もし黒のアサシンがジャックちゃんではなく、インド大戦不可避になったら(仮)   作:お空と北極

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ジャックちゃんが嫌いってわけじゃないんです…寧ろ好き。
だけどどうしても、どうしてもインド大戦が欲しかったんじゃ…


1.「狙撃...アーチャーですね!」

 ──聖杯戦争。

 

 かつて日本の冬木という街で行われた、7人の魔術師とそのサーヴァントによる戦い。しかし聖杯というあらゆる願いを叶えるの願望器は、第二次世界大戦の混乱の最中、奪われてしまう。

 

 奪ったのはユグドミレニアという一族。聖杯戦争のシステムは、本来の7騎が戦い形ではなく、7騎対7騎というかつてない規模のものに変質する。

 

 ──聖杯戦争改め、聖杯大戦。

 

 さて、此度は誰が聖杯を手にするのか。

 

 

 

 おや、この世界は……

 

 

 時計塔で1人の翁が小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖にはわが大祖。手向ける色は"黒"。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。」

 

「────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。」

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 あ、引っ張られる、と感じて素直に従い、限界した時、目の前に広がっていたのは、一言で言えば惨状、と呼ぶ他なかった。

 

 足元には、無残に切り裂かれた腹から大量の血を流す虚ろな瞳の美女が横たわっており、その傍らには恍惚とした明らかに意思の薄弱そうな優男が体を震わせて何かをブツブツと言っていた。

 

「ついに……やったぞ……俺は……もうネズミなんて……あいつらを見返してやれる……もう誰も俺を……」

 

 まあ状況から鑑みるに、この死んでしまった女性を生贄にしてこの男が私を召喚したのだろうという見当がつく。そして、開かれた腹の具合と周りに散らばった拷問具からして明らかにこの下衆が殺戮を楽しんでいたであろうということも。

 

 

「お、おお、お前が俺のサーヴァントだな!!!早速だがこの女の処理を────……あ」

「煩い。下衆が。」

 

 

 ひとつ睨みを効かせると男は情けなく床にへたりこんで粗相をした。こんな男の為にこの女性の命が奪われ、それを糧として俺が召喚されたというだけでもまったくもって不愉快だというのに。

 

 しかし、こんなのでもこの男はマスターだ。

 どうしたものか。

 

「ヒッ! 殺さないでくれ!殺さないで下さい!何でもしますから!!……うう、ああそうだ!俺には令呪が!!」

「そうだな、令呪が厄介だな 。」

 

 男の腕への魔力の収束を感じて腰に指した剣を抜き切り飛ばす。

 返り血が穢らわしい。

 

「あああぐぐぐぐあああああ!!!!俺の!俺の腕があぁぁぁぁ!」

「俺としたことが失敗してしまったか。先に殺すべきだったな。俺は貴様と違って人を苦しませて楽しむ趣味はないのでな。……疾く死ね。」

 

 軽く腕を振ると首が簡単に飛んだ。

 重い音をたてて転がる室内は更に血の匂いがむわりと濃くなる。

 

 パスが切れる感覚に確かにマスターだった男の死を認識した。急いで男の腕についた令呪を自らの腕へと移植する。

 

 まあこんなものは単なる応急処置だ。早々に代わりのマスターを見つけることが急務である。なるべく魔力を温存する為にもしばらく魔術は控えておくべきか。探索の魔術は使えない。足で探すしかないか。

 

「……おっと。その前にこの部屋の片付けだな。」

 

 

 男は……まあ、その辺の道端に捨てておこう。殺害に魔術の類は一切使っていないのでサーヴァントの仕業というのはバレないはずである。女性は綺麗にした上でここに残しておこうと思う。去り際に近くを巡回する警官にでも軽い暗示をかけてここに誘導するつもりだ。女性の遺体は発見されて丁寧に埋葬されることだろう。

 

 

 さて、今後の方針についてだ。

 今回の現界は俺自身は黒のアサシンとして呼ばれたようだが、だからといって黒の陣営につくと決めた訳では無い。俺は、俺の目で確認して好きなやり方でこの戦争を生きる。

 

 ──そして聖杯で願いを叶える。

 ──────の横顔が頭をよぎった。

 

 やめだ、感傷に浸る前に前に進もう。

 

 私は私ができることをやるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、最近魔術師が次々と魔力を奪われているというシギショアラ……。」

 

 ロードエルメロイ2世の忠告を無視して元気に時計塔を飛び出した魔術師の青年、フラット・エスカルドスはのどかな中世の街並みを残したシギショアラを歩いていた。

 

 彼がルーマニアに来て初めにやったのはニュースのチェックだった。不可解な事件の元に、神秘。彼はここ最近起こる変な事件をいくつか探し当てた。

 

 公園のベンチに座ってさっき買ってきた新聞を読む。

 

《森で突如ガス爆発! 原因は調査中。周辺住民は暫く避難を余儀なくされるとのこと。》

《謎の閃光。隕石の落下か?!》

《不可解な連続誘拐事件。全員翌日に帰還。被害者の全員が意識を失ったと思ったらここにいた、と証言。 》

 

 これだ、とフラットは3つ目の事件を調べそして、正解だったことに気付く。

 

 被害者はほとんどが魔術師協会から派遣された魔術師で、しかも全員魔力を抜かれていたと、被害者の1人から情報を得た。

 

 

 犯人は間違いなくサーヴァント。

 そして魔力の供給に不満のあるサーヴァント。

 

 

「もしはぐれサーヴァントだったら、俺と契約してくれるかなあ。」

「なになに。契約したいの、君。」

「うわっ。」

 

 フラッドが横を向くと不敵な笑みをたたえた女性が座っていた。パーカーにジーンズとラフな格好で休日を楽しむ一般人にしか見えないが、契約? それに、この感じは、

 

「あなたはサーヴァント? あ、どうぞ。」

 

 んー! 冷たい! とアイスを頬張る女性に席のスペースを譲りながら訪ねる。

 

「そうだね。そういう君は魔術師だね? もう1回聞くけど君は契約してくれるの?」

「うん!したいです!是非お願いします!」

「じゃあしよっか。」

 

 思ったより、というより余りにもあっさりとOKをする相手にフラットは少し疑問を覚えた。

 

「してくれるなら俺はそれでいいんだけど、そんなに簡単に俺と契約しちゃっていいんですか? 契約した途端俺が令呪使って自害を命じるとか、するかもしれないですよ?」

「見くびらないでよ君。私は、いや、俺は(・・)己の主人(マスター)くらい見極められる確信がある。君となら契約してもいい。今までの魔術師とは違うからな。なんてったって、私がはぐれサーヴァントと明かした瞬間に全員が全員契約を強引に迫ってきたからね。頭の中覗かせてもらったらやることなすこと、あぁこいつらダメだなって分かったし。」

「俺だって契約して欲しいって言ったけど大丈夫なんですか?」

「でも、会話をしただろ? 獣と人の差は毛の量とか牙の有無とかではなく、会話が成立するか否かだよ。」

 

 

 

「さて、」

 

 サーヴァント──黒のアサシンはベンチから立ち上がりフラットの前で主従の契約のその文言を讃える。

 

「問おう。あなたが私の主人(マスター)か。」

「俺はフラット。フラット・エスカルドス。あなたのマスターです。」

 

 私の腕から令呪が消えて、フラットの手の甲に新たな令呪が浮かび上がる。私とフラットの間に確かなパスが生まれた。

 

「了解した。私は、黒のアサシンは今から君の臣下(サーヴァント)だ。さて、マスター。まずは何をする?」

 

 

 

 

 沈黙のあとキューっと胃の動く音、有り体にいえば、お腹を減らした音が鳴る。

 

 

「腹ごしらえかな。」

「ベタだね。」

「聖杯の与える知識にはそんな言葉もあるんですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「喜べセイバー。お前さんに朗報だ。」

「ん?」

 

 魔術師協会から派遣された魔術師の1人、獅子劫界離は己のサーヴァントに告げた。

 

「誘拐事件の被害者に確認してきた。被害者の中には記憶の残っているのもはいなかったが、己の魔術礼装の消耗によって確かに何者かに襲われたということは理解している者がいた。そして、全員魔力を吸い取られている。人間の命の源である心臓の上に魔術的な跡が見つかってもいる。」

「心臓? 直接抜かれてるようだったら、ゾッとしねえな。まあ、ともかくサーヴァントであることを期待するぜ。」

「そう見て間違いないだろう。初期の被害者はブカレストのチンピラやギャングだったが、魔術協会が展開してからは……フッ……魔術師だけを襲っている。」

 

 碧眼の金髪を輝かせたサーヴァントはマスターと同じく顔に喜色を浮かべた。戦いがこの身を待っている。

 

「そうなると、今この街にいる唯一の魔術師が狙われるってことだな。」

 

 唯一の魔術師、獅子劫へと指を向けた。

 

「幸い、誘拐犯の噂で街はもちきり。夜間に出歩く馬鹿はいない。セイバー鎧は身につけておけ。」

 

「うっし。」

 

 途端濃密な魔力と灼雷を迸らせ、パーカーと半ズボン姿からサーヴァント──赤のセイバーは銀色に光る重厚な騎士の鎧に身を包んだ。

 

「出陣だ、マスター!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりサーヴァントって凄いですね!魔術も使わずにちょっと頼んだだけで、タダでご飯が食べられちゃって! く──! これならもっと高いの頼んでおけばよかった!」

 

 今、私達は看板を片付けている最中の閉店間際の店主に、私が"お願い"をしてテラスで早めの夕食をとっていた。

 

「やめときなよ。人間欲張りすぎると後で痛い目みる人を私はいっぱい見てきたから。それくらいが丁度いいんだよ。これは人生の先輩からのありがたいお言葉だと思って聞いて頂戴。」

「お姉さんがそういうなら、そうしときます。」

 

 お姉さん、か。ハンバーガーを美味しそうに頬張る少年、いや、フラットを見てついつい弟を思い出す。無邪気なあの笑顔が恋しいなぁ……もう会うことは無いのだろうけど。

 

「どうしました?あ、お姉さん呼びダメでしたか?では、アサシンと」

「いや、ぜひそのままで。」

 

 食い気味にお願いするとフラットはキョトンとした。コホン、と誤魔化すように私は咳をする。

 

「ま、まあ、ぼちぼちこれからのことを話そうか。私からは黒に必ずしもつかなきゃいけないって言うわけじゃないのを言っとくよ。そもそも君は魔術師協会から来た人間だそうから、赤側だろうしね。」

「もぐもぐ……そうですね。そしたらまずは聖杯戦争の監督のところに行くのが無難でしょうね。黒側にいきなり行くと俺が殺されそうですし。」

「いざとなったら逃げさせる位は可能だからそこは任せて。お姉さんに!お姉さんに!」

「は、はい。では──」

 

「伏せて。」

 

 

 咄嗟にフラットの首の後ろを掴み地面に押し倒す。フラットから呻き声が漏れるが、構わずそのまま無理矢理担いでその場を離れる。

 

 パーカーとジーンズから、白地に黒の線の入ったシャルワニと腕や脚に金の輪を着けた戦闘用の装いに変えた。

 

 先程まで食事をしていたテーブルは上空からの狙撃によって粉微塵になっているのが見えた。店主には申し訳ないことをしたと思いつつ、敏捷性にものを言わせて走り抜ける。

 

 

「狙撃……アーチャーですね!」

「マスター!今からとりあえず元凶となるサーヴァントを止めてくる!だから、」

「相手のマスターは任せてください!」

 

 よし、がんばれと私はフラットの背を2回叩くと同時に、守護と気配を消す印をつけ路地へ放り込んだ。これなら1発くらいなら攻撃が当たっても無傷でしのげるだろう。それに、マスターの力量はそこそこあるようだし。

 

「ま、説得が通じなかったらマスター連れて逃げるけど。正面切っての荒事は苦手だし。」

 

 次の矢が飛んでくる前に私は闇夜に溶け込んだ。




1代目マスター、1分で死ぬ。
インドはインドだからね!仕方ないね!

ただし魂喰いはしない。マスターとしてはアウトだが、人間としてはセーフの内、とのこと。
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