もし黒のアサシンがジャックちゃんではなく、インド大戦不可避になったら(仮)   作:お空と北極

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令呪をもって命ずる、早く続きを書け私


6.「令呪をもって命ずる。自害せよ、ランサー!」

 カルナの肩の上で揺られること少し。空中庭園──あの島は宝具だったそうだ──の中の薄暗い通路に入るとすぐそこから戦闘の匂いを嗅ぎとった。

 

 ひらりとカルナの上から降りて剣をとる。

 

「そんなもので良いのか?」

 

 カルナの目線を辿ると剣にヒビが少し入っていた。しかし、問題は無い。

 

「あーこれ? 君みたいな戦士相手に真名っていう弱点晒して戦うのはなるべく避けたいってことで真名隠しとして適当に作ったやつだから大丈夫。壊れたらまた新しいの作るよ。」

 

 それに、いつでも棍棒は出せるようにしている。本当にどうしようもなくなった時に出せる切り札というのは必要だ。今も。昔も。

 

 戦場となっているところを覗き見る(真言:B)と大混戦になっていた。私が1度戦闘した黒のアーチャーは緑の髪の美丈夫と肉弾戦を繰り広げている。獣のような女性はカルナがさっきまで槍を交えていた顔色の悪い髭に"真っ黒な"矢を浴びせているがいまいち決め手にかけるようだ。

 

「カルナ。」

「ああ。任せる。」

 

 一言。一言だけ交わして私達は別の方向へ地を蹴った。カルナはカルナの闘いを。私は私の闘いを始めよう。私はいつも通り、裏で暗躍するのが性にに合う。正直な話、真正面からぶつかるのは嫌だ。

 

 術を唱えて無意識下への潜伏をする。なるべく戦況の見える高い場所からしばらく観察することにした。

 

 遠見の真言を使って特等席気分で観戦してる気分だ。

 

 だが、カルナと再び槍を交え始めた黒のランサーに違和感を感じる。先程よりカルナの一回一回の攻撃に対して危ない場面が増えていたのだ。一方で、杭の攻撃はカルナに全く届かない。

 

 この短時間の間にカルナが強くなったのかという疑問をすぐに打ち消す。カルナが強くなったのではなく、逆だ。

 

 口には出さなかったはずだが距離を一旦置いたカルナが槍を下ろし、今にも飛びかからんとする獣のサーヴァントを止めた。口が開いたのが見えて慌てて聞き耳の真言も使う。

 

「身を引く覚悟はあるか?」

「何のつもりだ?」

「この空中庭園はこちらのアサシンが支配する領域。お前の力は故郷であるルーマニアだったからこそのものだ。お前を称える歴史がその身を強化していた。だが今異国の王よ。今のお前にその力はない。」

 

 教えてあげちゃうのか。

 優しすぎる。優しすぎるよカルナ。相手に不利な今だからこそ叩くべき時なのに確認までとるのか。

 

「逃げるというならオレは追わない。だがその代償として聖杯は諦めてもらおう。」

「笑止。」

 

 そりゃそうだ。ここで諦める馬鹿はなかなかいない。そもそも聖杯が欲しくて始めた戦争だ。この戦闘がこれで終わるはずが無い。

 

 2人はまた槍を持つと激しくぶつかった。だがその先は一方的にカルナの攻撃がささって終わるだろう。既にあの黒のランサーは押されている。カルナは苛烈に、そして繊細にその大きな槍を捌いて黒のランサーに膝をつかせた。おどろおどろしい魔力が獣のサーヴァントから湧き上がりトドメを刺さんとする。

 

 行け!行け!と手に汗握って応援していると隣に気配を感じた。

 

 全身の鳥肌がたつ。

 

「立ちなさい。ルーマニアの王よ。このような所で無様に消えたくはないでしょう。それでも願望を抱きこの地に召喚されし者ですか。」

 

 なんだこいつは。

 気持ちが悪い。

 気持ちが悪かった。ガワは確かに若い身体だが、中身が完全に濁りきっている。魂が普通ではない。外と中がチグハグだ。大方、生を繋ぐのに外法を使った類の術師なのだろう。

 

 相手はこちらを認識することは出来ないだろうが、本能的に矢を構えた。

 

「宝具を解放なさい。勝機はそれしかありません。」

「余はあの宝具は使わぬと言ったぞ、忘れたか!」

「忘れているのはお前の方だ使い魔が!」

 

 その名も知らない術師は何かを喚き散らしながら右手を掲げた。右手に宿るのは確かに令呪。こいつはあのランサーのマスターか。

 

 

 

 

 

 ーじゃあ、殺しちゃお。

 

 

 ふと思考に霞がかかったかのようになり、つがえた矢を放つべくギリギリと腕に力が入った。ああ殺そう。こいつは殺そう。殺してバラバラにしよう。このひとはおかあさんじゃないけれど、わたしたちと同じような子達をいっぱいころしたにおいがするひとだから、バラバラにしても、いいよね? 

バラバラに、かいたいするよ? 

 

 

 

 

 

 

 

 チラリと赤い誰か──カルナが目に入り霞が嘘のように晴れた。冷や汗が吹き出して呼吸が整わない。術の維持で精一杯になり矢がぶれた。

 

「今のは……私は…」

 

 頭がズキズキして思考がうまく回らない。混乱する間にも魔術師の男は様子のおかしい黒のランサーに刺されながらももう一度令呪を使い、そして最後の令呪を切った。

 

 よく聞こえない。

 

『お姉さん!どうしましたか!』

 

 フラットの声が遠くの方で響く。ああ、すまない。何も聞こえないんだ。

 

 いやこのままでは不味い。仮にも戦場で肉壁以下に成り下がるのは駄目だ。余り使いたくない方法だが無理矢理、自分の体に真言の印を叩きつけて頭をクリアにさせた。

 

「いっっっっっ……クソ!"私"としたことがナニカに乗っ取られかけたか。確かに"俺"に変わればそれも抑えやすいだろうが。」

 

 "俺"頼りはあんまりよろしくないだろうよ、と手元に顕現しつがえた矢を放つ。何故か融合しもはやバケモノと化したランサーと魔術師を貫くが効果が見られない。

 

 霊核を確かに撃ち抜いたはずだが、令呪のおかしな作用で意味が無いようだ。あのナニカが無ければ先手をうてたはずだ。悔やまれる。

 

 相手に攻撃したことで身を隠していた術も薄まったので術自体を消す。これ以降は無駄な魔力消費になる。

 

 その場から飛び降りて不機嫌そうなカルナの隣に立つ。

 

「不服そうだな。カルナ。だが喜べ。最早アイツは誇りを背負った王でも人でもなく、憐れにも取り憑かれてしまった只のバケモノ。ここからはバケモノ退治だ。ハッ! よく考えてみればいつもと変わらんな!」

「そのようだな。……戦友(トモ)よ。」

 

 いきなり現れた俺にバケモノに目を取られていた他のサーヴァント達の目がこちらにも注視された。

 

「私は聞こえていなかったようだが、なるほど。令呪で魂を縛り聖杯を求める妄執そのものに変えたか。」

「馬鹿な……ありえん!」

 

 真っ黒な毛皮を纏った獣のサーヴァントが驚愕の声を出す。確かにサーヴァントを乗っ取ることは人には無理だろうが、変質させることなら出来る。現に目の前に証拠があるのだ。

 

さぁ、私の聖杯を返してくれ。私はあの大聖杯で一族の悲願を

 

 魔力放出により、並のサーヴァントでは避けることすら叶わないカルナの突きがバケモノの胸を穿つ。だが効いた様子がない。抜き放った剣に(マントラ)を付与し飛び上がる。頭上から剣を振り下ろすが予想以上に素早い槍の反撃が襲ってきた。攻撃に回そうとしていた剣を咄嗟に体の前へと運ぶ。上手くガードしたものの衝撃で吹き飛びそうになるがカルナが途中で俺を掴み、働いている力を利用してそのまま投げ飛ばしてくれたお陰で体制を立て直す時間が出来た。

 

 間髪入れずに緑髪のサーヴァントが──驚いたあれは素の早さか──槍を持って飛び込む。

 

「ハァアアアッ!」

 

 神速と呼ぶに相応しい接近にバケモノは槍を掴むことで対処した。勿論バケモノの指は切れるが、即座に肉が蠢き再生し始め意味は無い。バケモノが大きな口を開けて懐に入った獲物を喰らおうとする。

 

「ちっ!」

 

 大きな舌打ちをしながらそのサーヴァントは逃走を図るが間に合わない。あのままでは喰われ──

 

「はァッ!」

 

 ──なかった。あのアーチャーの癖に素手で戦うとめっぽう強い黒のアーチャーが低い蹴りで彼を吹き飛ばした事で、解決する。飛ばされた方は直ぐに体勢を立て直しながら悪態をついていた。……どうやらお互いに知り合いらしい。

 

 一方バケモノはその間に黒の陣営の兵士達を食い散らかしていた。先程から牽制の矢を放っていたが、バケモノの勢いは収まらず途中から暴走し出す黒の兵士のトドメを担い始めている。

 

「吸血鬼は仲間を増やす事が出来る。あなたもああはなりたく無いでしょう。」

「見境無しってことかよ!」

「彼の手に聖杯が渡ったが最後、最悪世界中にこの状態が広がる可能性すらあります。そうなれば私達でも手が付けられない。絶対に庭園から出さないでください」

 

 

 ああ、本当に随分と節操のない生き物だ。

 

 黒のランサーがこの姿、この在り方を心底嫌っていたのも頷ける。

 

 神速の槍使いと拳で戦うアーチャーがランサーの行く手を阻む。

 獣を纏った女がバケモノの生み出した成れの果てに弓を向ける。

 カルナが黒のランサーの凶刃を止める。

 

 弓を番えろ。頭を回せ。剣を持て。警戒を解くな。今此処で一番の理想の成果を出すにはどうすればいい。それは勿論、バケモノを倒した直後の緩んだ隙、もしくはバケモノに深手を負わされた瞬間に──

 

「…いや、この際、敵も味方も無いな。やめだやめ!」

「……。」

 

 カルナの肩を踏み台にしてバケモノの頭上を飛び越える瞬間、お前の悪い癖だ、とでも言いたげなカルナの視線を感じた。悪かったな。

 

 破邪の印を載せた剣を真横に振り抜く。少し治りが遅くなるが本質までには届かなかったようで、直ぐにお返しと言わんばかりの槍が霊核一直線に突き出される。だが、槍の上から踵を落としそれを防ぐ。その隙を逃さず神速のサーヴァントと拳のアーチャーが攻撃を叩き込もうとした、が、攻撃は空を切る。

 

「消えた?!?」

「いえ、霧になったようですね」

 

 黒い靄が少し離れた場所でまた実態を持ち残っていた黒の兵士を捕食していた。すかさず獣を纏った女が弓を引き絞るが間に合わない。

 

グオオォォォォォォォオオ!! 

 

 大口を開けるバケモノに思わず舌打ちした。トドメに成り得る一手が足りない。カルナも俺も宝具(ブラフマーストラ)があるがこんな狭い室内で使えるものでは無い。ここの庭園とやらを破壊しても構わないならいいが、恐らく、それは悪手だ。ここを出てしまえば『ルーマニア(吸血鬼伝承の本拠地)』なのだから。

 

 一手を掴めるまで辛抱強く耐えるか、と持久戦の構えを取ろうとする。

 

 

 しかし、望んでいた一手は予想よりも早く訪れた。

 

 

 バケモノの横っ面を殴り飛ばし新たに現れたサーヴァントにカルナの眉が少し上がった。

 

「令呪をもって命ずる。」

 

 

 滑らかな金色の髪を揺らした旗を持った少女は、正しくこの場において流れを変える一手だった。

 

 

「自害せよ、ランサー!」




弓で戦うアサシンとバーサーカー、拳で戦うアーチャー

これ、もうわっかんねえなあ!!!
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