝わってくる。
特に耳を澄ませば微かに聞こえる、大勢の生物のものであろう安らかな寝息。それは魔人レッドアイの一団がそこにいる証であり、ランス達の狙い通りワーグの能力によって無力化されている証である。
唯一の障害であった移動距離を踏破して、こうしてその前に辿り着いた以上残すは簡単。
眠る敵の中から眠るロナを助け出して、そして眠るレッドアイにトドメを刺すだけである。
だったのだが。
「それじゃあランスさん、行きま──」
「ぐがー、ぐがー」
「って、えぇ!? ちょっとランスさんっ、貴方このタイミングで眠っちゃうの!?」
今まさに作戦の山場となりそうだったその時、ランスは一人夢の世界へと旅立ってしまった。
ワーグの眠気は魔人の能力であり人間のランスが耐え続けるのにも限度がある。故に仕方無いと言えば仕方無くもあるのだが、シルキィが口にした通りあまりにもアレなタイミングである。
「ねぇランスさん、起きて、起きてってば!」
「ぐがー、ぐがー」
「……こうなるとしばらく起きそうにないわね」
シルキィはわしゃわしゃとその肩を揺すってみるものの、ランスの両目が開かれる気配は無し。
ワーグの能力による永久睡眠では無いのでいつかは目覚めるとはいえ、どうやらここまでかなり我慢していたのか、その眠りはこれまでのケースを参考にすると数時間は目を覚まさないだろうと思われる深い眠りである。
「……シルキィ、どうする? ランスが目を覚ますまでここで待ってみる?」
「けど……」
ワーグからのそんな提案にシルキィは難しそうに顔を顰める。
彼女達が今立っているこの森。この場所はすでにケイブリス派の支配圏内であり、となるとあまり長居をするべきでは無い。
特に今はワーグが一緒に居る。ワーグはケイブリス派において死んだ事となっている以上、もし何らかのアクシデントにより彼女の存在が敵に知られでもしたら大事である。
出発前にワーグは知られても構わないと言っていたが、それでもホーネット派に属している訳では無い彼女にここまで協力して貰っている以上、これ以上余計な負担を掛けるべきでは無い。
「……仕方無いわね」
そんな事を考えたシルキィは、その視線をぐーすか眠る男に向けながら口を開いた。
「とりあえずランスさんはここに置いといて、私達だけで行きましょう」
◇ ◇ ◇
そして。
「……ぐがー、ぐがー」
それから数時間が経過した頃。
「……ぐがー、ぐがー。…………んが?」
ようやくランスは眠りから目覚めた。
「あ、起きた。シルキィ、ランスが起きたわ」
「……ん、おぉ、ワーグ……」
すぐそばで聞こえたワーグの声に意識を呼び戻され、ランスは葉っぱの敷かれた地面からゆっくりと身体を起こす。すると少し離れた所にいた大きな装甲姿が近づいてくる。
「ランスさん、やっと目が覚めたのね」
「……あー、まーた寝ちまったのか、俺様」
「そうよ。まったくもう、どうしてあのタイミングで眠っちゃう訳?」
「知らん、全てはワーグの眠気が悪いのじゃ、そういう文句はワーグに言いなさい」
シルキィからもクレームも気にせず、ぼんやり頭のまま周囲を眺めて状況を整理していると、
「……て、そーだそーだ」
そこでランスは眠る直前の出来事を思い出す。
作戦はもう完遂間近、怨敵はもう目の前なのだと気付いた彼はバッと立ち上がった。
「そういやぁ奴らはすぐそこだったな。よっしゃお前ら、準備はいいだろうな?」
それは寝起きの人間が口にするのには全く相応しくない言葉であったが、とにかくそう告げながら仲間達へと視線を向けたのだが。
「もうとっくに終わったわよ」
そんなランスに返ってきたのは呆れ混じりの視線、そして実に素っ気ない返事。
「……え? 終わっちゃったの?」
「うん。だってランスさん起きないんだもん」
「……あれま」
自分がぐっすりと眠っていた間にどうやら作戦は完結していたらしい。
そうと知って気が抜けたのか、さりとて寝ていた時の出来事に何か文句を言う気分にもならなかったのか、ランスは何とも言えない表情でぽりぽりと頬を掻く。
「……んじゃあ、奴らはもうこの近くには居ないっつー事か?」
「えぇ、あそこはケイブリス派支配圏内だったからすぐに離脱したの。だからこの辺はもうホーネット派支配圏のはずよ」
「……そうか。まぁ終わっちまったもんはしゃーないな。んでロナはどうだった?」
「勿論助け出したわ。ほら」
そう言ってシルキィはランスに見せるように、くるりと反転して背中を向ける。
そこに居たのは身体を預けて眠る少女、みすぼらしい格好をしたボロボロの女の子。
「この子でいいのよね?」
「おぉ、それだそれ。その長い髪と不健康そうな身体付き、間違いなくロナだ」
ロナ・ケスチナ。魔人レッドアイの一団の中に捕らわれていた人間の少女。
ほんの数時間前、漂ってきた甘い香りによってその周囲に居た魔物兵達と同じように眠りについた彼女は、その後やってきたワーグとシルキィの手によって無事救出された。
「狙い通り助け出す事は出来たんだけどね、でもこの子の身体……」
「……うむ。なんつーか、こうして見ると結構ヒドい怪我してるな」
ロナの身体の至る箇所には火傷や擦り傷、打身や出血の痕があり、彼女が日常的な虐待を受けていた事実を示している。
前回の時、ロナと初めて顔を合わせた時にはすでに彼女の身体は治療済みであり、こうして治療前のロナを初めて見る事になったランスもその痛々しさに思わず眉を顰める。
「……ん、……すぅ」
「ふむ、ロナはまだ寝てんのか」
「えぇ。私の能力はすでに解除してあるから、起こそうと思えば起きるとは思うけど……」
「いやいい。とりあえず好きなだけ眠らせてやれ」
虚弱なロナはワーグの眠気に抵抗出来ないのか、救出されてから今までずっと眠り続けている。
その様態を考えてもあえて起こす事はないだろうと、そのまま休ませてあげる事にしたランスはふい片腕を伸ばして、そして。
「ところでシルキィちゃんや、ちょいとかもん」
おいでおいでと手招きをして、装甲姿の魔人四天王を呼び寄せた。
「……うん」
それにシルキィは低い返事で返す。
目覚めたランスに呼び出されるだろう事、内緒話をせがまれるだろう事は半ば分かっていたのか、
「……ごめんワーグ、ちょっとこの子をおんぶするの代わってくれるかしら?」
「えぇ、いいけど」
シルキィはロナの世話をワーグと交代すると、ランスの方へと観念した様子で近付いてくる。
「……よし、この辺でいいか」
シルキィを連れたランスはそこから少し離れた場所、ワーグ達から十分な距離をとった場所で立ち止まると、ワーグに聞かれてはいけないあの話について切り出した。
「……で?」
「で、って……なにが?」
「分かるだろ、レッドアイの事じゃ。勿論ぶっ殺してきたんだよな?」
「………………」
ロナの救出と並ぶこの作戦における重要な目的、魔人レッドアイの討伐。
ランスがそれを尋ねると、若干の沈黙を挟んだ後その装甲の頭部が控えめに左右に振られた。
「……ううん。そっちは駄目だった」
「……何だと?」
するとランスは急にドスの利いた声となり、その声が似合うような表情で目前の装甲を睨む。
「駄目ってのはどういう事だ。まさかあいつは眠ってなかったって事か?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「つーかシルキィ、もしや君の問題か? ワーグがすぐそばに居るからってんで気が引けて、それで目玉退治を止めたんじゃねーだろうな」
「違うの、そういう事じゃなくってね。そもそもあそこにレッドアイは居なかったのよ」
「居なかったぁ?」
不審げに呟いて首を傾げるランスに対して、
「うん、実はね……」
その装甲はこくりと頷き、そして数時間前の出来事を語り始める。
ランスが眠りに落ちた後、シルキィとワーグはその先に進んで遂にその地点へと辿り着いた。
そこには事前にメガラス達から聞いていた情報通り、魔人レッドアイに付き従っている魔物兵達の一団が存在していた。
しかしその中に肝心の相手だけは、魔人レッドアイの姿だけは確認する事が出来なかった。
このままではマズい。その時シルキィは率直にそう思った。
この作戦はロナの救出とレッドアイの討伐の双方を目的としている。その為に何日も掛けてここまで歩いてきた以上、このまま引き下がってレッドアイは倒せませんでしたーでは後々絶対ランスにあーだこーだ言われてしまう。
それは重々承知していたのだが、しかし戦いなどはしないと約束していたワーグがすぐ隣に居る手前、そこに居ないレッドアイを探しに行くような真似なども出来ず、仕方無くシルキィはロナを背負ってその場を後にしたのだった。
「……て事なの。分かってくれた?」
「………………」
「そ、そんな目で睨まないでよ。だって仕方が無いじゃない、居ない相手はどうやったって倒しようがないでしょう?」
「………………」
「そ、それにワーグがすぐそばに居たのよ? あの子に対して戦いとかは絶対にしないからって約束したのは他ならぬランスさんじゃないの」
その無言のプレッシャーに押され、魔人四天王はあれこれ必死に弁明する。
それに多少の効果はあったのかどうか、ランスは顰めっ面のままその口を開く。
「……何故あの目玉はあそこに居なかったんだ?」
「さぁ、それは私にも……」
「あのメガラスとか言うヤツの情報が間違っていたって事か?」
「どうかしら……メガラスの情報通りレッドアイの一団はあそこにちゃんと居たんだし、完全に間違っている訳じゃないと思うけど」
「……むむむ」
共に首を傾げるランスとシルキィ。これは二人には知り得ぬ事ではあるが、魔人レッドアイは昨日の時点ではちゃんとそこに居た。
しかし昨夜遅くに一人ホーネット派陣内への侵攻を再開しており、今この時はビューティーツリーで待機していた魔人ホーネットと何度目かの激戦を繰り広げている真っ最中であった。
「まぁメガラスから教えて貰ったのは3日前の時点での情報だしね。レッドアイは単独行動する事も多い魔人だしこういう事だってあるわよ。気を落とさずにいきましょう?」
「……つーかきみ、卑怯な手を使わずに済んで内心ホッとしてるんじゃねーか?」
「そんな事は…………ないけど?」
「おい、今の間は何じゃ」
その表情は装甲によって完全に覆われていたのだが、しかしランスにはシルキィのしれっとした表情が見えたような気がした。
「と、とにかく! それでも当初の目的通りロナちゃんの事は助け出せたんだからさ。ね?」
「そりゃそうだけどなぁ……しかし目玉退治に成功してないんじゃ……」
「でもさっきも言ったけど相手が居ないんだからどうしようも出来ないわ。それに今はレッドアイよりもロナちゃんの事を優先した方が良いと思うの。ランスさんもあの子の身体を見たでしょう?」
ロナの事を言われたランスは「……ま、それはそーだな」と渋々ながらと言った感じで頷く。
憎きあの目玉をぶっ殺したいという気持ちはあれど、しかしランスにとって何にも勝るのが可愛い女の子の事。
救出したロナの様態は悪く、素人目にも放置しておけるようなものには見えなかった。
「一応ランスさんが寝ている間に回復アイテムで応急処置はしたんだけどね。でも私やワーグは回復魔法なんて使えないし、早く魔王城に戻って然るべき人に見せた方が良いと思うわ」
「……そうするしか無さそうだな。んじゃ──」
──急いで帰るか。
と言い掛けたところで、
「……え? て事はもしかして、これからまたあのクソ長い道程を歩くって事か?」
「うん。それとも帰る方法が他にあるの?」
「………………」
平然の答えるシルキィの一方、ランスは目の前が真っ暗になったような気がした。
こうしてランスが計画した魔人レッドアイ討伐作戦は一応の結末を迎えた。
その成果は目的の一つであるロナの救出には成功したものの、もう一つの目的である魔人レッドアイ討伐は失敗に終わり、ここまでの苦労を考えるとどうにも不完全燃焼な感が否めなかった。
とランスはそう考えていたのだが、しかしそれはロナ・ケスチナの価値を知らないが故の事で。
その作戦は結果的には絶妙な一撃に、それこそレッドアイ当人にとっては殆ど殺されたも同然の状況を作り出していた。