果てなき旅路   作:わっふる

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未知のサーヴァント

 

 

 過去の改変すら可能にする七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)を求めて行われる月の聖杯戦争。その予選の第二段階の突破はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 第二段階は入り口を同じとしていながらも、入るときに他のプレイヤーがいない空間につながる仕様になっているため、周囲に他の人物は存在しない。『人形(ドール)』と呼ばれるサーヴァント擬きが俺に付き従うように立っているだけだ。

 現在、俺はすっかり見慣れてしまった不気味なマネキンのような見た目をしたこれを横目に、あくびを噛み殺しながら電脳空間を進んでいた。

 

 ここの道中はひどく退屈だ。

 エネミーが現れる場所も、どのように動いてくるのかも全て分かっている。プログラム通りに動くそれらが入力されていない動作をすることは一切なく、それゆえに実戦の練習にもならない。決まった場所で決まった指示をする、それ以外にすることがないのだ。

 

 

「......お、やっと終わりか」

 

 ゴール地点である広い空間に足を踏み入れながら、思わず言葉を漏らした。

 天井にあたる部分を色とりどりの鮮やかなステンドグラスによって彩ったこの場所は、敬虔な信者たちの集まる教会のようにどことなく神秘さを感じさせるものになっている。これから自身と命運を共にすることになるサーヴァントを召喚するにあたってふさわしい雰囲気を持っており、俺個人としても気に入っている空間だ。

 ―――地面に死体のようにばらまかれた大量のマネキンとその手足を除いて、だが。

 

 そして中央へと足を進めたその時―――足元で停止していたマネキンが人体では不可能な関節の曲げ方をして飛び蹴りを行ってきた。俺は少しだけかがみ最小限の動きでそれを避ける。

 

B(Break)A(Attack)、それからG(Guard)だ」

 

 油断さえしていなければ、壊れかけの人形であるエネミーが俺の新品同然の人形に勝てる道理はない。あせらず冷静に指示を出して、徐々に敵を追い詰めていけばいい。

 

 そして戦闘が始まって一分ほどで、壊れかけの人形は完全なジャンクへと姿を変えた。そしてそれから数秒後、俺の指示に従っていたマネキンもその場で動きを停止した。このことが意味するのは、俺は今の戦闘を以って合格と判断されたということだ。

 

「さて、どんな人物が喚び出されるか......」

 

 そう、これから行われるのは英霊召喚。実在していようがいまいが関係なく、人類史や物語に登場する英雄たちの写し身を喚びだす超級の儀式だ。

 ただし儀式とはいったものの、この月で行われている聖杯戦争では触媒やら魔法陣やらといった特別な用意を事前にする必要はない。ムーンセルが召喚者の性格・性能・経歴といったパーソナルデータを読み取ることで、その人物と相性がいいと思われる英霊を自動的に選択し喚び出してくれる仕組みだからだ。

 さらに言えばこの三つの中でも特に経歴は重要視されるという傾向があるため、人によっては召喚される英霊の候補をある程度予測できる場合もある。

 まぁ、例外として中には英霊からマスターを指名する場合もあるがそういった事例はほんの一握りだ。

 

 だが俺の場合は事情が異なる。以前一度だけ聖杯戦争を完全に無視してその回の自身の経歴を全力で洗い出したことがあるが、結果として分かったことは自身と同じ経歴の人物など現在はもちろん過去を含めても地上には存在しないということだった。

 つまり俺は架空の経歴を持った誰の再現でもない(・・・・・・・・)人間としてこのムーンセルに毎回作り直されている、ということだ。

 それがムーンセルのエラーによって起こったバグのか、意図してムーンセルが行っていることなのか――個人的には前者ではないかと考えている――は分からないが、今言いたいのは要するにこういうことだ。

 

 ―――誰が来るのか全く予想できないから毎回毎回怖いんですけど!

 

 

 召喚の合図となる天井のステンドグラスに罅が入る音を耳にしながら、過去に召喚してきたサーヴァントのことをぼんやりと振り返り始めた。

 

 前回は悪名高いエリザベート・バートリーことエリちゃんだった。これはまだ良い部類だ。なんせ逸話に反して本人は滅茶苦茶ちょろかったからな。最初の頃は血で満たした浴槽が欲しいと言ってきたり、突然頭が痛いと言い出して癇癪を起こしたりと大変だったが、操縦の仕方を理解してからはむしろ他のサーヴァントより素直だった節がある。

 

 二つ前はエレナ・ブラヴァツキーことエレナさんである。この回は控えめに表現しても最高だった。彼女もキャスターの霊基で顕現するサーヴァントの例にもれず戦闘に特化した性能ではなかったが、敵の弱点をほとんど把握しておりかつ分析も得意としている俺と古代から近現代まで幅広い世代の魔術を扱えることで戦闘時の選択肢を多く持つ彼女との相性は抜群に良かった。聖杯戦争の間に彼女からは多くのことを教わったし、また彼女も誰かにものを教えるということを好んでいたために関係も終始良好だった。

 

 三つ前、真名は未だに分からないが妙な拘束具を付けた筋肉達磨を喚んだときは思い出したくもないほどひどい結果になった。マスターである俺に向けての反抗心の高さはそれまでに喚び出したサーヴァント中でも間違いなくトップ5に入るレベルだったと言い切れる。それがどれほどのものだったかというと、「圧制者(我がマスター)よ!汝を抱擁せん!」などと言いつつ召喚の間で俺を殺害したくらいだ。こんなんどうしようもない。

 

 これまでに召喚したサーヴァントの例を挙げていくときりがないが、明らかに初めから裏切るつもりの悪魔、戦闘中に突然吐血する剣士、引きこもりたいと事ある毎に言ってくるニート姫、馬とセットで召喚されてきた聖槍使いや最後まで真名を名乗らなかった暗殺者など、他にも様々なサーヴァントがいた。

 これらを見れば分かるが、はっきり言ってしまえば英霊にはハズレもアタリも存在する。俺の実体験からすると、大体2割くらいがハズレのサーヴァントにあたる確率だ。

 これを高いとみるか低いとみるかは人によるだろうが、俺は断然前者だ。なので俺はいつも、楽しみにするというよりは祈るような気持ちでこの召喚の時間を迎えている。......そろそろ来るだろうか。

 

 そんなことを考えると同時に、ステンドグラスが砕け散る音が空間に響き渡った。

 その原因であるサーヴァントが目の前に着地したことで、容姿が分かるようになるがそのサーヴァントの見た目は―――黒いドロワーズを着た12歳前後の幼い少女だ。

 

 あまりにもこの戦争の趣旨とはかけ離れているであろう幼すぎる見た目をした少女が選ばれたことに対して軽く俺が呆然としていると、彼女はそんな俺を見てにっこりと微笑み―――ぴょんと飛び跳ねて俺の首に抱き着いてきた。

 突然ダイブしてきた少女に対して、反射的に動いた俺の腕が彼女を抱きしめるような形で受け止めると、彼女はそのまま耳元で心底嬉しそうにこう告げた。

 

「ずっと......ずっとずっと会いたかったわ、先生!私、アビーよ!セイレムでの約束、覚えていてくれてるかしら?もちろん私は覚えているわ、だって......大事な大事な約束ですもの!」

 

 そう言って少女は抱き着いている腕の力を俺が苦しくならない程度に強めてきたが、しばらくすると満足したのか俺から顔だけを少し離した。

 そうして見えるようになった少女の綺麗な青色の瞳には俺に対する確かな信頼が見てとれる。しかしその一方で、俺は彼女――アビーのことが全く分からなかった。もちろん、彼女の言う約束というのが何かも分からない。セイレムというのはどこかの地名だったか...?

 

「......先生?どうかしたのかしら?」

 

 彼女も俺が難しい顔をしていることに気が付いたのか、心配そうにこちらの顔を覗き込んできた。......よし、ここは正直に言おう。

 

「申し訳ないが、俺には君のことが分からない」

 

「.........え?......うそ」

 

 アビーのそれに対する反応は劇的で、次第に首に回していた腕からも力が抜けていった。―――危ない。もうすぐで落ちそうだった彼女を、左手の位置を少女の膝の裏へ回すことでお姫様抱っこのような形にして支え直した。

 それから少し経って落ち着いた様子になったアビーを地面に下ろし、しゃがむことで目線を合わせてから言った。

 

「......もしかして、人違いじゃないか?」

 

 俺の思いついた可能性の中で、もっとも確率の高いものを挙げてみるがアビーはすぐに否定した。

 

「そんなことないわ!......私、あんなにお世話になったのだもの。そんな先生のお顔を見間違えたりなんて、絶対にしないわ!」

 

「そうだな......なら、アビーのいう『先生』に関して何か知ってることはあるか?」

 

 俺がそうアビーに聞くと、彼女はしばらく悩んでからぽつりと言葉を漏らした。

 

「......私はずっと先生、って呼んでいたから合っているのか分からないのだけれど。確か大人の方にはシュー、と呼ばれていたような気がするわ」

 

「顔が同じで(シュー)と呼ばれていたなら...確かに俺の可能性が高いな」

 

 今回の俺の名前はフルネームだと古崎秀であり、下の名前で呼ばれていたのなら外国の人にはそう聞こえるかもしれない。

 深く頷きながらそう告げると、俺が『先生』だと分かって安心したのかアビーの顔がぱあっと輝いた。

 

「やっぱり先生は先生だったのね、良かったぁ!でも、どうして私のことを忘れてしまったのかしら......?」

 

 かと思えばすぐに悲しそうな顔でそう溢したアビーに対して、現状だと一番可能性が高くなる最もあり得ない可能性(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を提示する。

 

「アビー。忘れているわけではなく、俺にとって君とは会うのはこれから先、つまり未来なんじゃないかな?」

 

「.........まぁ!確かにそうね、さっすが私の先生だわ!私もそれを聞いて思い出したわ、先生言ってたもの。『俺は昔、月にいたことがあるんだよ』って。先生の可愛らしい冗談だと思っていたのだけれど...本当だったなんてびっくり!」

 

 はっ、とした表情になったアビーが両手を合わせてそう言ってから再び笑顔に戻るのを見て、良かったと思いながらもその裏であることを確信する。

 

 ―――今回の聖杯戦争は、間違いなく今までにない何かが起こるな。

 アビーのいう『先生』が古崎秀という今回の俺であるならば、『先生』はこの回でトワイスに勝利したことになるが、恐らくそれだけではない。

 アビーのいうセイレムというのは地上のどこかの地名だったはずだ。そこで『先生』とアビーが出会ったということは、俺にとって大きすぎるほどの意味がある。

 

 何せ俺が聖杯で叶えたい願いはこれまで何度やり直したとしても変わることはなかったが、そこに月から出るという願いはない(・・・・・・・・・・・・・)のだから。

 





・オリ主
やり直し序盤の方でとあるサーヴァントに召喚してすぐ殺されており、しばらくは反抗的なサーヴァントに備えて令呪をいつでも使えるようにしてから召喚していた。
しかし慣れてきてからは、どのみちこんなところで一回令呪を使わなくてはならないようならトワイスには勝てないという結論に至っため、祈るだけになった。

・アビー
再会に喜びすぎて真名とクラスを言い忘れている。良かったね、バーサーカーに特攻だよ!(なおCCCのアルターエゴry
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