ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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VS 魔人レッドアイ②

 

 

 

 

 そこは魔物界中部の西端、ビューティーツリーとキトゥイツリーの丁度中間点にある地点。

 今回の計画の実行を容易にする為にと、木々を伐採して森の中に拓かれた大きな空き地。

 動きを止める罠と4名ものホーネット派魔人が待ち構えていたその場所は、言わば魔人レッドアイの為に用意された処刑場である。

 

「グ、グ、グ……!」

 

 その中央で拘束されている獲物、それは魔人の中で一番の魔法の才を有する存在。

 そんなLV3の魔力と互角に撃ち合える程の力を持つ魔人ホーネット、そして遠距離からの火炎砲の一撃が十八番となる魔人ハウゼル。

 そんな面々が戦っている事もあってか、その処刑場は莫大な熱量と多彩な魔力の残滓が飛び交う魔法合戦の様相を呈していた。

 

 

「ぐぐぐぐぅ~! ファーーック!!!」

 

 相変わらずの雑言を発しながら、魔人レッドアイは高めた魔力を発射する。

 触手の先から放たれた極細の青いレーザー、幾条ものスノーレーザーが向かう先は空中、中天を華麗に飛翔するホーネット派魔人がその狙い。

 

「レッドアイッ!!」

 

 その魔人──ハウゼルは斜め下に向けて構えた愛銃の引き金を引き、その銃口から発射された火炎の奔流でもって迎え撃つ。

 そして極細の青いレーザーと極太の赤い大砲が両者の中間点で衝突。互いの攻撃魔法の威力は若干ハウゼルの方に軍配が上がったのか、その爆炎が徐々に冷気を押し込んでいく。

 

「……シィィーット!!」

 

 瞬時にバリアーを張って迫りくる火炎から身を守りながらも、レッドアイは悔しげに呻く。

 さすがに巨銃での一撃に定評のある魔人ハウゼルの攻撃だけあって、その火炎はスノーレーザーを数発食らわせた程度では止まりそうにない。

 あれに打ち勝つにはレーザー系魔法じゃなくてその上位、破壊光線が必要か……と、そんな事を考えている余裕すらもありはしない状況で。

 

「ならお次は──グヘェ!?」

 

 レッドアイが次なる攻撃魔法の魔力を練り上げようとしたその時、それを遮るかのようにして闘神Γの背面を強い衝撃が襲う。

 それが何なのかは見ずとも分かる、後方に居るあの魔人からの攻撃魔法に他ならない。

 

「グググゥ~……ホーネットォ……!!」

 

 レッドアイは闘神Γの首周りを沿うように移動して背後に周り、その相手を憎々しげに睨む。

 そこに佇む姿、魔人レッドアイが以前から何度も戦ってきた宿敵──魔人筆頭を。 

 

「バックからアタックするなんて! なんてダーティなヤツ! なんてファッキンなヤツ!!」

「………………」

「ホーネットッ!! ユーのハートにはミーのような誠実さっちゅーもんがないんか!?」

「……まだお喋りをする余裕があるようですね」

 

 耳障りな雑音を適当に聞き流して、ホーネットは自身の周囲に展開している6つの魔法球の光度を再び高めていく。

 

「ノーッ!!」

 

 新たな攻撃魔法の予兆を目の当たりにしたレッドアイは慌てて元々居た場所──闘神Γの首元へと逃げ戻る。

 だがそうして安全地帯に戻ったはいいが、正面には魔人ハウゼルの銃口がピタリと狙いを定め、背後には魔人筆頭が睨みを利かせるこの状況。おまけに左右にもニ体の魔人が構えるこの窮地を逃れる手立てが一向に思い付かない。

 

(オーノー! これはピンチ!! ミーのベリーベリー、ピーンチ!!)

 

 如何な魔人レッドアイとはいえ。そしてその寄生体が魔人と互角の力を持つ闘神Γとはいえ。

 敵に回しているのが4名の魔人とあっては、その身を守るのが精一杯という有様である。

 

 特にその背後に居る相手、これまで何度も戦ってきた魔人ホーネット。長きに渡り決着の付かなかった宿敵であるが、言い換えるとそれはレッドアイにとってもホーネットは引き分けるのが精一杯の相手だと言う事で。

 そんな強敵に加えて魔人サテラと魔人ハウゼル、そして魔人四天王であるシルキィすらも加わったこの状況では、客観的に見てもレッドアイの方に勝ち目など存在しなかった。

 

(ここは一旦エスケーイプするがよろし。早くバイバーイしたい、の、だが……!)

 

 この場においては逃げるが勝ち。

 それは分かっているのだが、しかしそれを許さないのが闘神の脚部を拘束するもの。

 魔人筆頭自らがその魔力で以て張り巡らせた強力な粘着地面に加えて、4名のホーネット派魔人達がそれぞれ四方を囲む形で構えており、ここから逃亡を図るのはとても困難だと言わざるを得ない。

 

(……ケ、ケケ……こうなればぁ……!)

 

 このままでは負けてしまう。このままここで半端な魔法を撃ち続けていても意味が無い。

 この状況を一変するにはもっと強烈な一撃が必要だと判断したのか、レッドアイは闘神Γの両腕を自身の目の前で交差させての防御態勢を取る。

 その間も飛んでくるハウゼルの火炎とホーネットの魔法攻撃に耐えながら、この状況を打開する一撃に必要な魔力を十分に練り上げて、そして。

 

「……ハウゼーールっ!!!」

「ッ!」

 

 その名を高らかに呼びながら、レッドアイは闘神Γの防御を解いて触手の先をそちらに向ける。

 その標的、警戒した表情を見せるハウゼル目掛けて強烈な一撃を発射した。……と見せかけて。

 

「──ケケケケ!! ホントはコッチ!!」

 

 やはりレッドアイにとって叩き潰したいのはハウゼルでは無くその相手なのか。

 正面に向けていた触手の先が瞬時に背後へと向き直り、そこに居るホーネット目掛けて練り上げた魔力を最も強い色の破壊の形に──黒色破壊光線として解き放った。

 

「ホーネット様っ!」

 

 その黒の極光を視界に捉えたサテラの悲鳴が上がる中、

 

「………………」

 

 しかし魔人筆頭は怯みもせず、瞼を閉じて呪文の詠唱にその神経を集中させる。

 受けようとする素振りなど欠片も見せないその姿が示す通りに、やはりその黒色破壊光線はホーネットまで届く事は無く。

 

「くうッ!」

 

 驚異的な速度で地を蹴り光線の通り道に割り込んできた巨大な装甲、魔人四天王シルキィ・リトルレーズンによって防がれる。

 

「うぅ、うぐッ……!」

 

 以前防いだ白色破壊光線の数倍の威力、その破壊の圧に巨大な装甲がじりじりと後退していく。

 しかしこの戦いに臨むに当たってしっかりと装甲を修理してきた事も功を奏してか、決してその背後にまで破壊の光を届かせる事は無く。

 

「………………」

 

 腹心たる魔人四天王がそれを防いでくれる事を分かっていたのか、魔人筆頭は目を閉じたまま呪文の詠唱を止める事すらも無く。そして。

 

「──ふッ!」

 

 小さく息を吐く音と共に、彼女の周囲に浮かぶ6つの魔法球の内、白の魔法球が眩く発光する。

 そこからお返しの如く発射されたのは対をなすような純白の輝き、白色破壊光線。

 

「ホワット!?」

 

 今まさに攻撃中のレッドアイに迎撃の魔法までを繰り出す余裕は無く、仕方無く闘神Γの右腕を盾にして迫りくる極光を受け止める。

 しかしいくら闘神といえども相手は魔人の中でトップクラスの実力を持つ魔人筆頭、その強烈な魔力を受け続けるのにも限度というものがあって。

 

「グゥ……! オ、オオ……!?」

 

 焼けるような熱を帯び始める闘神Γの右腕部。

 そして金属が折れ曲がる時に聞こえる不協和音と共に、そこに巻き付けていた自身の触手ごとブチブチと千切れていく嫌な感覚。

 

「……オオーー!! マイガァーー!!!!」

 

 そして聞こえる驚愕と悲しみの叫び。それは100年以上もの長き年月に渡って使用しているお気に入りの機体、それが修復不可能な程に破損してしまった事を示す絶叫。

 ホーネットが放った白色破壊光線の圧力に耐えかね、闘神Γの肩口から先、右腕のパイプ部分が焼き切れるようにして千切れ、その右腕部は胴体から離れて後方へと転がっていった。

 

「……み、ミーの……ミーのベリィエクセレントな闘神ボディがーー!!」

 

 パーフェクトな機体だった闘神Γ、それがもうパーフェクトでは無くなってしまった。

 その事実に戦闘の最中である事も一旦忘れ、魔人レッドアイは大いに嘆き悲しむ。

 

 

「………………」

 

 その悲鳴、その慟哭の声を聞きながら。

 

(……ようやく腕一つ、ですか)

 

 ホーネットは自身の放った魔法の成果に、これまで幾度と重ねてきたレッドアイとの戦いで初となる目に見える成果を受けて、僅かなりとも感慨深いような心地でいた。

 

(しかしこれだけの戦闘を重ねて腕一つとは。人間が作った兵器と侮る事は出来ませんね)

 

 闘神とは古き時代に人間が作り上げた代物。だが人造物とはいえその戦闘能力は一驚に値する。

 まともにメンテナンスなど受けていないであろうあの闘神がここまで自分の攻撃を耐えてきた事から見ても、その耐久性能などは確かに魔人に比する程と言えるのかもしれない。

 

(……ですが、そろそろ限界のようですね)

 

 とはいえこうしてその右腕部は壊れた。

 そして右腕部が壊れたという事は、同じようにこれまで自分の魔法を受け続けてきた他の箇所の耐久性の限界も近いはずで。

 

(……このまま順当に事が進めば、私の六色破壊光線を使わずとも……)

 

 ──勝利は可能か。

 魔人筆頭がその心中で思う事、それは自身の必殺の魔法を温存しておけるかどうかについて。

 

 ホーネットには全ての魔法球を使って放つ大技、六色破壊光線という必殺の魔法がある。

 しかしこれまでにその必殺魔法をレッドアイに対して使用したのは一度だけ。その一度の際、お互いの必殺魔法の衝突が原因で死の大地が発生してしまった事を後悔し、それ以降彼女はレッドアイとの戦闘で六色破壊光線を使うのを控えてきた。

 

(……今回ランスが立てた作戦の目的は確実にレッドアイを討ち取る事。故に一応六色破壊光線を使う可能性も考慮してはいましたが……)

 

 ホーネット達が今戦っているこの場所。それも六色破壊光線を放つ可能性を鑑みたが故の事。

 ここは付近の魔界都市から十分に離れた場所に位置しており、もし仮にこの地が死の大地になったとしても灰の効果が付近の魔界都市の世界樹までは及ばないよう考慮されている。

 だから今のホーネットはいざとなれば六色破壊光線を放つ事が出来る。少なくともその覚悟だけはしてこの戦いに臨んでいる。

 

(……しかしこの分であればその必要はなさそうですね。……勿論、油断は禁物ではありますが)

 

 開戦からおよそ十数分程。

 未だその右腕部一つ、あくまで寄生体の一部が破壊しただけ。

 とはいえそれでもダメージを与えているのは確かな事で、なにより周囲を4体の魔人に囲まれているこの現状でロクな手立てがあるはずも無く。

 

 今の戦況を冷静に判断してホーネットがそのように考えた通り。

 徐々にではあるものの、しかし確実に魔人レッドアイの死期は迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 ところで。

 

 今現在行われている戦闘。ホーネット派魔人達 VS 魔人レッドアイ。 

 魔法飛び交う派手な激戦の光景、それを遠くから眺める視線が3つほど存在していて。

 

 その内の2つの視線。それが──

 

 

 

 

「……おぉ?」

 

 と興味深そうに呟いて、思わずその身体がやや前のめりになる。

 

「……おおーっとぉ! ここで赤コーナー、ホーネット選手の白色破壊光線が炸裂だぁーー!!」

「………………」

「それを受けた青コーナー、レッドアイ選手、遂に片腕がぶっ壊れたー!! これは痛い、相当な大ダメージ!! いよいよ決着の時が近いかー!?」

 

 ホーネット派魔人達 VS 魔人レッドアイ。 

 自身がプロモートしたその戦いはスリルと興奮を誘うもので、双眼鏡を覗き込むその男の実況解説にも自然と力が増す。

 

「レッドアイ選手は片腕が壊れてしまった事に動揺しているのか、お返しとばかりに放った魔法にもどこか勢いがありません!」

「………………」

「逆にその背後、上空からハウゼル選手の銃口が火を吹いたー! ド迫力の火炎の一撃がレッドアイ選手を襲うー!!」

「…………なぁ」

 

 同じくその光景を眺めているもう一人。

 熱の入った実況を繰り広げる自分とは対照的、平時のテンションのそいつから何か話しかけられたような気もしたが、無視。

 

「とここでこれまで防御に徹していたシルキィ選手が仕掛けたッ! もの凄い速度での体当たりだ! レッドアイ選手は首元を庇うのが精一杯か!」

「……なぁ、心の友よ」

「そしてサテラ選手も鞭を振るうー! ……けど、ありゃあ効果あんのかな……?」

「なぁ、なぁって」

「……ちっ」

 

 再三の呼び声が功を奏したのか、煩わしそうに舌打ちしたランスは顔の向きを少し下げる。

 

「あんだよカオス、うっせーな。今俺様は実況解説をしている最中だと分からんか」

「いや実況解説はいいんだけどもさ」

 

 ホーネット達の戦いを遠巻きに眺めていたかと思ったら、何故かいきなり誰に向けてのものかも分からない実況解説をし始めた。

 そんな持ち主に対し、カオスは今自分達がここでこうしている事への疑問を投げ掛けてみた。

 

 

「あんた戦わんの?」

「戦わん」

 

 するとその男はきっぱりと答えた。

 

 

「うわ、即答」

「あのなぁカオスよ、俺様に戦うつもりがあるならこんな所で実況解説をしてると思うか?」

「いやそりゃその通りなんだけどもさ……」

 

 当たり前の事を聞くなと言わんばかりのランスの態度に、カオスも控えめに同意する他ない。

 彼等が今居る場所、そこはホーネット達が戦っている戦場から数百メートル離れた地点。森の中ではあるが地面が小山のように少し高くなっており、遠くを眺めるのには絶好の場所。

 これほど離れていれば戦闘の余波が飛んでくる事も無い為、その激戦を観覧するのには特等席と呼べる場所だが、しかしその激戦に参加する気のある者が居るべき場所でない事は明白で。

 

「ランスよ、あんたなんで戦わんのさ」

「なんでだと? なら逆に聞くがな、何故俺様があいつと戦わねばならんのじゃ」

「な、何故って……いやでもあんたここに来る前ちゃんと魔法耐性のある装備だってしてきたし、戦闘の準備はバッチリしてきたじゃないの」

「これは単に念の為であって戦うからではない。俺様はメンドーな戦いなどはせんのだ」

「え~……戦いを面倒って言われると儂のアイデンティティー無くなっちゃうんだけど……」

 

 武器としての存在価値の消滅の危機に、魔剣は心底困った声色で呟く。

 確かにランスは面倒くさがりという一面があり、戦う理由の無い相手との戦闘など煩わしいだけなのかもしれない。

 とはいえランスにとって魔人レッドアイは戦う理由の無い相手では無く、ちゃんとした戦う理由のある相手だったはずで。

 

「つーか心の友さ、ちょっと前までは『レッドアイは俺様が絶対にぶっ殺してやるー』みたいな感じで息巻いてたじゃないの。あの時のアツーい気持ちはどこいっちゃったん?」

「……あー。そういやぁそんな事を言ってた時もあったっけなぁ」

 

 カオスからのそんな指摘を受けても、もはやランスは遠い過去の出来事のように語る。

 

「確かにな。確かにあのキチガイ目玉をぶっ殺してやりたいと考えてた時もあったとも。……けどな、あれから何日が経ったと思う?」

「何日? えーと、確かありゃあ~……」

「あれはヤツとの戦いを終えて城に戻った直後だからもう一ヶ月近くも前の話じゃねーか。一ヶ月も時間が空いちまうと駄目だな、なんかレッドアイとかもうぶっちゃけどうでもよくなってきてしまったのだ」

「えぇー……」

 

 熱しやすく冷めやすい……という訳でも無いのだろうが、それでもその間に20日以上にも及ぶロナの救出作戦を挟んだりなど、相当な期間の開きがあったのは確かな事で。

 すると以前はあった激情も次第に風化し、単なる過去の感情にもなろうというもの。

 

「……大体だな。なんで俺様だけがあんな目玉も何度も戦わなきゃならんのだ」

「……え、何度も?」

 

 そしてそれ以上にランスが引っ掛かっている事。

 それは振り返ると前回の時から続いている、自分とあの魔人との妙な因縁について。

 

「そうだ!! これまで俺様があの目玉野郎と何度戦ってきたと思ってる!!」

 

 ランスが魔人レッドアイと対峙したのは前回の時に3戦、そして今回もすでに1戦、計4戦。

 前回といい今回といい何かと妙なタイミングであの魔人とは遭遇する事が多く、ランスにとっては心底嬉しくない巡り合わせである。

 

「次で5度目だぞ!? 5度目!! 普通5回も同じ魔人と戦うか!? なんでこの俺様だけがあんなクソ気持ち悪いイカれた目玉と5回も戦わにゃならんのじゃい!!」

「いや5度目って……2度目の間違いじゃろ。あんたレッドアイと後3回もどこで戦ったのさ」

「戦ったんだよ! お前の知らねぇ所でな!!」

 

 激昂した様子で語るランスにとって、もう魔人レッドアイとの戦闘は完全にお腹一杯。

 先程カオスが言っていた通り一応装備を万全に整えてここに来てみたはいいものの、しかしふと冷静になってそんな事を考えてみるとあの魔人と戦う意欲がさっぱり沸いてこなかった。

 

「それに見ろ!!」

 

 そしてそんな低テンションに拍車を掛けるかのように、眼前ではそれはもうド派手な激戦が。

 ランスは腰から魔剣を引き抜くと、前に突き出してその光景をありありと見せつける。

 

「カオスよ。あんな所に飛び込んでいってまともな戦いになると思うか?」

「ま、まぁ……そりゃそうね」

 

 持ち主の言いたい事を理解したのか、カオスもやる方なしといった感じで頷く。

 

 計5体の魔人が集うその戦場、その中に魔法を得手とする者が多かったからか、自然と魔法の打ち合いに比重を置いた戦況となっている。

 特に魔人ハウゼルが上空から撃ち下ろす火炎の奔流、それにより大地は燃えて所々が溶鉱炉のようにグツグツと煮え立っており、あそこに立とうものなら戦う前に足を火傷する事間違いなし。

 それ以外にもレッドアイとホーネットの魔法が引っ切り無しに飛び交っていたりと、そこは近接戦闘で戦う者には活躍し辛い状況となっている。

 よく見ればサテラやシーザー、シルキィですらも戦うというよりはレッドアイを逃さぬようにその場に構えているといった感じで、人間のランスがその身一つで飛び込んでいくのには確かにツラい戦場となっていた。

 

「大体あそこまで有利な状況をお膳立てしてやったのだ。俺様が戦ってやらんでもさすがにアイツらだけで勝てるだろーよ」

「まぁそれはそーやね。お互い魔人同士での4対1となりゃレッドアイに勝ち目は無いじゃろ」

「んでアイツらの勝利はこの作戦を考えた俺様の勝利も同然。つまり結果的には俺様がレッドアイを倒したって事になるのだ、うむうむ」

 

 配下の手柄はトップの手柄も同然だと、ランスは偉そうな態度で大きく首を縦に振る。

 

「……でも儂さぁ、せっかくの機会だしレッドアイの奴をぶった斬りたいんじゃがのう。……なぁ心の友よ、んじゃせめてトドメだけでも貰ってくる訳にはいかんかね?」

「あのな、なんでこの俺様がわざわざお前の為にんな情けない事をせにゃならんのじゃ」

「え~、ケチー、いけずー」

「やかましい、黙れ馬鹿剣」

 

 そんないつものノリの会話を交わしながらも、その視線は今も爆炎が上がる戦場に向いていて。

 ランスとカオス、二人はその後しばらくその場から見える戦いの光景を眺め続けていたのだが。

 

 

 

「……ん?」

 

 ふいにランスの耳が捉えた小さな音。

 それは正面にある爆音飛び交うその戦場からでは無く、後方から聞こえた何者かの足音。

 

「何だ──」

 

 自然とランスは背後を振り返って、

 

「──お、おぉっ!?」

 

 そこに居た大きな生き物。

 それを見るや否や弾かれたように立ち上がり、慌てて魔剣の切っ先を向けて構える。

 

「うお!? な、何じゃコイツは!! これどっから現れたん!?」

 

 その威容にカオスも驚愕しながらも、持ち主と同じように頭を戦闘モードに切り替える。

 

「………………」

 

 しかしその魔物はその目に映る相手、魔剣を構えて警戒するランスには興味が沸かないのか。

 軽く一瞥しただけで顔の向きを変えると、そのまま二人を無視してのしのしと歩き始める。

 

「………………」

 

 結果、その時はほんの数秒程の邂逅。

 特別何かが起きた訳では無く、すぐにその姿は木々に遮られて見えなくなったのだが。

 

 

「……あーびっくりした。なによあの魔物」

 

 冷や汗混じりの声色で呟くカオス。

 今の魔物が秘める圧倒的な実力は一見しただけで容易に察せられるもので、戦わずに済んだ事にホッと一安心といった心境でいたのだが。

 

「……あれ?」

「……って、心の友?」

 

 その魔物を初めて目にしたカオスとは違い、ランスはその姿に、その脅威に覚えがあって。

 

「……今のはもしかしなくても……」

 

 その大きさは3~4メートル。

 全身が筋肉の鎧で包まれ、そのパンチは岩をも砕く恐ろしいパワー。

 そして何よりその圧力、それは魔人と対峙した時にも比する強烈なプレッシャー。

 

 それはこの世に一体しか居ない希少な魔物。

 魔物の森に棲息し、魔物のくせに何故か魔物だけを倒して回る不思議な存在。

 

「……何故だろう。どうしてか分からんけど無性にイヤな予感がしてきたぞ」

 

 その名をトッポスと言った。

 

 

 

 

 

 


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