果てなき旅路 作:わっふる
予選については資料も少ないので多少の独自設定が入ります。
あと予選はさくさく進めていきます。
俺は今日も授業を続けている。多くのプレイヤーが予選を突破したことで空席が目立つようになった教室を見渡しながら。
すでに遠坂凛が
俺の予想していた通り、開始から早くも三日間のうちに遠坂はこの学園生活の異常に気が付いたらしい。四日目になって俺が授業を行おうと今までのように教室へ入ると、服装を制服から赤色を基調とした私服に変えた遠坂が席に座っていた。思わず唖然としてしまい教室の入り口で立ち止まった俺を見て、頬杖をついたような体勢のままで悪戯が成功したかのような笑みと共にこちらに向けて手を振ってきた遠坂のことは今でも記憶に新しい。
記憶を取り戻すということはすなわち、霊子ハッカーとしての実力を取り戻すということを意味する。そして優秀なハッカーであれば服装をカスタマイズする程度のことは大した手間ではなく、驚いたというのは彼女の服装の変化そのものに関してではない。記憶を取り戻してなお授業に参加してきたことと、明らかに俺が異常に気付いたプレイヤーであると理解しているかのような行動をとってきたことに驚かされたのだ。
さすがに気になったので授業後に遠坂を呼び止めていくつかの質問をしたのだが、その内容を要約すると「まだこちら側で調べることがあり、その一環として授業に参加した。俺が異常に気付いていると思った理由はなんとなく」とのことだった。俺と遠坂はあの日屋上で会話しただけの関係だったが、その程度の付き合いしかない俺でも彼女がそのようなあいまいな感覚をもとにして行動するような人間だとは到底思えなかった。なのでもう少し詳しく話を聞きたかったのだが、時間を置かずに行われる昼の職員会議に参加しないわけにもいかなかったために断念した。
その際、遠坂にはどうして俺が気付いていながらも次のステージに進まないのかを逆に聞かれることになったが、その答えは簡単だ。生徒が授業を抜けたところで大した問題はないが、教師がそんなことをすればその違和感から大量のプレイヤーが予選を突破することになるためである。
しかし俺がそれを気にしてここにとどまる必要も本日を以って無くなる。なぜなら今日は開始から40日目―――予選突破の締め切り日だからだ。
♦ ♦ ♦ ♦
話は変わるがここで一つ、異常に気付いたプレイヤーたちがこぞって気にするあることについて述べたいと思う。それが何かといえば、「この聖杯戦争の予選をどれくらいの人数が突破するのか」ということだ。
月の聖杯戦争のプロである俺がさっくりとこの疑問に答えてしまうのならば、大体100人前後といえる。もちろん回によって多少のぶれはあるが、極端に少なかったり多かったりということは基本的にない。しかしながら数多く行われていればやはりその中には例外も生まれてくるもので、一度きりとはいえ極端に数の減った予選が存在した。それはまだ俺が新人であったといっていい6回目のやり直しの最中のことだ。
すでに予選突破の方法とその期日についてそれまでのやり直しで把握していた俺は、開始から10日目のその日も図書室で本を読んで暇をつぶしていた。事件が起きたのはその夕方のことだ。
突如として学園のあちこちで爆弾が爆発し、それに伴い銃声までもが校舎内に響き渡った。いまだに真名は分からないが、アサシンと思わしき赤黒いフードを着た男とそのマスターによって行われた学園襲撃事件。当然この異常事態の結果として、多くのプレイヤーが予選の存在に気付くまでもなく脱落した。生き延びて予選を突破したのは、元々突破していたプレイヤー10人と俺を含めて2人の生き残り、合わせて12人だけであった。
なぜこのような事態が起きたかというと、予選突破後の仕組みが今と異なるからだ。当時もルール違反とはされていたものの、ペナルティを覚悟してしまえば予選突破後に予選会場へ戻ることが可能だった。それも予選突破時に入手したサーヴァントを連れてきた状態で、だ。それを利用しようとするマスターが出現するのも時間の問題だったといえるだろう。
その後7回目のやり直しの時までにこの件をきっかけとして多くのルールが見直された。例えば予選突破後に突破前の学園に戻ることは不可能とするなど予選そのものを終わらせかねない行為はまず不可能にした上、成功しても失格処分が下されるようになり、他にも予選に気付いたプレイヤーが気付いてないプレイヤーにあからさまな助言をすることなど予選の妨げになりかねない幾つかの行為に対しては新しくペナルティが課されるようになった。
したがって現在もこちら側の校舎に残っているプレイヤーは、総じて予選を突破できていない者に限られる。そう、今日も変わらず俺の目の前で寝ている少女―――岸波白野もそれに該当する。
♦ ♦ ♦ ♦
岸波白野という生徒は非常にちぐはぐな印象を受ける存在だった。彼女は遠坂凛ほどではなくとも、初日から至るところで確かな人間性を滲ませていた。にも関わらず、彼女はずっと異常に気が付くことなく初日と同じ行動を何度も何度も繰り返している。
それは最終日を迎えた今日であっても変わることはない。
岸波が眠り、俺が起こす。何度も繰り返したやりとりを再び交わすと、いつもと同じように耳まで赤くした岸波が顔を洗うために教室を出ていこうとする。―――そう、
ならばこのまま俺が彼女を見送ればきっと、彼女はこの予選で終わりを迎えるのだろう。
別に珍しい話ではない。これまでにも多くのプレイヤーが予選で脱落してきた。その一人に彼女も加わることになる、ただそれだけの話だ。
それだけの話のはずなのに―――――心の奥底で何かが俺に告げている。
"岸波白野という存在は、こんなところで終わるべきではない"
「待て、岸波!」
気付けば俺は大声を出して彼女を引き留めていた。
当然、岸波に集まっていた教室中の視線は俺に向くことになるが、そんなことはもはや重要ではない。今重要なのは彼女もこちらを振り向いたということ、ただそれだけだ。
「......最近、お前が登下校するときに通る道で不審者が出たらしい。今日は
「はい?...あ、いえ!分かりました、気を付けますね」
初め岸波は疑問符でも浮かびそうな表情をしていたが、次第に内容が理解できてきたのかきちんとこちらの目を見て頷いた。素直な性格をした彼女のことだ。まず間違いなく言葉通りの意味で受け取っただろうが、今はこれで良い。
夕方になっても彼女が俺の言葉を覚えていてくれたのなら、予選の第一段階はまず突破できるだろう。
逆に言ってしまえば今回の発言はルール上アウトになりかねないレベルの内容であるとも言えるが、可能な限り早く罰を与えることを基本としているムーンセルからペナルティが下っていないためセーフだったのだろうと考えられる。しかし一方で、俺が彼女に与えられるヒントはこれが限度であるということは間違いない。
「娘の心配をするお父さんの話はこれで終わりだ。分かったなら行っていいぞー」
願わくば、彼女が予選を突破できることを。
俺にからかわれたことで、再び顔を真っ赤にしながらいつもよりも少しだけ勢いよく扉を閉めていった彼女に苦笑しつつ、心から祈った。
・オリ主
本人は知らないが、もしも岸波白野が予選で脱落した場合存在そのものが消滅する。
その場合、彼に次はない。
・遠坂凛
他人に隙を見せたがらない性格だが、オリ主に対しては無意識のうちに年相応の態度で接してしまっている。
またそのことを本人も自覚しているが、根本的な原因が分からないため放置している。
・赤黒フードのサーヴァント
手段を択ばない相変わらずのケリィ。
最終的には自身のマスターをも殺害して聖杯を確保する手筈を整えていたが、待ち構えていたトワイスによってマスター共々一蹴されたことで失敗に終わる。
・はくのん
すっごい幸せそうな顔で寝てるので、滅茶苦茶起こしずらい。