しかし、それは他者と比較しての罪なのか、自分自身で明らかに罪だと理解していなくてはならないのか?
「さて、では懺悔を聞こう。畏まることはない、思うままに話すといい」
顔は見えないが、低い威圧感のある声が聞こえる。僕はその声に従って自分の話したいこと、分からないことについて口を開いた。
「僕は自分がおかしいと思っている。それでも普通のように振舞っていたいと思っています。しかしながら、まだ僕は異質に振舞っている」
ふむ、と声が聞こえる。言峰綺礼もまた異質な存在であると僕は既に知っていたので、カンニングのようなものだ。彼とて同じ悩みを持つもの。ましてや自分の倍生きている彼に問えば、同じでなくとも一種の答えが得られるのではないかと期待している。
「君は、その自分の振る舞いが罪であると?」
「人は普通でなければならない、しかし真摯に生きるには自分を騙しながら生きることが正しいのかわからない」
「振る舞いについては置いておくが、異質なことは罪ではない。なにより生き方というのはそう在れと定められたものは無いのだ」
話す言葉には真剣さがあるのに、話し方には真剣さが感じられない。
「しかし、異質なものは排斥される」
「そう。しかし異質であることそれ自体の何が悪いのだね?」
そう。それが聞きたかったことなのだ。異質であること、それ自体の罪はないと断じたこの男の思想、それを知れば自分がこの世界で異質であることを受け入れられる気がして。
「悪いかどうかと罪があるかどうかは別ではないですか?」
「悪徳と罪は違うと?」
言葉尻に、嘲笑が含まれているような気がしてならない。そんなはずないのに、なぜか自分も熱くなって行くのがわかる。言葉に熱が籠る。話したかったことがズレていく。歪みが更に酷くなる気がする。
「悪いことをしたら罰せられるのはわかる。だけど、罰せられた者が悪いとは限らないだろ」
「であれば、君が思う自身の悪徳とは自身を偽って生きていることにのみあると?罰せられねばならないと?」
「…人は皆自分を偽ることだってあるはずだ。それこそ神父様でさえ」
「君自身でそのように考えているのならばそれもひとつの答えだ。が、異質であること自体が罪でない以上、異質であることを認識し、普通でありたいと思うならば君は自罰的になっていないのは何故だ?」
ヒヤリと心が冷えた。異質であることに真摯に向き合ってきた男のこの言葉は、彼自身の過去の生き方そのままであり人生。
この言葉に対して僕は、そぐう言葉を放つことが出来る気がしなかった。たかだか一週間にも満たない浅い悩みが、この男の本質に触れようなどと思ったことはただの思い上がりだと今更思い知った。
「異質なものが普通でありたいと願うのならば、自分を偽らざるを得ない。しかし、その普通でありたいという願いが叶うことの無いものと知っていながら偽り続けることは周りを騙し続けることでしょう。答えを知るまで僕は蝙蝠でいるしかないと思っている」
「懺悔と言うよりも問答だな、これは」
「歪みは正さなければいけないと思ったんです」
「それには甚だ私も同感だよ」
明らかに呆れた声色で、赦しの無いまま言峰綺礼は懺悔室を出ていった。しかし、その声色には落胆の色はなく、むしろ悦びすら感じる昂りがあったような気がしてならなかった。
赦しとは罪を神が懺悔を見ていたことによりその懺悔をもって神父が代理として与えるものである。
では神父から許しを得られなかったということは神の赦しを得られなかったということか?
今後の方針全く決めてないので活動報告の方に意見とかなんでも募集中