「お、おい! ルイズが人間を召還したぞ!」
「なぁ、おい。メイジがサモン・サーヴァントで人間を召還したって聞いたことあるか?」
「いや、ないな。ってことは……」
「さすが“
「コモンマッジックを極め、発展させ、ついにはジェネラルマジックへと昇華させた大メイジ。彼に比肩できるメイジはオールド・オスマンと、かの烈風カリンだけじゃないか?」
「あれで俺たちと同い年ってんだからすごいよなぁ」
いきなり目の前に現れた鏡に好奇心を抑えきれずそれを潜った平賀才人が目にしたのは、驚嘆の言葉と羨望の眼差しを向けられる一人の美少女だった。
守ってあげたくなる小動物のような小さな体躯に、つり目がちながらも穏やかな雰囲気を漂わせる容姿。ふわっとしたピンクブロンドの長髪はシニョンに結い上げられており彼女の凛とした美しさを引き立てている。
状況がつかめずに混乱する才人でも見惚れるほどの美しさだ。
周りの少年少女たちが同じしつらえ――おそらく制服だろう――のシャツやスラックス、スカートに黒いマントを羽織る中で、赤いリボンのついた袖無しの青い騎士服に白いショートパンツを纏い白いマントを羽織る彼女が心配そうに才人の側へ歩み寄ると彼へ手を差し伸べた。
「はじめまして。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。君は?」
「お、俺は才人。平賀才人です。あの、ここってどこですか? 何か外人さんのコスプレイベント会場にお邪魔してたりします?」
ルイズの手を取りながら立ち上がった才人は周りの風景を見ながらルイズに問う。
ちなみにルイズの手を握ったときの才人の感想は以下である。
「(うぉおお!? 手めっちゃ小さい! しかもすごく柔らかい! 胸はかなり残念だけど、こんな綺麗な娘とお近づきになれるなんて俺ラッキー!)」
「その問いに答える前に一つ君に質問したい。いいかな?」
「ひゃい!? ななな、なんでせうか!?」
「君の世界には魔法はある?」
心の内を読まれたかとドキッとする才人だったが幸いにして見当外れだったようだ。
それにしても、魔法ときたか。
「魔法って、いや、そんなものないですよ。マンガやゲームじゃあるまいし。あ、この集まりってひょっとして魔法使いのロールプレイアトラクションだったりします?」
そう応えた才人にルイズはふむとおとがいに手を当てると、後ろにいた中年のメイジ――今回の使い魔召還の儀、監督役のジャン・コルベールの方を振り向いた。
「ミスター・コルベール、少し彼は混乱しているようです。ひとまずは腰を落ち着けられる所に彼を案内したいのですがよろしいですか?」
「ええ、もちろん構いませんよマスター・ヴァリエール。しかし、コントラクト・サーヴァントは行わないのですか?」
「今はまだ。どうやら彼はかなり遠方の国から召還されたようですので、まずは状況の説明が先かと」
「確かに彼の身に纏っているものは意匠も材質も我々のそれとは異なるもののようですね」
「はい。おそらく東方にあるいずこかの国から召還された可能性が高いです」
「ならマスター・ヴァリエールにお任せするのが一番ですね。何といっても貴方は東方の魔法技術を読み解きハルケギニアの魔法に組み込むことに成功した賢人なのですから」
そう言って送り出してくれたコルベールを後目にルイズは再度才人の手を取る。
「と、言う訳で平賀君。ひとまず君を私の家に案内しよう。詳しい説明はそこでね」
「あ、はい。それはいいんですけど移動はどうするんですか? 一面原っぱで建物とか見あたらないし、遠くにあるんなら車とかないとかなりしんどいんじゃ……」
「ふふふ。まぁ確かに普通ならそう考えるよね。うん」
才人の言葉に微笑を返したルイズはさらに一歩彼の近くに踏み込むと片腕で才人の腰を抱きしめた。
「な、ななな、なぁぁあああ!?」
「口を閉じなよ少年。さもないと舌を噛むぞ」
いきなりの美少女からのスキンシップに才人が驚きの声を上げる。
「い、いったい何を――」
「飛ぶんだよ」
ルイズの言葉とともに才人の身体がふわりと浮く。
そして一瞬の浮遊の後、二人の身体が一気に空高くへと舞い上がった。
「と、飛んだぁぁあああ!?」
いきなりのことに才人は落ちないようにひっしとルイズに抱きつく。
「そうそう、落ちないようにそうやって掴まってなよ。落ちてもリカバリーできるけど君が恐怖でショック死しない保証はないからね」
「こここ、怖いこと言わないでくださいよ!」
とは言うものの心の中では――。
「(ああ、それにしても身体柔らかいなぁ。いい匂いもするし、俺このまま天国に連れて行かれてもいいかも)」
才人君、君は少し自重を覚えた方がいい。
そんなこんなをしている内に目的地に近づいてきたようだ。
「ほら、見えてきた」
「あ、あれって!?」
まるで中世ヨーロッパ時代の砦を思わせる壁に囲われた五つの塔が見えてきた。
「あれこそ我がトリスティン王国の魔法教育機関、トリスティン魔法学院だ」
そうは言ったもののルイズはその魔法学院の上を素通りしてしまう。
「あれ? あそこが目的地じゃないんですか」
「言ったろ。私の家に案内するって」
進行方向へ向かって学園の敷地外の奥に一軒の邸宅が見える。
どうやらそこが目的地のようだ。
そうして地上へ降りたルイズはそのまま才人を伴って邸宅の扉を開ける。
「お帰りなさいませ、マスター・ルイズ」
「ああ、ただいまシエスタ」
扉の先にはこれまた美少女なメイドさんが待ちかまえていた。
「彼はミスター・ヒラガ。私の客人だ」
「あ、ども。平賀才人……っと、こっち風にいえばサイト・ヒラガっていいます」
「失礼しました貴族様。私はシエスタと申します。トリスティン魔法学院のメイドですが、マスター・ルイズの卒業まではマスターのお世話を仰せつかっている者です」
「いや、別に俺は貴族じゃないし。だからもっと砕けた感じでもいいよ」
「そうなのですか? でも家名をお持ちですし、それに貴族様でなくてもマスター・ルイズのお客様です。平民の身である私には恐れ多いことです。ご容赦ください」
腰を折って恭しく礼をするシエスタに、これもこれでと才人が思う中、ルイズはシエスタにマントを預けながら指示を出す。
「応接室に通すからシエスタはお茶の用意をお願い。お菓子は昨日焼いたクッキーがまだ余ってたはずだからそれを。あと、お茶を届けた後は部屋に近づかないように」
「かしこまりました」
「平賀君はこっちへ」
「お、おう」
そうして通された応接室で椅子に腰を降ろしたところでルイズが口を開いた。
「さて、ここまでで大体この世界が君の世界とは違うと言うことを実感できたと思うのだけど。どうだい?」
「まぁそりゃあ、あんなモノ体験すれば嫌でも実感しますよ。それに貴族や平民って身分差もあるようですし、ということはやっぱりココって異世界?」
「ご明察。ここはハルケギニア。君のいた第九七管理外世界――地球とは別の位相に位置するまさに異世界さ」
ちなみにルイズの着ている衣装は彼の母が若かりし頃に着ていた物のお下がりです。