「う……っ……」
「ん"……あっ……」
二人が目を覚ましたのは同時刻。
麻酔が切れたばかりのように
「いったぁ……ここ、なに……?」
「千波……一体何が……」
霞んだ視界も、ぼやけた意識も徐々にはっきりしてくる。
「い、いやあああぁぁぁ!!!」
喉の奥から絞り出るような叫びが千波の口から飛び出した。
それに夏夜はただその異様な戦慄に体が縛られたように身動きが取れなくなっていた。―暫くの間―。
「ヘンゼルとグレーテルね―。このお菓子の世界、……死後の世界なのかしら」
「夏夜ちゃん!! あたし達、死んじゃったの!?」
そう、そこは、あの有名な絵本、〝ヘンゼルとグレーテル〟の、「「お菓子の世界」」そのものだったのだ。
―――キャンディーの木、チョコレートの草、そして、クッキーの家―――
子供の頃は憧れていたそのお菓子の世界が、今目の前に広がっている。
その異様さはとてつもない恐怖を二人に与えた。
泣き震えてパニックを起こしている千波の側に行き、その背中をさすりながら夏夜は冷静に答えた。
「……いいえ……まだわからないわ。死後の世界かもしれないし、そうじゃないかもしれない。けれどどうやら、夢の中でもなさそうね。……ねぇ、ここへ来る前のこと、覚えてる?」
「来る、前……? やだ……覚えてない……怖い……怖いよ、夏夜ちゃん」
小刻みに震える手が、夏夜の紺色のブレザーをすがる様に掴んだ。
「そう、私も思い出そうとしたけれど、そこだけ思い出せないの。後の事は覚えてる……あなたがクラスメイトだった事、2年A組の、皆の事も……」
―――
14番、伊吹夏夜。
その名の如く、夏の夜の姫君が舞い降りてきたかのように、艶めく長い黒髪と瞳は
26番、日和千波。
そんな夏夜に唯一、なんの壁もないように話しかけ、時々一緒にお弁当を食べたり下校したり遊びに出かけたりと、夏夜にとってのたった一人の――友達――と呼べる相手だった。
その性格は天真爛漫で太陽のように明るく、くせっ毛のショートヘアが子猫のような可愛らしい顔によく似合っている。成績が良いほうではなかったが、その
そんな二人の居たクラス、二年A組は、男子12人女子19人と女子が多く、女が天下を取っている様な、特別大きな問題が起こるわけでもない元気な(騒がしい)クラスだった。
そんな中で、夏夜はいつも頬杖をついて窓の外を眺めていた。
ぼんやり外を眺めていると、次第にその喧騒が心地よくなってくる―それが嫌いじゃなかった。
「立てる?」
千波の泣くのが落ち着くと、夏夜は優しくそう尋ねた。
「うん……立つよ」
ただ黙って座っているわけにはいかない、千波もそう思ったのだろう。覚悟したように顔を上げてすくっと立ち上がった。
二人とも、紺色の桜花高校の制服を着ていた。一体何故―。夏夜はそう思いながらも少し乱れていたその制服を正した。
丸い色とりどりの『』が敷き詰められた地面を歩き、『クッキーの家』へ向かう。
いつも煩いぐらいお喋りな千波も、言葉を失くすほど恐怖に埋め尽くされているようだ。夏夜の腕にぴったりと抱きつきながら歩いた。
飴細工のチューリップが板チョコの花壇に植えられている。
トッピングシュガーでデコレーションされた大きなクッキーが重なって、その四角い、三角屋根の家を形作っていた。
「窓があるわね。とりあえず、中を覗いてみましょうか」
「えぇ。怖いよ~。もしあの、怖そうなお婆ちゃんの魔女と目が合ったりでもしたら」
なくはない話だ。
こんな状況で、何が起きたって文句は言えない。
あのお婆さんの魔女が出てこようが、見たこともないような怪物が出てこようが――。
けれど、「「動かないわけにはいかない」」のだ。人は水と食料がなければ死んでしまう。こんな食べられるかどうかわからないお菓子に囲まれてじっとしている訳にはいかないのだ。とにかく水、水は確保したい。
夏夜が窓の中を覗こうとした、その時、
―――キィ―――
玄関の扉が開いた。