ハルケギニアの空を高速で翔る影が二つ。
かたやハルケギニアには存在しない金属で造られた飛行機械。日本が大日本帝国だった時代、帝国海軍が運用をしていたそれは零式艦上戦闘機――通称、ゼロ戦。
こなたゼロ戦と並んで空を往くはピンクブロンドの長髪をシニョンに結い上げた美少女……にしか見えない小柄な少年のメイジ。
風竜でも追いつけない速度で空を往くゼロ戦の隣を苦もなく飛翔するメイジはゼロ戦を操る少年に念話で此度の作戦内容を再度通達する。
『では事前の打ち合わせ通り竜騎士隊の対処は才人、君に任せる。私は防空網を突破後、敵艦隊旗艦に向け砲撃。これを沈めた後、敵方の混乱に乗じ殲滅戦に移行する』
『了解、
『調子に乗って落とされるなよ。君には空戦適正がないんだ。もし落とされたら高度3000メートルから真っ逆さまだぞ』
『ああ、気をつけるって。それに、この戦いはレコン・キスタ……っと今は神聖アルビオン共和国だっけか、そいつらからアルビオンを奪い返す大事な作戦の緒戦だ。油断なんか欠片もねぇよ』
『それは重畳。では気張りたまえよ少年。交信終了』
師からの忠告に気負うことなく返した少年は左手の手甲に収納された短剣を撫でる。
「頼むぜ
《All right. Master》
少年の声に応えを返したそれは魔導師にとっての魔法の杖。ミッドチルダ式にしては珍しい剣型のインテリジェントデバイスだ。
そんな彼らのやり取りにもう一振りの剣から抗議の声が挙がる。
「俺っちの事も忘れてくれるなよなぁ、相棒!」
「おう! お前もお前で頼りにしてるぜデルフ。でもまぁ、空の戦いだから今回は単なる置物なんだけどなお前」
「ひでぇ!」
彼はこれでもかつての
そんな剣たちとやりとりをしている間に戦闘空域に入ったらしい。
徐々に大きくなる艦影から相手が大艦隊なのが見て取れる。
「さぁて、出てきなすった」
相手の使い魔警戒網に引っかかったのだろう。敵艦から次々と竜騎士たちが空へと上がっていくのが見える。
それを強化した目で捉えた少年は乾いた唇を舌でなめる。
「悪ぃがお前等にはココで落ちてもらうぜ。ガンポッドスフィア、多重展開!」
《Fireringlock open》
少年は自身の中にある魔力炉心――リンカーコアを廻し魔力を精製、ゼロ戦の周りに三基の魔力塊を現界させる。
「乱れ討つぜ! ガンポッドスフィア・ガトリングシフト!」
《Openfire!》
発動ワードと共に機体の周りに常駐させた魔力塊から直進性の魔力弾が撃ち出された。
雨霰とまき散らされる魔弾に竜騎士たちは成す術なく撃ち落とされていく。
《Master! Check9!》
「あらよっと!」
左翼から接近しつつ魔法を放つ竜騎士の攻撃を見事なロールで回避し、お返しとばかりに魔力弾をたたき込む。
ハルケギニアの技術レベルを大きく凌駕するゼロ戦の性能。それを意のままに操ることのできる
軽く二十を越える数を相手にしてもモノともしない圧倒的な強さだ。
「こいつは念のために張っといた
「ノーブルバスタァァァアア!」
外から聞こえる声に遅れて桃色の極光が少年の視界をかすめる。
視線をそちらに移すと、メイジの杖から放たれた魔力の奔流が寸分違わず敵艦隊旗艦の中心を射抜いたところだ。
船体がひしゃげるようにして地上に落ちかけた所で火薬庫に引火したのだろう爆発四散する敵艦隊旗艦。
「ひぇぇ、相変わらずおっかねぇ砲撃。神聖アルビオンの連中もご愁傷様ってヤツだな」
訓練時の非殺傷設定とはいえ幾度となく自分たちを打ち抜いてきた桃色の極光に少年は身震いする。
「でもまぁ、先に手を出したのはあんたらなんだから覚悟しろよ。ウチの
そうしてその日、神聖アルビオン共和国の主力艦隊全滅の報がハルケギニアを駆けめぐった。
これを成したのはたったの二人。
トリスティン・アルビオン連合王国、特殊魔導戦技教導隊隊長たるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとその使い魔である平賀才人。
“マスター”の称号を持つメイジとその弟子であり、異世界からの転生者と転移者である。
やってしまった。しかし後悔はしていない。