せかいのおわりとふしぎの国の彼方へ   作:@星きらり

1 / 2
プロローグ

 

 

 

 

 

 たとえば今夜

 

 

 愛する人の手の温もりとか

 

 

 好きだった音楽や 言葉や

 

 

 読みかけの小説や 笑い声や 髪を撫でた時の平穏とか

 

 

 今夜

 

 

 失う事になったとしたら

 

 

 それでも 生きろと誰かは言う?

 

 

 それでも生きたいと 誰かは言うだろうか?

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 「……せい……先生、東先生、聞いてます?どうしても会いたいっていう患者さんが来てますけど、どうされますか?」

 

 イライラした婦長がヒステリーを抑えながら言っているのがわかる。

 

 「あ……あぁ、通していいよ」

 

 まったく、寝ぼけてんのかしら。ぶつぶつ、カーテンの向うで言ってるのが聞こえていた。

 

 「先生、眠れないんです。どうしても、先生からあんなに良い薬を処方してもらってるのに……。眠れないんです、どうしても……」

 

 そう言うと、若くて美しい女性はおもむろに服を脱ぎ始めた。

 白くて綺麗な乳房が露になる。

 

 「抱いて下さい、先生、今すぐ私を抱いて下さい!」

 

 細くて白い指先が小刻みに震えている。

 その彼女の服をもう一度優しく着せてあげながら、

 

 「今度君に会ったら、必ず抱くよ」

 

 そう言って、抱きしめた。

 

 「先生……」

 

 女は泣いていたが、暫くして席を立った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 「お帰りなさい。遅かったのね」

 

 妻の望がいつものように感情のない声で帰りを迎えてくれた。

 

 「どうだった、今日は、美羽(みわ)は……」

 

 いつもの質問だった。

 けれど話しを遮るように妻が強い口調で話し出した。

 

 「み、み、美羽がね、今日ようやく部屋から顔を出したの。一度よ、一度だけ、顔をだしたのよ。あの娘、髪が長くなってたの、そうよね、顔を見たの、半年振りですもの……。は、は、半年前は、はんと……し前は、半年前に顔を出した時は、あ、あの   こ達が死……」

 

 今度はこっちが声を荒げた。

 

 「望!! 望、それ以上はもう言うんじゃない」

 

 ガシャン!!

 

 妻の持っていたコップが床に落ちて割れる。

 真っ白い手が酷く震えていた。

 

 「あの子……あの子、機嫌が良い時じゃないと顔を出さないのよ。ひどく、ひどく、とっても機嫌の良い時じゃないと……」

 

 

 

 私は知っていた。

 

 私は理解していた。

 

 今日、娘が何故機嫌が良いのかを。

 

 

 

 

 

 その日、世界があっという間に闇に包まれた。

 

 人類史上最悪の出来事が、人類を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇきみ、

 

 

 

 たとえば今夜、お気に入りのコーヒーや

 

 

 

 大好きなサッカーボールや

 

 

 

 愛しい愛しい温もりや

 

 

 

 他愛もないお話が

 

 

 

 今夜

 

 

 

 全て消えてしまっても

 

 

 

 それでも生きようって思うのかい?

 

 

 

 それでも生きたいって思うのかい?

 

 

 

 それでも生きろって、願うのかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。