ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

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VS 魔人レッドアイ③

 

 

 

 

 

「──ファック!!」

 

 宝石の魔人は吐き捨てるかのように叫ぶ。

 だがそれもつかの間、すぐにその前後から容赦の無い攻撃魔法が飛来する。それらはレッドアイが寄生している闘神の巨体を撃ちつけ、その機体の至る箇所に確実なダメージを蓄積していく。

 

「ファック、ファック、ファアアーーック!!」

 

 苛立ちを表すかのように下品な俗語を連発しながらも反撃。赤い眼球から伸びる触手の先端から色とりどりの閃光が迸る。

 周囲を4体のホーネット派魔人に囲まれているこの現状、この絶体絶命の窮地をどうにかして脱しようと、ロクに目標も定めないまま強力な攻撃魔法を出鱈目に乱射する。

 

「シーザー!」

「ハイ、サテラ様!!」

 

 その内の数発は魔人サテラの下に向かって飛ぶものの、彼女が作った最高傑作品となるガーディアンによって防がれて。

 

「んっ!」

 

 その内の数発は魔人シルキィの下に向かって飛ぶものの、しかし彼女がその身に着込む頑強な重装甲を貫く事は叶わず。

 

「はぁぁあああっ!!」

 

 その内の数発は魔人ハウゼルの下に向かって飛ぶものの、その手に構える巨銃から発射された業火の壁によって阻まれて。

 

「──ふっ」

 

 その内の数発は魔人ホーネットの下に向かって飛ぶものの、彼女がその周囲に展開した魔法バリアによって打ち消される。

 

 

 そこは魔物界中部の西端。

 魔界都市ビューティーツリーと魔界都市キトゥイツリーの丁度中間点にある地点。

 

 その場所では今、魔人レッドアイとホーネット派魔人達との激戦が繰り広げられている真っ最中。

 やはり数的不利が大いに影響してか、その戦いはレッドアイの方が劣勢の状況。前後左右から繰り出されるホーネット派魔人達の苛烈な攻撃の対処に苦慮し、自慢の寄生体だった闘神Γもすでにその片腕が大破してしまっている。

 

「ググググゥ~~!!」

 

 悔しそうに呻く魔人レッドアイ。

 客観的に見てもその敗北は揺るぎなく、もはや時間の問題であったのだが──

 

 

 

 

 

 

 そんな戦場から少し離れた地点にて。

 魔人達が繰り広げる激戦の光景。それを遠巻きから眺めている視線が3つ程存在していて。

 

「い、今の魔物は……今の魔物には何だかめちゃくちゃイヤな思い出が……」

「心の友よ、今の魔物の事知っとるん?」

 

 その内の2つの視線はランスとカオス。

 彼らがとある魔物との予想外の遭遇を果たし、大いに肝を冷やしていたちょうどその頃──

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 それは同じく戦場から少し離れた地点にて。

 ホーネット達の戦いを遠くから眺める視線、その内の3つ目。

 それはランス達とは異なる場所、異なる視点からその戦いをじっと観察している一つの視線。

 

「……いらいら」

 

 その者は今、苛立っていた。

 元々が少し短気というか、ちょっと頭に血が上りやすい性格。

 そして今こうして眺めている光景、魔人レッドアイとホーネット派魔人達との戦いの経過が自分にとって思わしくないというのが一つ。

 更にはそもそもの話をすれば、今自らがここでこうしている事にも大層不満を感じていた。

 

「……いらいら」

 

 その紫色の瞳で一点を見つめながらも、その眉根には深い皺が浮かぶ。

 元々はここに来るつもりなど無かった。何故なら自分は部外者、自分にとってあそこで行われている戦いなど何ら関係無い事だからだ。

 故にいつものように部屋でのんびりしているつもりだったのに、しかし結局はこうして戦場近くまでやって来てしまった。

 自分でも理屈に合わない行動だとはと分かっているのだが、しかしこれはもう自分が自分である限りどうしようもならない事。きっと自分が生まれた時からそうと決まっている事なのだろう。

 

「……いらいら」

 

 だから自分がここでこうしている事は仕方無い事なのだとしても、何にせよここでただ眺めているだけというのは焦れったい。

 勿論あの戦いに参加するつもりなど無い。それはさらさら無いのだが、しかしここで傍観者に徹するというのもそれはそれでツラいものがある。

 なにせあそこで戦っている者の一人、それは自分にとって一番大切な人なのだから。

 

「……いらいら」

 

 大体あいつらもあいつらだと思う。いくら相手があの魔人レッドアイとはいえ、こっちは魔人4人掛かりで何を手こずっているのか。

 どう贔屓目に見ても勝てる戦いではないか。とっとと魔人シルキィの装甲の巨人で叩き潰してしまえばいいのに。とっとと魔人ホーネットの六色破壊光線で焼き尽くしてしまえばいいのに。

 

「……いらいら」

 

 早く戦いを終わらせて欲しい。自分は早く戦いの結末を見届けて帰りたいのに。

 戦闘開始から結構な時間が経ったが一向に決着はつかず、未だ戦闘は継続中で。

 

「……いらいら」

 

 こうして見ているだけというのは実にストレスが貯まる。

 そろそろ限界だ。もはや我慢がならない。 

 

「……あーもうっ!!」

 

 ──そして、堪らず彼女は飛び出した。

 

 

 

 

 

 そこは魔物界中部の西端。

 魔界都市ビューティーツリーと魔界都市キトゥイツリーの丁度中間点にある地点。

 そこで行われていた戦い、その激戦の戦場に突如として転機が訪れる。

 

 

「あんた達ねぇ、魔人が四人もそろって何をちんたら戦ってんのよ!!」

 

 戦いの場に乱入してきたその姿。

 それを見て真っ先に反応したのはやはりと言うべきか、その者の近親者たるあの魔人。

 

「ね、姉さん!? 来ていたのですか?」

「そうよ! 来ていたの!!」

 

 まさかの人物の登場にびっくり仰天のハウゼル、その瞳に映るは最愛の姉の姿。

 

 その戦いを遠巻きに眺めていた3つ目の視線、その正体は魔人サイゼル。

 彼女は派閥戦争の情勢にはてんで興味が無く、長年喧嘩をしていた妹と仲直りをした後は魔王城にて悠々自適な生活を送っていた。

 しかし今回派閥の作戦により魔人レッドアイと戦う妹の事がどうしても心配になってしまい、結果こうして戦場まで駆け付けてしまったのだった。

 

「……ん? どうしてサイゼルがここに?」

「あれ、確かサイゼルってホーネット派には参加しないって言っていたはずじゃ……」

「……サイゼルの事です、大方ハウゼルの事が心配で様子を見に来ていたのでしょう」

 

 その魔人の登場にサテラ、シルキィ、ホーネットがそれぞれの反応を見せる中、

 

「……オォーウ、サイゼル~!?」

 

 劣勢の状況がそうさせるのか、その声は苛立ちを感じさせる余裕のない声色で。

 闘神Γの首元、そこに居る赤い眼球がギロリと中天を睨みつける。

 

「レッドアイっ! こうして会うのも久々ね!」

 

 するとその相手、戦いの場に乱入してきた青き天使は実に堂々とした様子で口を開く。

  

「あんたに特に恨みは無いけど私はハウゼルと一緒に遊びたいの! その為には悪いけどあんたの存在が邪魔なのよ!!」

 

 派閥の対立など知ったこっちゃ無し、実に個人的な理由で敵意を向けるサイゼル。

 彼女にとってレッドアイは元々同じ派閥に属する味方、そして今では特に関係の無い間柄。

 しかし双方の力量を比較するとレッドアイに軍配が上がる為、もしサイゼル単独でならこうして敵意を向ける事など怖くて出来ようはずがない。

 しかし今はハウゼルの側に付いている結果、5対1という圧倒的有利な立場にある事が影響してか、サイゼルの態度も実に強気なもので。

 

「さぁハウゼル、とっととレッドアイを倒して城に帰るわよ!! 私ね、この前新しい入浴剤を買ったの! 早く試してみたいでしょ!?」

「え、あ、はい……て、じゃあもしかして姉さんも一緒に戦ってくれるのですか?」

「そうよ! あんた達が不甲斐ないからもう仕方無くだからね、仕方無く!!」

「姉さん……!」

 

 ツンデレ気味の参加表明を受けて、妹が嬉しさに表情を綻ばせていたその隣で。

 

「て事でハウゼル、早速だけどあれをやるわよ!」

 

 眼下の標的を見据えたまま、姉は高らかに秘策を解き放つ宣言をした。

 

「あれ?」

「あれって……なに?」

 

 その宣言にサテラとシルキィは顔に疑問符を浮かべて。

 

「………………」

 

 宿敵への警戒を依然残したまま、ホーネットも僅かにその眉を顰めて。

 

「アレ? アレとはホワイ?」

 

 当のレッドアイ自身も自らへと向けられる魔人姉妹の秘策に興味を覗かせる中。

 

「姉さん……わかりました、あれですね!」

 

 妹だけはその意図を瞬時に理解する。

 それは魔人姉妹にしか出来ない事、姉妹が姉妹であるが故の必殺の一撃。

 ハウゼルはすぐさまサイゼルの隣に回り込み、翼の生えた背中を互いに密着させる。すると青と赤の姉妹は合わせ鏡のように同じ格好となり、同じ標的に向けてその武器を構える。

 

「いくわよ、ハウゼル!!」

「はい!」

 

 魔人サイゼルが持つ魔銃、全てを凍らせる氷の女神クールゴーデス。

 魔人ハウゼルが持つ巨銃、全てを燃やし尽くす炎の塔タワーオブファイヤー。

 互いの愛銃をぴったりと寄せ合い、互いの銃口が触れる程に銃身を近づける。

 

『せーのっ!』

 

 そして重なる声と共に、サイゼルとハウゼルは全く同じタイミングで引き金を引いた。

 

『仲良しビーームっ!!!』

 

 元々は一つの存在から分かたれた魔人姉妹。

 氷の力の操る姉と炎の力を操る妹。両者が放った氷結砲と火炎砲の軌道が重なって。

 同量の魔力となる青と赤は完全に交わり、純粋な破壊の力となって標的へと向かっていく。

 

「オゥ!?」

 

 一見しただけでその輝きが危険なものだと理解する事は出来たのか、レッドアイも同時に練り上げていた自慢の魔法力でもって応戦する。

 

「ウケケケケケケ!!」

 

 ケタケタと笑いながらその触手の先端から撃ち出した魔法、白色破壊光線。

 ここでより強力な黒色破壊光線を撃つ余裕があれば結果は違ったかもしれないが、最強の破壊光線は魔力を貯めるのにも相応の時間を要する。

 この時のレッドアイには白色破壊光線を放つのが精一杯で、とにかくそうして放たれた白き極光は全てを貫かんと進んでいったのだが。

 

「……お、オーノォー……!!」

 

 次第にその赤い眼球が驚愕に見開かれる。

 両者の中間点で衝突した白き極光はそこから先に進む事は出来ず、青と赤の混じった光に飲み込まれていくではないか。

 

 いくら全魔人中最大の魔法力を有するレッドアイの放った白色破壊光線とはいえ、今相手にしているのは魔人二人分の魔力。

 特に姉妹の仲の良さが極まった時にだけ使用可能な必殺の一撃、通常の銃撃と比べて数倍の威力となった通称『仲良しビーム』を前にしてはさすがに一段劣るものだったのか。

 

「──グッ!」

 

 そのビームは闘神Γの下まで届き、やむを得ず盾代わりにと差し出した左腕に衝突する。だが、

 

「……ググ、ウ……とまら、ナイ……!? ミーの、ボディ、ガ……ガガガ……!!」

 

 魔人姉妹の放った必殺の一撃はそこで止まらず、そのまま闘神の左腕を深く抉っていく。

 これまで幾度となく繰り返してきた魔人筆頭との激戦に使用され、その度にロクなメンテナンス一つ受けてこなかった闘神Γ。どうやらその機体の各所にはすでに限界が来ていたのか、

 

「終わりよ! レッドアイ!!」

「終わりです! レッドアイ!!」

 

 サイゼルとハウゼルがその手に構える愛銃に更なる魔力を込める。

 すると青と赤が混ざった破壊の光は闘神の左腕を貫き、そのままの勢いで胴体をも貫いて。

 

「……オー、なんてこったい……!!」

 

 バチバチと機体全身から聞こえてくる嫌な感じのスパーク音。

 魔人サイゼルと魔人ハウゼルが放った破壊の力。それは闘神Γの中枢にまで到達し、その内部機構を容赦なく食い荒らして。

 

 そして。

 

 

「ノォオォォォォォーーーーッ!!??」

 

 魔人レッドアイの断末魔のような絶叫。

 だがその叫びはより凄まじい爆音によってかき消される。

 闘神Γの内側から光が漏れ出した直後、見る者の目も眩むような大爆発が起こった。

 

 

「──やったぁっ! ハウゼル、レッドアイを倒したわー!!」

 

 吹き付ける途轍もない規模の爆風に体勢を崩しながらも、サイゼルは最愛の妹との共同作業が齎した会心の結果にガッツポーズ。

 

「はい! 姉さん、やりました……!」

 

 ハウゼルも敵派閥に属する強敵の撃破を受けて、少なくない達成感に包まれていたのだが。

 

 

 そうして爆炎と土煙が晴れた後。

 

「……て、あれ? レッドアイの魔血魂は……?」

「え……」

 

 その場には破壊された闘神Γの残骸だけが残されていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 そこは魔物界中部の西端。

 魔界都市ビューティーツリーと魔界都市キトゥイツリーの丁度中間点にある地点。

 先程まで戦場となっていた場所、大爆発が起きた場所から少し離れた地点にて。

 

 

「……グギギ」

 

 全身を襲う苦痛に呻きながらも、滑らかな挙動で地中をすいすいと泳いでいく姿。

 

「……ね、ネヴァーギブアップぅぅぅ……」

 

 魔人レッドアイである。

 

「け、ケケケ……ミーの負け……」

 

 普段とは比較にならない程に自嘲気味に、敗北の味を噛み締めるかのように呟きを漏らす。

 

 ホーネット派による卑劣な罠に嵌められた。その中で戦った結果自分は敗北を喫した。

 お気に入りだった機体は無残にも爆散した。だがその大爆発の最中、レッドアイはどさくさに紛れてその戦場からこっそりと逃げ出していた。

 

「負け、負け……ミーはルーザー、敗北者……」

 

 とはいえ無傷という訳では無い。至近距離からの大爆発に晒された事でレッドアイの触手は半分以上が千切れ、本体たる宝石部分にも一筋の深い亀裂が生じている。

 仮に人間だとしたら手足を半分失い胸元深くまで斬られている状態ではあるが、それでもレッドアイとて魔人。魔王の血の恩恵からかぎりぎりの状態ではあるものの未だ死には至らず、寄生体を犠牲にする事でホーネット派が仕掛けた罠から辛くも生き延びる事に成功したのであった。

 

「ケ、ケケ、ケ……ケケケケケ! ゲギャハヒャアヒャヒャハハ!!」

 

 4対1、ないしは5対1の戦い。全く手も足も出せなかった一方的な戦い。

 その手痛い敗北を喫した事実を受け入れる事で、その目玉はまた狂ったように笑い始める。

 

「あ~、あ~……ミーはラッキーね。これでミーはまたパワーがアップできるんだから」

 

 狂気の魔人レッドアイ。彼の欲望は専ら2つの事柄へと向けられている。

 その一つが命あるものを殺戮する事。そしてもう一つが自らを際限なく強化していく事。

 先程の戦いで自分は敗北を喫したが、しかしそれでもこうして生き延びる事が出来た。ならば今よりも更に強くなれる可能性がまだ自分には残されているという事になる。

 

「うヒヒ……ハッピーハッピー、ミーは今とってもスイートな気分。今よりもっと強くなって、そしてホーネット達をキル・あなたする、けけけ」

 

 レッドアイはすでにそのレベルが成長限界に達している為、これ以上自らが強くなる事は無い。

 しかし彼は寄生能力を持つ魔人。故に寄生体のヴァージョンアップを繰り返す事で、今よりも強力な個体に乗り換えていく事で自らを際限なく強化する事が可能となる。

 

「……まずは新しいボディ、今のミーにピッタシのおニューなボディが必要ね。次は闘神ボディのような弱っちいガッカリボディじゃなく、もっとハイパーなボディにザッツパラサイト」

 

 レッドアイの正体は肉体を持たぬ宝石であり、その本体たる宝石部分の防御力は皆無に等しい。

 一番大事な自分自身を守る為にも、即急に新たな寄生体を見つける必要がある。

 

 さて次はどの生物を寄生体にするべきか。

 次はドラゴンに寄生してみようか。それとも闘将に寄生してやろうか。

 

「うけけけ、楽しみ、楽しみ……ケケケ……!」

 

 次の寄生体はどれ程強いものになるのかと、そんな想像に夢膨らませるレッドアイはこの時、その頭の中からロナの存在を完全に忘却していた。

 今の自分が本当はいつ自己崩壊してもおかしくない状況だという事などすっかり忘れて、新しい寄生体を見つける事に──前の自分よりも更に強くなる事だけを考えていて。

 

「けけけけ……ケケケケ……」

 

 それはレッドアイにとって何よりも純粋な思い。

 時として、そういう純粋な思いが奇跡と呼ぶべき出来事を呼び寄せる事があるのだろうか。

 

 

「……お?」

 

 そして両者は邂逅を果たす。

 それは自己を高める事に対しての願望、魔人レッドアイの願いが天に届いたのか。

 あるいはそれとも。それは双方にとってのある種の運命と呼ぶべきものなのか。

 

「……オォ、オォー……!!」

 

 心の底からの感嘆の声と共に、その狂気を帯びた赤い目玉がにぃ、弓なりに歪む。

 

 そこに居たのは全長3~4mになる大きな魔物。

 この世界にただ一体しか居ない魔物、魔物の森に出没し、魔物の癖に何故か魔物を殺す事だけに心血を注いでいる、別名魔界の災害。

 

「……オォー……ミーはなーんてベリーラッキー、今日はなーんてハッピールンルンな日……!」

 

 その魔物の強さに纏わる逸話、伝え聞く話はどれも信じがたいようなものばかり。

 その身に秘めるパワーは岩山をも動かしうる程に強力なもの、そしてその耐久力は魔人と一年以上戦い続けても決着が付かない程のもの。

 

「次のパラサイトはアレに決定ね。……けけけ、これでミーはもっとベリー強くなれる……!」

 

 闘神Γから乗り換える次の寄生体として、あれ以上に相応しい存在は居ないだろう。

 もし舌があれば舌なめずりしているであろうルンルン気分で、魔人レッドアイはその時をじっと待ち構える。

 

 

「………………」

 

 そして一歩一歩、力強い歩みでその魔物は近づいてくる。

 幹のように太い脚を動かし、魔人に目を付けられてしまった哀れな獲物が歩いてくる。

 

「………………」

 

 その瞳が探し求めるのは魔物の姿のみ。

 そこに潜む存在の事など知る由も無く、その歩みは遂にその地点へと到達して。

 

 そして。

 

 

「──キシャアアアアアア!!」

「……ッ!」

 

 急に地中から飛び出してきたタコのような生物に対し、その大きな魔物は鋭い反応を見せた。

 瞬時に振り下ろした拳、大地を割る程の豪拳はしかし、魔人の無敵結界には悲しい程に無力で。

 

 ──そして。

 

 

 

 

 

 そこは魔物界中部の西端。

 魔界都市ビューティーツリーと魔界都市キトゥイツリーの丁度中間点にある地点。

 先程まで戦場となっていた場所から少し離れた地点にて。

 

 

 新しい力を手に入れた以上、その力を今すぐに試してみたいと考えるのは至極当然の事。

 単に力を試すだけならば周囲にある木々などでも構わないのだが、しかしどうせなら生きている生物で試してみたい。

 命ある者を殺して、その悲鳴でもってこの並外れたパワーの規格外さを実感してみたい。

 

 そんな事を考えていたその時、たまたま目に映ったのがそれだった。

 よく見れば知っているような気もするが、そんな事はこの際どうでもいい。

 とにかくちょうどいい所に居たあれを叩き潰し、この新しい力を試してみようではないか。

 

 つまりはそれが理由。

 言ってみればそれだけの理由。

 そこに何らかの因縁めいたものがあったという訳では無いのだが。

 

 

 

「ウケケケケケケケーー!!」

「だーもう!! やっぱりこうなるんかいッ!!」

 

 思わずそんな悲鳴を上げたランスの目の前。 

 これで計3度目の衝突、トッポスに寄生した魔人レッドアイが襲い掛かってきていた。

 

 

 

 

 


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